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ひとりきりの星使い  作者: めもたー
第一章 学園の日常編

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15話 寮棟

 二人がグラウンドを去ろうとしていた間際、突然背後から誰かが駆けてくる音が聞こえてきた。


「ティアルー! リランー!」


「うわあ! アルナさん!?」


 万遍の笑みで二人の間に飛び込んできたのは、有り余る活気を放つ少女、アルナだった。


「なあなあ、この後何か予定ある? もしなかったら、せっかくだし三人でお昼ご飯でもどう?」


「ええ、良いと思うわ」


「即決ですか!? まあ、私も異論はありませんけど……」


「二人共ノリがいいね~! それじゃ、食堂行こ! アタシ、入学前からここの学食がすごい楽しみだったんだ!」


 そう言ってアルナは、意気揚々とした足取りで先頭を切っていった。

 その様子を見ていた二人は、ふとお互いの顔を見せ合った。リランはやれやれ、と言いたげに軽い苦笑いを浮かべ、アルナの背中を追うように歩みを進めた。


 来た道を引き返すように、三人は揃って坂を登っていく。

 途中、燦々(さんさん)と降り注ぐ陽光に、ティアルとリランは思わず額に手を(かざ)した。

 一方で先を行くアルナは、そんな事には見向きもせず、相変わらずの大胆な歩幅でずかずかと進んでいる。


「アルナさん、ものすごい元気ですね。無邪気で可愛らしいというか、なんというか」


「あなたも大概よ、リラン」


 少し意地悪な口調で呟くティアル。


「ええ!? そうなんですか?」


 自覚が無かったのか、その言葉にリランが衝撃を受けていると、先に坂を登り切ったアルナがこちらを振り返り、大きく右手を振った。


「お~い! 早くこいよー!」


「……しょうがないわね」


 ティアルは小さくため息をつき、真っ白なスカートを揺らしながら少しだけ足を早めた。


 二人が坂を登り切ると、再び大きな寮棟の前に辿り着く。

 初めにここへ来た時よりも太陽は西へと傾き、真っ青な空のほぼ真上まで昇っていた。


「そろそろ正午になりますね。慣れない事の連続で、時間の経過が早く感じます」


 リランは、ポケットから取り出した懐中時計を見てそう呟いた。


「その時計、まだ使っていたの? もう傷だらけだし、そろそろ新しいものに変えてもいいのに」


 ティアルの言う通り、リランの使っている懐中時計は相当な年季が入っていた。

 外側の塗装は剥げ、盤面のガラスにも無数の傷が付いており、今にも壊れてしまいそうな雰囲気だった。


「い、いえ! これはお嬢からいただいた初めての贈り物なので……。今まで何度か動かなくなった事もありましたけど、その度にどうにか直して使ってるんです」


 リランは微笑みを浮かべて、その古びた懐中時計を軽く握りしめた。


「……そう。そこまでしてくれているなら、最後まで大事に使ってあげて」


「もちろん、そのつもりですよ!」


「アンタたち、見てて微笑ましい仲だな。白と黒の見た目もそうだけど、お嬢様と執事というより、姉妹って感じがするぞ」


 アルナのその言葉に、リランはカッと目を見開いて驚愕した表情を見せた。


「なんですと!? お嬢と姉妹だなんて、そんな厚かましい! でもでも、そう見えるとおっしゃるのなら、そういう事にしてもらっても……!」


「うん、すまん。やっぱり姉妹ではないな」


 リランの過剰な反応に、アルナは適当にあしらった。

 それでも変わらずデレデレとしているリランの袖を、ティアルがちょいちょいと引っ張る。


「リラン、お腹すいた」


「ああ! 申し訳ありませんお嬢!! アルナさんの素敵な言葉につい……。確か食堂はこの寮棟の中だったと思うので、行きましょう!」


「よっしゃー! やっとルミレイアの学食が食えるぜー! アタシ、もう待ちきれないから先に行って席取っとくぜ」


 アルナは軽やかなステップを踏みながら、一足先に寮棟の中へと入っていった。


「本当に猪突猛進な方ですね。とてもアルナさんらしくて素敵ですが……」


「そうね。彼女のような人は王都にはいないから、見てて新鮮な気持ちになるわ。さて、私たちも行きましょうか」


 リランはにこやかな笑顔で頷くと、二人は肩を並べて寮棟の中へと足を進めていった。


 入ってすぐに広がった景色は、本校舎のエントランスに勝るとも劣らない豪勢さを誇っていた。

 本校舎の方は、神殿のような神秘的な雰囲気が感じられていたが、こちらは少し落ち着いた印象で、造り手の感性がうかがえた。


 ダークブラウンの木材を基本に造られ、ほのかに漂うヒノキの香りが心を洗っていく。

 壁に等間隔で備え付けられた小さなランプは、その淡い暖色で辺りを優しく照らしている。


「うわぁ……すごいアンティークな感じですね。立ってるだけで心が癒されるようで、私結構好きですよ」


「あら、リランもアンティーク風が好きなのね。それなら、私たちの屋敷もこんな感じに改装しましょうか?」


「えっ。素敵だとは思いますけど、それはさすがに話が飛躍しすぎでは……?」


「冗談よ。けれど、家具くらいは揃えてもいいかもしれないわね」


 寮棟の雰囲気を嗜みながらそんな会話を交わしていると、隣のカウンターで見ていた女性が声をかけてきた。


「こんにちは。新入生ですか? 必要であれば、施設の案内をしますが、いかがなさいますか?」


「あ、こんにちは! 私たち、今から食堂に行こうと思ってるんですけど、場所を教えていただけると助かります!」


「食堂ですね。それなら廊下を真っ直ぐ進んで、突き当たりの大扉を開くと、そこが食堂です。大扉の左右に階段もありますが、その先は各生徒の部屋が用意されています。一年生の寮は二階と三階なので、自分の部屋を見つけたら自由に利用してください」


「ありがとうございます!」


「はい、いってらっしゃいませ」


 女性は丁寧な所作でお辞儀をすると、ニコッと笑みを浮かべて見せた。

 ティアルとリランも揃って上品にお辞儀を返し、長い廊下を進んでいった。


 女性に言われた大扉の前へ辿り着くと、中から微かに賑わいの声が漏れて聞こえてきた。

 リランはそっと扉に手を当て、ゆっくりと押し開ける。


 その先に広がったのは、大勢の生徒達で賑わう大広間だった。

 長いテーブルが列をなし、生徒達は各々好きな場所に座り、優雅に食を楽しんでいる。

 奥行きや天井の高さも十分すぎるほどで、一番奥にある幾何学模様の描かれた大窓は眩しい陽の光を通し、悠々と大広間の中へと導いている。


「屋敷の食堂より、少し広いくらい……ですかね?」


「屋敷ではいつも二人でしか使わないから少し寂しいけれど、せっかく広いならこれくらい賑わいがあった方がいいわね」


「そうですね! そう考えると、今までものすごい贅沢してたんだなって思います」


 リランがクスッと笑うと、ティアルは「そうね」と少し明るさを含んだトーンで返した。


「おーい、二人共ー! こっちこっち!」


 少し端の方の席から、周囲の声をかき分けてアルナの大声が響いてくる。

 ティアルとリランは、その声に従うように、テーブルの合間を縫ってアルナの元へと向かっていった。

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