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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ケモミミ少女、冒険者を好きになる

作者: 海神

お久しぶりです。本作はエロくないです。

 田舎の村に生まれて毎日が退屈だった私が、王都であるコパイに一人でやってきたのが、十五の時。


 今はもう十六だから、一年なんやかんや一人で冒険者をしながら頑張ってきた。


 けれど、特別な才能があるわけでもなく生活はギリギリ。そんなものだから、村にいた時よりも自由がなくて、最近転職しようかよく迷っている。


「はぁー……でも、冒険者辞めて今よりも稼ぎがある仕事に就けるのかな、私。あんまり王都は仕事がないみたいだし……」


 一人でぶつぶつ言いながらも取り敢えず、先程冒険者として稼いだお金で、安くて大して美味しくはないけど、量だけはある干し過ぎた干し肉と不揃いで見た目も悪いパンの詰め合わせを買って、常連のお店をあとに。


 そして、人通りの少ない道を紙袋で両手が塞がりながら歩いて行く。時刻は昼で、迷いがなかったらきっと心地良い、穏やかな風が吹いている。


「はぁー……お金が空から降ってきたら、苦労しないのに」


 迷ってばかりの私は外の心地良さなんて見ず知らず。最近はため息ばかりだなと心の中で軽く笑い、本当に転職するなら仕事をまずは見つけないと、と思いながらも、どうしても行動に移せず、やっぱりこのまま冒険者でもどうにかなってるから良いかなと言い訳をし、決心出来ずに宿屋へととぼとぼ帰る。


 小さくてボロくて、階段を上がれば軋む音が必ず響くそんな宿屋の三階の、小さな部屋が私の住む場所。


「金貨がいっぱい詰まった袋が、置かれてないかなー」


 絶対にそんな事はないけれど、言うだけ言って、扉を開ける。


 その瞬間、ぶわっと風が吹き荒れて、窓を閉め忘れていたことに気が付くと同時、ベットの掛け布団が人が一人寝ているように膨れている事に気が付き、心臓が飛び跳ねる。


「だ、誰っ!」


 怖い人かもしれないのに本能的に叫んでしまい、床に持っていたご飯を投げて距離を取る。


 けれど少し経っても反応はなく、私は震える声でもう一度問いかける。


「誰?本当に誰なの?私のベットで寝てるんでしょ?」


 生まれて始めての経験で私は恐怖と緊張でどうして良いか分からず、その上全く反応がないのだから、何も分からない。


 けれど、やがて私はこのままじゃ(らち)が開かないと決心して一歩、また一歩とベットへと歩き、荒い呼吸をしながらも思い切って掛け布団をめくってみると、そこには見たことのない狐の耳と尻尾を生やした私と同じぐらいの女の子が、私の服やら下着やらを抱えたまま寝ていて……少しの安堵とものすごい混乱で私は膝から崩れ落ちる。


「だ、誰……どういう状況、これ……」


 しばらく呆然として立ち上がれず、寝ている女の子を眺めたまま数分が経つ。それぐらい経ってようやく私は少しだけ落ち着きを取り戻せて冷静に。


「お、起こした方が良い、よね?」


 それから起こすかどうか迷い、再び怖いなと思いつつも、ここにずっといられては困るので、肩を軽く掴んで女の子の体を揺らす。


「あ、あの、起きてくれませんか?私のベットで、そこ……」


 控えめな声と力で起こしてみると、いきなりピクッと耳が動いて、尻尾が一回波打ち、女の子は目を覚ます。


「んっ……なんじゃ?」


 眠たそうに言葉を漏らして目を擦り、耳をピクピクさせながら体を起こす。そして数秒ぼっーとした後、いきなり思い出したように目を見開いて私の目を覗き、次いで私の体を端から端まで嗅いでくる。


「くんくん」


「ひゃっ、な、なに?」


「お主が、この部屋の主じゃな!」


 やけに長い間嗅いでいた首筋から離れて嬉しそうな声を出すと、いきなり抱きつき押し倒してきて、なんとも言えない妖艶な笑みで、私に女の子は言ってきた。


「わしと、結婚せんか?」


 ◆


「ふむ、この干し肉は少々硬すぎんか?」


「干し過ぎた干し肉だからね……あはは」


 訳も分からず求婚されて私はしばし固まった後、肯定も否定もすることが出来ず、ひとまず離れてもらった。


 そして、何もせずこの女の子と一緒にいるのは気まず過ぎると思い必死に考えた結果、ベットに二人でもたれてご飯を食べる事に。


 傍から見れば、勝手に私の部屋に侵入した女の子と何をやってるんだと思うだろうが、ちゃんと私も思っている。


 それにどうしよう、これから……


「このパンもこのパンで硬いし、あまり美味しくないな」


「まあ、作るのに失敗したパンだからね」


「そうか……こんな物がお主は好きなのか?」


「ううん、違うよ。お金がないから、買えるのがこれぐらいしかないの」


「……苦労しているな」


「あはは……」


 一度パンに視線を戻して、労うような瞳で私を再び見て言われた言葉に私は乾いた笑い声しか返せない。


 そんな私に女の子はパンを飲み込んで、尻尾を揺らしながら聞いてくる。


「そう言えばそうじゃ、わしはユラ。お主の名は?」


「えっ?えっーと……私はミハンだよ」


「ミハン!良い名じゃな!」


「ちょ、ちょっと」


 私の名前を知れてか少し興奮しながら私を抱き締め、これでもかと尻尾を揺らすユラ。


 華奢な体なのに力が強く、少しの間格闘してなんとか引き剥がし元の位置に戻す。


「ふぅー……ねぇ、ユラ。あなた、家はどこ?」


「あっちじゃ!」


 私の質問に指を指して元気よく答えるユラ。家の位置が分かっているなら、ご飯も食べたし送っていこうと思い立ち上がる。


「ほら、家まで送ってあげる」


「なんでじゃ?わしは家にはもう帰らんぞ?」


 手を差し出した私に、キョトンとした顔で当たり前の様に言葉を返され、反射的に首を傾げて聞く。


「えっと、どうして?」


 すると、私の手を両手でいきなりぎゅっと握って少し膨らんでいる胸に抱き、尻尾をゆらゆらさせながらユラは笑う。


「ミハンとずっと一緒におるからじゃ!」


「えっ?でも、ユラの親御さんが心配してるんじゃ……」


「心配なんかしとらん。わしはほぼ、親に捨てられておったからな。じゃから、大丈夫じゃ、ミハン」


 寂しそうに一瞬耳を垂して尻尾をシュンとさせながらも、最後はまた笑って言うユラに私は戸惑う。


 今の言葉に嘘はなさそうだった。だから私のそばにユラはずっといる気なんだろうけど……私はユラを養えない。


 だから、ユラのためにもこのまま帰って欲しいのが本音で……


 私はどうして良いのか、なんて言って良いのか分からず悩んでいると、ユラはいきなり指で丸を作って何かの魔法を使い、薄紫色に光ったその中に自分の目を近付け、そのまま私を片目で見てくる。


 数秒後、真剣な顔で一瞬躊躇った間を置きながらもユラは口を開く。


「……ミハン、色々と悩んでおるようじゃが、わしがおれば大丈夫じゃ。取り敢えず、お金はどうにかなる。それよりも……近い内に死ぬかもしれん。冒険者、辞めたらどうじゃ?」


 私の考えていることを、誰にも言ってない悩んでいることを完璧に当てて言うユラに私はゾッとすると同時、死ぬかもしれないと言われて、言葉が口から迷うことなく出る。


「えっ?私、死ぬの?」


「このままずっと、冒険者を続けるか悩みながら魔物を狩っておったら、半年以内には確実にな」


「そ、そうなんだ。えっーと……」


 嘘か本当か分からないことを思わず深く聞いてしまい、私が言葉に詰まると、ユラは視線を下にして耳と尻尾をシュンとさせて謝ってくる。


「すまん、勝手に占って……気味が悪いじゃろ。じゃが……その、ミハンと一緒におる為にどうしたら良いか知りたくて……すまん」


「べ、別に気にしてないよ?す、すごいね、ユラは。占いが出来るんだ」


 自分でも驚く程に薄っぺらい励ましの言葉を送ってしまい、私の言葉を聞いてもうなだれ続けるユラに申し訳なくなる。


 そして、物凄く気まずくてどうしようもない空気が流れ、お互いに口を開かない。


 重くて苦しくて、私はこの空気をどうにかしようと必死に考えて、思い切って私はユラを抱きしめて、頭を撫でてあげる。


「ユラ、気にしなくても良いよ。私はユラが気味が悪いとは思わない。むしろ、凄いって本当に思ってるよ」


 出来るだけ優しい声で本心を伝えると、ユラは私をぎゅっと抱き返して、泣きそうな声で言ってくる。


「……そんな事言われたのは、生まれて初めてじゃ……ミハン、ありがとう」


「どういたしまして」


 私の事を痛いぐらい抱きしめるユラと抱き合って、時間が流れていく。


 一分、二分……やがてどちらからともなく離れて、私はまたユラの隣に腰掛ける。


 でも言葉が出てこず結局無言の時間が続き、少し泣いて目が赤いユラを見ていると、ソワソワして耳を動かし尻尾を動かし、視線を彷徨わせる。


 そんな姿に可愛いなと思って笑い、私はユラをどうするか考える。


 家に帰すか、一緒に過ごすか。


 話した感じ別に私を騙そうとか悪い事をしようとしている訳じゃなさそう。ただ、どうしてか私と一緒にいたいらしい。


 ユラと一緒に、か。一年、王都でたった一人で過ごして寂しいなとは思ってて、ユラがいたらきっとそれが紛れる。だから、一緒にいるのは嫌じゃない。


 でも、本当に良いのだろうか。ユラの親は、ユラは……


 ぐるぐると色々な事を考えていつものように迷っていると、ユラは耐えかねたように綺麗に正座をして手を付き、私に言ってくる。


「ミハン……その、わしはミハンの為なら何でもする。雑に扱ってもらって構わん。じゃから……一緒にいさせてくれ」


 真っ直ぐな金色の瞳で、赤らめた頬で、真剣に言ってくるユラに私はまだ悩む。


 だから数秒、間が空いて悩んで悩んで、迷いを断ち切って言う。


「……良いよ、ユラ。一緒にいよっか」


 ◆


 狐のビースト族は占いや未来視を得意とする種族で、わしもその力が生まれつき備わっておった。


 じゃが、わしはその力がどうも他の者と比べて数倍強いらしく、生まれ育った村が魔力の豊富な所だったのも相まって、気が付いた時には、他の者の心の声が聞こえ、何もしておらぬのに見た者の未来が、願望がある程度分かっておった。


 何をするのか。そして、何が欲しく、何がしたいのか。


 そうしたものをわしは子供ながらに無邪気に、叶えられるものは叶えたのじゃ。親のして欲しい事に欲しい物。誰かの無くした物を見つける事。


 最初はお礼を言われたが、段々と何もしていないのにそんな事が分かるのかと気味悪がられ、ついには親もわしから少し距離を置くようになった。


 それから関係はますます離れ、一緒に家におるのに関わる事が少なくなって、七歳の時にはすでにわしは一人じゃった。


 悲しくて、苦しくて、どうしようもないぐらいに寂しくて、生きるのが苦痛じゃった。そんな時ふと思ったのじゃ。自分を占って今の状況をどうにかしようとな。


 家には幸い色々な占いや未来視に関する本が多々あって、わしはそれを読んで勉強し、未来を見た。


 最初はよく力が上手く扱えず、途方もないぐらい遠い未来を見て暗闇だけしか映らんかったり、遠い事を占い全て結果が無になったりしたが、段々と慣れてなんとか力を制御出来るようなり、八歳の時やっと自分の未来を占えたのじゃ。


 じゃが、結果は駄目じゃった。この村にいる限りわしはもう幸せにはなれんと。今の状況はどうにもならんと。


 そんな結果にわしは落ち込んだが、同時に出たわしの村から山を三つ超えた西の人間の国にある宿屋の三階の右端の部屋へわしが十四と二月(ふたつき)の歳になった時に行き、そこに住む悩んでばかりの少女と結婚すれば幸せになれる。


 そんな結果に興味を持ってな、わしはすぐにその年になったら村を出ると決めて、それまでの間はひたすら占いに関することを勉強して、今日ここに来たんじゃ。


 占いで見た宿屋の前に着いて、どう入ろうか悩んでおったら右端の部屋であるミハンの部屋の窓が開いておることに気が付いて、すまんな、壁を走って勝手に入ったのじゃ。


 入った瞬間、ミハンの部屋の匂いを嗅いでわしはどうしようもないぐらい好きじゃと思った。それから、後先考えずミハンの服をかき集めてベットで大好きになった匂いに包まれながら寝ておったら、ミハンに起こされたという訳じゃ。


 長話のせいで、太陽が沈みかけ辺りはオレンジ色に。


 じゃがミハンは最後まで文句を言わずにちゃんと話を聞いてくれ、わしは初めて誰かに自分の事を打ち明けられてほっとすると同時に涙が溢れそうになる。


 そんなわしをミハンはまた優しく抱きしめて、


「そっか。全部話してくれてありがとう。今までよく頑張ったね、ユラ」


 優しい声でそんな事を言ってくれ、わしは生まれて初めて人の胸の中で声を出して大泣きした。


 ◆


 明日のご飯だったけれど、ユラにはお腹いっぱいご飯を食べてもらいたいなと思って、干し過ぎた干し肉と不揃いのパンの残りを二人で仲良く全て食べ、向かい合ってベットに横たわる。


 その頃にはすでに夜になっていて、部屋の灯りを消せば、窓から差し込む月明かりだけが部屋に満ちる。


「ふかふかで、気持ち良いな」


 薄暗い中、ユラは楽しそうに笑い私を見つめてくる。


「村にいた時はベットじゃなかったの?」


「そうじゃ、敷布団じゃった。ミハン、ベットの方が敷布団より全然良いぞ!」


「そっか……ユラ。可愛いね」


 ニコニコと笑ってはしゃぐユラの頭を褒めながら撫でると、恥ずかしそうに俯き静かになる。


 そんな姿も可愛くてしばらく頭を撫でた後、ぎゅっと私はユラを抱きしめる。


 小さな体なのに暖かくて、凄く柔らかい。


「ねぇ、ユラ」


「な、なんじゃ?」


「私の心の声ってずっと聞こえてるの?」


「ここは、少々魔力が薄いからな。心の声は聞こうと思わんと聞こえんのじゃ。じゃから、ここに来てからは一度も他人の心の声は聞いてないぞ」


「そうなんだ……」


 心の声を聞かれても、別にまずい訳じゃない。ただ、ちょっと恥ずかしいだけで……けれど聞かれいないらしくて、ほっとしつつ私は話題を変える。


「ねぇ、明日は何しよっか?」


「そうじゃな……お金を集めるか」


「良いね。どれぐらい集まるかな?」


「美味しいご飯を食べれるぐらいは集まるはずじゃ」


「なら、明日は二人で美味しい物を食べに行こっか」


「そうじゃな、楽しみじゃ」


 私の胸の中で頷いたユラが私をゆっくりと抱き返してくれ、お互いに抱き合ったまま目を瞑る。


「おやすみ、ユラ」


「おやすみじゃ、ミハン」


 そうして私達は眠りに落ちた。


 ◆


 朝、目を覚ますとユラが私の服の中に顔を入れて抱きついたまま寝ていて、少し驚きながらも、ユラの体を揺らして起こす。


「ユラ、朝だよ。ユラー」


「んっ……もうちょっと……」


「あっ♡……ユラ、だめっ♡」


 寝言を言いながら私のお腹をはむはむと食べてきて、私はこそばゆくて体をビクビクっとさせる。


 その間もユラはお腹を優しく食べ続けて、どんどん上へ上へと上がって胸まで来そうになったので、やばいと思い私は慌ててユラを引き剥がす。


「ユラ、だめっ!起きて、朝だからっ!」


 胸に来る手前でなんとか引き剥がし、ユラは目を擦り、眠そうに目を開ける。


「どうしたんじゃ……んっ、顔が赤いぞ?ミハン」


「な、何でもないよ……おはよ」


「ミハンはやはり可愛いな。おはようじゃ」


 いきなり優しく褒められ更に顔を赤くしながらも、ベットから降りて伸びをする。


 そんな私を真似するようにユラも伸びをして、ふと思い出す。朝ご飯が無いことを。


「お腹が空いたな」


「そうだね……でも、朝ご飯は昨日全部食べちゃったし、お金も無いし、ごめんユラ……」


 朝ご飯を食べさせてあげれない事が申し訳なくて謝ると、ユラは優しい目で私を見て笑顔を向けてくる。


「気にするな。昨日言った通り、今からお金を集めて、一緒に美味しいご飯を食べるぞ!」


 元気良くそう宣言したユラは、いきなり両手を合わせて目を瞑り、体が淡く薄紫色に光る。


 数秒そんな時間が続き、いきなりユラは目を開くと、私の手を握って引っ張ってくる。


「こっちじゃ、ミハン」


「えっ?う、うん」


 ドタドタと宿屋を出て、尻尾を揺らし楽しそうなユラと一緒に、少しずつ賑わい出している道を、二人で歩き始める。


「ねぇ、ユラ。どこに行くの?」


人気(ひとけ)のない路地じゃ」


「えっ?どうして?」


「行けば分かるぞ、ミハン」


 歩きながら私にくっついて笑うユラに首を傾げながらも、付いていく。


「そう言えばじゃ、ミハン。冒険者を辞めるか続けるか、決めたか?」


 少しずつすれ違う人が減ってきた時、ふと思い出したようにユラがそんな事を聞いてきて、私は迷いつつもユラに聞く。


「それって、占いでどっちが良いか分からないの?」


 本当に色々と未来を占えるなら、ユラはきっと答えを教えてくれると思いそう聞くと、一瞬複雑そうな顔をしながらも、笑って言葉を返してくる。


「分かるぞ。占うか?」


「うん、お願い」


 私は一瞬だったユラの表情を気に留めることなく頷くと、昨日と同じように指で丸を作って私を見てくる。


「そうじゃな……冒険者を辞めたら色々な国に行く事になるじゃろう。辞めんかったら、人生の大半はこの国におる。どちらも悪い結果にはならんぞ」


 ユラの占いを聞いて、私はどうしようかと真剣に考える。


「んー……」


「時間はまだあるぞ。ゆっくり決めると良い」


 悩む私にユラはそう言ってくれ、私の手を離し一瞬しゃがむ。


 そうしてすぐにユラは元に戻り、私はその行動には深く聞かずに返事をする。


「そうだね。今日の夜までには決めるよ」


「おう、それが良いぞ」


 私の手を更にぎゅっと握り直して、笑うユラに私も笑みを返す。


 それから少し歩くと、人の気配は周りから完全に消えて、入ったこともない薄暗い裏路地へと入っていく。


「こっちじゃ」


「道、分かるの?初めてなのに」


「分かるぞ」


 くっついてないと二人で通れない道を歩幅を合わせて歩いて行く。


 と、またユラはしゃがんで、


「大丈夫?」


 二回目だから心配になって声をかけると、首を横に振ってユラは言う。


「大丈夫じゃ。それと後一回しゃがむが、気にせんで良いからな」


「えっ?う、うん?分かった」


 ユラの言葉に戸惑いながらも私は頷き歩き続け、もう一回本当にユラはしゃがみ、薄暗い裏路地を抜け人が沢山行き交う大通りに出た。


「ご飯じゃ!ご飯を食べたいぞ!ミハン、これで」


 止まることなく大通りを歩きながらユラが見してくれたのは金貨で、私は目を見開きながら思わず声をあげそうになる。


 そんな私の唇を人差し指でシッーと止めて、ユラは笑う。


「美味しい店を探すか、ミハン」


 ◆


「そ、それでこの三枚の金貨は、本当に貰っても良いの?」


 美味しそうなお店を見つけて二人で中へと入り、私はユラに問う。


 どうやら先程の路地は、闇賭博が行われている会場に繋がっているらしく、大勝ちした人が落とした金貨らしい。それをユラは三枚拾ったとのこと。


 ちなみに金貨が三枚あれば、大体半年は何もせずに生きていける額。


 そんなお金をユラはいきなり渡してきて、私は興奮しつつも、恐る恐る聞くとユラは笑って言う。


「ミハンの好きに使うと良い。わしを褒めてくれたお礼じゃ」


「でも……」


「気にするな。貰ってくれ……だめか?ミハン」


「え、えっーと……ユラ、ずるい。もー、分ったよ。ありがとう。取り敢えず何か食べよ」


「あははっ、そうじゃな!」


 金貨を持った私の手を両手でユラはぎゅっと握って来て、可愛く甘えるような顔でお願いされ私は顔を赤くしてそっぽを向いて頷くと、ユラは笑って元の位置に戻る。


 それからお互いに食べたい物を注文して、私が喋らないでいると、ユラは笑顔のまま頬杖を付いて聞いてくる。


「なぁ、ミハン。ミハンは夢とかあるのか?」


「夢?そんな事、今まで考えた事ないかも」


 なんか、あまり真剣に今まで生きてきてないなと人生を振り返って思い、正直に答えるとユラは耳を動かし笑う。


「やっぱりそんな物か。わしもミハンに会うまでは無かったからな」


「んっ?ユラ、私に会うまでって今はあるの?」


「おう、ミハンと結婚することじゃ」


「なっ、そ、そう言えば、言ってたね……あはは」


 忘れかけていた事を思い出し、視線をユラから逸して誤魔化しの笑い声を言うと、いきなりユラが両手で顔を挟んできて、視線を元に戻されユラと目が合う。


「返事は結局、どうなんじゃ?結婚、してくれるか?」


 ユラの真剣な顔に私はどう返事をしようかと緊張しながら考える。


 嫌じゃない。けど、はいと言い切れるほど私は今、ユラが好きなのだろうか……


 言葉に迷い続けて唇をもごもごし、十数秒時間が経ってこの時間に耐えられなくなった時、声がかかる。


「オムライスとハンバーグです。どうぞー」


 店員さんの声にユラは私から離れて、自分が頼んだオムライスを美味しそうに見つめる。


「た、食べよっかユラ」


「そうじゃな!」


 私は笑うユラに安心しながら、助かったと店員さんに心の中でお礼を言って、一年とちょっとぶりのハンバーグを口にした。


 ◆


 ユラと一緒に美味しい美味しいとご飯を食べ終え、軽い昼ご飯とそこそこの夜ご飯を昨日も行ったお店で買い宿屋へと帰る。


 その途中ふと気になってユラに聞く。


「ねぇ、ユラは村からここまで手ぶらで来たの?」


「そうじゃ」


「服とかお金とか、どうして持ってこなかったの?」


「んー、どうしてかと言われるとそうじゃな……持ってないから、かのう。わしが村におった時、親からお金を持たされた事は無かったし、服やその他生活でいるものも最低限じゃった」


「そう、なんだ。ごめんね」


「気にするな。確かにわしがお金をいっぱい持っておったら良かったとは思うが、それ以外は興味ない。服とか、わしはどっちかと言うと裸の方が好きじゃ」


「えっ?そ、そうなの?」


「おう!」


 笑顔で中々の事を言うユラに私は若干視線を逸しながらも、やっぱり服は持っておいた方が良いなと思い聞いてみる。


「ユラ、もし良かったら今から服を買いに行かない?」


「ミハンが選んでくれるなら良いぞ?」


「分かった、ユラに似合う可愛い服を選ぶね」


 ◆


 適当な服屋を見つけて私達は中へと入り、服を見る。


「こんなに色々と服があるのか。凄いな、人間は」


「村に服屋はなかったの?」


「無かったな。纏めて色々な物を売っておる店が一軒だけじゃったから」


「そうなんだ。ならこの機に、ユラに似合う可愛い服を何着か買おう」


「分かったぞ!」


 楽しそうに笑うユラと一緒に服を見て、私はユラに、ユラは私にお互い似合いそうな服を選んで買い、宿屋へと戻る。


「楽しみじゃな!」


「うん」


 宿屋に戻った私達は、買ったばかりの服を着て、お互いに見せ合う事に。


「どうじゃ?どうじゃ?」


 私がユラに買った服は短めの黒いミニスカートと、上は膝ぐらいまで長い魔法使いが来ているような大きめの白い服。


「とっても可愛いよ、ユラ」


 そしてユラが私に買ってくれたのは……


「は、恥ずかしい……」


「あははっ、ミハンも可愛いぞ」


 シースルーで結構な所が透けている薄ピンク色の上と、黒いショートパンツ。


「も、もう良いよね?」


「ミハン、外に行くときは着るんじゃぞ?」


「か、考えとくよ……」


 それから時間は流れていって、お昼ご飯を食べてのんびりし、夕方に。


 部屋の中は沈んでいく太陽と同じオレンジ色で、私はベットに座り、ユラはベットの匂いを嗅ぎながらゴロゴロしている。


 そんな静かで心が落ち着く時間に、私は悩み考える。


 冒険者を辞めようかなと。正直、思い入れがある職業な訳でもないし、向いているとも思わない。


 ぐるぐる考えてなんとか私は決心して、ユラに言う。


「ねぇ、ユラ。私、冒険者辞めるよ」


 私の言葉を聞いてユラは安心したように笑い、頭を私の膝の上に乗せてくる。


 そして、朝と同じように目を閉じ体を光らせて、ユラは口を開く。


「明日、王都を出て南に行けばお金に困る事がなくなると出たぞ」


「えっ?明日王都を出るの?」


「そうじゃな。じゃが、ミハンが嫌なら全然良いぞ。ここにおろう」


 嫌という感情が少し顔に出たからか、ユラはそんな事を言ってくれる。


 でもお金に困る事がなくなるなら、確かに出た方が……


 私はいつもの癖でまた悩み、ユラに聞く。


「お金に困る事がなくなるって、何が起こるの?」


「分からん」


 私の質問にユラはきっぱり答えて思わず驚く。


「分からないの?」


 そんな私の反応にいきなりユラはか弱そうな顔をして視線を逸し、間を置いたあと静かに言う。


「わしは、占いにばかり頼って決断することを悪いことだとは思わぬが、それは生きるということなのか?人生、分からん事が多い方が面白い思うぞ。じゃから、わしは占いの精度をあえて下げある程度の結果しか見ておらんのじゃ。じゃが……」


 ユラはここで一回言葉を区切って起き上がるとベットから降りて私の前に立つ。


 そしてユラはオレンジ色に照らされながら、少し無理矢理笑って言う。


「ミハンが気になるならば、わしはミハンの気になることをこれから全て占おう。どう生きれば一番幸せで、お金持ちになれ、ミハンが満足できる生を送れるか。ミハンは常に悩む性格をしておるからな。人生の、答えとなるものを伝えよう」


 ユラの言葉は何一つ嘘がなくて、本当に私の全てが見れるんだと確信する。でも同時に、どこか畏怖を覚えて体がすくむ。


 そっと差し出された手を握ったら、私は私の全てが分かって……それで……


 手を出そうか一瞬迷い、私は少しらしくないけどすぐに迷いを消して、ユラに返事をする。


「ユラ、いいよ。何も占わなくて。明日、王都を出よっか」


「本当に、良いのか?」


「うん。私もユラの言う通り、人生分からない事が沢山ある方が楽しいと思うから、ね」


「そうか」


 私の言葉を聞いて、どこか安心したように柔らかく笑うユラ。


 私はそんな顔を見てドキッとし、人生できっと初めてすんなりと迷いに微塵も触れず言葉が溢れる。


「それとユラ。結婚しよっか」


 ◆


 朝、荷物は大してないので部屋の片付けがすんなり終わり、私とユラは手を繋いで宿屋を出る。


「南はこっちだね」


「楽しみじゃな」


 楽しそうに尻尾と耳を動かすユラに私も笑い、少しイチャつく。


「ねぇ、ユラ。可愛いね」


「ミハンも可愛いぞ」


「ふふっ、ずっとそばにいてね」


「もちろんじゃ!死んでもずっと、一緒じゃ!」


 それからしばらくして、私達は王都を出た。この先、何があるのかは分からないけど……


「ユラ」


「何じゃ?」


「呼んだだけ」


「何じゃ、それは。酷いぞ、何かないのか?」


 可愛いユラと二人ならなんだって出来て、楽しい人生が送れると信じて、


「ふふっ、今のは嘘。本当は、大好きだよ」


「きゅ、急にか……わしもじゃ!ミハン、大好きじゃぞ!」


 私達はお互い少し照れながらもはにかんで、ぎゅっと手を更に握った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


投稿の期間が長い事空いてしまって、申し訳ありません。ですが、四月ぐらいからは復活して、新しい長編の作品を投稿するのでお許しください。


さて、狐耳とか猫耳とか耳と尻尾が付いている女の子はやっぱり可愛いですよね。書いててすごく楽しかったです。次は二人とも猫耳やらを持ったビースト族同士のお話とかも書きたいです。いや、いつか必ず書きますのでお楽しみに。


では、またどこかで。


面白い、続きが読みたい、そう思った方はぜひブックマーク!それと、

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よろしくお願いします。

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