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母の羨望は嫉妬の深淵

作者: 雪杜 伊織



5がつ6にち てんき はれ

ぼくのおねえちゃんはあたまがよくて、おえかきもできる。この日記もおねえちゃんからもらった。近所のおばさんたちもべっぴんさんだね、と言っていた。ぼくだけのおねえちゃん。うれしい。




5がつ13にち てんき くもり

今日はおねえちゃんに足し算をおしえてもらった。3つともぜんぶできたら、おねえちゃんはあたまをなでてくれた。明日は引き算をおしえてもらう。たのしみ。




5がつ17にち てんき あめ

引き算と足し算のこんごー(?)がむずかしい。

でも、せいかいできたらおねえちゃんがほめてくれるからがんばる。

明日はかんじもおしえてもらう




5月21日 天気 はれ

引き算も足し算もできたからってお姉ちゃんがキャンディーをくれた。ぼくがせいかいしたらお姉ちゃんもうれしいんだって。明日はかけ算をおしえてもらう。べんきょうしてる理由がお姉ちゃんにほめてもらうため、なんて言えないや。




5月30日 天気 くもり

さんすうのテストで先生にほめられた。

お母さんにも言ったけどあんまりうれしくなさそう。

やっぱりお姉ちゃんになでてもらうのが一番うれしい。




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6月12日 天気 雨

雨がいっぱい続く日を梅雨っていうんだって。


お姉ちゃんがさいきん、話してくれなくなった。

お母さんはなんだかきげんが良い、なんでだろう。









6月20日

お母さんに日記がみつかりそう。しばらく書かない。











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9月8日 天気 快晴

体育祭。

リレーで1位獲ったら姉さんが「流石私の弟!」って飛びついてきた。

姉さんはチアガールしてた。とっっても可愛いかった。




9月16日 天気 雨

夕立にあった。

姉さんが傘を持ってたから一緒に帰った。




9月27日 天気 雨

久しぶりに姉さんに勉強を教えてもらった。

しょうもない問題でも全部教えてくれる。

姉さんは久しぶりだからってはりきって机の角に足をぶつけてた。

大丈夫かな、あれ。






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3月1日 天気 晴れ

姉さんが中学を卒業した。

母さんも父さんも仕事で来れなかったから、一人で保護者席に座った。

姉さんは僕を見つけてすぐに手をブンブン振ってくれた。金縁のアンティーク眼鏡をかけた姉さんは周りにいる誰よりも輝いている。委員長の弟だからと姉さんのクラスメイトに謎のアピールをされた。あれは一体なんだったんだろう。





3月14日 天気 雨

布団をかけずに寝たら案の定風邪をひいてしまった。

お母さんは仕事に行って、僕は一人、ベットの上でうなってた。何時間経ったか時計を見ようとしたら頭が痛すぎて体はびくともしない。そのまま目をつぶっていたら暗闇でぼっち、というしょうもない夢を見た。いつもの自分ならどうってことないのに、熱の影響なのかひどく苦しかった。うっすらと目をあけて思ったことを口に出すとベットの隣に習い事に行ってるはずの姉さんがいてびっくり。ゆっくりと鉛のような体を動かして起き上がろうとすると姉さんが支えてくれた。でも精神的にダメだった僕は姉さんの首にしがみついた。久しぶりの人肌と久しぶりの姉さんの手当てに僕の涙腺は決壊してしまった。泣き疲れた僕が体を起こしたあと、姉さんと食べたりんごは塩の味がした。





3月26日 天気 雨

母さんに怒られた。

「あんたのせいでユイは」って。それはもう必死な形相で。

母さんは僕と姉さんが話していると、とても嫌そうに話しかけてくる、

早く離れろとでも言うように。

小さな頃、母さんに「ユイに近づかないで」と言われたことがあったけど僕はその言葉の意味が理解できず、姉さんの部屋に行って母さんの言葉を伝えてしまった。その後、とんでもない声量で姉さんが母さんに物申しているのを僕は父さんと襖の外から聞いていた。







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4月24日

言われたものをそのまま書いておく。

「なんであなたはユイにばかり笑顔を向けるの。どうしてユイはあなたばかり優先するの。どうして大事な時に体調を崩そうとするの。ユイが嬉しそうにリンゴの皮をむいていたのは?なんで、なんであんたばっかり」


自分だって母親なのに、と母さんは俯いたまま座っていた。


言われるままじゃ気が済まないので書いておく、

ユイ、、姉さんが最初に僕をほめてくれたから僕は学校のことは姉さんと父さんにしか言わない。母さんは僕に完璧を求めたから。完璧ばかりが正解ではないと教えてくれた姉さんの声にどれほど励まされたかは底知れない。

それに、姉さんが僕をどうするのかなんて本人に聞かなければ意味がないと思う。まぁ、姉さんが母さんと話す気になるとは思わないけど。





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5月3日 天気 晴れ


母さんが小さな部屋の棚の前で姉さんに静かに告げていた。


「どうして私の前には来てくれないの」

「どうしてあの子にだけ話すの」

「どうしてユウはあなたにばかり微笑むの」


姉さんは母の訴えを受け入れようとはしなかった。

代わりに、「お母さんはあの子に何を求めているの」と悲しそうに告げ、扉を開けて僕のところに歩いてきた。

「ユウ、今日は何が知りたい?」

「化学式…」

「うん、いいよ」

そうやって、姉さんは僕の頭を撫でた。






5月4日 天気 晴れ

母さんに「どうしたら話せる?」って言われた。


姉さんは僕と父さんの前にしか姿を見せない。

それは僕を守るためでもあった。




一番記憶にあるのは、参考書。


母さんは昔、僕を部屋に閉じ込めて教科書と参考書の中に埋めたから。

「この問題が解けないうちは外に出てはいけないよ」って。

父さんは仕事でいないから助けは求めても無駄。

しかもその日は雷雨で、ひとりぼっちで雷に耐えるには

苦しくてたまらなかった。泣いたら怒られるし、母さんが怖かった。

でも とうとう泣きそうになっていたら、窓から声がした。


「ユウ」


窓の鍵、角材で壊したんだって。すごい怪力だと思った。

でも嬉しくて、窓から姉さんの助けを借りて、あの部屋から出た。

姉さんも昔同じことをされて、

丁度来ていたおばあちゃんに助けてもらったらしい。









あの日、

姉さんは僕を母さんから隠すために祖父母の家から戻ってきた。








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5月18日 天気 晴れ

母さんが歪な顔で見てくる。

母さんの感情を2文字で表すとしたらあれは何に当てはまるだろうか。








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― 新着の感想 ―
[一言] いや、お母さんこわすぎ……!(´;ω;`) お母さんも必死なのかもしれませんが、ここまでいってしまうと関係性の修復が難しいような。 お父さん頑張ってお母さんの相談に乗ってあげてよと思いつつ、…
[良い点] 色々と謎があって、それでいて意味不明まではいかなくて、想像できる余地があるのがゾクゾクできました(*´艸`*) 日記風になってるのもいいですね。
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