時代から取り残されし者達への鎮魂歌
時は明治時代。街は洋風化され、近代化が進むこの時代は少しの小競り合いはあれど平和を保っていた。街は活気に溢れ、人々から平和を心から楽しみ笑顔も出ている。
「おじいちゃん、公園に行こう!」
「こらこらっ。そんなに急いだらおじいちゃんは追いつけないよ。」
かく言う私もその平和を楽しんでいる者の一人だ。6歳くらいの小さな孫が前を走っている。
「早く~!」
「分かった分かった。」
私は足音を立てずに歩く。おっといけないいけない。どうも昔からのクセというのは抜けないな。
公園に着いた私と孫はベンチへと座った。孫はしばらく私を見るとそのキラキラした瞳で私にせがんだ。
「おじいちゃん、また昔の話して!!」
「またかい?じゃあどのお話にしようかな?」
「おじいちゃんが忍者さんしてた頃のお話して!!」
「佑はそれが好きだねぇ。じゃあお話しようかな。あれは私がまだ20歳ぐらいの時だったかな・・・当時私は政府の忍者として任務にあたっていたんだ。」
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静かな夜。争いも無くなり、つかの間といえど安心して眠れるその時間に黒い影が屋敷の壁に存在していた。
パサッ
「おい、足音をたてるな。」
「すみません頭領。」
「お前本当に足音消すの下手だな。それだから罰って名前つけられるんだよ。」
影の一体が砂利を踏む。その音に反応したもう一体が音を立てた影に注意をした。影は三・四体だろうか。その影達は皆全身に黒い布を体に巻いていた。それは昔の忍者とかそういう者達の姿と似ていた。言葉を話している所を見るとどうやら影の正体は人らしい。
「今日の任務は旧政府と手を組んで反乱を起こそうとしている貴族の調査だ。油断は禁物だぞ。」
頭領と呼ばれたリーダーらしき男が回りに警戒を促す。それを音を出した時にからかった男が反応した。
「しかし今のこの時代に反乱を起こそうなんざ本当にバカだねぇ。」
「新平、調子に乗らないの。私たちは任務でここにきたんだから。後人の名前をバカにしない。いつも言ってるでしょう。」
「はいはい分かったよ。文は相変わらず固いな。もっと軽くいこうぜ?」
「おしゃべりはここまでだ。屋敷に潜入するぞ。壁を越えたら新平と文で二階を、オレと罰之助で一階を探索する。以上だ。」
新平と文は声に出さず、小さく頷くと背中の刀を壁に立てかけてそれを足場にして壁を越えた。私はそれを見越した後、頭領とともに同じようにして壁を超えた。屋敷の玄関には拳銃を持った警備員二人がいた。
「見張りがいるな。」
「任せろ。」
新平がそう言うと音も立てずに番兵の近くへと歩み寄り、懐から出したひし形の武器である手裏剣を番兵に投げつけた。
警備員が気づいた時にはすでに遅く。二人は喉に手裏剣が刺さって声も出せずに倒れる。すかさず新兵は腰のクナイで止めをさした。私はそのスピードと手際の良さに感動したものだ。
「よし、いくぞ。」
「はい。」
ドアから侵入したその後、私と頭領は一階の一室へと入った。そこは何かの資料室のようだったが、何の資料かは私には分からない。部屋からは屋敷の主人の趣味だろうか?クラシックが流れていた。
私はそのクラシックを聞きながらも部屋を捜索する。そういえばどうやって政府は反乱の情報をつかんだのだろう?
私は些細な疑問を思った。
「今回の任務、少しおかしいな。」
不意に頭領がそんな言葉を漏らす。おかしい?どこがだろう。
「人がいなさすぎる。仮にも反乱を起こすのだからもっと警備兵がいても良いと思うのだが・・・」
確かに、と私は思ったが別にただ警戒していないだけだろうと軽く思っていた。だがそれはまちがいであったと上から聞こえた複数の発砲音で気づかされる事となる。
「なんだ!?」
「チッ、どうやら新平と文が見つかったようだな。屋敷から出るぞ!」
私と頭領は急いで窓から出るとそれと同じくして文さんも二階の窓から落ちるように姿を現した。その肩から血を流して・・・・
「文、どうした!?」
「うっ…頭領、待ち伏せをされていました。どうやら私たちの潜入がばれていたようです。新平は死にました。」
「悪い勘が当たっちまったか。屋敷から脱出するぞ!!」
文さんと頭領、そして私が壁へと向かう。後ろからは拳銃を持った警備員が何人も追いかけてきていた。
「どうして潜入がばれたんですか!?」
「・・・オレ達はハメられたのかもな。」
「どういう事です!?ウグッ・・・!?」
文さんは火薬玉に火をつけて煙幕を起こす。が拳銃の一斉射撃を浴びて体中から血を噴出しながら崩れた。
「文さん!?」
「文!だがこれで脱出できる・・・!?」
「そんな・・・」
私と頭領の目の前にはたくさんの警察が屋敷を囲っている姿だった。逃げ場が無い・・・・
「そういう事か。」
「な、何で警察が・・・」
「本当の目的は騒ぎを起こしてここを警察に捜索させる事か。オレ達はその騒ぎを起こすためのつまり・・・」
捨て駒。
「オレ達は国の秘密を知りすぎた。口封じってわけか。」
そんな、オレ達は国の為に今まで尽くしてきたのに・・・
「罰之助、オレがあいつらに突っ込む。お前は裏口から逃げろ。」
「頭領を置いていけません!!」
「お前はまだ若い。その命を無駄に散らすな。」
「う、うぅ・・・」
頭領の言葉に私は涙が止まらなかった。それと同時に政府への憎しみも沸き上がった。
「お前はオレ達の分まで生きてくれ。」
「ウッ…グスッ…」
もはや私は声を出せなかった。それを見た頭領は一言
「オレ達忍者の時代はもう終わったのかもなぁ・・・」
そう言って笑った。死ぬ直前なのに笑ったのだ。それを私は直視できず、裏口へと向かった。後ろからは何発もの銃声が響いた。
私は壁を越えて追いかけてくるものにまきびしを撒き、泣きながら夜の街へと消えていった・・・・
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「おじいちゃん泣いてる。どこか痛いの?」
孫が私の顔を覗き込みながら心配そうに私を見る。どうやら話してしている内に感傷に浸りすぎてしまったらしい。
「どこも痛くないよ?」
「そうなの?痛いときはナデナデしながら痛いの痛いの飛んでけ~ってしたら直るんだよ!」
そう言って孫は私の頭をナデナデする。そんな幼い孫に私はまた涙が溢れた。あれから政府に復讐しようと思ったが頭領の言葉を思い出し、実行できなかった。
命を無駄に散らすな。
孫は私の手を握りながらニコニコと笑顔で歩いている。頭領、新平さん、文さん。私は今の時代を生きています。時代から取り残されても精一杯生きています。
公園を出ると街から音楽が流れていた。それはなんの因果かあの日、潜入した部屋で流れていたクラシック音楽だった。かなり古い曲なので今頃流れているのは珍しい。この曲も変わりめく時代から残されてしまったのだろうか。
私は孫を見て思う。願わくば届いて欲しい。そして伝え続けて欲しい。時代から取り残されても懸命に生きた者達がいた事を。そして、その者達に捧ぐ・・・・
この時代から取り残されし者達への鎮魂歌を。
さて初めての歴史です。これは時代の境目に消えた忍者達の物語ですが…忍者というものはこの後、探偵という形でしっかりと残っています。ちなみにこの物語のテーマは「変わりぬく時代」です。(そのまま)
時代が変わるにつげて忍者も変わらなければならなかったのかもしれませんね。ではこの物語を読んでくれた人達に感謝を。ありがとうございました!!