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日下部睡蓮×草野春樹 4

だいぶ間が空きましたが、前回の直後の話です。


「おっと。今日は珍しく早いじゃん、睡蓮。いつも遅刻ギリギリなのに」


教室に入ると、自分の席で荷物を下ろしていた葉月が、びっくりした声で話しかけてくる。

葉月のご挨拶に、心外な、とあたしはちょっとむくれて言い返す。


「草野君も葉月も、開口一番言うのがそれ?これでもあたし、まだ遅刻はしてないし!」

「知ってるよ、いつもあれだけギリギリなのに遅刻しないからすごいなって思ってる」

当たり前じゃん、と葉月が珍しく真面目な顔をして言うから、隣で草野君がウケている。

「僕も同じこと思ってた…」

「だよねぇ」


ウケる草野君と、うんうんと満足げに頷く葉月。

…まあ事実なので言い返しようがない。遅刻してないことを褒めてほしかったが、この調子で褒められてもあんまり嬉しくない。


草野君がその場を離れると、それを待っていたかのように、葉月が「そういえば」と改まって顔を上げた。

「あんたら一緒に登校してきたの?」

「いやいや、まさか。偶然会ったの」

「偶然って…学校来る途中で?」

「途中っていうか、中庭で」

「中庭…?」

葉月が、眉をひそめ、ちょっとよく分からない、という顔をする。

あたしはうーん、とどう言おうか考えて、結局ひと言に収まる。

「まあ、ちょっとお花見?」

「…?桜、もう散ってない?」

「いや、だからこそ、散り際を見届けて春を惜しもうという」

「…はあ…」

納得しきっていない葉月が、「はあ?」と「はあ、そう」の間みたいな相槌を打つ。


「まあいいや。なんかよくわかんないけど、睡蓮と草野君、仲いいよね」

「そう?席が前後だからよく話すだけじゃない?」

あたしも、正直言って草野君と自分の関係をはかりかねているから、とりあえず気のない返事をしてみる。

紛れもない事実だし、それだけといえばそれだけだ。草野君、優しいし人懐こいから誰にでもああなのかもしれない。

「今まで接点はあったわけ?」

「いや、今年初めて。入学式の日、葉月来る前にちょっと話したぐらい」

「あ、そう?ん、いやでも…そっか、あれは睡蓮見えてないもんな」

もごもごと一人呟く葉月に、「ん?」と聞き返すと、「いや、なんでも」と濁される。


…なんなんだ。何もない態度じゃないだろ。こんなの逆に気になっちゃうじゃないか。

…とは思ったものの、敢えて濁したんなら聞かないほうがいいか、という結論に落ち着いて黙っていると、葉月が、また「なんかさー」と口を開いた。


「草野君ってさあ、矢吹(やぶき)君と知り合いってか、仲良かったりする?」


葉月が、あたしから視線を少し外して、なんでもないことのように言った。


「矢吹君?」


あたしは、葉月の口から出た名前に面食らって、そのまま聞き返してしまう。

矢吹君は、2組のクラスメイトだ。が、あんまり学校に来ていない。まだ4月だというのに、教室で見たのは二、三日。噂によれば去年留年しているとか。

噂の信憑性は分からないけれど、まあ、何か事情がある人なのかもしれない、というのはクラスの皆がなんとなく察しているところだ。


「うーん。知り合いかもしれないけど、矢吹君、学校に来るのあんまり多くないから、仲いいのかは分かんないな。後で聞いてみようか?」

意識的にこちらを見ようとしない葉月の態度から、深く突っ込んでほしくなさそうな雰囲気を感じとり、慎重に言葉を選ぶ。


「あー…分かんなかったらいいや。連絡先聞きたいとかでもないし」

「そう?」

「うん」


この話はこれで終わり、というように、葉月が視線をこちらに合わせ、にっと笑顔を見せる。


「睡蓮と草野君は、ラインとかしないの?」

「しないしない。そもそも連絡先知らないし」

「えー…あんな仲良いのに?」

「いや、だから普通だって」


葉月がいつも通りに戻ったことに安心しつつ、あたしは笑って首を振り、葉月の言葉を否定する。

もうすぐ予鈴だ、とあたしが席に戻ろうとした時、たたっと急ぎ足で後ろの扉から教室に入る人がいた。

たん、たん、と葉月後ろの席に荷物を置いたのは、

―矢吹君だ。


葉月は驚いたように彼をじっと見つめ、一度口を開きかける。

しかし、結局何も言わずにくるりと前を向いてしまった。

矢吹君は葉月の様子には気づかないまま、がたんと椅子を引いて腰を下ろす。


葉月も机から鞄をどけると、何もなかったように、すとんと椅子に座った。


教室から目を背け、廊下を急いで走っていく生徒たちを横目に、頬杖をつく。

騒がしい足音と、誰かの笑い声が廊下に響き、開け放しの窓を穏やかな風がゆっくりと吹き過ぎていく。

葉月の長い髪が一筋、さら、と頬にかかり、彼女の表情を陰らせる。


四月の明るい教室の端で、廊下をけだるげに眺めながら、彼女が何を思っているのか、あたしには見当もつかなかった。


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