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閑話4(矢吹冬馬と球技大会①)

時系列だいぶ遡って、球技大会(冬馬ver.)です。

 球技大会の出場種目を決めろ、と学校でお達しがあった日。

 俺は、心底「うへえ…」と思いながら、司の家に転がり込んだ。

 有り体に言って現実逃避だ。

 司の部屋で黙々と漫画を読んでいると、ふと思い出したように司が口を開いた。


「そういや、もうすぐ球技大会だな」

「え?なんだって?牛肉食いたい?そりゃいつだって食いたいだろうよ」

 

 思わぬところから奇襲を受けた俺は、漫画に目を落としたまま、雑にすっとぼけた。

 司は、呆れ顔でぼそりと呟く。


「おいおい、耳、悪すぎだろ。絶対音感のくせに」

「関係ないっつの」

「聞こえてんじゃねーかよ」

「……」


 内心ちっと舌打ちしながら、俺は無言で司を睨んだ。

 逃避行動中に現実に引き戻すことほど罪深いものはない。


「……ああ、もうさぼりてえ……」

「やめとけって。また留年するぞ、虚弱児冬馬君。四月から既にだいぶ休んでんだろ?」

「う、うるせー……」


 頭を抱える俺に、容赦なく司が追い打ちをかける。

 こういう時だけ正論なのやめてほしい。

 

「で、種目どうすんの?」

「……卓球だろ。多少手ぇ抜いてもばれないし」


 しれっと問題発言をする俺に、司はもの言いたげな顔をしたが、ごっくんと言葉を飲み込んで、「まあ、だろうな」と相槌を打った。


「葉月も卓球にするらしいぞ」

「え」

「嫌なのか?」

「……運動できないから、球技大会で極力遭遇したくない」

「くっ、ダサ可愛いかよ。でも、種目被ってるってことは、葉月も自分の試合でお前のほう行けないんじゃね?」

「それもそうか。よし決定」

「ちなみに俺も卓球。応援よろしくなっ」

「……気が向いたらな」

 

 それ絶対来ないやつだろ、と絡む司を、はいはいと適当に受け流す。

 司は卓球上手いから、運動音痴の寄せ集めみたいな球技大会卓球チームの中では、恐らくエース級。

俺なんぞに頼まなくても、応援してくれる奴なんていっぱいいるはずなのだ。




 卓球は、一時期体育の授業でも選択していた。

 理由はもちろん、ラクでサボりやすいから。他の競技と比べても、圧倒的にコートが狭くて、必死に走る必要もないというのがいい。

 適度にサボる気満々だった俺だが、聞いて驚け、去年は真面目に練習した。

 理由はもちろん、司だ。

 司は卓球経験者で、普通に上手い。ペア練の相手に困るどころか、引く手あまただった。

 それなのに、毎度毎度当然のように俺と組み、ラケットの持ち方からバカ丁寧に教えてくれた。


「卓球はなー、結局ラケット角度とタイミングだからなー。なんとかなるぜ、ほれ」

「長いボールは、引きつけてドライブ気味に打つと案外入るぜ。ちょっと下がって、ボールの表面こするイメージ。そう、そんな感じ!」

 

 ラケットを一緒に持って、振り方を教えたり、球出しをしたり。

 ここまで親切に面倒を見てもらったら、流石の俺でもサボれない。「無理だって」「…空振るんだけど」とか文句を言いながら、真剣にボールを目で追っていた。

 そして何より、段々とラリーが続くようになるのが、純粋に楽しかった。


「うわ、お前みるみる上手くなるじゃん。可愛くねー」

「ちょ、普通に打たれたんだけど。初心者のスマッシュ返せないとか屈辱だわ」

 

 そうやって、軽口を叩く司と笑い合うのが、楽しかったのだ。


「お前、もしかして卓球割とセンスあるんじゃね?」

「んなわけねーだろ。万年体育2の俺に対する高度な嫌味か?」

「ちょ、冬馬君てば卑屈ぅ。まんまの意味だよ、褒め言葉は素直に受けとっとこ?」

「へーへー。専属コーチが手とり足とり教えてくれたお陰ですわ」

「まあな!それは間違いねえな!」

「自分で言うか」

 

 そんなやりとりも今は昔だ。

 球技大会は、バレない程度に手を抜いて、さっさと終わらせよう。

 なにせ、去年の冬以来、一度もラケットを握っていない。付け焼き刃で得た感覚なんて忘れているに決まっている。

 まして、万年体育2にして虚弱児の俺だ。

 やる気を出したところで、空回って無駄に疲れるだけなのだ。

 


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