桜田陽
突然だが、私、桜田陽は、前の席の草野君と日下部さんのことが、少し、いや、かなり気になっている。
草野君とは、去年同じ緑化委員で、一緒に花壇の手入れなんかをしながら、何度か話したことがある。
極度の人見知りのせいで、人と仲良くなるのが苦手な私にとって、草野君と話せるようになったことはほとんど奇跡に近い。
いや、人見知りと言っても、用があれば基本誰にでも話しかけられるし、笑顔が下手とかそういう話でもない。会話自体は普通に好きなのだ。
…ただ、雑談ができない。
特に用もないのに何を話していいか分からない。よって人に話しかけない、話しかけてもらっても会話を広げられない。
話術がないから面白い話なんてできないし、人のボケを「なんでやねん!」みたいな、鋭いツッコミで返すのも無理だ。
昔やってみたけど向いてなかった。その場が一瞬で白けたを通り越して凍りついた。
会話が途切れると何か話さないといけない気分になるが、話すことがなくて黙っていると向こうがすうっと消えていく。最近そういう状況にいたたまれなくなって、いっそ自分で「じゃあ」と表面上にこやかに立ち去るようにしていたら、「ドライな人なんだね」と言われることが多くなった。
ドライってなんだ。いや分かるけど。私ってドライなのかしら。
ねちねちしているほうではないにしても、自分的にしっくりこない。
一度、「ドライ…私、そんなに乾いてる?あ、でも、会話の盛り上げ役は下手だから、きっとチータラやさきいかのように酒の席でアテにはならないわよ」とボケたつもりで言ってみた。
すると相手はさぁっと青ざめ、慌てて「ごめん、悪い意味で言ったんじゃないの」と謝った。
その時、私はどうやらボケも向いてないようだと悟った。
私としては、「そうだね、あなたは乾きものじゃなくて変わり者だよ」なんて答えが返って来たら、私はこれから一生ボケで生きていこうと考えていたくらいなのに。
別に怒っちゃいないわよ全く。
…まあ、色々努力はしたのだ、私も。
その上で、ジタバタしても割と無駄だということを学び、最近は大人しくしているというわけだ。
ところでその草野君だが、この間放課後に一人で花壇の手入れをしているのを偶然見つけた。
こんな格好のチャンスを逃す手はない。
私は至って自然に彼の隣にしゃがみ込み、さも当然というように話しかけた。




