表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/43

日下部睡蓮×草野春樹 1

あたしは、後ろの席の草野君が、ちょっとだけ苦手だ。



「すーいれんっ」

「うぐっ」

一時間目の授業を爆睡し、休憩時間もそのまま突っ伏していたあたしの背をバンッと叩くのは、友達の葉月だ。

綺麗に切り揃えられた姫カットの横髪が今日もいい感じだ。さらに腰まで届くサラサラストレートの髪が羨ましい。ちなみにあたしの髪は少し癖があって梅雨なんかは苦労する。まあ、普段からシュシュでポニテに括ってるからあんま気にされないだろうけど。


「睡蓮、まーた寝てたでしょ」

「いや一限目から地理とかまじ無理っす…」

「ジョージ、声ぬるいからね~」

そう、ぬるいのだ。聞いてもらえばわかる。ぬるいのだ。あと、ジョージは地理教師のあだ名。本名を忘れられるくらいジョージで浸透している。


「日下部さん、これ」

後ろの席の草野君が、遠慮がちに声をかけてくる。手には消しゴム。

…あたしのだ。

「寝てるとき、落としてたんだけど、起こすのもどうかなって。もうすぐで授業終わりだったし」

ほわっと優しい笑顔を浮かべる草野君。

全人類の癒しだ。


「あ、ありがとう…」

申し訳なさと照れで声が小さくなるあたしに、葉月がぷっと笑って追い打ちをかける。

「ちょっと、後ろの席の人にまで迷惑かけてどうすんの睡蓮」

「うぐ…」

「もー」

葉月の呆れ笑いにつられてか、はは、と草野君まで笑う。

「なんっでこんな寝ちゃうかなー」

半分言い訳、半分本気で疑問に思いながらそう言うと、草野君が今度はにやっと、いたずらっ子のように笑った。

「睡蓮だからじゃない?」

「へ?」

「睡蓮の睡って、「まどろむ」でしょ?」

「確かに!」

葉月が、それだ、という顔で頷く。

「名は体を表すって言うし、しょうがないね睡蓮」

「というか、名前、ぴったりだね睡蓮」

うんうん、と仲良く同意する葉月と草野君。

「う、うぐ…葉月の意地悪…」

反論できないので、せめてもと葉月を睨んで責める。草野君は迷惑をかけた負い目があって睨めなかった。

「なんで私だけなの?睡蓮」

「僕はいいの?睡蓮」

至極真っ当なツッコミに、負い目を忘れ、草野君を睨む。

「うん?」と天使のような笑顔で首をかしげる草野君。心なしか嬉しそうだ。

…くそ、可愛い…。

キーンコーン…。

試合終了のゴングかと思ったら始業の鐘だった。

「やばっ、私席戻るね睡蓮」

「じゃあね睡蓮」

「…」

もう、睡蓮、睡蓮て、何回も呼ぶなあっ!



あたしは、後ろの席の草野君が、やっぱりちょっとだけ、苦手だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ