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勝手に喚ばないで!  作者: 全ての野良猫のご主人様
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勝手に喚ばないで!Ⅳ


「なあ・・・お前等、ちゃんと考えて戦ってるか?武器を振り回すだけじゃ戦いにならないぞ?パーティの役割をちゃんと決めろ、事前に状況を想定して話し合っておくんだ」


帝都から戻ってきた俺は、翌朝になってギルドへと向かった。そう、前から気になっていた問題を片付けなければならない・・・これは俺の冒険者としての使命だと思った。


冒険者は死に過ぎる。その多くは新人の最下級冒険者だ。彼等は何故死ぬ?簡単な事だ。農民の家に生まれた子供が、いきなり戦える訳が無い。適当にギルドで仲間を探して、4~5人も集まれば何とかなると思い込んでいる素人連中が最下級冒険者だからだ。


「ギルドでの新人冒険者への訓練ですか?」


「そうだ。一週間、講習を行う。それに参加しない者達はこの領地での新人冒険者登録を一切認めない。俺は無駄にガキ共を死なせたくない、この国は15歳で成人と見做される。15歳で大人の仲間入りだ。それに対して俺は文句を言うつもりはないが、俺からすれば15歳はガキだ」


知識も思考もまだまだ子供に過ぎない。それが冒険者と云う死と隣合わせの仕事に携わるべきか?俺の答えは否だ。しかし、この豊かなバーンシュタインですら貧しい、農家の次男三男なんて家を継げない連中は口減らしに15歳で家を追い出される。田舎の農村出身者が、街へ出て仕事なんて見つかるはずがないんだ。


ギルド長は俺の話しを真剣に聞いていた。それは元冒険者であるギルド長も感じていたはずだ。冒険者だったら誰だって考えた事がないはずがない。


「講習には日当を支給してやる。一人一日、銀貨2枚だ。それと・・・これはギルドの考えも聞きたいんだが、俺は前衛の武器に必ず盾を装備させる事を義務付けるべきだと思う」


「なるほど、それは理解出来ます。いきなり両手剣を持ちたがる者が多く、防具の重要性を考えていないからですね?」


「そうだ。長柄の獲物で戦う者は盾は要らないよ。だが、いきなり両手剣で戦うのは無理がある。それは死亡者数が証明しているだろう?それに剣は携帯には便利だが、武器としての性能は長柄の獲物には及ばない。まあ、それについては冒険者についても様々な意見があるだろうけどな」


「要約すると一週間、一日銀貨二枚やるから講習に参加させる。そこで最低限の戦闘知識を教え込む。それすら受けたくないなんて舐めた奴は冒険者にはしない。そして、初期装備は片手剣と盾、もしくは長柄の槍などを推奨する。俺の考えは以上だが、どう思う?」


「・・・異論は全くありません。教官役は誰が行いますか?」


「中級冒険者を一週間雇って教えるべきだろう、それが出来ないのなら俺と俺の部下達で行う。ただ、俺の部下達は強すぎて、初心者訓練に向いてないと思う・・・獣人やエルフなんて、最初からある程度、強く生まれた連中だからな」


「御堂様も参加されるのですか?」


「する。発案者の俺が参加しないでどうする?自分で言うのもなんだが、初心者相手に戦いを教えるのは下手ではないと思う、何事も経験だ。やらせてみてくれないか?そっちの資金は俺が出すから、新人冒険者用の演習場を作ってくれ。そんなに広さは要らないからさ」


「分かりました。そちらはギルドで用意します。御堂様、いえ領主様。ギルド長として感謝致します。その問題は誰もが気付きながら、誰も着手しようとしませんでした。本来であればギルドがやるべき仕事なのですが・・・」


「ああ、本来はアンタらの仕事だ。だが、ギルドは大陸中に広がっていて、何でも会議で決めなければならないから、小さな街のギルド長がそう進言した所ですぐに行動に移らない。組織が大きすぎるのも問題だな」


「仰る通りです」


「じゃあ、広告を張り出して欲しい。新人冒険者講習の始まりだ。笑ったり泣いたり出来なくしてやる!」



俺が教えているパーティは剣士(両手剣)・武道家・魔術師・神官の4人パーティだった。バランスはとても良い、だが、剣士以外の奴は、全員女性のハーレムPTなのがムカついた・・・だから、俺は徹底的に野郎をしごく!


「いいか坊主、両手剣なんて一丁前に使いこなせると思うな!張り紙を見ただろう?片手剣にしろ片手剣に、そして左腕には盾だ。バックラーでいいよ。盾は絶対に必要なんだ。新米冒険者は良い鎧は買えない。だから前衛に盾は必須なんだ。視界の良い兜もあればベストだ。生死を分けるぞ?」


「でも・・・領主様、盾に兜って格好悪くないですか?」


「舐めた事言ってんじゃねえ!そうゆう事はその両手剣を片手で100回は振れるようになってから言え!お前はウジ虫だ!ウジ虫は黙って伸びたり縮んだりしてろ!」


俺はコイツらのPTを見て、一目で分かった。ちゃんと戦えるのは武道家のポニーテールの子だけだ。俺はポニーに近付いてしゃがみ込んで、ふとももとふくらはぎをまさぐり始めた。


「え!?ちょっと・・・?」


「黙ってろ、すぐ済む・・・」


俺は無視して触り始める。次に腰から肩を触ってみた。ポニーテールは恥ずかしそうに俯いていた。


「手を見せてみろ」


「手ですか?はい・・・」


「うん、よく鍛えてあるな。武道家やってるだけあって、小さい頃から鍛錬してたんだろう。お前は合格点だ。そのまま戦える・・・」


「本当ですか?自信はあります!」


「・・・調子に乗るな。お前は最下級冒険者として合格点に達しているってだけだ。体はある程度出来てる。ちょっと、型とかやってみせてくれるか?」


俺がそう言うと、彼女は蹴りや突きを一通り行ってから呼吸を整える。流れるような動作・・・とまでは行かないな。だが基本が出来てる良い動きだ。


「うん、悪くない、ただなぁ・・・」


「何か悪い所がありますか?」


「・・・お前、素手でしか戦えない?棒術、トンファー、釵なんかは使えないか?」


「ええと、棒術とトンファーは使った事があります。釵は父が触らせてくれませんでした」


「釵は手の延長だ。そうだな・・・ちょっと付いて来い」


そうして俺はギルド内に併設されている武器屋へと入った。


「よぉ、棒術用の木の棒とトンファー、それに釵って置いてあるか?」


「はい、勿論ありますよ。どれをお求めですか?」


「この子に合うサイズのを渡してやってくれ、三つともだ」


「えっと・・・お金が・・・」


ポニーは恥ずかしそうに頬を掻いていた。


「大した金額じゃない、これくらい俺が餞別替わりに買ってやる」


「え?いいんですか?この催しに領主様は多額のお金を出していると聞きました・・・」


「ガキが余計な心配してんじゃねえ、そうゆうのは大人に甘えておきゃいいんだよ。それと、ここでは俺も冒険者だ。御堂と呼べ」


「・・・御堂様?」


「御堂さん」


「分かりました。ありがとうございます!御堂さん!」


そして訓練場へと戻る。


「いいか?武器は行く先の場所の広さを想定して選べ。俺なら腰にトンファーか釵を差して、棒を持つ。武道家の棒術って木の棒だろ?ちょっと攻撃力は弱いんだよなぁ。まあ棒っ切れでも殴られりゃ、ジャイアント・ラットやゴブリン、コボルトは倒せるけどな」


「お前等、全員モンスターマニュアルは読んでおけよ?目的の討伐対象がどんな奴かは頭に入れておけ、多分文字が読めない奴がいるから魔術師と神官が読んで教えてやれ。初めて行く先では、どんな地形の場所か、ちゃんとギルドのお姉さん達にしっかりと聞いておくんだぞ?」


「長柄の武器が振り回せる場所かどうか、松明や毒消し、応急手当ての薬は必ず持て、神官の治療は最後の手段だ。魔力切れで致命傷の治療が出来ないとかになったら最悪だからな。ゴブリンは毒の矢と短剣を使ってくる場合がある。毒消しは必須だからな?忘れるなよ」


「おいポニー、ちょっと好きな武器でかかってこい」


「え・・・?いいんですか?」


「舐めるな。鼻っ柱をへし折ってやる」


「では、まず無手で・・・!」


そういって蹴りや突きを繰り出して来るが、俺はそれを片手で受けたり、かわして避ける。ちゃんと基本が出来てる良い動きだ。だが実戦経験の差は埋める事の出来ない差を生む。俺が足払いを掛けると簡単に転んだ。


「・・・悪くない、精進しろ。おい、魔術師休むな!ちゃんと瞑想しておけ!」


「私は、魔導師協会の学校を卒業した魔術師ですよ?今更、瞑想なんて・・・」


「え・・・?魔導師協会の学校卒業したの?モグリじゃなかったのか、おかしいな。卒業生で見込みある奴は、うちへ仕官させろと言っておいたんだが・・・」


俺はブツブツと独りごちた。


「なあ、何でもいいからちょっと俺に術を撃ってみろ」


「え・・・?当てるつもりででしょうか?」


「当たり前だろ・・・いいからさっさとやってみろよ」


「・・・輝け、輝け・・・燃え盛る炎よ・・・フレア・アロー!」


この子の詠唱は俺とは違うな。呪文の詠唱は千差万別だ。同じ呪文でも遣い手によって詠唱は変わる。大事なのは精霊に命令出来るだけのインテリジェンスと魔力だ。俺なんて、同じ術でも気分次第で詠唱変わるから。


俺は、その攻撃を避けもせずに素手で弾き返した。


「・・・え?素手で?そんな・・・」


「威力が低い・・・これじゃ小型の亜人種にしか効かないよ。だからもっと瞑想して魔力を高めて、魔力を体内から逃がさない鍛錬しとけ」


「御堂さん、様子はどうですか?」


ギルド長が俺達の様子を見に来た。他の連中の所も見廻っていたようだ。


「まあ、なんとか・・・ただ、やっぱりそのまま討伐クエストやらせてたら、全滅してたな」


「え?俺達、全滅ですか?」


「黙れウジ虫!誰が休んで良いと言った!お前は黙々と素振りと腕立てとランニングしてろ!この女垂らしが!」


「君達、上級冒険者に最下級冒険者が指導して貰える機会なんて、一生に一度あるかないかのチャンスだよ。しっかりと御堂さんの言葉を忘れないで、訓練に励むんだ。必ず役に立つから」


「誰が一番、見込みがありますか・・・?」


ギルド長が小声で聞いてきたから、奴等に聞こえないように答えてやった。


「・・・あの小僧だ。奴が一番伸びしろが高い、それに良い目をしてる。コイツら生き残ってりゃ良い冒険者になれるよ」


「それは嬉しい知らせですね。他の子達はどうでしょう?」


「武術家の子は基礎が終わってる。後は体力的な問題と戦闘経験だ。魔術師の子は才能はある。ただ、少し自信過剰だな。神官の子は俺には分からない・・・」


「他の様子はどうだ?」


「ええ、新人を訓練するのは、やはり必要だったと改めて実感しています。こんな子達を、いきなり実戦に向かわせていたと思うと・・・」


「・・・これで死傷者が減って結果を出せれば、そのうちこの国中に冒険者の新人訓練が広まるさ、そうすれば街や村の被害が減って国の税収は増える。そうすれば、国も金を更に出すようになるかもしれない」


「そうなる事を願います」


「ああ、神官の子・・・すまんが、俺は神官に関してはサッパリ分からないから教えられるのは応急手当だけだ。全てを神聖呪文で治していたら、すぐに魔力切れを起こす。だから応急手当の仕方をしっかり覚えるんだ。あと、後衛は全体を見渡して、前衛に変化を教えなけりゃならない。ちゃんと周囲を観察する事を習慣づけるんだ」


「わ、分かりました!」


よしよし、初日にしては上手く行ってる。一週間後までには何とか仕上がりそうだ。俺はそれから、この子達の練習メニューを渡しておいた。そして、毎日昼飯を奢ってやった。たんぱく質が豊富な肉類が多い食事だ。全員、体力と筋力が足りてない。それに15歳ならまだまだ育ち盛りだ。


小僧のランニングには神官と魔術師も一緒につき合わせた。彼女達は体力が足りてない。走るのが必要かって?当然だろ、どんな職業であれ逃げる体力と脚力は必要だ。神官と魔術師はヒーヒー言いながら顎が上がって走っている。


「よーし、お前等、今日はもう休んでいいぞ。明日は卒検だ。まあ、落ちても冒険者にはなれるけどな。明日の朝、ギルドの受付前に集合だ。ほら、今日の日当だ。ちゃんと飯食ってよく寝とけ」


「ひぃ~良かった。明日、筋肉痛だったら動けるか心配でした!」


「黙れ!お前は明日の結果次第で、ウジ虫からハエにやっと昇格だ!それまで一言も喋るなカス!」


「・・・酷い」


~翌朝、ギルド前~


「よーし、お前等揃ったな?用意はいいか?小便は?クソは垂れたか?じゃあ行くぞ!その前に、小僧、お前はこれを被れ」


「・・・これは、ヘッドギアっすか?」


「そうだ。本来は兜がいいんだが、まあこれでも運が良ければ死なないだろ。運悪く矢がガードされてない場所に当たって即死するなら、お前はそれまでのウジ虫だったって事だ。じゃあお前等、場所まで案内しろ。俺は後ろから付いて行くから」


・・・実は俺は方向音痴なので、まだこの辺りの地形を把握していなかった。



「ところで、依頼ってどんな内容だ?」


「ゴブリンの棲家になっている洞窟に行って退治しろと書いてあります」


「・・・えぇ~巣穴をやるの?それは面倒だな」


「面倒なんですか?」


「ああ、俺もやった事ない。俺は適当に退治して、素材や体の一部を持って帰る事だけだ。人質は?」


「昨日、村の女の子が攫われてます・・・」


「運が良ければ生きてる。慰み者にされてるだろうけどな。終わったら神官は介抱してやれよ?男より女の方が落ち着くはずだ。体を包むシーツは持ったな?」


「はい、お任せ下さい」


「そうゆう事なら時間が惜しい、仕方ないからズルをする。お前等、目的地まで駆けるぞ。風の加護を使う」


「風の加護?」


「いいから目的地まで走れ」


俺は皆と駆けながら呪文を唱えて風の加護を発動させた。


「うわ?何これ早い!?」

「風の加護の呪文・・・魔法剣士でこんな術も使えるなんて・・・」


「喋るな!そして横を向くな!風で顔を切るぞ!黙って走れ!」


10分で目的地まで着いた。


「お前等、まさか疲れたとか言う奴はいないな?大丈夫か、よしよし。じゃあ、どうする小僧」


「早く女の子達を助けに行きましょう!」


俺はすかさず蹴り飛ばした。


「痛い!?何するんすか?」


「お前、馬鹿だろ?敵の巣穴にいきなり突撃すんの?本当は自殺志願者なのか?死ぬなら一人で首吊って死ね」


「自殺志願者って・・・駄目っすか?」


「よく考えろよ・・・ここは奴等のアパートなんだぞ?何匹いるか分かってる?20匹以上はいるんだぞ?まさか、ゴブリンが一体一で戦ってくれるとか思ってる?普通は2~3匹でいきなり飛び掛って来るからな?リーダー格は上位種だし罠だってあるだろ。考え無しは冒険者に向かないぞ」


「じゃあ、どうするんですか?女の子達が!」


「女々ってウルサイな・・・お前の女達が先に死ぬぞ?ちょっと待ってろ。おい、ロープ出せ」


コイツの女なんかじゃないと、女の子達がブツブツ文句を言うが無視する。


俺は冒険者ツールからロープを取り出させて、入り口の左右に小僧とポニーを配置させて、ロープを見えなくするために浅く埋めさせた。


「よし、これでいい。俺が合図したらロープを引け。タイミングを間違えるなよ?」


そう言って俺は、ポニーの棒で洞窟の入り口をゴンゴンと叩きだした。


「ちょっ?来たのがバレちゃいますよ?」


「・・・馬鹿言ってんじゃねえ、入った瞬間に侵入者が来たのなんてバレるんだよ。黙って見とけ」


来たな・・・


「いいか、合図したら引け、3.2.1.今!」


俺の合図で引かれたロープが先頭のゴブリン二匹を転ばす。すかさず、ソイツらの頭を棒で潰す。残り2匹・・・


「よし、お前等で一匹ずつ片付けてみせろ」


「アタシが一人でやってみせます!」


「お?やる気満々だな。いいぞ、やってみせろ」


ポニーは襲ってきたゴブリン二匹を蹴りとトンファーでアッサリと倒した。うん、コイツは出来る子だって知ってた。


「よしよし、じゃあもう一回、同じ事をやる。今度は俺とポニーでロープ引くから、小僧一人で倒してみせろ。いいな?」


「任せて下さいよアニキ!」


・・・誰がアニキだよ。小僧は俺の真似して盾でゴンゴンと洞窟を叩きだした。


「来ました・・・3.2.1.今!」


俺とポニーがロープを引くと、三匹のゴブリンが倒れた。それをポニーがトンファーで頭を潰す。俺が倒れた一匹を蹴り飛ばすと、10mくらい飛んで動かなくなった。


「よし、三回目は流石に引っかからないから中へ・・・どうした?」


小僧が洞窟の中を睨みながら剣を構えて後ずさった。その前から一際大きい影がのっそりと姿を現した。


「ホブ・ゴブリンか・・・小僧、下がってろ。お前にはちょっと厳しい相手だ。連れの二匹をやれ、ホブはポニーやってみせろ」


俺はポニーに棒を渡すと、ホブゴブリンの肩を目掛けて叩きこんだ。が、逆に棒を捕まれて振り回されて、壁に激突した。


「ああ、駄目か・・・」


俺はホブゴブリンに向けて歩いて行くと、持っていた棍棒で殴りかかってきた。俺はそれを難なく避けると、ローキックを食らわせる。俺の蹴りを食らったホブゴブリンの足は折れて骨が向き出しになった。


「ぐるぁああああああああああ」


「うるさい」


俺はのた打ち回るホブゴブリンの頭を踏み潰すと、ポニーへ近付いていって具合を見た。小僧を見ると苦戦していたが、何とか二匹倒せたな。


「具合はどうだ?どっか折れたか?」


「いえ、大丈夫です・・・っ」


受身が取れずに肋骨逝ったか・・・俺は神官に命じて、治癒の術を掛けさせた。これは術が必要な怪我だ。


「フゥ・・・助かったよ。ありがとう、それにしても御堂さん、凄いですね・・・蹴り一発であんな太い足の骨が折れるとか・・・」


「フン・・・あんなの大した事ねえ。だが、お前等さっきので全滅してる可能性もあった訳だ。分かるだろ?研修が必要だったって事が。たかがゴブリン相手でも想定外の事は起きるんだ。これで半数近く減っただろ。中で囲まれる心配は半減した。いよいよ、お宅拝見だ。先頭は小僧、次に俺、魔術師、神官と続いて、殿はポニーな」


「それと中で棒は振り回せないから、ここに置いていけ。トンファー使えトンファー」


俺達はそのまま中へと進んだ。途中で何度かゴブリンと遭遇したが、主にポニーが、そして小僧は三匹倒した。まあ、こんなもんだろう。そして最深部へと到着した。待っていたのは・・・


「ホブ・・・まだ居たのか?良かったな。術者じゃなくて」


俺が歩き出すと、小僧は俺の前に出た。


「俺に・・・やらせて下さい!」


「いいだろう、やって見せろ。魔女っ子、呪文で援護を忘れるなよ?隙があったら撃て、俺は残ったゴブリンを片付ける」


小僧は突進してホブへと斬り付けたが、棍棒で弾かれる。だが、何とか踏ん張って体制を立て直す。そのまま振りかぶって振り下ろされた棍棒をバックラーで受ける。


「グッ・・・?」


「踏ん張れ!まだ負けてない!心で負けるな!」


俺はゴブリンを片付けながら小僧を叱咤激励する。その一撃を受けきった小僧は剣で足を斬り付ける。


「そうだ。一撃で倒そうと思うな!奴の動きは遅い!懐へ踏み込めば棍棒は振り回せない!」


小僧は俺の助言通りに、一撃をかわすと、距離を詰めて脇腹を斬り付ける。


「避けて!フレア・アロー!」


魔女っ子の放った炎の矢がホブの顔面にクリティカルヒットする。その隙を逃さずに、小僧の剣はホブの喉を

刺し貫いた。


「ハァ、ハァ、ハァ・・・やれた?」


「ああ、よくやった。戦いには技術だけじゃなく気持ちで負けないことも大事だ。魔女っ子もよくやった。見事な魔法だったよ。」


彼女は恥ずかしかったのか、帽子で下げて顔を隠した。なんだ、キツい顔して可愛いとこあるじゃないか。


「人質は・・・」


俺が辺りを見回すと、神官が人質の娘達を救助していた。汚されてはいたが、命に別状はなさそうだな。


「よし、お前等、任務達成だ。その子達を村まで送って行く。もうゴブリンはいないから小僧が先頭で行って、後はそれに続け。娘さん達は俺が抱いていく」


俺は神官に介抱されていた娘を抱き上げると、小僧達の後に続いた。


「火界より来たれ炎の精霊・・・燃え上がり柱となれ。フレイム・ピラー」


俺は背後を全て焼き尽くした。跡形も無く・・・


「呪文?何故・・・?」


俺はそれに答えずに、そのまま歩いた。



一同:カンパーイ!


「よーしガキ共!今夜は俺の奢りだ!好きなだけ飲み食いしていいぞ!」


「やった!」

「いつもゴチそうさまです!」


「よくやったぞ、これでお前等は童貞と処女ではなくなった。明日からはちゃんと自分達だけでやれ、いいか?慎重さを忘れるなよ?準備も怠るな。ヤバいと感じたら撤退しろ。死ななきゃ次があるからな。


それと、ギルドのお姉さんの言う事を聞くんだぞ。無理っぽいって思われてたらその依頼は止めろ」


「アニキ・・・短い間だったけど、ありがとうございました!」


俺がいつからお前のアニキになったよ・・・まぁいいか・・・


「あの・・・お城へ時々、遊びに行っていいですか?あ、でも、お城へ戻ったら領主様?」


「いつでも遊びに来い、俺はどこだろうと冒険者だよ、お前達の御堂さんだ。困った事があれば相談に乗るぞ」


「おいポニー、小僧を頼むぞ?ソイツは無茶をするタイプだ。お前がしっかり尻に敷け」


「私達はそんな関係じゃありません!カイルは只の幼馴染!それと、私はポニーじゃなくてユミって言います」


「俺に名前で呼んで欲しけりゃ、もうちょっと成長しないとな。色々な所が・・・」


俺はニヤニヤしてポニーの身体を下から上まで舐め回すように眺めた。ユミは慌てて身体を抱きしめるように隠す。


「フン・・・冒険者の処女は卒業しても、処女の卒業は当分先だな」


「御堂様は処女の若い娘が好きなのですか・・・?」


・・・え?俺は後ろを振り向くと、ネイアとレインが居た。


「えっと、お前等なにしてんの・・・?」


ダークエルフとエルフを初めて目の当たりにした周囲の者達は、彼女達の美しさに目を奪われていた。


「・・・これが女って奴だ。精進しろよ。で、お前等どうしたの?」


「御堂が最近、すぐに城から居なくなっちゃうし、今日で訓練終わりなんでしょう?様子を見に来たのよ。その様子だと、大丈夫だったようね」


「・・・当たり前だろ?俺が指導したんだぞ?初戦で死ぬようなヘマさせるかよ」


「流石です御堂様。それで、どの娘が好みなのですか?」


「特に好みはないが、そんなに聞くなら今から誰か口説いてみようかな・・・」


「お願いですから止めて下さい、どうしても気になってしまっただけです」


「ん~御堂さんがどうやって女の子を口説くのか、ちょーっと気になるなぁ」


ユミがニヤニヤしながら、手を組んで顎を乗せながら俺を眺めて笑った。


「そうか?じゃあ、一杯引っ掛けたら二人っきりで俺の部屋へ行くか?明日には色気が付くかもしれないぞ?」


「何でユミばっかり・・・」

「ちょっとアニキ!」」


「お?小僧、異議アリか?口説くなら早めに誰にするか決めておけよ。おい魔女っ子、自分が口説かれたいのか?ならそう言えよ」


「俺は小僧じゃなくてカイルですよアニキ!」


「それなら早く小僧を卒業しろ。それと、前衛での盾はお前だけだ。両手剣で戦うのは中級冒険者まで我慢しろ。今日の報酬でバックラーじゃなくて、ラウンドシールドを買え。一人前になるまでは、生き残るのが先決だ。前衛が死んだら後衛も死ぬ。お前はPTの皆の命を預っている事を絶対に忘れるな」


「前衛は盾だ。敵が多い時、手強い敵がいる時に前衛は時間を稼げ、敵の数を減らすのは後衛の魔術師の仕事だ。それと、小僧は頭悪いから、お前が参謀役になって色々考えてやれ」


そう言って俺は魔女っ子を見つめる。彼女は視線を逸らさずに真っ直ぐに俺を見返してきた。決意に満ちた良い目だ。


「私の役目は・・・?」


「お前は小僧を監視しながら敵を減らせ。攻撃力の低い武道家なんて意味ないだろ。多勢を相手にするための棒術だ。今日の戦いで分かったと思うが、只の棒じゃ攻撃力が弱い。ゴブリンやコボルトならそれでいいが、中に細くていいから鉄の芯が入った棒に変えた方がいいな。そうすれば、敵の剣を受け止めても大丈夫だから」


「じゃあそろそろ・・・お前等も明日早いだろ?適当に切り上げろよ。じゃあな」


そう言って俺はテーブルから立った。


「私はニアです!忘れないで覚えておいくて下さい!」

「わ、私はネルです!」


遅れて名乗った魔女っ子と神官に背中を向けながら手を振ってギルドから立ち去った。


「いい子達じゃない、懐かれたわね」


「・・・ああ、奴等が死なない事を祈るよ」


本当に、誰も死んで欲しくないな・・・俺は少し酔った頭で星空に願った。


「御堂さんって、格好良いわよね・・・」


そう呟いてニアは御堂の後姿を見つめた。


「うーん、御堂さんは絶対モテるわよ?私達なんか相手にされないよ。女好きそうだし、ねぇ?」


「わ、私にはわかりません・・・」


「そりゃ、一級冒険者で領主だぞ?背は低いけど顔も良いし・・・俺が見込んだアニキだからな。女が放って置くかよ。それに連れてた姉さん達見ただろ?」


「ああ~ エルフさん達、あれは別格ね。もう同じ生物とは思えない美しさだったわ。張り合う気も起きない・・・」


「私は・・・負けない!」


そう言ってニアは一気にジョッキを飲み干した。パーティの皆は報われぬであろう恋を心の中で応援した。



「おはようございます。魔導師協会から派遣されてきた仕官希望者の方々がやってらっしゃいました」


お?やっと来たか!まあ、すぐに手配されるとは思わなかったけどさ


「何人来た?」


「7名です」


・・・10人くらいって言ったはずだが、まあいいか、俺は会ってみる事にした。


「よぉ、よく来てくれたな。俺は御堂龍摩だ。冒険者と、ここらの領地の領主をやってる」


俺は挨拶をしながら、その七人を眺め回した。・・・普通っぽくない連中だな。結構個性的って言うか・・・


「魔導師協会より要請を受けて、子爵様に仕官するべくやって参りました。以後、お見知りおきを・・・」


連中はそう言って頭を下げた。


「ああ、評議長のシレーヌだったよな?うん、頼んでおいて良かったよ。俺の配下には魔道戦力が少なすぎるから急務だったんだ・・・どうした?」


「いえ、配下の方々が・・・人間が少ないように見受けられますが・・・」


「居ないな」


「え・・・?」


「人間が、俺しかいないんだよ・・・」


「それは、どうゆう事でしょうか?」


俺はこれまで経緯を彼等に話して聞かせた。元々が冒険者から始まって、ヴァネッサ、金銀エルフ達とのいざこざから金エルフは居候、銀エルフ達は仕えてくれた事。そして、以前の領主は反逆罪でギロチンに掛けられた事と、その兵達は反逆に気付かない無能達だったから全員解雇した事


そして獣人達の村を訪れてからの、数人腕の立ちそうな奴を雇用したらどんどん増えて行った事。そして遺跡探索で悪魔に捕まってた天使を助けたら居座られた事、悪魔は使い魔にしてみた。


更に、古代の対天使・悪魔兵器の人造人間達が俺に仕えると言い出した事・・・


「随分と長くなっちまったが、これで大体全部かな。だから人間が俺しか居ないんだ。幻滅したか?」


魔術師達:・・・・・・・・・・・キャッホーーーー!!!


「なあなあ、シレーヌの話しから色々想像したけど、この子爵様って面白いよね?」

「ああ、聞いていた以上だ。こりゃあ皇帝陛下の宮廷魔導師断って正解だったろ?」

「普通に貴族に仕えてアクセサリーみたいに、ただ傍に控えてるだけとか、残りの人生を老人になるまで無駄にするのかと嘆いていたところだ」

「アタシは誰でも良かったけど、お爺ちゃんはちょっと・・・」

「これはやり甲斐あるわね!」

「私達の部屋は何処でしょう?部屋割りを早く決めよう」

「待て!一番に決めるのは私だ!」


俺:・・・・・大丈夫か?コイツら・・・


「おおい!お前等帰って来い!俺の話しを聞けよ!?」


「領主様、いきさつは一語一句漏らさず聞きました。もう面倒な話しは抜きでいいのでは?あ、申し送れました。私はジェランデと申します」

「アタシ、アイシャ~」

「ラルバよ。ヨロシクね、領主様♪」

「私はゴルダンと申します。筋肉はお好きですか?」

「私はネーレ、美しい物を愛でます。男も女アリです」

「・・・オランドだ(ぼそり)」

「リューレです。早く部屋を決めて欲しいのよねぇ」



「・・・バトラー、早くこのやかましい連中の部屋を決めてやってくれ。そしたら一人ずつ面接だ!使えない奴は放り出す!」


それから俺はこのイロモノ連中の面接を一人ずつ開始した。魔術の知識や魔力量の査定(推定)得意な魔術や聞いていない食い物の好みや男(女)の好みまで勝手に語り出す奴までいた・・・


しかし、俺は初見で気付いた。コイツらは、色々と面倒そうだが並みの魔術師じゃないって事にだ。感じる魔力がかなり高い、一般的な魔術師達の数倍以上か?それに、見た目通りの年齢じゃないかもしれない・・・


「よし、全員採用!揉め事は起こすなよ?バトラー、給料を前払いで支給してやれ。金渡すんだから、しっかり働けよ?」


俺は事前に給与の額を決めていた。力量を上・中・下の三段階に想定して、バトラーには上の金額を指示していた。


「これはこれは・・・私達は長らく仕官していなかったので、先にお給金を頂けるのは助かります・・・ほぅ、こんなに頂けるのですか?」


「後はお前等の働き次第だな。能力が高くても、役に立たない奴もいる。働き次第で給料上げてやるよ」


「・・・私達をお試しになる?」


「そうだ。能力に胡坐を掻いて、働かない実力者とか置物以下だからな。そんな連中、民の税金で雇用する価値あるか?」


「道理ですね。私達が働ける人材だと、証明する機会があれば良いのですが・・・」


「沢山あるぞ?ルード、コイツらをお前に預ける。仕事を割り振ってやれ」


「仰せのままに・・・」


ルードは七人を静かに見据えた。彼等は内心冷や汗を掻いた。自分達以上の魔力を持つ者には久しく出会っていなかったからだ。


「笑ったり泣いたり、出来なくしてやってもいいからな?言う事を聞かないようなら・・・」


「問題ありません。私の言葉は御堂様のお言葉と、彼らもよく分かっていると思います」


ルードは、外見自体はそれ程、特筆するような容姿はしていない。しかし、見る者が見れば、彼女が化け物と形容するに足る存在なのが分かる。


「アタシ達、就職先を間違えたかしら・・・」


「お前達は数少ない人間の家臣になったんだ。死ぬんじゃないぞ~?」


俺はニヤニヤしながら七人の新たに雇用した魔術師達を冷やかした。


「主様、ただ今戻りました」


「あ?カゲミ?遅かったじゃねーかよ!で、エクレアさん達は?」


「もう来てますよ。御堂さんお久しぶり♪子爵様と呼んだ方がいいかしら?」

「御堂様久しぶり!会いたかったよ!」


「え・・・?直接来たの・・・?って事は」


「はい、この街で開店させて頂く事にしました。店の子達も、全員着いてきてくれたんですよ?」


「やったぁあああああああああああああああああ!小箱亭が復活だ!すぐに案内するよ!」


俺はエクレアさんとクレアちゃんと伴って街の小箱亭予定地へと向かった。


「小箱亭より少しだけ広いんだ。調理品や道具は全て揃ってる。食材は流石に買ってなかったから、市場へ行って仕入れてくれる?あとこれ、開店資金ね。金貨100枚」


「金貨100枚?そんなに頂く訳にはいかないわ。道具も場所も提供して頂いたのに・・・」


「これでも少ないくらいだ。辺境区のカーレから、ここまで来て貰ったんだから。店は仕舞って来たって事でしょ?」


「ええ・・・色々と思い出はあるけれど、私も吹っ切らないとね!誘ってくれて本当にありがとう」


「よく、下働きの娘さん達も付いて来たね」


「みんな、まだ若いから辺境より都会が良いそうよ?」


「ここ、帝都から近いってだけで都会ではないんだよねぇ。でも、客は入るよ。間違いなくね。俺の部下達だけで埋まりそうだよ。ああ、俺の部屋は一つ永久確保しておいて!」


「はいはい、畏まりました。領主様♪」


「今日は休むとして、うちの獣人を何人か貸すから広場での買い物に使うといいよ」


「それは助かるわ。まだ材料の手配を市場の方々としていないから」


「うんうん、後で市場に使いを出しておくよ。俺からの推薦状も渡す」


「至れり尽くせりねぇ。本当に申し訳ないわ・・・」


「いや!俺達には小箱亭が必要だったんだ!エクレアさんの料理と、小箱亭の雰囲気こそが俺には・・・」


俺は軽く涙ぐんでいた。こっちに来てから納豆や和風料理も食ってない。味噌汁とお新香が懐かしい・・・


「あらあら、じゃあ出来るだけすぐに開店するようにするわね」


「うん、本当にお願いします・・・小箱亭を知ってる古い連中は、みんなこの事を知ったら大騒ぎよ?休んでる暇がないくらい繁盛するから。だから雰囲気を壊さない範囲で、少しだけ店を大きくしたんだ。部屋数も増やした。俺が育てた新人冒険者チームがあるんだ。ソイツらもここに泊まらせるよ。奴等、喜ぶだろうな・・・」


「フフフ、子爵様になっても御堂さん、変わってないわね」


「そりゃ、半年程度で何も変わらないよ。今でも現役の冒険者よ?冒険者止めるつもりないし。じゃあ俺はちょっとまだ仕事が残ってるから、今日はこれで失礼するね!開店したら報せて!」


俺は手を振って小箱亭を後にした。久しぶりの吉報だ!只の冒険者やってた頃を思い出して口元が自然に綻んだ。



俺の城に突然の珍客が現れた。そう、以前に護衛任務を引き受けた事のあるティモシエール子爵と娘のクレアさんだった。


「やあ御堂君、突然の来訪ですまなかったね」


「父上!御堂様は父上と同じ子爵ですよ?」


「おっと、そうだった。御堂子爵殿、失礼しました」


「あ~止めてくれ、俺は御堂でも龍摩でも構わないが、子爵って柄じゃないんだ。皇帝との約束で、貴族活動はしなくていいって言われてるから、今でも冒険者として扱ってくれた方が嬉しいよ。それにアンタとは親子程、歳も離れてる」


「はっはっは、君は変わらないねぇ。では以前のように御堂君と呼ばせて頂くよ」


「で、今日は遊びに来たのか?歓迎するよ」


「ああ、クレアが君に会いたがっていてね」


「お父さん!?」


この親子は、貴族ではあるが、親子仲を見ていると普通の家庭の親子のようで微笑ましい。


「そうかそうか、クレアさんのような可愛いお嬢さんが会いに来てくれるなら、尚更歓迎するよ」


彼女は顔を赤くして俯いた。そうそう、俺はこうゆう恥らう女性をいじるのも大好きだ。


「領地がもっと近ければなぁ、そっちとこっちじゃ領地の雰囲気は全然違う?」


「いや、余り変わらないね。私も君も子爵に過ぎない。大都市を任されている訳じゃないから、何処も似たりよったりだね。それより、大活躍のようじゃないか、帝都の貴族達の間で噂になっているようだよ」


「以前から、吸血鬼やエルフ達を配下にしてるから、そっちの事か?それとも皇帝の護衛の件?」


「両方ですわ。皇帝陛下をお守りした赤い剣士・・・そしてエルフを従えた赤い英雄・・・吟遊詩人の歌になっています」


「またか!吟遊詩人って奴等は勝手に人を歌にして稼ぎやがる!印税を請求するかな・・・」


「だが、どちらも本当なのだろう?」


「嘘ではないな。ほら、エルフだらけだろ?ああ、ダークエルフもいるし、最近じゃ獣人が増えた。人間の部下は最近雇った魔術師達だけだ・・・」


「そうだね。大貴族がどれだけ望んでもエルフ達は靡かない。君に嫉妬している大貴族もいるだろうね」


「それなら冒険者になれ冒険者に。貴族なんかじゃエルフと知り合う機会なんてないから」


「ところで、御堂君・・・今日は子爵となった君と友誼を深めるために訪れたのは嘘ではないのだが・・・実は君に相談があって来たんだ」


「相談?何か困りごとか?」


「私達の領地で、怪事件が起きているんです・・・」


そう言って、二人は領内で起きている不可思議な事件について語りだした。人々が何者かによって攫われている。そして盗賊や人身売買等の人の手によるものとは思えない。冒険者すら行方不明になっていると云う噂すらあるらしい・・・


「ちょっと待ってくれるか?」


そう言うと、俺は懐から通信宝珠を取り出して、ギルドへと通信してみた。


「御堂さん?どうなさいましたか?」


「すまん、ギルド長へと繋いでくれるか?」


「少々、お待ち下さいね」


「はい、アーノルドです。御堂様どうかなさいましたか?」


「ああ、今、東の領地のティモシエール子爵が遊びに来てるんだが、領地で失踪事件が起きてるらしい、何かそっちに情報は入ってないか?」


「はい、失踪事件が起きているという報告はギルド全体に通達があるようです。私は詳細については存じ上げておりませんが・・・」


「このまま、ティモシエール子爵領のギルド長とも通信は可能だよな?ちょっとこの場に呼んで貰えないだろうか?」


「可能です。少々お待ち下さい・・・」


そこで二分程待たされて、ティモシエール子爵領のギルド長の姿が別画面に浮かんだ。


「お初にお目に掛かります。御堂子爵様、私はフランの街のギルド長をさせて頂いているランバートと申します」


「ああ、初めまして。今、ティモシエール子爵からアンタの所で起きてる事件について、相談を受けてるんだが・・・詳細は話せるか?俺は一級冒険者だ。部外者じゃない」


「畏まりました。確かに失踪事件が起きていて、ギルドもどう対応したらいいのか協議中なのです」


フランの街のギルド長の報告では、失踪者17名、そして、驚いた事に中級冒険者まで襲われて、どうやら全滅したらしい・・・


「中級冒険者が全滅か・・・それは大事だろう?逃げる事すら出来なかったって事だぞ?現場の状況は?」


「死体が幾つか残っていました。殺害された遺体を調べたところ、斧や鉈のような切れ味はあまり鋭くない武器で斬殺されています。消えているメンバーもいるので、全滅かどうかは・・・」


「死んでるだろ。複数による犯行か?」


「・・・いえ、恐らくは単独犯です」


「根拠は?」


「争った相手の足跡は一つです。それと、不審な者の目撃情報があるのですが、なにぶん子供の情報なので、信じて良いのか・・・」


「どんな奴だって言ってるんだ?」


「姿は大男で、蝙蝠のような羽を生やして、物凄い速度で飛び去ったと・・・」


「悪魔っぽいな。だが悪魔じゃない、悪魔はそんな殺し方はしないな。シビウ、いるか?」


「はい、御身の前に・・・」


突然姿を現した妖艶な女の登場に、皆は驚いたようだ。


「コイツは悪魔だよ。俺の使い魔のシビウだ。話しは聞いていたよな?どう思う?」


「主の仰る通り、悪魔の仕業とは思えませんわ。私の感想を言うなら、人間達が怪人と呼ぶ者ではないかと・・・」


「怪人・・・」


クレアの独り言かもしれない呟きに俺が答えてやった。


「怪人ってのは、人型のモンスターで、人間でも亜人種でもない既知の存在とは違った突然変異のような単体で正体不明のモンスターの総称なんだ。怪人か・・・中級冒険者のPTを壊滅出来る奴となると厄介だな。人を攫うのは、繁殖のためか、食うためか・・・いずれにしろ放置はしてられないだろうな」


「人を攫っているとしたら、隠れ家があるはずだ。そこを探し出して叩くのが一番なんだが・・・心当たりは?」


「申し訳ありません。全く見当が付きません・・・」


「探すとなると、人手が必要になるな。山狩りのように大人数でやる事になるが、可能か?それと、上級冒険者が居た方がいい。手に負えない奴だった場合、皆殺しにされる可能性もある。一匹じゃないかもしれないし」


「御堂君、私の領内には一級冒険者は居ないんだ」


・・・それだとキツいな。一級冒険者が不在となると、確実に倒せそうな奴がいない。


「やれやれ・・・それなら、俺が行ってやるよ。ちゃんと報酬は出せよ?俺は冒険者だからな。報酬とは別途に、そうだな。クレア嬢と一日デートさせてくれ」


「っ!?」


「ははは、それはいいね。クレアも喜ぶだろう」


「シビウ、お前も行くか?」


「主の行くところ、私は何処までもお供致しますわ」


「エルザを呼んでくれ、他にダークエルフを3名連れて行く、男も同伴させろ。ネイアとライザは連れて行かないように言っておいてくれ」


「獣人達もお連れにならないのですか?」


「ああ、これは凄惨な場面を見る事になると思う、心に消えない傷跡が残る。彼等はまだ若すぎる」


「なら、私だけでもお連れ下さい」


「ジャジュカ、居たのか?しかし、相当惨い死体を見る事になるぞ?」


「相手の居場所も分からないのでは、獣人の鼻はお役に立つと思います」


「・・・やはり駄目だ。どうしてもと言うなら、ザヒネを連れて行く。彼女は弓も得意だと聞いている。彼女にヴァルド鋼の戦鎚と弓を持たせて城門で待機させてくれ」


ジャジュカは片膝を折って頭を下げた。


「ティモシエール子爵、行こうか・・・アンタらは、この件が片付くまで絶対に屋敷から出ないようにしてくれ。番兵には屋敷だか城だかの警備を厳重にさせておくように」


「御堂卿の言う通りにしよう」


俺達は久々に、荷馬車を使って移動する事にした。エルフ達には普通の槍も持たせる事にした。相手の正体が分からない以上、距離を取って戦わせたいからだ。ダークエルフにはヴァルド鋼の武器は持てない。


「これがヴァルド鋼の戦鎚ですか~ 重たいですね。御堂様、ありがとうございます」


「槍以外の武器って、戦鎚、戦斧、ハルバートくらいしか思いつかなかった。戦鎚使う奴が居なかったから、お前とジャジュカには戦鎚を持たせようと思ったんだ。」


「ジャジュカも喜びますよ」


「君達、全く緊張していないね・・・」


ティモシエール子爵とクレアは、何故か自分達が乗ってきた馬車ではなく、こちらの荷馬車に乗ってきた。狭いのに・・・物珍しいのかもしれない。


「こっちは命張るのが仕事だからな。相手が何であろうと、もう慣れてる。一杯やるか?おい、ワインでも開けろ」


「昼間からお酒を飲むんですか?」


「うちの連中はね・・・それに、向こうに着くのは夕方になる。それまで退屈だ。酔っ払わない程度に飲んで行った方が旅も楽しい」


実はこの荷馬車の馬に似た魔物は言葉が分かる。だから御者はいらないんだ。ティモシエール伯の馬車に付いて行けと命じたら御者無しでも勝手に命令を聞いてくれる。


「ほぅ、これは良いワインだね。クレアも飲むかい?」


「頂きます。良い香りですね」


「実はさぁ、俺ってワインとか甘口じゃないと本当は飲めないんだよね。甘口って少ないから仕方ないから飲むけどさ。果実酒はみんな、甘口じゃないと飲めないんだ。シェリー酒とかシードルとか」


「子供が甘口のワインをお湯で割って飲んだりしますね」


「そうそう、割っては飲まないけど、あんな感じ。そう言えば、俺の行きつけの宿屋の娘もクレアって名前なんだ。まだ小さいが将来は美人さんになるだろうな・・・」


「お食事なさるんですか?私も行ってみたいです」


「来るといいよ。カーレで行きつけだったのを、わざわざこっちへ呼び寄せたくらいだから」


俺達は酒をチビチビ飲んで談笑しながら、ようやくフランの街へ着いた頃には夕方近くなっていた。俺はそのまま彼等を館へと送った後にギルドへと向かった。ギルドでは俺の来訪を心待ちにしていたようだ。ギルド長は外まで俺を出迎えて、執務室まで案内してくれた。


「遠いところ、わざわざ来て頂いてありがとうございます。ロード・御堂」


「ロード?ああ、子爵で領主だからか?俺は冒険者としてここに来ているから冒険者として扱ってくれ。正直、自分の貴族としての地位は嫌いなんだ。だって、皇帝はまぁ良いとしても、俺より偉いって奴が伯爵、侯爵、公爵と居るんだぜ?冒険者になる奴は、生まれつき偉い奴等なんて大嫌いな連中の集まりみたいなもんだろ?頼れるのは自分の腕と仲間だけだ。違うか?」


「・・・まさしくその通りですな。宜しいでしょう、では上級冒険者、御堂殿。状況は更に悪化しました。被害者は48名まで増えました」


「17名から48名だと?何があった?」


「小さな集落が襲われました。そこに住んでいた者達は全滅です・・・」



その大男は暗闇の中で女を犯していた。女は既に事切れている。殺してから犯したのではないが、犯している間に死んでしまったのだろう。どうでも良かった。他にも女は取っておいてある。この女の身体が冷たくなる前に食って、別の女を犯せばいい。


最初は、ただ殺して食うだけだった。しかし、ある時に性別の存在に気付き、自分が雄である事、そして雌が存在する事を思い出した。生殖行為は繁殖のためであるが、その男の目的は繁殖のためではない、ただ快楽を求めるためだ。そして女の肉は食えば男よりずっと軟らかくて美味い。


その怪物は地中で生まれた。遥か遠い昔に地中で生まれ、育ち、今の姿になったので地中から獲物を求めて出て来たのだ。最初は人の形をしてはいなかった。人が見れば何かの幼虫だと思う姿から始まり、次に蛹、そして今は人型を得た。


・・・女の肉から熱が消えてきた。冷えるまでに食って、攫ってきた次の女を犯す。もう男は見つけ次第殺して、攫うのは女だけにしている。小さな獲物もいる。まだ小さいが、食えば軟らかく美味い。自分の体はまだ成長する。もっと肉が必要だ・・・


犯していた女を食い始め、次の女を引っ張り出す。最初は泣き叫んで助けを呼んでいた女達だが、凄惨な光景に正気を保っている者は少ない。怯えている女を見るのが好きだった。自分がどんな目に合うかを理解してない壊れた肉の味は半減する。それでも、せっかく獲って来た獲物だ。犯して食う事には変わりはないが、もっと沢山の肉が必要だ!



俺とギルド長は地図を広げて、人が襲われた場所から何処に潜んでいるかを探そうとしていた。


「生物である以上、水が必要だ。必ず水辺の近くに居るはずだと俺は思う。もし川や湖の近くに住んでなかったとしても、網を張っていれば必ず来る」


「しかし、水辺の近くと言っても広すぎます」


「だから範囲を狭める。人の多くは川の近くに街や村を作るだろう?この街だって川からは近い。襲われた村から一番、川から近い村を探す。今から向かう」


「今からですか?それは危険です。夜になれば、他のモンスターも現れます」


「じゃあ今夜は一杯引っ掛けて宿屋で寝て、そして明日の朝に、また数十人の犠牲者の報告を聞くか?」


ギルド長は俺の言葉に俯いて唇を噛んだ。


「・・・すまん、悪気があって言ってる訳じゃない。アンタも夜間行動の危険さを知っているから忠告してくれてるのも分かるんだ。ただ、時間が惜しい・・・ソイツが偶然、俺の目の前に現れるのを待っていたら犠牲者の数は100人を軽く超えているはずだ。だから、無駄だろうが何だろうが探し出して始末する」


「分かりました。もう少し範囲を絞りましょう」


「当然だ。今まで襲われた場所の近くに廃墟とか無いか?山小屋でも何でもいい、死体を置いておく場所が必ずあるはずだ。キーワードは水辺から近く何人かを隠しておける建物か洞窟か・・・」


「・・・洞窟?そうか!何故思いつかなかった!」


「あるのか?」


「はい、既に廃鉱になって久しい鉱山跡地があります。川からも比較的近いので、そこかもしれません」


「地図で言うとどの場所だ?」


ギルド長はそ廃鉱の場所を指指した。


「最適な場所だな。探ってみる価値はある」


「すぐに冒険者達を集めます」


「いや、俺達だけで行く。万が一、ソイツが他の村やこの街を襲ってきた場合、どうする?この街には上級冒険者も居ない。中級冒険者を倒せる怪物なんだぞ?ここには戦力を集中しておかなければならない」


「危険です!それに、貴方達だけに任せておくのは、この街の冒険者ギルドとしての面目が立ちません!皆も気が立っています!」


「俺はこの前、一人でマンティコアを三匹倒した。だからどうだって事もないが、今日は仲間も連れてきてるし、負ける事はないだろう。今、最も重要なのは、これから犠牲者を出さない事だと思うが?」


「・・・分かりました。御堂殿にお任せします。道案内を一人、用意します」


「それは助かる。俺は方向音痴なんだよ。仲間に廃鉱まで連れて行って貰おうかと思っていたところだ」



ギルド長は俺の言葉に、自分達を気遣ったジョークだと思ったようで、少し唇に笑みを浮かべたが、それは冗談でも何でもなく、俺は本当に方向音痴だった。


俺達は休む間もなく、廃鉱へと向かった。


「御堂様、この作戦からライザを外して頂いてありがとうございます」


いつも俺の後方を歩いているライザだが、今回は馬車で子爵達も居ないので俺の隣に座っていた。


「・・・こうゆうのは大人の仕事だろ。彼女達の腕には何の心配も無いが、汚れ仕事やこういった仕事は、まださせるには早いと思った」


「同感です。ライザはまだ精神的に子供な所がありまして・・・」


「お姉ちゃん子だもんな。身体だけは立派に育ってるが」


俺は笑った。ライザはすぐに姉さん姉さんだ。まだ一人立ち出来てない。でも甘える存在ってのは大人だろうと子供だろうと必要だとは思うけどね。


「ネイアは御堂様が命じれば何でもするでしょう」


「だからだよ。自分でも気付かないうちにストレスが溜まって、いつか壊れる。こっちが壊れないように使ってやらないとな」


「なあ、そう言えばネイアってどうしちゃったの?いきなり俺に猛烈な求愛行動するようになったんだが・・・元々、あんな子だったの?見た目と普段の言動とのギャップが凄すぎる・・・」


「わ・・・私にも何とも・・・ただ、ネイアにとって御堂様は初恋の相手なのでしょう。仰る通り、私にもあれは予想外でした」


「そ、そうか・・・付き合いの長い銀エルフから見ても予想外だったのか。なら仕方ないな」


「ネイアはダークエルフの中でも美しい娘です。御堂様のお好みには合いませんか?」


「そんな事は断じてない」


「でしたら、夜伽を命じれば宜しいのではないでしょうか?ネイアもそれを望んでいますし、抱いて頂ければ落ち着くかもしれません」


「なんかさぁ、上司の立場を利用してみたいな気になって部下を抱くのって嫌なんだよ・・・」


だから俺は美女揃いの部下達に手を出した事が無い。ヴァネッサくらいだ。あそこまで迫られたら男として拒む理由なんて無い。


「それで、帝都の娼館に通っておられるのですか?」


・・・バレてた!?


「う、うん・・・知ってたのね?」


「御心配なく、私達ダークエルフは御堂様の身辺警護をしているので知っているだけです。勿論誰にも口外等はしません。エルフや獣人達は気付いていないでしょう。ヴァネッサ殿やルード殿達は分かりませんが・・・」


「ああ、アイツらは勘が鋭いからな。まぁ、ヴァネッサの件もその日のうちにバレたし、ヴァネッサは特に気にしないだろう」


「御堂様が、何故部屋に私達を呼ばれないのか分かりません。ダークエルフの容姿がお好みでないのでなければ、夜伽を命じるべきではありませんか?」


「・・・そうゆうのってエロ貴族や大商人とかがやるんじゃないの?お前等は銀エルフの男として、同族の女が人間に抱かれるのをどう思う?」


俺は二人の男の銀エルフへと意見を聞いてみた。


「お好きなだけ夜伽を命じるべきだと思います。万が一、御堂様のお子を身篭ったとなれば、それは大変な名誉となりましょう。お世継ぎの事もお考えにならなければ・・・」


えぇ~・・・世継ぎって・・・俺まだ23よ?この歳で子持ちは早いだろ?


「俺、お父さんにはなりたくないんだが・・・出来れば一生」


「しかし、女を抱いていれば、いずれは妊娠します」


「だから娼館の方が気が楽なんだよ。親としてとか・・・責任とかあるじゃないか」


銀エルフ達は皆、顔を見合わせた。俺の言っている事が分かるか?とお互いに顔色を伺っているようだ。


「失礼ながら・・・御堂様は重大な勘違いをなされているかと存知ます」


「勘違い?俺が?そりゃ異種族間には価値感の相違とかかなりあるだろうけどさ・・・」


「それもありますが、異種族間の間で子は簡単に作れません」


・・・あ、忘れてた。それは誰か言ってたな。


「そうか、じゃあ父親になる可能性はかなり低いんだな」


「はい・・・残念ですが、私達が身篭る可能性は同種族の男と同衾した時に比べれば下がります。それに、私達はエルフ同様、元々が妊娠はし辛いのです」


「そうなの?だから金銀エルフは人口が少ないのかな」


「その分、寿命が長いので人間とさほどには変わらないかもしれません」


なるほど・・・確かに人間の100倍以上の寿命だからな。


「それに、私達は飢える程の状況でなければ、人間程には父親の存在に頼りません」


「じゃあ、どうやって生活を?」


「一族として皆で育てます」


ああ・・・そうゆう考えなのか。


「そうだったのか、人間の一族とか部族の中にも、そうゆう人達は居そうだな。俺の国には無かった風習だけどさ」


「ご不快でなければ、一度私を寝室に呼んで頂ければ、ダークエルフの女にも抵抗が無くなるかもしれません」


「えっ!????」


「お嫌・・・でしょうか?」


「いやいやいやいや!そんなんじゃないよ!ただ、ちょっと・・・すまん。驚いただけだ。突然の事に本当にビックリした。ちょっと考えさせてね・・・」


マジかよ・・・エルザと?考えた事も無かったぞ。超美人だし、そりゃ嬉しいけどさ。やっぱり部下とは・・・迷うな。俺も意気地が無いのかもしれない・・・


「獣人はお嫌いですか?」


「それも無い」


今まで黙っていたザヒネにまでツッコまれた。


「バレてるなら仕方ない。おいお前等、今度俺が帝都の娼館に連れて行ってやるから付き合え」


俺はダークエルフの男二人に声を掛けた。彼等は無表情を装っているが、凄く嬉しそうなのが分かる。


「流石は一級冒険者の一行と言った所ですね・・・これから、未知の相手と戦うと言うのに・・・」


緊張しているのか、御者をやってくれている案内人のレンジャーらしき男が口を開いた。


「こんな会話してて言うのもなんだけど、油断はしてないから安心してくれ。戦いが始まったらなるようにしかならんし、負けるつもりもないからな」


「御堂様、獣人としてどうしても聞いておきたい事があります。ジャジュカも確認しろと・・・」


「え?何を?」


「・・・御堂様は、その・・・動物がお好きだとか?」


皆に緊張が走った。御堂の前で動物の話題はタブーとされているからだ。


「動物が好きなんじゃない、可愛い動物が大好きなんだ」


「私達、獣人には猫種や犬種、狼種と云った様々な種族が存在しています。私は狼種なんですけど、猫種の獣人を見て、可愛いとか思ってしまったりしませんか?」


「思わない」


俺は即答した。


「そ、そうですか・・・」


「何でそんな事を気にするんだ?」


「いえ、どうなのかな~と・・・」


「お前等、耳と尻尾が生えてるだけで猫様になったつもりか?ちょっとはモフってから言え、獣人なんて俺には人間にしか見えん。まあ、尻尾はちょっと可愛いとか思ったりするが・・・とにかく、お前等は特に可愛くない、調子に乗るなよ?」


「・・・酷い」


「女としてなら可愛い」


「・・・嬉しい」


「実は、コボルトがちょっと可愛いかな~って思って、戦いたくなかったりするのが悩みだ。でもアイツら武器持って襲って来るからな。どうしようもない・・・」


「そ、そうですか・・・」


「着きました。ここが廃鉱の入り口です・・・」


「お?着いたか、じゃあアンタは馬車と一緒に隠れててくれ。俺達はお宅拝見してくるわ」


「御堂様、血の臭いと腐臭がします。恐らくここで間違いないと思います」


流石は獣人だな。ザヒネの嗅覚は人間とは比較にならない。聴覚も優れているだろう。


「そうか、警戒を怠るなよ?お前達は目も耳も鼻もいいから俺より早く異変には気付くだろうけどな。前衛は俺とザヒネ、銀エルフ達は後衛だ。進むぞ」


「ハッ!」


俺達は音を出さないように、そのまま進んだ。物音がすれば、それは敵だ。こっちには聴覚に優れた銀エルフと獣人がいる。不意打ちは無理だろう。


暫く進むと、廃鉱の中と外に幾つかの建物が見える。


「ザヒネ、どっちから血の臭いがする?」


「あちらです・・・」


俺達はザヒネの指差した方向へ進むと少し大きめの建物に着いた。ここは鉱夫達の宿舎跡か?確かに広さは充分あるな。それに、ここまで来れば俺にも臭いが分かる程の血臭と腐臭がする。


「エルザとザヒネはここで待機、俺と男二人で中へ入る」


俺は魔力を高めて感覚を鋭敏にした。獣人やエルフには劣るだろうが、それでも並みの人間とは比較にならない超感覚を得られるようになる。


扉を開けて目に入った光景に、俺は自分の心が冷えて行くのを感じた。天井から鎖で沢山の死体が吊るされていた。工場にあるようなフックに体を貫かれて。


銀エルフの男達二人も、この光景には顔をしかめている。俺は中の気配を探るが、敵らしい気配はしない。


「冒険者だ!生存者はいるか!」


俺の声に応じて呻き声がした。生存者がいる?俺は小走りで建物の中に進むと、無残な姿の死体の他に、生存者の女達を見つける事が出来た。良かった。無駄じゃなかった・・・


俺は銀エルフ二人に命じて女達を背負わせると、俺も二人背負った。合計で6人の生存者を救うことが出来た。外に出て馬車まで走ると、彼女達を乗せて先に街へと帰らせる事にした。


「俺達はここで敵を待つ、ソイツは必ずここへ来るだろうからな。気を付けて帰れよ?その馬車で走れば、大抵の奴は追いつけないから安心していい」


「ご武運を・・・」


「おい、その人を送ったら帰って来いよ?」


俺は馬に命じた。こいつらは言葉が分かる。今、敵が外に出ているって事は、また誰か攫ってくるかもしれないからだ。


俺は建物の一つに火を放った。遠くからでも見えるようにだ。早く戻って来い・・・



怪物は村を襲っている最中だった、しかし嫌な予感がしていた。自分の獲物が横取りされるような感覚だ。空に飛びあがって周囲を見渡すと、巣から火の手が上がっているのが見えた。巣が荒らされた!?せっかく集めた肉を横取りされた?誰だ!怪物は怒りに燃えて巣に向けて、凄まじい速度で飛び立った。


「御堂様、あれを!」


ザヒネが指差した方角を見ると、遠くから凄まじい速度で何かが接近してくる。蝙蝠のような翼をはためかせた姿は遠目から見て悪魔のように見える。


「奴か・・・八つ裂きにしてやる」


「御堂様、私にやらせて頂けませんか?ヴァルド鋼戦鎚の威力を試してみたいと思います」


「・・・分かった。抜かるなよ?中級冒険者のPTを全滅させた奴だ」


「お任せ下さい!」


ザヒネはこれから起きる闘争に心が湧き立っているようだ。狼種って言ったな。どうやら戦闘を好む種族のようだ。彼女は飛んでくる影を睨みながら、牙を剥き出しにして凄まじい笑みを浮かべていた。


怪物は俺達の5m程前に降り立つと、こちらを睨み付けていた。黒い肌に、皮のコートを着込んで頭髪は無くスキンヘッド、顔にはバツ印のような跡がある。それ以外の見た目は人間に似ている、手には無骨な斧を持っていた。


怪物は雄叫びを上げながら、先頭に立ったザヒネを目掛けて突進して来た。それに対してザヒネは戦鎚を振りかぶると、奴の胴体目掛けて横殴りに振り下ろした。


ドッグゴォアアアアアア!!


その光景を見た俺とエルザ、二人の銀エルフは呆然とした。


ザヒネの戦槌の先端の両刃が怪物の胴体にめり込み、そしてそのまま口から内臓を吐き出して、まるでムンクの叫びのような姿になりながら凄まじい速度で吹っ飛んで岩肌に激突してクレーターのように跡になっている。


「・・・ドラゴンボールかよ」


怒りに燃えていた俺の心はその光景を見て一瞬にして醒めた。戦いの最中に煙草を取り出して火をつけるという訳の分からない行動に出てしまった。エルザも反射的に精霊術で俺の煙草に火を付けてくれた。


「・・・御堂様!この戦槌の威力は凄いです!」


ザヒネはこちらを振り返って会心の笑みを浮かべた。


「そ、そう・・・?良かったね?うん・・・」


様々な戦闘を見てきた俺や銀エルフ達ですら、正直引きまくっていた。三国志ごっこどころじゃない。目の前でダンプカーに人が跳ねられたのを見た直後のような気分だ。


これやっぱりモンスター相手じゃないと禁止にした方がいいか?人間相手にこんな武器使ったら、人間の友軍からすら恐れられるかもしれない。2mを超える怪物の巨体がこれじゃ、人間なんてザクロになっちまう・・・


「トドメを刺します」


「待て待て待て、トドメって、それで生きてる訳が無いだろ・・・」


俺は一撃で終わって戦い足りないのであろうザヒネを制した。


「いえ、まだ生きてます」


「・・・は?」


俺達4人は、ザヒネが睨んでいる先を見ると、その怪物は凄まじい姿になりながらもヨロヨロと起き出し始めている。


「マジかよ・・・それで生きてるの?どんな生命力してんだよ」


ザヒネは俺が何か言う間もなく怪物へと突進して、今度は戦槌で頭を叩き潰した。


「フゥ・・・片付きましたね。意外と呆気なかったです」


・・・確かに。ザヒネの攻撃力が凄まじいのは認めるが、中級冒険者PTを倒した奴とは思えない呆気なさだ。こちらへ戻ってきたザヒネは少し不満そうだ。俺は怪物の死体の回収を銀エルフの男二人に命じた。正直、自分で触りたく無い。


「御堂様、あの怪人・・・再生を始めています」


「え・・・?」


ライザの呟きに、俺は間抜けな返事をしていた。ダークエルフの男二人は後ずさっている。


「お前等下がれ、こんなのトロールの再生力でも不可能だ」


「・・・不死身でしょうか?」


「まさかな、不死身の生命体はあり得ない。そうか、中級冒険者達は、コイツを倒しきれなくてやられちまったんだな」


俺は既に元の形に戻りつつある怪物に近付いた。怪物は斧を振り上げると、俺を目掛けて振り下ろしてきたが、俺はそれをかわすとボディブローを食らわせて、3m近く浮き上がった奴の体を追いかけるようにジャンプして、奴の首に蹴りを打ち込んだ。


怪物はまた岩肌に激突して首がおかしな方向に曲がっているが、自分でその首を元の位置に戻して、こちらを睨み付けてきた。俺は更に怪物へと距離を詰めて、ローキックで奴の足の骨をへし折ると、崩れ落ちた奴の顔面目掛けて何度も拳を叩きこんだ。


奴に対して、物理攻撃は殆ど無効だろう。俺がやっているのは、単なる犠牲者達の復讐だ。どんな再生力を持っていようと痛覚は必ずある。だから俺は奴を殴って蹴って、この怪物を少しでも苦しめようとしているだけだ。


「そのままでは奴を倒せませんが、どうしますか?」


「倒す方法はもう思いついた。それより馬車を持って来い。コイツを街へと運ぶから」


俺は刀の鞘に巻いていた鎖を外すと、怪物にバインドを仕掛けた。この鎖はただの鎖ではなくマジックアイテムだ。長さを自在に変えられる。1kmまで伸びる事は確認したが、それ以上は試しても無意味なので止めておいた。


「さあ、これでコイツは何も出来ないだろう、運ぶとするか」


そう言って鎖を引っ張って行こうとした瞬間、その男の顔が、まるで植物か何かのようにパックリと開いて、俺に襲いかかってきた。


「御堂様!」


俺は間一髪で、その攻撃を避けて飛び退った。


「あぶなっ!?コイツの顔のバッテン印は飾りじゃなかったのか!」


一応、首を刎ねて袋へと仕舞って無力化しておいた。頭から足が生えて逃げたりするホラー映画があったからな・・・


俺達は怪物は鎖で引きながら荷馬車に乗って街へと向かった。



「・・・これがその怪物ですか?」


「そうだ、見てろ」


俺はナイフと取り出すと、ソイツの体を刺した。刺し傷は見る見るうちに再生して治っていった。


「これは・・・こんな再生力を持った怪物は初めて見ました。不死身でしょうか?」


「不死身の生物はあり得ない。炎で焼き尽くせば死ぬだろうし、他にも酸で溶かすとか、幾らでも殺し方はある。それに見てろよ?」


俺が頭にゲンコツを食らわすと、顔がパックリと割れて気色の悪い口が開いた。それを見たギルド長は面食らった顔をした。


「これは醜いですな。早速焼き殺してしまいましょう」


「まあ待て、今回の事件でコイツに仲間や家族を殺された者もいるだろう?だから、わざわざコイツを連れて来たんだ。殴るなり蹴るなり刺すなり好きにしていいよ。コイツはどれだけやられても死なないんだからな」


俺はそう言ってギルド長を見た。最初はポカーンとしていたギルド長も俺の言っている意味が分かると、凄まじい笑みを浮かべた。


「但し、焼き殺すのは止めておいてくれ。コイツは俺が持ち帰って兵士の訓練や実験にでも使いたい。好きなだけ痛めつけたら、俺に返してくれ」


「はい、これで少しでも被害者達の遺族や仲間をやられた冒険者達の無念が晴れましょう」


「どうやら事件が片付いたようですね」


全く姿を見せなかったシビウが現れた。


「お前居たっけ?ぜんっぜん働かなかったな。何してたんだ?」


「酷いですわ、我が主。私は子爵とその令嬢を護衛していました。主があの親子を気にしていらしたようでしたので」


「へえ・・・?」


俺はコイツを少しだけ見直した。誰かを護衛に付けた方が良いか迷っていたので、護衛に付いてくれてたのなら充分役に立っている。そうゆう気の回し方が出来るならこれからも役に立つ。


「これが例の怪人ですか・・・」


「ああ、超凄い再生能力を持ってやがる。ここの住民達にボコボコにさせたら連れて帰って色々やる」


「その時は、是非私もご一緒させて下さい。お役に立つかもしれません。私はこの者の心が少し読めます」


「そうなのか?」


「はい、ただ、この者は人間の言語を多少理解はしていますが、完全とは言えないので通訳は出来ません。感情が分かる程度です」


「充分だ。ソイツには徹底的に恐怖を植えつける」


「それは素晴らしい、楽しみですわ」


「じゃあ、俺達はどっかで少し寝てから帰るよ。子爵にはそっちから連絡しておいてくれ」


「了解しました。宿はこちらで手配致します。本当にありがとうございました」


ギルド長は俺達に深々と頭を下げた。案内された宿はこの街で一番良い宿だったが、実は俺は豪華な宿が苦手だった。外はもうすぐ日が昇りそうだ。これじゃ昼夜逆転しちまうな・・・そんな事を考えながら俺は眠りについた。


翌朝から、怪人へのリンチが始まったらしいが、俺は参加せずに昼になってエルザが起こしに来てくれるまで寝ていた。


俺達が昼食を取っていると、子爵と娘のクレア嬢が現れた。


「おはよう御堂君、あの怪物を捕らえてくれて本当にありがとう。領主として感謝する」


そう言うと子爵とクレアは深々と頭を下げた。


「よしてくれ、俺は冒険者として仕事をしただけだ。あの怪物見た?」


「ああ、十字架に張付けられて住民や冒険者達に痛めつけられているよ・・・私はあまり見ていたくないので、早々に見学を止めたがね」


「当然だと思うぞ、そうけしかけたのは俺だからな。奴は被害者達に賠償金を出したりはしない。もし、クレアさんが奴の餌食になってたらどう思う?自分のしでかした罰はその身に受けるべきだ。死ねない自分を恨むといいよ」


「そうだろうね。住民達は君が奴を捕らえて、皆の前に引き出してくれた事にとても感謝していたよ」


「仲間の方達に、お怪我はありませんでしたか?」


「ありがとう、かすり傷一つ無いよ。奴はそれ程強いって訳じゃない、不死身に近い再生能力と力が人より強いだけだったからな。顔がパックリ開いた時は驚いたけど・・・それと、うちの使い魔が護衛に付いていたと思うんだけど、何か無作法とかなかった?」


飛ばれて逃げられないように、銀エルフが上空の風を精霊術で操作していた事は説明しなかった。しても仕方ないしな。


「あの顔はビックリしたね。あんな生き物が世の中に存在するとは・・・シビウさんだね?彼女はとてもお淑やかな女性だったよ。ユーモアもあるし、とても心強かったよ」


そうか、シビウの奴はしっかり仕事をこなしたな。


「奴は人の姿をしてるが人じゃない、虫や食虫植物に近いのかもしれない。人の姿を取っているのは擬態の一種かもな。」


「なるほど、冒険者らしい分析だね。今日帰るのかい?少し私の屋敷でゆっくりしていかないか?クレアとのデートもあるのだろう?」


その言葉を聞いたクレアは顔を赤くして俯いた。ああ、こうゆう純情な反応は新鮮だ。思わず頬が緩む。それに子爵も良い親父さんだ。


「そうしたいのは山々なんだが、この格好だしね。もう少しデート向きな格好してる時に出直すよ」


「そうか、残念だな。クレアも君に事をとても気に入っているようだからね」


「お父様!?」


「それは光栄だな。だったら尚更、もっとお洒落な服を着て口説かないとね。何か困った事があったら声を掛けてくれ、荒事なら俺が力になれるよ」


「ありがとう、まるで頼りになる息子が出来たような気分だよ。おっと、失礼だったかな?」


「構わんよ。お義父さんって呼ぶ日が来るかもよ?」


そう言って俺はクレアさんの方を見ていじった。彼女はずっと俯いている。


「それじゃ、俺は宿を引き払って領地へ帰るよ。新米領主はやる事だらけだ。あの怪物は数日置いて行くから、ギルドへは気が済んだら俺の領地へ送るように伝えておいて貰えないか?」


「分かった。君には世話になりっぱなしだな。私も何か力になれる時があれば良いのだが・・・」


「困った時はお互い様さ、それじゃあまたな。クレアさんも元気でね」


俺は二人に向けて手を振りながら宿を後にした。もっと嫌な仕事になるかと思ったが、犠牲者の酷さを考えれば、奴を生け捕りに出来たのは悪く無いオチだったな・・・



子爵親子がいないので、帰りは荷馬車でかなり飛ばしたので、かなり早めに帰ってこれた。城では市長が俺の帰りを待っていた。


「御無沙汰をしております御堂様、実はお耳に入れたい事があります」


「なんだ?悪い話しか?」


「いいえ、逆です。以前の領主に嫌気が差して領地を出て行った領民達が凄い数で戻って来ています。これも御堂様のおかげです」


「へぇ、それは良かったな。領民が増えれば税収も増えるし、何より街が活気付く」


「その通りです。それに、以前住んでいた領民達だけでなく、この領地の噂を聞き付けて近隣から移住して来ている者達も相当数に上ります」


近隣から?それは少しまずいかもしれないな・・・


「どうして、俺の領地へ?重税に苦しんでる領地が他にも近くにあるって事か?」


「いえ、私共の街は御堂様の警備体制強化のおかげで治安がとても良く、税も安いのです。御堂様が以前に行った新人冒険者の訓練も大きな反響を呼んでいるとの話しも聞きます。そして英雄との呼び声の高い御堂様の名声を慕っての事もあります」


「英雄って・・・だから、俺はそうゆうの嫌だって言ってるだろ?どっちかと言うと、山賊側の方が領主より合ってるんじゃないかと思うくらいだ。自由気ままが楽なんだよ」


「お気持ちはお察ししますが、悪い事ばかりではありません。良い領主、英雄との呼び声が高まれば、名声を慕って多くの者が集まります」


「・・・つまり、人材か?」


「その通りです。腕の立つ冒険者や仕官を希望する者達も他の領地から来る事でしょう」


「あまり喜んでもいられないぞ?住民が流れて税収が減った近隣の領主達から恨みを買う事になるんだぞ?」


「ハッキリ申し上げれば、それは致し方ない事です。それに、それも良い流れだと私は思います。もし領地経営が上手く行かない貴族は爵位と領地を没収される場合も御座います」


「え?そうなの?余程の馬鹿をやらかさない限り、爵位の剥奪とかは無いかと思ってたよ」


「確かに頻繁にある事ではありませんが、税収が減れば皇帝陛下や帝都の大貴族への耳にも入ります。不作等の正統な理由が無く領地経営が他の領主より明らかに劣るとなれば・・・」


「クビになるか・・・だが、新しい領主なんて早々見つかるのか?なりたい奴は五万といるだろうけどさ」


「・・・何を仰いますか、そこで御堂様が選ばれる事になるんですよ?」


「え?領地が増えるって事?」


「はい、領地経営を認められれば爵位が上がり、領地が増えるのは当然ではありませんか」


「嫌だ!絶対に嫌だ!俺は適当に快適に暮らしたいんだよ!領地が増えればそれだけやる事が増えるじゃないか!」


市長は内心で御堂の態度を喜んでいた。領地が増えればやる事が増える。そう考えてくれる貴族がどれだけ居る?真剣に領地経営や領民の事を考えていなければ出ない発言だ。やはりこの方は信頼するに値する。


「私共も領民一丸となって御堂様にお力添えする所存です。それと・・・傭兵団が近くお目通りをしたいと願い出ています」


「・・・傭兵?何で?戦争なんて起きてないし、冒険者も増えて足りるだろう?」


「戦が無いからですよ。戦が無い場合の傭兵達が取る道は二つ。一つは戦のある場所へ、もう一つはお分かりですか?」


「仕官する?」


「それも無い事はないのですが、傭兵を仕官させる貴族は殆どいません。彼等は所詮はならず者ですから」


「分からん、降参だ」


「戦時下に傭兵を雇うのは多額の料金が発生します。しかし平時であれば、衣食住の面倒を見てくれさえすれば、領内での荒事に力を貸すという契約が可能なのです」


「・・・それって要はタダ飯食わせてくれって事じゃないか、良い話しなのか?」


市長は俺の言葉に笑った。


「ええ、仰る通りです。しかし、安く兵が雇える事には変わりありません。そして名の通った傭兵団であれば信頼は置けます」


「有名な奴等って事か?」


「艶狼・・・聞いた事はございませんか?」


「ある、確かアマゾネスみたいに女しか居ない傭兵団だって聞いてる」


「その通りです。彼女達は平時に雇われようとする事は無いと聞いていました。戦場での働きが凄まじいので金銭面に不安が無く、平時に貴族に雇われる必要の無い、名のある傭兵団です」


「何でそんな連中がうちに?」


「さぁ・・・?それは御堂様が直にお尋ねになった方が宜しいのでは?」


「うーん、傭兵団ねぇ・・・俺に話しを付けに来たって事は、アンタは既に会ってるって事だろ?傭兵団を領内に置く事に不安はないのか?ゴロツキなんだろ?」


「それは盗賊紛いの傭兵団の事です。それに女性の傭兵団なら、女の領民に対して乱暴を働く事がありません。秋の収穫が終われば、すぐに冬が来ます。冬を越す場所として我々の街を選んだのかもしれません」


「なるほどな。荒くれ者が起こす事件は大抵、酔っての女絡みだからか・・・分かった。会ってみるよ。今は何処にいる?」


「街で宿を幾つか貸しきって泊まらせています。明日にでもこちらへ伺わせます」


「・・・本音言っていい?女だらけになってきてるし、俺はどっちかと言うと正規兵っぽくなれる男の兵が欲しかったんだよね」


「・・・彼女達は腕が立ちますよ?それに人間です。エルフ達や獣人がいけないと云う意味ではなく、御堂様が人外を好んで雇うと云う間違った風評が広まれば、人間の有能な人材が訪れなくなります」


「確かに・・・しかし、ちょっとさぁ、男の正規兵っぽいの欲しいってのも忘れないでくれ。なんつーか、俺が女集めしてるように見えるって言ってる奴がいるんだよね」


「どなたですか?」


俺はその辺をフヨフヨと漂っていた羽虫を指差した。


「ま、まぁ・・・私共はそんな風には思っていませんよ?獣人に男は少なくありませんし、ダークエルフにも男はいますから」


「だよな!?別に女集めなんてしてねえ!まあ・・・可愛い女の子が増えて喜ばない男なんて居ないけどな」


「まさに・・・エルフの女性達が街を歩いているだけで、まるで異世界に迷い込んだ気分ですからな」


俺にとっては、ここが異世界なんだが・・・


「用件が済んだなら、俺はちょっと小箱亭へ行ってもいいか?」


「ああ、御堂様が城塞都市カーレから誘致したと云う宿屋ですね?開店したんですか?」


「まだだ。明日から開店するから、今日は開店前に常連だけ集めた祝いをやるんだ。アンタとギルド長も来てくれ、話しがある」


マリーナとミネルバ、それにカイル達も呼んでおいた。もう来てるかな?



「御堂殿!久しぶりだな!全く声を掛けてくれないから忘れられていたのかと思っていたぞ!」


「よぉ、マリーナ。久しぶりっつっても領主になった時に呼んだだろ・・・ミネルバも来てくれたな」


「君の呼び出しなら当然さ、それにこの宿の開店祝いとなれば来ない訳がないだろう」


「アニキ!俺達も呼んでくれてありがとうございます!」


「おお、お前達は俺の最初の生徒だからな。元気してるか?もう誰かPTの女の子に手を出したか?」


「出してないっすよ!」


うちの三馬鹿やヴァネッサにエルフ、獣人、そして天使組みとシビウ、古代兵器も来ていた。主だった者達は全ている。


「俺が主役じゃないからな。開店祝いの音頭はエクレアさんにやって貰おう、みんなさっさと飲みたいだろうからな。だが、その前に・・・」


俺はジロリと二人を見た。


「アンタら・・・呼んでもいないのに何でいるの?」


「儂を呼ばないとは、お前冷たすぎやせんか?」

「私を呼ばないのも酷いだろう?腕を競った友ではないか」


・・・皇帝親子が揃って、普通の宿屋に来ていいのか?


「別に俺は構わないが、帝都はいいの?」


「構わんじゃろ、今は内政官達に仕事をさせとるからな。グダグダ言っとらんで、さっさと始めろ。皆が待っておるじゃろ」


コイツ、自分の立場分かってんのか?頭来た・・・


「分かりました皇帝陛下!並びに皇女殿下!たかが新米子爵領の宿屋の開店祝いによくぞ起こし下さいました!」


一同:・・・(皇帝陛下と皇女殿下!?)


フッ・・・やってやったぜ。


「ば、馬鹿貴様!」

「構わんじゃろ、さっさと飲むぞ」


爺さんは流石だな・・・姫さんは狼狽しているが。お前の仮面の方がみんな驚いてるわ。


「さあ、クレアさん。乾杯の音頭を!」


「は、はい・・・ええと?皇帝陛下と皇女殿下?よくぞこんな汚い宿へとお越し下さいました・・・本物ですか?申し訳ありません。信じられなくて・・・」


「なに、今日は無礼講じゃ、作法等気にせんで好きに楽しもうではないか」


「は、はぁ・・・では御来店の皆様、カーレからの引越しに多大な援助をして頂いた御堂さん。本当にありがとうございました」


俺はジョッキを挙げて応じる。


「それでは皆さん、小箱亭、明日から営業開始となります!これからもご贔屓にお願いします!乾杯!」


一同:乾杯!


そして宴が始まった。最初は皇帝親子の登場にビビっていた皆であったが、酒が入り出すと皆が和気藹々とした雰囲気へと変わって行った。


みんな所詮は礼儀作法とか知らない冒険者達だからな。市長とギルド長はまだロボットのようにぎこちないが仕方ない。


俺は一つ、上座にある大きなテーブルを二席借り切っていたいた。密談って訳じゃないが、市長やギルド長、それにうちの幹部連中を集めて話しがあったからだ。


「市長、さっきあるって言った話しだが、街を改築しよう。狭すぎる」


「わ・・・私もそれを考えていました。税収が入り次第、取りかかろうかと・・・」


横目で皇帝親子をチラチラと警戒しながら、まだオドオドしている。


「お前等、その二人の事は道端の石ころだと思っておけ、俺は招待してないのに勝手に来た客だ」


「おい・・・勝手にとは失礼な奴じゃな。お主がしっかりやっているか様子を見に来たのだぞ?」


「なんで皇帝が親子そろって子爵程度の領地の視察に来るんだよ・・・もうちっとマシな嘘つけ」


まったくこの爺さん達は・・・まぁ、ここだけの話し、俺はこの爺さんの事がかなり気に入ってるんだけどな」


「陛下ぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!」


おわっ?なに?なんなの?


「お懐かしゅう御座います!我等一同、陛下の御恩を一度たりとて忘れた事はありませんでした!」


オウル、ガンド、ギーバ、ガレンか・・・そう言えばコイツら皇帝の仕えてたんだったな。忘れてた。


「お主ら・・・息災であったか?儂もお主らの事は気に病んでおったのだ。だから小僧へ預けたのだが、どうじゃ小僧は?」


「ハッ!御堂様は領主としても、戦士としても一流以上のお方です。我等一同、お仕え出来て光栄であります!陛下には良き主を御紹介頂き、感謝の極みに御座います」


「そうか、あまり甘やかすでないぞ?そやつはまだヒヨッコじゃ、お主らのような老練の者の力が必ず必要になる。力になってやるが良い」


「ハッ!心得ておりまする」


「アンタら積もる話しがあるだろ。市長とギルド長はちょっとこっち来てくれ。別の席へ移動しよう・・・」


「は、はぁ・・・宜しいのですか?」


「いいんだよ。今夜は徹夜になるぞ・・・」


俺は市長とギルド長、それに俺の主だった部下達を伴って二階へ移動する事にした


「エクレアさん、済まないが二階の大部屋使っていい?に料理と酒持って来てくれる?ちょっとここじゃ狭い・・・せっかく小箱亭を広くしたのに、それでも狭いわ」


「あらあら、分かりました。部屋へ料理とお酒をお運び致します」


俺は二階へと上がって皆に着いて来るよう促した。


「さあ、仕切りなおそう。まずは一杯やろうぜ。乾杯」


俺がジョッキを挙げると、皆がそれに応じてジョッキを挙げた。


「あの・・・度々申し訳ありません。あの方々は本当に皇帝陛下と皇女殿下なのですか?」


「そうだ。お二方とも無礼講を弁えた方々だから、そんなに畏まる事はない、大丈夫だよ」


俺に替わってミネルバが答えた。


「御堂様、こちらの方々は・・・?」


そっからかよ?面倒臭ぇな・・・


「そっちの赤毛の美女がマリーナ・フォン・ヘルトハイム大佐で、金髪の男装の麗人がミネルバ・スレイル・カストール少佐、近衛隊長だよ」


「・・・もう何を聞いても驚きません」


「それは良かったな。結構結構・・・それで話しだが」


「ちょっとお待ち下さい、ヘルトハイム大佐?ヘルトハイム侯爵家の御令嬢ですか?」


「ああ、私は確かにヘルトハイム侯爵家の者だ」


「・・・御堂様、御存知でしたか?ヘルトハイム侯爵家は、この辺り一帯の大領主、つまり御堂様にとっての寄り親となられる、お家の方です」


・・・え?マジで?


「つまり、俺の直属の上司って事になるのか?」


「知らなかったのか?だから私は御堂殿の就任式に立ち会ったではないか」


「いやいやいや!俺が貴族制度とか皇帝以外の誰かを知ってる訳無いじゃん!?早く言ってよ!逃げた方がいいか?」


俺は部下達に目配せすると、皆が悟られないように腰を浮かせた。


「待ってくれ!逃げる必要等ない!皇帝陛下より税を収めていれば良いと言われたではないか!御堂殿は他にやる事はない、だから安心して生活してくれ!」


「・・・そう言って、俺は皇帝の護衛やったり国の内戦にいきなり巻き込まれたからな。多分、恨みや妬みも相当あると思うんだが」


「そんな者が居たら斬れば良いではないか?」


出たよこの脳筋・・・そんな事出来るかよ。


「出来るかよ!ムカついた連中を悉く斬ってたら内乱が勃発するだろうが!」


「む~御堂殿は、考えすぎではないか?次々と倒せば、逆らう者は居なくなるだろう」


・・・確かにその理屈は一理あるが、それってヤクザと同じ思考じゃないか?貴族がやったら恐怖政治か?


「ミネルバ、俺がそうしたらどうなる?」


「自分で起きた内乱を鎮める気概があるのなら構わないと思うよ。但し、陛下には事前に根回ししておいた方がいいね」


駄目だ・・・この国の連中は血の気が多すぎる。だから軍事大国なのだろうか?俺も平和主義者じゃないが、武力で物事を解決しようとしすぎるだろ・・・


「なんか、もういいや・・・ああ、市長、内戦の許可が出たぞ?近くにある男爵・子爵領から悉く平らげて帝国一の広大な領土を持つ大貴族を目指そうぜ。なんなら、下に居る爺さんを人質に取るか?」


「ちょっ・・・お待ちを!御堂様、お二人は冗談で言っているだけです!」


「・・・この二人はその手の冗談は言わないから本気だよ・・・」


市長が二人を見ると、俺の発言に狼狽等していない、普通に酒を飲んでいる。


「・・・本当なのですか?」


「問題ないのではないか?皇帝陛下を人質に取るのは不可能だ。姫殿下がおわすし、私達二人もその場で陛下を逃がすから」


クッ・・・そうだった!姫さんは尋常な強さじゃなかった!


「ほぅ・・・俺だけならともかく、ここに居る俺達の部下を相手に皇帝を逃がしきれるとでも?言っとくが、ヴァネッサだけでも俺とは比較にならん程の強さだ」


「なあ、もし俺が命じた場合、お前一人でここの連中、皆殺しに出来るだろ?」


「そうじゃな・・・主殿が命じるならやってみせよう。但し、あの姫とやらは別格じゃな。少し手間取るやもしれん。我があの者の相手をしている間に、別の者が捕らえれば良かろう」


「へぇ、流石は姫さんだな。確かに本気で強かったぞ。俺と良い勝負だったんだ。まだ力を隠し持ってるからヴァネッサでも不覚を取るかもしれないな」


「よかろう、今からあの女の首を取って主殿の眼前に捧げよう・・・」


「すまん、冗談だ!お前が暴れたら止める前に辺り一面血の海だ」


今の俺と三馬鹿が居れば本気出したヴァネッサでも止める事は可能だ。天使組みとシビウもいるし、古代兵器五人組もいるからな。だが、客達が無事で居られる保証が全くない・・・


「何処までが冗談で本気なのか、我々には分かりません・・・心臓にとても悪いです・・・」


市長とギルド長が青い顔をしている。


「何を青い顔してんだよ。近隣の領地全部取ろうって言ったのはアンタだろ?」


「ちょっと御堂様!その話しは今は!」


「そうなのか?意外と骨のある男ではないか」


マリーナが少し感心した目で市長を見返した。


「いえ、違うのです。税収の事から始まりまして・・・」


市長は、俺に話したのと同じ事を、かなりオブラートに包んでマリーナに説明した。


「ああ、そうゆう事か・・・つまらん。攻め入るのではないのだな」


「そうゆう事ってあるの?」


「この市長の考えは間違ってないよ。税収が目に見えて他の領主と比べて低ければ、爵位はそのまま残るだろうが、領地は取られるね」


マリーナに代わってミネルバが俺に答えた。


「御堂はもっと領地が欲しいのかい?」


「いや全く・・・この市長が物欲しげに俺に言ってきたんだよ。俺は今のままでやる事だらけなのにさぁ」


「税収は確実に増えるのか?」


「はい、近年に例を見ない程に増えるでしょう」


「ふむ・・・なら私から父上と皇帝陛下に話しておこう」


「止めて!ホント止めて!俺、過労死しちゃう!それに金には困ってない!」


俺は現状でかなりいっぱいいっぱいだ。本当に領地経営とか面倒臭い!シムシティーで沢山だ!


「だから、領地増やさなくても人が増えるんだろ?その話しなんだよ!街の増築だ!どのくらいの人口が増えるか知らんが、かなり増えてもいいように、冬までに増築しようって話しをしようとしてたんだよ!」


「それで私共を呼んだのですね?」


「そうそう、例の如く金は俺が出すよ。何だかんだ言いつつ、俺の宝物庫の金は全く減ってない、むしろ増えてんだよ。結構、使ってるはずなんだが・・・」


城の増改築にギルドの初心者講習と訓練場の建設費、更に主だった部下へのミスリル剣を与えて、新装備のヴァルド鋼・・・それらを出したにも関わらず、俺の金は増えていく一方だった。


「随分と出資をなされたはずですが、やはり冒険者としての報酬が多いせいでしょう」


「それに主殿は、次々と遺跡を踏破して根こそぎ奪っているだろう?遺跡一つの財宝だけでも、広大な領地が買える位の収入だとバトラーが言っておったぞ?」


ああ、確かに根こそぎ拾ってきてるな。俺っていつの間にか大金持ちになってた。


「そうだったな・・・じゃあ市長、街の拡張と同時に、孤児院を作ろう。そうすれば、戦災孤児やら先の内部粛清で親を失った連中を集められるだろう」


「御堂様って、実はとてもお優しいですよね」


ルードがボソっと呟いた。


「孤児院は単なる慈善事業じゃないぞ。育てて、兵や使用人にする。城で雇って貰いたい連中は沢山いるだろうけど、子供のうちから教育してりゃあ裏切る心配が無い」


「なるほど・・・御堂は中々の戦略家だね」


「とか言って、未成熟な少女を狙ったりしませんか?」


「なにっ!?御堂殿にそんな趣味が!?」


「ネイア!根も葉もない事を言うんじゃねえ!俺がいつロリコンになった!」


「いつまで経っても、私達を夜伽に呼ばれないので、実は特殊な性癖がおありになるのかと疑ってしまいました」


「ねえよ!だから俺は部下は抱きたくないの!エルザ、説明してなかったのか?」


「・・・申し訳ありません。説明する時間がありませんでした」


・・・確かにないな。


「すまなかった。怪人退治から、一日も経ってないよな。そりゃ話す時間なんてないわ」


「いえ、精霊術を使ってなら話す時間はあったはずです。申し訳ありませんでした」


「いや、そこまでして話す内容じゃないだろ・・・」


「・・・御主人様はヴァネッサさんは夜伽をさせたと聞いています。どう見てもロリコンではないでしょう・・・」


ジャジュカの言葉に皆がヴァネッサを見る。人間離れした整った顔立ちに色気ムンムンの身体つき、未成熟な少女とは正反対だ。


「待て!その話し、私は聞いていないのだが詳しく!」


マリーナが突然、大声を張り上げて席から立ち上がった。ああ、話してなかったっけ・・・?つか、いちいち俺の色事を大っぴらに話す事ないだろ?


「俺のプライベードの話しは止めようぜ!今は街の増築の話しだ!全く話しが先に進まん!また縛ってスリープするぞ?」


「クッ・・・久しぶりに会ったというのに、皆の前でいきなり縛るとか・・・」


何故かマリーナは顔を赤らめている。もしかして変な性癖に目覚めたのではないだろうか・・・?


「・・・分かったら、大人しくしてろ。ステイ!」


「しかし御堂様、結局のところは家臣にこれだけ女がいるのに、毎夜誰も夜伽を命じないのが原因だと思います。いずれ解決しなければいけない問題かと」


ネイアがシモネタを引っ張った。この子は全く・・・


「それはエルザに言った。彼女に聞いておけ」


「では街の拡張の話しで宜しいでしょうか?」


ナイスだ市長!いつまでもシモネタで話しが進まん。


「俺以外に話しが見えない連中がいるから現状をもう一度、説明してやってくれないか?」


「畏まりました・・・・・・と云う訳です」


もう一度、この街の住人が急速に増えている事情を市長が一同に説明してくれた。


「俺もその話しはさっき聞いたばかりだが、それなら冬になる前に街の拡張工事を行いたい。魔術を使えば工事ははかどるだろう。ただ、どれだけ拡張するかが問題だ」


「そうですね・・・人口が増えると言っても、元居た住民が戻る分の家や土地は在ります。他の領地から増える分の人口がどれだけかと計算するのは現状では難しいですね」


「もうさぁ、一気に拡張しとこうぜ?チマチマやるのは性に合わないんだよ。金は俺が出すから」


「・・・いつも領主の御堂様が資金を出して頂くのも、市長として申し訳がないのですが」


「人口が増えて街が発展すれば税収で戻って来るだろ?人材も全く足りて無いんだよ。ああ、艶狼だっけ?奴等も来るんだろうし・・・いっそここへ呼ぶか?明日の朝は俺は寝てるから」


「艶狼!?」


「二人とも名前は聞いた事あったか?軍人だから知っててもおかしくないが、ソイツらが暫くこの街に逗留したいと言ってきてるんだ」


「あの艶狼が?御堂殿、どうやら君には相当、良い風が吹いているようだな・・・」


「それ程なのか?」


「ああ、彼女達の知名度の高さは傭兵団の中でも上位だよ。特に女性だけで構成されているのに、大陸中に勇名を馳せているからな」


「・・・筋肉ゴリラみたいな女ばかりなのだろうか?」


「団長と副団長は、かなりの美女と言われている。囲おうとした貴族が何人も股間を潰されたと云う噂があるくらいだ」


「雇うか、じゃあ市長、使いを出して呼んでくれる?どうせだから一杯やろうぜ?」


市長は艶狼が泊まっている宿へ使いを出してくれた。暫くすれば来るだろう」


「さて、全く進まない拡張工事の話しをしたいんだが、ルード、例の七人の魔術師達は使えるか?街の外壁を作らせたい。それくらい出来るだろ?」


「問題ありません。彼等は既に御堂様の僕となっています」


・・・どんな調教したんだよ?怖くて聞けねーよ・・・


「怪人退治とは?」


また別の話題を蒸し返すか・・・


「一昨日、知り合いのティモシエール子爵領に怪人が出て被害が出たっつーからやっつけて来た。捕まえてあるけど、今頃はフランの街で住民にタコ殴りにされてる最中だ。奴は不死身に近い再生能力があるから」


「へぇ、ティモシエール子爵か。君は貴族との付き合いは嫌いだと思っていたよ」


「嫌いだよ。だがあの子爵と令嬢は護衛任務を引き受けて知り合ったんだ。良い人達だぞ」


「そうだね。彼は子爵としては長い家柄で、人当たりも良い」


「知り合いか?」


「子爵は宮殿には入れないから、直接知っている訳じゃないよ。帝都には良く来ているようだから話しは兵達から聞いているだけだ」


「なるほどな。それで、街の増築に話しを戻していいか?」


「おっと、すまなかった。続けてくれ」


「市長、壁はこっちで作るよ。建物を作るのに職人達を動かしてくれ。材料費と給金は俺が出す。必要な分を城に取りに来てくれ」


「畏まりました」


「人口にして・・・そうだな、新たに三万人増やせそうな位に広げよう」


「三万人!?それは多すぎませんか?」


「それでも少ないよ。帝都からこんだけ近い街なのに、この街は小さ過ぎる。それに帝都から離れた街で、それなりに栄えている街ですら比較的小さな街が多い、帝都から近い第二の都市が無い」


俺は根拠はないが、何故か沢山、人が街に来るような気がしていた。


「だが、住民が増えても仕事あるかなぁ?街でやれそうな仕事ってそんなにある?」


「今まで人手が足りなかった分、仕事はかなりあると言って良いでしょう。人が来れば街が栄えるだけの土台はあります」


「そうか、なら仕事の心配はないな。一安心だ」


コンコンと扉がノックされた。


「どうした?」


「艶狼の団長さんと副団長さんがお見えになりました」


「そうか、じゃあ入って貰ってくれ。それと酒と料理追加ね」


「領主様、お招きに預りありがとうございます。艶狼副団長のミリエラ、こちらが団長のジルです」


二人は部屋へ入って来ると、片膝をついて頭を垂れた。


「ああ、礼儀作法は気にしなくていいよ。こっちの席に着いてくれ。まずは一杯やろうぜ?俺は冒険者だから礼儀作法は気にしないから」


「話しの分かる領主様で助かったよ!アタシは口が悪いから、こうゆう場所ではミリエラに話すなって言われてたんだ」


「ジル!」


「気にすんな気にすんな。飲め飲め、二人とも酒は好きだろ?食い物も沢山ある。なんなら部下達も呼んでいいぞ?一階で入り切らないなら、今日は空き部屋ばっかだから皆にもタダ酒飲ませてやるといい」


「本当に?領主様、太っ腹だねぇ」

「ありがたく頂戴致します。部下には使いを出します」


俺は皆に自己紹介してやってくれと促した。皆が次々と名乗る。


「街の有力者だけでなく、大貴族の大佐と近衛隊長・・・それに聞いてはいたケド、人外の連中が多いってのは本当だったんだね。領主様って何者だい?」


「見ての通りの冒険者だ」


「相当、腕が立つって聞いてるよ」


「ああ、腕にはそれなりに自信あるよ。今は会議中だから無理だが、うちの領地にいるなら明日にでも相手してやるよ」


「本当かい!?そいつは楽しみだ!」


ジルはそう言うとペロっと唇を舐めた。

ミリエラは内心、舌打ちした。ジルは強い男が好きだ。あまり懐かれても困る。ジルに懐かれる程の腕を持った男は、これまで殆どいなかったが・・・


「まあ、今は剣より酒と飯だろ。ジョッキ持て、かんぱーい!」


一同:かんぱーい!


「おーい!酒も料理も全然足りない!俺はワインにするわ。甘口のお願いね~!みんな好きな物頼め!俺は好みが分からん!」


「ああ、そう言えば領主様、下で皇帝って名乗ってる爺さんが居たんだが、ボケてるのかい?」


「・・・・・・いや、アレ本当にこの国の皇帝なんだわ。隣に仮面の女が居ただろ?あっちは姫さんだ」


「げ?本物の皇帝陛下?アタシ、ちょっと無礼な事言っちまったなぁ」

「まさか本物とは・・・なぜ皇帝陛下が?」


「気にすんな。俺は招待してないのに勝手に来やがった。それに、あの爺さんは俺と一緒にキャバクラ行ったりする仲だ」


「そう言ってくれると助かるケド、近衛の隊長さんもいるからね」


「おい、それは発耳だぞ、皇帝陛下をキャバクラに連れ出さないでくれ・・・」


「気にすんな。俺なんか初対面からタメ口だった。周りの連中が俺の口の利き方に静まり返ったぞ」


「あれは見物だったね。御堂の口に悪さに近習達も言葉を失っていたよ」


「だって、俺は無理やり呼ばれたし、行きたくなかったからな。あ!今度また俺をおぶってくれ!ミネルバにおぶって貰うの良い香りがして、気持ちよくてクセになる!」


「ちょっと待て御堂殿、それなら私が背負ってやろうか?」


「本当!?マリーナも良い香りがしそうだな~ あ、鎧は外してね。冷たいから・・・」


「あ、ところでジルとミリエラだっけ?何でこの街に来たんだ?普通は戦時以外は雇われないんだろう?」


「領主様の御高名をお慕いしての事ですわ」


「嘘だな。お前の目は本当の事を言ってない」


俺はミリエラの目を見据えた。

ミリエラは普段、表情に乏しい。だから他人に顔色を伺われるのは稀だが、今は本心を射抜かれた気がして冷や汗をかいた。


「ミリエラ、この領主様に嘘は通じないよ。実はアタシが行こうって言ったんだ」


「ジルが?どうしてだ?」


「面白そうだったから」


「そ、そうか・・・でもミリエラには別の思惑があるんだろ?」


「お見それしました。御高名を慕ってと云うのは全くの嘘ではありません。領主様には色々な噂が絶えませんでした。自分達で色々と調べて、勢いのある領主様の方が支払いが良いかと思いましたので」


「金だけの話しか?うん、ちゃんと払うけど、戦時下じゃないから衣食住だけだろ?」


「それですら、いざとなれば渋る貴族が多いのさ。それに女だけの傭兵って言うと下心で雇おうとする貴族も沢山いる」


「俺がそうだったらどうするんだよ?」


「事前に調べて、先にお会いした市長殿にも確認させて頂きました。領主様は女好きだけど、美しい家臣が沢山いるにも関わらず手を付けられていないと・・・」


「・・・お前、ちょっと後で話しがあるから黙って先に帰るなよ?通りすがりの傭兵に、なに勝手に俺のプライベート喋ってんの?次の市長選で落すぞ?」


「も、申し訳ありません!しかし、御堂様がこれだけ美しい家臣達を持ちながら夜伽に呼ばれないのは、先ほどの話しでも明らかではありませんか!?」


「そ・・・そうなんだけど勝手に話しを広めるんじゃねえ!ホモだとか噂が広まったらどうすんだよ!?お前、責任取って自分の娘でも俺に差し出せよ!?」


「私の娘は6歳です・・・」


「・・・・・・・・」


「アッハハハハハ!面白い!やっぱここに来て正解だったろ?なあミリエラ?」


「そうね・・・少なくとも、金払いの悪かったり、色狂いの貴族でも無さそうなのは分かったわ」


「そんなケチじゃねーよ。艶狼って何人いるの?」


「ここに着たのは50人ですわ。領外に100名を待機させています」


「あ~領主様って言い方、言い辛いだろ?御堂でいいよ。俺なんて皇帝を爺さんって呼んでるしな」


「それは君だけだ・・・」


ミネルバがすかさずツッこむが、俺は華麗にスルーした。


「あらあら、随分と話しが弾んでらっしゃいますね。追加の料理と飲み物をお持ちしましたよ?」


エクレアさんとお手伝いの女の子達が沢山の料理と樽ごと酒を持って来てくれた。


「あの・・・エクレアさん。急な提案で申し訳ないんだが、開店って何日か延ばせないだろうか?」


「それは・・・構わないけど、どうしたの?」


「ほら、皇帝と姫さん来ちゃっただろ?アイツら暫く帰るとは思えない。それにマリーナとミネルバも来てるからさ」


「あら、私とした事が気が利かなかったわね。そうねぇ、皇帝陛下と姫殿下がいらっしゃるのに、他のお客さんは泊められないわねぇ」


「下にいる、俺の生徒の初心者冒険者いるだろ?奴等は泊めてやってくれないか?他の客はまずい。ああ、お前達泊まる?艶狼全員分くらいの空きはあるよ?」


どうせ宿代や食費は俺が出すんだ。なら俺が宿を決めてもいいだろう。


「いいのかい?」


「構わん、その代わりと言っちゃあなんだが、爺さんと姫さんの警護宜しく。姫さんは異常に強いから、ドラゴンでも襲って来ない限り何の心配もないんだけどな」


「部屋は足りるよね?」


「傭兵さん達は相部屋で良ければ足りるわね。御堂さんが改築してくれたおかげよ♪」


「だから言ったでしょ、俺の仲間だけで埋まるって。小さいのが小箱亭の良さでもあったけど、繁盛してれば店が大きくなるのは仕方ないよね」


「嬉しい悲鳴ね。あの人にも見せたかったわ」


旦那さんか・・・どんな人だったんだろう?


「部屋が足りなかったら、俺の隠れ家使っていいからね」


「分かったわ」


「クレアちゃんはどうしてる?」


「下で忙しそうに手伝ってくれてるわよ。呼ぶ?」


「いいよ、あの子もよく働くよな・・・これ、お小遣いだって言って渡してあげてくれ。遠い所へ呼んじゃったからね」


俺はそう言って、銀貨を数枚エクレアさんに渡した。


「そんな・・・御堂さんにはお金貰ってばかりよ?」


「いいんだって!俺はここが好きだし、駆け出しだった頃にエクレアさん達には世話になったからな。俺は金しか恩を返す方法を知らない」


「・・・御堂君?みんな貴方を慕って人が集まってるの。きっと、これからも沢山集まるわ。だから、そんな悲しい事を言わないで?」


いつもは俺を御堂さんと呼ぶエクレアさんが、まるで姉が弟に言い聞かせるように、優しく諭すように言った。


「領主様に御堂君なんて、失礼だったわね。ごめんなさい」


「いや新鮮だったよ。俺には姉さんいないからね。これからもそっちで頼むよ。エクレア姉さん」


「あら?お姉さんなんて・・・私もまだまだ捨てたものじゃないかしら?」


「ああ、エクレア姉さん目当てに来てる男もいただろう。行ける行ける」


エクレアさんは笑いながら料理を下げて、一階へ戻った。


「なあ、アンタ本当に領主様かい?そんな感じに見えないんだケドさ・・・」


「ジル!失礼でしょ!」


「気にすんな。新米領主だし、貴族になるつもりなんて無かった。今も冒険者のつもりだよ」


「悪い意味で言ったんじゃないんだ。アタシらが知ってる貴族とは大違いさ、アタシは良いと思うね。な?ミリエラ」


「私はノーコメントにしておくわ。アンタが領主様・・・御堂様に懐くのは勝手だけどね」


まずいわね。ジルは男勝りな性格で、簡単に男に靡いたりはしない、むしろ自分に下心で寄ってくる相手には必ず後悔するような目に合わせて来た。


でも、この子爵には本気で懐いてしまうかもしれない、そんな予感がミリエラにはあった。そうしたら私達の旅はどうなる・・・?


「おい市長、この辺りの土地は俺がまだ押さえてあったんだが、小箱亭の宿泊部屋だけでも、早急に新築するぞ。艶狼の奴等だけで150人らしいから」


150人は多いよなぁ・・・それもう小箱亭じゃなくて大都市のホテル並みだ。


「アタシ達のために、そこまでしてくれるのかい?」


「ついでだよ。この街は人が増えるって言ってるだろ?宿を増やさないといけない。小箱亭は俺の隠れ家だったから大きくはしたくなかったんだが・・・」


「一階の食事処はそのままにして、宿泊だけの場所を早急に新設する。何日かかるかなぁ?魔術である程度の補助は可能なんだけど、これ職人足りないだろ?」


「御主人様、それでしたら獣人の村へ使いを出してはいかがでしょう?農作業と狩りより、街の発展に貢献出来るなら皆も喜びます。私が村長のビートへ話しをつけてきましょう」


「本当?獣人達、生活基盤大丈夫?冬の前に食料貯めないと駄目だろ?勿論、給金は払うよ。正直、外部から人を雇うと金が外に逃げるから、俺の領内の人夫達に全てやらせたいんだよね」


「お任せ下さい、獣人達は御堂様に対して全面的に好意的です。兵の多くを獣人から雇って貰っていますからね!」


「じゃあ、力仕事は獣人と、内装や家具は人間の大工達に任せよう。突貫工事になるが、何とかなるだろ。市長、大工達に話しを通しておいてくれ。忙しくなるぞ?」


「畏まりました。皆も仕事が増えて大喜びでしょう」


「外壁が出来たら、建物増やして行くんだからな?そっちもちゃんと説明しとけよ?大工達は休む暇なんて無くなるぞ」


「大丈夫でしょう、この街の大工達は暇をしていました。しかし工事が長期に渡りそうなので、外部から人を増やす必要があるかと思います」


「それは任せるよ。アンタが市長で町長だ。好きにするといい。いっそ宿場街にするか?それもアリだと思うんだが」


「それは良いアイデアですね。一考の価値があります」


「じゃあ、俺はちょっと下へ行って顔出してくるよ。皇帝の爺さんや姫さんとも話してないし、俺の生徒だった新人冒険者とも話してないからさ」


「ああ、じゃあアタシ達も下へ行くよ。仲間達も飲んでるだろうしね。行こうミリエラ」


「私はゆっくり腰を据えて飲むのが好きなんだけど・・・」


「ここで飲んでたい奴等はそのままでいいよ。市長、お前は黙って帰るなよ?」


「・・・了解しました」



「おい、爺さん飲んでるか?・・・って何してんだよ」


皇帝は女達を侍らせていた。ここは、そうゆう店じゃないんだが・・・


「ワハハハハ!飲め飲め!今日は儂の奢りだ!」


ああ、始まったよ・・・見慣れない女達は艶狼か?意外と綺麗な姉ちゃん達が多いな。


「あれ、お前等の部下達?何か爺さんの愛人にでもなりそうな勢いなんだが・・・」


「ったくアイツら・・・おい!なにを、しなだれかかってるんだよ!そんなに男が欲しいなら街に立って客でも取れ!」


「え~?だってジル、皇帝陛下の愛人にでもなれば、一生左団扇で生活出来るんだよ?斬った張っただけが女の生きる道じゃないでしょ?」


「お前等、気持ちはよく分かるが、爺さんが興奮して突然死でもしたらヤバいから止めとけ、それにここはそうゆう店じゃないから・・・」


「おい小僧!堅い事を言うな!お前もこっち来て座れ!この娘達は綺麗どころが揃っているぞ」


確かに・・・もっとゴリラみたいなゴツい連中を想像していたが、ジルもミリエラも美人だしな。


俺は二人をそっと覗き見る。ジルは黒髪の長髪で長身の美人だ。大きな黒い瞳に、上背のある体躯もボリューム感があって良い。


ミリエラは綺麗な青い髪を肩口で切り揃えている。透き通るような白い肌に切れ長の目が色っぽい・・・


「・・・姫さん、いいのか?」


「ずっと自室にいるんだ。陛下だって息抜きが必要だろう」


物分りの良い娘さんだな・・・


「ねえ、あの人が領主様?良い男じゃない?」


「そうじゃ、貴族に成り立てのヒヨッコじゃよ。ほら小僧、こっちへ来い!」


「行かねーよ!アンタはその綺麗な姉ちゃん達に甘えてろ!」


「おいジル、ミリエラ。もういいや、三人で飲もうぜ。ああ、お前等はこっちへ来い」


俺は爺さんを放置して、艶狼二人とカイル達に声を掛けた。



「アニキ!やっと声を掛けてくれた!」

「御堂さん、おひさ♪」

「お久しぶりです。お会いしたかった・・・」

「こ、今夜は呼んでくれてありがごうございます」


「さあ、飲み直そうぜ・・・ってオイ、何で姫さんが俺の隣に来てるの?」


「陛下があの様子では私は邪魔だろう、私が隣だと不満か?随分と冷たいではないか」


「そんなつもりはないけど・・・」


「アニキ、その綺麗な姉さん達は?」


「艶狼の団長と副団長、暫くこの街に逗留する事になった。冬を越すまでか?」


「そうだねぇ、アタシ達は戦のある場所へ転々としてるんだケドさ・・・」


「・・・まさか、この国が戦場になるって臭いでも嗅ぎ付けたか?」


俺は小声で二人に聞いてみた。


「うーん、アタシは・・・」


「ジル、黙ってて。御堂様、その辺は企業秘密ですわ」


「・・・それもう、そうだって言ってるようなもんだろ。確証あるのか?」


「フゥ・・・ジルの勘です。この子の勘は大抵当たります」


ああ・・・予想以上に早い、秋の収穫前のこの時期に?


「こんな時期にか?」


「アタシは、雪解けのすぐ後だと思うよ」


それなら何とか・・・マジかよ。本当に戦争起きるの?


「敵はどの国と、どの国だ?」


「ラセール評議国とラード共和国、裏で糸を引いてるのはローランド王国だろうね」


俺は姫さんを見た。彼女は軽く頷いた。姫さんも予想済みか・・・


「あらら、三つも相手になんの?それってイジメだよな?」


「戦なんて、みんな弱い者イジメさ」


「そりゃそうだ。で?お前達はバーンシュタインが勝つと思って来たってのか?」


「そりゃ、まあ・・・領内で起きた内戦は一週間で終わった。見事過ぎる手際だったと思うよ。アタシの見立てでは、こっちが勝つと踏んだ。分の悪い賭けだって仲間達からの反対意見もあったケドね」


「・・・だとさ姫さん。この国、近隣諸国にそこまで舐められてるのか?俺はちょっと腹立ってるんだが」


「奇遇だな、私もだ。我がバーンシュタインが簡単に陥とせると思われてるのは心外だ。軍事大国の名は伊達ではないのだぞ」


「・・・俺さぁ、戦争って本当に嫌なんだけど、あっちから攻めて来る予定だってんなら話しは別だ。相手の都合に合わせて待ってやる程、お人良しじゃない。雪が振る前にどっちか潰そう」


「御堂・・・参戦してくれるのか?」


「バーンシュタインのためじゃない、ここは他国に近いからな。戦場になる可能性があるだろ。爺さんやアンタが俺をここに配置したのは敵の盾にするつもりだからだ」


「分かっているなら話しが早い」


「俺は寝てる所を起こされるのが一番嫌いなんだよ。俺の怠惰な生活を邪魔しようとする連中には容赦しない」


「へぇ、全くビビってないんだね?気に入った。アタシ達も手を貸すよ。料金は頂くケドね」


「何言ってんだ?お前達は留守番だよ。この街を守っててくれ」


「何でだよ!」


「雇ったばかりの傭兵を頼りに戦争した。何て言われたら近隣諸国の笑い者になる。これは、俺達の喧嘩だ・・・」


「御堂、貴様自分の手勢だけで戦う気なのか?」


「そうだよ。ラセール共和国かラード評議国のどちらかは俺達だけでやる」


「ラセール評議国とラード共和国・・・」


「・・・滅亡する国の名前を覚えても仕方ない」


「戦う前からもう勝った気でいるのか?」


「負けるとでも?」


「まさかな」


「俺が攻め入る国、その二つの国のどっちか決めてくれ。俺の手勢だけでやるから援軍は要らないよ。姫さんは占領軍を派遣してくれ」


「本当にいいんだな?」


「面倒臭いのが嫌いな俺が言ってるんだ。二言は無いよ」


「ではラセール評議国を頼む。あの国は兵力が少ない」


「で、ローランド王国ってのは?俺はどの国もよく知らんが」


「貴様は攻め入る国の情報も知らないのか・・・」


「ダークエルフを侵入させてたから詳細は奴等に聞くけど、つるんで後ろ盾まで無けりゃ戦えない連中なんて敵じゃない」


「その通りだ。腰抜け連中め・・・ローランド王国にはローランディア王国と云う兄弟国がある。それを頼みにしての事だろう」


「俺が何とか手早く首都を落とす。だから、すぐに占領軍が到着出来るようにして欲しい。俺の手勢は少ないから占領しても維持は出来ないんだ」


「もし他の領地から増援が来た場合でも、長くは持たない。身軽にするために兵糧は持って行かずに城内のを使う。首都ごと壊滅させるなら話しは別だが、一般市民の犠牲者は可能な限り出したくない」


「・・・以前も何度か聞いたが、貴様は本当に戦をした事がないのか?既に頭に戦略が出来上がっている言い方じゃないか」


「だから本で読んだ知識だって言ってるだろ。普通なら上手く行かないだろうけど、俺の部下は強いから可能だと思う」


「なあ、傭兵のアタシ達が留守番してるのも評判悪いんだケドさ・・・」


「そんな事言われても・・・じゃあ、俺に勝ったら参加していいぞ」


「その言葉、本気に取っていいんだね?」


「着いて来い」


俺はそのまま席を立って、ギルドにある練兵所まで歩き出した。その後をぞろぞろと皆がついてくる。


「・・・何で小箱亭から全員付いてきてんだよ?見物料取るぞ?」


俺とジルの後を、小箱亭に居た客が全員付いてきている。


「こんな見ものはないだろう?御堂と、あの艶狼の団長の戦いだぞ?料金払う価値がある」


俺は持っていた財布ごとミリエラに投げてよこした。


「胴元やれよ。俺は自分の勝ちに全額賭ける。何なら俺の城ごと賭けてもいい」


「・・・アタシも舐められたもんだね。ここまでコケにされたのは、子供の頃以来かな?アタシも自分に全額だ」


ジルは怒髪天を突きそうな凄い顔で俺を睨んでいるが、俺は全く意に介せずに歩いた。


「観客集まりすぎだろ・・・天下一武道会でも開くか?」


俺は模擬専用の刃を落とした剣をジルに放って投げた。


「アタシが勝ったら戦に参加する。アンタが勝ったら?」


「・・・特に何も要らないけど」


「それは公平じゃないだろ?何か欲しい物・・・と言っても御堂様の方が金持ちだね」


「フン、じゃあ俺が勝ったら一晩付き合え、女が賭けるにはそれが一番だろ」


「・・・いいよ」


随分と舐めた口を利いてくれるじゃないか、そうゆう男はこれまでにも何人も現れた。傭兵、貴族、兵士、冒険者。あらゆる荒事を生業とする男達が寄ってきた。


ソイツらを、みんな倒して今がある。幾ら腕が立つと言っても数ヶ月冒険者をやった程度の奴にアタシが負ける訳がない!


「構えないのかい?」


「いつでもどうぞ、好きに打ち込んできていいよ」


だらりと剣を下げているだけなのに打ち込めない、どう攻めても相手の体に剣が届くイメージが湧かない。こんな事はジルの傭兵として戦い続けた人生でも2回程しか経験が無い。


べろりと唇を舐めた。ジルの癖だ。戦うのが本当に好きだった。どう攻めるか?どうやったら勝てるか?剣を振っている時が一番楽しいのかもしれない。


「攻めづらいか?じゃあこれでいい?」


そう言った御堂は剣を逆手に持ち替えて、剣を下に向けた。普通ならそんな構えとも呼べない姿勢では勝負にならない、ジルは頭に血が上った。


「舐めんな!」


「ジル駄目!」


ミリエラの発した声がジルに届くより先に、ジルの振り下ろした剣が御堂の剣に巻き取られて、ジルの手から落ちた。


「・・・え?」


「惜しかったな。俺の勝ちだ」


観戦していた者達は完全に静まり返っていた。殆どの者は何が起きたのかすら理解していない。二人に何が起きたのかを理解出来た者が何人居ただろうか・・・


「お前は強いよ、でも冷静さを失い過ぎだ。歴戦の傭兵にしては、ちょっと血の気が多すぎだな」


俺はそのまま、ジルを置いて小箱亭へ向かって歩き出した。


「今の技はなんだ?」


姫さんが俺に聞いてきたので《巻き落とし》と教えてやった。勿論、正式なやり方とは、かなり違うが。


声を上げる事すら忘れていた群衆から歓声が上がった。みんなこんな手品のような剣技は見た事がなかった。


「今のなんだ?何があった?」

「何だお前、見えてなかったのか?あれは・・・」

「いやいや違うだろ?あれは物凄い速さで剣をだなぁ」

「ねえ?八百長やるなら先に言ってよジル!大損しちまったじゃないか!」


みんな好き勝手な感想を言い合っていたが、殆どは想像しているだけだ。見物に集まった連中は、壮絶な剣の打ち合いを想像していたのだ。だが、実際は一合で終わった。どう勝負が付いたのかも分からずに。



「ハッハッハ!流石は私の婚約者だ!これで御堂殿の勝利を見たのは二度目だな!」


酒で上機嫌だったマリーナが更に上機嫌で俺に肩を組んできた。


「何っ!?御堂とマリーナは婚約していたのか!?」


「おい・・・忘れたのかよ。そうゆう冗談が以前にあっただろ?ミネルバから聞いてただろう」


いきなり血相を変えた姫さんに俺は冷静に答えた。


「ああ・・・そうか、そうだったな」

「おい小僧、我が娘の前で浮気は良くないぞ。見ていない所でやれ」


「してねーよ!マリーナの親父さんと祖父さんが見合いしろってうるさいから見合いを断るために、一時的に嘘付いたんだっつーの!」


「部下思いなのは分かったよ。俺とマリーナの間には何もないから。一応、マリーナの親父さん達には、手も繋げないくらいプラトニックな関係って事になってるらしい。そうだろ?ミネルバ」


「ああ、大体そんな風に伝えてあるよ」


「そのうち、自然消滅した形で偽恋愛ごっこは終了する予定だ」


それくらいなら許してもいいとか、姫さんはボソボソと独り言を言っている。


「それはそうと、うちの領地に近く顔を出して欲しいのだが・・・」


「・・・なんで?まさか、本当に親父さん達に紹介するとか言わないよな?」


「紹介する。待て待て逃げようとするな!ヘルトハイム家がこの辺り一帯を治めていると言っただろう?御堂殿も顔くらいは出してくれ」


あーそっちか・・・貴族との関わりは出来るだけ避けたいんだけどな・・・


「それに、戦に参戦する気になったのだろう?私の領地を通るのに、父に事前承諾を得ないで通れるとでも?」


「そこまで考えてなかった・・・そりゃ幾らなんでも無理か、じゃあマリーナが帰る時に一緒に付いて行くよ」


マリーナは御堂に見えないようにガッツポーズを取った。


「なあ、そんなにショックだったか?あれは挑発してお前の冷静さを失わせたからだ。普通に戦ってたら、ちゃんとした勝負になってたよ。だから、そんなに気を落とすなよ・・・」


俺は呆然としたまま、トボトボと歩いているジルに声を掛けたが反応が無かった。ミリエラの方を見たが、彼女は完璧な営業スマイルをしているので何を考えているかサッパリ分からない・・・


ジルは相当な手練だった。実力だけで戦っても負けるとは思わなかったが、話していて正直で短気な奴なのが分かったから、ちょっとした心理戦を仕掛けて怒らせて、楽して勝っただけだ。


「御堂様・・・本当に、お強くなられました」

「流石は私達の主様、もっともっと強くなる」

「私達は御堂様が必ず強くなられると確信していました」


三馬鹿が俺を誇らしそうに見つめる。素直に嬉しく思う心が無い訳じゃないが、俺は自分が強くなった気が全くしていなかった。


最初にフェルナードと云う怪物に出会ってしまった影響もあるだろうが、それだけじゃない気がする。何故だろう?客観的に見れば強くなっているはずなのに、この世界に来たばかりの頃より強くなっている気が全くしない・・・


それを俺が言っても謙遜だと取られるだろうから口に出して言った事はないが、その事が喉に刺さった魚の小骨のように、いつも頭の片隅に不安がこびりついて離れなかった。



俺達は小箱亭へ戻って飲み直しを始めた。店内は今の戦いの事で持ちきりだったが、俺は他の事を考えて今の勝負の結果なんてどうでも良かった。


「御堂、腕は鈍っていなかったようだな。結構結構、また私とも試合してくれ」


「うん・・・」


「どうした?勝ったお前が落ち込んでどうするのだ?」


「落ち込んでる訳じゃないんだが・・・まあいいか、おい小僧、ちゃんと鍛錬はサボってないだろうな?死んでないから大丈夫なんだろうけど」


「頑張ってますよ!盾も買って、剣も片手剣にしました!」


「それなら簡単に死ぬ事もないだろ。他は?」


俺はユミ達に視線を移して聞いてみた。


「すぐに強くはなれませんけど、少し慣れてきましたね」


「そろそろ、ゴブリンは卒業してもいいと思います」


「わ、私はもっと回復呪文と援護の呪文を覚えたいと思います」


「慣れて来る頃が一番危ないって云うけど本当だよ。突然、経験の無い出来事が起きたりするから注意しろ。ゴブリンはもういいよ・・・回復より支援魔法が必要になってくるかな?バフがあると、冒険の危険度が下がるよ」


「ユミは今までのように自己鍛錬を続けて、色々と経験していけば必ず強くなる」


「ニアは今度城に来い、魔道書をやるよ。お前も支援魔法と火力のある呪文が必要だ」


「ネルは、もう少し自分の意見言った方がいいぞ?ヤバい時にハッキリ言っておかないと後で後悔するから」


「えっ!?お城に行っていいんですか!?」


「前にも言っただろ。来ていいよ」


「アニキ、俺は?」


「お前はひたすら素振りでもしてろ。遊んでる暇なんてねえ」


「酷い・・・」


それを聞いた三人が笑い出した。訓練を受けていた時の事を思い出したからだ。


「ゴブリンの次って何が相手になるんでしょう?」


「人型だとコボルトやオークが定番だが、どっちもゴブリンよりずっと強い。しかもオークと云えば、女の敵だからな。孕まされたらトラウマになるぞ・・・」


「うげぇ・・・それは嫌だなぁ~」

「想像すらしたくありません」

「わ、私は・・・」


「あーはいはい、ギルドのお姉さん達に相談しろ。それにオークは、まだお前達には荷が重い。アイツらは結構強いし装備も良いからな。カマキリリザードなんてどうだ?素材としても高く売れる」


「あの手が鎌みたいになってるトカゲですか?手頃な相手でしょうか?」


「少なくとも、不意打ちされるような事はないな。結構強いぞ?俺は可愛いから殺した事ないけど」


「可愛いって・・・ギルドのお姉さんに相談してみます」


よしよし、何だかんだ言っても他人の成長を見るのは楽しい、今が一番楽しい時だろう。


「あー・・・姫さん。自分で言い出しておいて悪いんだけど、さっきの作戦、やっぱり変更しよう。俺も頭に血が上ってたようだ。他にもっとやりようがある」


「他にも作戦があるのか?」


「そりゃ普通にあるだろ・・・さっきのやり方だと、敵の損耗が殆ど無い事に気が付いた。そうすると、丸々残った兵力が集結する可能性があるよな?」


「そうだな。お前が抑えた評議国の首都を囲む可能性は否定出来ない」


「それに、敵兵を一気に減らしておきたいだろう?姫さんだって、他国にバーンシュタインの鬼姫って呼ばれて嬉しいだろ」


「そんな通り名で呼ばれた事はないし、私は美人だと言っているだろう・・・」


「明日、マリーナとミネルバも交えて四人で作戦煮詰めよう」


「分かった。私に鬼姫なんて通り名はないからな?」


「口元や輪郭を見ただけで美人なのは分かってるよ。スタイルも良いし。マリーナやミネルバと、どっちが上なんだろう?」


「っ・・・!?」


「(でかした小僧!)」


俺達の様子を密かに伺っていた皇帝は心の中でガッツポーズをした。


「姫さん、マリーナ、ミネルバの三人で、《バーンシュタインのワルキューレ》とかって宣伝してみたら?売れると思うよ」


「そんな恥ずかしい名前で呼ばれたくない」


「姫様!私は悪くないと思います!」

「私もそれは嫌だね・・・」


マリーナは酔っ払って気分良さそうだが、ミネルバは乗り気じゃないか。嫌なら俺が広めてやろう・・・


「じゃあ、そろそろ帰るかな・・・また明日来るよ」


「あら?御堂君泊まって行かないの?」


「飲んでるから泊まって行きたいけど、俺の部屋空いてるの?」


「ええ、大丈夫よ」


「それならいいか・・・まだ帰るにも早い時間帯だしな。もう少し飲むか」


「そうだぞ御堂殿!私とは殆ど話していないではないか!」

「小僧!儂がせっかく着ているのに放置とはどうゆう事だ!?」


「あーもう分かったよ。爺さんの席へ行くよ・・・」


「おう、色々と娘達と話していたようではないか」


「まあな、でも明日以降に持ち越しだ。なあ爺さん、変な質問をするが、この世界で最強の存在って誰だ?」


「最強の存在だと?」


「魔王とか?あるいは、他にそれに匹敵するような強い奴っているの?」


「フム・・・それは儂に聞くより、お主の配下の者達に聞いた方が早いのではないか?」


「そりゃ聞くさ、だが爺さんや人間が考える最強は何者なのか?が知りたいんだ」


「さあのぅ、魔王だけでなく、皇竜や眠っている邪神、魔神の類も居ると聞く。最強が誰かなんぞは儂にも分からん」


「眠っている邪神に魔神?そんなの居るのか?」


「知らんのか?御伽噺ではなく、確かに存在している場所が幾つか確認されておるぞ」


・・・マジかよ。そんなの居たのかよ。


「この国には?」


「あるぞ、だがその場所は教えられんし、それは皇帝のみが知る」


「あるのかよ・・・不安にならないのか?」


「出たら出たで、何とかなるじゃろ。そうでなければ、世は何度も滅んでいる」


「勇者が現れて、パーっとやっつけてくれたりしないのかねぇ?」


「勇者?今は南に居ると耳にした事があるのぅ」


え・・・?勇者いるの?


「本当にいるの?」


「そりゃ居るじゃろ。でなければ人智の及ばぬ敵に誰が挑めるのだ?」


「・・・俺が読んだ本にも一応書いてあったけどさぁ。勇者って世の中に認知されてる存在なんだ?」



勇者・・・某ゲームに端を発した存在ではない(笑)

さっき爺さんが口にしたように、人智を超えた存在に対する神々が用意した最終兵器。


そう、俺は勇者とは神々の便利な兵器だと思っている。人間界に完全な形で姿を表して力を振るう事が出来ない神々に代わって、神と人間に敵対する存在を次々と倒して行く兵器。


当然、不死身ではなく死ぬが、また別の勇者が暫くすると現れる。どう云う基準で選ばれるかは知らないが、俺はそれを《勇者システム》と名付けた。


光の神々に様々な加護を受けて、神の代わりにあらゆる驚異と戦う便利な使い魔、それが勇者だ。


何故、神がこの世界に出現出来ないか?それは神々が高次元の存在過ぎて俺達の世界に無理やり介入すると世界が壊れる可能性があるからだ。だから簡単に姿・・・くらいは出せるかもしれないが、力による介入が出来ない。


「なら何で魔王がいる?何で勇者は魔王を倒さないんだ?」


「さあな?魔王自体はそこまでの悪さはしとらんよ。自らが領土と定めた地からは出て来てはいない、少なくとも人類の脅威となるような行動をした記録は無い」


「じゃが・・・数百年前に、ちょっかい出した愚かな国があってな」


「へぇ?馬鹿なのか根性あるのか分からんが、滅んだだろ?」


爺さんは頷いた。そりゃそうだ。この世界の魔王がどの程度か知らないが、仮にも魔王を名乗るんだ。国の一つや二つが挑んだところで勝ち目なんてある訳が無い。


「だからそれ以来、魔王に対しては手を出さない決まりになっておる。向こうから手を出してくるまではな・・・」


「消極的だけど正解だと思うよ。とてもじゃないが、勝てる相手じゃないから・・・魔王がいる地ってのは遠いのか?」


「そうじゃな、かなりの遠方にある。だから儂らの直接の脅威は怪物共や共存出来ない亜人種じゃな」


「亜人種達とは私達もよく戦うよ。戦争に使われたりする魔獣もいるしね」


艶狼の姉ちゃんが俺達の話しに割って入ってきた。


「どんな亜人種が多かった?」


「オークやケンタウロス、ハーピーやマーマン、挙げたらキリが無いよ。亜人種って本当に沢山いるからね」


「ところで爺さん、この国は魔道戦力が少なすぎる。俺はもっと金出して育成するべきだと思うよ。この国は剣や槍、弓と云った一般的な兵の力を重視し過ぎてる。魔術の力を侮ると後悔する事になるぞ」


「分かっておる、この国の体質は古い。じゃから魔導師協会も儂が誘致したくらいだからな」


「爺さんが誘致って・・・遅くないか?そんなに魔術舐めてたの?」


「余程、魔術が好きでもない限り、どの国でもそんなもんじゃろうな。だが、儂は若い頃に出会った魔術師を見て考えが変わった。戦を一変させる力があるとな・・・」


「艶狼に魔術師はいないのか?」


「いるよ、ミリエラが魔術も使えるし」


「そうなのか?魔力をあまり感じなかったから気付かなかった」


「簡単な術しか使えないらしいから。ミリエラは頭で勝負って感じだね」


「そんな感じするわ。悪女の素質ありそう・・・泣かされた男が沢山いそうだ」


それを聞いた艶狼の女達は笑い出した。笑い話じゃないだろ、実際やってそうだ。


「なあ・・・ジルが落ち込み過ぎてるのが気になって仕方ない、どうしたらいいんだ?」


「自分で受けた勝負に負けたんだから仕方ないでしょ?」


「それを言ったら身も蓋も無いだろ・・・一人だけお通夜みたいな顔されてると気になっちゃって仕方ない」


「領主様は優しいんだねぇ。アタシ達なら全く気にしないよ」


「仕方ない・・・おーいジル!こっちで一緒に飲もうぜ!ミリエラも着てくれよ!」


俺が二人に声を掛けると、トボトボと歩いてきたジルにミリエラが付いて来た。大柄な女がしょげ返って歩いてると、すっごく目立つな・・・


「エクレア姉さーん!焼き鳥大盛りで持ってきて!あとチーズも!」


「はーい、待っててね!」


「さあ、二人とも飲もうぜ!俺の領地に艶狼が来たお祝いでもあるからな!遠慮せず好きな物頼め、爺さんの驕りらしいぞ?」


「おい、誰が小僧の分を奢ると言った。男にはビタ一文払ってやらんぞ?」


「マジかよ・・・皇帝の癖にセコ過ぎるだろハゲ!」


「ハゲ取らんわ!フサフサじゃろう!」


「あの・・・本当に皇帝陛下でいらっしゃいますか?」


ミリエラが遠慮がちに尋ねた。


「そうじゃよ、じきに娘に譲るつもりじゃがな」


「・・・失礼致しました」


「構わん構わん、飲め飲め!真面目な話しをしていてもつまらん!」


「なあジル、明日また戦おうぜ?次は本当に勝負してやるから」


「・・・それは情けかい?」


どうしろっつーんだよ・・・


「お前、誰かに負けた事ないの?自分より強い奴と会ったのは初めて?」


「そんな事ないケドさ・・・」


「だろう?誰だって自分より強い奴に出会って、更に強くなるんだよ・・・生きてりゃ殺すチャンスなんて幾らだってあるだろ?」


「・・・・・・・」


駄目だコリャ・・・俺はミリエラを顎で促して、別席へ連れて行った。


「御堂様、私は落ち着いて飲むのが好きなのですが・・・」


「悪い・・・って俺が悪いのか?原因はお前達の団長の話しだろう?俺、悪くない!」


「ジルなら放っておけば良いと思いますわ。自分で撒いた種です。あの子も反省するでしょう」


「そんなに負けたのが悔しいのかな?自分より強い奴なんて、世の中に沢山いるだろ。ドラゴンから逃げたら、そんなに凹むか?命があって良かった!って普通の奴なら喜ぶところだと思うが・・・」


「・・・自分の貞操を賭けたんですから落ち込むのでは?」


・・・・・・あっ!?


「それか!すっかり忘れてた!ちょっと待っててくれ」


俺はジルの隣に戻ると、さっきの約束について話した。


「すまんすまん、さっきの一晩付き合えって約束気にしてたのか?すっかり忘れてたわ!あれ無しでいいから気にすんな。それじゃ・・・」


「そんなワケに行くか!みんなの前でした約束だ!反故になんて出来ねぇよ!」


「そうか、でも俺はお前を抱かない。お前が約束を反故にするんじゃなくて、俺が反故にする。お前の都合はどうでもいい」


「・・・なんだって?」


「だから、俺はお前を抱かない」


「アタシを馬鹿にしてるのかい?」


「そうだよ、一回負けたくらいでブー垂れてる女に興味はない。じゃあな」


それだけ言うと、俺はミリエラの席へ戻った。


「フゥ・・・言いたい事は言った。後は知らん」


「・・・あれは逆効果だと思います」


「落ち込んでる奴にやる気を出させるには、怒らせる方がいいんだよ」


「御堂様は博識ですわね」


「ところで・・・その変な敬語止めにしないか?普段、そんな話し方しないだろ?」


「お気になさらずに、これが私の領主様に対する話し方です」


「そ、そうか・・・艶狼って、団長と副団長の方が扱い辛いな。他の姉ちゃん達はくつろぎまくってるのに」


うーん、ミリエラはとっつきにくいな。俺は何か怒らせるような事をしただろうか?


「ところで、一つ質問があるのですが宜しいでしょうか?」


「宜しゅうございますです」


「・・・御堂様の鎧ですが、子爵の領主様が着るには防具として弱すぎるように見受けられます」


「よく言われまする。でも拙者、皮鎧が好きなのでございますですわ」


「・・・・・・剣は東方の物ですわね?」


「おいどん、一般的な両手剣より、この刀と呼ばれる剣の方が某には合っているでごわす」


「・・・・・・・・・その話し方、止めて頂けますか?」


「嫌でゲス。だって、クリオネ様も変な喋り方を止めてくれませんですます」


「悪かったわ・・・それとクリオネじゃなくてミリエラだから」


フッ・・・勝った!


「最初から普通にしろよ。お前、只でさえ美人なのに表情が変わらないから怖いのに。俺はうちのネイアで慣れてるけどな」


「・・・仕方がないのよ、傭兵だから馴れ合っても、すぐに離れるのだから」


「馴れ合うのと普通に話すのは違うだろ。それに、冬超えして暫く逗留する事になると、普通に会話くらいしてくれないと困る」


「それは配慮が足りなかったと謝罪するわ」


「ところで、この周辺で強国って何処だ?あと、手ごわい奴が居る国とか」


「バーンシュタインが最も強い国だって言われてるけれど・・・貴方は自国を知らないの?」


「あー・・・俺はこの国の出身じゃないし、幼い頃から体が弱くて外に出られなかったんだ」


俺は得意の口からでまかせを並べた。


「そうだったのね。ごめんなさい・・・」


「でも、ミリエラはバーンシュタインに味方するのに反対だったんだろう?何故だ?」


「・・・敵が多すぎる。この国を狙っている国が多すぎるからよ」


「鉱物資源目当てか?俺達って分が悪い?」


「勿論、鉱物資源を狙っている国が多いのだけれど、他にも狙いがあるの・・・」


他にも?この国には他にも何かあるのか?


「他ってなんだ?領土は狭いし、鉱物資源が豊富な以外、特に狙われるような物は・・・」


「お姫様」


「・・・なんで?強いから捕えて、配下にしようとでも?」


「お姫様の事を知らないの?バーンシュタインの宝石、国色無双、三国一の美姫・・・彼女の美しさに付けられた名は数え切れない」


「知らんかった。自分で美人とは言ってたけどな。だから他国や部下に舐められないように仮面付けてるって・・・」


「でも、あの姫さんを捕えるのは不可能・・・とまでは言わないが、甚大な被害が出るぞ?一万や二万の兵が死兵となって全滅する覚悟じゃないと無理だ」


「それ程の強さ?」


「それ程だよ。お互い本気は出してないが、それでも俺と互角だった人間は初めてだったよ。姫さんを止められる敵将が居ない限り、敗北はまず無い。どれだけの大軍だろうと無駄だ」


「・・・戦はそれ程、甘くない」


「そうだな、俺が敵でも攻め方は幾らでも考え付く。だが色香に迷って戦争しようなんて馬鹿じゃ無理だ。本当に良かった」


「敵の首都を狙うって本気?」


「ああ、実は割りと簡単に陥とす自信がある。間違いなくやれる。ただ、そうすると敵兵が減らないから、戻ってきて首都ごと焼土戦とかやられた場合、民に被害が出るから、ちょっと作戦を変える」


「・・・凄い自信ね。過信は足元を掬われるわよ?」


「勘違いしてないか?俺は自分が強いから勝てるって言ってるんじゃない。俺の部下に化け物みたいに強い連中が多いからやれるんだよ」


「俺の部下には、俺より強い奴が少なくとも6人はいる。ソイツらだけで、バーンシュタインだって滅ぼせるよ」


実際、奴等は人間じゃないから化け物なんだが・・・


「そう・・・貴方の配下に人外の者が多いのは見て分かったけれど」


「その中でも、数人は国が滅ぼせるレベルの強さだ。ただ、ミリエラの懸念も分かるよ。だから、敵のうちの一国の首都をいきなり陥落させる。こちらの強さがバレる前にね」


ミリエラは考えた、この男はちゃんと自分達の強さだけを過信せずに、戦略として機能させようとしている。もしこの男の言う通り、配下が本当に化け物揃いだったら負ける事はない。


これは、今回もジルの勘が正解だったかもしれないわね・・・


「明日さぁ、姫さん達と作戦練ろうと思うんだ。ミリエラとジルも参加してくれないか?傭兵って戦慣れしてるだろ?意見を聞かせてくれると助かるんだけど・・・」


「ええ・・・それは構わないけれど、ジルがね」


「ミリエラだけでいいよ。ジルは暫く膨れっ面させときゃいい。腹が減って飯食えば直るだろ」


飯食えば直るって・・・でも、案外この人の言う通りかも。ジルはそうゆう女だ


「貴方の方がジルの事を理解してそうね」


「そんな訳ないだろ、まあ心配すんな。明日また剣で勝負してやる。今度は皆が望んだような戦いになるだろう。一汗かけば機嫌も良くなるさ」


「さて、俺はそろそろ寝るよ。この宴会、三日は続くぞ。ちゃんと寝ないと持たないぞ?」


俺はそうミリエラに告げると、皆に手を挙げて部屋へと向かってドアに魔術でロックを掛けると眠りに落ちた。



「おはようございます。朝ですよ~」


ドアが何度かノックされていたようだ。まだ眠い・・・


「あ~今起きる。何時?」


「6時を過ぎた頃です。では他の方を起こしに行きますね」


誰だか知らんが起こしに着てくれたようだ。俺は顔を洗って、そのまま一階へと降りた。


「・・・死んでる奴が沢山いるな」


昨夜、遅くまで飲んでいたのだろう。テーブルやカウンターに突っ伏したまま寝ている奴等が多数いる。


「おはよう御堂殿、ちゃんと起きたようだな」


「おはよー・・・流石は軍人だな。三人共早いな。爺さんは?」


「あの後、艶狼の娘達を連れて外で飲み歩いていたらしくて、まだ寝ているようだよ」


「マジかよ・・・この前まで死んだフリしていたのが嘘のようだな」


「全く・・・陛下にも困ったものだ」


騙されてたアンタが言うなよ。実の娘だろうに・・・


「ところで、俺の後ろに立たないでくれる?別に立っててもいいけど、無言は怖いから」


「今日も勝負してくれるんだろ?」


「朝からかよ・・・お前元気だな。じゃあギルドまで行くか」


そうゆうと俺はそのまま歩き出した。


「おい・・・まさかその格好のままで行くのか?」


俺は自分の体を見てみると、蝙蝠ローブのままだった・・・


「・・・先に行っててくれ、着替えてくるから」


俺は水を一杯飲むと二階へ上がって着替えてギルドの訓練所へと向かった。


「ミリエラは?」


「ミリエラは仕事が無い日は大抵、遅くまで寝てるよ」


ジルはそう云うと俺に剣を放って寄越すと唇を舐めた。


「さあ、第二ラウンドと行こうか・・・」


俺は剣を正眼に構えた。


「昨夜とは感じが違うね」


「細かい事は気にせずに打ち掛かって来い。今日は小細工は無しだ」


「遠慮なく行くよ!」


言うが早いか、ジルは俺に剣を叩きつけた。それを俺は真っ向から受ける。ジルは一撃を受け止められると、様々な方向から剣を振るって来た。俺はその一撃一撃を受け止め、時々反撃をする。


受けていると分かるが、ジルの剣戟はそこいらの男の戦士より、ずっと重く早い。そうか、戦だと相手が重装備の鎧を着てたりするから、鎧ごと相手を叩き斬るか、競り勝った時に刺し殺したりするために、こうゆう剣になるんだ。要は騎士剣法と同じだ。


俺とは正反対だな・・・等と思いつつ、俺は咄嗟に軽く蹴りを入れてみるが、ちゃんと反応して距離を取った。


「避けたか、流石に傭兵の頭だ。じゃあ俺から行くぞ」


今度は俺から攻めてみた。と言っても普通に剣を振るうだけだ。フェイントも何もなく、相手が受け止めるのが分かった上で剣を振るう。ジルが一撃一撃をちゃんと受け止められるか、どの程度まで受け止められるのかを見極めるように・・・


「アンタ、手加減してるだろ?」


俺はそれには答えない、正確には手加減ではなくジルの実力を把握するための戦い方だ。


俺はジルの剣を真っ向から受けるだけでなく、時々避けて体勢を崩したりしないかを観察したが、剣戟を避けられても体勢は崩れない。うん、やっぱりコイツは強い。


やっぱりこの男、強い!昨夜は確かに頭に血が上ってペースを乱された自覚があった。だがこうして剣を合わせてみると、程よく手加減されているのが分かる。


こんな事は子供の頃に騎士達を相手に剣を教えて貰っていた時以来だ。

小細工は通じない、なら真っ向から全力の一撃で勝負を付ける!


「てゃああああああ!!」


アタシの一撃は奴の剣を宙高く飛ばした。はずだった・・・


「アレ・・・?」


同時にアタシの身体も宙を舞っていた。


「惜しかったな、最後の一撃は良かったよ」


地面に倒れたアタシに彼は手を差し伸べた。


「良い勝負だったな。では今度は私と手合わせ願おうか」


「だが断る!姫さんとやり合ったら、せっかくの訓練所が壊れる!」


姫さんは残念そうに俯いた。せっかく作った訓練所がメチャクチャにされたら、また作り直すのに金が掛かるだろ・・・


「・・・最後に、御堂様は剣を離したのかい?」


「そう、ジルが勝負に出たから俺は剣を離して投げ飛ばした。それだけだ」


それだけ・・・簡単に言ってくれるが、アタシの剣を完全に見切ってなければ出来ない芸当だろう?こんな短時間でアタシの剣は見切られたってのか?


「フゥ・・・降参するしかないね。でも、これからこっちにいる間、毎日アタシの稽古に付き合って貰うよ!」


「だが断る!俺にはやる事が沢山あるからな!時々だったら付き合ってやるよ。それに、うちの連中にも強い奴は沢山いるから相手してもらえ」


「さ、戻って飯食って会議だ。ああ、ジルは別に会議には参加しなくていいから、その辺で剣でも振って遊んでてくれ」


「会議?」


「ああ、作戦の練り直しだ。ミリエラには付き合って貰う事になってる。起きてるかな・・・さ、帰るぞ」


俺達は戻って食事にした。ミリエラは食事が終わるまで起きて来なかった・・・ジルが起こしに行って、やっと不機嫌そうな顔で起きてきた。


軽く食事をさせてから俺とワルキューレの三人とミリエラ、ジルも会議に加わって話しを進めた。


「まず俺の考えを言っておこうと思う、駄目だと思う所は訂正してくれ」


俺はそう前置きをして、作戦を説明し始めた・・・


「・・・それで評議国の首都を陥とせると言うのなら問題は無いだろう。御堂の手勢が少なすぎるとは思うが、私はお前の部下達の実力を知らないからな。だが、お前の実力は知っている」


「問題ない、絶対にやれる。姫さん達は堅く守って、時が来るまで時間を稼いでくれればいい。それくらい、アンタらなら楽勝だろ?」


「当然だ。守りに徹するのは好きではないが、反撃の機会を待つと云うのなら話しは別だからな」


「ミリエラはどう思う?」


「姫殿下が仰った通りだと思うわね。それで問題が無いのなら、大丈夫でしょう、ジルはどう思う?」


「アタシは何の心配もしてないよ。大丈夫なんだろうさ」


「じゃあ、決まりだな。雪解けか・・・俺にはもう特に戦の用意は必要ないから、ちょっと遠出でもするかな」


「何処かへ出かけるのか?」


「ああ、剣を買いに行こうと思う。俺のこの刀はこの辺では手に入らない」


皇帝から貰った刀を使っているが、剣なんて消耗品だからな。魔力剣とかなら、余程の事がない限り、ずっと使ってられるんだろうが、俺の刀は名刀と言って良い業物だけど、鉄と鋼で作った普通の刀だ。


「まとめて10本以上は買っておきたいんだよね」


「ミスリルの剣や魔力剣では駄目なのか?相当な数を持っているようだが?」


「そこは唯の拘りかな。俺には刀の方が手に馴染むんだよ。戦は来年だし、街の増築も俺がやる事は殆どないから出掛けるには丁度良い」


「御堂殿、勝手に出掛けないでくれよ?私の領地に来る約束だろう」


「分かってる分かってる。剣を買いに行く前に寄って行けばいいだろ?どうせマリーナの領地は通り道だ」


魔術の鍛錬と勉強ももっとしておきたいけどな・・・ルードは既に収納魔術を会得した。しかし、それを俺に説明する事が出来ないでいる。ルードが俺に方程式を教えてくれても、何故そうなるかを俺は完全に理解出来ないでいる。


魔術を行使するのに詠唱すら必要としない魔族と人間では、魔術に対する考え方が根本的に違うから無理もない・・・だがルードが会得したと云う事は、最初に魔術を習った時のように、俺の頭に直接叩き込む事が可能になった。俺はそのチートを可能な限り使いたくないため、ルードと一緒に勉強中と云う訳だ。


仮にあの方法で会得しても、俺の魔術理解度は上がらない、それはテストの答えを教えて貰っているようなものだからだ。ついでと言えばルードは転移魔術まで習得した。


以前は考えなかったらしいが、俺が魔術の勉強を必死に頑張っている姿を見て、自分ももっと強くなれたら・・・と奮起したらしい。すぐに結果が出せちゃうルードがちょっと妬ましい。


つくづく、俺は凡人なんだと思う。剣も魔術も才能が無い。かろうじて、自分の世界の知識と合わせて、剣も魔術の理解度が人より高いだけだ。


「ところで、その三つの国を攻め落とす事が出来たとして、統治する事は可能なのか?国は滅ぼすより統治する方が難しいと思うんだ。バーンシュタインより人口と国土が広い国を統治するのは並じゃない努力が必要だろう」


「私もそこに頭を悩ませていたのだ・・・勝つだけなら我等は勝てる。だが統治となると話しは別だ」


「うーん、完全に王族や貴族を根絶やしにすれば、一応の統治は可能なんだろうけど、民衆に不満が溜まった所を別の国に煽動された民衆が蜂起する・・・とか厄介な展開は避けたいよな」


「その国の人物を登用する必要があるな。目ぼしい人物を今から探しておいた方がいい、評議国の評議員から使えそうな奴を登用するべきだな」


「御堂、お前は人材登用に熱心だな」


「人は城、人は石垣って言葉がある。多数の兵を扱える良い将が居なければ軍は機能しない、内政も同じだ」


「良い言葉だな・・・」


皆は関心しているようだが、単に武田信玄の言葉を引用しただけだ。会議は一応、終了した。俺の案はどうやら通ったようだ。一階で茶でも飲もうかと思ったらギルド長から声を掛けたられた。


「会議は終わりましたか?実は御堂様にお話ししたい事がありまして」


「何だ?厄介事?」


「いえ、ギルド本部から、冒険者の等級について、もっと細かく決めるべきではないかと通達がありまして」


「具体的には?」


「例えばS~Fまでの等級を設けるべきだと云う意見があるようです」


「そうか、俺は別に何でもいいんだけどさ、今までの呼び名って誰が付けたんだ?」


「冒険者ギルドは、まだ大陸で統一組織としての歴史が浅いのです。だから最初は適当に・・・」


「適当って・・・まぁ、最下級冒険者とか呼び名が酷すぎるからな。もうちょっとマシな呼び名があってもいいかと思うよ」


「分かりました。ではギルド本部にそのように伝えておきます」


ピッピロリーンピロリンリーン


「すみません、私の通信宝珠です」


ギルド長は懐から通信宝珠を取り出すと、操作して画面を出した。


「ギルマス!この街の近くに新たなダンジョンが出現しました!既に冒険者達によって封鎖と戦闘が行われています!すぐにギルドへ戻って下さい!」


「新たなダンジョンだと?すぐに戻る。申し訳ありません。私はギルドへと戻ります」


「俺も行くよ。出番だろ?」


ギルド長は俺に向かって頭を下げた。俺は店内に居た三馬鹿とエルフ達を連れて行く事にした。


「付近でダンジョンとは穏やかじゃないな。私も出向くか?」


「いや、俺達だけで行くから、ワルキューレは爺さん探してここで待っててくれ」


「気を付けてな。それから私達はワルキューレではない・・・」


ギルドは人でごった返していた。ギルド長は職員に向かって支持を出しながら説明を受けていたが、やがて戻ってきた。


「場所は何処なんだ?何人を派遣している?」


「場所は南の平原です。今、動ける中級冒険者達を次々と派遣している最中です」


「分かった。じゃあ行って来る」


「お願いします。街の付近にダンジョンが出現した場合、即時封鎖と攻略が必要です」



「おい!続々と湧き出て来るぞ!増援はまだか!?」

「モンスターの数が多すぎる!」

「魔術支援が足りない!バフを掛けてくれ!」


冒険者達は必死に応戦を繰り広げているが、ダンジョンから次々と現れるモンスターの群れに後退を余儀なくされている。


「無理に押し返すな!このまま下がりながら応戦するしかない!」

「デカいの来るぞ!ミノタウロスだと!?」


牛頭人身の巨体が辺りのモンスターを押しのけて突進して来る。


「待避だ!全員待避!街まで後退して応戦するしかない!」

「いや、問題ない」

「・・・え?」


その脇をすり抜けて前に出た男は腰を落として剣を横薙ぎに振るうと、剣から発せられた剣気がモンスター達を次々と切り裂いて行く。

上から見れば、その剣気は扇状に広がったように見えた事だろう。


「御堂さん!?」


「遅くなった。よく持ちこたえてくれた。後は任せて下がってていいよ」


「御堂様、モンスターの前衛は崩れました。突入しますか?」


「エルフ達に術で結界を張らせてくれ。俺とルード達だけで何とか進める所まで進んで時間を稼ぐから」


俺はそう言って歩き出そうとしたが、俺の前に数人の人影が出現する。


「主殿、我を忘れて貰っては困るな」

「マスター、ここは私達にお任せを」


ヴァネッサとアイン達、古代兵器五人組だった。


「ああ、ダンジョンなら昼間でもヴァネッサが戦えるんだったな。これは楽勝か・・・じゃあ最下層まで攻略出来るかな」


これまで必死に防戦して絶望する直前だった冒険者達は、まるで物見遊山にでも出掛けるような気楽さで歩き出した御堂一向を、呆然と見つめていた。


「ご安心を、あの方達なら大丈夫です。ダンジョンには私達が結界を張ってモンスター達が外へ出られないようにします。冒険者の方達は下がって負傷者の手当てをお願いします」


「ディアナ様、準備整いました。行けます」


「では皆、私の術に続きなさい・・・アハーガ!」


ディアナの身体が淡い光を放つと、ダンジョンに結界が張られてゆく。まるでオーロラが走るように・・・それに続いてエルフ達も次々と術を発動させディアナの術を後押ししてゆく。

それは戦闘とは無縁な美しい神話の景色を見るような光景だった。そこに夥しいモンスターの死体させ無ければだが・・・


「・・・フゥ、これでもう安全です。定期的に結界を張り直す必要はありますが、当面の安全は確保しました」


ディアナは後ろを振り返り、とびきりの微笑みを冒険者達に向けた。


「御堂さん、どうかご無事で・・・」


突如現れたダンジョンヘ向かう御堂達の後ろ姿をディアナ達は見送った。



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