勝手に喚ばないで!Ⅲ
「うーん・・・前の城の方がずっと良かったよな?」
俺は仲間達と新たな城を見つめながら呟いた。ここは辺境区ではない、前回の皇帝護衛の報酬として得た領地だ。城だけではなく、領地ごと貰った訳だが、前の城の方がずっと立派だった気がする。
「まあ、良いではないか主殿。城などは幾らでも増改築出来る。主殿の留守の間も私達は休まずにギルドの仕事はこなしていた。金銀エルフ達も休まず働かせたしのぅ、資金は潤沢にある」
あのチンチクリンめ・・・功績に対する報酬に俺の城を要求しやがった。国としては城一つで済むなら安い物だ。実際、辺境伯にこれ以上の領地を与える事は場所的に無理だ。だが、あれは俺の私物だぞ?
「それに、主殿も帝都で大活躍だったのであろう?だから領地付きで城が手に入ったのじゃ、爵位も得たのであろう?流石は我が主殿じゃ」
・・・そう言われるとそうなんだが。ちなみに金銀エルフと云うのは、金髪がノーマルエルフでダークエルフが銀髪だから付けたあだ名だ。
ここは帝都から南に三日程行った場所で、比較的近い場所にある。領地と云うのは帝都から近ければ近い程、良い領地だと云うのが常識だ。そう云う意味では、この場所は立地条件は良い。
現代でも都会と地方じゃ地価が違うので、田舎の方が都会より広く立派な家が多い気がする。都会の22坪の家より、田舎の100坪を超える広い家の方が羨ましく感じるのと同じだな。
ちなみに、俺は辺境地ギルドから拠点変更して、領地内にある街の領主兼、冒険者となった。かなり珍しい立場ではあるが、皆無ではないらしい。冒険者は何処まで行っても冒険者だと思っていたが、そうでもなかったらしい、国に絶大な功績を挙げた者などは爵位と領地を得る事が稀にあるらしい。
大抵の場合は一代限りの騎士爵で終わって、国にそのまま騎士として仕える事になるらしいんだけどな。ちなみに、俺は《子爵》となった。爵位の序列は《公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵》となっている。
男爵を飛ばして子爵になると云うのは、かなりの大出世な訳だが、俺は税金納めてれば宮仕えしなくて良いと言われたので、今回の領地と爵位を褒美として受け取った。皇帝には時々、遊びに来いと言われている。これは命令ではなく遊び相手としてだ。
実際、帝国は重臣の中の重臣の一人であった公爵と、その一派を討ち取ったから、かなりの領地が余っていると云う事情もあるんだろうな。全てを皇帝の物にする訳にもいかないから。
「それにしても御堂殿、いきなり城塞都市から消えたと思ったら、皇帝をお守りする大役をこなした英雄になるとはな。私も婚約者として鼻が高いぞ」
「英雄なんて大層な事はしてないよ、それより誰が婚約者だ。もうさっさと軍辞めて婿探しでもしろよ・・・」
あの戦いで、マリーナは兵を率いて姫さんとミネルバの軍と合流して功績を立てまくったらしい、実家のヘルトハイム家も鼻高々だな。ちなみにヘルトハイム家は侯爵だそうだが、いずれ公爵への昇格もあり得るだろうとの噂だそうだ。ミネルバの家も同じく侯爵、そのうち帝国の両翼になるのだろうか・・・?
「ミネルバめ・・・それならそうと、私に一言あっても良さそうなものだが・・・ブツブツ」
「ああ、マリーナ。これから実家に帰るんだろう?報告もあるだろうし・・・」
「・・・そんなにすぐに追い出そうとしないでくれ、傷付くだろう?」
「いや、そんなつもりは毛頭ないぞ?居たければ、ここに暫く逗留しても構わないんだが、その後に帝都でまた軍務に戻るんだ。休んでもいられないだろう」
「そうなんだよ・・・やる事が山積みだ。幸い、内務官達は罰せられる側に付いてなかったから、内政は安心だが、軍の再編には少し時間がかかるな・・・」
「・・・なぁ、とこで、コイツらどうしたらいい?」
俺は後ろを振り返って、兵達を見る。以前の領主に仕えていたらしいが、いつの間にか主人が逆賊扱いされてて捕らえられて、職を失ったらしい。俺に仕えたいと言い出したが、見知らぬ連中をそのまま仕えさえるってのはな。
「クビにする事を薦めるよ。コイツらは無関係だったから罰せられていないが、自分の領主が皇帝陛下への翻意を持っていた事に気付かなかった連中だ。私なら雇わない」
「だそうだ、俺も同意見なんでな。という訳で、お前等は解雇される。命があっただけありがたく思え、おいソイツら追い払え、俺の領地内で見かけたら命は無いと思えよ?」
俺は銀エルフ達に命じると、彼等は剣を抜いて威嚇すると、皆走って逃げ出した。俺は内心で、ダークエルフ達を俺の手勢と認識している。冒険者グループと兵を分けて考えた場合、断然ダークエルフ達の方が兵に向いている。そして忠実で強く有能だ。
「・・・もっと配下が必要だな」
俺がボソっと呟くと、マリーナが驚いた顔をしていた。
「君は家臣とか、そうゆうの要らないとか言うかと思ったよ」
「冒険者だったら家臣なんて必要無いだろ。でも領主になったんだから治安を守らないといけないし、税収やら納税やら収穫の事やら、とにかく色々とやらなきゃいけない事だらけだろ?面倒だ・・・」
「フゥ、御堂殿がその辺をちゃんと理解していてくれて良かったよ。君の事だから、何もしないで冒険者だけやっていれば良いとか考えているのではないかと、少しだけ不安だった」
「それだったら、どれだけ楽な事か・・・」
一応、現代知識のある俺としては、内政と治安維持、この二つが重要な事は重々承知している。特に治安維持は急務だ。民は安全でありさえすれば、勝手に働いて生きてくれる。
「ああ、あれ各街や村の長連中だな。今日は彼等との協議があったんだわ。面倒臭いな・・・」
「最初が肝心なんだ。全員、一発殴っておけば気も引き締まるだろう」
・・・どんだけ脳筋なんだよ!?殴って気合入れるとか猪木かよ?
「冗談はさて置いて、城で彼等を出迎えるか・・・やりたくねえな」
「俺は新しく領主に任命された御堂龍摩だ。この通り、城は引越しの最中でな。たて込んでる」
一同が頭を下げて自己紹介を始める。妙にオドオドしてるな、俺って見た目、いかつい系からは最も程遠い見た目だと自負してるんだが・・・
「なあ、どうでもいいんだが、アンタらやたらと怯えてないか?俺ってそんな怖い顔してる?」
座がシーンと静まり返った。またこれかよ?俺そんな変な質問してねーだろ?この世界の連中は静まり返るの好きすぎだろ?
「申し訳ありません領主様!実は・・・以前の領主様はその・・・かなり短気なお方でした。新たな領主様がどんなお方なのか分からないので、無礼があってはならないと、皆緊張しているのです。それと、後ろの方々が・・・」
ああ・・・そうか、人間じゃない連中だらけだからな。
「・・・こっちのヴァネッサは1300歳を超える吸血鬼だ。そしてエルフとダークエルフ達だな。彼等はその・・・まぁ、説明すると長くなるが、俺の部下だよ。心配しなくていい、前のカーレでも、街の皆と上手くやってたから。それと、彼女達が美人だからって尻とか触るなよ。その場合は死んでも責任取れん」
「そ、そんな滅相もない!領主様の家臣の方々にそんな無礼な事を・・・確かに見た事もない程、美しい方々ですが・・・」
「そうだろ?カーレでもモテモテで、ラブレター貰ったりしてたらしいからな。酒場では、ずーっとヴァネッサを見ていて、注文すら忘れてる連中がいたりして店に迷惑を掛けた事とかあった」
「エルフ連中には「エルフナンパ禁止令」が出た程だ。ああ!この領地でも出しておかないと!エルフに対するナンパは禁止な?強引でなければ口説くくらいはいいよ。お触りは禁止だ」
「しょ、承知致しました・・・他に今までと何か変わる事は御座いますか?」
「・・・なあ、アンタらって俺の事を知らないって言ったが、実際どれくらい知らないの?」
俺は彼等が俺の事をどれだけ知っているかを聞いた。皇帝に雇われて護衛任務を達成した褒美として、この領地を任された事、そして以前は上級冒険者であった事だった。うん、それで充分だ。それ以上の情報なんて俺だって知らん。
「ああ、それで間違いないよ。ただ、以前ではなく今も冒険者だ。これからもギルド行って仕事は続ける」
「それと、以前の法律や法令とか、実は全く知らないんだ・・・それ読んでみてから色々と決めるつもりだが、こっちで詳細が分かるまでは、今まで通りでいいか?何か特別、これを何とかして欲しいとかある?」
この国は帝国法があるが、領主によって独自の裁量権や法整備が認められている。米国で州によって法律が違うのと同じだ。そして、ギルドでの仕事は領主の懐から報酬が出るのではなく、帝国が報酬を出している。つまり、幾ら働いても俺の賃金は帝国から出る!それをやらずしてどうする!
「実は・・・ご領地内に獣人の集落があるのですが、そこは帝国法を守ってはいますが、普段は我々と商い以外での付き合いがあまり無く、新しい領主様が任命された事を彼等はまだ知らないと思います・・・」
獣人か・・・この世界には獣人と呼ばれる存在がいる。人口は少なくない。彼等は亜人種と分類されているが、彼等をゴブリンやコボルト、オークと一緒には出来ないよな・・・同じ言葉を話して、俺達とさして変わらない文化を持ってるし。
「そうか・・・場所を教えておいてくれ、そうしたらこちらで行って来るわ」
「領主様自ら!?」
「おかしいか?俺は冒険者だし、獣人に対して偏見が無い、冒険者に獣人は少なからず居た。アンタらは彼らに対して多少なりとも偏見あるだろ?」
「無い・・・とは申せません。彼等を野蛮な輩と見て取る者達が居るのは確かな事です・・・」
「アンタらはどうなんだ?この中で獣人が嫌いって奴はいるか?」
皆は一斉に顔を見合ったが、特に居ないようだった。
「そうか、それは結構な事だ。獣人の中には血の気の多い連中も少なからずいるからな。そして戦うと一般的な人間より強い。だから冒険者に多くいたくらいだ。仲良くなれば気のいい連中だぞ?挨拶がてら、近日中に行って来るよ」
俺は彼等と雑談しながら、この領地での前の領主が作った法律に目を通して、愕然とした。税率が7割だと?確かに税率は領地によって変わる、5割なら安いと言われているが、これは高すぎる。何故だ?
「おい、税率が7割って高すぎるっつーか、皆よく逃げ出さなかったな。何でこんなに税金高かったんだ?」
「それは・・・前の領主様のお話しでは、モンスター討伐の費用がかさむと・・・この地は作物はよく取れるので、餓死する者もいませんでしたので」
どんなブラック領主だよ?餓死させなきゃいいってか?こりゃ帝国末期だわ。ああ、だからその派閥の連中が淘汰されたって訳か。
「それはおかしいだろ、前の領主はモンスター討伐に積極的だったのか?どの地でも、大抵の領主は冒険者に任せっきりだぞ?」
「確かに、モンスター討伐はなさってくれていました。そして私達には冒険者に仕事を依頼する程の金銭的余裕がありませんでした。ですから、余ほどの事がない限り、冒険者に依頼することもありませんでした」
冒険者への依頼は、ギルドが必要と判断した場合は帝国が金を出してギルドが冒険者へと依頼を出す。個人で必要と判断した場合には個人で依頼を出す。前の領主の判断が完全に間違ってたとは言い辛い部分もある。軍が出張る必要だってあるからな。だが、討伐していると言われれば確かめる術は無い。
「オーケー分かった。税率は暫定で5割とする。そしてモンスター討伐に関しては主に冒険者に頼む事にする。但し、他の地に比べてモンスターが特別多いなんて事になったら、そりゃ税率は上がるが、多分それは無い・・・なんせ俺も冒険者だからな。俺の部下も城塞都市カーレでは名の知れた冒険者だ」
税率5割と聞いた一同はざわついた。アンタら、よく飼いならされた犬だよ・・・確かに5割は安いが、今まで奴隷のような暮らしさせられてた分のサービスタイムだ。
「ギルド長は誰だ?」
「はい、私がご領地のギルド長をやらせて頂いているアーノルドと申します」
「冒険者の数は?他の街と比べて、この地の冒険者数は少ないのか?」
「いえ、決してそのような事はありません」
「なら、何故この街の冒険者でのモンスター討伐で足りなかったんだ?領主が出張って狩る程多いのか?」
「それは・・・」
「ハッキリ言えよ、前領主からの圧力だったんだろ?」
「・・・ご賢察の通りです。申し訳ありません・・・」
「ハァ・・・領主に民は逆らえない、それは仕方ない事だが、生活が成り立たなくなったら本末転倒だろ?俺なら絶対、反乱起こして領主の首取るぞ?」
「領主様を討ち取る等・・・」
「あのなぁ、お前等、奴隷根性が染み付きすぎだ。俺の国じゃ、百姓一揆っつって、領主が気に入らない場合は民が鍬持ってでも戦ったそうだぞ?まあいい、これからはさっき言った通りにする」
「ああ、それとギルド長に聞いておきたいんだが、この辺りに未踏破の遺跡とかダンジョンあるか?別の領地の領主に聞いたんだが、普通にあるって言ってたんだが・・・」
「御座います」
「何故、冒険者が誰も挑戦しない?手付かずの遺跡やダンジョンとか冒険者なら食いつかずにいられるか?」
「まず規模にもよりますが、新たな遺跡やダンジョンの攻略には相当な犠牲を払います。そして、その間のモンスター討伐の業務を滞らせる訳にもいきません。更に、その遺跡からとてつもない災厄がもたらせた場合・・・」
「責任が取れないか・・・」
「はい・・・」
この辺りの冒険者は考えすぎだ。未踏破なら挑むのが冒険者だろ。責任とか考えてたら冒険者なんてやってらんねーよ・・・いや、俺が特殊なんだろうな。
みんな貧しい生活から抜け出すために必死に生活費稼ぐのがやっとだ。それでも冒険者は次々と死ぬ。ダンジョン攻略に夢や浪漫を求めてとか、そんな冒険者はいても少数だろう・・・
「・・・分かった。未踏破の遺跡、ダンジョンの場所の地図をくれ、誰もやらないなら俺がやる。安心しろ、無理して突っ込んだりしないから」
「承知致しました。では後ほど、職員に用意させます」
「ああ、それと飢えているような村とかあるか?緊急を擁する場合、遠慮なく言え、食料を支給するから・・・」
「領主様が食料を分け与えてくださるのですか?」
「そうだと言ってるだろ。いいか?税収が必要なんだから、民に死なれちゃ困るのはこっちなんだよ。食って、寝て、働く、それが最低限の生活だ。飯食った後に酒が飲めりゃ尚良し、たまに女房に隠れて娼館に行ければ文句無し、それを守るのが領主の勤めだ」
一連の一時通達が終了したので、皆を解散させた。やる事が山積みだなぁ・・・
「お疲れ様でした、御堂様」
「ああ、ルードか、勝手に居なくなってすまなかったな」
「いえ、私達の方こそ主に対しての気配りが出来ていなかったようです。申し訳ありません・・・」
「気にするな。俺達は、まだ長い付き合いって訳じゃない。お互いの事を知らない事が多いんだ。それより、ヤクト、カゲミの二人を連れてギルドへ向かって依頼をこなしてくれ。モンスターが湧き湧きになってたら困るからな」
ルードは頭を下げて下がった。
「次にエルザ、何人かダークエルフに共をして欲しい、獣人の村へ行く。他のダークエルフは街の警護をさせておいてくれ」
「ハッ、畏まりました」
「バトラー、すまんが城の事を頼むわ。アンタなら経理とかも出来るだろ?このまま引越し作業と合わせて、激務になるが・・・吸血鬼は疲労ないだろう。メイド達の疲労を考えて、上手くやってくれると助かる」
「・・・じゃあ、俺は獣人の村へ行くわ」
「ねぇ・・・誰か忘れていない?」
「忘れてない、じゃあな」
「待ちなさいよ!何でダークエルフに仕事を与えて、私達にはないのよ!」
最近、俺が銀エルフ達を重用している事にイライラしていたレインが癇癪を起こした。
「・・・正直に言おう、お前達は自由過ぎて仕事は任せられない、森にでも行ってキノコでも採ってきたらどうだ?」
「キーッ!!私達は山菜取りの老婆じゃないわよ!何か任せてみなさい!」
レインはカンカンだが仕方ないだろ。金エルフ達は人間世界が珍しいのか、浮かれてキャイキャイ騒いでるだけで、まだ役に立つとは思えない。
「え~・・・じゃあ、ルード達と一緒にギルドへ行って仕事してて、それから街の様子や情報収集を頼む、そっちはカゲミに任せるけど」
「了解、主様」
「私は御堂と一緒に行くわ♪」
そう言って羽虫が肩に乗ってきた。そうして俺達は獣人村へと向かった。
「位置は間違ってないな、あそこが獣人の村か」
「はい、私の目には彼等が働いているのが見て取れます」
「流石だな、エルフ達は目と耳が良い」
俺達が村に近付いて行くと、何人かが村から出て来た。まぁ、見慣れぬ一行に警戒してるってとこだな。
「よぉ、ここが獣人の村で間違いないな?俺はこの辺り一帯の領主となった御堂龍摩だ。爵位は子爵、アンタらは知らないだろうって市長達に言われたら、俺の方から報せに来た」
「貴方が新しい領主様!?・・・ダークエルフを連れているのは何故ですか?」
「コイツらは俺の配下だよ。城塞都市カーレに居た頃に俺の配下になったんだ。有能な奴等なんでね。他に普通のエルフ達もいる。あと、吸血鬼も・・・」
「吸血鬼ですか?領主様は・・・人間ですよね?」
「ああ、人間だ。その吸血鬼とは戦って、俺の配下に加わったんだが、彼女の方が断然強いぞ。まぁ、そのうち会う機会もあるだろう」
思ったよりは友好的だな。もっと血の気の多い奴等かと思っていたが・・・つーか、この辺りの獣人って、耳と尻尾生えてるのが違うだけで顔とかは人間と同じなのね・・・獣人にも色々いるなぁ。
「ああ、これは失礼しました!私は村長のビートと申します。私の家へご案内します」
「ああ、頼む」
俺は村長の家へ通されて、村の近況を聞きながら世間話しをしていた。
「村長にしては若いな。俺も若いってよく言われるが・・・」
「先代の村長が引退して、私が跡目を継ぎました」
「そうか、何処も世代交代の時期なのかねぇ・・・ああ、俺の部下にはライカンスロープもいるから、獣人に対して偏見は無いぞ。ライカンスロープと獣人は違うらしいが、まぁ見た目の話しだ・・・」
「ライカンスロープもご家来にいらっしゃるのですか・・・?領主様はどういった方なのでしょうか?」
「あーっと、俺は一級冒険者だ。まあ、冒険者になってまだ三ヶ月ちょっとしか経ってないんだが・・・みんな、その間に知り合った連中だよ。爵位と領地は皇帝の護衛任務をこなした褒美だ」
「上級冒険者で皇帝陛下の護衛をしたのですか?領主様は英雄ではありませんか!」
「そうゆうんじゃないよ・・・たまたまだ・・・ホント・・・」
「それで、アンタらの生活ってどうだ?何か不満とかあったりするか?」
「・・・大変申し上げにくいのですが、税が高いのが難儀しております」
「ああ、言い忘れてた。税は5割にしたぞ。これまで7割だったんだって?よく我慢したな」
「5割?それは・・・ありがとうございます!これで村の皆にも楽がさせてやれます」
ビートは俺に深々と頭を下げた。
「気にするな、前の領主は税の取りすぎだ。7割と聞いて驚いたよ。ああ、ソイツは多分、今頃は縛り首にされてるはずだ」
「私の方からの感想は控えさせて頂きます・・・」
「ところで、この村から冒険者って出てるか?みんな普通に農作業してたようだが・・・俺の知ってる辺境区の獣人って、冒険者多かったんだよなぁ」
「それは・・・冒険者になりたがる者は少なくはないのですが・・・」
「もしかして、差別とかあったりするのか?」
「・・・はい」
「気にするな。俺は全く気にしないし、ギルド長にも言っておくから、なりたい奴は冒険者になったらいい。但し、冒険者の死傷者数は知ってるか?最下級冒険者は半数が死ぬ。それを知って、それでもなりたい奴はギルドへ登録させろ」
「ありがとうございます!ご領主さまのご厚遇には何と感謝したら良いか・・・」
「厚遇はしてない、俺は平等に扱っているだけだ。獣人は人間種より強い、冒険者向きだよ」
「はい、私達は力仕事や身体能力については自信があります」
「そうか、なら村の腕自慢とちょっと勝負してみるか・・・」
「領主様がですか?」
「言っただろう?俺は上級冒険者だ。この村の獣人の腕前がどれ程のものか見せて貰おう」
「御堂様、それでしたら私が彼等の相手を致します」
「ああ、エルザに任せてもいいな。じゃあ俺は見物していよう」
暫く見物していたが、やはりエルザの相手になる奴はいなかった。ダークエルフ達は強い、戦闘に慣れている。その仲でもエルザはトップクラスの手錬なのだから当たり前か・・・獣人達が弱い訳じゃない、身体能力は人間に比べて格段に高い、だが対人戦闘となると腕力と敏捷さだけではどうにもならない部分がある。
「あーっ!お前等、面白そうな事やってんな!アタシも混ぜろ!」
ん?後ろからやたらと元気な声が聞こえたので振り向いてみると、まだ10代の少女・・・と呼ぶには色々育ってるが、狩りに行っていたらしく大きな獲物を抱えながら、近寄ってきた。
ああ、力自慢連中は狩りの最中だったのか?10人以上いるな。だからか・・・こっちは結構楽しめそうな連中だ。
「アキノ!この方は新たな領主様だ!無礼のないように挨拶しろ!皆もだ!」
村長のビートが声を荒げると、びっくりしたように、皆が頭を下げ始めた。
「ほへ?新しい領主様?前の領主様は?」
「反逆罪で処刑された。それで俺が今の領主に着任したところさ」
「そうだったんスか~ あ、アタシはアキノっス、宜しく領主様!」
「よろしくッス、じゃああのダークエルフの別嬪さんと戦ってみ?」
「・・・アタシは領主様と戦ってみたいッス!」
「いいだろう、抜け!」
「お?話しが早いッス!いいッスねぇ・・・」
アキノとやらは目を細めて唇を舐めた。俺は戦いを挑まれたら逃げない主義だ。勝てなそうな相手なら速攻で逃げるけどな。
「御堂様、そのような者の相手は私が致しますが・・・」
「構わんよ、挑まれたのは俺だからな。考えてみたら、エルザ達ダークエルフも俺が戦ってるのは見た事ないだろ。まあ見ておけ。」
俺がそう言うと、エルザは頭を下げて後ろへ下がった。さて、アキノとやらの獲物はゴツい山刀だ。あれとまともに剣を合わせてらんないな。
「じゃあいいッスか~?」
「いつでもいいぞ、かかって来るッス」
俺の言葉を合図にアキノは一気に間合いを詰めて剣を振りかぶった。おお、踏み込みの早さが、さっきの獣人達とは桁違いだ。だけど、それじゃ俺には及ばないな。
その一撃をかわしてから、俺は剣を振り回すアキノの攻撃を次々とかわしていった、俺も相当な場数を踏んできた。相手の動きから太刀筋が読めるようになっている。勿論、格下相手ならだが・・・
「うう・・・当たらないッス・・・こうなったら必殺技を使うッス!」
「必殺技だと?ムネワクだな。通じるかやってみろ」
「言ったッスね?行くッス、必殺、分身の術ッス!」
「な・・・!?」
アキノの身体が瞬時に複数になった。マジか?魔術じゃなく、残像拳だと?お前は悟空か?
「フッフッフ・・・驚いたようッスね~ 行くッスよ?」
そう言って、後ろから攻撃してきたアキノの一撃をかわして、俺は頭を殴る。
「ギャア!?なんで?後ろに目があるッスか?」
「いや・・・お前、叫びながら攻撃してきたら分身しててもバレるだろ?」
コイツ・・・相当なアホの子だ。身体能力の高さはずば抜けてるが、アホでは意味がない・・・
「そ、そうだったッスか・・・じゃあ今度は黙って行くッス!」
そう言って、また後ろから攻撃して来たのを俺はまた避けて後頭部を殴る。
「っっっッつ~ 何故ッスか?今度は声を出さなかったッス」
俺はアキノの足元を指指した。
「?何も落ちてないッスよ?」
「・・・影だ。幾ら分身してても影は一つなんだよ。だからお前の分身の術は未完成だ。ちなみに・・・」
俺は印を結んで早口で呪文を発動する」
「お?おお?凄いッス!アタシより数が多い!」
「ああ、俺も分身の術は使えるんだよ。俺の場合は魔法でだけどな。そんなに難しい術じゃないんだ。光の屈折と乱反射を利用すると簡単に出来る。他にも色々やり方はあるぞ」
「ア・・・アタシの必殺技が簡単だったとはショックッス・・・」
「いや、お前相当なもんだぞ?魔法でやると難しくないってだけで、身体能力で残像作るとかアホな発想する奴が居るとは思わなかったわ。そりゃ普通は出来ないから考えもしないよ」
「・・・褒められてるッスか?」
「・・・半分だけはな。まだやるか?」
「・・・降参ッス」
「お疲れ様でした御堂様。お見事な勝利でした」
「そうか・・・?剣より頭の勝負だったと思うが」
「お師匠様!アタシを弟子にして下さい!」
「だが断る!」
「・・・えぇ~即答ッスか?そこはすんなりとオーケーしてくれるとこッスよ・・・」
「面倒臭いからな・・・それに師匠とかやった事ない」
「こんな美少女が頼んでるッスよ?」
「・・・まあ、美少女ではあるが、頭が残念過ぎるな。それに美少女は間に合ってる」
「ムゥ・・・連れているダークエルフのお姉さん達もかなりの美女ッスね。大人の色気で完全に負けてるッス」
「あの、ご領主さま、お邪魔でなければ、その者達をお傍に置いてやっては頂けないでしょうか?」
え?意外な所から発言が上がった。
「どうしてだ?コイツらは結構腕が立つ。村に居た方が治安とか安心じゃないか?」
「その者達は、村では少し力を持て余している者達です。お傍にいれば兵士の代わりくらいには使えると思います。ご迷惑でなければ、彼女等を使ってやって下さい・・・」
そう言ってビートは頭を深々と下げた。うーん、兵士は全然いないから、その代わりに使うのは構わないんだが・・・アホだからな。
「兵士の代わりは欲しいが、頭が・・・」
「ご心配は要りません、頭がちょっとアレなのはアキノだけで、私達は・・・普通だと思います」
「そ、そうか・・・なら、城で兵士になるか?ああ、希望者は他にも居たら、ビートが認めた者達なら雇ってもいいぞ?」
「本当ですか?でしたら、他の獣人の村からも推薦で領主様の元で働かせて頂いても構わないでしょうか?必ずお力になれると思います」
「ああ、構わないよ。獣人は強いし、仮に1000人って言われても雇えるよ」
「1000!?それはすぐには無理ですが、200~300人ならすぐにでも!」
「例え話しだよ。200~300人か。オッケー、じゃあ城へ来させてくれ。その時はビートも付いてきてくれよ?」
「勿論です、重ね重ねありがとうございます」
「じゃあ村長!アタシ達はこのまま領主様の家来にしてもらうッス!」
「ジャジュカ・・・皆に無礼のないように、くれぐれも頼むぞ」
「はい、村長、お任せ下さい」
ビートはアキノには答えずにジャジュカと呼ばれた別の獣人の娘に頼んでいた。大丈夫かよ・・・
「どうでもいいけど、強い獣人って女の子ばっかなの?男ではいないのか?」
「いえ・・・そうゆう訳ではありませんが、もしや領主様は男色家なのでしょうか?」
「そんな訳ねーだろ・・・部下なら強けりゃ男も女も関係ないだろ。いやゴメン・・・そりゃ綺麗な女の子の方が良いに決まってるわな。でも、強い兵士なら男女問わないぞ?」
「ああ、安心致しました」
何を安心したんだよ・・・俺がホモに見えたとでも云うのか?殴っておいた方がいいのだろうか。
「領主様の兵ともなれば、偏見の目で見られる事も無くなってゆきます」
なるほど、そうゆう事か・・・
「なあ、変な事を聞くが、獣人の女の子って、人間の男に差別されたりすんの?可愛い女の子でも?」
「それは・・・その人間の好みにもよるかと思いますが、半分獣だから何をしても許される・・・と考えている者もいるようです」
「そうゆーのは俺は許さない、人間だろうが獣人だろうが犯罪者でなければ平等に扱う。安心しろ、獣人は強いし、俺の元にいるエルフ達も「エルフナンパ禁止令」を出してるからな。滅多な事じゃ手出しされないだろう」
獣人達が膝を折って俺に頭を下げた。
「じゃあ、俺は城へ戻る、付いてくる奴は付いてくるといい」
「アンタ、傍から見てると女集めしてるようにも見えるわね」
俺は羽虫をデコピンして吹っ飛ばした。
それから数日は、俺の元にいる三馬鹿とエルフを中心とした冒険者チームと銀エルフ、獣人とで領内の軍の編成に掛かりっきりになった。ビートが連れて来た獣人達は300名近かったが、もっと増えるそうだ。
子爵領の収益がまだよく分からんが、足りなければ俺達が冒険者として稼ぎ出せば良いだろう、ああ、それと俺が倒した黒いボロ雑巾だった暗殺者は高額賞金首だったそうで、その報酬もギルドから貰った。
軍はざっと350名ってところだが当面は充分だろ。獣人兵の装備は城に置いてあった兵士達の装備を使わせているが、どうもしっくり来ないので、皮鎧とプレストプレートを大至急作らせている。重装兵じゃなくて軽装兵にした方が彼らには向いてる気がしたからだ。ふと思ってしまったんだが、俺しか人間が居ないってのはどうなのよ・・・
それから俺は毎日、魔術書と睨めっこして剣術の鍛錬を欠かさなかった。やはり俺は魔術の知識にハマっている。剣の方は自分の世界にいた頃に色々と本だけは読んでいた。中でも古流剣術に興味があって、色々と読み漁っていた知識が役に立っている。
剣道と剣術は全くの別物だ。剣道の試合を見ていても分かるが、あれは竹刀による叩き合いだ。剣は斬るか突く物で、実際にはぶっ叩いても相手は死なない。じゃあ剣道は役に立たないか?と云うとそんな事は無い。立ち合いの練習には充分なると思う。でも人殺しやモンスター狩りには役に立たない。
俺が読んだ古流剣術の本の中で、もっとも印象に残っていたのは北辰一刀流だった。それは千葉周作という人が江戸時代末期に作った流派で、その人の考えは当時としてはとても斬新な物だった《剣は利から入った方が良い》
つまり、精神論や根性論ではなく技術をしっかり理屈で教えるという現代人にとても合った考え方だ。だから北辰一刀流は剣術としては後発だったのに幕末には三大流派と呼ばれる程に人気のある道場で、最大勢力となっていた。ちなみに現代剣道に大きく思想が引き継がれている。
北辰一刀流の特徴的な動きとして、剣先をゆらゆらと揺らすっていうのがあるんだが、これが俺には未だに理解出来てない。相手の気を逸らしたりするらしいんだが、そんな事なら一気に斬り込んだ方が早くね?と思ったりもするのだが、この千葉周作と云う人は、本物の達人だったので、俺が理解出来ていないだけなのだろう、やはり本で読んだだけでは完全に物にはならない・・・
本当は上泉信綱の《新陰流》を学びたかったのだが、史料が残ってなかった。あったかもしれないが、手には入らなかった。俺はこの人が日本史上最強の剣術家だと思っている。
魔術の方は分からない事はルードに聞けば大体の所は教えて貰えた。しかし魔族である彼女は人間と魔術と魔力の使い方が根本的に違う。だから人間である俺に教えるのは彼女も俺もとても苦労している。
知識だけでなく俺は日々、瞑想を欠かさない。やはりこれは基本中の基本で、更にとてつもなく大事な物だ。体内に魔力を循環させながら、意識を沈めて行く・・・そうすると、正常に循環しているかそうでないかが分かる。それだけでなく、魔力を外に逃がさずに体内に留める。普通は意識しなければ魔力と云うのは体内から逃げて行ってしまうのだ。それを体内に留めておくためにも瞑想技術が必要となる。頭が透き通るような感覚も大事だ。雑念を取り払う・・・とまでは言わないが、集中力を高める訓練にもなる。
チャクラの方は、やはり丹田と額が重要だと思う。しかし、幾ら頑張ってみても額のチャクラが開く感覚はまるでない・・・まだ修行が足りないようだ。それでも額に魔力を集中させると、通常とは比較にならない位の純度の高い魔力が生まれる。
「ダーッ!煮詰まった!」
「どうしたのですか?急に大きな声を出されて・・・」
俺の隣で一緒に魔道書を読んで勉強していたルードが聞いてきた。
「なあ、俺は今、《収納魔法》を作り出そうとしているんだ」
「収納魔法・・・ですか?」
「うん、例えば持ち物を空間に収納出来たら便利だろう?だが、それで煮詰まっている。理論が確立出来ん。理論が確立出来なければ術として完成は無理だ・・・見てくれ」
俺は亜空間を作りだして、そこに煙草を一本取り出して入れてみた。
「しかしだ、この空間を閉じてしまったら、もう二度と同じ亜空間に入れない・・・そこまではいいんだ。それは何とかなる気がする。だけど、その空間に物を詰め込みまくったとするよ?そうしたら取り出す時に、欲しいアイテムを簡単に取り出せない。物置に放り込んだ物を探して取り出すようなものだ。もっとお手軽に指定した物を取り出し出来ないものか・・・」
「それは・・・難しいですねぇ、魔王様とかは簡単にやっていましたが、あの方達は特に何も考えずに魔力か能力で実行出来てしまうと思います」
くぅ・・・スペックの差か?何の理論もなく魔力で実践できてしまうとか、どんだけチートだよ・・・
「なあ、一緒に考えておいてくれないか?これ、ルードなら何とか出来ると俺には思うんだ。これから先、この魔術は絶対に必要になってくる。そして俺に教えてくれ!」
「御堂様!そこまで私を頼りに?不肖ルード、必ずやり遂げてみせます!」
・・・部下とはこうやってやる気を出させて使うもんだ(にやり)
「それとさぁ、俺の配下って前に回復役が居ないって話したが、魔術師もルードだけだよな。金銀エルフ達は精霊術士だろ?召喚魔法も使えるようだが・・・」
「私はドルイドマジックが仕えますが・・・」
傍らに護衛のつもりで控えていた銀エルフのネイアが俺にそう告げた。
「ドルイドマジック?あれって遣い手が少ないから人間達では絶滅しそうな魔術だぞ?ダークエルフには遣い手がいるのか?」
「はい、皆が使える訳ではありませんが、数名は使えます」
「うーん・・・ドルイドマジックか・・・」
ドルイドマジックは信仰系魔術に分類される古い魔術だ。人間で遣い手が少なくなったのは、現在の精霊魔術が一般的になったのは、そちらの方が覚え易いからだと聞いている。精霊や自然界に対する深い理解力が必要になってくるので、必要な知識だけありさえすれば使える精霊魔術が人間の間では一般的になってしまった。
「俺、ドルイドマジックには詳しくないんだが、草木を操ったりとか出来るんだよな?上級になると天候も操れるとか本で読んだ」
「はい、自然界にある力を使うので精霊術と似てはいますが、精霊とは四大精霊以外にも存在しますし、ドルイド独自の思想がより強くなった魔術です・・・」
・・・あれ?俺は閃いてしまった。
「なあ、それって、作物の生長を促したりは?」
「可能ですが、広大な農地の作物全体の成長を促すのは難しいかと・・・小規模であれば可能ですが・・・」
なるほど、そりゃそうか・・・
「ところで、エルフ達とは上手くやってるか?揉めたりしてない?」
「はい、特には・・・私達は元々、そこまでいがみ合っているという訳でもありませんので」
「そうか・・・銀エルフは数が少ないしな。喧嘩とか嫌気が差して里へ帰られても困るからな」
「御堂様、それなのですが、里から仲間を呼んでは駄目でしょうか?」
「・・・え?それは構わないが、お前等って里を抜け出したんだよな?里に戻ったら怒られるんじゃないの?」
「それはありますが、同時に里の【退屈】な生活から抜け出したいと考えている年若い者は少なくありません。それに、他の里に声を掛ければ人は集まると私は思います」
「ダークエルフの生活ってそんなに退屈なの?」
「そうですね・・・少なくとも、私達は一般的なエルフと違って、妖精界に閉じこもって歌を歌ったり自然を愛でて生活するだけでは物足りないと感じてしまいます」
「・・・そりゃ退屈だろうな。分かるぞ、俺は違う生活だったが、退屈してこっちの世界に来たからな。やはり人生、楽しんでなんぼだ。それにダークエルフはエルフと違って肉や料理も楽しむしな」
「はい、こちらの料理や酒はあちらとは比べ物にならない程に良いです。それに私達は戦士であると自覚しています。あまり平穏過ぎる生活というのは・・・」
「・・・刺激が足りないか、長老だっけ?ソイツらと揉め事になったりしないんなら構わないよ。エルザと相談して決めてくれ」
「ハッ!」
「ああ、年若いって幾つくらいの人達の事?」
「120歳を過ぎた頃くらいでしょうか・・・」
「ネイアって幾つ?エルザは?」
「私は122歳です。エルザは140歳くらいかと・・・」
マジかよ・・・二人とも俺と同年代にしか見えん。
「ちなみに、みんな結婚とかしてないの?」
「私達の仲間には婚儀を結んでいる者はいませんが、離婚して独身の者達もいます」
「・・・ネイアは?」
「私は男と付き合った事が未だありません」
「え?ダークエルフって、エルフと違って男女関係には柔軟だって聞いたぞ?」
「はい、一般的はそうですが、私は心を動かされる男に出会った事がありません・・・」
あー・・・よくいるな、理想が高いんだろうか?まぁネイアもスタイルも色気も抜群の美女だしな。改めてネイアをまじまじと眺めて見ると、肩口で切り揃えたセミロングの髪型がよく似合っている。青い瞳もとても魅力的だ。
「どんな男が好みなんだ?」
「私の口からは言えません・・・」
い、言えないような奴がタイプなのか・・・?しっかりしてそうなのに、残念な子か?
「そ、そうか・・・まぁ頑張れ。ネイアはモテるだろうし、男なんざ幾らでも見つかるだろう。性癖とかは色々あるだろうしな・・・」
「御堂様は変わった性癖をお持ちなのでしょうか?」
「お、俺?俺は普通だぞ・・・性欲が強いのは自覚あるが、ノーマルだと思うが・・・」
「そうですか・・・安心しました」
・・・ネイアはあまり表情が豊かではないから何を考えてるか分かり辛いな、少し気まずい。
「あ~じゃあ俺は未踏破の遺跡に行くわ。全くの手付かずだから、何が出るか、オラ、ワクワクすっぞ!」
「私もお供して宜しいでしょうか?」
「いいよ、後は・・・そうだな。あの元気っ子のアキノを連れて行くか。アホの子だから心配だが、あれは経験積めば相当強くなると思う、他にダークエルフを一名連れてきてくれ」
「畏まりました。城門で待つように連絡します」
「私達は付いて行かない方が良いのですか?」
「ああ、ルード達三人組は、今のギルドの仕事を続けてて欲しい、ヤクトとカゲミはギルドにいるだろうしな。遺跡の探索は俺達でやるよ」
「仰せのままに」
それから俺は銀エルフのネイアとエルザの妹のライザ、そして獣人のアキノとジャジュカを連れて遺跡へ向かった。獣人の武器はゴミだったので、アキノには山刀の代わりにミスリルの剣と薙刀を持たせた。力で振り回すタイプなら薙刀が良いだろう、ジャジュカには槍と、やはりミスリルの剣を持たせた。
銀エルフ達には全員にミスリルの剣を持たせている。金がかかったが、先行投資は必要だ。俺の部下は手練揃いだから、つまらない事で死なせたくくはない。銀エルフ達にミスリルの剣を配った時には、感動で涙を流す者までいたくらい喜んでくれた。
術を使わない戦士なら、絶対に獲物は槍や薙刀のような長物を持った方が良い。剣はあくまで携行用の武器であって、戦士なら剣より長物が断然有利だ。
「これがミスリルの剣ッスかぁ~こんな物を貰っちゃっていいんスか?」
「こんな良い剣を私が持つ事が出来る日が来るなんて・・・」
二人はやたらと感動していた。だろうな、ミスリルは安物の剣が100本くらい買える位に高い。
「流石に槍や鎧まではミスリル製って訳にはいかないが、沢山注文したら少し安くなったからな。ミスリルの武器を持つのは冒険者達にとって、一つの夢だからな。次には魔力剣が欲しくなる・・・装備は整え出すとキリがない」
「御主人に仕えて本当に良かったッス!」
・・・獣人だからだろうか?御主人とか言われると、ペットを飼ってる気分になってくる・・・
「お?見えて来たッスよ!あそこッス!」
・・・おお、結構大きいな。一日で行けるか?無理なら途中で宿泊出来る位の水と食料は持って来ている。
「よし、4人共よく聞け。ここは未踏破の遺跡だ。つまり誰も入った事がない。充分に警戒しろよ?ダークエルフも獣人も、人間より目と耳がいいからな。頼りにしてるぞ」
「ハッ!」
「任せるッス!」
「領主様に良い所を見せなければ・・・」
遺跡の入り口から隊列は、獣人二人が前衛、次に俺、後列に銀エルフ二人が続いた。マッパーはネイアに任せてある。俺は魔術で光球を作り出して、松明代わりにした。暫く進んだが、まだ何も出て来ない。
「分かれ道ッス。どちらへ進みますか?」
「印を付けて、右へ進む」
「了解ッス!」
・・・暫く進むと二人が止まった。
「何か居るッス・・・」
俺は黙って前方に光球の魔法を投げつけた。こうやって道での遭遇時に投げつけて辺りを照らす事も出来る。光に照らし出されて写ったのはリビングデッド(ゾンビ)の群れだった・・・
俺は問答無用でファイア・ボールを撃ち込んだ。前方のゾンビの群れが吹っ飛んだが、まだまだウジャウジャいる。
「お前等下がれ!こんなの一々、武器で相手してられん!」
「炎よ・・・大いなる炎よ火界より来たれ。立ち塞がる全てを焼き尽くし爆ぜろ」
俺は詠唱して集中する事によって威力を高めたファイアボールをゾンビの群れに撃ち込んだ。今度は大半が焼けて吹っ飛ぶ。我ながらかなりの威力だと思う。
「よし、前衛二人!掃討しろ!ぶっ飛ばせ!」
「やるッス!」
「キャッホー!」
二人は残った死者の群れを瞬く間に殲滅した。
「いやぁ~御主人様の魔法の威力って凄いッスね!」
「まあな、そこいらの魔術師よりずっと威力あると自負してる。それより先行くぞ、ゾンビがいるって事は他のモンスターや罠があるって事だ」
一同は頷いて先へと進んだが、俺は歩きながら話した。
「俺には一つ気になる事がある。さっきのゾンビ達は装備を付けていなかった。つまり一般人だ・・・何かここの情報って地元にあったりしたか?伝承とか」
「ええと、無くは無いですが、真偽は分かりません」
俺の問いに答えたジャジュカに話しの先を促した。
「ここには何百年も昔に強力な悪魔が住み付いたと言い伝えがあります。そしてそれを神の御使いが討ち滅ぼしたとも・・・」
「あ、モンスター見っけッス!」
言うなりアキノはモンスターの群れに飛び込んで薙刀を振り回した。ジャイアント・スパイダーとか奴の敵じゃないだろ。遅れてジャジュカも槍を突き振り回す。うん、無双してるな。結構結構
「私達は何もしないで宜しいのですか?」
聞いてきたライザに俺は答えた。
「構わんよ、前衛が疲れたら交替してやりゃいい、強敵でない限り手出しはしなくていい。俺達は後々、腕力じゃ太刀打ち出来ない相手が出た時のために魔力を温存しておく」
「畏まりました」
俺はまたまた虐殺の限りを尽くした二人へ水筒を放って渡した。
「どうもッス!楽勝ッスね!」
「そうですね、この程度のモンスターなら幾ら出てきても敵ではありません」
よしよし、この程度の奴に苦戦されちゃ困るけどな。まあ、お前達の腕は大体分かるから連れて来たんだ。さあ、レッツラゴーだ。どんどん進むぞ~」
その間にもモンスターとは何度か遭遇した。思ったより強い敵は出なかったが、ゴーストやレイスに遭遇した時には普通の槍や薙刀では通用しないので、ミスリルの剣を使わせた。ミスリルは真なる銀とも言われて、アンデッドや魔の物に効果がある。
「お?やっと部屋があるぞ、何か仕掛けはあるか?」
俺は銀エルフの二人に問いかけると、ライザが鍵穴を調べてみたが、魔術の鍵がかかっていたが、簡単に解呪してくれた。
「中にも気配があります。戦闘になりますね。」
「よし、じゃあここでは俺が二人にバフを掛ける」
俺は二人に身体強化と対魔術強化の魔法を掛けた。
「おお?なんスかこれ?体が光ってるッス!」
「身体強化と魔力抵抗の術を掛けた。暫くは持つから、その間に中の奴を倒そう」
「任せるッス!とりゃあ!」
いきなりドアを蹴破るとノイアとジャジュカは部屋へとなだれ込んだ。コイツらの度胸の良さは一流だな・・・無鉄砲に見えるが、前衛なんてそれでいい、中衛と後衛がシッカリしてりゃいいんだからな。
「げ?スライム?」
俺は慌てて二人の武器に魔力を付加しようとしたが、銀エルフの二人がやってくれた。流石に精霊術の方が早いよね・・・俺が部屋を見回すと、周囲の石像が動いたように見えた。
「エーテルブレード!」
俺は刀にエーテル魔法をかけて、石像に斬りつけた。ガーゴイルだ。こうゆう怪しい石像は大体、ガーゴイルと疑っておいて間違いはない。間違って斬っても問題ないしな。
横目で他の連中を見ると、苦も無くスライムとガーゴイルを片付けている。そして、これみよがしに鎮座する宝箱に胸が躍った!金はあっても、これこそが遺跡やダンジョンに潜りこむ醍醐味だろう!
「さあ・・・どんなお宝が・・・と、何か仕掛けは?」
「呪いが掛けてありますが、私のドルイド魔術で解呪が可能です。お待ちを・・・どうぞ」
俺は天に祈りながら、サイコロを振る気で宝箱をそーっと開けてみた・・・おお?
「これは・・・持ち帰れますか?」
「そのために大きめの袋を持ってきたんだ!全部詰め込む!」
中には金貨に短剣や宝石が入っていた。俺には読めない文字だな。いつ頃のだ?
「なあ、この金貨って誰か見覚えある?俺は文字すら読めない」
「これは古代の物でしょうね。この短剣に掛けられている魔法はかなり古い物だと思います」
「歴史家とかいたら、年代測定とか出来るんだろうけどな。それは帰ってからギルドに鑑定させるか」
俺は宝物を持ってきたズタ袋に入れると肩に担いだ。
「御堂様、そのような物は私めに持たせて下さい」
「俺しか男がいないし、前衛の二人には持たせられない。ダークエルフは筋力的には人間の男より若干弱いし、お前達は女だ。男の俺が持たないでどーする。手を空けとけ、前衛のサポート宜しくな」
「・・・畏まりました。仰せのままに」
「あ、女扱いされるのって嫌だったか?ほら、お前等、戦士とかってこだわりあるっぽいし・・・」
「戦士の誇りと、女性扱いして頂けるのは別です・・・ありがとうございます」
???よく分からんが礼を言われた。まあいいや、不愉快じゃないならそれでいい。
「さあ、先行くッスよ~!まだまだお宝が私達を待ってるッス!」
それからも俺達は合計三つの部屋を開けて、お宝を手に入れた。まだ持てるが・・・そろそろキツイか?いや、俺は欲張りなんだ!
「どうしようか?俺はまだまだ先へと行きたい!しかし、かさ張って来たのは事実だ」
「では、次に部屋を見つけるまで進んではいかがでしょうか?この場所までのマップは取りました。明日来るのであれば、ここまですぐに来れると思います」
そうだよなぁ・・・ここ、かなり広いし一回目で踏破は不可能だよね・・・全部、調べ尽くしたいし。
「オーケーそれで行こう、俺はちょっと欲張りだから・・・あ?」
一同:え?
「なあアキノ、お前の怪力なら、これ全部背負えるよな?」
「はい、問題なく持てるッス」
「私でも持てますよ?」
おお・・・流石は獣人だ!並みの男とは比べ物にならん力自慢だ!
「前衛交替だ、俺とジャジュカが前衛で、アキノが荷物持ちで中衛な。それなら、まだまだ行けるだろ」
「おお~なるほどッス。御主人も欲が深いっすねぇ」
ニヤニヤしながらアキノが俺から袋を預る。
「当然だろ、だがいざとなったらその全てを捨てて逃げる覚悟がある。命より大事な宝物なんてないからな」
「それは勿体ないッス・・・それ全部あったらうちの村の千年分の収入より多いッス・・・」
「だろうな・・・これだけあったら、兵士達に更なる良い装備が買えるし、食い放題飲み放題だ。ああ、今も食い放題飲み放題だけどな」
ギルドの稼ぎも馬鹿にならないが、これは流石に比較にならない。
「じゃあ、次の部屋を片付けたら小休止しようぜ。腹も減ったしな。もう3時間くらい経つだろ?小休止して何か食おう。なんなら少し飲もうぜ」
「お酒を持ってきたッスか?」
「ああ、三馬鹿が何処でも飲むから、いつもの癖でな・・・」
「御主人、愛してるッス・・・」
「お酒は生きる活力ですよねぇ・・・」
うむ、獣人は飲むの大好きだからな。知ってたけど。
「あ、大きな扉ッスね。ここは大物がいそうな・・・」
「・・・お前等、装備以外の荷物を全て通路の端へ置け。本気で戦う事になりそうだ」
扉の中からは強力で邪悪な力を感じる。これは生物じゃないかもしれないな。
「掛けられるバフを全て使う、そして前衛は俺で行く。アキノ、ジャジュカは俺の左右少し後方へ。いいな?この敵は、この世の者じゃない」
そう言うと俺は全員に耐久力強化・対魔術強化・身体能力強化を掛けた。
「二人共、他に掛けられるバフはあるか?」
二人はすぐさま、それぞれが四大エレメント属性強化と精霊の加護を掛けた。これは俺の知らない術だな・・・
「じゃあ行くぞ・・・」
「御堂様、お待ちを」
そう言ったかと思うと、ネイアが突然、俺の首へ腕を回して激しくキスをしてきた・・・びっくりして固まる俺と一同だったが、ネイアは精霊の加護です。そう言って表情を変えずに離れた。そうなんだ・・・びっくりしたわ。
「っ・・・そんな精霊術はない」
小声でライザが何かを呟いたが、よく聞こえなかった。突然の美女のキスに俺はちょっと頭がボーっとしていた。
「御主人は意外とチョロいッスね・・・」
「ええ、これは私にもワンチャン?」
「・・・黙れ、行くぞ!」
俺は気恥ずかしさも手伝って扉に突っ込んだ。苦情は受付けん!俺はそのまま駆けたが、部屋は思いのほか広かった。広間か?俺は光球を放って辺り一面を照らし出した。そこに現れた姿は想像とは違ったものだった。
「・・・これは、アンタ生きてるのか?」
「・・・人間?逃げなさい!今すぐに!」
「散れ!上だ!」
俺は四方から迫ってきた気配から飛びのいてかわす。全員がその場から飛び退る。皆、流石の跳躍力だ。これは人間のPTだったらその場で何人か取られていた。
天井にいたそれは、四つの顔を持っていた。下半身は蜘蛛、胴体は甲虫のような体、その上に老人、狼、妖艶な女の顔と焼け爛れた男の顔が付いていた。
「クックック・・・数百年ぶりの獲物だ・・・」
「どうする?私は男が良い、なかなかの美形じゃ」
「儂は女を頂く」
「俺も女を・・・死ぬまで犯してから魂まで貪り食ってやる・・・」
それぞれの顔がおぞましい声を出す・・・
「お前等が死ね!」
俺は叫んで、両手で素早く印を組むと、四体の分身を作り出した。そしてその四体が天井の悪魔へ向けてファイアボールを放つ!爆炎を避けるように悪魔は下へと着地する。
「・・・男が消えた?」
悪魔のうちの女が俺の姿を見失って辺りを見回す。
「こっちだよ、エーテルブレード!」
本体の俺は風の結界をまとって炎を無効化し爆炎の中に身を躍らせて奴を背中から斬り付けていた。
《ぐぎゃああああああああああ!!》
悪魔が苦悶の声を上げる。そうだろう、これは悪魔だろうと切り裂く光の剣だ。お前のような相手を想定して学んでおいたんだよ!
「御堂様、お下がり下さい!」
ライザとネイアは《サラマンダー》を召喚して、悪魔への攻撃を命令していた。いいぞ、流石だ。
「アキノ!ジャジュカ!お前達は部屋の外へ出ていろ!コイツを片付けるまで入って来るな!」
「おのれ小僧!炎を目くらましに使ったのか?楽に死ねると思うなぁああぁあ!」
「ハッ!下級悪魔が吠えるんじゃねえ!」
・・・コイツはレッサーデーモンではない、悪魔とは必ず戦う事になるので、書物で詳しく調べていたが、コイツの様相と感じる魔力は下級なんかじゃない、グレーターデーモンより上だと見て取る。まさかアークデーモンではないだろうが・・・俺は万が一の事を考えて、悪魔を見て怯んでいたアキノとジャジュカは退避させていた。
「無より生じた原初の光よ、我は請い願う。我が手に集いて・・・」
「調子に乗るな人間風情が!」
俺は詠唱を中断して、脇へ飛んで奴の口から飛び出した酸の攻撃から身を遠ざける。跳ねてもかかっても危ない、長い詠唱は無理か?無詠唱の呪文とエーテル体をまとわせた刀で奴の体力を削るしかない。
奴はそれぞれの口から、酸・炎・冷気・糸を吹きかけて攻撃して来る。そして足も攻撃して来るので接近戦も危険を伴う。しかし、銀エルフ二人に近接戦闘をやらせる訳にはいかない、危険であっても俺が前衛で奴から彼女達の注意を逸らさなければ・・・!
「っ・・・逃げなさい人間よ!お前達の敵う相手ではない!」
あれは天使なのか?身体を茨で拘束された痛々しい姿だが、エーテル体である天使を拘束しているとなると、ただの茨じゃないんだろうな。あちこち血を流していて痛々しいが、瀕死ではないな。
「黙ってろ、注意が削がれる!」
「っ・・・!」
俺は分身体と実体を合わせて奴を牽制して注意を逸らそうとしているが、奴も最初の一撃で本気になったのか、容易に隙を見せない。
「人間風情に必死だな?そんなに俺が怖いか!」
「笑わせるな人間が、貴様の五体を引き裂くのが楽しみよ!」
「待て、あれは挑発だ。奴は中々に賢しい」
「何を弱気な事を?奴の言う通り臆したとでも言うのか?」
「そうじゃそうじゃ、早う奴を食らって斬られた力を取り戻さねば」
「おやおや、仲間割れか?無様だな!」
俺は奴を挑発して酢気を伺いながら、無詠唱で呪文を次々と飛ばして奴の体力と注意力を少しずつ削っていく。ライザとエルザは俺の意図を読んで、俺同様に散発的に攻撃を仕掛けている。流石はダークエルフの手練だ。
細かい話しになるが、俺は奴に放つ呪文に様々な種類を試している。最も効果が高いのはエーテル魔法で、次にアストラル魔法なのは間違いないが、そればかりではなく四大元素の呪文を折り混ぜて奴に放っている。精霊魔術は魔力消費が少ないためと、奴にエーテル魔法とアストラル魔法を叩き込むダミーとして他の呪文を使っているためだ。
俺に斬られた傷はやはりダメージが大きかったようだ。時々、顔を歪めたりしているし、力を取り戻すとか言ってたよな。無防備な背後からの一撃だった。あれで大したダメージ無かったら、とっくに逃げてる。
「お前も芸が無いな。攻撃の幅が少ない!それじゃ魔獣風情と変わらんぞ?早く本気を見せてみろ、そこの犬は命令ちゃんと聞いてるか?」
「何だと?俺が他の頭の家来だとでも言いたいのか!?」
「よせ、挑発じゃ、乗せられるでないわ!」
「黙れ!俺に指図するな!」
「・・・愚かな」
・・・コイツらが馬鹿で助かった!ワンちゃんゴメンな!(笑)
「エーテル・ミサイル!」
俺は無詠唱ではあるが、エーテル魔法のマジック・ミサイルを全弾命中させた。これは痛いだろう・・・
・・・アタシ達は逃げ出した。あの悪魔は私達なんかが勝てる相手じゃないんだと本能が告げていた。御主人に仕えると決めて、最初の冒険に誘って貰って、何体かのモンスターをやっつけて調子に乗った挙句がこの体たらくだ・・・
自信はあった。だからモンスターが何匹いようと怯む事なく戦えた。でも!あれは・・・人間や獣人が勝てる相手なんかじゃない。今でも恐ろしくて動けない、そしてそんな無力な自分が恥ずかしかった。
御主人は今でも戦っている。何故、あんな化け物と戦えるの?御主人は強いから?ならダークエルフは何故、逃げ出さないで御主人と共に戦えるの・・・?怖い怖い怖い怖い、今すぐここから逃げ出したい・・・でも!私の体には御主人がかけてくれた魔法の加護がまだ光ってる!
「・・・ジャジュカ、荷物は全部捨てて、一人で逃げて」
「アキノ・・・あんたまさか」
「アタシは、ここで御主人を守って死ぬ。だからジャジュカは逃げて」
「フゥ、あんたがそう言うのを待ってたのよ。私達はやっぱり半分、獣なのかもね。御主人様を守って死にたいわ・・・」
二人は拳をガッと合わせた。
「ノーム!悪魔を地に沈めなさい!」
ライザが地の精霊に命じると、蜘蛛の下半身が地面に沈んでゆく。
「そんな子供騙しが通じると・・・」
「原初の木より生まれた種よ芽吹け・・・」
ネイアが呪文を唱えると、周囲から木々が生えて蔦が伸び、悪魔の体を絡め取り始めた。これがドルイドマジックか!?俺がこの好機を見逃すはずがない、俺は三つ目のチャクラを発動させる。そして疾風となって奴の胴体に剣を突き立てると同時に即座に離れ呪文の詠唱を始めた。
だが・・・奴はまだ反撃する余力があった。奴は蔦に絡め取られた隙間から、何とか足を地面から抜き出すと俺に目掛けて槍のように突き出した!俺は致命傷だけは避けるべく、詠唱を続けながら少しだけ身を捻ろうとした瞬間・・・
ザンッ!銀光が二つ閃いて悪魔の足を切り飛ばした!
「御主人に触るな化け物!」
「殺す殺す殺す!御主人様に仇為す化け物め!」
そして、そのまま二人は左右に別れて二手から胴を剣で貫いた。でかした二人共、よく頑張ったな・・・俺の口元に笑みが零れた。
「無より生じた原初の光よ、我は請い願う。我が手に集いて闇をを払う一筋の光たらん事を・・・アルファ・レイ!」
そして、俺が今使えるエーテル系最大出力の呪文の光は、悪魔を貫き消滅させた・・・
俺は刀を杖に、その場に片膝をついた。
「御主人!」
「御主人様!」
「御堂様!」
一名は無言で飛びかかるように俺に抱きついた。ネイア・・・こんな時でもあまり表情が変わらないのな・・・
「お、お前等・・・無事だな?」
「はい御堂様、ネイアは無事でございます」
「そ、そうか・・・元気なのは分かったよ。一人も死ななくて良かったな」
・・・ネイアってキャラ違くないか?これまでの印象と全然違うぞ?
「なあ、ネイアって、さっきの激烈ベロチュウといい、クールな見た目と違って積極的過ぎじゃないッスか?」
「おかしいな・・・ネイアってこんな奴だったか?姉さんに報告しないと・・・」
「私は御主人様が無事ならそれで良し!」
「ああ、すまないネイア、ちょっとどいてくれるか?ほら、あそこの羽根生えた奴を何とかしないとな・・・」
・・・え?今、舌打ちした?まあいいか・・・本当はもうちょっとネイアの胸の感触を楽しみたかったが、俺は刀を肩に担いだまま羽根の生えた人物に近付いた。
「・・・おい、アンタは何者だ?天使・・・なのか?」
「・・・私は第七位階、権天使プリンシパリティのファムリエル。まさか人間があの悪魔を倒すとはな」
俺は天使を捕らえていた茨を刀で切り裂いた。すると、彼女は俺に倒れ込んできた。
「ああ、すまん。倒れ込んで来るとは思わなかった。つか、真っ裸なのは何故だ・・・?」
俺がそう聞いてみると、彼女の体は光を放ち始めた。
「まぶしっ!?」
「・・・助けてくれた事には礼を言う、だがいつまで私を抱きしめているつもりだ?」
「・・・は?」
俺は彼女を離してみると、そこには青い鎧に包まれた姿になっていた。
「御堂様・・・私では不満だったのですか?」
「御主人・・・見境い無いッスね」
「・・・御主人様も、お若いし仕方ないわ」
「・・・姉さんに報告しないと」
おい・・・お前等ちょっと待てよ?俺は受け止めただけだろ?俺から無理やり抱きついてないよね!?
「あー・・・じゃあ終わったから、各自、この部屋を探索したら帰るぞ・・・」
「天使を抱きしめたから帰ると?」
「・・・もう気が済んだッスか?」
「終わり?意外と淡白な・・・」
「・・・姉さんに報告しないと」
お前等・・・もう止めてよ・・・俺をいじめて楽しいか?今、かなり疲れてるんだけどさ・・・
「人間よ、少し待って欲しい。この遺跡には私の仲間が居るかもしれないのだ。他に囚われた仲間がいたとしたら、私は助け出したい。力を貸しては貰えないだろうか?」
「あの・・・もう勘弁して貰っていいッスか?俺もう心身共にボロボロになっちゃって・・・」
「そこを曲げてお願いする!私はどうしても同胞を救いたい!今の力が戻っていない私では同胞を助ける事も出来ないのだ・・・」
・・・そんな事言われても、ハッキリ言って接戦だったぞ?いや、実はまだ、かなり余裕あったんだけどね。三つ目のチャクラを廻したのは、ほんの一瞬だったからな。ヤバくなったらチャクラ全開でライザとネイアを担いで逃げるつもりだった。獣人二人は足は速いしな。
「あのな、ガブリエル。俺達はこの遺跡に初めて探索に来て、予定外の悪魔と戦ったんだ。ちょっと今からこの遺跡を探索して仲間を探すってのは無理があるだろ・・・何日かかると思う?俺達、マッピング始めたばかりよ?」
「それに、あれ以外にも悪魔っているの?奴より強い?」
「いや、奴がこの遺跡で私を縛り付けていた悪魔だから、奴以外に悪魔がいたとしても、大して力の無い下位の悪魔しかいないとは思うが・・・それと私はファムリエルだ」
「じゃあさ、この遺跡から出て、天使の仲間でも呼んで救助して貰ったらどうだ?」
「・・・私は数百年間、奴に力を吸われ続けた。だから天界に帰る力が当分は無いのだ。救助も呼べない・・・」
「・・・常しえより来たりて、形無き者を縛らん。アストラル・バインド!!!」
「グッ!?」
・・・引っかかったな。気付かないとでも思ったか?馬鹿が!
「おーい、お前が最後に分離して隠れてたのは気付いてたんだよ。さあ、死んで貰おうか・・・」
「悪魔!?まだ生きていたと云うのか?人間、気付いていたのか?」
「ま・・・待て、私は奴等とは違う、あの馬鹿共は自滅したのだ。私は」
「フレア・ランス」
「ぐあああああっ!待て、待ってくれ、人間よ、私を殺すな」
「お、まだ生きてるな。じゃあ次は・・・」
「待って・・・何が欲しい・・・何でもするから許して・・・」
「本当に何でもするか?」
「え、ええ・・・私は人なんかよりずっと役に立つわ。勿論、女としても・・・」
・・・命が助かりそうだと余裕を取り戻したのか、女悪魔は妖艶な笑みを浮かべた。
「そうか、なら契約だ。お前は俺に従属しろ」
「な?悪魔を従えると云うのか?人間よ?」
「・・・そうだ。俺は使えそうな奴は使う、アンタに指図される覚えはない」
「流石は御堂様です」
「うわぁ・・・外道ッスね。でもいいと思います」
「いいんじゃないかしら?強力な悪魔を従えるなんてラッキーでしょう」
「姉さんでも、殺すより生かして使うわね」
「お・・・お前達は・・・」
頭を抱えている天使を華麗にスルーして、悪魔をじっと見つめる。この女悪魔はあの悪魔達の中で一番強力で賢かった。その事に俺は気付いていた。
「・・・お前、俺がまだ力を残していたのに気付いてたな?だから仲間を見捨てて逃げる気になってただろ?」
「・・・はい、私は貴方のチャクラの力に気付いていました。奴等もチャクラには当然、気付いていたはずですが、更にもう一つ使える可能性を私は考えました・・・」
皆は一同に驚いた顔をしていた。チャクラの事は天使は流石に気付いていただろうが、俺がまだ余力を残していた事に驚いたようだ。
「三つチャクラを廻した俺と、そのまま戦っていたらどうなっていたと思う?」
「・・・分かりません。しかし、結果がどうであれ私達は敗れました」
「分かった。最後の質問だ。どうする?」
「貴方を主として従います。私の名はシビウと申します」
悪魔が名を明かすのは、降参した証拠だ。俺はシビウの降伏を許した。
「俺は御堂龍摩だ。今からお前は俺の使い魔だ。早速、初仕事だ。そこの天使の他に、まだ捕まえているのがいるか?」
「はい、一体を捕らえています」
「な・・・?本当か?」
「じゃあ、案内しろ」
フゥ・・・殺さなくて良かった。流石に今から探すとか、かなりのしんどいからな。それに、コイツは強力な悪魔だから使い魔として充分に役立つだろう。
「ルシエル!」
「ああ、知り合いだった?良かったな。見つかったぞ」
俺はさっきと同じように刀で茨を切り裂いてやった。さっきは抱き止めたが、今度は避けたらそのまま顔面から地面に倒れた。
「ルシエーーール!」
「ああ、御堂様。今度はちゃんと避けてくださいましたね」
「御主人・・・それは鬼畜ッス・・・」
「こっちの天使は好みじゃないのかしら?かなりの美女よね」
「・・・これ以上、姉さんに報告出来ない」
「流石は私の主様、天使如きには情けもかけないのね」
お前等・・・いや、もういいや・・・悪魔にも何か言われてるけど・・・
「えっと・・・大丈夫か?さっきそっちの仲間に受け止めたら怒られたから、そのまま受け止めなかったんだ。悪いのは仲間の・・・なんだっけ?」
「ファムリエルだ!そしてちゃんと受け止めろ!しっかりしろルシエル!」
「・・・痛たた、大丈夫よ。ファム・・・助かったわ。ありがとう人間さん」
「大丈夫で良かったな。俺は悪くない、仲間のファムっちが悪い。じゃあ今日はもう帰ろう、流石に疲れたわ」
俺達は遺跡の出口へ向かったのだが、近道があったらしくて、三分の一の時間で出口まで辿りつけた。ラッキーだな!宝はまた今度、悪魔に持ってこさせよう♪
「あ~疲れた・・・しかし、充実した一日だったな!未踏破の遺跡を一発でクリアしたぞ。お宝もガッポリだな。おい、シビウっつったな。明日にでも片っ端から持って来いよ?」
「ええ、勿論ですわ。主様」
「時間掛けて歩いて帰るのダルいから、走るか?みんな体力的に大丈夫か?」
一同を見回すと、みんな意外と元気だった。うん、流石によく鍛えてるし、何だかんだ言っても、みんな、かすり傷くらいしかないしな。
「すまないが、私達は走ったり飛んだりする体力は残っていない・・・」
一同:・・・・・・・・・
「ああ、そうか・・・じゃあこれ、水でも渡しておく?食料とかいるか?いるだろうな。一応渡しておくわ、じゃあこれで・・・」
「人の子よ・・・私の話しを聞いていなかったのか?私達には天界へ帰る力も仲間に助けを呼ぶ力もないと伝えたはずだが・・・」
・・・・ああ、何かそんな事言ってたような気もするが
「だから水と食事を渡しただろ。金か?分かったよ、アキノ・・・金貨を何枚か分けてやれ」
「了解ッス!じゃあ大盤振る舞いで金貨10枚!当分、暮らせるッスよ!」
「いや、そうではなく私達は・・・」
俺はダッシュで逃げ出した。皆も以心伝心で俺に続いて駆け出した・・・
「ちょ?待て?待って!?ああもう!行くぞルシー!置いて行かれる!」
「待ってよファム~~~~」
奴等は体力が無いと言っておきながら、俺の城まで結局着いて来た・・・
「ゼーハーゼーハー・・・おい、まさか私達を見捨てるつもりじゃないだろうな・・・?」
「ば・・・馬鹿言ってんじゃねえ・・・水と食料と金まで渡しただろ?その辺の宿屋にでも泊まれ!この鳩ぽっぽが!」
「は・・・鳩ぽっぽだと?私達は第七位階、権天使プリンシパリティだ!この美しい翼が鳥に見えるのか?たわけが!」
「知るか!大体、何で宿屋に泊まれないんだよ?うちに泊まる事ねーだろ?」
「第七位階、権天使が宿屋に泊まれる訳がないだろう?よく考えて物を言え人間!」
「あ~これはもう、子供の喧嘩ッスね。御主人~仕方ないから泊めてあげましょうよ~」
「だが断る!そっちのルシエルって奴は構わんが、この鳩は嫌だ!」
「プッ・・・何か、兜の形とかがクチバシに見えて、確かに鳥っぽく見えない事もないわね」
ジャジュカがそう言って笑うと、顔を見合わせた残りの三人も突然笑い出した。
「な・・・?何だ?何がおかしいのだ?この兜か?兜が良くないと言うのか?」
笑っていた皆を見ていたら、俺まで可笑しくなってきて笑い出してしまった。アカン、ツボった。止まらんわ。
「・・・お前、私の裸を見たな?」
一同:シーン・・・・・・・・・
あ、久々に静まり返った。しかも一気に・・・
「ば・・・?お前、真っ裸だっただろ?ここにいる全員、見たじゃねーかよ!?」
「・・・私を抱きしめたな?」
こ・・・コイツ、逆ギレしやがった!?
「お前が倒れてきたんだろうが!」
「どうだか・・・我等、天使の美しさに劣情を催したのではないのか?」
「・・・御堂様、その辺どうだったのですか?本当の所をお聞かせ下さい」
「ああ、あれはちょっとアリだったかもしれないッスねぇ・・・」
「御主人様は男ですし、それは普通ではないの?」
「・・・姉さん呼んで聞いてみようか?」
「女であれば天使であろうと犯すのは男としての本能でしょう、悪魔的に問題ありません」
「あの・・・人間さんとファムの間に間違いが起きていたのですか?
ああ、そうですか・・・皆さん、そうゆう展開を本気で望んでるんですね?
「フゥ・・・上等だ!ここで犯してやる!」
俺はファムリエルを押し倒そうと掴みかかるが、奴は俺とガッチリ手を組んで力比べの様相になった。
「やはりな!貴様の下心は分かっていた!さあ、やれるものならやってみろ!私は簡単に人間如きに貞操を奪われたりはせん!」
「黙れ!お前は明日の朝には恥ずかしくて天使を名乗れない体にしてやる!」
「・・・ねぇアンタ、本当にこんな人だかりの中で女襲う気なの?剛の者ね」
・・・耳元で聞こえた羽虫の声に周囲を見回すと、城から出て来た三馬鹿、金銀エルフ、獣人にメイドとヴァネッサまで出てきて俺達を見物していたのであった。
「主殿・・・天使とは珍しい者を拾ってきたものだが、獣欲が抑えきれぬのであれば、我はいつでも構わぬが・・・」
「ヴァネッサ殿、御堂様のお相手は、暫く私に譲って頂けませんか?私はまだ男の肌を知りません・・・」
「何と・・・お主は中々の美形であろうに処女であったか、構わぬぞ。我は狭量な女ではない、そう言えば主殿はダークエルフの誰かを寵愛したとは聞いておらぬな」
・・・もう他国に家出するしかないな。三年くらい・・・
俺はそれから、暫く部屋に篭って天の岩戸になっていた。扉にはエーテル魔法を始め、様々な属性の呪いを掛けておいた。一週間、飲まず食わずで部屋のカーテンすら閉め切って布団被って寝ていた。
三馬鹿を始め、皆が様々な手を使って俺を部屋から出そうとしたが、俺は全てを無視していた。この扉はこの城の者達では絶対に開けられないようにしてある。
「・・・おい、いい加減に起きたらどうだ?私に欲情したのがそんなに恥ずかしい事だったのか?」
扉に掛けた術は、全て天使には無効だった・・・(汗)
「・・・大昔の話しだ。人間の美しい娘達に欲情した天使の同胞達は人間との間に子を作ったと云う。天使にとっては禁忌とも言える話しだが、天使ですら人に欲情することもある・・・そうゆう話しだ。お前が私に欲情したとして、主以外の誰がお前を責められようか?」
・・・おい、誰がお前に欲情したって?こいつはマジで・・・
「人間のお前から見れば、天使である私は、さぞ気高く美しく見えるのだろう、無理からぬ事だった。お前の仲間も皆、励ましているではないか?恥じ入る事などないではないか」
・・・何を良い人ぶってんだ?こいつ正気か?
「おい、いい加減に起きろ。私は人を慰めるのが苦手だ。私は戦士だからな。ルシエルのように優しくするのは苦手なのだ」
「ああ、扉が開いたのですね?天使殿、2時間程、部屋から出て行って貰えますか?御堂様は私がお慰め致します」
ああ、ネイアが入って来たのか、彼女がその気なら慰めて貰おうかな・・・
「汝、姦淫する事なかれ!」
「ほぅ・・・遺跡の探索中に天使だと?そして悪魔を使い魔に?お主も次々と様々な事が起きるのじゃな」
俺は城を抜け出して帝都の皇帝の元へ来ていた。ウルサ過ぎて寝てらんないから、爺さんとショギーでもしながら茶飲み話しでもしようと思ったからだ。
「・・・ああ、獣人達も兵として加わったよ。300人はいるな。もっと増えるかもしれん」
「獣人か・・・奴等には気の毒な事をした。儂が若い頃に国内で彼等はよく戦士として働いてくれていたのだ」
「そうだったのか、じゃあ今はなぜ?」
「この帝国内で、元々は獣人に居住権が存在しなかった。儂が皇帝に即位した際に彼等に帝国法を守らせる代わりに、居住権を与えたのだ」
そうだったのか、獣人達への風当たりは今より当時の方が酷かったのだろうな。それを爺さんが少しでも改善していった訳か。
「・・・差別ってのは何処でも無くならんよ。それに、俺は差別される側にも全く責任が無いとは思わない。火のない所に煙は立たない、必ず原因となる要素も多少はあるもんだ」
「うむ、お主の言う通りだ。兵として獣人達は人間より高い戦果を挙げてくれたが、同時に彼等は驕り高ぶった。それで、人間の兵士達は彼等への憎悪を募らせた」
「・・・迷った儂は、将や兵として仕えてくれた獣人達を全て解雇した。貴族共の反感も高かったのでな」
「体の良い追放だな」
「そうじゃ、だから儂は彼等には済まない事をしたと悔やんでおるよ。しかし、そうしなければ人と獣人の間で大規模な内乱が起きていただろう」
爺さんは紙とペンを取ると、サラサラと何事か書き出した。
「・・・ここに、儂がかつて重用した獣人達の名が記されておる。探し出して雇用するが良い、戦についても彼等は詳しい、今の若い者達よりずっと物を知っておるはずだ。必ず、そなたの力になるじゃろう」
「おい・・・アンタが使ってたって事は、もう死んでるかもしれんだろ?生きていたとしても、足腰立たない老人だったらどうすんだよ・・・」
「フォッフォッフォッ、奴等はそんなヤワな連中ではないぞ、騙されたと思って探してみぃ」
・・・まあ、獣人達に指揮官が居ないのは困っていたのは確かだ。当たってみるか。
「・・・ところで爺さん、俺の領地を帝都の南に配置したのは、万が一の時に、他国からの敵の盾にするつもりだろ?」
「フン、今更じゃな。儂はお主の力量は評価しておるよ。役に立たない者であれば、盾にすらならんので領地等は与えぬ」
「狸ジジイめ・・・それで、領内の貴族達はどうだ?減った貴族達の穴埋めになる人材はちゃんといるんだろうな?」
「心配は要らん、ナスターシャの世代の貴族達は育っておる。そなたもその一人だと儂は考えておるんじゃがな・・・」
「おい・・・俺は政治には関わりたくないと言ってるだろ?」
「ナスターシャを娶ってみる気はないか?」
はぁ?突然何を言い出すんだ?俺が姫さんと?
「そうすれば、お主は皇帝にはなれぬが、女帝の婿となれる。お主がその気なら、ナスターシャは帝位を譲るかもしれんぞ?」
「冗談はよせ、俺は国なんて欲しくないし、爺さんを見てても面白いとは思わんよ。小さな領地でもやる事が山積みだ。それに姫さんも年頃だ。惚れた男の一人や二人いてもおかしくはない」
「若いのぅ・・・アレはワタシより弱い男とは結婚なんてしないから!とか思ってるタイプじゃ」
ああ~・・・それは、ありそうだな・・・
「気色悪いから物真似するな、しかも似てねえ。そんなに強い奴が良ければオーガとでも結婚させろ」
「お主はオーガより弱いのか?」
「言葉の綾だよ!探せばいるっつーの、自称、勇者様のような白馬の王子様がな」
「・・・確かにな。探せばいるやもしれん。お主より強く賢い者がな。だが、いたとしても王族や皇族の生まれでは、知略を知っていても打たれ弱い、必ず躓き挫ける。苦境を生き抜く雑草のような強さが、これからの時代には必要になるじゃろう」
「・・・爺さん、アンタ、これからの世の中が乱世になると考えてるのか?」
「誰にも先の事など分からぬ。じゃが、儂は娘や仕える重臣達が平穏無事な時代を生き抜く事になる等とは思えぬのでな」
・・・ヤバいな、俺はこの爺さんの器量を認めている。爺さんが言うなら、この大陸が荒れる可能性は、俺が思っているよりずっと高いのかもしれない。
「小僧・・・もし本当に国が滅ぶような危機が訪れた時には、国を守ってくれとは言わぬ。じゃが、娘やミネルバ、マリーナなどのお主の存知よりの者達は、殴ってでも国外へ連れ出してくれ。儂は娘達が国と命運を共にする事などは望んでおらぬでな・・・」
「それは、姫さん達が決める事だ。アンタは死ぬ前に国が滅びないように手を打っておくべきだろ?話しはそれからだ」
「言うまでもないわ。娘を娶れと言ったのも、打つ手の内の一つよ」
【貴方はどうしたいですか?何を望み生きてゆくのですか?】
誰かの声が聞こえたような気がした・・・なんだ?俺はどうしたいのかだと?
「フン・・・考えとくよ。マリーナもミネルバも死なせるには惜しい女達だからな。姫さんは殺しても死なないだろ」
「じゃあ、俺はそろそろ帰るわ。また来るよ」
爺さんに少し待てと言われて、メイドが一振りの刀を持ってきた。
「これは以前、東方の国より献上された品じゃ、お主の好みの剣であろう?」
「くれるのか?」
「儂は剣を振るう機会もないのでな。お主にくれてやる」
俺は礼を言って宮殿を後にした。
「おーい、三国志ごっこやろうぜ!」
俺はアキノを誘って三国志ごっこをやる事にした。三国志ごっことは・・・唯の長物を使ったチャンバラである。しかし、チャンバラと云っても侮ってはいけない。お互いの使う獲物はとても重たい。
俺の使う鉄棒は30kgで、アキノの使う大薙刀は38kgあった。お互い、30kgを超える武器を打ち合うのだ。兵士達の練兵所でやる訳だが、これをやると、兵士達が手を止めて俺達の打ち合いを見物する。
「やーやー我こそは関羽雲長!いざ参るッスー!」
そう言って大薙刀を俺に向かって振るってきた。俺はそれを鉄棒で打ち返す!手がジーンとして痛いが、これが慣れると癖になってくる遊びなのだ。
「やるな関羽!この馬超の槍を受けてみよ!」
そう言って俺は槍ではなく鉄棒でアキノの大薙刀をぶん殴る。凄い・・・支えきれずに、アキノが10mくらい吹っ飛んだ(笑)
俺達は数回、お互いの武器を叩き合う事が終わると、今度は接近戦で足を止めて武器を振り回して打ち合う。それはもう凄い速度で火花が散りまくりだ。ルールとして、100合打ちあったら終了だ。
「99!・・・100合!終わりだ!あ~楽しかった!」
「いや~三国志ごっこは楽しいッスねぇ!」
「そうだろ?普通、こんな重たい武器で打ち合う事ってないからな。すぐに武器も駄目になるわ」
お互いの獲物を見ると、ボコボコでギザギザである。当然そうなるわな。まあ、所詮は鉄と鋼で作った獲物なので、何個も作ってあるから。使い捨てだ。
だが、俺はこの遊びを思いついてから、別のアイデアが頭に浮かんでいた。それは、鉄と鋼じゃなかったらどうなるの?もっと強い金属だったら?という考えだ。
この世界には俺達の世界には無かった様々な鉱物がある。ミスリルにヒヒイロカネやオリハルコンもあると云う・・・かなりレアらしいが。最初にミスリルが思いついたが、すぐに却下した。
ミスリルの特性として、軽くて丈夫で魔物にも銀武器以上の効果があるのだが、軽い時点でもう駄目駄目だ。しかし、この帝国で取れるあまり使われないヴァルド鋼と云う鉱物に俺は目を付けた。
ヴァルド鋼の特徴は、重くて硬くて丈夫だ。鋼のように簡単に折れたり割れたりしない。この鉱物は帝国での産出量が多いのだが、あまり流通はしていない。理由は重いからだ・・・重い鉱物なんて、金槌とか以外に使い道はあまりないだろう。
重い包丁とか使いたくないだろ?重い剣や武器だって、軽い方が良いに決まっている。と云うのが一般常識なんだが、俺はそれを人間が使うからだろ?じゃあ人間以外の怪力種族が使ったら?ほら、目の前に人間以上の筋力持ってる獣人達がいるじゃん!と思いついたのだ。
だが、軽く恐怖も覚える。もしヴァルド鋼で作った武器を振るう獣人とか、それもう人間の一般兵士から考えたら恐怖でしかない。これを作って使わせて良いのだろうか?と多少の不安も覚える。
考えてみてくれ、数十kgの武器を振り回されたら、受けた木の槍は砕けて、盾で受けようなんてしたら吹っ飛ぶよ?大の大人が子供のように、何人も目の前で吹っ飛ばされてみ?みんな逃げ出すから。俺が三国志ごっこを考え出したのも、実は三国志の豪傑達を実現しちゃったらどうなるか?って発想からだ。
三国志演義は物語だ。実際に関羽は青龍円月刀ではなく槍を使っていたって話しだし、多くの豪傑達の武器も槍だ。だけどもし、自分が持つ貧弱な武器の数倍の重さと硬さを併せ持った武器を振り回されたらどうなるか?俺は三国志ごっこでそれを実験してみた。結果は見ての通りだ。遣い手にもよるが、吹っ飛びまくりだった。
「あー!三国志ごっこ終わっちゃったんですか?私達もやりたかった!」
ジャジュカとその仲間達がやって来た。彼女達も三国志ごっこが好きだ。ジャジュカの他の連中も腕が立つ。特にザヒネは中々の腕前だ。怪力さではアキノを超える剛の者だ。見た目は筋肉マッチョではなく、普通にスタイルのいいお姉さんなんだけどな。
「残念、終わったぞ。それにジャジュカの武器は槍だろ。槍は突くから三国志ごっこっぽくないんだよ」
「え~御主人様、酷いです・・・私、槍以外の武器も使えますよ?多分・・・」
そうだった。取り合えず槍を持たせたのは俺だった。じゃあ・・・どんな武器が良いだろう?戦斧とか?あ・・・でも・・・
「おい、三国志ごっこは今日のところは終わりで、お前等に付いて来て欲しい所がある」
「御主人様の部屋ですか?最初から大人数って言うのも・・・冗談です。叩かないで下さい」
「ちっげーよ、黙って付いて来い!」
先日、皇帝から貰った古強者の居場所が分かったから、コイツら連れて行こうと思ったんだ。同じ獣人がいた方がいいだろう、見た目は綺麗どころばっかだしな。男は美人には弱いものだ。爺さんだとしても・・・
「時間が惜しい、風の加護を使って走るぞ」
「おお!あれ凄いッスね!普通に走るより断然早いッス!」
「うん、でも横見たりすると顔を切ったりするから気を付けるようにな」
「了解ッス!」
それじゃあ付いて来い!と言って俺が走り出すと皆が付いてくる。風の加護があると言っても、この速度に付いて来れるのって獣人と銀エルフ達だけなんだろうな・・・30分程駆けた所で目的地の村へ着いた。
「この辺りなんだけどなぁ・・・」
「ここへ何しに来たんですか?」
「人探しだ。オウルって爺さんを探してるんだが・・・」
「あ、オウルさんならうちの爺様の友達ですよ。私、案内します」
お?この子は確か、アレーレだったな。俺達は彼女の後に着いて行った。
「オウルさーん!アレーレです!いますかー?」
「・・・おう!アレーレか!ちょっと待ってろ、今行くから」
中から野太い声が聞こえた。あんま爺さんって感じでもないな。オッサン臭い・・・と思ったら中から2mはありそうな大男が出て来た。マジかよ・・・しかも爺さんじゃなくてオッサンだな。本当に皇帝と同年代か?
「・・・ん?どうしたアレーレ、友達を連れて来たのか?」
「いえ、私の御主人様が・・・」
「ああ、こっからは俺が話すよ。ありがとうアレーレ。俺は御堂龍摩という者だ。この国の領主をやっている」
「・・・新しい領主様ですね?どういった御用件でしょうか?」
「実は・・・」
俺は皇帝から聞かされた話しをオウルに話した。彼は暫く黙っていたが、大きな溜め息をついた。
「陛下が・・・そのように、お心を痛めていたとは、お労しい・・・」
「まあ、俺はその頃いなかったが、話しを聞いた限りだと、どうしようもない状況だったんじゃないかと思う・・・あの爺さん、何だかんだ言っても割り切っては考えられない人なんだと思うよ」
「それに・・・まだハッキリとはしてないが、どうもあの爺さんの考えでは、この大陸で戦が始まる気配がするとの事なんだ・・・」
「え?戦争になるッスか?」
「・・・分からん。だが、俺はあの爺さんの目を信用してる。いつかは分からんが、そのうちなるんだろうな」
「陛下が仰るのであれば、間違いないかと思います」
オウルは断言した。流石はあの爺さんに長く仕えていただけあるな。
「この国が発端で起きるかは分からんぞ?他国での飛び火でなるかもしれん。それでオウル、俺に仕えてくれないか?」
「私が領主様に・・・?この老いぼれが?」
いや、アンタどう見ても老いぼれてねーよ・・・プロレスラーか山賊の棟梁って感じだ。しかも現役の・・・
「ああ、あの爺さんの推薦だ。俺はアンタで間違いないと思う、他のコイツらの名前が挙がっている」
俺は皇帝から渡されていたメモを渡した。
「これは・・・懐かしい者達の名前ですな」
オウルは嬉しそうに名を連ねたメモを眺めている。色々と積もる思いがあるんだろうな。
「で、返答は?」
「・・・未だに陛下のお力になれるとあれば、否やはございません。老骨の身ではありますが、再び国へ出仕致します」
オウルは片膝をついて俺に頭を下げた。・・・思ったより簡単に話しがついてしまった。もっと揉めるかと思ったんだが、コイツも皇帝が好きなんだな。
「他の連中はどうだろう?」
「私が彼等の元へ赴いて話しを説得しましょう、大丈夫です。陛下とこの国に受けた恩を忘れた者はいません」
オウルは自信満々に断言した。いい目をしている、これが本物の軍人って奴か・・・
「なあ、オウルよ。皇帝に忠義立てするのはいいが、実際に仕える者の力を試してみたいとは思わないか?」
「・・・宜しいのですか?」
「上等だよ、手加減しないからな?」
オウルは家の中に戻ると、馬鹿でかい山刀を持ってきた。
「では、参りますぞ!」
「ちょ、待て!それ無理!三国志ごっこにしよう!」
「はて・・・三国志ごっこ?」
「説明は後でするが、こっちの獲物が無い。とりあえず城へ行こう。走れるか?風の加護を使うから、割りとすぐに着くが・・・」
「・・・もう歳ですからな。駆けっこはちょっと・・・」
・・・・・・大丈夫か?このオッサン
「仕方ないなぁ、御主人様、オウルさんは私が背負います」
「すまんな。アレーレや・・・」
・・・え?この大男を背負うの?おんぶって感じじゃなくてお前が埋まるんじゃないか・・・?まあ、いいや・・・
「そ、そうか・・・じゃあ、風の加護を使って、走るから顔を横に向けないようにな」
そう言って俺は術を発動して駆け出した。その後を皆が付いて来るが・・・アレーレの姿が殆どオウルで見えないぞ?あれでよく走れるな・・・
「おお!?これは凄い、アレーレ、いつの間にこんなに早く駆けるようになったのだ?いや、これが風の加護?便利な魔法だな!」
これは、実際に風は吹いていないが、俺達の後ろだけ強風が吹いている感じなので、普通に走るよりずっと早く走れる術だ。ちなみに、コケるとトマトになるから気をつけないとヤバい。俺達はそのまま城壁を飛び越えて、練兵所まで一気に跳躍した。
「領主様?お早いお帰りですね?あれ、そちらの方は確か・・・」
「おお、お前は確かラグドの息子だったか?」
「はい、オウルさん、お久しぶりです」
なんだ、知り合いがいたのか。まあ、獣人の社会って意外と狭いらしいからな。知り合いが沢山いてもおかしくないか。
「じゃあちょっと待ってろ。俺の獲物を取ってくるわ。三国志ごっこのルールを聞いておいてくれ」
俺は兵舎に鉄棒を取って戻ってきた。
「ルールは聞いたか?単に100合まで打ち合うだけなんだがな」
「なるほど、実戦に近い遊びですな。面白い、受けて立ちましょう」
「じゃあ・・・オウルは夏侯惇だな。名乗りは夏侯惇にしろ」
「・・・夏侯惇なる人物を知りませんが、分かりました。我こそは夏侯惇なり!我を討ち取り手柄を立ててみせよ!」
「やあやあ、我は常山の超子龍!夏侯惇の首はそれがしが頂く!」
そういって俺達は互いの獲物を思いっきり打ち合ったが・・・俺は城壁まで吹っ飛んだ。勿論、激突はしないで壁に足で着地したが、これ普通なら潰れて死んでたわ。
対する夏侯惇オウルは3mほど後ずさっただけだったが、凄い笑みを浮かべいる。やだ・・・何かあのオッサンの顔怖い・・・
「領主様!やりますな!我が一撃を受けて、無傷で戻って来られるとは!」
「黙れ夏侯惇!勝負はこれからだ!」
俺達は互いの獲物をこれでもかと云う位に打ち合った。辺りに火花が飛ぶどころか、暴風が巻き起こっているかのようだった。周囲の皆が、危険を察知して距離を取り始めた。
「凄い・・・あの二人の三国志ごっこは私達とは次元が違う!」
「御主人、普段は手加減してくれてたッスねぇ・・・あれが本気なんスかね?」
「いいえ、御堂様の本気はあんな物ではないわ」
「・・・ネイアさん!?いつの間に!?」
「気にしないで、御堂様から目を離してはいけないわ」
「95!96!97!」
「98!99!100合!それまで!」
周囲の者達が俺達の打ち合いを数えていてくれた。必死だったから数を数えるの忘れてたわ・・・
「フーッ・・・いやぁ、本日、二回目の三国志ごっこだったが楽しかった!オウル!お前の怪力は凄まじいな!」
「フゥフゥ・・・御領主こそ!正直、その小柄な体で、それがしと打ち合う事が出来るのかと疑問でしたが、それがしの目が曇っておりました。凄まじい打ち込みで御座いました」
いやぁ、爺さんの売り込みだったから、少し心配していたが、これは拾い物だったな。戦士としてではなく、指揮官としての手腕を期待しての登用だったが、戦士としても一流だ。
「じゃあ、すまんがさっきの名簿の連中を廻って声を掛けて来てくれ。あの荷馬車使っていいから。あれは普通の馬じゃないから、大男がが何人か乗っても充分動けるから。
「心得ました。それでは、必ず皆を説き伏せて参ります。では!」
そういってオウルは颯爽と去って行った。元気なオッサンだな・・・さて、俺の次にやる事だが・・・
「街へ行って来るわ。供は要らないが、誰か行きたい奴いるか?」
「是非、私を!」
・・・即答したネイアを無視するのは流石に難しいな。
「じゃあ、ネイアにお願いするね・・・俺の速度に付いて来られるかな!?」
「追い駆けっことは・・・!次は私が浜辺で逃げる番ですね!?」
俺は脱兎の如く駆け出した。勿論、振り切るつもりでだが、ネイアはちゃんと付いて来ていた。銀エルフってホント有能だね・・・
「あの二人は遊んでいるのかしら・・・?」
「さあ・・・?御主人は普通に逃げたように見えたッス」
「・・・鍛冶屋ですか?」
「うん、ちょっと注文したい物があってな」
俺は中に入って親方に声を掛けた。カンカンうるさくて声がなかなか聞こえない。
「貴方・・・御堂様がお声を掛けているのに、無視ですか・・・?」
・・・ネイアが短剣を親方の首に当てている。駄目だコイツ早く何とかしないと・・・
「ちょ、ど、どうなさったんですか?あ、領主様?本日はどう云った御用件で?」
「大量に発注する事になった。大急ぎって訳じゃないが、急いで欲しい」
「領主様の注文とあっちゃあ他を後廻しにしてでも引き受けまさぁ!一体、どんな武器を御入用で?」
俺はヴァルド鋼の武器の相談をした。可能かどうかだ。
「ヴァルド鋼製の武器ですか・・・勿論、お引き受けしますが、珍しい注文ですね?それで、何の武器をどれ程ですか?」
「槍、剣を1000本に、それとは別で、棒、大薙刀、戦槌、戦斧、あと・・・大振りの山刀って作れるか?勿論、鞘も欲しい。それぞれ三本ずつだ。戦槌は両側を槌にするんじゃなくて、片側は両刃の刃物にして欲しい。切れ味は二の次でいいから、頑丈で壊れないように作ってくれ」
俺は下手な絵で戦槌の絵を書いて見せた。鍛冶屋の親父は少し考えていたが顔を上げた。
「一気には無理ですが・・・それぞれ時間を頂けるのでしたら。勿論、出来る限り急がせて頂きやす」
「ヴァルド鋼の現在の相場は?」
「鉄と鋼の1.5倍ってとこですね。あまり変動はありません」
「分かった。金は先に払うから後で城に取りに来てくれ。出来た品は一定の数が出来たら順次納品してってくれ」
「合点でさあ!流石は領主様だ。気風がいいねぇ!」
「はいはい、おだてても兵の装備以外の注文は出ないぞ」
「ヘヘッ、バレやしたか。でも、領主様には皆が感謝しているのは本当でさあ、前の領主様は・・・」
「まあ、そうだろうな・・・あ?忘れてた!以前に注文していたミスリルの剣を30・・・いや60本頼む!こっちも急ぎで頼むわ」
「いやぁ・・・本当に領主様は気風がいいですね。普通、家臣の方にミスリルの剣を作る領主様なんていやしませんよ?」
「俺だって並みの兵なら、並みの武器を渡すさ。だが、俺の部下は凄腕が揃ってるからな。半端な武器を渡して死なせる訳にはいかない。充分働かせているしな」
「・・・了解しやした。ミスリルの剣は50本の値段で、10本はおまけしやす!」
「悪いな親方!また注文があったら来るよ。じゃあ、またな」
「御堂様、申し訳ありません。ダークエルフのために高価なミスリルの剣を作らせて頂いて・・・」
「お前等はその価値に見合うだけの働きをしてくれてるから渡すんだ。だから簡単に死ぬなよ?」
ネイアが以前に俺に話した、里から俺へ仕える希望者を募ったところ、30名の参加が決定した。他の里へも使いを出しているらしいが、良い返事が期待出来そうとの事なので、更に30本を注文したって訳だ。
「私は御堂様の子を産むまでは死ねません」
・・・ねえ、ほんっとうに、この子どうしちゃったの?
「・・・何か必要な物があれば買って行くぞ?何か必要な物ってあるか?銀エルフは防御力が薄いから、防具でも選ぶか?」
「それでしたら、投げナイフを買っておきたいと思います。拾えない場合があって、減っていくので」
ああ、投げナイフか・・・エルフ達って、みんな投げナイフ使うよね。
「なあ、それならいっそ、投げナイフも鍛冶屋でまとめて注文したら?他の連中だって減ってるはずだろ?」
「それは良いお考えです。ではそう致しましょう」
そう言って俺達はまた鍛冶屋へ入って行って、投げナイフを注文した。ネイアが持っていたナイフを渡して、これと同じように1000本作ってくれと頼んでおいた。
「以前はうちの店、全く繁盛してなかったんですけどねぇ。領主様がいら
してから、うちの店はもう30年分くらいの注文を頂きやしたよ。領主様々でさぁ!」
親父は喜んでいて、100本オマケに作ると言ってくれた。消耗品だから本当に助かる。俺達はそれから街の巡回をしてみた。何か変わった事がないかと見回ると、街の住人達が気さくに声を掛けてくれる。住めば都って言うが、住んで間もないこの街にも慣れてきたな・・・
「1000本は少し多いのではないでしょうか?」
「ああ、多いな。でも、いざって時に買い足すようじゃ足りないんだよ。だから買える内に買っておく、敵が攻めて来たとする。その時に矢が足りなかったらどうする?軍備って云うのは、大目に持っておかないとならないと俺は思うんだ」
「戦いに必要なのは、武器と食料だ。それさえあれば、城に篭れば結構戦えるもんだ。食料と矢が尽きたら降伏するしかない」
「私の浅慮でした。お許し下さい」
「構わないよ、あくまで使い捨てに近い武器はそうだってだけだ。鎧とかは使い捨てではないからな。槍や剣も所詮は消耗品だと俺は思う。勿論、射たり投げたりする矢や投げナイフ程じゃないだろうけどな」
「やはり、戦争への備えなのですか?」
「・・・ああ、いつ起きるか分からないが、いずれ確実に起きるものだと思っていた方がいい。備えあれば憂い無しって言うだろ?だが、金で買えない物は難しい・・・」
「金で買えない物?」
「・・・人材だ。うちには人材は圧倒的に足りない」
「どんな人物が必要ですか?」
「魔法戦力と兵を率いる将だ。一度に何でもは出来ないからな。さ、飯でも食ってから帰ろうぜ。何が食いたい?好きな物を奢るぞ」
「・・・では、パスタ料理がいいですね」
女ってイタ飯好きだよね・・・俺も好きだけどさ。俺達は街でイタリア料理に似た食事を出す店へ行って、ピザとパスタ、飲み物に赤ワインを注文した。
「なあ、ダークエルフの長老達には怒られなかったか?」
「不機嫌でしたね。ですが、里を出た私達が仕えた御堂様が、子爵になって所領を得たと聞いた時の、あの老人達の顔を私は忘れません」
ネイアが珍しく笑っていた。普段笑わない女が笑うと可愛いな。
「そうか、こっちの情報をある程度は向こうも知っていたのだろう?」
「はい、噂で私達が冒険者に仕えた・・・と聞いていたようです。それを盗賊団にでも入ったのだろうと陰で笑っていたらしいのですが、私が里に戻って詳細を明かしたら、彼等は悔しそうでした。私が差しているミスリルの剣を見て、嘘ではないと理解したようです」
「銀エルフって、貴族に仕えたいとか思ってるの?」
「そうゆう訳ではありませんが、私達は英雄の資質がある方にお仕えしたいとは思っています」
ああ、前に聞いたけど、エルフ病は銀エルフも一緒なんだね。
「俺は英雄って柄じゃないぞ?謙遜で言うんじゃない、本当に本気でそう思ってる。金があるなら一日中、飯食って寝るだけの生活してたいくらいだ」
「良いではないですか、どんな人であろうと、心の中では自堕落な生活したいと思っているのではないでしょうか?みんな自分が大事だから、より良い主に仕えて、より良い生活を望むものだと私は思います」
・・・そうか、銀エルフ達は金エルフより、人間に近い感覚の持ち主だからな。それにしてもネイア、今日はよく喋るな。普段はあまり口を開かないから新鮮だ。
「前にも聞いた事はあるが、ネイアって何が好き?何をしている時が一番楽しい?」
「今の私は、御堂様のお傍にいる時が一番楽しいです」
・・・真顔で言われると、とても恥ずかしいんだが・・・
「あのさ・・・俺ってネイアに好かれるようなキッカケとかあった?記憶にないんだが・・・」
「・・・最初に会った時の事を覚えていますか?」
「それは、金エルフ達を狙ってた時の事か?会ったって程じゃないし、会話もしていないが・・・」
「リザードマン達を斬り捨て、私達に魔法を向けた時の御堂様に、私は生まれて初めて恋をしたのかもしれません」
・・・なんだって?あの場面の何処に恋する要素があったんだ?
「ええと・・・ただの戦闘場面の一幕だったと思うんだが。しかも俺が救ったのはレイン達で、俺は君の敵だった訳だよな・・・」
「お分かりにならなくて良いのです。私は説明するのは苦手です。とにかく、あの時です」
そう言ってネイアは微笑んだ。そうか・・俺にはさっぱり分からん。
「・・・俺は恋愛って実は苦手なんだよ。どうしたらいいかサッパリ分からないんだ。すまんな」
「御堂様が意外と不器用な方なのは見ていて分かります」
「え?うそ?そうなの?みんなそう思ってる?」
ネイアはクスクス笑って答えてはくれなかった。マジで?俺って、自分は小器用な方だと思うんだが・・・手先は不器用だから細かい作業って苦手ではあるが・・・それから俺達は食事を終えて、城へと戻った。
お?オウルがもう戻ってる。他に知らない連中がいるから、彼等がそうなんだろうな。みんなデカいな・・・まるで背の高いドワーフだ。
「おお!領主様、ただ今戻ったところです。皆、思った通り領主様に仕えてくれるとの事ですぞ!」
「そうか、それは良かった」
三人は片膝をついて頭を下げると、それぞれが名乗った。
「ガンドと申します」
「ギーバと申します」
「ガレンと申します」
「聞いておきたいんだが、お前達は兵の指揮って出来る?」
「勿論です!我等は先陣を切って敵軍を蹴散らしてみせましょう!」
・・・それは、ただ突っ込むだけって意味じゃないよね?俺は兵の指揮って聞いたんだが・・・まぁいいや。
「そうか、頼りにしてるよホント。うちには兵の指揮が出来る奴がいない。特に獣人達の指揮官が欲しかったんだ。オウル達4人に任せるよ。それと、獣人達の練兵も任せるから」
「お任せ下さい!若造共をしごきにしごいて、一人前の兵士に育て上げてみせます!分かったかウジ虫共が!笑ったり泣いたり出来なくしてやるから覚悟しろ!」
ハートマン軍曹の名ゼリフ、キタコレ・・・リアルで言う奴がいるとは思わんかったわ。ああ、でもハートマン軍曹は部下に殺されるぞ・・・?微笑みデブに気を付けろ!
「・・・しごき過ぎないようにな。俺の知ってる軍曹が、しごき過ぎて頭おかしくなった部下に突然、殺されたから・・・」
「ハッハッハ!それがし等を殺せるようになったら一人前ですぞ!」
4人は腰に手を当てて笑っている。頼もしいが、ちょっと頭が悪そうに見えるな。
「ああ、それと、お前達の武器は注文して来たんだが、防具はサイズが分からないから注文してない。街の鍛冶屋か武器屋へ言って好きなの買うなり作るなりしてきていいぞ。お前等に合う馬鹿デカい防具は無いからな」
「おお、それは助かります!早速、明日にでも行って参ります!」
「じゃあ、今夜は親睦会を兼ねて飲むぞ!」
おおおおおおおおおおおお!!一斉に歓声が上がった。うん、みんな本当に飲むの好きだな。宴会は深夜まで続いた。この人数で飲み食い出来る部屋はないので、練兵所での酒盛りとなった。俺は奴等ほど酒に強くないので、適当な所で部屋に戻って寝た。
「ルード、頼みがある。俺も手伝うから」
「はい!なんなりと!」
「前にヴァネッサの城で堀を作っただろう?あれを作る。この城、見た目を重視して作ってあるから防御はザルだ。またここで堀を作る。川から水引いて、またやるぞ。俺達の魔術なら、割りと簡単にやれるからな」
「ああ、ヴァネッサさんの城よりずっと小さいですからね。簡単な物です。私一人で出来ますから、御堂様は別のお仕事をしていて構いませんよ?」
「・・・ちょっと、それくらい手伝うわよ。私達に任せなさい」
近くに居たレインが胸を張って答えた。なるほど、エルフ達なら精霊術でどうとでもなるわな。そりゃ早いだろう。
「ああ、じゃあレイン達もルードを手伝ってやってくれ。ルードは他にも色々と仕事を頼んでるからな。彼女の負担は減らしたい、ルードは金エルフ達を監督してやってくれ。じゃあ頼んだぞ」
「カゲミいるか?」
「はい、主様・・・ここに」
「この手紙を、小箱亭のエクレアさんに渡して来てくれ。お前はそのまま、2~3日泊まって返事を貰って欲しい。ほら、お小遣いやるから好きに飲み食いして来い」
「・・・やりました。小箱亭の御飯がまた食べられる」
「シビウ、いるか?」
「勿論ですわ、我が主」
「お前にはまだ色々と聞きたい事がある。俺の部屋まで来い」
「・・・分かりましたわ。極上の快楽を教えて差し上げます」
「・・・そんな事は今は望んでない、お前には色々と聞きたい事がある」
「ちょ?今はって言いましたか?」
「主様・・・私達には夜伽を命じない」
「御堂!不潔よ!」
「あ~はいはい、お前等には指示出したろ?仕事に掛かれ。俺は結構忙しい」
そう言ってシビウを伴って自室へと戻った。
「さて・・・お前に聞きたい事は山ほどあるんだが、何故、あそこで天使を捕まえてたんだ?誰の命令で動いていた?何が狙いだ?」
「・・・大古の昔から私達は絶えず天使と戦っております。600年程前に、天使達が人間界での勢力を伸ばそうとした事がありました。そのために私達は・・・」
「・・・お前、俺を馬鹿にしてるのか?適当な話しで騙せるとでも?」
「い、いいえ!決してそのような事は!」
「じゃあ、俺が思ってるより、お前の頭が悪いって事か?俺は天使と悪魔のいざこざの始まりなんかを聞いてるんじゃない、そんなのは何万年も前からだろうが・・・俺に天地開闢からの話しでも聞かせるつもりか?」
「で、では・・・」
「俺が何を聞きたいのか、そんな事も分からんのか?」
こ・・・この人間は私が思っているより遥かに恐ろしい?当分の間、裏切る気はなかったが、完全に従属する気もなかった。見抜かれていたのか?
「・・・分かった。ついて来い、今から俺と戦え。俺の本当の本気を見せてやる。今度は誰の邪魔もされず、一対一でな」
「っ!お、お待ちを!無礼を心よりお詫び致します!どうか、御容赦下さい!」
「あのな・・・俺が仲間を大事にしているのは、ここに居る連中が本気で俺に仕えてくれているからだ。だが、そうでない者なら俺は適当に切り捨てるぞ」
「あの戦いを覚えているだろう?一人でも逃げた奴がいたか?悪魔のお前達が怖くても、俺のために一人も逃げずに必死で戦ったぞ・・・お前はどうだ?もし強大な敵が現れた時、お前は俺を捨てて逃げるだろう?だから、俺もお前を気兼ねなく捨てられる」
・・・そうだ。確かに誰一人逃げなかった。物を知らぬ愚か者共だからと最初は思ったが、獣人まで戻って来て、勝負を分ける手傷を我等に与えたのだ。あの者達は、この男の真の力を知っていたからなのか・・・?
いや、断じて違う、あの者達にはこの男のチャクラすら見えていなかったはずだ。この男が全力で戦っていない事には天使ですら気付かなかったはずだ。なのに何故だ・・・?
「・・・答えを急ぎすぎたようだな。お前は俺と契約している以上、俺が契約を破棄するか、俺が死なない限りは逃げられん。だから、今はお前を殺すのは止めておく、よく考えろ。そして本気で従うか、俺と戦って死ぬかを自分で選べ」
俺はそうシビウに告げて部屋を後にした。
正直、腹が立っていた。俺は部下達に無理やり忠誠を誓わせたりしないし、俺に仕えるも去るも自由だ。だが、アイツは違う、使えると思っているから生かしておいたに過ぎない悪魔だ。
俺達、生きる者とは根底から違う者だ。だから無理に忠誠を誓わせる気はない。奴に言った通り、使えないなら斬るつもりだ。だが、最初からこれでは生かしてやった意味すら無いな・・・
「・・・お前は本物の愚か者だな」
「お、お前はファムリエル?隠れていたのか?」
「・・・今の御堂と会うのは問題があるのでな。ほとぼりが冷めるまで、奴からは隠れている」
「・・・私が愚かだと!」
「自らの愚かさに気付かぬか・・・これでは奴がお前を殺したくなるのも無理はないな」
「黙れ!私に捕まっていた分際で!」
「本気で言っているのか?お前如きに第七位階、権天使の、この私が負けると?御堂の言葉ではないが、試してみるか?仲間を人質に取られていない今、私は全力でお前と戦えるのだぞ」
「クッ・・・」
「まあいいだろう、この様子では、いずれ奴に捨てられるのは時間の問題だ。その時には私が滅ぼしてやる」
そう言うとファムリエルは窓から飛び立った。
「・・・この私が愚かだと?」
・・・そうだ。何故、天使であるファムリエルとルシエルの二人までもが、あの男の元いつまでも居るのだ?おかしいではないか・・・?私が気付かぬ何かがあの男にあるとでも・・・?分からぬ・・・これでは奴等の言う通り、本当に私が愚か者のようではないか・・・
「おーい、この街に着てから初めて冒険者として何か仕事してみようかと思うんだ。強敵がいい、強い敵がいそうな依頼ってあるか?」
「これは、領主様?本当に、まだ冒険者を続けるおつもりなのですか?」
「うん、だってギルドの依頼をこなせば報酬が出るじゃないか、それは帝国からの資金だからな。俺の懐は痛まない」
「そ、そうですか、一級冒険者の領主様なら幾らでもあるのですが・・・」
「何かオススメってないか?探し物とかはやらない、討伐クエストがいいな」
「では、ヒドラの依頼はどうでしょうか?」
「・・・ごめん、俺は水生生物って苦手なんだよね。陸に出てきてくれてるなら戦うけど」
「それでは・・・マンティコアはどうですか?」
「おお、まだ戦った事がないな。確か、顔が猿で、尻尾が蛇で胴体は・・・」
「・・・それは東方の鵺では?」
「そうだっけ?ああ、尻尾は蠍か?毒があるんだっけ?」
「はい、そして人語を話します」
「言葉を喋るんだったっけ。モンスターマニュアルで見たが、特徴あり過ぎて覚えてないんだよね。魔術は使う?」
「使う者もいるとの事ですが、今回のターゲットが使うかは未確認です」
「うーん、あんまり強そうな気がしないんだが・・・」
「マンティコアは、かなり危険なモンスターですよ?」
「そうか・・・もうちょっと強そうな奴が良かったが、まあいいや・・・それにしとこう、何処に行けばいるんだ?」
受付嬢は目撃情報があった場所の地図を渡してくれた。ついでに、俺は冒険者セットを買ってなかったので、この辺りの地図も買っておいた。実は俺、方向音痴なんだ・・・だから一人の冒険だと迷わないか不安なんだよね。
「うーん、まだこの地に来て慣れてないから場所がよく分からないな。実は俺、方向音痴なんだ・・・ここって遠い?」
「そうですねぇ、馬で行くと三時間程の場所かと思われます」
「道って分かりやすい?」
「はい、この地図にある、この通りをずっと行ってから、途中で立て札のある分かれ道からアメン山の方向へ行けばいいんです」
俺はゴソゴソと懐から通信宝玉を取り出した。
「自信がない・・・すまんが、途中で連絡するかもしれないから、これ持っててくれる?」
「それでしたら、ギルドの宝玉の魔力周波を教えますから、その宝玉を使って連絡して頂けますか?」
「了解した。じゃあそうしよう、行ってくる!」
俺はギルドから街を抜けて、目的地へと疾走した。馬で三時間なら片道、一時間程度だろうと駆けたが、途中から山道に入ってため、徒歩に切り替えた。山で走るとか危険過ぎるからな。
「うーん、確かこの辺りだと思うんだよなぁ。ギルドへ通信してみるか・・・」
俺は通信宝珠へと魔力を送ると、さっきの受付嬢が出て来た。
「おーい、目的地は大体この辺りだと思うんだが、間違いないかなあ?何か目印とか発見場所とか近くにないか?」
「えーと、宝珠の位置から領主様の場所を特定出来ました。その辺りで間違いありません」
「どうやって探したらいいと思う?適当なモンスター狩って生肉にでもしたら寄って来るかな?」
「・・・他のモンスターまで寄ってきてしまいますよ」
「そうだよねぇ、言ってみただけだ。場所が合ってるみたいだから、ボチボチ探してみるよ。ありがとさん」
「ご武運を!」
俺は通信を切って辺りを探してみた。見つからんな、生態に詳しくないモンスター探すのは苦労するからな。見つからなかったら面倒臭いな。人を狙うし、知能もあるんだろ?さっさと出て来ないかな。
「マンティコア出て来い!俺が相手だ!」
「・・・呼んだかの?」
返事があった!
「お前がマンティコアだな・・・?って三匹だと?」
「人間の方から食われに来てくれるとはのぅ」
「慌てるな。儂らを狙うとは腕に自信があるようじゃ」
「どれ、試してみようか?」
俺は奴等のお喋りに付き合うつもりは無かったので、いきなり風爆の呪文を発動した。これは大気をいきなり爆発させる術だ。避けるのが非情に難しい範囲魔法だ。しかも、相手の鼓膜が破れたりする副次効果も期待出来る。但し、炎は発生しない
「舐めるな山猿が!」
俺は壁に激突した一匹の首を即座に切り落とした。次・・・!
「クッ・・・小僧が!」
俺は構わずに蛇行ステップして近付くと奴はこちらの速度に付いて来れずに狼狽した。構わず眉間に刀を突き立てる。次!
「・・・さあ、残りはお前だけだ。戦闘らしい戦闘にすらなってねえよ。少しは楽しませてみろ、今日は気が立ってるんだ」
最後のマンティコアは勝ち目の無い事を悟ったのか、即座に逃げ出した。その早さはかなりのものだったが、それでも遅い、俺はソイツの目前に跳躍すると、後ろ薙ぎに刀を振った。これで三匹・・・
「・・・弱い、俺が強すぎたか?とかアホっぽい事は言わんよ」
そしてまた、ギルドへと通信を開始した。
「討伐終わったぞ?一匹じゃなくて三匹いたから、三匹とも狩ったよ。それで、コイツの売れる素材ってどこ?尻尾?」
「マンティコア三匹を、お一人でですか?領主様のクランの方達といい、本当にお強いですね・・・中級冒険者ならPTで一体狩れるかどうかなのに。素材部位は毛皮と尾と三本ある牙ですね。それに肝と心臓が・・・」
「それ、もう丸ごと持ってった方が早くないか?いいよ、この三体そのまま持ってくから、そっちで捌いてくれよ」
「持って来れるんですか?実は、色々な部位を欲しがる好事家の方達がいるんです。持って来て頂けるのであれば、素材報酬は高くなりますよ♪」
「分かった。何とか運んでみるよ。じゃあまた!」
そうして俺はマンティコア三匹を運ぶ事にしたが、持ち辛い・・・重さは何とかなるが、これを一人で運ぶのは骨だな。手間取ると、他のモンスターが寄って来るからな。首を刎ねちゃった奴は袋に入れて・・・と。よし行くか!
俺は三体を担いで疾走した。いや、疾走したつもりだったが、思ったよりはずっと遅かった・・・帰って来るのに三時間かかった。
「お・・・おい、持ってきたぞ。これは流石にキツかった。報酬弾めよ?」
「お帰りなさい領主様!大活躍ですね♪」
「いや、弱かったよ?こんなの相手にならない・・・」
「そ、そうでしたか?マンティコアは難易度の高い強敵なのですが・・・」
「次はもう少し難易度を上げてくれ、これなら一人で遺跡踏破した方がマシだわ」
「分かりました!相応しい相手を探しておきます!」
「魔術を使えば、かなりの数の敵でも問題なく倒せるぞ」
「・・・魔術?領主様は魔術が使えるのですか?」
「ああ、使えるよ。個人情報に書いてあるだろ?」
「いえ・・・剣士としか書いてありません」
「・・・あっ!?そうか!最初から更新してなかったわ!そうそう、俺は魔術も使えるんだ!最初は剣士って書いてたよな!」
「そ、そうだったんですか(汗)では、どんな魔術が使えますか?」
「えーと、四大精霊魔術とアストラル魔法、エーテル魔法だな」
「・・・アストラル魔法とエーテル魔法もですか?」
「ああ、実体の無い相手とも戦う事があるから覚えた。俺は風属性とアストラル属性の適性が凄く高いと思う、火は普通かな。エーテル魔法も割りと得意だ・・・土と水はあまり得意じゃないな」
「普通、得意属性は1つです。それだけ使えるのは普通の魔術師以上ですよ・・・」
「自覚してるよ。だから一級冒険者で、ソロでもやれるんだよ。但し、回復ま無理だ。ちょっとした怪我なら治せるけどさ・・・俺のクランにも回復役が居ない。ドルイド・マジックには治療も術もあるみたいだけどね」
「うーん・・・僧侶か神官を募集してみてはいかがですか?」
「冒険者の中から?うーん、それはなぁ・・・」
「お嫌ですか?」
・・・今まで、俺は仲間達と偶然知り合って、そのままパーティや配下に加えて来た。どうも募集と云うのは、イマイチ信用出来ないんだよなぁ。
「は~~~い、ここに神の僕が居ますよ~~~」
聞き覚えがある声に振り返ると、ラシエルだった。
「ああ・・・アンタ居たのか、いつ空へ帰るのかと思ってたんだが」
「酷いですよぉ~~~私は回復が得意です」
「ところで、背中の羽根と頭の輪っかはどうした?隠してるのか?」
「はい~~~天使である事は普段は秘密にしてるので~~~」
・・・今、普通に言ってるじゃないかよ
「・・・天使?」
ほら、ギルドの受付嬢にツッコまれた。
「ああ、そうゆう設定なんだよ。ほら、うちのパーティとかクランってそうゆうのがあってさ・・・コイツ、自称天使だから。可哀想な奴なんだよ・・・」
「ああ~・・・たまに、そうゆう人っていますよね。大丈夫です、冒険者には勇者や英雄を名乗る人も沢山いますから・・・」
受付嬢は、可哀想な人を見る目で笑みを浮かべながらラシエルを見つめた。ラシエルは満面の笑みでそれに返す。
「お、おう・・・まぁそんな感じで、じゃあこのラシエルをうちのクラン登録しておいてくれ。それと領主様って呼ばないで?御堂でも龍摩でも構わないから」
「畏まりました。では御堂様と、お呼び致します」
「ファムリエルも登録しておいて下さい~~~」
「俺は奴の事は知らんから、お前が書けよ・・・」
(おい・・・第七位の天使とか、書くんじゃねーぞ?」
(勿論です~~~)
「それと・・・ギルドに頼む事じゃないんだが、街の警備兵をダークエルフ達から獣人に変えるから、市長に伝えて民に通達するように言っておいてくれるか?」
「ぇええええええええええええええええぇ!!!」
ギルド中から突然のブーイングが巻き起こった。
「ウルサっ!?うるさいよ?偏見良くない!」
「だって、ダークエルフさん達、すっごく人気があるんですよ・・・美男美女の見本みたいな方達ですからね・・・」
「ああ・・・それは分かるが、獣人にも美人多いぞ?ダークエルフ達には、他にやらせる仕事があるんだよ。だから交代だ。頼んだからな!?」
ギルド職員達は大きな溜め息をついた。気持ちは分かる・・・俺はそのままギルドを後にした。
「フゥ・・・まあ街中の銀エルフファンからは絶望の声が暫くは聞こえるだろうな。それより、お前はどうして突然、ギルドに現れたんだ?」
「御堂さんが出掛けるのを見て、ついてきたんです~」
「・・・ストーカーかよ?声くらい掛けろ。ファブリーズはどうした?」
「ファムリエルですよぉ~あの子は、御堂さんと喧嘩したのを気にしているようで隠れてますよぉ~」
「え・・・?アイツその辺に隠れて俺を見てるの?ヤダ・・・怖い」
「おい貴様!誰が隠れて貴様を見ているだと?」
「うわ?本当に居やがった!ファブリーズだ逃げろ!」
「待て貴様!私を何だと思っているのだ?今日と云う今日は思い知らせてやる!」
脱兎の如く逃げ出すと、それをファムリエルが猛スピードで追い掛け回した。
「あの二人・・・とっても仲良しさんですねぇ~~~ラシエルはちょっと拗ねちゃいます」
城に戻った俺は、主だった者達を集めて会議をしていた。人が集まって来たので、俺達は今後の方針や様々な事を決めて行かなくちゃならない。
「まず、俺の事をちゃんと教えておこうと思う、俺はこの世界の人間じゃない」
「御堂様、それは・・・」
「いいんだ。ルード、きちんと話しておく」
「この世界の人間ではないと言うのはどうゆう事でしょうか?」
「俺は、この世界を侵略しようとしていた俺の世界ともまた違う別世界の魔王に召喚されて、この世界に来た。ルード、ヤクト、カゲミの三人は元魔王軍の配下だ」
「魔王軍だと!?」
やっぱりコイツは騒ぐと思ったわ。呼んでないのに、天使二人もいるし・・・俺は隠してるのが面倒だから出て行けとも言ってないが。
「はいはい、文句は後にして俺の言う事を聞いてくれ。その魔王なんだが、名をフェルナードと云う。だが、奴は魔界で戦争があったらしくて、俺を呼び出してすぐ魔界に帰っちゃったんだ・・・」
「・・・凄いスケールの話しですね。それで、御堂様は今でも異世界の魔王のために働いているのですか?」
「いや、全く・・・そもそもが、俺は情報収集とかしかしてなかったからな。しかも、この世界に来て一ヶ月ちょっとくらいしか経ってない時にフェルナード、魔界へ帰っちゃったから・・・」
「あの・・・何故、魔王は人間である御堂様を召喚したのでしょうか?」
「それなんだが・・・どうも俺よりも先に、俺の世界の人間がこの世界の何者かによって召喚されたらしいんだよね。フェルナードの話しでは、その人間達を牽制するために俺を召喚したと言っていた」
一同:・・・・・・・・・・・
「俺は、その人間達を探そうと思ってる。まぁ、暇を見ての情報収集だ。それを銀エルフ達にそれとなく探して欲しいと思ってる。やれるか?エルザ」
「ハッ!お任せ下さい、しかし、何者が呼び出したのか不明なので、手当たり次第、噂から調べる事になるので、かなり時間が掛かるとは思います・・・」
「ああ、おそらく、この国には居ないだろうな。他国にダークエルフを何名か派遣して、色々と探らせてみてくれ。情報を得るのに金が必要になる事があるだろうから、バトラーに言って大目に金を貰っておけ。すっごく急ぐ訳じゃないから焦る事もないぞ」
「仰せのままに・・・」
「さて、俺の正体と魔王に関しての話しはこれ以上は無いんだ。ちなみに、その三人は魔王とは関係なく俺に仕えてくれている」
「私達は御堂様と何処までも!」
「主様こそ私達の神・・・」
「最高の主様にお仕え出来て、私達は幸せです」
「お前達・・・泣かせるなよ」
泣いてないけどな・・・
「ま、そんな感じだ。何か言いたい事はあるか?」
「私達ダークエルフは御堂様が何者であろうと変わらぬ忠誠を誓います」
「正直魔王とかよく分かんないッス。御主人は御主人でしょう」
「我等、獣人一同、領主様に仕える事に異論等あろうはずがございません」
「金エルフはどうする?」
俺はディアナに尋ねてみた。
「・・・魔王軍に入れと言われたら困りますが、不在の魔王の事はどうででも良いのではないでしょうか?」
「お前も意外と思考が緩いな。そうか、まあ金エルフは好きな時に故郷へ帰っていいぞ。俺は特に束縛してないし」
「・・・ねぇ、アンタ私達エルフを全く頼りにしていないのはなんでよ」
「いや・・・だから、お前達は自由にしていいって言ってるだけだ。ダークエルフは俺に忠誠を誓って仕えてくれるって言うから部下として扱ってるだけだ。お前達は居候扱いだ」
「私達は冒険者仲間でしょ!」
「え・・・?そうだったのか?」
「・・・次の遺跡やダンジョン攻略には、必ず私と他のエルフを同行させなさい・・・」
「え・・・ヤダよ・・・」
「なんでよ!?」
「だって、信頼してない奴に背中は預けられない・・・」
「だから!何で私達を信頼しないのよ!」
「だからお前達は居候だと・・・」
「居候じゃないわよ!ちゃんと働いてるわよ!とにかく次は連れてゆきなさい!」
「・・・マジで死ぬかもしれんぞ?この前のシビウ達、悪魔との戦いだってかなりヤバかった。俺はお前達が死んでも責任は取れん。その辺どうなんだ?ディアナ」
「私達は御堂さんに命を救われたようなものです。共に行きたいと望む者なら、それで死のうと誰も咎めるような者はいないでしょう」
うーん、何か不安だ。銀エルフ達は俺の親衛隊みたいなもんだ。金エルフは使い辛い。そして獣人達が軍隊だとすると、役割も無いしな・・・結局、俺は金エルフ達と死線を超えていない事が原因なのかもな。
「・・・分かったよ。じゃあ明日、行こう。金エルフ達から三人連れて来い」
「あの~~~私達もお供していいですか~~~?」
「・・・え?天使も来るの?それはちょっと・・・」
「おい、御堂・・・貴様、私達天使を何だと・・・」
「お前達は完全に居候だろうが!」
「・・・では我等の実力を次の遺跡かダンジョンで見せてやろう」
・・・居候なのは否定しないんだな。まあ、完全に居座ってるだけだからな。
「俺は場合によっては、かなりエグいぞ?お前等、アレこれ文句言うなよ?俺は悪魔だろうが邪神だろうが、使えそうなら使うし、無理そうなら殺す」
「フン・・・好きにしろ、邪魔になったら殺すのだろう?」
「そうだ、使えない悪魔とか、利用価値がないからな。即座に殺す」
「・・・我が主、それでは私もお供させて頂きたいと思います。私がお役に立つ事を証明してみせますわ」
「・・・相手が悪魔で戦闘になってもか?」
「勿論ですわ。その時こそお役に立ちましょう」
・・・まあいいか、邪魔なら殺せばいいや。
「分かった。荷物持ちも必要なのが分かったから、次は少し大人数で行こう、前回と同じくジャジュカとアキノも連れていく。あと、ザヒネだったか?あの子も連れて行こう。結構腕が立つから」
「オウル達は、そのまま獣人兵の調練に当たってくれ、それと弓矢の訓練もさせておいてくれ。ああ!エルフの仕事があったぞ!矢を沢山作らせておいてくれ!お前達、何かそうゆうの得意そうだからな。精霊術かドルイドマジックで作れるか?」
「お安い御用です。何本くらい作っておけば宜しいですか?」
「・・・3万本」
「それはかなりの数ですね。分かりました、皆に命じておきます」
「・・・この城、少しちっこいよなぁ。所詮は子爵領だから・・・いざって時に物資を貯めておくにも場所すら無いな。兵糧庫とか武器庫を増築しておきたい、あと兵舎も少ないからなぁ」
「そうですな、この城は少し手狭ですな。増築してはいかがでしょうか?」
「金はあるから構わんけど、可能か?俺は城の縄張りとかやった事ないぞ?」
「お任せ下さい、我等は砦を幾つか作った経験があります」
「そうか!じゃあ任せるわ。必要な建物を作っておいてくれ」
「ハハッ!お任せ下さい!」
「大きくし過ぎるなよ?兵は多くはないんだから、手が足りなくて守れなくなるから」
「勿論、心得ております。領主様は戦の経験がおありですか?」
「ないな、山賊や盗賊退治しかない。だが、充分働けるから安心しろ」
「ハッハッハ、それは心強いですな!期待しますぞ!」
「御堂様、人間から人材を登用しようとは、お考えにならないのですか?」
「するつもりだ。帝都の魔導師協会へ行って来るよ。魔法戦力が少なすぎる」
「それは良いお考えですな。戦で魔術師が居ると居ないとでは大違いですからな」
「ああ。可能な準備は全てしておくつもりだ。冒険も戦も全て事前の準備で全てが決まると言ってもいい」
「・・・至言ですな」
「さて、俺からはこんなもんかな。他に何か望みはあるか?装備は兵士の分を頼んだし、矢はエルフ達が作ってくれるとして、いざって時の兵糧は、まだいいな。他に必要な物は・・・猫だな」
一同:・・・・・・・・・・猫?
「俺は動物が好きだ。猫と一緒に寝るのが好きだ。リスや狐やアライグマとかも好きだな。つまり可愛い動物が好きだ。殺伐とした心の隙間を埋めてくれるのは布団で猫と一緒に寝る事だ。特に冬の猫たんぽは至福の時間と言っていい、そもそも猫とは・・・」
俺は猫や動物達の愛らしさについて、3時間そのまま語り出した。みんな真剣に聞いてくれた(御堂主観)
「・・・今夜は飲まなくちゃやってらんねぇ・・・」
「ああ、まだ猫って単語が頭にこびりついてる」
「・・・子供のよう夢中になって、御堂様、可愛い・・・」
「ねぇ、ルード達って最も古い家来なんでしょ?御堂のアレ知ってたの?」
「・・・いえ、初めてでしたね。アレはちょっとした精神攻撃です。皆さん、次があったら全力で別の話題に変えてください」
「当然だろう!ずっと猫猫猫猫リス猫猫猫猫アライグマ猫猫猫猫狐、こんな話し聞いていられるか!」
「やめてファム~~~もう聞きたくない~~~」
それらは御堂配下達にとって《御堂様の悪夢》と呼ばれる天変地異と同等の災厄と呼ばれる事になったとかならないとか・・・
「おい!そっち行ったぞ!ああもう、お前等・・・!」
今日は朝から未踏破の遺跡へと来ていた。しかし・・・
「ホーッホッホッホ、死になさい虫けら共!」
「下がれ悪魔!ここは天使の戦場だ!」
「食らえ!エルフ精霊連弾!」
「・・・御主人、私達は下がっていましょう、これは制御不能ッス」
「私も同感です、これはもう連携も何もあったもんじゃありません、これはただの虐殺です」
・・・功を焦ったのか、ファムエル、シビウ、そして前衛ではない後衛のレインとその連れのエルフ二人までが前衛で戦っていた。俺達は前に出る隙が無く、呆然としていた。
始末の悪い事に、奴等に勝てるモンスターなんて早々いる訳もなく、無駄に遺跡の中が草木一本なくなる程にモンスターの屍骸で埋め尽くされて行った。
「よし・・・もう遺跡破壊は奴等に任せよう。俺達は部屋の探索とお宝を得る事だけに集中する。いいな!」
「了解ッス!」
「任せて御主人様」
「初めての参加で出番が無い私はどうしたら・・・」
「気にするなザヒネ・・・部屋の中でも戦闘はあるから、今日はジャジュカに荷物持ちを任せよう、アキノ、ザヒネが前衛だ。俺は後衛と罠外しをやるから」
「アイツら、そのままズンズン進んでいくが、途中の扉の部屋とか無視してんだけど・・・何しに来たんだ?」
「さあ・・・?バーサーカーごっこじゃないですか?」
「それは斬新な遊びだな・・・あ、この扉は罠があるから下がってろ、中からモンスターの気配もする。宝箱があったら開けるなよ?よし・・・外れた突入!」
俺の号令と共に、アキノとザヒネが突っ込む。中のモンスター達を次々と蹴散らして行く。そうそう、お互いの隙を庇い合うように戦う、これが戦闘ってもんだ。
「ザヒネもやっぱり中々強いな。見込んだだけの事はある」
「彼女は父親が猟師でしたから、弓の腕も一流なんですよ?」
「そうなのか?それはいいな。弓の遣い手ってうちには少ないからな。まあ、今日の所は接近戦でやって貰おう」
「御主人、片付きました!」
ヨーシャシャシャ!とアキノの喉の下を撫でてやった。目の前には金ぴかの宝箱がこれ見よがしに陳列していた。
「・・・さあ、何が入ってるッスかねぇ」
俺は問答無用でファイアーボールをぶちかました。
「えっ!?どうしたんです?」
「・・・ミミックだ。こんな古ぼけた遺跡で、あんな新しい宝箱なんてある訳ないだろ?」
「あ・・・ホントだ。黒焦げになって動き回ってますね」
目の前のミミック達は黒焦げになってのた打ち回っていた。
「残念だったな、次行くぞ次」
そうして、俺達は先行したバーサーカー達が片付けたモンスターの山を避けながら、快適な探索を楽しめた。それにしても、この遺跡って・・・
「あ、御堂!何を遅れてるのよ!下に下りる階段があるわよ!」
・・・お前等が勝手に先に行ってたんだろ。
「ああ、そうか・・・待ってるだけの理性がまだ残ってて案心したよ」
俺はもう奴等の事はPTに数えないようにしていた。
「御堂、勿論行くのだろう?」
「当然だ。まだ何も手に入れてないんだから」
「良し!私が活路を切り開く!」
そう言って階段を駆け下りたファムリエルを、またシビウとエルフ達が我先に追い越そうと追いかけて行った・・・もういいや
「お?ルシエルはちゃんと残ったのか?偉い偉い」
「はい~ファムが心配で付いて行ってましたが、問題ないようなので~」
「よく分からんが、あのバーサーカー5体なら国でも攻め落とせるだろ。放置して問題ない」
その後も、バーサーカー達がモンスターを排除して、俺達は部屋に居るお宝探しを繰り返すという作業が続いた。今は地下4Fまで来ているのだが、俺は少し・・・いや、かなりこのダンジョンで違和感を感じまくっていた。
「御主人様、どうかしたんですか?お宝が足りませんか?」
ザヒネが俺の様子に気付いたようだ。俺は何でもない・・・と返事しておいたが、どうにも納得が行かない。
「我が主、どうやら迷宮の最終地点らしき所へ着いた様子・・・」
その扉を見て、俺は確信した。ここはこの世界と全く違う、これって科学的なドアにかなり近い作りだ。
「うーん、ここって一体・・・この世界って科学があったのか?いや、科学とも微妙に違うような・・・なんだろう?」
取り合えず、ドアに何か仕掛けられていないか調べたが、魔力反応はあるが仕掛けが分からない。
「なあ、誰かこの扉開けられるか?」
「無理だ。このドアに天使の力は拒絶されるようだ」
「こちらもです、悪魔の進入を拒む結界が張られているようです」
それってお手上げか?ここまで着て帰るのもアレだが、仕方ないか?そう思っていると・・・
「力ずくで開けたら駄目ッスか?」
「・・・そんな無茶な。幾らなんでも、この手のドアが力づくで開くと思えんぞ?」
「とにかくやってみるッス、ザヒネそっち側を引っ張るッス」
「任せなさい、私の力を御主人様に見せる時!」
二人は一生懸命引っ張っているが、ビクともしない。
「やれやれ、やっぱ無理だろ。押しても駄目なら引いてみなって言葉があるが・・・アレ?」
俺はドアを押してみたら開いた。何故だ・・・?
「あ・・・開いたッスね!?御主人何をしたッスか?」
「いや何も・・・ただ押しただけなんだが・・・まあ中に入ってみよう。開いたって事は入れって事だ。罠があるとしてもな」
俺達はうす暗い部屋へと入って行くと、突然当たりに光が灯った。これは魔術なのか?こうゆう魔術はあるにはあるが、人が入ると自動的に点くとか、まるで現代に近い作りじゃないか?
「・・・アレは人ですか?」
「え・・・?」
中には5人の人間と似た姿の女性が素っ裸で、まるで冷凍睡眠のように入れられていた。
「これ、ホムンクルスの製造機に似てるけど、少し違うな」
「御堂!女性の裸をマジマジと見るな!恥を知れ!」
抗議するファムちーを無視して観察していたが、ふと上に見た事がある文字が書いてあるのを見つけた。
「アイン・・・?名前?ドイツ語?」
「主様、これが読めるのですか?これは古代語の一つです」
いやだって・・・アイン?他の棺を見てみると、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フェンフ・・・間違いない、ドイツ語だ・・・
「古代語なら、天使と悪魔は何て書いてあるか読めるって事だな?読んでくれ・・・」
「・・・えっと、それは~~~」
「それは・・・読めないなぁ・・・・」
・・・明らかに天使達の様子がおかしい。
「シビウ、何て書いてあるんだ?俺はドイツ語読めないんだが・・・」
「これは、古代の対天使、悪魔に対する人造兵器です」
「おい!それは!」
俺はファムちーの抗議を無視して、話しを続けるようにシビウに促した。
「古代、我等、悪魔と天使の戦いは地上にも及んでいて、人間達にも被害を及ぼしていました。そのために人間達は、我等に対する対抗手段を作り出そうとしていました。これはその一つです」
「・・・天使まで敵視されていたと?」
「なっ!違うぞ御堂!」
「黙れ鳩ぽっぽ」
・・・この状況、どう判断したらいいんだろう。
「その悪魔の言った事は間違いではありません。古代の人間達は、天使も敵と見做す者達もいました。そして同時に、信仰の対象として敬う者達も存在していたのです」
・・・ルシエルが喋った!
「お前、普通に喋れるんじゃねーかよ!いつものすっトロイ喋り方は何だ?役作りなのか?」
「これは本気の天使モードでの話し方なのです。普段が役作りしてる訳ではありません。だから余計な詮索をしてはいけません・・・」
マジかよ・・・コイツもやっぱり変な奴だったのかよ。
「コイツらを起こしたら、どうなる?」
「天使と悪魔を襲って来ますね」
「・・・人間には?」
「無害だと思われますが、保障は出来ません。それにこの場で戦闘になった場合、御堂さん達にも被害が出ますね」
そりゃそうだろうな。これは触らぬ神に祟り無し・・・か?
「・・・分かった。更に研究を重ねるためにヴァネッサを連れて来よう。ホムンクルスっぽいしな。今日のとこは帰ろうぜ」
「ポチっとな♪」
《冬眠装置の解除がされました。10秒後に解除されます。9秒後に解除されます。8、7、6・・・》
・・・おい
「誰だよ!何か触ったのは!」
「ゴメン、そこに突起があるから、何か押してみろって誰かの声が頭に響いたのよ」
レインが悪びれもなく返事した。
「馬鹿が!総員、入り口まで退避して戦闘に備えろ!」
「待って、今の話しじゃ天使と悪魔しか襲われない、私達は安全」
・・・確かに・・・俺達は天使二人と悪魔を見ると、彼女達の顔は引きつっていた。
「もう時間がない、成り行きに任せよう・・・短い付き合いだったな」
「ちょ?御堂、貴様!」
「あ~~~御堂さん見捨てないで~~~」
「我が主・・・それは悪魔的に素敵な判断ですが、私は助けて下さい・・・」
《0・・・冷凍冬眠が解除されました。ピーガラガラガラ・・・》
プシューと音がして、中から冷気と共に女の子達が起き上がって来た。ゴクリ・・・どうなるんだろう?ワクワクテカテカ・・・
「オハヨウ・・・オレハニンゲンダ・・・オマエラ、トモダチ・・・」
「クッ・・・御堂に見捨てられたぞ、ルシエル、戦闘準備!」
「そんな~~~」
「御堂様・・・信頼を得る時間が無かったようで残念ですわ」
そして、5人の古代人型兵器と天使、悪魔の連合軍との戦いが始まった。
「全員退避!ちょっとこれはヤバいって!」
当たり一面を目からビームとか、手からビームとか、もう怪獣映画のような少女達の攻撃と、それを防ぎ反撃する天使と悪魔の戦いが行われ続けている。
「お~どっちも、いい勝負ッスね」
「うん、どっちが勝つと思う?」
「私は古代兵器に賭けるわ」
・・・みんな好き放題言ってるな。自分がターゲットにされてない強者同士の戦いって見物してて楽しいよね。
俺はその間も人造人間達を観察していた。魔力が高いが、魔術は使わないようだな。何か無詠唱魔術に近い魔力による遠距離攻撃と、近接戦闘能力も高い、天使と悪魔と戦える兵器なんだから当たり前か・・・さて、どうしたもんか・・・
あ、ヤバいな。やはり数で負けてる分、天使と悪魔が押されてきたな。うーん・・・
「シビウ!後ろだ!くっそ・・・」
俺は飛び出してシビウの背後から発射されたビームを剣で弾いた。やっちまったか・・・
「御堂様!?」
「仕方ねえだろ、まだ役に立ってないとは言え、俺の使い魔だ。すぐに見捨てたら俺の寝覚めが悪い・・・いいから、やるぞ!」
「御堂!貴様遅いぞ!」
「助けてくれると思いました~~~」
「やれやれ、結局こうなる訳ね」
「それが御主人のいいとこッス」
「あたし達も参戦ね。勝てるかしら?」
「おい!俺は人間だが、ソイツらは一応仲間だ!俺も相手になってやるから掛かって来い!」
俺は彼女達にそう言い放つと、呪文の詠唱を開始した。しかし、人造人間達からの反撃がなかった。
「・・・どうした?戦わないのか?」
「人よ・・・何故、天使や悪魔を守るのですか?」
「言っただろう、一応、今は奴等の仲間だからだ」
「人と天使や悪魔が仲間・・・?」
「そうだ。色々とコッチにも事情がある。コイツらは人を襲っていないし、一応、今は俺の部下だからな。俺が見過ごす訳には行かないんでね・・・」
「・・・分かりました、私達は長い眠りについていました。事情を把握するまで攻撃は自重します」
・・・え?コイツら意外と話せる?
「あ、ああ・・・ちゃんと思考出来るんだな。もっと攻撃的かと思ったが、話し合いが出来て良かった。じゃあ、戦闘終了でいい?」
彼女達は、全員頷いた。良かった・・・実際、コイツらとの戦闘とか気が進まなかったんだ。強いし女は斬りたくない、彼女達は悪くないんだしね・・・
「なに?戦いは無しなの?」
「・・・そのようだ。元はと言えば、ボタン押したお前が悪い・・・」
俺はレインの頭にゲンコツ食らわせた。
「さて・・・じゃあ、辺り一面壊れちゃってるけど大丈夫かな?俺達は修理出来ないし・・・帰ってもいいかな?」
・・・少女達が無言で俺を見つめる。いや、どうリアクションしたらいいんだよ。
「あの・・・無言で見つめられると怖いんだけど・・・それに、アンタ等、全裸だぞ?俺は男だし、目の毒だ」
「・・・本当に服を着ても構わないのですか?」
え・・・?それってジョーク?古代の人造人間がジョーク言うの?
「・・・まあ、見てたい気持ちはあるんだが、そのままって訳にはいかないだろう。ああ、俺達は帰るから、君達だけならそのままの格好でもいいんじゃないか?じゃあ俺達はこれで・・・」
俺はそのまま帰る事にしてスタスタと歩き出した。みんなが俺に着いて来る。・・・人造人間達も・・・
「なあ、悪かったよ!?住みかを壊されちゃ困るよな?でも他に部屋もあるようだし、ここって住める環境だよな?金なら出すから、着いて来なくても・・・」
「そうはいきません、マイ・マスター」
「・・・マスター?」
「登録は既に完了しました。マスター」
「貴方に私達のマスター登録がされました。今より貴方は私達のマスターです」
「宜しくマスター」
「私達は、そんなに世話を焼く必要はありません」
「・・・燃料供給は人間の食事と変わりません」
ああああぁあああぁあああああ!!また訳分からん奴等が増えるのかよ!俺は不可視化してその場から逃げ出した。
「ちょっ!?御主人が消えた?」
「問題ありません。私達は魔力センサーが搭載されています」
・・・駄目だ。このパターンは前回やった。コイツらのスペック考えると逃げ切れない、俺は学習する良い子なんだ・・・
「・・・とにかく服を着ろよ。全裸だと捕まって売られるぞ?」
「あ、諦めてすぐに姿を現したわね」
「了解、マスター」
そう言うと、彼女達がピッチリしたボンテージスーツのような服に包まれた。それ、どうゆう原理だよ?もういいや・・・考えるのよそう。
「ああ、それでいいよ・・・じゃあ、帰ろうぜ・・・ハァ・・・」
「・・・主殿、今回は何を連れ帰ったのじゃ?」
「古代の対天使・悪魔用兵器だ」
「本当に主殿は次々と色々な物を連れてくるのぅ、猫の子じゃあるまいに・・・」
「野良猫の寿命は通常4年~6年と言われているが、家猫の寿命は14歳~18歳と言われていて、三毛猫には牡雌が存在する。だが牡の存在は非情に珍しく寿命が低いと言われているが・・・」
「しまった!?我とした事がつい!」
俺はいきなり誰かに後頭部を殴られた。
「フゥ・・・危なかったわね。またアレをやられたらたまらないわ・・・」
レインか、覚えてろ・・・俺は意識が遠くなっていった・・・
「俺さぁ、もう遺跡やダンジョンに行くの止めようか迷ってるんだ。みんなの意見が聞きたい」
一同:・・・・・・・・
俺はみんなを集めて、会議を開いていた。遺跡に行くと、モンスター討伐なんかより遥かに金やアイテムが手に入る。しかし、その度に変な連中が増えて行く。この事について、皆の意見が聞きたかったからだ。
「我は止めるべきではないと思うが・・・」
真っ先に口を開いたのはヴァネッサだった。
「・・・理由は?」
「戦力が増えるのは良い事ではないか?今回の連中にしても、かなりの戦力増強になると我は思う」
そうなんだけどさ・・・そうなんだよ。確かに戦力としては万の兵を得るよりも強いよ!けどさぁ!
「あの、宜しいでしょうか?この前の遺跡の探索では、宝物の類は手に入りませんでしたが、希少な鉱物が沢山手に入りましたよね?」
ああ、確かにね。ミスリルやオリハルコンまであったよ。あれを鍛冶屋に持ち込んで作らせたら早くて安上がりだよね。
「軍としては、それは大助かりでした。鉱物資源が豊富なこの国であっても、直に鉱物が丸ごと手に入る訳ではありませんからな」
「じゃあ、みんなこれからも継続して行く事で異論はないって事か?」
皆を見渡してみると、肯定的な雰囲気が多数だった。
「・・・おまえら、拾ったペットの面倒はしっかり見ないと駄目なんだぞ?分かってるな?今回なんて取り扱い説明書も無いし・・・天使も悪魔も無いけどさ」
「おい、偉大なる天使を犬猫と同じ扱いだと?表に出ろ、今日こそお前に私の力を」
「犬は猫に比べて、嗅覚や聴覚に優れていると思われがちだが、実は猫の方が聴覚は」
ガッ!・・・そして俺は意識を失った。起きた時には、もう昼飯の時間だった。
「俺、ちょっと帝都へ行ってくるわ・・・」
「ちょっ!?もう家出は止めて下さい!もういきなり御堂様を殴るのは止めるように皆に言っておきますから!」
ヤクトが大慌てで必死に頭を下げてきた。人を殴り倒しておいて、食事してやがったけどな・・・
「・・・そうじゃねえよ。魔導師協会へ行って来る。二人くらい付き合ってくれるか?」
「私はいつでも御堂様のお側に!」
「じゃあ私も着いて行くわ」
ネイアとレインか・・・
「分かった。じゃあ、二人に任せるよ。美人が一緒の方が相手も喜ぶだろうしな」
そうして俺達は帝都へと向かった。俺は馬に乗れないので、ネイアの後ろに乗せて貰った。駆けた方が早かったが、仮にも貴族が供を連れて三人でダッシュしている姿は体裁が悪かったから馬にした。女に抱きついて馬に乗ってるのも充分、格好悪いけどな。
俺は少しだけヤサぐれていた心が、ネイアに後ろから抱きついていると、少しずつ気分が復活していった。そう言えば、以前にミネルバに抱っこして貰った時も降りたくなくなるくらいに心地よかったな。またミネルバに抱っこして貰おう、肩に乗ってる羽虫は少し邪魔だった。
「ねぇ、馬に乗る練習した方がいいんじゃない?私が教えてあげようか?」
「そうだね・・・うん、任せるよ。今は邪魔しないでくれ・・・」
「フフフ、御堂様は甘えん坊さんですね。もっと私に甘えて下さい」
今日は陽気もいいし、このまま仕事しないで昼寝でもしていたい気分になってきた。
「そう言えば、最近、エルザの姿を見掛けないな。外国へ行ってる?」
「いえ、領内にいますが、増えた仲間に指示したりと色々忙しいようです」
「そっか、銀エルフ達の事は任せっきりにしちゃってるな~」
「全てを任せて頂いているのは信頼の証と、本人は喜んでいましたよ。だから安心してエルザに任せてあげて下さい」
「そうか~エルザいい子だな~今度、何か買ってあげよう」
俺はそのまま、スヤスヤと寝てしまっていた。ネイアに起こされて泊まっていく予定だった中間地点の街へと着いていた。
「あ~すまん、寝ちゃってたな。ネイアの背中の感触が心地よくて寝てしまっていた」
「御堂様は働きすぎです。最近は特にお忙しいのです。暫く休暇を取ってはいかがですか?」
「そうだなぁ、色々とやる事が多くてな。先延ばしにしてらんない事が多いんだよ。そのうち、暇になったら寝て過ごすわ」
「その時は、私が添い寝して差し上げます」
「それは楽しみだ」
「ねぇ、アンタら二人で来た方が良かった?私は邪魔だった?」
「そんな事はないぞ、一応貴族の端くれが、供を連れてないとまずいだろ・・・普通は馬車を使うんだろうが、俺は馬車って嫌いなんだよ。荷馬車は嫌いじゃないんだが・・・」
今回は魔導師協会を冒険者として訪れるのではなく、領主として訪れるのだから、本当は正装もしてないといけないのかもしれないが、面倒だからいつもの皮鎧に赤マントだ。だから供だけでも連れて来たってのもある。
「考えてみれば、他の街をゆっくり見て廻る事とか無かったからな。たまには、こうやって他の街を見て廻るのもいい。俺達って帝都とカーレしか知らないからな」
そのためもあって、途中の街に一泊する事にしたんだ。
「そうですね、帝都から程近い街だけあって栄えていますしね」
「流行を追う・・・って訳じゃないが、他の街を見て廻らないと、自分の領地を発展させる指針も出来ない。二人とも、何か欲しい物があったら買っていいぞ」
俺の言葉にレインは大喜びだ。ネイアはいつもと特に変わらないクールビューティーだ。
「さて、まずは宿屋を決めようぜ、それにはまず、食事してオススメの宿を聞くのが一番だろ」
「私は肉料理は無理!」
「じゃあ、葉っぱでも食べてろよ青虫、俺達は普通の食事にする」
「誰が青虫よ!」
「・・・通りにあるレストランもお洒落ですね」
「ああ、でも俺はこうゆう店ってあんまり好きじゃない、小箱亭が懐かしいな」
「そう言えば、アンタ小箱亭に使いを出してたわね。何をする気なの?出前?」
「・・・カーレからうちまで出前頼んだら腐るだろ。実は、エクレアさんに小箱亭をうちの領地に来ないかって誘ったんだ。あの味と雰囲気が懐かしくてな・・・」
「それいい!私達の好みも分かってるし、あそこは隠れ家的な良い店だったわよね~」
小箱亭が無くなって依頼、俺が一人になれる場所が無くなってしまったのだ。だから誘致してみたが、難しいだろうな・・・資金と場所は提供するって条件付けてあるけどね。亡くした旦那との思い出もあるだろう。
「ま、小箱亭の事はさておき、そこの店でいいだろ。雰囲気は悪くない」
俺達は店に入って適当に注文をした。この二人は大飯食らいじゃないから、普通の食事で足りている。俺は少し大目かな。食事を注文して、宿屋の情報を得てから訪れると、悪くない感じの宿屋が見つかった。そこに荷物を置いてから街へと散策に出掛ける。
ギルドへ赴き、どんな依頼が多いかを見て、武器屋、魔法具屋でアイテムを見た。あちこち歩いて治安を見て、どんな物が売れているかを調べた。長時間馬に乗って疲れたし、翌朝の出発に差し支えないように宿へ戻って寝た。ネイアとレインは相部屋にした。レインが俺に夜這いしないように見張るとレインが言い張ったからだ。俺は構わないのに・・・
そうして翌朝も前日と同じく、ネイアの後ろに乗って帝都へと出発した。途中で寄り道はしない予定だったから、馬に風の加護の術を使ったら、あっと云う間に到着した。
「さてと、魔導師協会には今日行くと通達してあるんだが、迎えが来るって事になってたはずなんだよな。俺の服装は事前に言ってあるんだが・・・」
「御堂様、あれではないでしょうか・・・?」
人混の雑路の中で、立て札を持った魔術師の格好をした男が立っている。40がらみの、むさいおっさんだ。あんなの寄越すのかよ?
「おい・・・まさか、アンタが魔導師協会の?」
「ああ!もしや御堂子爵様ですか?良かった!私は魔導師協会、副評議長のアドルフと申します」
・・・おい、こんなむさいおっさんが副評議長だったのか。これじゃ魔導師協会って人が集まらなくないか?
「ああ、そう・・・じゃあ早速案内してくれるか?俺達は場所を知らないんだ」
「お任せ下さい!」
そのおっさんはブツブツと呪文を唱えると、人混みが割れて行った。なるほど、人避けの呪文に手を加えた術か、これは便利だな。このおっさん、見た目に反してやるじゃないか。
「さあ、参りましょう」
俺達はアドルフに付いて行って15分程歩いた所で、あまり立派とも言えない建物に着いた。看板には魔導師協会と書いてある・・・本部がこれ?
「なあ、魔導師協会って景気悪いのか・・・?ここが本部なんだよな?小さくね?」
「私達は魔術の研究に資金の大半を告ぎこんでいますので、見た目には気を使わないのです。それに事務所のような物ですから」
なるほど、質実剛健・・・って言いたいのか?もう少し何とかした方がいいと思うんだが・・・俺達はそのままアドルフに付いて二階へと上がった。
「評議長、御堂子爵をお連れしました」
中から返事がして、アドルフは扉を開けた。
「私は魔導師協会評議長のシレーヌと申します。貴方が御堂子爵様ですか?大層、ご活躍と聞いてますわ」
その女は見た目からして魔女だ。妖艶な肢体に怪しい雰囲気、どっからどう見ても魔女だった。
「そうか、噂はどうでもいい、本題に入ろう、まずはこれを」
俺がネイアを促すと、彼女は背負い袋を机に置いた。
「手土産だ。中身を確認しろ」
シレーヌは背負い袋の中身を確認すると、猫のように目を見開いた。
「これが・・・手土産ですか?」
「そうだ。足りないか?」
「いえ・・・はっきり言って、こんな大金は久しく見ていませんわ」
「金貨150枚だ」
「金貨150枚・・・こんな大金を積まれて、一体、魔導師協会に何をお望みでしょうか?」
「大した事じゃない、魔導師協会って魔道・魔術学校も運営してるんだろ?これは、その運営資金にでも使って欲しいだけだ。そして卒業生の中から見所のある連中を順次、仕官させて欲しい」
「今現在でも魔術師が全然居なくて困ってる。手が足りない、だから10人程度、急ぎで誰か紹介して欲しい。更に俺の領地に魔導師協会の支部を作ってくれ、場所と資金は出すから。可能か?」
「それは・・・可能ですわ。宮廷魔導師になれる者は少なく、大抵は冒険者になるか、子爵様のように領地に招かれれば運が良い方ですから。こちらとしても大助かりですわ」
「そうか、なら問題ないな。魔術は大事だ。モンスターに対しても、あらゆる外敵に対してもな」
「子爵様は魔術が使えると聞き及んでいます。どの程度の術が使えるのか、差し支えなければ教えて頂けますか?」
「四大精霊魔法にアストラルとエーテル」
「そこまでの術をお使いになるとは、もう魔術師としても一人前以上の遣い手ですわね。誰に魔術を?」
「うちのPTの魔術師にだよ。俺は冒険者としてもやってるからな」
「聞き及んでいます。一級冒険者にして皇帝陛下をお守りして、子爵になった英雄だと」
「噂ってのは一人歩きするもんだ。俺は英雄なんて柄じゃないよ。そう思われるのも煩わしい」
シレーヌは目を細めて品定めをするように俺を眺める。
「分かりました。魔術師と、学院からの卒業生の斡旋の手配はすぐに致します。他に何かご要望はおありですか?」
「ない」
「そうですか・・・私も一度、ご領地に伺っても?」
「構わんよ。いつでも来るといい」
「こっちの用件はそれだけだ。じゃあ失礼していいか?」
「あら、随分とお急ぎですわね。お茶もお出ししていないのに・・・」
「構わんよ。茶を飲みに来たんじゃないからな。領地を貰ったのばかりだからやる事が山積みなんだ。それじゃ失礼するよ」
「はい、御要望の件は、急いで取り掛かりますわ」
そう言うとシレーヌは優雅にお辞儀してみせた。この女、割りと良い家柄の出かもしれないな・・・俺は背を向けて魔導師協会を後にした。
「ねぇ、アドルフ。あの子爵様をどう思う?」
「大変、気前の良い方ですな。それに流石は一級冒険者、立ち居振る舞いに隙がありません」
「この国は魔術に関して関心を持つ者は少ない。その中で、自身が冒険者なのもあるのだろうけれど、魔術の重要性を充分に理解している・・・それに、エルフとダークエルフを連れている貴族なんて聞いた事がないわ。面白い・・・七色をあの子爵様の領地に派遣して」
「・・・七色の誰を?」
「全員よ」
「何と・・・?」
七色はこの国の魔導師協会の実力者7人の総称で、宮廷魔導師の要請すら辞退した程の実力者達だ。本来は九色であり、白と黒を加えた九色となるが、その二人は例外中の例外的な存在だ。
「10人には足りないけど、あの7人なら50人の魔術師に勝るわ・・・気が向けば、白と黒も動くかもしれない」
「まさか・・・あの二人は、何処で何をしているかすら分かりません。生きているのかさえも」
「あの二人が死ぬと思う?」
「・・・決して」
「よし、これで重要な案件は残り一つとなった。商会へ行くぞ」
「商会・・・ですか?何かまとめてお買い物ですか?」
「いや、うちの領内で取れた作物を売る」
「作物を?」
「うん、うちは比較的、帝都から近いから、そこまで値が上がるか分からんが、領内で取れた農作物の値段は帝都が一番、高いはずだ。俺のやろうとしている事は、高い所へ売って安い所から買うって事だ。運送費は自分達でやればかからないだろう?」
「へぇ~御堂って商人みたいな事を考えるのね」
・・・実際、現代での知識がある俺が思いつく儲かる方法って、転売とかしか思いつかなかったんだけどな。それから俺は帝都の商会へ行って、農作物の相場を調べ、自領と比較した結果、やはり帝都の方が高かった。
「じゃあ、俺の領地で取れた作物の売買は、これで成立でいいな?」
「はい、子爵様。しかし、商売をなさる貴族の方がいらっしゃるとは驚きましたな。連絡を頂いた時に、本当にいらっしゃるのか疑った程です」
「金は幾らあっても困らない、俺は不正で儲けようとは思わんが、正式なルートでの稼ぎなら、領主だろうと冒険者をやりながらでもやるさ」
「敬服致します。子爵様の領民は幸せ者ですな」
「お世辞はいいよ、じゃあ収穫されたら納品しに来るから頼んだよ」
「畏まりました。お待ちしております」
「・・・・・終わった!これで、俺の領主として取り組むべき急務は当面無い!あ~肩の荷が降りた」
「お疲れ様でした。御堂様のお考えの通り、本当に帝都の方が高かったのですね。これで、領内に黙っていても収入が入る事になります。敬服致しました」
「エルフ達がこういった事を知らないのは無理もないよ。妖精さんに経済が分かる訳がない。そうゆうのとは無縁の世界で暮らしていたんだからな」
「経済って?」
「簡単に言えば、儲け方だな」
「それも異世界の言葉?」
「さあ・・・?こっちの世界で経済って言葉があるのか無いのか、俺にも分からん」
「異世界かぁ・・・自分の世界が恋しい?」
「いや全く・・・俺は向こうの世界に未練は無いよ。こっちの世界は空気が美味いし水も美味い、ついでに食い物の味も違う。便利さと娯楽では、あちらの世界の方が1000年以上進んでるが、俺は自分のいた世界を楽しいとは、あまり思わなかった。いつも【退屈】していたよ」
「私は御堂様の居ない世界は考えられません」
「お、おう・・・ありがとうネイア」
俺は他人からの直球の好意の経験があまり無かったので、未だにネイアが何を考えてるのかサッパリ分からない・・・
「ねぇ、何処に向かってるの?」
「宮殿だ。ちょっと皇帝の爺さんに顔出して帰ろう」
「こ、皇帝に会うの?」
「硬くなる事ないぞ、普通の爺さんだ。お前ら美人だから口説かれるかもな。注意しとけ」
俺は宮殿の番兵達に挨拶すると、見知った連中が挨拶してくれた。
「ご苦労さん、これで今夜は一杯やれ」
そう言って俺は懐から銀貨を数枚、渡してやった。
「いつもすみません御堂さん。いえ、御堂子爵様」
「よせよ子爵様とか気色悪い、じゃあ帰りも頼むわ」
「・・・随分と手馴れてるわね」
「一週間、滞在した後にも時々顔を出してるからな。番兵とかは顔見知りになってるよ。普通は子爵程度の身分じゃ、宮殿には入れないし、皇帝にも会えない」
「私達には人間社会の貴族の位や習慣はよく分かりません」
「ああ、実は俺も分からん。俺の居た世界では、既に爵位なんてものは殆ど無くなってる。建前では全ての人は平等って事になってるんだよ。あくまで建前はな」
「実際はあるの?」
「当然だろう、金持ちと貧乏人が同じ身分な訳が無い。いつどんな世界や国であろうと、貧富の差と身分の差は絶対に無くならない」
宮殿の中で通り過ぎる人々が俺達に注目している。ああ、エルフは珍しいからな。俺には普通になりすぎてて忘れてた。帝都の中でも珍しげに見られていたが、宮殿の中でもだったか。そりゃそうだよな・・・
「・・・御堂じゃないか?今日はどうしたんだい?」
「あ、ミネルバか、久しぶりだな。帝都へ用事があったから爺さんの顔見て帰ろうと思ってね。元気してたか?」
「ああ、私の方は特に変わりはないよ。今日はエルフを連れているんだね。以前のギルドの時とは逆で、今日は君が目だっているね」
「ああ・・・あん時は参ったな。急に人気者の近衛隊長さんの登場でギルドが湧き立って焦ったわ。俺達は囲まれてなんかいないぞ。単に遠めから物珍しさで凝視されてるだけだ・・・」
「宮殿内で、皆が足を止めて君達を見ているって事は、ちょっとした事件だよ?君達には理解出来ないだろうけど」
「理解したくもないな。貴族ってのは暇人の集まりだろ?噂や内緒話が好きな連中ばかりだろ」
「おや、君も貴族達が分かるようになってきたか。ああ、君ももう貴族の仲間入りをしていたんだったね。子爵殿」
「止めてくれ・・・田舎貴族でもやる事が多くて、宮殿内部の事にまで気を使ってらんない」
「忙しい貴族か・・・君は良い領主になるだろうね。その言葉を一年中、暇を持て余している貴族達に聞かせてやりたいよ」
「やっぱ冒険者の方が楽だわ。ああ、爺さんに会いに行くけど、今行って平気か?」
「よく一人で陛下にお会いになってるんだろう?話しは聞いているよ。今は誰ともお会いになってないから大丈夫だと思うよ」
「そうか、じゃあ行って来る。またな」
「・・・彼は陛下の事が気に入ったようだね。そうでなければ、わざわざ顔を見せに来る男じゃない」
御堂を見送りながらミネルバは誰に言うでもなく、そう一人ごちた。
「よお爺さん!ってあれ?姫さんいたのか」
「御堂?久しぶりだな。今日は連れがいるのか?」
「ほぅ・・・エルフか。大層美しい娘達じゃな」
「お初にお目掛かります。皇帝陛下」
「拝謁出来て公栄にございます陛下」
「・・・ネイアはともかく、レインがまともな挨拶出来るとは思わなかった」
「なんでよ!?アンタ、エルフ差別酷くない?」
「フォッフォッフォッ、お主の周りはいつも騒がしいのぅ。して、今日はどうした?ショギーでもしに来たか?」
「いや、魔導師協会に用事があってな。それから商会へ・・・」
俺は帝都で今日やった事を爺さんと姫さんに話した。
「・・・魔術師の件は分かるが、お主は行動が早いのぅ」
「商会に物を売りに来る貴族等聞いた事がないが・・・なるほど、それは確かに理に適っているな」
姫さんはブツブツと独り言を言っている。
「ああ、これで領主の仕事は一段落した。前領主の家来は皆、解雇したからな。一から全部作り直すのに苦労したぞ。ああ、爺さんが紹介してくれた獣人達は、全員雇ったよ。良い人材を紹介してくれた助かった」
「おお、して奴等は元気にしておったか?」
「・・・元気過ぎるだろ。俺は三国志ごっこで城壁まで吹っ飛ばされたぞ」
「例のお主が言っていた遊びか?奴等が元気で何よりじゃ」
「三国志ごっこ?」
「重い武器を打ち合う遊びだよ。俺の鉄棒は30kgだ。他の連中も大体30kg以上の武器で100合まで打ち合うんだよ」
「ほぅ、それは面白そうだな。是非私の相手もしてくれ」
「いいよ。ああ、それで爺さんに相談があるんだが・・・」
俺は爺さんに、獣人兵達にヴァルド鋼の武器を使わせる事にしたと説明した。それと、以前から俺が思っていた懸念もだ。それは、危険過ぎる事なのかもしれないと・・・」
「・・・なるほど、ヴァルド鋼か・・・良い所に目を付けたな。人では扱えぬ武器を獣人に持たせるか。確かにお主の危惧する通りの危険性を孕んでおる」
「止めさせるべきか?」
「お主がそうした方が良いと思ったのだろう?ならそうせい、お主にしてはみみっちぃ事を気にするではないか」
「そうなんだが・・・これ、下手をすると戦の全てが変わる可能性もあるぞ?重装備で固めた人間の兵すら太刀打ち出来ない。それに、あちこちの国で獣人兵を使った軍を積極的に作り出す可能性すらある」
「構わんじゃろ、ヴァルド鋼の算出は我が帝国が郡を抜いておる。それに、それが我が国が不利になるとは思わぬ。お主は自ら率先して獣人を雇用した。他国がそれに倣ったところで獣人達が忠誠を誓うとでも?虐げられた獣人達が力を持ったらどうなる?」
「・・・反乱が怖くてやれないと?」
「さあな?しかし、お主を真似た所で、いつも獣人が裏切るのではないかとビクビクしながら使う事になる」
なるほど・・・確かにそれはあるな。それに、獣人に厳しい国なら逆にこちらの味方に付けるって手もあるな。この国で獣人の反乱が起きたら目も当てられないけどな。
「分かったよ。じゃあこのままやってみる。戦果は挙げられるのは間違いないし、遠い将来の心配しても仕方がないしな」
「そうゆう事じゃな。どうなるかは、お主の手腕次第じゃろうて」
「少し気の迷いが晴れたよ。じゃあ、俺は帰るわ。また来る」
「おう、今度も綺麗な娘を連れてくるが良いぞ」
俺は後ろ手に手を振って、部屋から去った。
「・・・今の話しを聞いて、お前はあの男をどう思った?」
「とても、新米領主とは思えませんでした。私の知るどの貴族より、余ほど領地経営と軍事の才があります。作物を売って領地を潤し、獣人に誰も考え付かなかったヴァルド鋼の武器を渡す事を思いつくとは・・・」
「私は以前、御堂と話した時に、何度か貴族の出ではないのか?と聞いた程でした。平民とは思えない軍略の持ち主でしたので・・・」
「出自はどうでも良い、ナスターシャ、お前あの男と婚儀を結ぶ気はないか?」
「・・・は?」
「だから結婚じゃ、いずれお前も誰かと結婚して子を産む事になる。お前ももう19だ。20歳で結婚していなければ行かず後家と呼ばれるぞ?」
「わ、私はまだ若いです!」
「あの男は、まんざらでも無さそうだったぞ?」
「え・・・?御堂が私との婚儀をですか?」
「うむ、お前は強く、そして絶対に美しいに決まっている!とな。どうじゃ、仮面で顔を隠すまでは、国色無双の美姫と、三国にまで鳴り響いたお主の美貌、あの男が相手では不足か?」
「・・・・・・・・・・」
「いずれかの貴族の長子か、他国の王子かと政略結婚せねばならぬのだ。儂ならあの男を選ぶがな。すぐに婚姻でなくとも良いじゃろう。婚約してお互いを知る時間も欲しいだろう?」
「少し・・・考えさせて下さい」
ナスターシャは父の自室を去り、丁度、宮殿から出て行く御堂の姿を見た。仮面を外して、あの男の名を口にしてみた。
「御堂龍摩・・・」
窓辺から夕日に照らし出されたナターシャの横顔は、宮殿に咲き乱れる華ですら恥らう程の美しさであった。