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勝手に喚ばないで!  作者: 全ての野良猫のご主人様
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勝手に喚ばないで!Ⅱ


「フッフッフ・・・こちらが私の恋人の御堂龍摩殿だ」 


「本当に男を連れて来たのか・・・少し、いやかなり背が低いが、顔は合格だな。童顔だが、マリーナってこうゆう男が好みだったのかい?」


誰がチビだと?この女、いきなり喧嘩売ってんのか?買ってやろうか?足腰立たなくなるまで、ヤッてやろうか?ベッドでな!


遡ること1日前


「御堂殿!私と大至急、交際してくれ!」


冒険者ギルドの中がシーン・・・と静まり返る。マリーナが突然な告白をしてきた。マリーナって俺に惚れてたのか?彼女とは仲良かったと思うが、男女を超えた友情だと信じて疑わなかったんだが・・・マジで?


「・・・えーと、白昼堂々大胆な告白ありがとう、でもゴメンなさい」


「フラれた!?御堂殿!私には時間が無い!剣を抜け!勝った方が何でも言う事を聞くルールだ!私が負けたら好きなだけ慰み物して構わん!行くぞ!」


このパターンはヴァネッサの時に学習しました。俺は三馬鹿に命じてマリーナを取り押さえさせた。いきなり戦闘戦法を警戒して、三馬鹿には合図の練習をしておいたんだが、役に立って良かったな。


「御堂様!マリーナさん、メッチャ力強いです!このまま押さえつけてると、彼女の骨が折れちゃいますよ?」


「や、止めて下さいマリーナさん!腕が折れちゃいますよ?折れるってば!」


マジかよ?三馬鹿が押さえ込むのに必死なパワーだと?どんだけ・・・卑怯な!殺せ!と騒いでジタバタと暴れて喚いているマリーナにしゃがみ込んで話し掛けた。


「あのなぁ、力ずくってのは普通、男が辛抱堪らなくなってやるもんだろ、お前みたいな美女が暴れてどうするよ?・・・大体、俺と付き合うとか、何の冗談だよ。急にどうしたんだ?」


「フーッ!フーッ!」


駄目だな、こりゃ話しにならん。俺は彼女に《スリープ》の魔法を掛けた。これはアストラル系の魔法だ。皆さんご存知、眠りの魔法!って簡単な魔法じゃなかったんだよ・・・


エーテル系やアストラル系は高等魔術に匹敵する高度な術だった。相手の脳を眠らせるのではなく、対象のアストラル体に作用させて眠りに付かせるためだ。


アストラル系は習得するのが難しい、エーテル魔法も大概だが、アストラル体に対する深い理解度が必要となってくる。


《スリープ》はアストラル系の魔法の中で最も初歩ではあるが、難易度が高いので使い手は意外と少ない。ちなみに、根性でこの魔法の眠りに抵抗するのは難しい。


「主殿、良いではないか、この娘は以前から主殿に好意を寄せていた。我は女の100人や200人でガタガタ言うような狭量な女ではない。側室の一人にでも加えてやったらどうだ?」


「いやぁ・・・彼女が俺に寄せてた好意って違うぞ?体育会系の女の子が、気の置けない男友達に対するアレだろ。今日のマリーナは何かおかしい」


まあいいや、俺達には依頼があった。ワイルド・ストーカーの群れが出たって面倒な依頼が来ていた。このモンスターを放置すると、女性達が一気に孕んでしまうと云う、恐ろしいモンスターなのだ。


俺は受付嬢へマリーナを渡すと、その場を去った。受付嬢の苦情を背に受けながら、俺は討伐へと向かった。


「おい!コイツらキモイぞ!ルードとカゲミが狙われてる!」


「仕方ないです!ワイルド・ストーカーは性行為のためだけに存在している女の敵なんです!」


群がるレイパーを相手にしているようで、男の俺ですら寒気がする、駄目だ。俺は少し引いて、遠距離からの魔法攻撃のみにしよう。


「御堂様!前衛が私だけは無理です!コイツらは性交のためなら死ぬ事なんて二の次なんですから!アッ・・・!」


どんだけヤりたいんだよ?ちょっと注意を逸らしたヤクトに群がる。オイまさか・・・コイツら、両刀使いとか云うんじゃ・・・?


「ルード!爆裂魔法だ!ヤクトごと吹っ飛ばす!このままじゃヤクトがヤられる!」


俺は爆裂魔法の詠唱に入った。詠唱の必要が無いルードが俺のタイミングに合わせるために待つ。ヤクトが人狼でなかったら取れない無茶な作戦だ。


「ヤクト!尻を抑えてろ!行くぞルード!」


俺とルードの爆裂魔法が炸裂した。辺り一体が爆炎に包みこまれる。爆炎の中心地に居たヤクトは凄まじい様相になっていたが、生きているようだ。人狼の生命力ってスゲーな、これで生きてるんだから常識外れにも程がある。


「再生したら呼んでくれ、あの姿は見ていて気持ち良いもんじゃない・・・」


俺は手近にあった、枯れた丸太に腰かけながら《魔界怒セブン》を吸い始める。フゥ・・・ワイルド・ストーカー、恐ろしい敵だった。これは難易度が高い訳だ。あれは女の敵ってより、人類の敵だな。


ふと、視線を感じてそちらを見ると、こちらを見ている女性が居た。エルフ・・・?珍しいな。


こちらの世界でもエルフはあまり見かけない。彼等は妖精種であって、人間種ではないからだ。森に入ると時々、見かけることがあるが、それでも人間に近寄ってくる事は殆どない。


「あー・・・吸う?魔界怒セブンって言う煙草なんだが。飲むなら酒と水もある。食い物もあるけど」


俺は少し珍しかったのでエルフに声を掛けてみた。来ないだろうと思ったが、彼女はこちらへ近付いてきた。


「アイツらを倒してくれてありがとう、貴方は冒険者?」


「ああ、俺は冒険者だ。依頼を受けてこの辺りのワイルド・ストーカーを狩っていたんだよ。森の一部だが、吹き飛ばしてすまなかった。仲間に群がってて、不可抗力だった」


俺の隣にちょこんと座ると、彼女は構わないと言ってくれた。森はまた長い年月を掛けて育つが、ワイルド・ストーカーに襲われた女性の苦しみは死ぬまで続くからと・・・


緑のワンピースを腰で縛って皮の胸当てを上から着ている。うん、俺のイメージした通りのエルフの姿と言っていい。


だが、俺達のイメージと違うのはエルフ達が高身長な事だ。エルフが低身長で華奢と云うのは俺達の世界の誤った常識だったようだ。


「仲間は大丈夫なの?爆裂魔法を重ねがけで受けていたみたいだけど・・・助からないと思って、仲間ごと呪文を掛けたのではないの?」


「いや、ヤクトは人狼だ。あれ位では死なない可能性に掛けた。もし死んでも彼は助かったと感謝してくれただろう、彼の貞操の危機だったんだ・・・」


「そ、そう・・・人狼?ライカンスロープが人間のPTに居るの?それに、あの二人も人間ではないわよね」


「我も人ではないぞ、エルフの娘よ」


驚いたエルフが後ろを振り向くと、ヴァネッサがそこに立っていた。蝙蝠ローブを被って頭から全身スッポリと包まれていた。


このローブ、耳と目があって可愛い、俺もちょっと欲しいな・・・このフードを被れば昼間も行動出来るらしいが、凄まじいデバフが掛かって、人間と変わらない身体能力になってしまうというデメリットがあるそうだ。


「貴女は・・・まさか、ヴァンパイアのヴァネッサ?そんな・・・何故、人間とヴァンパイアが一緒に・・・」


「おや、我を知っていたか、我は主殿の従者となったのだ。主と共にいるのは当然であろう」


「・・・そんな事って・・・1000年以上を生きると云われる吸血鬼の貴女が人間に従うなんて事が・・・」


「我は主殿に戦いを挑み負けた。敗者が勝者に従うのは当然だ」


「・・・信じられない。ヴァネッサと云えば、かつてのこの辺り一帯の領主だったと聞いているわ。その吸血鬼ヴァネッサが人間の貴方に負けた?そんな事って・・・」


「だが、それが事実じゃ、そうでなければ我がここに居る理由の説明が付かないだろう。理解出来ずとも、そうであると知っておけ」


「ヴァネッサは、メチャクチャ手加減したんだよ。じゃなけりゃ俺は吸血鬼にされてたか死んでたわ」


彼女は絶句している、仕方ないよな。


「御堂様・・・失礼しました。おかげで何とか男として無事に生還出来ました。何と感謝したら良いのか・・・」


ヤクトが泣きながら戻ってきた。良かったな!一騎当千の人狼ヤクトも、性的対象にされては敵わないだろう、俺はヨシヨシと頭を撫でてやった。


「よーしよし、怖かったな!その気持ちはよく分かる。さあ、今日はもう帰って飲もう!飲んで全て忘れてしまおう!」


そう言って俺は立ち上がると、皆に声を掛けた。ブツブツと独り言を言っていたエルフは、ハッと気付いて顔を上げると俺に向かって叫んだ。


「私はレイン!また会いましょう、御堂!」


俺は手を振って答えると、その場を後にした。


バタン!と小箱亭の扉が乱暴に開けられた。皆で一斉にそちらを振り返ると、目が血走ったマリーナがこちらを睨んでいた。


「待て、今日は本当に色々あったんだ!ヤクトはワイルド・ストーカーに襲われて大変だったんだぞ?戦うとか無理だ!な?飲もうぜ?そして何があったのか詳しく聞かせろ」


俺はこうなるのを予見して、マリーナの席を作って酒を用意しておいた、彼女の好物でテーブルを埋め尽くしておいたのだ。


俺なりの心遣いだ、俺は何も悪くはないはずだが・・・ズンズンと歩み寄ってきたマリーナは、ビールを一気に飲み干した。


「お?流石はマリーナだ!おーい、もういっぱいお願いします!いや、二杯かな?じゃんじゃんお願い!」


ギロリと俺の方を睨むマリーナ。美人が怒ると怖いな・・・何で俺が怒られるんだよ・・・何かしたか?


「・・・御堂殿、今朝はすまなかった。追い込まれていて、どうしたら良いか分からなかったのだ。許してくれ・・・」


そう言ってマリーナは泣き出した。今度は泣くの?感情表現豊か過ぎだろ?普段の颯爽とした余裕はどうした?本当にらしくない。


「も~何があったんだよ?大抵の事は何とかなるだろ?俺達も出来る限り力になるから・・・詳しく説明しろよ」


要約すると、マリーナの話しはこうだ。彼女には幼馴染で同期の軍人仲間がいる。彼女の名はミネルバと云うらしい。


マリーナは見栄を張って、ミネルバに手紙で彼氏が出来たと言ってしまったそうだ。そうしたらミネルバは、マリーナの彼氏を見るために、わざわざ帝都から来ると言ってきたのだ。しかも、明日・・・


「それならそうと言え!何が起きたのかと超ビビって損したわ!要は彼氏のフリして誤魔化せばいいんだろ?その後は別れたとか適当に言えばいいんだよ!10代には時々起きる問題だ。それくらいなら力になってやるよ」


全く・・・何が起きたかと思えば、よくある話しじゃねーかよ、心配して損したわ。俺の説明を聞いたマリーナは、ポカーンとしていたが・・・目に生気が蘇ってきた。


「御堂殿!天才か?そんな詐欺師みたいな手をよく思いつくな!これで何とかなる!」


・・・周囲の全員がマリーナを生暖かい目で見ていた。コイツ、頭切れるのに、恋愛ごとになると途端に馬鹿になるのか・・・


「そのミネルバってのはどんな奴なんだ?」


「歳は私と同じで、近衛兵の隊長をやっている。階級は少佐だが、近衛の隊長と言えば、軍人なら誰でも憧れる羨望の的だ。家柄の力も無いとは言わないが、ミネルバは実力で勝ち取ったと私は思っている」


軍事国家として有名なバーンシュタイン帝国が、家柄だけで人事が決まってしまうようなら終わりだからな。そりゃ腕は立つんだろう。


「具体的にどんな人柄?お堅い軍人?名前からして女?」


「気さくな人柄だよ。勿論、女性だ。私が言うのもなんだが、美人だぞ。彼女に言い寄る男は多いが、ミネルバは全く相手にしない。私とは違って・・・あまり男自身に興味が無いような気がする」


「・・・同性愛者?」


「いや違う、子供の頃から男勝りな性格だったが、男に興味を無くしたのは、大抵の男が軟弱者に見えるからじゃないか?聞いた事はないが・・」


「なぁ、良い機会だから、この国の皇帝やその家族構成とか、周辺国とかの状況について聞かせてくれないか?自分がいる国や周辺国について、俺は何一つ知らないんだ」


それから、マリーナにこの国の皇帝や周辺国について長々と話しを聞いた。皇帝は高齢で、男子に恵まれなかったとの事だ。娘が三人いて、二人は他国に嫁いでいるらしい、末娘が婿を貰って皇帝になるだろうとの事だ」


「権力争いは?大貴族が我こそは!とか皇帝狙う輩はいないの?」


「可能性で言えばあるな、姫殿下を蹴落として自分が皇帝の座に着こうと狙う貴族はいるだろう。あの姫殿下を倒そうとは、命知らずにも程があると私は思うがな」


そう言ってマリーナは苦笑した。なに?この国の姫ってそんな恐ろしい奴なのか?


「・・・お姫様って、そんな怖いの?」


「普段は、とてもお優しい方だよ。ただ、戦では、かつてこの国の英雄として謡われた《幻影の戦姫》再来と言われる程に苛烈でお強い。ご先祖に当たるから生まれ変わりじゃないのか?と噂する者もいるくらいだ」


なるほど、英雄の生まれ変わりって言われるくらい強いのね。この国って男勝りな女しかいないのか?姫ってお淑やかな深窓の令嬢だったりするんじゃないの?


「周辺国は?この国を狙う国は?」


「ある、この国は鉱物資源が豊富だ。小国だが、豊かな国だと言える。周辺国家からすれば、この国の鉱物資源は何としても欲しい。だからこの国は軍事国家にならざるを得なかったんだ」


「他の国々って、戦争とかしてないの?」


「この大陸全土で戦争は散発的に起きてるよ。旅をしていたのに知らんのか?戦乱の兆しはいつでもある。君も覚悟だけはしておけ、いざ戦争となったら、冒険者は中立だから等と言ってられない状況になる」


マジかよ・・・戦争嫌だな・・・それはすっごく嫌だ。今の生活は元の世界とは違って新鮮な楽しみが沢山ある。


城持ちの大金持ちになったし、冒険は楽しい。モンスター狩りばっかやってるが、ダンジョン攻略とか楽しみだし、未知のレアアイテムとか手に入れてみたい。


「冒険者は確かに中立だ。だが、攻めてきた国が冒険者は中立だからと云って、俺達を見逃してくれるとは思わんからな。狙ってくるなら仕方ない、戦うさ」


「流石に君は理解してるようだな、ギルド長殿はその辺の事を理解していない。敵は冒険者だろうが、軍人だろうが区別無く襲って来る。


特に武器を持ち魔法を操る冒険者が、安全だなんて、どうして考えられるのか不思議でならん」


まあ、ギルド長には彼なりの立場や考えがあるのだろう。立場が変われば見方も変わる。必ずしもマリーナの言う事が正しいとは限らない。別な方向から見れば、戦争の見方なんて幾らでも変わるからな。


「それで、明日の打ち合わせをしたい・・・御堂殿、この借りは必ず返すぞ!」


そうして、俺達は何時間も掛けて打ち合わせをする事となった。恋愛経験のないマリーナはかなり偏った知識しかなかったが、悩みの大部分が片付いたせいか、何やら楽しむ余裕が出来たようだ・・・


「言ってくれるじゃないか、ミネルバ少佐だったか?俺は女だからと言って手加減する程、フェミニストじゃないぞ・・・」


「まぁまぁ御堂殿!ミネルバは彼氏が出来た事がない!ここは私達が、可哀想なミネルバに、大人の余裕を見せてあげようじゃないか!」


マリーナは超余裕で笑っている、すげぇマウント取ってるな。そんなに彼氏居ない友人に対して、彼氏いるフリするのって楽しいのか?少し、マリーナが憐れになってきた・・・実際、お前にも彼氏は居ない。


「さあ、立ち話もなんだから、その辺の茶屋でも入るか?積もる話しもあるからな!」


マリーナに腕を取られて、そのまま引っ張られて行く・・・すげぇ上機嫌だな。昨日の半狂乱はなんだったんだ?


「少佐、帝都から一日でここまで来たの?それって凄い強硬軍だっただろう?」


「ミネルバで構わない、私の馬ならこの帝国領であれば一日で何処へでも行けるよ。ユニコーンと掛け合わせた自慢の名馬だ」


彼女の乗ってきた馬は白馬だ。馬に詳しくない俺でも、見事な馬だと見て分かる。男装の麗人だから、白馬の王子様に見えた。


今日のマリーナは剣も帯びずに、女性らしい格好をしている。流石にドレスは着ていないが、こうゆう格好をすると、凄く女性らしい。


普段の軍服や鎧姿も似合うが、女性らしい格好もよく似合う。美人は何を着ても似合う典型か。


「おいミネルバ、御堂殿はこの街でも指折りの冒険者だ。最短で中級になった凄腕だぞ。そして千年を生きる吸血鬼を力ずくで配下にした英雄だ。


凄いだろう?彼なら、大陸に数人しか居ない最上級冒険者になると私は信じて疑わない」


「ああ・・・毎晩、手紙で彼の自慢は散々聞かされたから知っているよ。吸血鬼を従えたと云うのは、帝都でも噂になっている。そのうち、帝都から呼び出しがあるかもしれないな」


「え?マジ・・・?なんで?そうゆうの行きたくないんだけど・・・」


「吸血鬼自体は、そこまで珍しい存在でもないだろう、だがヴァネッサと云えば、この帝国が作られる前から存在する吸血鬼だぞ?そんな存在を従える君は、放置しておいて良い存在とは言えないだろう」


・・・ああ、脅威として見られたか、それは俺にも分かってた。そうなる日が来るとはね。一冒険者としては過剰な戦力と云えるからな。


まあ、コイツらは三馬鹿の事には気付いてないし、奴等も人間じゃなく、一騎当千の魔物と知ったらどうなるんだろうね。


城もあるし、討伐なんてしようとしたら、この国の全軍掛けてやる事になるだろう、それは不可能だ。そんな事をしたら、隣国は間違いなく攻めてくるから。


「マリーナ、鎧を着て来い、モンスター討伐に行こう。自慢の彼氏殿の腕前を見せて貰おうじゃないか」


俺達:え・・・?



「全員、前衛でモンスター狩りとか正気か?マリーナ!そっち行ったぞ!ここいらのモンスターは強い!」


ミネルバに強引にモンスター狩りに連れて来られた。貴族だったら鹿でも狩ってろ!この辺りは中級冒険者でも命懸けの強敵揃いだ!三人で剣で戦っているが、ラチが明かない。


横目で二人の戦いを見ているが、二人共、文句無しの手練だが、モンスターの真の脅威は数だ。


「このままじゃ囲まれる!二人共、俺が詠唱する時間を稼げ!数を減らす!」


風よ・・・我が求めに応じ、荒れ狂いて魔物共を切り裂け!炎よ、火界より来たれ、風と共に一切を滅ぼせ!


「二人共、伏せろ!ストーム・オブ・ファイア!」


俺の呪文で炎の竜巻がモンスターの群れを包みこむ。風と炎を掛け合わせた難しい術だ。この炎の竜巻に包まれれば大抵のモンスターは滅びる。


「っ・・・!!」


二人は伏せながら吹き飛ばされないように必死に耐える。俺はすぐには術を止めない、すぐに止めたら生き残るモンスターがいるかもしれないからだ。この術で生き残った奴がいるとすれば、それは間違いなく強敵だ。残らず焼き尽くす!


「・・・ハッハッハ、いやぁ楽しかった。久しぶりだよ、こんなに緊張したのは!」


「ああ、御堂殿の魔法を見るのは、私もこれが初めてだ!凄いな!私の隊の魔術師達より、ずっと強力な術を使うんだな!」


二人は寝転びながら大爆笑している。おい、一歩間違えたら死んでたんだぞ・・・まるでジェット・コースターに乗った後の子供だ。二人はまだ笑っている。


「おくつろぎの所に悪いが、まだ終わってない。強力なのが残った」


魔獣だな、かなり弱ってはいるが、あれでまだ生き残るか・・・


「それは私達で片付けよう、君にばかり活躍させてもいられまい」


二人は華麗に起き上がると、揃って魔獣へと掛け出した。


「おい・・・それは強敵だ。無理に突っ込むな!」


と、俺は声を掛けたが二人は一瞬でその魔獣の首を刎ねた。あれ・・・?二人共、そこまで強いの?


普段、ヤクトの肉弾戦に見慣れている俺は、人間の動きでは、そこまで感心する事はないが、この二人の息の合った剣激は見事だった。それに、二人の持つ剣は魔力の篭った相当な業物なのが見てとれた。


「アッハッハ、楽勝だな!どうだ?御堂殿、君の恋人の腕前は?私達も捨てたものじゃないだろう?なにしろ、一軍を預る私と近衛の隊長だからな!」


悠々と戻ってきた二人は晴れ晴れとした顔をしている。モンスター狩りをストレス発散の場にしないでくれ・・・


お前等そんなに普段、鬱憤が溜まってるのか・・・?それに、一々、大笑いしないと戦えないのか?まるで酔っ払いながら戦っているように見えるぞ。


バトルマニアなのか?冒険者以上の脳筋じゃねーか。


「軍で戦うより、ずっと開放感があって楽しいな!二人で戦うのは久しぶりだ!近衛で腕が鈍ったかと思っていたが、やるじゃないかミネルバ!」


「マリーナこそ、兵の指揮ばかりして腕が鈍っているんじゃないかと思ったが流石だな。安心したよ」


二人はガッチリと握手した。完全に二人の世界に入っている彼女らを見て、俺は全てがどうでも良くなってきた。


冒険者ギルドへ寄って、素材をキッチリ渡して、今夜の酒代には多すぎる報酬を得てから小箱亭で酒盛りをする事になった。


「いやぁ~楽しかったな!私も軍を辞めて冒険者になるべきか真剣に悩むな・・・こっちの方が小難しい事を考えなくて良いから楽しいな!」


「同感だ。宮廷の煩わしい人付き合いが無く、自然の中でモンスターと好きに戦って糧を得る。こんな素晴らしい生活を私もしてみたい・・・」


二人共、今日のモンスター狩りが余程楽しかったようだ。うん、君ら脳筋には、軍人のような宮仕えより冒険者の方が合ってるよ。俺より向いてるだろ。


「それにしても御堂殿、君の腕は凄まじいな。魔法剣士とは聞いていたが、どちらも予想以上の腕前だ。


魔法寄りかと思えば、剣の腕も一流で、剣寄りかと思えば一流の魔術師も目を見張る程の魔法を使う、本当に大したものだよ」


「そうだろう、そうだろう!御堂殿は私が見込んだ男だぞ?そこいらのボンクラ貴族共とは物が違う!」


「うん、毎日届く手紙を見て、私はかなり疑っていたのだが、認めざるを得ない。彼は相当な遣い手だ。


マリーナの男を見る目が心配で着てみたが、これならお父上や厳格なお爺様も、身分や家柄の違いに文句は言わないだろう。私も口添えしてもいい」


・・・え?何の話しをしてるんだ?親父さんやお爺さんだと?


「それで、御堂殿をいつ、お二人に紹介するんだい?」


俺は飲んでいた酒を拭き出した・・・


「ちょっとマリーナ、こっちへ来て貰っていいかい?」


「あ、ああ・・・どうした?愛しい人よ・・・」


小箱亭の片隅にマリーナを手招きして、俺はマリーナにどうゆう事なのか、説明を求めた。


「実は・・・ミネルバに恋人が出来たと自慢話しをするついでに、縁談を持ち込んで来る、父上とお爺様にも、こちらで恋人が出来たから見合いはしないと手紙を送っていたのだ・・・すまん」


最後の《すまん》はかなりの小声になっていた。俺の顔は引きつりまくっていた。え?なに?友達についたちょっとした嘘を誤魔化すだけじゃなく、親まで騙してたの?


「なぁ・・・それ、誤魔化し切れるのか?ミネルバだけなら、別れたって言えば済むと思うが、お前、名門貴族だろ?


簡単に別れたとか言って、家族って、ハイそーですかって納得してくれるもんなの?平民の分際で、うちの大事な娘を傷者にしておいて責任取らない気なのかって怒り出すんじゃないのか?俺、手打ちにされたりしない?」


マリーナ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「今からミネルバに嘘付いてゴメンなさいって話そう、それは俺の手に負えないわ」


突然、ガッと俺の腕が凄まじい力で掴まれた。見ると、目付きが変わったマリーナがこちらを鬼女のような形相で睨んでいる。


「御堂殿、二人で逃げよう・・・誰も知らない何処かへ・・・この責任は取って、御堂殿は一生私が養う、夜伽も頑張って満足させてみる。貴族はその辺の事はシッカリと覚えさせられるんだ!」


「私に言い寄って来る男性は後を立たない、そのくらいの容姿をしている自覚がある。不満か?私では不満があるのか?」


ちょーーーーっ!無理!誰か助けて!こんなん草生えるわ!


「フゥ・・・そんな事だと思ったよ」


俺達:あ・・・


後ろに立ったミネルバが、俺達を可哀想な生き物を見る目で溜め息をついていた。



「・・・それで、何処からが嘘なんだ?二人が付き合っているのが嘘なんだな?二人は唯の知り合い?友人?」


「友人だな、俺はマリーナの事は好きだよ。美人だし、貴族なのに気さくな性格も好きだ。だが、友人だ。それ以上でも以下でもない、今の所はな」


「今の所はって言った!?なら、このままそうゆう事になっても構わないのではないのか!?」


俺とミネルバ:ちょっと黙ってろ


俺はミネルバに全てを説明した。黙っていなかったマリーナには《バインド》の術を掛けて、うるさいから口に猿ぐつわを付けて転がしている。


バインドはロープ等で相手をたちどころに縛る術だ。ロープが無い場合は、魔法のロープを一時的に作り出して行う事も出来る。


沈痛な面持ちで全てを聞いていたミネルバは俺に話しだした。


「話しは分かった、君には迷惑を掛けたようだね。マリーナを許してやって欲しい」


彼女はそう言って、俺に深々と頭を下げた。


「いや、そこまで迷惑って程の事じゃないよ。それに彼女は友達だからな。本当はこれくらい、お安い御用だ。


ただ、マリーナの家柄とか考えると、嘘を付き通すには限界がある・・・ミネルバを騙そうって言い出したのは俺だしな。こっちこそ、すまなかった」


そう言って、俺は彼女に頭を下げた。


「お互いに頭を下げあっても仕方ないな。君は思ったより誠実な男のようだ。マリーナが惚れるのも分かる気がする」


「別にマリーナは俺に惚れてる訳じゃないだろ、そんな話しは聞いた事がないし、知り合って二ヶ月程度の付き合いだ。他に頼れる男友達は居なかったんだろ」


ミネルバは天を仰いだ。


「これは・・・マリーナが強硬手段に出るもの無理からぬ話しか?確かに私達には男性の友人がいないと言っていい、だが、気の無い男に駆け落ちを持ち掛ける女が何処にいる?」


いや、それはお前の勘違いだろう、奴はパニくっていた。普段の彼女の様子とは明らかに違う。大体、普段の彼女なら、職務放棄して駆け落ちしようとか馬鹿な事を言い出す訳がない。


「俺とアンタのどちらが正しいかは、この際どうでもいいな。問題はこれからだ。マリーナが家にまで俺の事を話していたのはヤバ過ぎる。どうしたら良いと思う?」


「いっそ本当に付き合ったらどうだ?すぐに結婚でなくていいだろう、婚約者にでもなっておけば納得すると思うよ。父君は話しの分かる方だし、お爺様だって、君の実力が分かれば、いずれ納得して下さると私は思うよ」


「嘘を本当にしてどうする・・・それに、今は恋人なんて作る気ないし、ましてやフィアンセなんて作ってられるかよ・・・ラブコメとか趣味じゃない」


「・・・何だと?マリーナでは不足だと君は言うのか?聞き捨てならんな、彼女は家柄も容姿も申し分ないだろう。彼女に言い寄る男は山ほどいる。君は彼女の何が不満なんだ?・・・ラブコメとはなんだ?」


「論点がズレてる!嘘から始まったって言ってるだろ?マリーナに不満があるとかそうゆう話しじゃない!」


「なら決まりじゃないか、彼女に不満が無いなら、このまま本当にしてしまえばいい。彼女は引く手数多だ。私から見ても君にとって悪い話しとは思えない」


・・・駄目だ。話しが通じない。確かにミネルバの云う事は分かる。いわゆる玉の輿だろ?ああ、そうだろうな!確かにそうなんだろう!


そっちからしたら冒険者の俺が、名門貴族の美人の娘を嫁に出来るなんて何の不足もなく見えるんだろうな!(少し腹が立ってきた)


「あのなぁ、何のために冒険者なんて、しがない生活してると思う?俺達は束縛されるのが嫌なんだよ。この国って15歳で成人だっけ?結婚するのも珍しくないんだろう、女は13で嫁ぐのも珍しくないんだって?」


「家柄が凄いのがどうした?マリーナの容姿には何の文句もない、凄くいい女だ。今すぐ押し倒していいか?男なら誰だって、マリーナ見たら抱きたいと思うわ、それは断言する!


養って貰う?冗談じゃねえ、俺だっていっぱしの稼ぎはあるわ、城だってある!(ヴァネッサのだったが)」


「・・・気に入ったぞ御堂殿。マリーナの家柄を目当てに言い寄ってくる能無し共とは違うな、そこにマリーナも惚れたか。


それでこそ男というものだろうな。彼女の容色を褒め方は少しアレだが・・・押し倒すのは、今は止めてやってくれないか?都合良く、縛られて倒れてはいるが・・・」


芋虫のように縛られている親友を、ミネルバは愛おしげに見つめる。うん、マリーナが猿ぐつわされて縛られて無ければ様になる話しだな。


友人の駄目な姿を見ても幻滅しないのは、本物の親友だからだろうな。そうゆう事にしておこう。


「分かったよ、マリーナの家には私から上手く伝えておこう、二人は初々しく手も繋げないような関係だと。それなら後々、問題にもならないだろうからね」


最初からそう言ってくれよ・・・そうゆう風に上手くフォローしてくれるんなら話しは難しくねーだろ?


「しかし本当にマリーナと・・・いや、止めておこう。私がどうこう言って上手くまとまる話しじゃないからね。惜しいな・・・」


「話しは変わるんだが、君の事を姫様にお伝えしてもいいかい?帝都では君の事が、密かに噂になっている。黙っていても、自然に広まって行く。それなら私から姫様に出会った君の印象を伝えておいた方がいい」


「中級冒険者なんて、幾らでもいるだろ。別に俺が特別って訳じゃないが、ヴァネッサの事か・・・


うーん、彼女の事は公にすると決めたのは俺達だしな。仕方が無い、ミネルバなら上手く説明してくれると信じるよ。宜しく頼む、姫さんに宜しくな」


「吸血鬼だけの話しでもないな、君の腕前は見た。それを討伐出来たのも納得が行く、姫様はそうゆう話しに目が無い。貴族も王族も【退屈】しているからな。面白そうな話しには皆、目がないんだよ」


ヴァネッサ退治は既に吟遊詩人達が語り継いでいると、ミネルバは言った。マジかよ・・・吟遊詩人って、あちこちで歌って稼ぐ道化みたいな連中だろ?


勝手に噂広めるなよ、あまり目立ちたくないんだよな・・・話しが一件落着したので、マリーナのバインドを解いてやった。


「・・・酷い目にあった。まさか、私を魔法で縛るとはな、御堂殿にはそうゆう趣味があるのか?男には時々、そんな趣味がある者がいると聞いた事があるが」


「ねーよ、お前が騒ぐからだ。話しは聞いていたな?俺達はプラトニックな付き合いをしているウブなカップルだ。それでいいな?」


「・・・そうだな、当分の間はそれで構わないだろう」


当分ってなんだよ・・・ちょっとマリーナの言葉が気になったが、もう面倒臭いからいいや・・・


「それで、姫様に私の恋人の事を伝えるのだな?ミネルバ、上手く伝えておいてくれよ?婚約はすぐにするかもしれないが、結婚は当分先になると伝えて・・・」


マリーナが全て言い終える前にバインドを食らわせて、また猿ぐつわを噛ませた。コイツ、今まで何を聞いてたんだ・・・?普段の颯爽としたマリーナは何処へ消えたんだ?まさか、影武者とか言わないよな?


「やれやれ・・・君達は本当に仲が良いな。それで、縛るのは本当に君の趣味ではないんだな?」


俺は黙ってミネルバにもバインドを食らわせて小箱亭を後にした。



「あー疲れた・・・今日は本当に疲れた一日だったわ・・・どっと疲れた。風呂入って寝る」


「主様、お疲れのご様子・・・私はマッサージが上手い、入浴が終わったら私が主様を揉みほぐす」


「ありがとうカゲミ・・・頼むよ」


フゥ・・・今日は一日、色々あったなぁ・・・一日、あの二人に付き合うからルード達は城で休日を与えていた。街で買い食いでもしていたんだろうな。


風呂は一人の空間だから、全部自分でやると言ったが、体だけは洗わせろとメイド達が譲らなかったから、体を洗うのは任せる事で妥協した。せっかく、広い風呂を独り占め出来るってのに、監視付きとか拷問だからな。


ここの風呂は温泉だ。舐めてみたが塩の味はしない、硫黄の臭いがしないし、無色透明だから単純泉だろう。普段入る分には、もっとも好ましいな。温泉好きな俺としては大満足だ。


家の風呂が広くて温泉だぞ?メッチャ恵まれすぎてるわ・・・日本でも地方だと、お湯が温泉だったりする地域があるそうだが。


ここ、温泉だから入浴剤を楽しめないって贅沢な悩みはあるな。まあ仕方ない、本物の温泉には敵わないが、色が楽しめるって利点も入浴剤にはあるんだよなぁ・・・



「やあ御堂、昨夜は酷いじゃないか、いきなり私まで縛るとはね。君は本当に・・・おっと縛るのは止めてくれ」


ギルドから使いが来て、顔を出したらミネルバが居た。いきなり余計な事を言い出しそうだったからバインドしようかと思ったら止められた。


「あれはお前達が悪い、今日はマリーナが一緒じゃないんだな」


「彼女は・・・まぁ、あの後、少し色々あってね。君はこれから仕事かい?良ければ一緒に行ってもいいかな?モンスター狩りは良い運動になる」


命懸けの狩りを、ダイエットのヨガみたいに気軽に言うなよ・・・


「いや、今日はギルドに呼び出されたんだ。何か用か?」


「ああ、御堂さん。今日は良い報せです。御堂さんの昇格が決まりました。上級冒険者、おめでとうございます!」


周囲から、オォーっと驚きの声と拍手が起きた。


「おめでとう御堂!たった三ヶ月で上級冒険者に?私も冒険者に詳しくはないが、それは極めて異例だろう?」


・・・うん、俺が聞いただけでも、良くて中級で一生を終える冒険者が殆どだ。初級で終わる連中が少なくない。死なないで冒険者やってりゃ、中級には10年でなれると聞いた。上級になれる者は本当に少ない。


「いいのか?流石に三ヶ月って早くない?俺はあまり目立ちたくないんだよな。充分、目立ちすぎたから・・・」


「ギルド長のお決めになった事です。他の職員とも相談なされたようですが、反対意見は無かったそうですよ♪」


「そうなの?やっかまれたりしない?」


「多少はあるでしょう、3ヶ月で上級冒険者になった例は私も聞いた事がありません。でも、功績を考えれば、おかしいとは私も思いませんよ?チーム《御堂様》の討伐してるモンスターの数は異常ですから・・・」


ああ、それは・・・確かに三馬鹿の狩るモンスターの数は異常だ。討伐報酬だけでなく、素材も毎回、かなりの量を売り捌いている。


俺は城の金に手を付けた事がないんだが、どんどん金だけは貯まっていく一方だ。俺はそんなに金に執着心は無い方なんだけどな。金は幾らあっても困るもんじゃない。


「チーム《御堂様》って?俺は一度もパーティ名を決めた事なんてないんだが・・・」


「・・・通り名ですからね。そんなものです。普通、名が売れて行く課程でPT名を決める人達が殆どですが、御堂さん達の場合は急速に名前が広まり過ぎました。もう諦めて下さい、みんなそれで御堂さんのPTを認識してしまっています」


「・・・だからってそのPT名は無くね?今から考えるんじゃ駄目なのか?」


「周囲が既に《御堂様》で認識しちゃってますからねぇ・・・今から名前を考えて名乗っても、そちらがちゃんと広まるか分かりませんよ?」


じゃあ、そっちから頃合見て提案してくれよ!まだ《御堂》ってまんまの方がマシだわ!もういいや・・・朝から疲れた。


「こんな事ならマリーナを引っ張ってでも連れてくるんだったな。君の昇進に立ち合えなかったなんて、彼女は後悔するだろうな」


「今度はマリーナに何が起きたんだ?軍を辞めて冒険者になるって言い出したとか言わないよな?」


「それは面白いだろう、私だって反対しない。そうじゃなくて・・・その、恥ずかしくなったようだよ」


「・・・ハァ?」


「だから、ここ数日の出来事や自分のした事が急に恥ずかしくなったらしい・・・」


ああ、神よ!彼女が正気に戻って良かったわ!俺は精神病の一種なんじゃないかと真剣に疑ったわ!


「ほら見ろ!やっぱり最近のマリーナはおかしかった!だから俺は言ったじゃないか!」


「彼女をおかしくしたのは君だろう・・・」


「なんだって?」


ミネルバが小声で何か言ったが、よく聞こえなかった。


「いや、いい・・・マリーナも苦労するな。朴念仁って訳でもないだろうに・・・それで、これからどうするんだい?帰って仲間に報せに戻るのか?」


そうだな・・・まぁ、アイツらはそこまで興味無さそうだが、戻って報せるのが妥当だな。


「良ければ、また狩りに出掛けないか?私はまた行きたいんだよ」


「それは構わんが、二人でか?かなり無茶だぞ?」


「ハハハ、昨日のような無茶はしないさ、今日はもう少し楽な狩場で構わない」


「まぁ、それならいいか・・・なら人型のモンスターが多い場所へ行くか。大型ならトロルとかが出るが、俺とミネルバなら問題ないだろう」


「それは助かる、人型の方が私としてもやり易い、早速行こうじゃないか」


湖の近くに来たのだが、剣激の音がする・・・見に行ってみると、この前のエルフ?レインって言ったか?他に二人のエルフがざっと二十匹のリザードマンに囲まれている。それと、ダークエルフ?あれはダークエルフなのか?考えてる時間はない、俺は掛け出して、呪文を放つ。


「風よ、我が意に従え・・・ウインド・ブラスト!」


囲んでいたリザードマンの一角を呪文で吹き飛ばした。

そのまま抜き打ちざまに抜刀して一匹を倒した。チラっと見ると、ミネルバも2匹を斬り倒して、三匹目と切り結んでいる。うん、やはりミネルバは強い、彼女は問題ないな。


「後で事情を聞かせろ、あれはダークエルフなのか?連中が親玉?」


俺は割って入って、レインに背を向けて問いかける。


「御堂?助かったわ!ええ、あれはダークエルフよ!気を付けて!」


「俺はダークエルフをやる!ここは任せた!」


俺はミネルバにそう叫ぶと同時に、斬り結んでいた二匹のリザードマンを片付けて、4人のダークエルフに肉薄した。


「人間が!邪魔をするな!」


「凄むなよ、引かないなら皆殺しにする」


俺は片手に魔力の風を集めると、ダークエルフ達に向けた。


「チッ・・・引くぞ、仲間が来ては分が悪い」


ダークエルフ達の姿が一瞬で掻き消えた。不可視の魔法か?気配も同時に消すとは、かなりやる奴等だ。やり合ってたら危なかったかもしれないな。リザードマン達は湖へと逃げて行った。そっちはどうでもいいか。


「さてと、危機は去った、帰ろうかミネルバ」


「ねぇ、後で事情を聞くって言ってたわよね?このまま帰っちゃうの?」


レインが抗議の声を上げるが、俺は途中で気が変わっていた。突然の事だったから、事情を聞かせろと思わず言ったが、考えてみればエルフとダークエルフの確執に俺達、人間が関与する理由が全くない。


知っている奴が襲われたから助けただけだ。もし、次の俺達がダークエルフに敵対的だと思われたらどうするんだよ。


「さっきは、ああ言ったが俺達、人間がエルフとダークエルフの揉め事に介入するのはちょっと・・・もし人間がエルフ側で、ダークエルフ達に敵視されたら責任が取れん」


「ちょっと待って!貴方達、ダークエルフを何だと思ってるの?邪悪な魂を持つからダークエルフなの!彼女達の肌の色が黒いのは、堕ちた証拠なのよ?」


「人種差別は良くない、肌の色の違いなんて、人間なら白・黄色・黒とか色々言われてる」


「そうじゃなくて!ああもう・・・根本的にダークエルフの存在を貴方達は分かってないわね」


俺はミネルバを見て、ダークエルフについて何か知ってるか?そんなに邪悪な連中なのか聞いてみた。


「確かに、ダークエルフは人間の戦争にも介入する事はあるし、アサシンも多かったりするな。だが、それは別にどの種族だっている事だよね。特別、ダークエルフが邪悪だと云う認識は私達にはない。エルフの冒険者だって、たまにいるからね」


「・・・まず、ダークエルフについての貴方達の認識の間違いを説明する必要があるわね。私達の村に来てくれる?ちゃんと説明するから」


「お前達の村って、妖精界のか?無理無理、俺達老人になったり帰って来れなくなったりしないか?」


「いえ、ここからそう遠くない場所にあるの。普段は結界を張っているから知っている者は少ないわ。人間が訪れる事はないわね」


「レイン?人間を私達の村に入れるの?それは・・・」


「助けてもらって、お礼も無しに村に入れる事を拒否するの?それじゃ私達エルフが礼儀知らずだと思われても仕方ないんじゃないのかしら?」


「・・・別に俺達はこのまま帰る方向で問題ない、今日の事は忘れるから。じゃあ、達者でな!」


「いいから来て!」


結局、レインに引っ張られるように俺とミネルバは彼女達の村へ連れて行かれた。嫌な予感しかしない・・・


「ここよ、少し待ってね。皆に事情を説明してくるから」


「このまま帰っていいか?」


「お願いだから駄々をこねないで待ってて!」


レイン達は何もない空間へ消えて行った。ああ、これが結界か、見えないだけじゃなくて人避けの術が掛けてあるな。この場には何となく近寄りたくない。


「フフッ・・・君といると、本当に退屈しないな。君にエルフの友人がいるとはね」


「彼女とは友人じゃない、一度しか会った事ないよ。俺達がモンスター狩りをしていたら、たまたま会って挨拶しただけだ」


「へぇ、君も彼女も親しげに見えたけれど、それは君の人柄と態度か。君のペースにエルフも調子が狂っているようだ」


可笑しそうにミネルバが笑っている。俺は別に普通だぞ・・・普通だよ?


「ねぇ、貴方達の話し声ってこちらに聞こえているのよね・・・入っていいわ、皆に事情は説明したから」


現れて再び消えたレインのいた辺りへと向かう。レインが消えた辺りの空間を通り過ぎると、景色が一変した。嘘・・・?何か普通の森と違う?それに、エルフいっぱいいる!エルフが近所にこんなに居たのか?


「それにしても早かったな。そんなすぐに、皆に事情を説明出来るのか?」


「直接話した訳じゃない、精霊術で皆に事情を話したの。いちいち集まって話さなくても、精霊を介して声を届ける事が出来るわ」


なにそれ・・・便利だな。俺も後でやり方を教えて貰おう。携帯が無くて不便だったんだよ。エルフは俺達が使う魔術とは違う体系の《精霊術》と云う術を使うと本で読んだ事がある


。俺達の使う精霊魔法と違って、直接精霊に語りかけ力を借りる事が出来るそうだ。お願いするだけで色々やって貰えるとか、どんだけ便利なんだよ・・・


ちなみに、エルフが弓使いってイメージは間違いだ。彼等は元祖ヴィーガンだ。獣を狩って食う習慣が無いのに、弓持ってどーすんだよって話しだな。武器は普通に細身の剣で、槍を護身用に使う者もいるようだ。


ヤクトは最初、剣のみだったが広い場所ではハルバートを好んで使うようだ。あれは斬る、突く、薙ぐと欠点がない武器なんだけど、扱いが難しい。


俺は普通に鉄の棒を使ってみた事がある、槍がベターなんだが、モンスターはとても数が多いので、突くより鉄の棒で殴った方が早い。


でも俺は術も使うし、印を結ぶ必要がある術もあるから、両手が塞がるとまずいので結局は刀だけにしている。


・・・鉄の棒いいよ?30㎏を超える鉄の棒を振り回せば、大型のモンスター以外は吹っ飛ぶから。孫悟空の如意棒だって、伸び縮みする重い棒に過ぎない。


「みんな俺達が珍しそうだな、人間ってそんな珍しくないだろ。エルフがシャイなのは知ってるけどさ」


こちらを見て、クスクス笑っている女性達もいる。悪意がある感じがしないので、単純に人間が珍しいのだろう。


「冒険者や猟師達が森に入って来る時に見かけるくらいね。みんな悪気ないから許してあげて」


「男女比率で、女性が多くないか?男が狩りに出掛けてるって訳じゃないよな?」


「エルフは女性の方が多いのよ。男性のエルフはとても少ない、知らなかったの?」


それは初耳だった。エルフには女性が多いんだ。美人しかいないから、男としてはそっちの方が嬉しい情報だな。


「長老、人間のお客人をお連れしました」


「どうぞ、お入りなさい」


俺は促されるまま、館と呼ぶには若干小さい建物へ入って目を見張った。俺がこの世界に来て、目を奪われる程の美女は《リリス、ヴァネッサ》に続いて彼女で三人目だった。


「人の子よ、よく同胞を救ってくれました。長として御礼を申し上げます」


彼女は優雅に頭を下げた、うわぁ・・・何かキラキラしてる。女神って言われたらそのまま信じるぞ、声まで美しい。


「あー・・・まぁ、成り行きだった。俺は御堂龍摩、こっちの麗しい女性騎士はミネルバ・・・なんだっけ?」


「ミネルバ・スレイル・カストールだよ・・・家名を知らなかったのかい?酷いな」


「聞いてない、ミネルバって名前で近衛隊長で少佐って階級としか知らされてない」


「まぁ、そちらの騎士様は近衛隊長なのですか?それでは高貴な身分の方なのでしょう?申し遅れました。私はディアナと申します。若いエルフ達のまとめ役をやっています」


「ミネルバで構いません、女性を守るのは騎士の勤めです。麗しい女性なら尚更です」


「おい、エルフをナンパするのか?まさか、彼氏居ないのって同性愛者とか言わないよな?」


「美しい者は美しいと言っているだけだ。私の性癖はノーマルだよ」


「ねぇ貴方達・・・長老の前で何て話しているの・・・?」


言われて見ると、レインが少し引きつっていた。


「構いません、レイン。貴方の友人はとても楽しい方々なのですね」


ディアナはコロコロと笑っていた。笑う姿まで優雅だな。人間と妖精さんとでは、やはり物が違うのか・・・


「それで・・・俺達はどうでも良かったんだが、レインがダークエルフについて教えてくれるって言うから連れて来られたんだが・・・


ダークエルフとエルフの違いって、肌の色だけじゃないのか?他にも色々と価値感とか宗教が違うとか?」


「そうですね、私達エルフとダークエルフは祖先を同じくしてはいますが、彼等は闇に仕えています。私達エルフは妖精族として、光にも闇にも属していません。人間と同じ中立の立場とも言えますね」


「おいレイン、彼女の説明はとても分かり易いぞ、最初からそう言ってくれよ。三行で説明が終わったじゃないか」


「そうね!私が悪かったわ!説明が下手で失礼したわね!」


ディアナは俺達のやり取りを見て、また笑い出した。そんな笑う事か?彼女達には、冗談や娯楽が少ないのかもしれないな。森で草ばっか食ってたらそーなるか・・・(偏見)


「付け加えるなら、エルフと違ってダークエルフには男性が少なくはありませんね。ダークエルフは私達エルフと違って欲望にも忠実です・・・意味はお分かりですか?」


「・・・つまり、あのダークエルフ達は、レイン達を攫って乱暴しようとしたって事か?」


「いえ、それだけではありません、この辺りにダークエルフがいるとは私も聞いた事がありません。彼等は別の場所から来たはずです。目的までは私達にも分かりません」


「しかし、ダークエルフが静かに暮らすために、この森へ来たとは私には考えられません」


「おーい、近衛隊長!話しが難しくなってきたぞ?これは冒険者がどうこうするって話しじゃ無さそうだぞ?」


ミネルバは暫く顎に手を当てて考え込んでいたが、俺を見返すとこう切り出した。


「ダークエルフが何か良からぬ事を企んでいるかもしれない、と云うだけの事で軍は動かせない」


・・・そりゃそうだ。軍はボランティア団体じゃない。彼等は正規兵で、その行動は全て国の指示や方針に沿って動いている。しかも活動資金は税金だ。


「ダークエルフを見掛けたのは最近か?頻繁に見かける?」


「最近になって見かけるようになったわね。ダークエルフを見かけたと報せがあったから、私達は森の中を警戒していたのよ。そうしたら・・・」


襲われた?と聞き返すとレインが頷く。


「ダークエルフってそんなに珍しい存在なのか?人間社会には悪人なんてゴロゴロいる。それを一々、捕まえて行ってもキリが無い・・・捕まえるには証拠が必要だしな」


「貴方の仰る通りですね、私達の方でも、もう少し調査を進めてみます」


「それはそうと、長老って言う割りに歳食ってるようには全く見えないね。ディアナさんはお幾つだろうか?」


「それは・・・内緒です♪」


「レイン、エルフの平均寿命は?」


「普通は1000歳前後だけど・・・長老は普通のエルフとは違うから分からないわ」


「普通のエルフじゃない?スーパーエルフとかあるのか?」


「・・・スーパーは聞いた事がないけれど、長老はハイエルフよ。寿命は無いと聞いているわ」


「ああ、日本人にお馴染みの、エルフの上位種か?本当に居たんだな。エルフ自体が俺からすると、本当に居たのにビックリなんだけどね。みんな美人揃いだね。そりゃ子供も美形が生まれるのも当然だな」


「日本人?それは何処の国なんだい?」


口が滑った・・・ミネルバにツッコまれてしまった。俺はその質問には答えずに華麗にスルーした。


「ダークエルフとエルフって、そんなに仲が悪いの?」


「闇に走ったダークエルフ達と友誼を結ぶのは難しいですね・・・彼等は血と殺戮を好みます、平穏な暮らしを望むエルフとの共存は・・・」


「俺達、人間だって戦争はする。それだって貴方達からしたら、野蛮人に見えるんじゃないか?」


「そう考える者がいる事は否定しません、ですが人間達には善行を良しとする心があります。そうでなければ、あれだけ繁栄するのは無理だと私は考えます。


もし混沌を望むのであれば、世界は戦乱によって繁栄する時間は無くなるでしょう」


・・・うーん、善とかの話しになると、よく分からんが、平和期間があるから繁栄を迎えてるって話しなら分かる。


「・・・アンタには俺が善人に見えるか?俺は人もモンスターも殺した事があるよ」


「私には貴方が悪意ある人間には見えません。そうでなければ、レインを助けたりしないでしょう」


「分からんぞ?レインやエルフが美人だから下心で助けただけかもしれん」


「ダークエルフは全て男性でしたか?女性は居ませんでしたか?」


「女は二人いたが、二人とも美人だった。出来れば、お友達になりたいです」


「御堂・・・君って奴は・・・」


ミネルバとレインは互いに頭を抱えている。殺し合うよりそっちの方がいいだろ?


「・・・少なくとも、貴方は正直で真っ直ぐな人ですね」


ディアナはまた笑い出した。俺は何かあったら城に報せに来るように言ってディアナの元から去った。彼女は少女のように、よく笑う女性だな。


「少し、ここの様子を見て廻ってもいいか?エルフ達がどんな生活しているのか知りたい。どんな物を食べる?肉食はしないって本で読んだ」


「構わないわよ、私達は木の実や果実を食べるわね。お酒も飲むわよ?」


「そうなのか?じゃあ今度、一緒に飲もうぜ。人間の店で出す酒も中々、美味いよ?」


「今度、御堂の城へ遊びに行ってもいい?」


「構わんよ、それなら街にある店に行こうぜ、家庭的な料理を出す、良い店がある。客層も血の気の多い連中がいないからエルフ向きだろう。


ところで、仕事してる人を見かけないんだが・・・畑耕したりとか、農民的な事はしないのか?」


「私達は森にある物を頂くの、だから自分で作物を育てたりもしないわ」


「それって、拾い食してて無職って事じゃ・・・」


「・・・そうゆう言い方はしないで、人間の世界に働きに出る者もたまにいるようね」


「そうらしいが、俺は街でエルフに会った事がないな。ハーフエルフなら時々、冒険者にいるよ」


ハーフエルフは時々いる、彼等は目や耳が良いので、レンジャーとして活躍出来る。精霊術が使える者は少ないようだ。


「冒険者・・・モンスターを退治するのは、そんなに楽しい?」


「モンスター狩りが楽しいってよりは、戦うのは嫌いじゃない。人間達が狩るのは、完全に自衛のためだ。魔物を放置してたら街や村から人は居なくなる」


「意地の悪い質問してごめんなさい・・・」


「構わんさ、冒険者は人間社会でも好かれる立場だとは限らない、ならず者のような奴もいるし、暴力的だと嫌ってる連中だっている。俺達は所詮は無頼漢だ。誰にも頼らず仲間だけが、お互いに信頼する」


「その生活は辛くない?普通に暮らして幸せになろうとは考えないの?」


「他の連中は貧しい生活から抜け出そうと冒険者になる連中ばかりだな。俺は彼等とも違って、今の生活を好きでやってるよ。俺は普通の生活をしてたんだ。生き死にとは無縁の生活をね。


それがつまらなくて、今の生き方を選んだ。死にたくはないが、刺激の無い人生を長々と送るよりは好きなように楽しく生きて、死ぬ時に好きに生きたと納得して死にたい」


「・・・そう、その考えは少しだけ分かる気がするわ。私達は人間達よりずっと長生きだから」


「俺は悪人も否定しないよ、そう生きたいならそうすりゃいい、俺の場合は他人を虐げて地位や金を得ても後悔するからしないだけだ。他人の目を気にする訳じゃないが、それで偉くなったとしても仲間達すら信用出来なくなるだろう。


自分がそうしてきた奴なら、部下も自分を蹴落とそうとすると考えるようになって、常に疑心暗鬼になる人生になると思う。そんなストレスの溜まる生活は真っ平ごめんだ」


「英雄になりたいとは思わないの?冒険者なら誰でもそう思うものじゃないの?」


「冒険者は何処まで行っても、唯の冒険者だろうな。例えドラゴンを倒したとしてもな、人を襲わないドラゴンを倒したとしたら、ソイツは英雄だろうか?俺は動物が好きだから、食う以外で動物は殺したくない・・・


誰が言ったか忘れたが、2~3人殺せば殺人者、100人~1000人殺せば虐殺者、1万人殺せば英雄と呼ばれるそうだぞ。


真実は分からないが、好き好んで人殺しをする理由が思い付かん。戦争は・・・必要悪とは言わない、無い方が絶対に良い。


でも自分の国が余りにも貧しかったり、他国に理不尽な扱いを受けたら?俺なら戦うよ、間違いなくね」


話しすぎたな・・・そう思って周囲を見ると、ミネルバだけじゃなくてエルフ達まで集まって真剣に話しを聞いていた。恥ずかしいから止めてくれよ・・・


「君の価値感が分かった気がするよ、興味深いね」


ミネルバが俺を真剣に見ながらそう言った、他のエルフ達は俺の視線に気が付くと、彼女達も人間達は英雄に憧れる者達だって思っていたと、口々に意見を言っていた。


「分からんぞ?他の連中の価値感は全く分からない。英雄に憧れるのは一般的だと思う、ただ、俺は別に英雄目指して生きてはいないってだけだからな?勘違いしないでくれよ?」


「ヴァネッサを倒したのは?英雄になるためじゃないの?」


別のエルフが質問を投げかけてきたが、俺はそれを否定した。


「あれはギルドからの依頼があって引き受けた。俺は吸血鬼が近くにいるって事すら知らなかったしな」


「なあ、さっきから英雄英雄って、何で英雄に拘るんだ?エルフは英雄になりたいのか?」


「それは、この子達が英雄に寄り添いたいからよ。だから英雄に興味があるのよ」


「なんで?ってオイ・・・何で人の肩に虫が乗っかって喋ってるんだ?」


「失礼な!アタシは妖精よ!フェアリーよ!」


「・・・冗談だ、ここにはフェアリーが居たのか。見世物小屋にたまにいるって聞いてた」


「そんな人間に媚びた連中と一緒にしないで欲しいわね。私は由緒正しい正統な妖精よ?」


・・・妖精に由緒とかあんのか?お前等、自然発生するんだろ?木や草と一緒じゃないか・・・言わないけどさ。


「何か失礼な事考えてない!?」


「考えてない・・・それで、何でエルフが英雄好きなんだ?まあ、人間の娘さん達も英雄好きだけどな・・・そうゆう事か?」


「違うわ、私達は・・・英雄に寄りそうように存在しているのよ。少なくとも英雄の助力になりたいと・・・」


・・・意味が分からない。英雄に寄りそう?もしかして、北欧神話のワルキューレみたいなものか?


「・・・ワルキューレって聞いた事ある?えーと、英雄の魂を天国へ連れて行って、死後の世界の戦争で戦わせるためにスカウトするらしいんだが・・・そんな感じ?」


「ワルキューレ?それは聞いた事があるけれど、私達とは全く違う。私達には特別に理由なんてないの、ただ、そう在りたいと思うだけで」


「全てのエルフがそうなのか?」


全員が無言の肯定をする。なんだそれ・・・?訳が分からない。習性なのか?


「私達にも理由は分からないの、だから深く聞かないでくれると助かるわ」


「そうか・・・食べ物にも好みがあるからな。何で好きかと聞かれると、好きだからとしか言いようがないよな・・・」


「・・・食べ物の好みと一緒にされるのは困るのだけれど・・・もしかして、からかっている?」


「いや全く・・・他に何の例えも思いつかなかっただけだ」


俺もエルフ達も沈黙が辺りを包みこむ・・・だって、他にどう言っていいのか分からんじゃないか。まぁいいや・・・


「じゃあ・・・そろそろ帰るわ。上級冒険者になったから、城に戻って皆に報告しないと・・・」


「え、ええ・・・知らなかったわ、おめでとう」


「ありがとう、じゃあまたな。ああ、城にはいつ遊びに来てもいいし、街へ来るなら小箱亭って宿屋に行けば、夜には大抵いるよ。もし人間達と何かあったら俺の友人だって言えば、多分何とかなる」


そう言って俺とミネルバはエルフの森から立ち去った。


「おい・・・何でお前付いて来てんの?俺達は帰るんだけど」


肩に乗っていた妖精がそのまま付いて来たから念を押した。


「いつ遊びに来てもいいって言ったばかりじゃないの、今から行くのよ」


「それは、レインやエルフ達に言ったつもりだったんだが・・・まぁいいや・・・」


断る理由もないから、そのままにした。エルフ達は目の保養になるが、こんなチンチクリンが肩に乗ってても、変わった玩具にしか見えないだろう、恥ずかしい・・・


「すっかり時間食ってしまったな。すまんミネルバ、狩りにはならなかったな」


「いや、狩りよりも有意義な時間だろう、エルフ達と出会えて、小さな友人も出来たのだからね」


彼女はそう言って俺の肩を指して笑った。彼女はいい奴だな、城に寄って皆を呼んでから小箱亭で飯食おうって誘った。ミネルバはマリーナを誘ってくるから、小箱亭で待ち合わせる事にした。



「エルザ、何故引いたのだ?数では我等が勝っていた!」


「・・・相手の力量も分からなかったのか?後から来た人間達は相当な手練だった。特に私達に魔法を放とうとした人間から感じた威圧感は並みではなかった。


もし、あのまま戦っていれば良くて相打ち、悪ければこちらが全滅だ」


「確かにな、エルフにあんな味方がいるのは誤算だった。あの人間は危険過ぎる・・・」


ルナードは心の中で舌打ちした。なんと弱気な!人間風情に邪魔されて誇り高きダークエルフの我等が逃げ帰る等、あってはならない事だ。確かにあの人間達は強かった。


しかし、我等が人間如きに遅れを取る等とは考えられなかった。それでは、我等が見限った長老達となんら変わらぬではないか?


エルザの事も気に入らなかった。確かに彼女は我等の中でも腕が立つ、強力な精霊術士にして召喚士でもある。剣の腕も目を見張る物がある。だが、臆病者ならば、どれだけ腕が立とうと役に立たぬではないか?


「我等が里を出たのは、現状に満足して何一つ行動を起こさぬ長老達に嫌気が差したからではないのか?


立ち止まるなら我等もあの老人達と何一つ変わらぬ!人間達の戦に金で参加する傭兵の真似事をするなど、誇り高きダークエルフのやる事か?


エルザはルナードをさり気なく見ながら、この男は早めに始末するべきかもしれないと考えていた。


彼は腕が立つ、出来れば殺したくはないが、一人の勝手な行動で全滅する事だってあり得るのだ。群れに馴染めない者は動物達だって追い出すのだ。


それにしても、あの人間・・・エルザはあの男の目を思い出していた。彼と視線を合わせて、あの場に居れば死ぬと直感した。


だからすぐに撤退した、その判断が間違っている等とは全く思わない、もし仲間が言う事を聞かずに戦闘を始めたら、そんな馬鹿は放っておいて自分だけでも即座に逃げるつもりだった。


「エルフの秘宝を諦めるつもりはない、アレはどうしても手に入れなければルナードの言う通り、里を出た意味が無くなる。長老達と決別して里を出たのだ、私達に帰る場所はもう無い・・・」


「・・・俺達はその人間を見ていないから分からないが、それ程の強敵だったのか?何人で掛かれば勝てる?」


「・・・この場にいる46名の全員で掛かる必要がある。それ以下で掛かった場合、死体が増えるだけだ」


「それ程の相手か?人間なのだろう?」


「ああ、間違いなく人間だった。だが、人間だと侮るな、唯の人間相手に私がむざむざと逃げ帰ると思うのか?冒険者だろうが兵士だろうが、並みの人間など、私は歯牙にも掛けずに殺す」


沈黙が場に広まった。彼女の力と観察力を疑う者は居ない、しかし、それでも尚、信じられないのだ・・・


「エルザの言葉は本当だ。私もあの男に見つめられた時に背筋が凍った。もう一人の騎士も、リザードマンなど物ともせずに切り伏せていた。あの場で引かなかったら、間違いなく死んでいたと断言出来る」


あの場に居た4人のうちの一人、ネイアがエルザの判断を支持した。もう一人のザルドも頷く。


「皆、慌てるな、我等には情報が必要だ。エルフ達の里を突き止め、あの人間達とエルフの関わりも調べる。必ずしも、あの人間達がエルフの仲間だと決め付けるのは早すぎる。


仮に仲間だったとしても、エルフと人間が一緒に暮らしているとは私には思わない、あの人間達がいない隙を狙えば良いだけだ」


エルザがそれぞれ仕事にかかるように指示を出すと、皆がすぐにその場から消え去った。


「・・・姉さん、今の状況で何とかなると思う?」


その人間達との場に居なかった妹のライザが話しかけてくる。あの場で姉を庇う発言をすれば、皆の反感を買う恐れがあるから彼女は発言しなかった。彼女にはそれくらいの知恵はあった。


「分からぬ・・・あの人間の力は未知数だが、数人では勝てる気がしない。さっきは、ああ言ったが、全員で掛かれば勝てるのかどうかすら私にも分からない」


「それ程なの?そんな人間が存在するの?ダークエルフの英雄と呼ばれる者だって、私達全員を一人で倒せる者がいるとは思えない・・・」


「ちゃんと私の言葉を聞け、勝てないとは言っていない、勝てるか勝てないか分からないと言っているのだ」


エルザは苦笑した。相手の力量が正確に把握出来なかったのだ。分かっていたのは、恐るべき強敵だと感じた事だけだ。これから、どうなって行くか予想が付かない。


「ライザ、自分が生き抜く事だけを考えなさい、風向きが怪しくなってきたわ・・・」



「上級冒険者に昇格したんですね?御堂様、おめでとうございます!」


城へ戻って昇格を伝えると、皆が喜んでくれた。まぁ、昇格って給与が上がる訳じゃないから、何がどうって事もないが、ギルドが与えてくれる情報が待遇面での優遇はあるようだ。難易度の高い依頼は優先的に廻される。


「城塞都市には、既に三組の上級冒険者がいる。これは殆ど無い事だ。上級冒険者なんて、居ない街の方が多い。


この辺りはモンスター多いし、強いモンスターが多いから、ギルドとしては助かるのかもしれないけどな・・・


そろそろ、別の街に行ってみたいな。ここもまだ見てない場所や行って地区もあるが、他の街の様子を全く知らないってのもな」


「そうですね。私も他の街へ行くのは良いお考えだと思います。新しい食べ物やお酒もあると思います」


「主様、すぐ行こう、未知なる物が私達を待っている・・・」


お前達は食い物と酒にしか興味ないのか?既に酒瓶が幾つも転がってるじゃねーかよ・・・ホントにコイツらはザルだな。


「ああ、それと実は・・・」


俺はエルフとダークエルフについてあった事を皆に話した。


「・・・御堂様に刃を向けるとは無礼な。今すぐ探し出して消し炭にしてやりましょう」


「主殿、これから夜になる。我が行って皆殺しにしてくる」


うん、コイツらはこんな反応だと思ったわ。コイツらの血の気の多さは俺など比較にならない。


「実は帰りに、作戦考えてたんだ。上手く行くか分からんが・・・今日は今から小箱亭に飯を食いに行く約束をミネルバとしたから皆で行こうぜ」


みんな大好き小箱亭、文句ある奴がいるはずもなく、喜んで着いて来た。


「御堂殿、昇格おめでとう!君なら上級どころか最上級になると私は確信していた!」


マリーナとミネルバは既に飲んでいた。二人とも出来上がっている・・・


「御堂さん、上級冒険者になったんですね?早すぎます・・・こんなに早く上級冒険者になったPTなんて聞いた事がありません。とくにくお祝いですね!今日は私の奢りです!皆さん、存分に食べて飲んで騒いで下さい!」


エクレアさんが、腕に力こぶを見せて厨房へ下がると、店から歓声が上がった。これは、徹夜になるか?皆が祝ってくれるんだから断る理由なんてないな!飲み明かすか!


「ねぇ、御堂様、その肩に乗ってるのが妖精さん?ミネルバさんから話しを聞いてたんだけど、一緒に来るとは思わなかった!」


クレアちゃんが俺の肩をワクワクした顔で見ている。ああ、コイツが乗ってるの忘れてたわ。


「そう、何か知らんがくっついて来た。あげるから玩具にしていいよ」


「ちょっと!なんでアタシがガキンチョの玩具にされないといけないのよ!もっとワタシを敬いなさい!」


「はいはい、えーと、お前等は何を飲み食いするんだ?ハエとか蚊でも食うのか?」


「ワタシはカエルじゃないわよ!好きな物はそうねぇ、ワタシは草食ではないわね。何でも食べるけど、甘い物が好きね。果物やプリンとか出して」


「だそうだよ、クレアちゃん、適当に何か出してやって」


ハーイ♪と元気な声を出して厨房へ妖精用の食事を取りに行った。


「御堂殿、エルフとダークエルフの話しをミネルバから聞いたのだが、私の部隊を出しても良いと思う、ダークエルフがこの辺りで悪事を働いているとなれば、私の隊を出すのに姫様の許可は要らないだろう」


「ああ、それなんだがちょっとした作戦を思いついた。明日、実行してみるよ。駄目だったとしても俺達で何とかなると思うよ。コイツらもやる気でいる」


「当然であろう、我等の主に手を出すとは身の程知らず共め・・・簡単には死なせぬ」


「いや、ダークエルフは、まだ俺に何もしてないぞ・・・エルフを襲ってたから俺とミネルバで追い返しただけで・・・」


「その場で土下座して謝罪した訳ではなかろう?それなら同じ事だ。皆殺しにされて当然じゃ」


三馬鹿も力強く頷く、いや・・・俺の作戦では皆殺しとかそうゆうんじゃないんだが・・・


場合によってはそうなるが、可能な限り穏便に済ませたい。俺は皆の使える術やスキルを確認しておいた。今回、ヤクトの出番は無いかもしれない。


「逸るな逸るな、第一段階は話し合い、第二段階で、決別した場合でも皆殺しは多分無い」


「おい妖精、お前まだ名前も聞いてなかったな」


「アタシはフィリオよ。覚えておきなさい人間」


「あーはいはい、宜しくなフィリオ。エルフの村でずっと暮らしてたのか?」


「そうねぇ・・・3年くらい前からいるかしら?あの里が出来て、まだ10年くらいしか経ってないそうよ?」


「突然だが御堂、私は今週中には帝都へ戻る、君達の様子は分かったからね。マリーナはいつ帝都へ戻るんだい?海賊の件はカタがついただろう?って聞くのは意地悪だったかな?」


「・・・ミネルバ、後で話しがある。それより御堂殿、援軍が必要になったらいつでも言ってくれ」


俺はマリーナに、その必要はないだろう事を告げた。余程戦いたいのだろうか?残念そうにしている。


「ところでミネルバ、ここの料理ってどうだ?帝都で食える料理とはかなり違う?俺は凄く気に入ってるんだが」


「ああ、とても美味しいね。帝都では中々味わえない料理ばかりだ。雰囲気も客層もとても良い。正直、ここで暮らしている君達が羨ましいよ・・・」


お世辞や冗談で言っている訳ではなさそうだ。分かるぞ、こうゆうくつろげる店って本当に大事だよな。


「おほん・・・御堂殿、私とミネルバから上級冒険者になった君にプレゼントがある」


「おお、ありがとう、一体何をくれるんだ?」


「私との婚約指輪・・・冗談だ!縛るのは止めてくれ、あれは妙に癖になりそうだ・・・いや、何でもない。これだ」


彼女が渡してきたのは一振りの剣だった。拵えからして業物だと分かる。というか、凄く高そうだ・・・


「こんなの貰っていいのか?凄く高そうだが・・・これは店売りの品じゃないな?」


「ああ、剣は私の家の宝剣の一振りだが、はめ込まれている宝石はミネルバの持ち物だ。これで魔力が更に強化されている、間違いなく名剣だ。君は曲刀を好んで使っているようだが、たまには両手剣も良いだろう」


「伝家の宝刀?そんな物貰っちゃ悪いだろう?すっごく怖いんだが・・・」


「ハッハッハ、そこまで気にする必要ない、別に恩に着せたりしないよ。この剣を抜くときに私を思い出して欲しい」


・・・それは、ちょっと面倒臭いなぁ・・・まぁ好意はありがたく受け取ろう。


「ありがとう、お飾りにしないでちゃんと使ってみるよ。ちょっと腰に差してみようかな・・・どうだ?似合うか?」


一同:・・・・・・・・・・・・・


「・・・なんだ、その反応は?」


「・・・みんな黙ってるからワタシが言うわね。剣だけが立派で、貧乏くっさい鎧と他の身なりが貧相だから似合ってないのよ」


フィリオの意見に皆が申し訳なさそうに頷いている。ああ、俺って皮鎧だしな・・・こうゆう剣って立派な金属鎧が似合うよね。鏡見てないから分からないけど・・・


「ま・・・まぁ、冒険者は実用性が命だと思うし、その剣もいずれ似合う・・・かもしれないよ?」


おい、何で疑問系なんだよミネルバ・・・


「鞘を実用性重視した物に替えるべきだな・・・ちょっと返して貰えるか?別な鞘を作らせる」


「あ、ああ・・・せっかく貰ったのに、なんかすまないなマリーナ・・・」


新入社員のスーツが七五三にしか見えなかったバリに恥ずかしい・・・俺の普段の格好ってそんなに貧相か?


軽くて動き易い皮鎧が好きなんだよ、ブーツと脛当てだけ金属製とかもおかしいだろ?


大体、冒険者でフルプレートとか着てる奴なんて見た事ねーよ?今の俺なら、フルプレート着て小箱亭の屋根までジャンプする事が出来るけどさ・・・


「主殿、我からの祝いの品はこれじゃ、受け取って欲しい。私が縫って作ったのだ」


見ると、ヴァネッサが蝙蝠ローブを俺に渡してくれた。え?これ作ってくれてたの?


「ヴァネッサ!よく俺がそれ欲しいって思ってたのが分かったな!なんか可愛いから欲しかったんだよ!」


「我のローブを主殿が羨ましげに見ておったからの、これでお揃いじゃ、喜んでくれて繕った甲斐があったというものじゃ」


俺は早速、纏ってみた。似合う?とか聞きながらルンルンだった。


「さあ、気を取り直して飲もうぜ!おいフィリオ、妖精なんだから歌くらい歌えないのか?」


「なに?アタシの歌が聞きたいの?高いわよ」


「お?得意なのか?いいだろう、ほら金貨やるよ。歌ってみろ!」


その場の空気は何とか持ち直したが、フィリオの歌はクソ下手だった。


俺は翌朝起きて、殆ど徹夜だったが打ち合わせのためにエルフの里まで行って俺の作戦をディアナに説明した。


「・・・それは、巧妙な作戦だと思いますが、しかしそれでは私達は何もせずに待っているだけになりませんか?それは幾らなんでも、御堂さん達に申し訳がありません。貴方はこの件に無関係なはずです」


「そうなんだが、手っ取り早く終わらせるために考えた。ダークエルフに考える時間を与えると、ロクな事にならない気がする。上手く行かなくても、エルフに被害は出ないから、こちらに損失は無い」


「それに、この作戦じゃ俺自身も仲間にやらせるだけで、何もしてないのと同じだ」


ディアナは美しい顔を曇らせて考えているようだった。うん、絶世の美女は悩んでる顔も綺麗だな。暫くボーっと眺めていたが、ディアナはやっと顔を上げた。


「分かりました。御堂さんに全てお任せします」


そう言ってディアナは深々と頭を下げた。



「なに?あの人間が一人で森にいるだと?連れの騎士はどうした?」


「探ってみたが、一人のようだ・・・罠かもしれん」


「だとしても、仲間もエルフもいないとなれば、奴を打つ好機ではないか!」


「エルザに報せて判断を仰ごう、彼女が了承すれば我等の総がかりで奴を叩ける」


「遅い!エルザは臆している!あの人間に恐れをなして様子を見る等と言い出したら、千載一遇の好機を逃すことになるぞ!」


ルナードはエルザの弱気が仲間にも伝染している事に激しい怒りを覚えていた。どれ程強くとも、たかが人間だぞ?ダークエルフの我等が劣る訳が無いのだと・・・


「お前は着いて来なくていい、俺が一人で行く。勿論、奴には森の魔物共をけし掛ける。もし仲間がいるようなら、忌々しいが、また引くとしよう・・・エルザには何も話すな、俺の行動まで止められては敵わん」


「一人で奴を倒すのは無茶だ!やはりエルザの・・・」


「黙れ!奴の前にお前を始末しても良いのだぞ?」


「・・・分かった。俺は何も知らぬ事としよう」


それでいい、臆病者め!エルザも弱気な仲間も必要ない、この俺が一人でエルフの秘宝を手に入れてやる・・・そうすれば、エルザではなく俺がこの群れの頭目となれるはずだ!


「よぉ、遅かったな。ビビってお前達が来ないんじゃないかって冷や冷やしてたよ。一晩待って来なかったら次ぎの作戦に移るとこだった。今日はお前一人なのか?」


「・・・随分と余裕ではないか、たった一人でここで何をしている?この前の騎士はどうした?いや、どうでもよいな。お前にはここで死んでもらう」


「ああ、アイツは今日は居ないんだ。代わりに別の奴がいるぞ?」


「なに・・・?」


ルナードは背筋が凍った。凄まじい殺気が真後ろに出現したからだ。連れ来たモンスター達をけし掛ける間もなく、ルナードの意識は沈んだ。


「あの人間を倒しただと?」


「ああ、それも呆気なくな!臆していたお前の取り苦労だったのだ!やはり人間など、我等ダークエルフの敵ではない!」


ルナードは勝ち誇ったようにエルザを見下した。周囲に動揺が走る。本当であれば、ルナードの行動力はエルザの思慮に勝ったのだ。


「・・・死体はどうした?」


「フン、死体などコボルト共に食らわせて骨も残っていないわ」


・・・あり得ない、あの人間がルナードに敗れただと?しかもコボルト風情に食われた?そんな馬鹿な事が・・・


「ついでと言えば、エルフ共の里の場所も突き止めた。俺は今から秘宝を奪いに行く、ついて来たい者は俺と来い」


なんだと?皆で探しても見つからなかったエルフの里を?話しが上手すぎる・・・これは、罠だ。


「ルナード、人間に寝返ったか?見返りはなんだ?」


「・・・なんだと?貴様と一緒にするな!ダークエルフの誇りを忘れた臆病者が!この場で貴様の首を先に貰っても良いのだぞ!」


ルナードが剣を抜くのに合わせて、エルザも剣を抜き払った。


「まあ待て二人共、我等が争ったところで何の利も無い。行って確かめれば良いではないか、何かあると知れたら、逃げるくらいの芸当も出来ない者がこの場にいるか?」


・・・馬鹿が!それこそ奴等の思う壺でないか!?なまじ腕に自信がある者達だけに、罠があるなら食い破れば良い等と浅はかな考えを持つ事になる・・・


エルザは瞬時に考えを巡らせたが、駄目だ。この場で自分が何を言っても誰も聞かないだろう。


それに万が一、エルフの秘宝を手に入れる場にいなかったとしたら、自分の立場は完全に無くなる。つまり、今のエルザには選択肢は無く退路もないのだ。


「分かった好きにしろ、私は責任が持てない、だが私もダークエルフの戦士だ。戦うと決めた」


ルナードはフンと鼻を鳴らして蔑みの目でエルザの肢体を舐めまわすように見つめた。良い女だ、自分が長となれば、この身体を散々に嬲って子を孕ませてやろうと心に決めた。


前々から、エルザの事は狙っていた。ダーククエルフの中でも極上の女だ。妹のライザも引けを取らない美貌の持ち主だ。姉妹揃って我が妻とすれば、皆の羨望を一心に受ける事が出来る、目前に迫った栄達に、彼は野心と欲望をたぎらせた。


「ここが結界だ。一気に踏み込んでカタを付ける。エルフの数は少なくはないはずだが、我等の敵ではないだろう」


そう言ってルナードが剣を抜き払うと、皆が彼に倣って剣を抜き放った。ダークエルフだけでなく、操っているコボルト、ゴブリン、魔獣を合わせても100に近い数がいる。完全な奇襲であり、この数だ。負けるはずがない。


「行け!エルフ共を蹂躙せよ!」


号令を掛けると、支配化に置いたモンスター達が結界内へと踏み込んで行く、ルナードはそれに続いて、ダークエルフを突入させ、自分も続いた。


「ライザ、自分の身だけを守れ、何かあったらすぐに逃げろ」


「私は姉さんと一緒にいるわ、姉さんと一緒の方が心強いからね。逃げる時は声を掛けて、すぐに続くから」


エルザはライザに微笑み掛けると、結界内へと突入した。


「ここがエルフの里か、強力な結界だ。これでは見つからなかったのも無理はない」


先頭を走っていた仲間の誰かの声が聞こえた。待て、おかしい・・・何故、誰もいないのだ?夜だからと言って見張りも立てずに全員が眠る訳がない、エルザは嫌な予感がした。


皆も様子の異様さには気付いているようだ。全員、百戦錬磨の戦士だ。ここには里でも選りすぐりの手練が集まっているのだ。ルナードのような馬鹿はいても間抜けはいない。


「よぉ、遅かったな。ってこの台詞は今夜、二度目だな」


・・・やはり生きていたか、隣にいるエルフはハイエルフか?ルナードは、やはり裏切っていたのだな。奴だけはこの手で殺さねば気が済まぬ!


「・・・馬鹿な?何故、お前が生きているのだ?俺は確かにお前の首を・・・」


・・・なんだと?当のルナード自身がこの状況に驚愕している。どうゆう事だ?幻術に掛けられていたとでも云うのか?バナード程の遣い手が?


もう良い、お前の役目は終わった・・・・ダークエルフ達は何処からともなく聞こえた声に狼狽した。


「ヴァネッサ、姿を見せて構わんぞ」


「心得た主殿、お前はもう消えて良い・・・」


ヴァネッサと呼ばれた女が指を鳴らすと、ルナードは腐り果てて消えた。


「馬鹿な・・・吸血鬼だと!?ルナードは・・・」


「あれは我が血を吸って、既にグールと化しておった。気付かなかったようだな、気付かぬようにグールにしたのは我だがな」


「・・・引け!」


エルザが号令を掛けると同時に、ヴァネッサがまた指を鳴らした。


「遅い」


世界の色が赤く染まった。これは・・・彼女は何をした?



「好きに逃げて良いぞ、もうここからは我が術を解かない限り誰も出られん」


・・・これは駄目だ。あの吸血鬼から感じる力は、恐れていた人間以上のとてつもなく恐ろしい力だ。あの人間もグールだと云うのか?しかし、彼女はあの男を《主》と呼んでいた。訳が分からない・・・


「お前達は詰んだ。もう打つ手はない、降伏すると云うなら命は助けるが、どうする?降伏する者は、あそこに白い円が書いてあるだろ?あの中に移動して動くな。降参しない者は掛かって来い」


「ライザ!」


エルザは妹の手を掴んで円の方へ移動した。


「何をしている!死にたいのか!?奴の言う通りにしろ!」


エルザは仲間に向けて叫んだ。ダークエルフ達がエルザの指示に従い移動を始める。しかし、動かない者達が数人いた。


「・・・我らは誇り高きダークエルフだ。ここまで醜態を晒して、無様に生きながらえようとは思わん。すまんエルザ、お前の言葉は正しかった。皆を頼む・・・」


「待て!無駄に死ぬ事はない!」


残ったダークエルフ達は、御堂達に向かって駆けた。それは風のように速かった。


「残念だ・・・本当に残念だよ」


男は悲しそうに手を上げると、ダークエルフ達はドーム状の漆黒に包みこまれた。


「カゲミ、後は任せるよ」


「はい、主様」


何処から現れたのか分からなかったが、カゲミと呼ばれた少女は漆黒のドームに近付くと、そのまま中へと入っていった。


「終わった、主様・・・」


一分もしないでカゲミと呼ばれた女は球体から出てきた。そうか・・・とその男が答えると、別の魔術師らしき女に何事かを呟くと、その女は杖で地面を叩いた。


するとドームは消えて、残った後にはダークエルフ達の死体だけが残っていた・・・


「これは何だ・・・?何が起きたと云うのだ・・・?」


ライザは膝から崩れ落ちた。罠に掛かったのだろう、それは分かる。だが、こんな事態など誰が予想出来る?


想像を遥かに超えた異常事態にライザだけでなくダークエルフ達は完全に戦意を喪失していた。それどころか、何が起きたのかすら誰も理解出来ていないのだ。


「説明が欲しいか?してやるよ」


「その前に主殿、これが降伏した者の態度か?ダークエルフとは、降伏の礼儀も知らぬ無礼者の集まりなのか?それならば、生かしておく価値もないと我は思うがの・・・」


その言葉を聞いて、今まで自分達が武器すら捨てていない事にエルザは気付いた。エルザはすぐに武器を捨て、その場に片膝をついて頭を垂れた。残りのダークエルフ達も急ぎ、エルザに倣って武器を捨て膝をついて頭を垂れた。


「リーダーはお前か?名前は?」


「ハッ、私はエルザと申します・・・」


「そうか、じゃあエルザとダークエルフ達、これから何が起きたか説明するよ・・・」


男は自分がした事を説明し始めた。まず自分が囮となってダークエルフの誰かを捕らえる、捕らえた者をヴァネッサと呼ばれる吸血鬼がグールにして、自身すら気付かないようにダークエルフ達の元へ返して、エルフの里へと導くようにした。


ルナードと云う男を眷属化して言う事を聞かせても良かったんだが、それだとバレる可能性がある。


だから、本人すら事実に気付かずに俺を倒したと誤った記憶を刷り込んだ状態にした。催眠術に掛けた程度の事だと彼は言った。


そして連れて来たダークエルフを結界内に閉じ込めて、その上で全員を生け捕りにして話し合うつもりだった。言う事を聞かない奴がいるのも想定していた。だから、そのための対処も配下に命じてあった。


黒いドームに閉じ込めて、アサシンのカゲミに始末させる。彼女なら視界の無い状態で戦う事など造作もない。


視界を奪われた者達は殆ど無抵抗でカゲミに倒される事になる。黒いドームはルードと云う魔術師に作らせた簡単な結界魔術だ。


エルフ達は全員、彼の城に非難させているそうだ。そうすれば、どんな状況でもエルフに被害は出ない。長のハイエルフだけは見届けるために、この場に残った。


「以上だ、お前達の誤算は俺達の戦力だ。数は少ないが、見ての通りだ。お前達じゃ絶対に勝てない仲間が俺には居たって事だ。


無理もない、人間が吸血鬼や魔人を従えているなんて、誰も思わないだろうからな。お前達にミスは無かった、完全に相手と運が悪かっただけだ」


「御堂様・・・私は今回、何もしていませんが人狼です・・・」


「ああ、そうだったな。コイツはヤクトって言って人狼だ」


・・・誤算どころではない、こんな連中と戦って勝てる訳がない。この男がエルフに加担した時点で、私達の計画は破綻していたのだとエルザは悟った。私達が警戒していたこの男は、指一本動かしていないのだぞ?


「・・・我等の処遇はどうなりましょう?」


「言っただろ、話し合いだって。俺はダークエルフに対して、何の遺恨も無い。お前達が、二度とエルフを狙わずに去ると言うなら、俺はもうお前達に手を出さないし、このまま開放するよ」


我等を無条件で解放する・・・?この男にとって、我等は殺す価値もないと言うのだろうか?ダークエルフの価値感では、敵対した者を無条件で解放する等あり得ない事だった。


「俺はちょっと後悔してる、襲って来るのがモンスターや言葉も通じないような裸の蛮族だったら心も痛まないが、さっきの戦いを挑んで来た奴等は・・・殺したくなかった。


あんな最後を見せられてしまうとな・・・死ぬ必要なんて無かったはずだ・・・」


男は俯いて唇を噛んでいる、本当に殺したくなかったのだろう、表情を見れば嘘でない事はエルザやダークエルフ達にも分かった。


「ディアナさん、コイツら解放していいよな?もう戦意はないだろう」


「ええ、私は構いません、御堂さん。この度は私達エルフを助けて頂いて、本当にありがとうございました」


「だそうだぞ?もう帰っていいよ。二度とこの里を狙うなよ?秘宝だったか?欲しいかもしれないが諦めろ。命を捨てても欲しい物って訳でもないだろ」


「じゃあ、俺達は帰るよ。また来るね」


男はディアナと呼ばれたハイエルフに手を上げて去って行った。何だこれは?もう私達は解放された・・・?


「さあ、もう貴方達は解放されました。まだこの里に何か御用ですか?」


「私達は・・・そうだな。去るとしよう、失礼する」


ディアナは去っていくダークエルフ達の背中を見送った。森の中をエルザ達は歩いていた、皆は沈黙したままだ。


「これからどうする?我らは里には帰れない、長老達に頭を下げるくらいなら死んだ方がマシだ。この辺りに里でも作るか?人間達の街へ行って仕事を探してもいい」


「・・・あの男、確か名前は御堂と言ったな」


「ああ、そんな名前だったな。それで、これからどうする?」


「皆、すまない。私は・・・城へ行ってみようと思う」


「エルザ、それって・・・」


「行くぞライザ!」


彼女はそう言って駆け出した。



「そうか、それがエルフの村での顛末か・・・だが何故ダークエルフ達が君達と一緒にいるんだい?」


俺はこの件に関わっていたミネルバに後日、事情を説明していた。ダークエルフが俺の所に来た理由は、俺にも分からない・・・


あの直後に城に着て、俺に仕えたいと申し出て来たのだ。ダークエルフの里とは決別してるから帰れないと言うから、取り合えず城に置いてやっている。


最初に来たのはエルザ、ライザの二人だけだったが、すぐに生き残ったダークエルフ全員が彼女達を追ってきて、総勢42名のダークエルフを城に置いている。


「私は御堂様に負けた。敗者が勝者に従うのは当然だろう、命まで助けてくださったのだ」


「行く所が無いらしい・・・里からは家出してるんだってさ・・・」


「ダークエルフが狙っていた秘宝と言うのは何だったんだい?」


「さあ?お宝だろ?俺は聞いてない」


・・・それは嘘だ。俺はディアナから《エルフの秘宝》について説明を受けていた。それは龍神から貰った珠らしい。


龍の珠と言えば、絵とかで龍が手に持っているアレだろうな・・・それは天候を自在に操る事が出来ると言う。


ディアナ自身も使った事は無いので忘れていたと云うのだが、それは使いようによっては、とんでもない兵器になるだろう事が元居た世界の知識がある俺には分かる。


干ばつを起こして敵対する国に飢饉を起こしたり、大雨を降らせて洪水を起こす。すぐに思いつくだけでも、幾つもの使い道がある。


本来、妖精界に住むエルフにとっては使い道がないし、ディアナが忘れていたというのは本当だろう。ダークエルフは、あの里にその龍の珠があるとの情報を何処からか仕入れていたようだ。


ミネルバの事は完全に信頼している、だが国に仕える彼女の立場を考えると、彼女は何も知らない方がいい。


知っていたら、それをどうにかしろと国に言われる可能性だってある。国家に仕えると云う事はそうゆう事だ。命令されれば私情を挟めない事だってあるはずだ。


ちなみに、ドラゴンと龍とは別物だと云うのが、この世界の一般的解釈のようだ。ドラゴンは生物、龍は妖精界や幻獣界、そして天に存在すると言われている幻想種呼ばれる存在だと、こちらの本で読んだ。


妖精界や幻獣界に存在する者達は、エルフのように自らの意志で、こちらの世界に来る事がある。


召喚魔法で呼び出す幻獣や魔獣はそれらの世界から来るワケだが、召喚魔法と一口に言っても、呼び出す対象によって術者には得て不得手が存在する。


幻獣や魔獣、悪魔や天使・・・召喚術士はこれらを同じように呼び出していると勘違いしている者が少なくないが、実際には全く違う。呼び出す世界が違うからだ。


熟練の召喚士ですら2~3の世界がやっとで、それ以外の世界からの召喚は不可能に近い、俺達の世界で云うところの、座標を固定するのが難しいって感じだと思えば良い。


更に、それらの世界の知識にも精通しなければならない。それらを学ぶには人間の一生では難しすぎる。精霊召喚もまた違うが、精霊魔法の遣い手は一般的であるために、他の召喚魔法よりは比較的に精霊召喚の難易度は低い、上級精霊でもなければね・・・


この世界に来て、魔術の知識を学ぶ度に思うが、本当に魔術やそれに関する世界の知識は奥が深い、深すぎる。それらは人の一生ではとても学び切れない。


だからアンデッド化してまで魔術の探求を続ける者もいる。気持ちは分からんでもない、つまりオタクだ。俺も知識欲が旺盛だから気持ちはよーく分かるが、人間辞めてまで魔術や神秘学に傾倒する気は全くないけどな。


「結局、御堂殿の城には現在、何人くらい住んでいるんだ?」


「俺達4人と、ヴァネッサ、それにメイドさん達が50人くらいか?それとダークエルフ達だな」


「もうちょっとした軍隊だなそれは・・・傭兵団としてやっていける規模だぞ」


「俺は冒険者で、ダークエルフ居候、後はメイドさん達だ・・・」


俺は内心、ツッコまないでくれ!と思っていた。それは俺も感じていたとこなんだから・・・


「そんな事言うなら、マリーナの所でダークエルフ達を置いてやれよ」


「え・・・それは・・・うちは軍の宿舎だよ?ダークエルフ達を住まわせるのは、ちょっと・・・・」


「だろ?じゃあコイツら放置して盗賊団にでもなったらどうする?家が無いんだから犯罪者にでもなるしかないだろ?」


「・・・・・・・」


「俺の城は、幸い広いからな。部屋には空きがあるし、金銭的な蓄えもあるから、コイツらを当分、うちに置いても養っても何の問題もない」


「・・・・・・・」


なんだよ・・・言いたい事があるなら言えよ。後からゴチャゴチャ言われても困るから話してるんだし。


「どうしろってんだよ?他に何か妙案でもあるか?あるなら聞かせろよ!?」


「いや、言いたい事は沢山あるが、どうしようもないのは分かる。姫様に話しておくよ」


「なあ、ギルドにクラン登録したらどうだ?」


「ああ、実はそれもあって来たんだよ。二人にギルドに一緒に来て欲しい。事情を知ってる偉い軍人が一緒の方が、ギルドに話し易い」


《クラン登録》とは、PTメンバーが増えすぎて、大きくなった冒険者達が一団として登録する事だ。組織登録みたいなもんだな。


「クラン申請ですか・・・ダークエルフの?」


二人に付き添ってもらって、ギルド長の所まで来た。


「ダークエルフのっていうか・・・俺のクラン申請なんだけど」


「構成メンバーの殆どがダークエルフの?」


「まあ、そうなるな・・・何だよ!?言いたい事があるなら言えよ!増えちゃったんだから仕方ないだろ?事情は説明しただろ?」


「いえ・・・事情は分かりましたが、ダークエルフの存在自体が、かなり珍しいので聞き返してみました。御堂さん、正直言って世間からの風当たりは良くないかもしれません、覚悟はしておいた方がいいと思います」


「私はもうすぐ帝都へ帰るので、その時に姫様に報告しておく。姫様の事だから、面白がって話しを聞くと思うよ。国としては問題視しないだろう」


「・・・もう冒険者辞めようかな。一生遊んで暮らせるだけの金は貯まったし、あくせく働く必要ない。時々、傭兵ごっこでもして暮らすかなぁ。疲れた・・・」


「それは止めて下さい!上級冒険者がいきなり辞めたとか、私達に問題があったのかとギルド本部から何を言われるか分かったものじゃありません!」


「・・・なら、文句言わないで上手く計らってくれよ・・・俺は何も悪い事してないだろ?」


「私は文句を言った訳では・・・分かりました。善良なダークエルフ達だと嘘を広めておきます。犯罪とかしないで下さいね?」


嘘かよ・・・そうゆうの好き(笑)


「犯罪か・・・人間社会で何が犯罪に当たるか分からないのだが、御堂様の名誉を汚すような真似はしないと誓おう」


「本当にお願いしますね・・・私のクビが飛びますから」


「まぁ、社会常識なんて、大体どこでも一緒だろ・・・いや、違うかもしれないな!コイツらは妖精さんだったわ!


俺が暫く目を光らせておくよ。あと、他の冒険者達や街の人達にも、ダークエルフが世間知らずだから、何かあったら教えてやってくれって広めておいてくれ・・・」


「そうですね。この街の人達は気の良い人達が多いですし、御堂さんの仲間だと知っていれば、悪くは思わないでしょう。ヴァネッサさんもすっかり馴染んでいるようですしね」


「あれは馴染みすぎっつーか、モテ過ぎだろ。街を歩く度に、みんな彼女に見惚れてるぞ。いい加減、慣れろっつーの。冒険者が吸血鬼にラブレター渡すとか焦ったぞ?」


「・・・それは仕方ありません。彼女の容姿は人間のそれではありませんし、冒険者の中には女性に対して免疫が無い者達が少なくありませんからね」


「PTに女性メンバーいないとこも、かなりあるよな」


「女性だけのPTがありますからね。そうゆう所に、自然と女性は集まります。男性と一緒に寝泊まりする事になるんですから、女性が警戒するのも当然でしょう」


「男女で混ざってるPTも、それなりにあるだろ?あれは?」


「元々の友人、知人ですね。子供の頃からの付き合いとか」


「ああ、そうゆう流れか・・・」


「私が現役の冒険者だった頃は、全員知らないメンバーでPTを組んでいましたけどね。最近の冒険者は、気持ちや覚悟が緩くなってきている気がします」


冒険者の男女比率で言えば、やはり男の方が多いんだが、女性が少ないかと云うと、そんな事はない、かなりの女性冒険者を見る。


「エルザ、ライザ、基本的な犯罪は盗みと暴力事件だろうな、お前等が街で盗みを働くとは思えんから、主に暴力事件に気を付ける必要がある。


もし相手に絡まれて仕方ない場合は殴っておけ。殺したり大怪我させなければ何とでもなるから。人殺しだけは絶対に止めろ、それだけは庇い切れない。


あと、ダークエルフの女も美人だらけだ。男が寄ってくる可能性が高い、そうしたら大声で《この人、痴漢です!》って叫べば逃げて行くだろ。


もし逃げないようならボコっていいよ。お前等に勝てる人間なんて早々いないから。他のダークエルフ連中にも教えてやってくれ」


「こんなところか?ダークエルフ達は俺のクランになるから、早々揉める事はないだろうとは思うんだが、何しろこの子達の容姿だ・・・酔っ払いや辛抱堪らなくなった連中が絶対にコナ掛けてくる」


全員で、エルザとライザを眺める。本当にスタイルいいし、顔の作りも人間とは全く違う。それにスカートが短く、露出も多めだ。


妖精さんだから仕方ないが、人間って本当に神に愛されてるのか?ヴァネッサと云い彼女達といい人間と違い過ぎる。人間の中では飛び抜けて美人なマリーナやミネルバですら、彼等と比べると一般人だろう・・・


「同じ女としてどうかと思うが、彼女達が並外れて美しいのは認めざるおえないな。荒くれ者が彼女達を見て、理性を失う者が出ても無理からぬ事かもしれない」


「ギルド長、その辺の性犯罪的な事件が起きた時に彼女らの擁護はしっかり頼むぞ?絶対に彼女らは被害者だ。それと、ダークエルフの男も少なくない。彼等も美形揃いだ。同性愛者の男とかいたらヤバい」


「でしょうね・・・これは別な意味での治安悪化が懸念されますね」


「それは、軍に任せよう・・・見回りとか気を付けて貰うしかない。ミネルバは帝都へ帰るし、マリーナもいずれ帰るだろうから、そうしたら将軍に頼みに行くか・・・」


「御堂殿の仲間って、段々と人外だらけになってきたな・・・」


それを言わないでくれ、俺も気にしてたんだから。俺達はこうしてギルド長に必要事項を連絡して城に帰った。


「なんでお前ががここにいるんだ?それにエルフ達までまだ居るの?」


椅子に座ってジュース飲んでるカトリーナに向けて俺は聞いてみた。何してんだコイツ?


「おお、帰ったか御堂、なに、わらわはこの城の中を見た事がなくてな。見てみたいと思っていたのだ。それに新入りが増えたと聞いて遊びに来たのじゃ」


「ダークエルフがこの城に居座ると聞いて、戻ってきたのよ!私達が居ない間に悪さするかもしれないでしょう?」


「悪さって・・・ここ、俺の城だし彼等はここに住むし、メイド達もいるから平気だよ。さっさと森へ帰れ」


「そうは行かないわ、私達は貴方に恩義がある。恩人が危険な目に合うかもしれないのに見過ごす程、私達エルフは恩知らずじゃない」


「そうゆうのいいから、もう森へ帰れ。何も起きないし、起きてもどうにでもなるから・・・」


「御堂、私を貴方のPTへ入れてくれない?いいえ、私達を冒険者として貴方の仲間に加えて欲しいの」


あああぁぁぁああああぁぁああ!もう駄目だ!さっきギルドへ行ってきたばっかなのに、また増えるだと?もう嫌だ!


「ディアナはどうした!?彼女に話しを付けてくる!」


「私ならここにいますよ?どうしました?」


「アンタ居たのかよ!どうすんだよこれ?恩とかそうゆうのいいから、もう森へ帰ってくれ!俺の日常を返してくれ!」


俺の言葉を聞いているのかいないのか、ディアナはにこやかに笑ってスルーしている。コイツ・・・強い・・・


「良いのではないか主殿、配下が増えるのは良い事だろう。城には数千人が居住出来る位の広さはある」


いやもう・・・そうゆう話しじゃなくて、色々と展開が早すぎだろ?いきなり100人以上増えるの?


「・・・バトラー!」


「はい、ここに・・・」


「コイツらの事はお前に任せる。俺はハゲそうだ・・・」


「承知しました。雑事は全てお任せ下さい」


ああ、執事ってこうゆう時のためにいるのね・・・執事とか秘書とか、いると本当に助かるわ。俺はギルドへ引き返して、エルフ達もクランに加わった事も説明するハメになった。誰か助けて・・・


「アンタも苦労するわね・・・少しだけ同情してあげる」


肩に乗った羽虫に同情された。


それから数日、彼等と暮らしてみて観察した結果、ダークエルフは何の問題も無い事が分かってきた。


彼等は上下関係にキッチリしてるし、礼儀正しく、俺と廊下ですれ違う時に、わざわざ跪いたりするから、そうゆうのは必要ないから楽に過ごしていいよ?って説明したが止める気配がない、まるで軍人だな。


逆にエルフ達は、まるで女子高生だ。ペチャクチャ喋ってばっかりだし、一緒に居て疲れる。俺は彼女達とは距離を置こうとしたが、彼女達から俺の部屋まで押しかけてきて色々と話し掛けて来る。


妖精さんだからだろうか?エルフは空気が読めないらしい。色々と人間や他種族との生活が珍しいのは分かるが、もう少し静かにして欲しい。慣れてきたら収まるのだろうか?そうでなくては困る・・・


俺は皆に内緒で、小箱亭の部屋を一室、ずっと借り切る事にした。一人になりたい時なんかに利用する。ここで一人で読書している時間も多い。しかし、下の階で仲間の誰かしらが飲んだり食ったりしてる訳だから、何処にいても一人って気がしなくもない・・・


ミネルバは帝都へと帰った。流石に近衛の隊長が、隊を放置してそのままこの街へずっと居る訳にも行かない、俺は新しく出来た人間の友達が去って行く事に、少し寂しさを覚えていた。


彼女は10日程度しか滞在していなかったが、すっかり仲良くなっていた。考えてみれば、俺ってまだこっちの世界へ来て三ヶ月しか経ってんだよね。


ダークエルフとエルフ達を伴って、モンスター狩りにも出掛けてみた。100人超えてるし、もう冒険者の狩りって感じではなかった。森の生態系を破壊しかねないんじゃないのか?


ってくらいモンスター達を虐殺した。不思議な事に、モンスターは幾ら狩っても、森や草原、湖から消える事がない。


一定時間でスポーンするのか?と疑った事があったが考えすぎだった。ゲームの世界じゃないんだから、単にモンスターの繁殖力が凄かっただけのようだ。


亜人種以外の獣系モンスターは食える事が多い、食料や皮まで自給自足出来るから助かる。


街から大体は送って貰う手配はしてあるんだが、大食いがいるし、食料と酒の消費量は半端ない。毎日毎日、城の食料運搬が戦時中のように来ている。街の業者からすれば、うちは良いお得意様だ。


懸念していた、街の中でのエルフ達の事だが・・・やはり問題は起きている。エルフ達が悪い訳じゃない、ナンパされまくっている。彼女達は美しい、それを見て指を咥えて黙ってみているだけの男ばかりではないと云う事だ。


街には「エルフナンパ禁止令」が発令された。破ると罰金、金貨1枚だ。金貨一枚は約10万円だ。冒険者なら頑張れば払えるが、一般人にはかなりキツい金額だ。


街にはエルフ達を見ようと他の街から旅行へ来る者達も居るらしい、そのおかげで街の税収が増えたとか何とか・・・知らんがな。


俺は三馬鹿を連れて、久しぶりに4人だけの狩りを楽しんだ。狩りの後に小箱亭へ寄って、酒を飲む。これが俺の日常だ!周りには、エルフ達がいるし、彼女らを見に来ている連中で落ち着く雰囲気じゃなくなっているんだが・・・


ダークエルフ達は、どうやら俺の護衛も兼ねているつもりらしい、彼等はかなり真面目だった。そんなダークエルフに対抗意識を燃やして、エルフ達も俺の周囲を護衛しているつもりらしい、激しくウザったい。


そして、俺は《家出した》



「ここが帝都かぁ、最北端の街からここまで、結構かかったな。途中にも色々と良い街もあったけど、それは帰りに寄れば良いしな!」


俺は1人旅を満喫していた。街へ着いてすぐに宿を探したが、どれも俺の好みじゃなかった。


宿じゃなくてホテルっぽく、着たばかりで帰りたくなってしまったが、冒険者ギルドへ行って宿について聞くと、冒険者らしい宿が沢山あった。


帝都だけあって、冒険者の数も多い。見慣れない上級冒険者の登場に、ギルドの中ではチラチラと俺に視線を向けてくる者達がいて落ち着かない様子だった。


全く金には困ってないし、すぐに仕事しなくて良かったんだけど、やっぱりどの程度のモンスターがいるのか調べない事には落ち着かない。


「なあ、一人でやれそうな仕事ってあるか?」


俺はギルドの受付嬢に聞いてみた。自分であれこれ考えるより、受付にお勧めを聞いた方が早い場合がある。


「上級冒険者の方でしたら、幾らでもあります!そうですね・・・この貴族の馬車の護衛任務はどうでしょう?」


護衛か・・・やった事ないんだよな。一人でやれるかなぁ・・・この世界には銃はないから、いきなり依頼人が撃たれて死亡って事がないからやり易くはあるんだが・・・


「うーん、他には?盗賊団の壊滅とか、そうゆうのは無いか?」


「ありますね、最近、東の街道沿いで旅の人を狙う盗賊団がいます。アジトはハッキリしていませんが、かなり頻繁に襲われているようです」


アジトがハッキリしてないのか、それだとブラブラ歩き回る事になるなぁ。面倒臭い・・・


「貴族の馬車の護衛って、何処から何処までだ?距離は?」


えーと、実はこの帝都からではなく、隣にあるレイテの街へ向かって、そこから護衛がスタートです。そして、この帝都へと戻って来る事になりますね。


「途中で通り過ぎた街だ!そこで拾ってれば良かったのかぁ、あそこなら、そこまで遠くないからそれでいいかなぁ。向こうのギルドで聞けばいいのか?」


「はい、ギルドでも構いませんし、直接お屋敷へ向かっても良いと思いますよ」


「一つ疑問なんだが、貴族って私兵をそれなりに持ってるはずだよな?何故、冒険者へ護衛を頼むんだ?」


「・・・自分の家の護衛を付けると、旅行とかした気にならなかったり監視されてる気分になるんですよ」


そうか・・・家出したから何となく分かる。ギルドの受付嬢達は殆どが貴族の娘達だ。意外か?文字の読み書きが出来て、教養が無くちゃ出来無い仕事なんだ。


貴族でも無い限り、文字の読み書きは普通は習わない。貴族の娘がうってつけなんだよ。勿論、身分の高い貴族の娘はやらないだろうけどな。


「えーと、何の用でその貴族は帝都へ?別に珍しい事でもないか?」


「そうですね、税収の相談とか、買い物とか、貴族が帝都を訪れるのは珍しい事ではありませんよ。他の貴族と帝都で交流したり、特に裏がある依頼とは思われません」


「了解した。すぐに向かう、馬を飛ばして行くから2時間後には着く」


馬を飛ばして行くと言うのは嘘だ。俺は徒歩だが、俺の脚力ならあの街まで二時間あれば着く。


俺の魔力強化した脚なら馬より早い、しかも風魔法の支援を使えば、その倍の速度で走る事も可能だ。


「承りました、あちらのギルドへは通信術で上級冒険者の方が引き受けたと報せておきますね」


「じゃあ、行って来る」


俺はギルドを出ると、すぐ門へと向かった。屋根の上を飛び跳ねながらな。通りは通行人にぶつかるから、屋根の上を飛んだ方が早いんだよ。そのまま門から出て、レイテの街を目指す・・・


この辺りの街道には人が多い、俺の通り過ぎるのを何だ何だ?と騒ぐ者達がいたが、いちいち気にしてる時間は無い。そうこうして二時間走り続けて、レイテの街へと着いた。流石にノンストップで二時間走り続けるのは疲れたぞ・・・


ギルドへと歩いて行く途中で、ジュース買って煙草を吸った。息切らして入ってく何てみっともないからな。


「帝都から護衛任務の依頼を受けにきた。俺の名は御堂龍摩だ。もう確認出来てるな?」


「御堂様・・・はい、確認は取れています。早いですね?」


「名馬なんでね、その依頼主は何処にいる?」


「あちらの席に座っている方です。二時間後に到着するという話しだったので、使いを出して時間に合うように待って頂いていました」


「手際いいな、ありがとう」


俺はお礼に銀貨一枚を受付嬢にチップとして渡した。俺は貴族が座っている席へと向かった。


「依頼人はアンタ達だな?俺は御堂龍摩、上級冒険者だ」


「君がかね?随分若いな、私はティモシエール子爵だ。こちらは娘のクレアだ」


「宜しくお願いします」


娘は優雅に頭を下げる。うん、礼儀正しく良い娘だ。子爵の方も冒険者だからと見下した態度じゃないのが気に入った。


「じゃあ、早速出られるか?馬車の護衛だよな?俺は外で徒歩で付いてく、俺の速度は気にしないで構わない、馬車の速度へ合わせるから」


「飛ばす訳ではないが、馬車へ歩いて付いてくるのか・・・分かった。時々、中で休んでくれて構わんよ」


1時間経ったが、何も起きない・・・そりゃそうだな。真昼間の街道では流石に何か起きるとか、滅多にある事じゃないだろう。


あれ?確か盗賊出るとかギルドで言ってなかったか?こっちじゃない通りだったか?覚えてない、俺は御者に向かって尋ねた。


「なあ、東の街道ってここだよな?」


「はい、この通りが東の街道です」


そうだよな、この通りで盗賊団だと?こんな広い街道で?まあ、夜にでも出るんだろう。


「この街道は盗賊団が出るらしいぞ、ギルドで討伐依頼が出ていた」


「それは噂になってますね、帝都からの東西南北、四つの大きな街道ですからね。


軍も見張っているようですが、何処の国でもそんなもんですよ・・・この国は軍事大国ですからね。元軍人だった盗賊とかも多いみたいです」


ああ、元軍人か・・・そりゃ軍の内部に情報持ってる奴もいるんだろうな。軍人やってるより盗賊やってる方が儲かる。俺達の世界と違って、カメラも携帯電話も何もないんだ。


ハッキリ言えば、余程の馬鹿か調子に乗らない限り、盗賊団が捕まる事って少ないんだよ。俺はかなり潰したけどな!金いっぱい持ってるし、一時期は盗賊退治専門で狙ってガッポリだったわ。


「あ・・・」


「どうしました」


俺達がそんな話しをしているからか盗賊が出たようだ。狙われてるのは俺達じゃない、かなり距離のある前の一行だ。俺は馬車を止めさせて、中の二人にどうするか尋ねた。


「盗賊?出るとは聞いていたが、こんな昼間から・・・それで、こちらに来るかね?」


「分からんな、あっちをやったらこっちかもしれんし、そのまま帰るかもしれん。あっちにも護衛がいるから、すぐにはやられないだろうが・・・」


「助けてあげられないのでしょうか?」


娘が俺に尋ねて来る。普通、貴族なんて自分の身が第一なんじゃないのか?他人なんてどうでもいい連中ばかりだと思っていたので、俺は少し驚いた。良い娘さんだな。


「可能だ、数は20人もいない。俺1人で倒せるが、どうする?加勢して倒して来いって言うなら行くぞ?」


「あの人数に勝てるのかね?それは・・・流石は一級冒険者と言ったところか、是非助けに行ってやって欲しい」


この貴族もお人良しか、気に入った。


「了解した。馬車から出るなよ?片付いたら空に向けて魔法を放つから、それを合図にこっちへ来て構わない」


俺は彼等に告げると襲われている馬車に向かって走り出した。俺の全速力なら1分とかからずに、盗賊団へと肉薄出来る」


「風よ、我が意に従え!ウインド・ボム!」


俺は風の魔法を盗賊団へ放つと同時に飛び蹴りを食らわした。横合いから突然現れた乱入者に、盗賊団は大慌てだ。この機を逃すかよ。俺は頭目らしき男へ向かって駆けた。


刀を峰打ちにして胴を薙ぎ払う。まともに食らって悶絶している男の頭を足で踏んづけて、盗賊達に降参しなけりゃコイツ殺すぞ?と脅しを掛ける。俺は悪役の方が向いてるな・・・と思う。


「ば、馬鹿野郎!いきなり降参なんて出来る訳ねーだろ!」


「それもそうか、じゃあ全員ボコるしかないな。安心しろ、殺しはしないから♪」


俺はそう言って悪い顔を浮かべながら残った盗賊団へと近付いて行った・・・


「いやぁ、凄いね・・・君が走って行ったと思ったら、あっと言う間に盗賊団の所まで・・・あんなに早く走れるものなのだな」


「根性だ、根性さえあれば大抵の事は何とかなる」


俺は嘘を付いた。説明すんのが面倒臭いからだ。


「コイツらは、このまま帝都まで連行して兵士に引き渡す」


俺にボコボコにされた盗賊団は座り込んでいる。素直に言う事を聞かないからだ。他人の言う事聞くくらいなら盗賊なんてやってないだろうけどな。


「あの・・・ありがとうございました。助けて頂いて、本当に何とお礼を言って良いのか」


俺が助けた商人達が礼を言ってきた。


「俺は雇い主の命令に従っただけだ。礼なら俺の雇い主に言うといい」


護衛の冒険者達も、流石は上級冒険者は違うな!と俺をもてはやした。知るか・・・俺はソイツらを横目に見ながら、盗賊達を先に歩かせて帝都まで向かうように指示した。もし逃げるような奴がいたら、殺して構わないと。


その後の道中は至って平和だった、俺は途中で馬車に乗せてもらって依頼主と話していた。


「君は歳は幾つかね?10代に見えるが」


「これでも23だよ、若く見られガチだけどね。帝都へは何をしに?」


「二十歳を超えていたのか、それにしても若いね。その歳で上級冒険者なのは、凄腕だな。しかも一人で?」


「いや、訳あって一人で帝都に来たんだ。普段は城塞都市カーレで仕事をしていたよ」


「カーレ・・・赤いマント・・・御堂?もしかして君は吸血鬼を仲間にしてはいないかね?」


「・・・ああ、今は一人旅だけどね。吸血鬼の仲間はいるよ・・・」


「やはりそうか!帝都でも君の噂を聞いた事がある!吸血鬼の城を落として配下に加えた凄腕の冒険者がいると・・・そうか、君があの御堂君か!」


あ~帝都で噂になってるってのは本当の事だったのか、面倒だな。俺は適当に受け答えながら、不必要な事は黙っている事にした。どうせ、依頼が終われば貴族なんて付き合いがなくなる。


「・・・チラッ」


「ん?どうした?」


娘さんが俺の事をチラチラと見て下を向く。


「すまんね、うちの娘は人見知りで、人と話す機会が少ないんだ。君のような冒険者は特に珍しいのだろう」


「お父様、止めて下さい、そんなんじゃありません!」


ああ、これが貴族の令嬢って奴か、俺の知ってるのは軍人と子供しかいないから、全くそんな感じがしなかったよ。


「何か聞きたい事でもあるのか?答えられる事なら答えるぞ」


「・・・あの、冒険者の方って普段はどんなお仕事をされているんですか?」


「主にモンスター退治だ。他に薬草採集を頼まれたり、盗賊退治を依頼される。今日みたいな護衛任務もある、


ギルドの依頼以外では、ダンジョンの探索したりとか、未発見の遺跡の探索とかだな。この辺に遺跡とかないかなぁ、流石に帝都の近くには無いか・・・」


「ありますよ?私達の領地の中に」


「ああ、あるね。誰も行っていないようだが・・・」


「・・・え?マジで?何故、誰も行かないんだろう?小さいの?」


「いや、結構大きいとは思う」


うーん、何でだろう?帝都の近くにあって、未発見だと?ギルドで後で聞いてみるか・・・


「モンスターと戦うのは怖くはありませんか?」


「怖いよ、怖くない奴なんて居ないと思うよ」


「それでも、モンスターと戦うのですか?」


「冒険者になる奴なんて、みんな貧乏で他に食って行く方法が無いんだよ」


「・・・生活のために?」


「大半の冒険者はそうだろうね、中にはもっと野心を持った者もいるだろう」


「貴方はどうなのですか?」


「今の生活が気に入ってるからやってる。好きに戦って好きに稼いで、それで死ぬなら仕方ない、誰かのためにやってるんじゃないからな、何かのために戦って、後悔して死ぬのはゴメンだ。結局、全ては自分のためだ」


「・・・いいですね。自分のためって言いきれるのは」


「自分の一生なんだ。誰かのために使ってどうする?」


その言葉は私の胸に響いた。貴族に生まれたら、家のために全てを捧げて生きるのが当然だからだ。結婚相手も、好きでもない相手の子供を産む事も、そして最後に死ぬ事も・・・


「うちの娘には、まだ人生観を考えるのは早いかもしれないね」


「そうだろうか?この国では15歳で成人だろう?それに、子供に自分なりの価値感が無いなんて思うのは、大人の傲慢だろう。そろそろ、外でまた警戒任務に戻る。もう帝都は近いから何も起きないだろうけどな」


帝都に着いた。さて、やる事がある。俺は東門を守る憲兵に盗賊達を捕まえて引き渡した。兵士達はとても喜んで、後で褒美が出るかもしれないから、宿泊先を教えて欲しいと言われた。くれる物は貰う主義だ、俺は宿の場所を教えた。


「それとな、他にも問題があるんだよ」


「他の問題・・・ですか?どのような・・・」


兵士が俺を見ながら尋ねたと同時に、俺は呪文を放った。


「バインド!」


俺の呪文は一緒に居た冒険者5名を同時に縛り付けた。


「な、何をするんです?私達を何故!」


「・・・お前等、盗賊団とツルんでだろ?明らかに手を抜いていたし、隙があったら逃がそうとしていた」


「そ、そんな訳がないでしょう?早く術を解いて下さい!今なら俺達も間違いだって笑って許しますよ・・・」


「ああ、間違いだったらゴメンって謝るわ、構わんからコイツらこのまま盗賊達と一緒に投獄して尋問してくれ、潔白だったら俺が全責任取るから」


「・・・分かりました。では、この冒険者達も連行します」


お?話しの通じる兵士だな。上級冒険者だから俺を信じたか?


「その術は15分で切れるから。装備を取り上げて、腕だけでも縛っておいた方がいいぞ」


「了解しました、後でまた連絡が行くと思います。彼等が無実かどうかは、審判ですぐに分かります」


審判・・・それは信仰系魔法に該当する神聖呪文だ相手の虚偽を見抜く事が出来る、嘘は付けない。


但し、相手の同意が必要なため、もし審判を拒否した場合は通用しない。だが、この状況で審判の呪文を拒否する理由は皆無だから、嘘はすぐバレる。厳密に言えば神聖魔法と信仰系魔法は別なんだけどな。


「じゃあ、ここまででいいか?それとも、目的地まで送るのか?」


「いや、ここまでで充分だ。護衛を雇って正解だったよ。また、何かあったら頼むかもしれん」


「ああ、宜しく頼むよ。そっちのお嬢さん・・・クレアさんだったか、またな」


俺は二人に挨拶してギルドへ依頼達成の報告へ向かった。


「お疲れ様でした。それではこちらが報酬となります」


俺はギルドで受け取った報酬を特に数えもしないで席に着いた。ギルドは大抵、酒場と兼用になっているから食事も出来る。


俺はコーヒーを頼んで煙草を吸い始めた。一仕事終えた後の煙草は美味いなぁ、こっちの世界は煙草に対して偏見が無いから喫煙者天国だ。


「おくつろぎのところ申し訳ありません、カーレのギルドから連絡が来ていますが・・・」


あ~俺がここで仕事受けたのが他のギルドに通達行くんだったよな。マジかよ面倒臭ぇ・・・


「御堂さん!勝手にいなくならないで下さい!どうしたと云うのですか?」


水晶の向こう側で、ギルド長が凄い剣幕でガーガー言って来た。これはホログラムのような魔法だ。この世界には電話が無い替わりに、こういった連絡手段がある。


相手の居場所が特定出来てないと使えないから、電話よりずっと不便だけどね。固定電話みたいなもんだ。


「冒険者が移動しちゃ駄目なんて規約は無いはずだが・・・」


「それは・・・そうなのですが、上級冒険者が何の連絡もなく消えられては困ります!」


「城塞都市には他に二組も上級冒険者PTがあるじゃないか・・・普通、上級冒険者がそんないる街ってないだろ?俺が抜けたところで騒ぐことないだろ」


「クランまで作っておいて、すぐに居なくなるなんて酷いですよ!貴方の仲間は大騒ぎですよ!?」


「俺が帝都にいるのは秘密だ!もし話したら俺は拠点をカーレから別の街に変更する!いや、もう冒険者じゃなくて傭兵にでもなって別の国へ行く!」


「そんな横暴な・・・分かりました。当分の間は御堂さんが帝都へ居るのは内密にしておきます。帰って来ますよね?」


「・・・今はそんな気分じゃない、なんかもう全てが面倒になった」


「皆には黙っておいてあげますから、絶対戻って来て下さい!あと、時々、連絡を下さい!お願いしますね!じゃあまた!」


・・・通信が切れた。俺との会話が聞こえていた周囲を気まずい沈黙が支配する・・・なんだってんだよ、俺には一人の時間もないのか?


こうゆう場合は仕方ない。俺は周囲を見渡すと、まだ夕方にもなっていないから、少し人は少ないが・・・


「おい!俺の奢りだ!一杯やるぞ!」


周囲の嫌な沈黙は一斉に歓喜の声へと変わった。


「いやぁ~何か気まずい雰囲気だったけど、パーティ組んでると色々あるよな!うんうん、飲もう飲もう!」


「ああ、もう深く考えるのは止そう!俺達冒険者は戦って食って飲んでナンボだ!」


「上級冒険者ってしがらみとかあるんでしょうね・・・大変そうですけど、応援してます。頑張って下さいね?」


俺に励ましと応援の声が向けられる。これだよ、俺は酒さえ飲んでれば、オールオッケーみたいな冒険者のノリが好きなんだよ!それから夜半まで冒険者ギルドでの飲み会は続いた。


腕相撲大会が始まったり、美人の女冒険者達がお酌してくれたりで楽しかった。定時が終わった受付嬢達やギルドの職員達も宴会に加わった。俺は少し疲れたので、代金は全て俺が払って先に宿へと帰った。


「御堂さん、おはようございます。昨夜はご馳走様でした♪」


受付嬢の一人が俺を見て挨拶する。昨夜の飲み会で、帝都のギルド職員とは殆ど面識が出来て仲良くなっていた。こうゆう投資は必要だ。


「ああ、二日酔いになってないか?俺は仕事を探しに来た」


「みんな酔い覚ましを飲んで仕事してます。仕事はどれが良いでしょうか?上級冒険者の御堂さんなら選り取り見取りなんですけど・・・」


俺と受付嬢は二人で依頼を選んでいた。流石は帝都だ、依頼が多い。しかも、モンスター討伐だけでなく依頼の種類がとても多い。護衛任務が多いなぁ・・・


「御堂さんは得意な仕事ってありますか?護衛が得意とか、探索が得意とか・・・」


「特にないな、俺は冒険者になって三ヶ月しか経ってない、殆ど戦ってばかりの日々だったよ」


「経歴に書いてありますね・・・三ヶ月で上級冒険者って、私は聞いた事がありません・・・」


「俺の仲間が強かっただけだ。俺はPTの中では最弱だよ」


「でも、PT名は《御堂様》なんですよね?リーダーも御堂さんで登録されています」


クッ・・・だからPT名は変えたいって言ったのに!そんなクソ恥ずかしいPT名があってたまるかよ!


「PT名には触れないでくれ・・・それは冗談で決まってしまったようなもんだ。リーダーが俺だったのは間違いないけどな」


「いいんじゃないですか?ここだけの話し、もっと恥ずかしい名前のPTって沢山ありますよ?」


「へぇ、例えば?」


「あまり言いたくはありませんが《帝都のシールド》とか・・・自分達で盾を名乗るなら、もっと強く格好良くなって欲しいと思います。まるで騎士団気取りですし」


なるほどな・・・そりゃ名前負けって奴だな。自分で盾って名乗るとか、どんだけ自意識過剰なんだよ。


「数千、数万のモンスターの軍団が帝都へ押し寄せてきたら、しっかり盾になってもらおうぜ」


受付嬢は可笑しそうに笑い出した。


「・・・あーお楽しみの最中のようだけど、いいかい?」


あ・・・その声は・・・


「やあ、やっぱり御堂だね。数日ぶりだね、私に会いたくて帝都へ来たのかい?」


「そうそう、ミネルバに会いたくなって来ちゃったよ。憧れの近衛隊長さんと別れるのが辛くてなぁ・・・会いたかったよ!」


「・・・なら、なぜ昨日、私に会いに来なかったんだい?今も依頼を探していたようだが」


・・・チッ、バレたか。


「まあ、冗談はさて置き、何で近衛隊長のミネルバが俺に会いに来たんだ?たまたまかギルドへ用事だったのか?」


「いいや、昨日、盗賊団を退治しただろう?それと、冒険者達が仲間だって事も君が暴いた。その通りだったようだよ、冒険者達はグルだった」


「あーその件か、すっかり忘れてたわ。グルなのは分かってたよ。で?それって憲兵とかの仕事じゃないか?近衛隊長の仕事じゃないだろ?それに、よく俺だって分かったな。昨日の今日だぞ?」


「報告書に、赤いマントの見掛けない小柄な上級冒険者と書いてあったから、すぐに君だと思った」


「もう、俺はチビッ子赤マントって通り名を名乗ろうかな・・・御堂様よりずっとマシだろ・・・それで、俺に会いに来たのか?」


「あの・・・御堂さん、そちらの方はミネルバ様ですよね?お知り合いなのですか?」


受付嬢が遠慮がちに声を掛けてきた。


「うん、カーレで知り合って友達になったんだ」


周囲を見渡すと、ギルド内の冒険者や職員達が俺達に目を向けていた。


「なんだ?どうしたんだ?」


「ミネルバ様!私はエルレーン男爵家の三女のエレンと申します!」


いきなり自己紹介始めやがった。俺は名前なんて聞いた事なかったぞ?昨日知り合ったばっかだけどさ・・・


それを皮切りに、次々と受付嬢や職員達が寄ってきて、ミネルバへと自己紹介や挨拶が始まった。なんだ?何が起きてるんだ?


「ああ、皆さん。すまないが、今は友人と話しをしているからね。それに、これでも仕事中なんだ。御堂、外へ行こうか?」


「ああ、これじゃ話しも出来ないし、仕事の依頼も出来ん!」


一体、何の騒ぎだよ・・・アイドルの握手会じゃねーんだぞ?みんな仕事ほっぽって何やってんだか。


「・・・お前、人気者過ぎだろ?近衛の隊長って、そんなに一般人に顔が知られてるのか?」


「近衛は国の行事などで時に先頭を行進する花形だからね。知名度は高いんだよ」


それにしたって、人気あり過ぎだ。まあ、コイツの容姿も並みじゃないからな。男装の麗人で近衛隊長って、オスカルかよ・・・それに、詳しく聞いてないけど、コイツの家柄も相当なもんなんだろうな。


貴族の子弟で構成されてる職員達のあの人気は、容姿や役職だけでなく、カストール家とお近付きになりたいって魂胆もありそうだ。


「はぁ、それで、ただ会いに来ただけなのか?朝食でも食うか?どっか案内してくれ」


「ああ、それなら宮殿で朝食としよう、姫殿下がお待ちかねだ」


・・・はい?今なんつった?


「えーと、なんだって?」


「だから、姫殿下がお待ちだと・・・」


「何で朝から姫さんが俺の事を待ってるんだ?そんなの予定にないんだが・・・」


「カーレに居た時から君の事を姫様に話すと言っておいただろう、君の事を話したら、是非会ってみたいと姫様が仰ったんだ」


俺は逃亡犯宜しく、身を翻して逃げようとしたが、背後から声を掛けられた。


「逃げても無駄だよ、君は犯罪者じゃないが、それでも逃げ出すとなれば犯罪者として連行するから」


・・・横暴過ぎるだろ。


「帝都へ来てしまった君が悪い・・・」


「あー分かった分かった。もう好きにしろ。俺は歩きたくないから、お前が背負っていけ」」


往来で大の字になった俺を、ミネルバは軽々と背負った。やっぱり力強いね・・・そのまま、宮廷までおんぶされて連れて行かれた。周囲の視線が痛かったが、だからどうした、俺はそうゆうの全く気にしないんだ。



「殿下、ミネルバ戻りました。御堂殿をお連れしました」


「ご苦労だったなミネルバ、御堂とやらも・・・どうした?怪我でもしているのか?」


「よぉ、アンタが姫さんだな?朝からアポ無しで、よくも呼び出してくれたな」


「御堂が来たくないと、駄々をこねて往来で大の字に寝転んで動かなくなったので、ここまで背負ってきました・・・おい、いい加減降りろ御堂」


「嫌だ、本当に嫌だ。ミネルバ良い香りがするし、女の子に背負われるなんて経験滅多にない、気持ち良いから絶対に動かないぞ」


「私を女の子扱いしてくれるのか、それは少し嬉しいな」


「・・・フム、聞いていた通り型破りな男のようだな。ここまでずっと背負って来たのか?」


「はい、街中から宮殿の中までずっとです。酔っ払いの介抱しているような目で見られていましたよ」


「どうでもいいが、何で姫さんって仮面被ってるの?まさか、俺の知り合いにいるから正体がバレないように仮面で隠してるってオチじゃないよな?」


姫と呼ばれた人物は、仮面を被っていた。口元は出しているが、シャアの真似か?親の敵とか狙って顔を隠してたりすんのか?逃げろガルマ!


「私が顔を隠しているのは理由があってな、戦場で敵に侮られないためにこうして顔を隠していたのだが、家臣にも効果があるようなので、こうして顔を隠している。こう見えても美人でな、顔で損をする」


美人で損するって・・・贅沢な悩みだな。


「アンタは蘭陵王か・・・」


「蘭陵王とは?」


「・・・大昔の武将だよ、蘭陵王、長恭と云って顔が良すぎて敵に舐められるからと仮面被ってたそうだ。ちなみに男だぞ」


「そうか・・・私はその武将を知らないが、既にそんな男が歴史にいたとはな、貴様は博識だな」


俺の世界のだけどな・・・大昔の話しって言えば、知らなくても他所の世界の話しだとは思われない。


「なあ、飯にしようぜ、俺は何も食ってない」


「君は初対面の姫様の前でも、全く物怖じしないな・・・」


「構わん、私にへつらうゴミ共より余程新鮮だ。おい、朝食にする。用意しろ」


声を掛けられた宮女が一礼して下がる。以前なら感心したとこだが、俺の日常もこんな感じだから慣れた。


「普段はもっとちゃんとしてるだろ、俺は不貞腐れて帝都へ来たんだ。そこへ呼び出し食らって、更に不貞腐れてるんだよ・・・」


「なんだ?何があったと云うのだ?」


「飯食ったら、茶でも飲みながら話すよ・・・半分、愚痴だぞ?覚悟しろ」


俺はミネルバと姫さんに事情を説明した。前もって断った通り、俺の愚痴だ。朝から他人の愚痴聞かされて嫌な気分になれ!ミネルバの背中から降りるのは名残惜しかったが仕方ない・・・またいずれ、背負って甘やかして貰おう。


「フム・・・それは難儀な事だな。同情の余地がある、貴様は悪くない」


「あ、分かってくれる?そうだよな?俺は悪くないよな?そうだよ!全部、偶然なんだよ!姫さん、話しが分かるな!」


「だが、私からすると楽しそうではないか、私もそんな経験がしてみたいぞ。私は滅多にこの宮殿から動けない、贅沢な悩みか?」


「あ~それは・・・うん、大変だろうな。ミネルバを護衛に街中を好きに出歩くくらい出来るんだろう?」


「貴様は護衛付きで街中をうろついて楽しいか?」


「・・・すまん、全然楽しくないな」


うん、人が常に付きまとっているのが嫌で家出したんだ。その気持ちは分かる。それが何年もずーっとだと、本当に嫌になるだろうな・・・


「でもさ、姫さんの仕事ってそんなにあるのか?仕事は皇帝がやるもんだろう?後は重臣達とか・・・


姫なら部屋に篭って、今日はどのドレスを着たら良いかしら?新作のドレスは?パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない?とかって言ってりゃいいんだろ?俺が2~3日なら替わってやろうか?」


「この国は現在、殆ど姫様が政治と軍事を行っているんだよ。特に軍事はね」


「何故だ?普通は皇帝と重臣が・・・」


「陛下はご高齢で臥せっておられる。内政では宰相や文官が行っているが、どうも怪しいのでな・・・軍事は私が一切を行っている。宮廷の愚物に軍事まで任せたら、隣国と計らってこの国を潰しかねん」


・・・マジかよ?そこまでこの国って腐ってるの?皇帝が高齢なのは仕方ないとして、忠臣とかもいるだろ。逃げて別な国へ行った方がいいか?


「えーと、それじゃ俺はそろそろお暇するかな。朝食美味しかったよ。じゃあ、また来るから・・・じゃあね?」


「そう急ぐな、来たばかりではないか。安心しろ、私がいる限り隣国は容易に手出しは出来ない」


「・・・いや、何かこのパターンって、俺も面倒な事に巻き込まれるような予感がしてな・・・俺は冒険者だから、あちこちの国に行く事になるだろうから、出来れば他国から恨まれるような事態は避けたい」


「心配するな、いきなり知り合ったばかりの貴様を戦争に駆り出したりするものか、ミネルバから聞いてはいるが、相当腕が立つようだな。どうだ?私と一手手合わせしてみるか?」


「いいだろう、掛かって来い」


「・・・話しが早いな。普通は尻込みするところだと思うが」


「俺は売られた喧嘩は買うんだよ、ストレスも溜まってるからな。競技用の剣があるだろ?それを使えば死ぬ事はない」


「ホゥ・・・良い返答だ、これは久しぶりに楽しめるか?」


「姫だろうが女だろうが手加減しないからな」


俺達は中庭になる練兵所へと来た。兵士達が姫さんの姿を見て、慌てて跪く。俺達は互いに剣を選んで、向き会った。


「さて、ルールは?」


「貴様は魔術を使うようだな、使って構わんぞ。私も魔術が使える」


「え?姫さんも魔術が使えるのか・・・それは驚いた。いや、今回は互いに剣と体術だけの勝負としようぜ。魔術使うと被害が出るかもしれんしな」


「いいだろう、立会人はミネルバ、お前が勤めろ」


「畏まりました。それでは両者、用意はいいか?始め!」


ミネルバの掛け声と共に、姫さんが凄い早さで俺との間合いを詰めて突きを繰り出してきた。初撃をかわした俺に、そのまま突きを連続で出し続ける。早い!これは普通じゃない!?コイツも魔力強化してんのか?


俺は攻撃を避けるために、3m程後方へ飛んだが、そのまま追撃される。引き離せないだと?更に跳躍する。今度は5mほどだ。


「やるじゃないか御堂とやら、だが、かわすだけでは勝負にならんな」


俺は内心焦りまくっていた。これはヤクト以上の強さか?・・・本当に本気出すか?この剣なら死にはしないだろう・・・


「アンタの強さは理解した、舐めてた事を謝ろう、なら俺も本気だすわ。死ぬなよ?」


「面白い!全力で来い!」


今度は俺から仕掛けた!右斜め下方からの逆袈裟斬りだが、それを難なく受け止められる。それは分かっていたから、剣を滑らせて逆袈裟に斬り下げる。それも受けられた、あちらからも斬り付けて来る。


俺と姫さんの攻防は、もう人間の目では追えない。この戦いはヴァネッサ以来の真剣勝負だった。実はまだ俺にはかなり余裕があった。


ヴァネッサの時には二つまでしか廻せなかったチャクラを三つまで動かせるようになっている、今はまだ二つだ。だが、どうやら姫さんの方もまだ余力が残っているのが見て取れた。


こんな人間いるのか?それとも俺が奢っていたのか?人間の中で俺に勝てる奴なんて居ない・・・とまでは言わないが、こんなすぐに互角に戦える者に出会うとは全くの予想外だった。


俺はこれまで、フェルナード達やヴァネッサと規格外の強さを持った怪物達を見て来た、人間ではどうやっても勝てない連中だ。三馬鹿にしたって、俺は奴等が本気で戦った事なんて、まだ見た事が無い。


俺は自分が強くなった事に過信していた。そりゃそうだろう、常人では目で捉えられない早さで動けるんだぞ?そんな奴が異世界とはいえ、早々いてたまるか!冒険者達でさえ、そんな奴は見た事も聞いた事もない!


「姫さん!アンタ何者だ!?この強さは尋常じゃないぞ?」


「そうゆう貴様こそ!私とここまで渡り合った奴など居なかったぞ!」


・・・だが、俺は純粋に楽しかった。魔物との戦いですら全力を出す事はなかった。それに奴等との戦いに攻防なんてない、単純に避けて攻撃する、もしくは早さに任せて斬り付けるだけで終わる。


俺達の戦いは白熱して行った。眺めていた兵士達の声は歓声から静けさへ、そして恐怖へと変わっていた。


「シャアアアっ!」


「つああああ!」


両者の剣が幾度目かの剣撃に耐え切れずに砕けた。


「それまで!」


ミネルバの制止の声が掛かった。ここまでか・・・


「・・・フッ、フフフフフ、ハハハハハハ!」


「ハハ・・・ハッハッハハハハハ!」


俺と姫さんは笑っていた、大爆笑だ。二人の笑い声は暫く止まらなかった。


「フゥ、フゥ、素晴らしいぞ御堂!貴様がこれ程とは思わなかった!」


「いやぁ、姫さんこそ!俺は久しぶりに本気で戦ったぞ!楽しかったな!」


二人:「アーッハッハッハ!」


俺達は肩を組んで笑い出した。

周囲はそんな俺達を青ざめた顔で見つめていた。休憩して茶を飲みながら、俺達の会話は戦う前よりも弾んだ。元々、俺は人見知りしない性格だし、姫さんも言葉は堅苦しいが、かなり砕けた様子で話していた。


あんだけ戦った後だ、しかも殺し合いじゃないんだから楽しくて仕方がない。俺はそこまで戦闘好きって訳じゃないと思っていたが、全力で戦う相手がいない事が知らず知らずのうちにフラストレーションが溜まっていたようだ。


「いや~英雄の生まれ変わりって言われるだけあるな、ここまで強いとは・・・ミネルバもこのくらい強いの?」


「・・・そんな訳がないだろう、二人が戦った跡を見てみろ」


俺は自分達が戦った練兵所を見てみたが、あちこちひび割れたり、小さな穴が開いていた。


「床にひびが入る程の踏み込みや剣撃等は人外の域だよ。君が強いのは理解していたつもりだったが、想像を遥かに超えていた。まさか、姫様と互角に戦えるとはね・・・」


「姫さん、まだ本気じゃなかったぞ、かなり余力があった。まだまだあんなもんじゃないだろうな」


「御堂、貴様も全く本気ではなかっただろう、惜しいな。もっと戦ってみたかったが、模擬専用の剣では持たないとは・・・」


「いや、そんな事ないぞ?かなり本気だったよ。7割くらいの力は出していたんじゃないかな」


「7割!?あれでか?」


ミネルバが驚愕の声を出す、まぁ驚くだろうな。俺はミネルバだから言ってみたが、他の奴にはそんな事は言えない。自分が人間の常識範囲で考えれば、規格外の強さなのを理解しているからだ。


「姫さん、アンタ、身体を魔力強化してるんだろ?じゃなけりゃあんな動きは人間には無理だ。アンタが魔法使えるって言った時点で、そんな気はしてたんだけどな」


「貴様もだろう?貴様から感じる魔力は桁違いだ。ミネルバから純粋な魔術師でなく剣も相当な遣い手だと聞いていたから予想はしていたがな」


「なんだ、ズルいぞ。そっちは情報があったじゃないか、俺はぶっつけ本番だ。気構えが違うぞ」


「フフフ、情報は命だからな。情報無くして勝利はあり得ない」


なかなかに狡猾だ。それだけに頼もしい、世間知らずの脳筋だったら国政なんて任せてられないだろうからな。


こりゃ軍で彼女が全権握ってるってのも間違いないだろうな。逆らう奴がいるとは思えない、普通なら犬のように従うか、他国へ逃げる。


俺には疑問があった。俺は魔力をチャクラによって更に高めて持続化までしている。単なる魔力強化だけでは、ここまでの力は出せないし、出せてもすぐに魔力切れだ。姫さんの強さには、俺のチャクラ同様に何か秘密があるな・・・


「私の部屋へ移動しよう、話しがある」


・・・とても嫌な予感がした。



「御堂龍摩、無茶を承知で言う、この国へ仕えてはくれないだろうか?」


「・・・そう言うと思ったよ。悪いが断る、俺は今の生活が気に入ってるから冒険者を辞める気はないし、軍属とか向いてるとは思えない。規則正しい生活とか無理だ」


「・・・近く、戦争があるかもしれん」


・・・マジかよ


「・・・他国とか?それとも内乱?」


「それは・・・」


「待った!聞かない!話しを聞いた以上、仕官を断ったら命は無いとか言うんだろう?だから聞かない!話すなら帰る!無理なら他国へ逃げる!」


・・・小さく舌打ちされた。おい、マジかよ、危なかったな・・・


「・・・命が無いなんて言うつもりは無い、お前を殺せる兵なんていないからな。逃げると云うなら尚更だ。私以外にお前を止められる人間はこの国には居ない」


「分からんぞ?俺だって上級冒険者チームが数チーム相手でかかってきたら、どうなるか分からん。逃げ切る自信はあるけどな」


「君には仲間がいるだろう?彼等が君と一緒に戦えば、勝てる冒険者がいるとは思わないね」


「そうだな、ミネルバの言う通りだ。奴等がいるなら誰にも負けない。だけど、俺は出来るだけ人間同士の争いに彼らを使いたくない。今回だって誰も連れてきてないだろ?」


「本当に家出したのか?」


「・・・さっきそう言っただろ。俺は時々、一人になりたくなるんだよ。自分の時間が欲しい」


「貴様の配下は何人いるんだ?」


「・・・それ、この国の戦力に加算して考えたりしないだろうな?逃げるぞ?」


・・・また舌打ちしやがった!


「エルフが112名で、ダークエルフが42名、ホムンクルスが51名に、ヴァネッサと三馬鹿だ・・・200ちょいってとこだな。でも戦力外だっているからな?人間の戦争に巻き込まれるくらいなら、俺は仲間連れて間違いなく逃亡する」


「戦争には加担しない、それくらいなら戦争が終わるまで、安全な国へ逃げる。そうでなけりゃ冒険者なんてやってられない」


「では、この国の内乱だとしたら?」


「・・・無理にでも仲間に引き込むつもりか?冒険者が戦争に参加しないのは、全ての国の共通した規則だろう?」


「冒険者件、軍人でどうだ?」


「そんなん聞いた事ねーよ!大体、俺は宮仕えとか無理だって言ってるだろ?無職に近い冒険者だから、かろうじてやってられるんだよ!俺は社会不適合者なんだ!」


「・・・負けそうなのか?それだけ教えてくれ」


「負けると言ったら逃げる気だろう?」


「うん、当然だろう、負け戦の後の国がどうなるかなんて、誰だって分かる。俺の国は昔、戦争に負けた。一体一ではなく連合国にな。


その結果、国は他国に押し付けられた占領憲法を守り続ける犬みたいな国になっちまった。相当な経済力を付けた後でもな。だから敗戦とその後に、国がどうなるかも誰よりもよく理解してるつもりだ」


「それは、何処の国だ?貴様は顔つきからして東方だな。戦争に負けて悲惨な末路を辿った国は記憶にない」


「・・・他国からしてみれば、そんなもんだ。負けた国の事なんて覚えちゃいないのさ・・・」


俺は適当に嘘ついた。日本が敗戦した何て説明のしようがないからな。


「そうか、そうだろうな・・・滅びた国などすぐさま人々の記憶から消える。すまなかった」


「いいさ・・・じゃあ帰るわ」


「話しを逸らすな、まだ帰って良いとは言っていないだろう」


チッ・・・悲しげな雰囲気出して逃げ去るつもりだったが駄目だったか。


「御堂、こう見えて姫様はお忙しい、いや待て、じゃあ帰るとか言うなよ?そうゆう話しじゃない、かなり真面目な話しなんだ。君が真面目な話しが嫌いなのは分かっていて話しているのだから」


かと言って、このまま軍に入れって言われて、ハイそーですかと入る気は全く無い。平行線に終わる話しなら、さっさと切り上げて終わらせる方がお互いのためだ。無駄な会議ほど時間の無駄遣いは無い。


「あのさぁ、いきなり軍に入れとか、家来にならないか?とか言われてなる奴なんているか?俺は食うに困ってる訳じゃないんだぞ?」


「それはそうだ、だから事情の説明を」


「すると、聞いておいてってなるだろ?だからこの話しは聞かなかった事にしよう、冷たいようだが、自立出来ない国なんて他国に侵略されても仕方ない」


「御堂の言う通りだな、民を守れない国家など必要ない」


「殿下・・・」


「しかし、私は負ける等とは一言も言ってないぞ?必ず勝利してみせる。ただ、兵が足りないのと指揮官が足りないのも事実だ。手駒が足りんのだ・・・」


「フゥ・・・内乱と他国の侵略、どっちが先だよ」


「同時だ、だから手が足りない」


「つまり、貴族の中に外国と繋がってる奴がいるんだな?」


「その通りだ。察しが良くて助かる」


「・・・裏切るって明確な証拠はあるのか?」


「ある、だがその者が裏切ったとして、内外で同時に事を起こされては困るからな。糾弾も出来ない状況だ」


「手っ取り早く、始末しちまったらどうだ?」


「それは暗殺と云う意味でか?私は暗殺などと云う後ろ暗いやり方は好まぬのでな」


「暗殺が最良だとは言わないが、全ての問題を軍を動かして片付けてたらキリがないだろう?どうしてこうなった?アンタは頭が悪いようには見えないし、そんなにこの国の連中って使えない奴等ばかりなのか?」


「軍部に問題は無い、内政官や外交官は役立たずだな。この国は国土は狭いが豊かだ。だから汚職が目に見えて露見し辛い。そして、陛下は男子に恵まれなかった。それが一番の原因だな」


跡継ぎに男子が居ないのは、国が滅ぶ最大の原因の一つだろうな・・・豊臣家もそれで滅んだと言っても過言じゃないからな。秀頼は遅くに生まれ過ぎた。本当の子かどうかも分からないしな。


「皇帝陛下が高齢なのを良い事に、皇帝にしてやるとでもそそのかされたのだろう、傀儡にされるとも思わん馬鹿共だ」


「内部の敵は大勢力なのか?」


「それ程でもない、そこまで力があるなら正面切って陛下や我々に弓を引けば良いだろう。それが出来ないから他国の力を借りようとするのだ」


「はぁ・・・内乱に他国の手を借りるのは下策中の下策だ。戦後に内政干渉されまくって、下手をすれば、そのまま軍を駐留されて国を乗っ取られる。姫さんの言う通り良くて傀儡だな。それが理解出来ない馬鹿が相手か、疲れるな」


「御堂・・・貴様、軍事に明るいのか?よく分かっているではないか」


「まさか、軍属になった事はないし、軍事の事なんてサッパリ分からんよ。歴史で知っているだけだ、読書が趣味だからな」


「貴様は貴族の出身か?読書が趣味の民草など聞いた事が無い」


「・・・俺は一般人中の一般人だ。読書が趣味の奴が珍しいか?そんな奴は腐る程いる」


・・・俺の世界ではな。


「この国の内政官や外交官達が役立たずなのは、国が豊かな証拠だ。貧しければ横領などは、すぐに露呈する」


「あの・・・こんな事を聞くのはアレなんだが、皇帝って駄目な奴か?本当のところを教えて欲しい」


「自分の父だから云う訳ではないが、皇帝陛下は英桀だ。だが歳には勝てない」


「今も頭はハッキリしてる?」


「当然だ。だが、お身体の具合は良いとは言えない」


「ならもう、親父さんを説得して内側の敵を叩けよ?皇帝の勅命とかなら迅速に軍を動かせるだろう?それしかないぞ、速攻で内側の敵を叩き潰す。内と外を同時に相手にするのは無理だ」


「先祖が国の功労者であることを陛下は気にされているようだ。しかし、お前の言う通りだな、道はそれしかない、私も何度も陛下に具申している」


「いっそ、魔術で親父さんを操っちゃ駄目か?」


「無茶を言うな・・・」

「御堂・・・君って男は・・・」


「そうか?俺ならやるけどな・・・別に国を乗っ取ろうとかする訳じゃなし、実の娘がやるならそれで良いと思うんだが・・・あの、この国の後継者って姫さん?」


「そうだ、私が女帝になるだろう」


「ならもうやっちまえよ!術士が居ないとか言わないよな?ああ、アンタ術使えるんだったよな。やっておしまい・・・」


二人:「・・・・・・・・・・・・」


ああもう、ウダウダ言っても仕方ないだろうに・・・王族だの貴族だののしがらみは本当に・・・


「あ・・・」


「ん?どうした?」


いや・・・これは、流石に無茶だよな・・・


「・・・敵の軍勢の数は?」


「4~5千と言ったところだろう」


「おい・・・たったそれだけなのか?そんなの楽勝だろう、姫さんが陣頭に立って攻め立てたら、あっという間に片付くだろ。アンタ一人でいきなり100人以上殺せる。


それを見た敵兵達は一目散に逃げるだろう、戦争なんて勢いだ、敵軍を切り崩せる強者が先陣切って戦った場合、簡単に押しきれる。


姫さんと拮抗出来るだけの遣い手が敵にいない場合はな。城攻めの場合は少し変わってくるが、姫さんなら城門なんて楽勝でぶち壊せるだろ」


「なあ、貴様、本当に素人か?それが戦さの経験がない庶民の意見だとは私には思えないのだが・・・」


「本で読んだと言ってるだろう、戦力がどうので悩んでるって事じゃないな?実際のところ、皇帝が命令してくれないのが問題なんじゃないのか?」


「・・・・・・」


「それ、仮に俺が軍に入るとか手を貸すとかなったとしても、どうにかなる問題じゃないだろ・・・皇帝が命令しない限り、勝手に軍は動かせない、そうゆう事だろ?」


「私が居ない間の宮殿内部が問題なのだよ、もし陛下が人質にでも取られてみろ。一巻の終わりだ」


あ・・・そうか、それは俺も全く考えてなかったわ。いきなり王手されたらどうにもならんわな。


「宮廷内に存在する密偵の数は私にも把握出来ていない、誰が味方で誰か敵か、正確に把握出来ないのが現状だ。ましてや暗殺者の類が相手となれば・・・」


「じゃあ、アンタが居ない間の皇帝の身辺が問題ないとしたら?」


「瞬く間に逆賊共を討伐してみせる」


「・・・言ったな?なら決まりだ。俺に依頼を出せ、冒険者として皇帝の警護を依頼してみせろ。アンタが帰るまで、必ず守り通してみせる」


ニヤリ・・・二人が笑った。しまった!?ハメられた?言っちまった!


「その言葉、しかと聞いた!御堂龍摩よ、皇女ナスターシャ、レム・アドリアヌスの名において、貴様を雇おう!」


やっちまった・・・俺はその場にガックリと膝を突いた。



「・・・やっちまったなぁ~・・・やっちまったなぁ~・・・俺って奴ぁよぉ・・・」


俺は酒場で飲んだくれていた。飲まずにはいられなかった・・・


「どうして俺って奴はいつもいつも・・・やっちまったなぁ~・・・」


「お客さん、辛い事があったんですねぇ、どうしました?」


見るに見かねたバーテンが声を掛けてきてくれた。慰めが欲しい訳じゃない・・・今の俺は、打ちひしがれていた。


「ほんっとうに駄目な奴なんだよ・・・俺って奴ぁよぉ・・・」


・・・私は酔い潰れている彼をずっと眺めていた。彼が逃げるかもしれない?そんな杞憂はなかった。彼は引き受けた以上、必ずやる男だと確信している。


今、彼が酔い潰れているのが良い証拠ではないか?逃げるならすぐに逃げる、それが出来ないから彼は苦しんでいるのだ。


私は卑怯な女だ。彼との付き合いはまだ浅いが、御堂龍摩と云う男がどんな人物なのかは理解しているつもりだ。彼は面倒臭がりで面倒見が良い、楽をしたがるのに楽が出来ない、彼はとことんお人良しなのだ。


相談されたり頼られたり、見て見ぬフリが出来ない状況だと彼は必ず見捨てない。私はそんな彼の性格を読んで、今の帝国の危機を乗り切るために姫様に引き合わせたのだ。


彼は私を友人と呼んでくれる、私に彼の友人でいる資格があるのか?気のいい彼の性格につけ込んで、絶対に嫌がっていた国家の重大事に関わらせた私が・・・?彼はそんな私でもきっと許してくれるだろう、騙された自分が悪いと、引き受けたのは自分だと。だが、私は私自身を許せない・・・


「御堂、飲みすぎだぞ?さあ、帰ろう」


「むにゃむにゃ、俺って奴ぁよぉ・・・」


「・・・勘定はここへ置いていく」


私はそうバーテンへ告げて彼を背負った。私を良い香りがすると言ってくれたな、女の子に背負われるのが好きだと・・・君の窮地に、私は必ず駆けつけて、命を掛けて君の重荷を共に背負おう。軍神マーズとカストールの名に掛けて誓う・・・



「皇帝陛下、この者が上級冒険者の御堂龍摩です。これから最大で1週間の間、陛下の御身をお守りする事となります」


「・・・その者はどうしたのだ?しゃがみ込んでいるが・・・」


「・・・二日酔いだそうです。腕は私と互角の戦いが出来る程の者です。ご安心下さい・・・」


俺は朝になって、二日酔いで動けなかった。ミネルバが迎えに来て、また背負われて宮殿へと連れて来られて、皇帝の警護をする事となった。重臣内部で揉めたようだが、姫さんが譲らず、最終的に皇帝のナスターシャに一任するとの鶴の一声で決まったらしい。


「お前と互角だと・・・?この国には、いまだ見ぬツワモノが隠れていたと云う事か」


・・・この世界の住人じゃねーけどな。ベッドに横たわった皇帝を見つめる、この国の皇帝であり、護衛対象となるのだからしっかりと観察しておかないとな。


思ったより温和な顔をしているが、目の奥の眼光はいささかも衰えていない。なにより王者の風格がある、英桀だって姫さんの話しは信じていいかもな。


「・・・御堂龍摩だ。これから護衛を勤める。あんま手を掛けさせるなよ。爺さん!」


・・・周囲の空気が静まり返る。いいさ、俺は静けさを好む男だし、もう慣れた。


「フフフ・・・面白い男だな。おい小僧、貴様こそ余をしっかりと守れよ?給料出さんぞ」


お?良い返しだ。ちょっと気に入ったぞ。


「抜かせ、老い先短いんだから、死にたくなかったら俺の指示に従えよ?皇帝だろうと、俺の指示に従わなかった場合、守りきれるか保証しないからな」


「皇帝陛下、この男は三ヶ月で最下級から上級冒険者に登り詰めた男であり、我が友です。カストールの名に誓って、この男の腕は保証致します」


「ミネルバか・・・お主がそう言うのであれば間違いないだろうな。分かった、任せよう」


周囲が俺の口の聞き方に静まり返っている最中、ミネルバは意にも介せず俺の擁護をした。流石は友達だな!


「ミネルバ、率いる兵が少なすぎないか?それっぽっちじゃ・・・」


率いるのは近衛隊の1000だけだ。幾らなんでもこれじゃ・・・


「現地でマリーナと合流する。それに敵が多ければ篭城される可能性があるし、行軍速度も遅れる。これは賭けだが、私が必ず勝つから安心しろ」


「ああ、マリーナが来るのか、アイツなら間違いない」


「ほぅ・・・流石は婚約者だな。マリーナに全幅の信頼を置いている訳か」


「ちっげーよ!誰が婚約者だ!ウブな付き合いって事になってんだよ!付き合ってすらいねえ!」


「・・・ナスターシャ、抜かるでないぞ」


「ハッ!」


こうして、ナスターシャ一行は討伐軍として出掛けて行った。目的地を俺は聞いていない、情報が漏れないように、皇帝、ミネルバ、マリーナ以外に誰にも話していないとの事だ。


「・・・さて、俺は一週間、この椅子に座ってればいい訳だが・・・狙われると思う?」


「当然だろう、ここで動かなければ奴等は破滅なのだぞ?」


そりゃそうだ。この国の皇帝なんだし、その言葉に信憑性は高い。


「・・・俺のクランとPTの仲間には今回の事は報せていないんだ。だから一人で守る事になる」


「フン、ナスターシャと互角の腕なのだろう?ならば問題は無い」


「・・・多くの兵が、この宮殿を襲う可能性は?」


「300程度の兵が急襲して来る可能性は皆無ではないだろうが、ナスターシャと戦える戦士なら問題なかろう」


「おかしいだろ?何故、皇帝を襲える連中がこの国にいるんだ?そんな簡単に皇帝や王様を狙える国ってあるのか?」


「フン、小僧は余計な詮索をせずに余を守れ」


「言われなくとも・・・なあ、食事は大丈夫なのか?毒殺による暗殺が一番怖い」


「それは安心して良い、余の前に出される前に貴様に食わせる」


「くたばれジジイ」


翌日・・・


「・・・おいジジイ、それ待っただ」


「しょうがないのぅ・・・お主、何度目の待ったじゃ?」


「そんな事言うなら、もう相手してやらねーぞ!」


俺達はショギーと云う盤上ゲームをやっていた。ルールは将棋と同じだった。俺はずっと読書してりゃいいが、暇そうにしていた皇帝に、何か盤上ゲームでもやるか?教えてくれりゃやるぞ。と声を掛けたら、このショギーに誘われた。


「クッ・・・元の世界にいた時から将棋とか囲碁は苦手だったんだよ・・・」


「元の世界?」


「気にするな。魔術的な脳内世界の事だ」


俺は、召喚者である事を喋ってしまった時には、魔術的なせいにしていた。大抵の奴は魔術に理解はないから、魔術と云われれば納得するしかない。


「お主は剣だけでなく魔術も使うのか?」


「・・・ずっとここで魔道書読んでただろ?気付かなかったか?」


「素人が見ても魔術書かそうでないか等分からんよ」


ほらな?魔術に関して一般人は全く知識が無い。


「・・・お主、本当に多芸じゃな、軍に仕官したらどうだ?」


「誘われたけど断った。俺は自由な生活が好きだから冒険者が性に合ってる。宮仕えは俺には無理だ」


「ふむ、惜しいのぅ、ナスターシャと戦える者など、大陸中探してもいるかどうか・・出世など思いのままだろうに」


「金には困ってないし、地位や名誉には興味が無い。軍人やったら今より収入下がるまであるからな」


「その通りかもしれんな。実力のある者にとって、他者や国に仕えるなど論外かもしれん」


「話しが分かるじゃないか、流石は皇帝だ。皇帝って楽しいか?」


「・・・儂が楽しそうに見えるか?」


「若い頃と今を一緒にするなよ・・・もう先がない奴はどんだけ地位や金があっても楽しくないだろ」


「そうだな、若い頃は野心に燃えて楽しかったぞ、そしてそれを世継ぎに託すと云う夢もあった・・・」


「女しか生まれなかったんだろ?別に男が生まれなくたって構わんだろ、姫さんは強く有能だ。それに、女の子の方が見た目も可愛い」


俺は刀を抜いて立ち上がった。窓から侵入して来ようとした暗殺者の首を刎ね飛ばす。死体が中庭に落ちて大騒ぎになるが、捨てておけ!と声を掛けると、既に慣れてきていた家臣達が頭を下げる。


「・・・これで何人目だ?」


「5人だな、みんなチームではなく単発で狙って来る。アホなんじゃないか?」


ちなみに、窓からの侵入は三度目なので、窓は一つを開けっ放しにしてる。毎回、窓を破られたんじゃ敵わない。


「・・・意図的に警備の配置が漏れてる。この件を乗り切ったら手を打った方がいいぞ?それに、そろそろ本格的に敵は動く。これまでのは様子見だ」


「ほぅ、分かるか小僧」


「当然だろ、仮にも皇帝の寝室へこんなに侵入出来る訳が無い。その割りに暗殺者の腕は良くない、弱くはないが一流とは言えないな。簡単に気配が察知されるような暗殺者を使ってるのは、本命から目を逸らすつもりだろう」


「遠くから強力な魔法一発ぶち込まれるのも厄介だな。ファイアーボールぶち込まれたら、俺ごと焼け死ぬわ」


「それは可能なのか?」


「可能だ。不可視の術で庭まで侵入して、魔法が届く範囲まで来たらぶっ放す。昨日から来てる暗殺者達も不可視の術を使ってここまで来てるんだろう、二つの術を同時に使える程の腕がないから、ここまでよじ登って来てるんだ」


だから、警備の配置が漏れてるんだよ・・・

だが、俺はこの二日で、これがわざと敵を炙り出す罠だと気付いてきた。誰が敵か味方か分からない現状で、わざと隙を作って誰が敵かを見極める。


それは姫さんの策じゃないだろう、父であり皇帝を危険に晒す事など姫さんであってもやれる訳が無い、だとすると、この作戦の立案者は皇帝自身だ。


「・・・本当に、ちゃんと一掃しろよ?情けを掛けたり逃がしたりしたら寝首を掻かれる」


「・・・黙っておけ小僧、もう待ったしてやらんぞ?」


「汚ねーぞジジイ!今手を考えてるから口閉じてろ!」



「敵兵は一人も逃がすな!全て帝国への反逆者だ!」


ナスターシャは馬に乗って駆ける!群がる敵陣を切り裂いて、逃げ惑う敵を蹂躙してゆく、本来なら帝国軍の味方であるはずが、敵国へ寝返った愚か者共が!唾棄すべき腐敗の温床、全てを抹殺する!


「どうゆう事だ!何故、計画がバレた!?いや、何故あの女が我が城に突然、攻め入ってくるのだ?そんな情報は無かったはずだ!」


「落ち着いてください公爵様!敵はたかだか三千です、こちらは3倍以上の一万の兵を擁しているのです。それに味方の援軍も到着するとの事です!」


援軍だと?馬鹿な!間に合うものか!あの女が戦場に出た以上、敵兵の数等問題ではない、せめて3万の兵でなければ太刀打ち等出来ようはずもない!


しかも、援軍に向かったと云う貴族共がこの事態を知れば、私を餌にして皇帝を討ち取り、自分の手柄にして他国へ売り込むか、下手をすれば自身が皇帝を名乗る腹積もりではないか・・・


こちらの動きが読まれていたとしても、まさかナスターシャ自身がこれ程に早く動くとは計算外だった。ナスターシャの強さは既に人の域ではない、だからこそ奴が女帝になるなど許せなかったのだ。あのような化け物が・・・


男子であれば英雄と呼ばれよう、この乱世を収める事が出来たのかもしれん。しかし、皇帝の子供は女しか産まれなかった。


女に何が出来る?かつて幻影の姫将軍と云われたアルジェーナ姫ですら、悪戯に戦果と領土を広げた挙句、あっけなく病死したのだ・・・女とは浅はかな生き物だ。そんな者がこの帝国を率いたところで先は無い!


「姫様!お一人で前に出過ぎです!兵達が付いて来れません!」


「構うなミネルバ!兵の指揮はマリーナに任せよ!私と精鋭の100が付いてくれば良い!」


ナスターシャは敵の兵力を過小評価していた。御堂に精々が5千と言ったが、まさか倍の兵力を擁しているとはな。


だが構わん、それだけこの帝国の膿が大きかったと云うだけだ。この機を逃さずにゴルドー公爵を討ち、次々と帝国に巣食う害虫を退治する。時間は無い、あと三つの城を陥落させて、大鼠達の首を刎ねるつもりだった。


「姫様、味方の増援です!旗印はグリフォン、ニルベルヌ辺境伯率いる六千との事!」


でかしたマリーナ!辺境伯を動かしていたか!


「よし!我に続け!城門を突破して一気にゴルドーの首を刎ねる!」


「クラーク将軍、わらわは戦の事は分からぬ。全て貴方に任せるわ。姫様の軍を支援して敵兵を蹂躙しなさい」


「心得ましたカトリーヌ様!全軍、敵軍の横合いから突っ込む!我に続け!」


・・・この戦いの決着がつくまでに1時間とかからなかった。城門にはゴルドー公爵の首が掲げられ、次の戦場であるヨーム伯爵領まで、小休止を取り、すぐに行軍を開始した・・・


「ワーッハッハッハ!飲め飲め!儂の奢りじゃ!」


「きゃあ!おじ様素敵!」


俺は皇帝を連れて、ちょっと大人の酒場へ着ていた。いわゆるキャバクラだ。何故、こうなったかと言うと、宮殿で寝ている爺さんと二人で居るのがつまらなくなったからだ。


ジジイのベッドには風魔法で作った幻影を置いて、椅子にも座っている俺が写し出されている。まあ、気付かれないだろう。


「おいジジイ!元気過ぎるだろ!?お前、ホントに病人か?」


「細かい事を気にするでないわ!見てみい、そちらの娘の乳なぞドレスから零れそうだぞ?」


「おお、確かに・・・巨乳好きなのか?俺は少し大きいくらいが好みだな」


「全ての乳は愛されるべきだ」


「まさにその通りだな」


「おじ様ってどこかで見た気がするのよねぇ、どこだったかしら?」


「以前はあちこち飲み歩いていたのでな、その時に尻でも触ったか?」


「もーおじ様のえっち!」


俺達はその後、延長して三時間飲んでいた。


「このラーメン美味いな。よくこんな屋台知ってたな」


「この帝国で儂の知らん事などないわ。おい、胡椒取ってくれ」


「次からもまた来よう、飲んだ後のラーメン程、美味い物はない」


「寒くないか?倒れられたら困る」


「老いぼれ扱いするな。まだまだ飲めるぞ」


俺は屋台に風の結界を掛けた。


「・・・動くなよ、本命のご到着だ」


ジイさんは身じろぎもせずにラーメンを啜っている。流石はこの国の帝王だ。良い度胸してやがる。


暗がりから現れたソイツは、まるで黒いボロ雑巾だ。ボロボロの漆黒のローブを纏ってこちらに近付いて来る。俺は刀を抜いて、無造作に歩き出した。


「お前で打ち止めか?雑魚ばかりで飽きていた所だ。ラーメンが伸びる前に片付ける」


俺は言葉と同時にこちらから仕掛けた。今までの奴とは格が違う、コイツは相当な手錬だ。気配は感じなかったが、目の前にいるのに、まるで幽霊のように存在感が希薄だ。


敵の首に刀を横なぎに斬撃を繰り出すが、敵はそれを寸前で引いてかわすと同時に口から何か尖った物を繰り出して俺の目を狙う。こちらも寸前でかわして、距離を取る。


「バインド!・・・何っ!?」


俺は拘束の術を掛けるが、ソイツは身体がまるで液体化したように地面に溶け出して拘束を抜けた。そしてスライムのようにこちらへと向かってくる!


「アース・プラズマ!」


地面に雷撃を流す術だ。これは普通は広範囲に渡る術だが、無詠唱であるために効果範囲は狭いが、今はそれで充分だ。


黒いボロ雑巾は飛び跳ねて俺に向かって来る。そう来るのは分かってんだよ!俺は唐竹割りにソイツを斬り捨てた・・・はずだったが手ごたえがまるでない・・・そうか!


俺は周囲の気配を必死に探る。何処だ?・・・あそこか!

俺は全速力で右斜め後方の木を切り飛ばすと同時に、現れた人影を両断した。


「・・・本体が別で、アレを操っていたとはな。道理で人間離れした動きをするはずだ。抜かったな、幾らなんでも人間離れし過ぎだ」


俺は斬った男に背を向けて、ボロ雑巾へと歩き出すと、地面に落ちているボロ雑巾をめくってみた。ゴキブリの子供のような大きさの虫だらけだった。なるほど、道理で刀で斬れない訳だ。


「・・・終わったか?」


「ああ、手強かった」


「そうか・・・小僧、お主、腹に何か刺さっておるぞ」


「ああ、さっき正面から斬った時に、置き土産を貰った。問題ない、この程度の傷なら魔力で塞げる。毒があるようだが、解毒の術を使った」


「さっさと食って帰るぞ、もう刺客は無いと思う、姫さん達も頑張ってるだろうしな。雇い主が死んだ場合、契約は無効になるはずだからな」



「陛下、ただ今戻りました。ゴルドー公爵以下、それに加担する貴族達を悉く殲滅致しました」


「おい!貴様、それは待ったじゃ!儂は散々、待ったしてやっただろう!」


「知らん、初心者の俺にもう待ったか?皇帝ともあろう御方がみっともないですね?・・・プププ」


「ぐぬぬ・・・調子に乗りおって若造が・・・これは何かの間違いだ!」


「仕方ないなぁ、今回だけ待ったしてやるから、よーく手を考えるんだよ?お爺ちゃん(笑)」


「クッ・・・勝ち誇るのはまだ早いわ!」


「あの・・・陛下」


「しばし、待て!」


遠征から戻ったばかりのナスターシャ一行は、その後30分間、立ったまま待たされたのであった。


「それで、終わったのだな?」


「はい、逃げた敵兵はいますが、残党狩りをさせています」


「他国には一兵たりとも逃がすでないぞ?」


「心得ております、それより陛下、随分とお顔の色が宜しいように見受けらせますが・・・」


「フン・・・今更気付いたのか?遅いっつーの。この爺さん、くたばりそうなフリしてたんだよ」


「・・・な!?」


その場の全員が固まった。あーあ、全く・・・


「姫さんが後事を託すに足るかどうか見てたんだろ?後、自分が指し図しなくても全ては姫さんがやってのけた仕事だ。後々の功績になる。これで、誰も姫さんには逆らえない」


「アンタが薬飲んでた薬、あれに細工してたんだろ?」


「フン、ナスターシャもまだまだよな、一週間、一緒に居ただけの小僧が見抜けた事を、こやつらは見抜けなんだわ」


「仕方ないだろ、アンタが歳だってのは事実だしな。これで俺はお役御免だな。依頼終了でいいか?」


皇帝と俺のやりとりを聞いた姫さんは、まだ呆然としていた。おーい、現実に帰ってこーい。


「今回の騒動で、相当な領地に空白地が出来ただろう、ナスターシャ、この小僧に爵位と領地を与える。異論はあるまいな?」


「はい、御座いません」


「異議アリ!俺は国に仕える気はない!」


「誰が国に仕えろと言った、領地と爵位を与えるだけじゃ、領地から得られる税収は取るが、それ以外は好きにすれば良い」


え?マジで・・・?それはちょっと美味しい・・・


「いやちょっと待て、領地を与えれば、俺がこの国から出られなくなるとか考えてるだろ?」


「ほぅ、貴様も少しは宮廷の謀略と云う物を理解してきたか?だが、安心せよ、嫌になれば領地など捨てて、この国を去れば良いだけだ」


「御堂、これはありがたくお受けするべきだ。皇帝陛下のご厚意に裏は・・・多少はあるかもしれないが、領地と爵位は国に莫大な功績を挙げた者の栄誉だ。


君は地位や名誉に無関心だが、領地はどれだけ金があろうと手には入らないんだ」


「・・・俺には城があるんだが」


「ああ、貴様の城は辺境伯が貰うと言っていたぞ。その城は辺境伯の城より大きいそうだな?欲しがっていたぞ?」


ちょーーーーーーーーーーっ!!!あのチンチクリン、勝手に人の城を乗っ取る気だったのかよ!」


「おい!あのチンチクリンに俺の城を?ふざけんな!話しを煮詰めるぞ!俺の仲間を帝都へ呼ぶ!」


ったく・・・国ってやつは何処も理不尽な事しやがって・・・俺は天を仰いだ


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