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6 私たちは仲間かも?

「って、アタシばっかり話しちゃってるけど大丈夫? ごめんね」

「大丈夫です。ちゃんと答える隙ありますし」

「いやいや、それは無いと困るでしょ」


 シノは笑うが、そうでもない人は意外と多い。さっきからちゃんと会話はキャッチボールになっている。当たり前のことのように思うかもしれないが、合わない人とはそれすら無理なときがある。


「大丈夫ならよかったわ。西原さんに聞いたんだけど、あなたも親を黙らせたいんでしょ」

「それはもう」

「アタシもなのよ」


 シノがため息を吐く。

 それは紗奈子も西原から聞いていた。同じような状況だから、意気投合しやすいのではないかという話もしていた。


「本当、困るわよね」

「ご両親はシノさんがあの、なんというか、こういう方だって知ってるんですか?」


 さすがにそこまでは西原には聞いていない。どう聞いていいかわからなくて遠回しな言い方になってしまう。

 けれど、シノは気にしていないようであっけらかんと答えた。


「うすうすはってところかしら。気に入らないみたいだけど。で、結婚して一人前の男になれとか言う訳よ。そんなもんで変わるとか思ってるのよね。でも、あんまりうるさくてね。思い切ってここに登録したって訳よ。普通の結婚なんて絶対無理だけど、契約結婚ならって思ってね」


 本当に紗奈子と似たような感じらしい。写真を見たときには驚いたが、西原が紹介したのも頷ける。


「それならそれで、一回、結婚して離婚するのもいいでしょう? 契約で結婚している相手なんだから、普通の結婚よりもそういうことも切り出しやすいわけだし。こじれることもすくないんじゃないかと思ったのよ。一度結婚したって実績があればそれ以上は言いにくくなると思わない?」

「なるほど。それ、いいですね」

「でしょでしょ!」


 本当に女子のようにシノは声を弾ませる。仕草まできゃぴっとしていて、なんというか見ていて可愛い人だ。

 言われてみれば、一度結婚して離婚するというのはいい手かもしれない。もう結婚に疲れたとか言えば、のらりくらりとかわせそうだ。


「それに、他のことも結構私と合ってるのよね。恋愛感情も無い方がありがたいし。子どもも欲しいとは思わないし。あ、本当にそういう目では見ないから安心してちょうだいね」

「失礼かもしれませんが、やっぱりそういうお相手は男性なんでしょうか?」

「直球ね」


 ふふっとシノが笑う。


「大事よね。結婚する相手となればなおさらよ。ハッキリ聞いてくれた方が楽だわ。うん、そうね。好きになるのは男性かしら。でもねえ」


 そこでシノは一度言葉を切った。何かを言い淀んでいるようだった。


「本田ちゃんはどう? 今は好きな人とか付き合っている人はいるの?」

「あ、そうですよね。シノさんにばかり聞いていてすみません。ええとですね」


 これは言ってしまっていいのだろうか。シノが言葉を濁している理由はなんだろう。

 さっきから、かなり失礼なことを聞いている気はする。しかもその人の根底に係わるようなことを。紗奈子にも話すように促すのは当たり前だ。これでは不公平だ。

 紗奈子は覚悟を決めた。隠していても仕方ない。腹を割って話してしまおう。隠していたってしょうがない。


「私、あんまり恋愛に興味って無いんです。今も相手はいません。これまでに付き合ったことが無いことは無いんですが」

「あら」


 シノが驚いたような声を上げる。紗奈子は俯いた。

 コンプレックスだった。学生時代から、友人達が好きな男の子のことを楽しそうに、恥ずかしそうに話している様子を遠くから眺めていた。


「そのせいか、人の恋愛のこともあまり気にならなくて。だから、契約結婚の相手にもそういうの求めてなくて。恋愛も、私以外の相手と自由にしてくれればいいかなと」


 止まってしまったら続きが言えなくなる気がして、一気に言ってしまった。さっきまでシノにばかり言いにくいことを言わせていた。こちらも言っておくべきだと思った。今まで会った男性にはここまで言っていなかったが、こういう性癖のことを伝えておくのは先を考えると、きっと大事だ。


「わかる。わかるわ!」


 引かれたかと思った。だが、弾んだ声に顔を上げると、きらきらと目を輝かせたシノがいた。


「アタシもそうなのよ。こんな見た目だし、オネエでしょ。人からはよく誰彼構わず手を出すとか、恋に積極的とか思われがちなのよ。でも、違うのよ。アタシ、そういう欲求がすごく薄くて。見た目からは逆に見えちゃうでしょ。それにね、こういう格好をしてるのも全部ね、自分の為なの。自分が好きだからやってるの。人とか恋とか関係ないのよ」


 気付いたら、お互いにがっしりと手を握り合っていた。恋愛のそれでは無く。熱い対戦を終えたスポーツ選手がお互いの健闘を称え合うときのそれに似ていた。

 三十分はあっという間に過ぎてしまった。



* * *



 お見合い直後に答えを出すのは難しい為か、今後のことはお見合いから二日以内に電話で相談所に伝えることになっている。


「篠崎さんとのこと、前向きに検討したいと思うのですが」


 電話の向こうの西原にそう伝えたとき、一瞬驚いているような間があった。仕事の時のような言い回しになってしまって、もう少しいい言い方があったのではないかと反省する。

 もしかして、もうシノから断りの電話があったのだろか。そう思うと、思ったよりショックを受けている自分がいた。

 だから、


『篠崎様からもご連絡を頂いております。本田様とのことを真剣に考えたいと』


 西原の言葉を聞いたときには心底ほっとした。

 話が進んでしまうのが不安でもあった。大きな決断をしなければいけないときはいつもそうだ。

それでも、


「あの、篠原さんに他の方からのお見合いの申し込みってありませんよね。大丈夫ですよね」


 思わず念押ししてしまう。


『それはございません』

「そう、ですか」

『では、この後はご本人同士で連絡を取って頂くということよろしいですね』

「はい、大丈夫です」

『何かあったらすぐにお伝えください。相談にも乗りますし、もしも決まったのであれば契約のお手伝いもさせて頂きますので』


 西原が微笑んでいるのが、電話越しにも伝わってくる声だった。

 必要事項を連絡して電話を切る。

 シノは他にお見合いを申し込んでくる人がいなかったと言っていたが、本当だろうかと疑う。契約結婚の相手として条件は最高だ。それに、性格だっていい。考え方なんて人それぞれなのだから苦手な人もいるかもしれないが、紗奈子には好感が持てる性格だ。


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