美少女の恋人が男なんて誰が言ったの?
※色々修正致しました(2022.11.19)
「八橙 理亜さん、ずっと前から好きでした! ・・・・俺と、付き合ってください!」
そう言って目の前の男子生徒は腰を折り、こちらに握手の手を差し出してくる。
放課後、校舎裏に呼び出され、開口一番に告白の言葉を受ける。
その思い切りのいい言葉に、誠実さが窺える姿勢と態度、私は素直に好感が持てた。
風の噂ではサッカー部のキャプテンを務めているみたいで、女子生徒からはかなり人気が高いと有名らしい。
綺麗に切り揃えられた黒髪に優しさを感じる瞳、鼻が高く一目でわかる程に整ったルックス。
身長は頭一つ分は男子生徒の方が高く、おまけに運動部のエースでありキャプテン。
一重に、モテる要素を大半兼ね備えた男子と言ってもいいだろう。
(女子生徒に人気なのも、頷けるかな)
1分にも満たない時間しか時間を共有してない理亜、こと八橙理亜は黙ってそう結論付ける。
隣の校舎からは一日の授業を終え、これからの放課後の使い方についてクラスメイト達が談笑する声が聴こえてくる。
「ごめんなさい、私好きな人がいるので」
でもいくら見た目や能力、性格がよかろうと答えはいつもと同じ。
理亜は少しだけ申し訳ないと思いつつ、失礼のないよう頭を丁寧に下げ、これで男子生徒が諦めてくれることを祈った。
それなりの回数、同じ回答で返してるのだから学校内で広まってもおかしくない筈、なのにどういう訳か一行に告白の月ペースは衰えない。
(みんな誠実な人だったんだろうか? これまで断った人、全員が他の人に愚痴や噂をしてないのであればありえる話だけど)
半分流れ作業になりつつあるが、努めて申し訳ない気持ちを全面に出す感謝と謝罪。
私は今、上手くやれてるだろうか?
「待って欲しい! その話ならもちろん聞いた。 でもそれは、去年から噂になっていることだしこう言っては失礼かもしれないが――その相手は、叶えるにが難しい相手なんじゃないだろうか? 俺では、駄目ですか?」
「・・・・」
どうやら噂はしっかり流れてるようで、安心――できないかな。
別に好きな人がいるとしっかり公言しているのにも関わらず告白する人が一向に減らない、ちゃんと好きな人、ひいては恋人がいると言うべきなのだろうか。
黙り込む理亜を見て、悩んでいると思ったのだろう。
男子生徒――如月くんは次々と説得の言葉を投げかけてくる。
「八橙さん程の人で進展がないなんて正直考えられないけど、俺では駄目ですか。 絶対大事にするし、俺が八橙さんの理想の彼氏になれるよう、もっと努力するからっ!」
「ごめんなさい、如月くんがどうのって話じゃないの」
「じゃあ、どうして・・・・。 彼氏が面倒くさいとかなら、・・・・友達、からでも」
はっきりとした拒絶の言葉を2度も受け、説得の言葉にも徐々に勢いがなくなっていく。
理亜より遥かに大きく高身長な彼からは哀愁感が漂い、背中が丸まりどこか小さく見えてくる。
彼女が恋人を告白してくる者に言わない理由は幾つかあるが、大きな理由として彼女自身が回りに振り回されるのが嫌だったということがあげられる。
別段、好きな人が特殊な相手というわけではない。
ただちょっと。 世間からの目、ひいては彼女自身の人気さ故からか横槍や野次が飛んでくるのが目に見えているからだ。
多少の労力でいらぬストレスの蓄積を回避できるなら迷わず行うべきだろう。
その分、告白で粘れる口実を与えてしまってるのは誠に不本意だが、なんとかわざと同じ理由を伝えることで噂になってくれるよう願っての戦略でもある。
(これ以上は押し問答ね。 それにこれ以上、大事な人を待たせるわけにもいかない)
幾人も見てきたからわかる、彼は真面目な気持ちで交際を申し込んできている。
それは彼の態度や表情から読み取れる。だから私も答えよう、はっきりと、誠実に、残酷に。
「如月くん、貴方とは付き合えません。 ・・・・ごめんなさい。 それと好きになってくれてありがとう」
「っ、・・・・・・・あぁ。 こちらこそ、ズバッと言ってくれてありがとう、すっきりしたよ。 ・・・・っはは、やっぱり『高嶺の花』だね。 八橙さんに思われる男が羨ましいよ」
いつの間にか夕日が空を紅く染め上げ、白い校舎を緋色に照らして彼女の特徴的な白金色の髪がキラキラと煌めく。
彼の顔は笑っていたが、夕焼けが目元に差込み微かに光を反射していたのが横目に見えた。
「・・・・うん、それじゃあ俺はいくよ。 時間作ってくれて本当にありがとう」
「ええ、こちらこそ」
長身の彼にしては遅い足取りで校門へ向かっていく彼の背中を見て、少しだけ心が痛む理亜だったがそれを振り払うようにして踵を返す。
校舎の窓ガラスに反射して、昇降口に戻る理亜の姿が映し返される。
そのアクアマリンのような瞳は、真っすぐと迷いのない目で行くべき先を見定めていた。
「誰も恋人が男なんて言ってないわよ、如月くん」
校舎裏の呼び出しを終え、1度校舎に戻ると鞄や必要な物を持ち出す。
道中、普段なら絶対にしない廊下を走るという行為をしてしまう程、理亜は焦っていた。
あまり大慌てで走ってしまうと変な憶測を立てられ、面倒な噂を立てられることが経験上考えられた為。
理亜は焦る気持ちを務めて抑え込み、それでも抑えきれない限りなくダッシュに近い競歩で校門までの道のりを歩きぬける。
校舎から校門までの道のりにはまだそれなりに生徒が残っており、駆けてるわけでも大きな音を出してるわけでもないのに、その視線はある一点へと注がれていた。
北欧出身である母親譲りの白金の髪と碧い瞳。
身長は真ん中から数えるより少し後ろであるものの、出る所は出てて引っ込む所はひっこむ抜群のスタイル。
誰もが目を引くその容姿から、男子女子合わせて知名度は断トツの校内1位。
加えて、成績優秀で文武両道、性格は静かであり穏やかながら、勿体ぶる様子も他人を見下すようなこともしないことから、一言で表すなら完璧超人の『高嶺の花』として有名だった。
彼女が視界を通れば無意識に目が追いかけてしまい、告白した男子女子生徒は数知れず。
入学初週には、同級生、上級生、他校生と合計32人から告白を受けるという逸話を残している。
しかし当の本人は視線を集めることに慣れているのか、はたまた焦っているのか。
それらの目や、話す言葉を気にも留めずに目的の場所へと向かっていた。
といっても目的地は校門から少し離れた、十字路であるわけだがそこには既に待ち合わせ相手の姿が見えていた。
明るいベージュ色をしたゆるふわパーマな髪、全体的にシュッとしつつも決して不健康な細さではない女性。
むしろ健康的すぎる程のその魅力的な凹凸はくっきりと夕日に照らされ、影として地面にシルエットを残している。
先程までなんとか、落ち着いた様子を務めていた理亜だったが彼女を視界に収めた瞬間、その錠はいとも容易く弾け飛んだ。
「陽彩!」
思わずその名前が口から飛び出し、今日一番と断言できるほどに大きな声が理亜から発せられた。
周囲には未だ下校中の同校の生徒が居たような気がしたが、理亜にとってはもはやどうでもいい。
自分の名前を呼ばれた彼女は携帯を覗いていた顔を上げ、周囲を見渡し直ぐにこちらと目が合う。
足は無意識に駆けだしており、一直線に彼女の前へとたどり着いた。
「理亜ちゃん、学校おつかれさまぁ」
理亜が猛ダッシュで眼前まで来たことに陽彩はキョトンとした表情をしていたが、直ぐに微笑みを浮かべ労いの言葉と一緒に頭を撫でてくれる。
彼女は理亜と同じ高校生ではなく、近くの大学に通う年上の大学2年生だ。
服装はもちろん、私服で黒色の落ち着いたカーディガンにボリュームがあるようでコンパクトな白のフリルスカート。
肩にはセビアブルーのショルダーバッグをかけており、シンプルでありつつ陽彩の大人びた母性を腐らせることなく生かしたコーデに似合いすぎて思わず感嘆の声が漏れ出した。
「陽彩もお疲れさま、待たせちゃってごめんねっ」
「いいよいいよ、結構時間かかったね~」
(・・・・ん?)
声音は普段と変わらない、耳触りの良い陽彩の声の筈なのに、どこか言い知れぬ恐怖を感じた気がした。
丁寧に優しく頭を撫でられながら、上を見上げる余裕はあった理亜は陽彩の母性に溢れた綺麗な顔を盗み見ようと視線を動かし、心臓が飛び跳ねる。
「――ひっ」
「どうしたの、理亜ちゃん?」
(あれ、もしかして陽彩怒ってる? 見惚れそうになるほど綺麗な顔なのは変わらない、けど・・・・目が笑ってない気がする。 なんか怖いっ!!)
自分の気のせいかもしれない、最愛の人を少しでも待たせてしまったことへの罪悪感からそう見えてしまってるだけかもしれない。
だが、1度そう思うと、もうそうとしか見えなくなってくる理亜。
「あ、その・・・・ちょっと、呼び出され・・・ちゃって」
「呼び出されちゃったら仕方ないよ~、でも、漸く理亜ちゃんに会えた」
頭を撫でていた手はいつのまにか頬へと添えられており、まるで壊れ物を扱うかのように優しくそれでいて愛おしそうに撫でる陽彩。
理亜は無意識に身体が動いてしまい、陽彩が与えてくれる安堵と頬を撫でられる心地よさに、もっともっとという気持ちが溢れ出す。
それをまるで、与えられる心地よさを渇望するかのように、自身から頬や体をぐいぐいと押し付けにいってしまうほどに。
「私も、陽彩に早く会いたかった」
「嬉しい。 けど、理亜ちゃん。 あそこの子達、理亜ちゃんの学校の子達だよね? 大丈夫?」
そう言って陽彩は撫でる手を一度離し、校門の方へと促す。
見れば、校門の辺りに赤色のネクタイをした――ネクタイの色からして2年生の――男子生徒が数人立っており、その視線は間違いなく理亜達へと向けられていた。
『大丈夫?』というのは、(噂になっちゃうかもだけど)大丈夫という意味だろう。
全然大丈夫じゃない、明日登校したらまた質問攻めされそう。
気づけば男子生徒達だけじゃない、目に入る生徒の大半がこちらに目線を送っており、内容はわからないが間違いなく理亜達に関することで何かを話しているように見える。
ここで漸く、自分が少し暴走していたことを自覚した。
「陽彩、後でなんでもするから、お願い、一度ここから離れましょ」
陽彩の手を引く形で歩き出し、しっかりと付いてくる足取りを感じながら、急いで離れようとする理亜。
走り出した時、向かい風に耳を覆われ聞き取りづらいということもあったが、聞き逃せない言葉が後方から聞こえた気がした。
「なんでもする、ふふ、言質取っちゃった。 男子生徒に告白されて、大事な恋人を待たせる悪い理亜ちゃんは何をされても抵抗しちゃダメだからね」
「っ!?」
思わず振り返ってしまう理亜。
そこには、夕焼けに照らされた聖母の様な微笑みを浮かべる陽彩がいた。
(っ、・・・・・なんで知って――あっ)
足を止めた理亜を陽彩が追い越し、そのまま繋いだ手を引かれる。
前を歩く陽彩は移動しながら巧みな指使いで、慣れた手つきで理亜と繋いでる手の持ち方を変えていく。
指と指が絡みつくように繋がれる、いわゆる恋人繋ぎ。
今日一日の疲れが残さず抜けていくような、幸せに満ちた気持ちになってくるが、どこか、もう離せない何かを感じてしまう。
(まぁ、離すつもりも放すこともないだろうけど)
さっきの発言もあり、握る手にはどこか逃がさないような"拘束"の意味も含まれているように感じてしまうのは、きっと理亜の気のせいではないだろう。
そんなことを考えていたら繋いだ手を、少しだけ強い力で引きよせられる。
気づけば学校から少し離れた自然公園に非正規な入場をしており、明らかに道が途絶えてる方向へ陽彩は足を進めていた。
「待って陽彩、そっちは行き止まりよ」
「うん、わかってるよ。 でも、もう―――我慢、できなくなっちゃった」
振り返る陽彩は顔を赤らめ、その視線は理亜に反発の意思を削がせる。
普段大人びている彼女は足を止め、まるでいたずらっ子の様な笑みを浮かべ振り返る。
「理亜ちゃんがモテモテなのは知ってるよ。 でも毎週3人は流石にモテすぎです。 今週なんて、今日の人も合わせれば4人も居るでしょ?」
「さっきも思ったけどなんで・・・・、もしかして、見てた?」
彼女が言ってることは事実で三日前の放課後デートをした時、少し口を滑られてしまったこともあり、もしかしたらそこから導き出したのかもしれない。
正確な人数を把握することは無理でも、複数人居るということは聡い陽彩なら簡単に把握してしまえるだろう。
(でも数をぴったり当てるなんて、今日に関して言えば昼頃に約束を取り付けたばかりで遅れる理由も先生に呼ばれたから、と話していた。 なのに、どうして――)
「ふふ、どうしてって顔してる。 凛とした理亜ちゃんも好きだけど、そういう可愛い顔したリアちゃんも大好き。思わずキスしたくなっちゃう」
陽彩は、吐息がかかってしまう程に顔を近付け、果実のように甘い香りを漂わせてくる。
近すぎる距離に思わず後ずさりしてしまう理亜だったが、まるで連鎖するように更に距離を詰めてくる陽彩。
気づけば背後には壁が聳えていた。
そして、追い込まれた状態から先手を打つように陽彩は理亜の頬に手を添え、ふとももの間に挟ませるように片足を侵入させてくる。
(ままま、待って!待って!!今日の陽彩積極的すぎるわ! 抵抗する気はないけど、・・・・せめて屋内で)
「あぁ、理亜ちゃん可愛い。 普段の皆の前にいる理亜ちゃんも好きだけど、私達の前でだけ見せるその蕩けた表情も大好き。 ほら、陽彩お姉ちゃんに甘えよ?」
ウィスパーボイスとも言える鼓膜の芯へ響く声を耳元で囁かれ、全身にぞくぞくとしたものが走り抜ける。
足腰に力が入らなくなり、壁に背中を預けるようにしてずるずると座り込みそうになるも股下にある支えに引っかかった。
「本当に耳が弱いね。 ふふっ、そんなに良かったんだ。 でも、ごめんね。 ・・・休ませてはあげられないかな」
「ひ・・・陽彩? んっ!」
どういう意味か聞こうとするも恍惚とした表情を浮かべた陽彩に口を塞がれてしまう。
「んっ・・・・ちゅ、はむっ、ちゅっ、ちゅううっ」
「・・・・っはぁ、んむっ、・・・・はぁ、陽彩待っ――」
啄むような優しいキスが次から次へと注がれ、絡めとるような舌の動きから息継ぎが必要になりお互いにどちらからともなく口を微かに放す。
漸く一呼吸できると安心するのもつかの間、その優しい雰囲気からは肉食獣のような雰囲気を感じ取、気づいた時には時既に遅かった。
「ちゅっ、はぁ、はむぅっ、れろっ・・・・んっ、んちゅっ、・・・れろぉっ♪」
「まっ、・・・・んっ、陽彩っ、ちゅぅ・・・・ちゅっ、はむ・・・んっ」
息継ぎをしようと口を放そうとするも、追撃の手を緩めない陽彩。
壁際に追い込まれ頬と腰に手を置かれ、完全に固定されてる状態から身動きが取れず口内だけでも逃がす様に舌を動かすも反ってそれが絡める形となる。
(これ、やばっ、ちょっと本当に、今日の陽彩激しすぎっ)
「理亜ちゃんの舌、柔らかくて小さくて、とっても素敵・・・・んちゅっ、れろぉっ、はぁはぁ、もっともっと・・・・んっ、頂戴」
「はぁはぁ、・・・・んっ、・・・・はぁ、陽彩」
行為に夢中になっていると、陽彩の手は頬からするすると移動していき、いつの間にか理亜の豊満な胸へと伸ばされている。
母親譲りの白金色の髪は陽彩の手の上に被さり、理亜の胸はすっぽりと陽彩の掌に収まる。
「あっ、・・・・はぁ、そこは・・・・」
「んっ、ちゅっ、・・・・はぁ、れろぉ。 はぁはぁ・・・・、理亜ちゃんのおっぱい・・・・大きい」
「陽彩の方が、んっ、はぁ・・・、大きいわ」
「・・・・んっ、はぁ、自分のと好きな人のとじゃ、全然違うよ」
粘膜の接触はしばらく休憩になり、陽彩は理亜の胸をまさぐりつつ腰の手をさり気無く足へと落としていく。
制服越しでありながら、降りていく手の感触を感じ取った理亜は背筋にぞくぞくとしたものが走りビクッと体を飛び跳ねさせる。
体が勝手に反応してしまうことに気恥ずかしさを感じてしまう理亜、バレないで欲しい、そんな小さな願いは容易く覆されることになった。
「ふふっ、気持ちいい? 耳、背中、あとは・・・・おっぱい。 弱点だらけだよ、理亜ちゃん」
「それは陽彩が触るからで、弱点ってわけじゃ――ひゃっ」
途端に胸を揉む力が増す。
内側では激しい動きによって突起が下着に擦れ、思わず変な声が漏れてしまった。
「ほら、私からしたら弱点だよ? 触れば必ず反応してくれるから調教し甲斐あるし、それに何時もは理亜ちゃんに教えてもらってる立場だからちょっと新鮮♪」
「今回はその、告白されたの隠しちゃったから、・・・・その、素直に受けてるだけで」
「モテちゃうのは仕方ないよ~、リアちゃんかっこいいし美人さんだもの。 仕方ないし納得はしてるんだけど、――嫉妬しちゃうんだ」
話し中でも手を止めない陽彩の手が途端にピタリと止まり、心配するような眼差しで理亜を見つめる。
彼女が言ってることは理解できる。
自分じゃどうしようもない分、申し訳なく感じる気持ちもないわけではないけど、・・・・一言いってやりたい。
「陽彩も十分にモテるでしょ。 ねぇ? 京成大学2年連続のミスコンクイーン犀星院 陽彩さん?」
「そっそれは、偶々だよっ。 皆いい人ばかりだし、それに綺麗な子や可愛い子もたくさんいるから今年は――んっ」
さっきまで場を支配していた人物とは思えない程、自信のなさそうな態度に今度は理亜から口を塞ぐ。
(このお姉さんは何を言ってるのだろうか? 大学に迎えにいく度にナンパされてて、挙句の果てにその場で私まで飛び火するものだから、待ち合わせはあの交差点、ということにしたのをもう忘れてしまったのだろうか?)
「ちゅっ、んっ・・・・れろぉっ、ちゅっ・・・・んっ」
「待っ・・・・、んっ、理亜ちゃ・・・・ちゅっ、・・・・はぁ、ふぅ・・・・、っんぅ!」
不意打ちにより一瞬は慌てた陽彩、しかし次第に落ち着きを取り戻し始めたことに理亜はお返しと言わんばかりにその豊かな胸元を揉みしだく。
荒い息の中、呼吸を整えようと、濃厚に絡まり唾液だらけになった口を放す。
二人の口元からはどちらの唾液かもわからないものが、透明のアーチをつくり、互いに視線を交差させ見つめ合っているとそれはやがて地面へと落ちる。
「ちょっ、んっ、理亜ちゃんっ、あっ、・・・・だめぇ、んふっ、はぁ・・・・んっ」
「私のこと、許してくれる?」
「え・・・・あっ、――んっ、・・・・はぁ、わっわか、っ」
「許してくれる?」
「んんっ、・・・・はぁ、わかった! 許す、許します! だから、・・・・止め、んっ」
仕返しとばかりにそのたわわな胸を揉み、倒れ込まないように腰を抱いて、引き寄せた状態で首元に顔を埋め香りを堪能する。
陽彩からお許しの言葉を聞けたので攻撃の手を止め、互いに乱れた息が整うのを抱きしめ合いながら待つことにする。
30分か1時間か。体感それ以上にも感じた快楽の時間。
辺りはすっかり暗くなっており、聴こえてくるのは互いの服が擦れる音と、微かでいて荒々しい息遣いだけ。
「いま、何時かしら」
「はぁ、はぁ・・・・いつもの理亜ちゃんに戻っちゃった。 多分、18時超えたくらいじゃないかな」
「少し冷えてきたし、帰りましょ」
二人は思い出したように空を眺めた。
理亜は遠目に夕焼けを見つけ、真っ暗になる前に気づけてよかったと陽彩に向かって手を差し出す。
「うん、そうだね。 夜道もよろしくお願いします、"緋色の騎士"様?」
「うっ・・・・、コッチだとその役割は熟せないわ。 でもまぁ、陽彩お姉ちゃんならできるんじゃない?」
突然、現実世界ではない仮想世界での異名を呼ばれ、仕返しとばかりに年齢を盾にする理亜。
役者めいた台詞と演技で手を差し出し、互いに信頼と安心、冗談だと理解しながらいたずらっ子の笑みを浮かべる。
手を引き公園の外まで先導する理亜は手に感じる暖かな温もりに口元を緩める。
そして公園の出口が見えてきたところで、顔から笑みを消し足を止めた。
突然止まる恋人の様子に不思議に思った陽彩は「理亜ちゃん?」と口にし、すぐにその意味を理解することになった。
公園の中は入り組んでおり、幾つもの道が交差しているのだが、とある区間においてはそうでもない。
それは出口からある程度の距離まで太い一本道になっており、一定間隔毎に街灯が設置されている通り。
街灯の影からゆっさりと出てくる人影。
猫背な姿勢で通りに現れると明らかにこちらへ体を向け、まるで行くてを阻むようにゆっくりとした足取りで理亜達へと向かってくる。
暗闇の中、街灯の光によって一部が見え隠れし、ボサボサの髪に汚れて乱れた服装が目に映る。
表情は影が落ちて認識はできないが、その視線はこちらを凝視しているというのがビリビリした肌で感じ取れた。
「陽彩・・・・下がって、110番お願い」
「うっうん、わかった。 理亜ちゃん、逃げよう?」
「・・・・ええ」
理亜は視線を男から逸らさず、後ずさりしながら答える。
すると逃げられると思ったのか、突如として男が駆け出した。
「理亜ちゃんっ!!」
「っ、不審者ってことでいいわよねっ」
後ろに下がって携帯を取り出している陽彩ではなく、前に出ている男に比べたら低い理亜目掛けて迫りくる。
今から走っても逃げ切れるかわからない上、リカバリー不可能(陽彩を掴まれるようなこと)になる賭けをするくらいなら、僅かに可能性の高い撃退を選択する理亜。
目前まで迫った男は肩を掴みかかるように両腕を突き出し、力任せに事を進めようとするのがはっきりと見て認識できる。
捕まれる直前に鞄を男の眼前に放りなげ、姿勢を屈めてターンを決める。
白金の髪が宙を舞い、街灯に照らされキラキラと煌めく中、碧い瞳が一点狙いで狙いを定めた。
「ふっ!」
掛け声とともに、遠心力と腰の入った強烈な後ろ回し蹴りが、男の急所へと叩きこまれる。
「っ! ・・・・あがぁっ、ぐぅ」
男は咄嗟に投げられた鞄に気を逸らされ、もろに理亜の蹴りを受けてしまい。
ピタリッと動きを止め、苦しそうな声を漏らし始めると両手を下半身にあて、その場で崩れ落ちる。
そんな光景に、陽彩は携帯を開いた状態で、唖然としながらも乾いた笑いを出す。
「お、おみごと・・・・、やっぱり、コッチでも健在だね」
「本来なら抑え込んだ方がいいんだろうけど・・・・、触りたくないわ」
蹲って押し殺したような声を漏らす男に近づき、躊躇うことなく顔の側面を蹴り飛ばす。
男は数歩分離れた場所で身を投げ差し、苦痛に耐える声や動きが見えなくなったことから気絶したと判断する理亜。
(まだ油断はできないだけど、とりあえずは大丈夫な筈。 陽彩になにもなくて本当によかった)
突然動き出した時に備え、理亜は男から目を離さず陽彩に連絡ができたかの確認をする。
「うん、近くの交番から警察が来てくれるみたい。 直ぐに来れる距離みたいだけど、ここに居るのも危ないだろうし帰ってもらっても大丈夫だって」
「それなら帰るわ。 陽彩を何時までも、こんな夜の公園なんかにいさせるわけにはいかない」
「ふふ、ありがとう。 でも理亜ちゃんもだよ? 怪我とかしてない?本当に大丈夫?」
陽彩は理亜の足元にしゃがみ込み、携帯のライトモードを使いながら入念に足をチェックしだす。
彼女がどれだけ心配してるか、その真剣な眼差しと一つの怪我すら見逃さないとまさぐる手の動きで痛いほど伝わってきた。
「大丈夫、どこも痛めてないわ」
「そうみたい、だね。 よかったぁ。 それと、助けてくれてありがとうね」
怪我が何処にもない事を確認できたのか、立ち上がり暗い視界でもひしひしと伝わってくる満足した笑顔に釣られて、笑みがこぼれる理亜。
「あんまり長居しない方がいいね。 あとは警察の方に任せて、行こう」
「・・・・ええ」
先に陽彩に前を歩かせ、手を引かれながら確認の為、倒れて動かない男に目を向ける。
ピクリとも動かない様子に安心し、季節的に暗くなるのが早くなってきたことに認識を改め、これからは人気のある場所を使おうと心に決めるのだった。
それからは万が一、お互いの知り合いに会ってしまうことも考慮して、なるべくイチャイチャしすぎないように仲の良い友達程度に手を繋ぎ最寄りの駅まで歩いた。
二人は改札口まで来ると人の邪魔にならないよう壁際に寄り、名残惜しそうに手を放す。
「今日は色々あったから寄り道できなかったけど、今度はスイーツとか雑貨店で買い物しようね」
「本当にごめんね。 今度は呼び出されても、陽彩と約束ある日は断るようにするわ。 それと買い物なら、高校生のお小遣いでも行けそうな所でお願い」
「ふふっ、今日助けて貰っちゃったし、今度お礼させて欲しいな」
「お礼なんていいわ。 貴方を助けるのは、当然でしょ」
腕を組みながらもそっぽを向く様子の理亜に、益々微笑みを深めていく陽彩。
だけど、そんな理亜の腕組を優しい手つきで解いていくと、理亜より少しだけ大きな手で2つの小さな手を包み込む。
「理亜ちゃんだって女の子なんだよ? 理亜ちゃんが強いことはよく知ってるけど、自分のことも私と同様に・・・・ううん、それ以上に大事にして欲しいかな」
「・・・・・」
真剣な眼差しで心から心配してるとわかるからこそ、軽い言葉で流していいとは思えず返事に躊躇う。
しかし、そんな彼女の様子をまるで見透かしたように、ただでさえ近い顔の距離が更に近くへと寄せられる。
「駄目・・・・? 私が大切に思ってる『八橙理亜』という一人の女の子を大事にして欲しい。 お願い」
身長は陽彩の方が高い筈なのに、前のめりになってるおかげで理亜からは上目遣いに見えてしまう。
黒曜石のように綺麗な黒い瞳が真っすぐに向けられ、両腕に挟まれて寄せられた豊かな胸元が強調される形となって思わず目を逸らす理亜。
「わ、わかったわ! 気を付けるからっ、その・・・・近いわ」
「あっ・・・・うん、気を付けてね」
気づけば、改札口には会社員や主婦、学生のような幅広い層で溢れており、読モに載っていてもおかしくない美人二人のやりとりに酷く注目を集めていた。
一人ですら目を引く容姿の絶世の美女が二人、それも抱くような距離で真剣な話をしてるのだ。
何事だ、と注目されるのも必然だろう。
本来であればそういったことは日常茶飯事なことから、理亜辺りはいち早く気づいただろうが今回は彼女自身一杯一杯で他に気を割く余裕がなかった。
「あ・・・あはは、注目浴びちゃってるね」
「知ってる人に会うと面倒だし。 名残惜しいけど、解散しましょう」
「うん、そうだね。 それじゃあ、名残惜しいけど・・・・また」
「ええ、また"今夜"ね」
理亜の家は駅の反対口から出た徒歩10分程歩いた場所にあり、交通機関は使わない。
陽彩は駅から5駅先が最寄駅の為、改札口で別れるのがいつもの流れとなっている。
両手を包み込むように触れていた二人の手。
どちらも離れがたいと中々離れず、やがてどちらからともなく、まるでリボンが解けていくようゆっくりと解けていく。
理亜は手が離れていくと陽彩の後頭部に手を添え、耳元に顔を近づける。
「愛してるわ、陽彩。 気を付けて」
咄嗟に湧き上がった感情を表しただけだったが、顔を放せば驚いた表情で見つめてくる陽彩に悪戯が成功したように厭らしい笑みを浮かべる。
少しの時間、放心したように反応がなかった彼女だったが途端に吹き出した。
「ぷっ、あははっ、まるで今生の別れみたいだよ? うん・・・でもありがとう」
海外育ちでもあった彼女からしてみれば感情のままに行動しただけなのだが、思い返してみれば確かに映画のワンシーンのような展開だ。
そう思い、可笑しそうに笑い、それでいて幸せそうな顔をする彼女を見つめていると今度は彼女から顔を近づけてきた。
「私もだよ、理亜ちゃん。 大好き♪ またね」
肩まで上げた手を控え目に小さく振るった陽彩が改札口を抜けていく。
やがて、遠くなっていく後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、理亜も踵を返す。
彼女を眺めている間、美女が一人減ったとはいえ注目は未だに残っており、その中からは声をかけてきそうな雰囲気を感じたというのもあって理亜は速足で帰路につくことにしたのだった。
翌日。
いつものように始業のチャイムが鳴る15分前に校門を通り抜ける理亜。
通学路や校門、下駄箱までの道中。
視線を集めるのはいつもの事であった為、特に気にせず歩いていたがここまで露骨だと気にしないというのは難しい。
目が合ったり、理亜の姿を見た生徒は、チラチラと盗み見るようにこちらを盗み見ては一緒に登校する友達などにコソコソと何かを話すよう耳元まで顔を近づけている。
そして何かを聞いた生徒は驚いた様子で露骨に2度見してくるのだから、彼女の勘違いや痛い自意識過剰ということはないだろう。
(私、なにかしたかしら? 昨日とは少し違う、うーん・・・・陽彩のこと? 待ち合わせの時のこと?それとも公園でのこと? あぁ、改札口の可能性もあるわね)
今更になって陽彩とのことはどれ一つとっても話題にされることだと再認識する。
「おい、その話まじかよ」
「まじまじ、昨日、山本から電話来たし」
「八橙さん・・・・、本当なの?」
「八橙さんならありえる・・・・え、これ本人に聞いていいの?」
「見たんだってっ、あれは間違いなく八橙さんだったって」
「・・・・うっそぉ、それはヤバすぎる」
行儀が悪い事は百も承知、本来であれば気にしない話だが陽彩が絡んでいるのであれば、聞き逃すという選択肢はない。
自分の教室に向かう途中、そう広くない廊下でも同じ状況になり、聞き耳を立てながら平然を装い教室まで歩いていく。
やがて教室に到着し、扉を開けようと取手に手を伸ばすと、そのより先に自動で扉が開き、開けた男子生徒と目が合った。
同じクラスの木下くんだった。
教室では中心男子グループに所属しており、空気が読めて場の雰囲気を上手くコントロールできるクラスでの中心人物の一人。
彼もまさか、扉を開けた先に理亜が立って居ると思ってなかったようで、固まった表情でその視線を理亜へと向けていたが、困った態度を見せる彼女に慌てて様子で過剰なまでの動きで端にずれる。
「八橙さん!? ごっごめん! どうぞどうぞ! それと、おはよう」
「ありがとう、木下君もおはよう」
道を譲って貰った為、そそくさと教室に入ることにする。
すると微かに教室の賑やかさに、静寂が訪れた気がした。
いつのものことでありながら、間違いなくいつも以上に多くの視線に晒され、若干の居心地の悪さを感じつつ窓際の自分の席へ向かう。
心境では疑問が尽きなかったが、彼女は成績優秀者であり、真面目な一生徒でもある理亜は1限目に必要な教材を習慣として机の上へと用意していく。
その間も教室内では通学路や廊下ほど露骨ではないが、何かと囁く声が所々から聴こえてきた為、仕方なく窓の外を眺めていると視界の端に一人の友人が目に入った。
「おっはよう!!! 理亜、聞いたよ!!」
「おはよう、聖華。 聞いたって、何をかしら?」
朝から元気溌剌な彼女、聖華は家が近く小学校低学年から関係が続いている腐れ縁、いわゆる幼馴染だ。
そんな彼女はなんとも含んだ笑みを浮かべながら、まるで面白おかしく理亜の背中をポンポンと叩いて顔を寄せてくる。
「もう勿体ぶっちゃって。 今度は如月くんから告られたんだって?」
「・・・・あ」
そういえば彼からも告白されていたのだった。
思い返せば理亜本人からしてみれば色々あった日だった為、古い記憶はすぐに思い出す事ができなかった・・・・ということにしておこう。
「え、なに、もしかして・・・・忘れてたの? あの如月くんからの告白を!!?」
まるで、ありえない物を見るかのような驚愕な表情を作って、大げさに仰け反る聖華。
そして興奮した彼女の声は思いのほか大きく広がってしまい、瞬時にクラス全体へ響き渡った。
(・・・・あぁあ。 聖華は昔からオーバーリアクションだったから、ある程度そんな気はしてたけど。 でも、陽彩の事で噂になってたんじゃなくて良かったぁ)
懸念していたこととは別の事に対する噂、概ねクラスメイト達の反応は彼らの解釈と一致してるような納得した反応だった為、肩の力が抜けていく。
だが、それは理亜の早とちり以外の何物でもなかった。
「え、八橙さん如月から告白されたの!?」
一人のクラスメイトを皮切り、続々と話題に触れる者が現れる。
「てか、まだしてなかったんだ。 とっくにフラれてると思ってたわ」
「昨日、すっごい美人なお姉さんと歩いてるの見たよ! 流石の如月くんも、美人さんから八橙さんを取ることはできなかったかぁ」
「なになに、なんの話? なんか2年生間の噂で昨日の夜かな、公園で八橙さんが暴漢撃退した話で盛り上がってたけど。 また告白されたの!?」
「ちょっと待った、どの噂が本当なの?」
「え、全部じゃないの? 八橙さんだよ?」
「え、あ、全部か。 まあ、八橙さんだしな」
教室内で様々な噂話が飛び交い、もはや収拾がつかなくなってきている。
理亜は若干の責める気持ちを込めて、元凶である聖華に半目状態でじっとりと見つめた。
いわゆるジト目というやつだ。
「聖華」
理亜のドスの聞いた若干の責める声に聖華は乾いた笑みを浮かべていたが、途端に何かに引っかかるよう視線を止め、眉をピクリと動かした。
「ん・・・・? でも暴漢だの美人だの、私の発言と関係なくない? ていうか、暴漢ってなに? ん、理亜?」
「・・・・・・」
痛い所を突かれ、今度は理亜が視線を窓の外へと顔を向ける。
彼女やクラスメイトの質問責めを避ける為では決してないが、途端に窓の外を見たくなった理亜は教室内には絶対に顔を向けないよう視線を外へと向け続けるのであった。
(なんで皆そんなに知ってるの! 暴漢撃退とか周りに誰も居なかったわよ!? まあ、幸いなことに勝手に納得して、質問責めにならないのはよかったけど。 そろそろ陽彩のこと、隠せなくなってきたわね)
ピロンッ
内心、疑問や今後の心配事でいっぱいになっていた理亜の耳に、聞き慣れた携帯通知音が届く。
胸ポケットにしまっていた携帯を取り出し、可愛らしい猫のストラップを揺らしながら画面の連絡アプリを開く。
そこには、ある意味渦中の人物。
理亜の最愛の人からの、連絡が届いたことを知らせる数字が浮き出ていた。
『犀星院 陽彩』のトーク画面には一言のメッセージと写真が一枚。
『おはよう~。 理亜ちゃんのことだから昨日の今日で何かしらの噂が増えてちょっとだけ苦労してると予想したよ。 頑張れ~! 負けるな高校生!(絵文字)』
起床してすぐに連絡してくれたとわかる内容。
心配してくれてるのはわかるが、どこか他人事のような内容に恨めしく思いつつも口元が緩んでしまう。
そして語尾についた子猫の絵文字に癒されながら、親指スワップで画面をスライドしていく。
「なっ!!?」
「ん? どうしたの理亜ー?」
思わず漏れてしまった声に隣で他のクラスメイトと談笑していた聖華が反応を返し、わざわざ会話を中断してまで元凶である携帯を覗き込もうとしてきた。
さり気無さ過ぎて危く覗き込まれるのを許してしまいそうになりながらも、慌てて携帯の画面を逸らすことには成功した。
「どうしたの? 気になるじゃん」
「いや、・・・・なんでもないわ。 大丈夫、うん、私は大丈夫よ」
「そうは見えない・・・・って、なにしてるの?」
訝るような表情を浮かべていた聖華が途端にキョトンとしだし、伸ばしていた手を止める。
理亜は携帯を胸元まで引き寄せて隠し、余った手で口元を抑え、視線を誰にも合わせないよう極限まで地面に落とすことにする。
その頬は火が出そうな程赤らめており、羞恥を隠す様な仕草と態度に何かを察した聖華。
しかし、彼女は長い付き合いから答えが返ってくる事は無いと判断したようで、そっとしておこうと友人との会話に戻っていった。
しかし、そんな聖華のありがたい気遣いに気を割く余裕など、今の理亜には微塵も残されていないのだった。
(もぉぉぉ! 陽彩の馬鹿ぁぁぁ!!好き! ―――うぅ、もちろん保存はするけどさ)
理亜の携帯、その画面には1枚の写真がでかでかと選択されていた。
そこにはベージュ色の髪に少しの寝ぐせを付け、白パジャマを第二ボタンまで開けた陽彩が白い子猫を抱きかかえた自撮り写真が写っていた。
携帯を持っている手とは反対の手で白猫を抱きかかえていることから、軽い気持ちで自撮りと愛猫の様子を送ったと窺える微笑ましい写真。
だが、開けた胸元からは今にも突起物が見えそうな上、半分寝ぼけているのか何処かとろんとした瞳に母性溢れる微笑みの表情を浮かべた陽彩。
その破壊力は理亜にとってはあまりにも絶大であり、おかげでその後の1限目の授業を放心状態で受けることとなった。
成績優秀なうえ優等生な理亜がそんな状態になったのだ。
今日という一日、また新たな噂が広がったのは、言うまでもない話だろう。
百合は最高です(∩´∀`)∩