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第3章 ごめん、嘘つく
僕は彼女の話を黙って聞いていた。
彼はね、彼女が続ける。
あのはじめましての時の熱も、視線も、プロポーズの前の空虚な目も全部忘れられないのだと。
僕は何も言わない。
でも彼女は知っていた。
「君でしょ?営業2課の小説家くん。」
人違いじゃないですか?と打ちかけて、先にメッセージが来る。
「彼をどこに隠した?」
ゾッとする。
あのイベントでの出会いは偶然ではないと。彼女はそう言っているのだ。なんの事ですかととぼけるか、事実を伝えるか。僕は口角を上げて返事をした。
「指輪の答えはわかりましたか?」
「わかったよ、わかったから君に連絡している。」
「それじゃあ✕✕駅前のロータリーにその花を持って来てください。答え合わせをしましょう。」
「時間は。」
「お互いの仕事が終わる時間、19時で。」
彼女から了承のメッセージが来ると、僕は横に居た人物に視線を投げる。寝転がっている姿を見て微笑むと机の上に置いてあるものを手に取った。勢い良く振り下ろす。いい音がしてそれは砕けた。
「あなたは酷い嘘つきだ。」
返事はない。
僕はいつもどおりジャケットを羽織ると、家をゆっくりと出た。