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「(うーん、レイラの有り難みがよくわかるね)」


《【幻存】はガチ目のチートだったからな。街から出るのに割と時間がかかるのは痛いな》


 リタンヴァヌアを出発して30分。

 時間が時間だけに車道も閑散としていて、アルムは駆け足で一番近くの門まで向かったがそこそこ時間がかかってしまう。

 人通りが少ないからこの時間だが、帰りはもっと時間がかかってしまうことが予想されて少しアルムは気落ちする。


《まあ、一度出てしまえばこっちのもんだろ?》


「(イヨドさんには重ね重ね感謝をしなきゃね)」


 リタンヴァヌアから1番近いバナウルルから出るための門から外へ出ても、そこは金冥の森に近いという訳では無い。普通に馬で移動しようとしても、街の防壁を大きく迂回するので行きだけで軽く4時間以上かかる道のりである。


 だがアルムにはその移動時間を大幅にカットできるものをイヨドから与えられていた。アルムはそれを早速活用すべく心の中で念じると、馬より一回り小さいくらいの白い2尾の狐が氷の霧と共にアルムの前に現れる。


 レイラの一件でイヨドも少しは思う所があったらしい。ちゃんとした使い魔も自分が割り込んだせいでいなかったアルムに、ククルーツイを出るほんの少し前にイヨドは自分の分体を与えていた。


 戦闘などは一切できないが雑事に非常に長けている分体で、一応イヨドへのメッセンジャーも兼ねている。指揮権は完全にアルムに譲渡されているのでアルムの言う事を従順に聞くちゃんとした使い魔だった。

 分体なので本質はイヨドのコピー。超劣化しているとはいえ、スペックを均等に劣化させず戦闘は切り捨てて雑事に特化しているので色々とアルムのできない事も出来たりするのだ。


「おはよう、ルリハルル。早速なんだけど金冥の森までお願いできるかな?」


 ただ、分体といえどイヨドの意識で動いているわけではなく、仮初の最低限の意思が与えられている。なのでアルムはその分体にルリハルルという名前をちゃんと与えた。

 ルリハルルは急な呼び出しに特にこれと言って表情に何かを表さず、コクリと頷くとアルムを自分の背に乗せた。


 ルリハルルは隠密やその他諸々に長けているので、ルリハルルの存在を察知出来るものは少ない。レイラほどの異常な隠密能力ではないが、ルリハルルも似通った性質を持っている。


 ルリハルルはアルムが背にちゃんと乗った事を確認。控えめに吠えると、イヨドが作るより小さな氷塊を作り出す。


「(分体も短距離なら転移可能って、改めて考えても凄いよね)」


《そっち方面にスペックが偏ってるからな。本家と違ってクールタイムが必要だったり、距離とかに縛りがあるとはいえ、やっぱり転移はチート能力だな》




 ルリハルルは合図するように一度鳴いて、氷塊の光に飛び込むとアルムと共に消えた。








「(うっ、やっぱり慣れないねこの感覚)」


《イヨドよりも防御性能も低いからしゃーない》


 アルムはバナウルル近郊から一気に金冥の森近郊に転移すると、少し蹌踉めきつつルリハルルから降りる。


「ありがとうね、ルリハルル。帰りもよろしくね」


 アルムがお礼を言うと、ルリハルルはコクリと頷いた後に氷の霧になって消えた。未だルリハルルの事はよくわからないが、アルムはできるだけ丁寧に接していた。初めてのちゃんとした使い魔に少しテンションが上がっているのは否めないが、スイキョウもアルムが楽しそうなのは良い事だと思っていた。



「(さて……………遂に魔重地に来たね)」


《なかなか長い道のりだったが、概ねプランに沿って動けているわけだ》


「(此処からが1つ目の山場だよね)」


 アルムの目線の先には、最大60mまである木々が鬱蒼と生い茂る昏い森があった。探査の魔法も一定のラインを境に森の中では大いに乱れており、半径10mまで有効域が縮小された事で早速アルムは魔重地の洗礼を受けていた。


「(ここではライン制御に特化しないと本当に魔術師にとっては鬼門だね。逆にスイキョウさんだったら普通に戦えちゃうのかな?)」


《どうだろうな……………全部魔法で吹き飛ばしていいなら大丈夫だが、とんでもない自然破壊を引き起こすぞ》


 まだ魔重地に足を踏み入れてすらいないのに、魔法が少し扱いづらいことにアルムは気付く。なので探査の魔法は半径10mにリソースを裂き、金属性魔法に特化させる。視覚のみならず特に聴覚や嗅覚を強化して不意の奇襲にアルムは備える。更に自作の祝福加工済みの魔宝具を装備。ヤールングレイプルを装備し直す。

 魔重地では流石のアルムも一切の自重は無い。使えるリソースは全部使っていくつもりだった。



《現在の時刻はざっくり考えて6時前だな。一応今日のスケジュールを確認するぞ》


「(おっけー。まず今日は此処から3km圏内の探索に徹するよ。魔獣の戦闘も出来るだけ避ける。地の利がない場所でギリギリの戦いはしたくないから、一先ずはマッピングしつつ魔草を回収していくよ)」


《何時までやるかも覚えてるか?》


「(まだ一日中オールで篭るのは危険だから、11時くらいに一度森から出て昼食。食休みを兼ねて収穫した魔草などを確認し、食後30分くらいで再開。どんなに遅くても18時には撤収。ルリハルルの手を借りてバナウルルに帰還。リヴァンタヌアには19時までの到着を見込むよ。それからお風呂入って夕飯食べて、余裕を持って師匠の執務室へ行く。これでいいよね?)」


《まあ、臨機応変にな。初日だから大いにビビって慎重な行動を心掛ければいいさ》


「(うん、わかったよ)」



 アルムは深呼吸すると、体内の魔力の流れを整える。

 そして遂に魔重地へ足を踏み入れるのだった。








 金冥の森は人の手が全く入っていないと思われるほど自然本来の形を保った森だった。気温は暗がりが多いために更に低く、反面湿り気が多い感じがした。


 外の野原とは全く別世界のように森の中には珍妙な植物が生えていて、アルムはかなり気が散ってしまう。


「(なんだろう、これ?)」


 見たもの片っ端から飛びつきたい衝動をアルムは抑えつつ、ゆっくりと森の 中を歩く。すると遂に足を止めるほど変な植物が生えていた。

 丈は最大1m。分厚くて幅の広いアロエにも見えるが、何より特徴的なのが白いフサフサの毛に覆われている事だ。そのまま糸が出来そうなほど艶やかで綺麗な毛。アルムが吸い寄せられるように近づいていくと、反射的に飛び退く。


「(嫌な予感がしたのが間違いであって欲しかったのに!)」


《魔獣も魔草もあるとくれば、魔蟲もいるよなぁ》


 柳のように垂れる白い毛。その毛の下からギュンッと飛び出したのは、淡黄蘗色の蜘蛛と蠍の合いの子っぽい虫。大きさは50cm程で平べったい気味の悪い身体つき。

 アルムを持ってしてギリギリで反応可能なスピードでそれが突撃してきたのだ。


 しかも1匹だけではなく、計8匹の虫がアルムの顔面目掛けて飛んでくる。


 アルムは反射的に小規模な炎の盾を作り出すが、なんらかのヌメヌメした液体を纏った虫は無傷で炎の壁を通過。だがアルムも端からそれで仕留めるつもりは無い。動体視力を強化すると、硬化したヤールングレイプルで手前の1匹を殴る。幸い外皮は硬くなく、物理ダメージは通った感触がアルムに伝わる。

 続いて直近の2匹を手刀の一振りで吹き飛ばすと、虫どもが迫り来るギリギリで大きな水の玉を生成。虫どもは構う事なく水の玉の中に入って減衰せずにアルムへ向かう。

 しかしアルムに焦りはなく、その水を瞬間的に凝固させる。


 物理的に氷で拘束された虫達はそのまま氷塊の中で凍りつき、地面に落下。

だがそのまま地面に落ちつずに黒い穴に吸い込まれ、アルムの背後の穴から落下。アルムの背後から忍び寄っていた猫型の魔獣の脳天に氷塊が突き刺さる。


 予想外の衝撃に意識に空白が生じる魔獣。次の瞬間、氷塊もろとも“落下”して、気づけばアルムのど真前。超至近距離で放たれた光の矢が脳天を貫く。続けて氷塊はアルム渾身の正拳突きで中身諸共破壊される。

 虫の白い体液が飛び散るが、アルムはさっさと掃除の魔法で清めて魔獣はインベントリの虚空へ放り込む。


「(いきなりハイペースだね)」


《ワープホールの虚空も自重無しじゃないと即詰むって……………魔重地って予想以上の魔窟だな》



 アルムは最も慎重に隠れてアルムの背後から飛びかかった虫を、見もせずに裏拳で殴り殺す。


「(これでまだ入り口なんだよね)」


《どうなってんだほんとに》


 戦闘を避けたくても、強制的に戦わざるを得ない状況が発生する魔重地に、アルムはゼリエフが夢物語と言いたくなるのもわかった気がした。



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