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「(ぐっ…………………これは想像以上に辛いかも)」


 アルムがパチリと目を覚ますと、まるで金縛りに有ったかのように身体が動かなくなっていた。正確には動けないと言うよりは全身錆びつききった鉄のような、ギシギシと不穏な音が聞こえてきそうなレベルで身体が傷ついていているのだ。


 身体の筋肉の繊維から血管まであらゆるところがダメージを受けている。アルムは久しぶりに拷問鍛錬により鍛えられてた痛覚耐性に深く感謝するほど全身が痛かった。加えて身体は鉛のように重く、魔力は燃えかす程度しか感じられず精神的倦怠感もかなり強い。


 マニルと1日遊んで、一夜開けて翌日。遂に劇薬ブーストの代償をアルムは支払うことになったのだ。

 アルムにとってはすでに呼吸がするが如く探査の魔法を使っていたので、それが使えないのは心細い。目と耳をふさがれているようなものだ。身体もなかなか動かなければ動かそうと言う意思も魔力枯渇により起きない。


 どうしようかと思っていると、アルムの傍に何かの気配が突如生まれる。


「おはよ、アルム。調子はどう?」


 それは異能をOFFにした上機嫌そうなレイラ。アルムの顔を覗き込むと、レイラはアルムの頭を労わるように撫でる。


「お、はよ。しょうじき、しゃべる、の、も、せいいっぱい、かな?」


 それに対してアルムはもう慣れた様子で頑張って微笑もうとするが、頬も筋肉などがダメージを受けていてぎこちない笑みとなる。


「今起きたところ?ご飯とかは食べれる?」


 本当に喋るのも億劫なので、アルムは肯定の意をジェスチャーで示す。

 すると何処かへ小旅行に行くのですか?と問いたくなるほど大きなバスケットを持ったレイラはバスケットから色々取り出す。


「私、一応どんな場所でも一人で行動できるように育てられてるから、料理もできるんだよね。ただスピード勝負の物がレパートリーに自然と多くなりやすいっていうか、効率特化になりがちと言うか、その、味はいいはずなんだよ?」


 それらはなんだか見た目がとても怪しい料理の数々だった。


 芋や人参系の根菜に混じってしれっと何かセミ系の昆虫が浮いている紫がかったスープ。不思議な形状の肉の串焼きかと思いきや丸々太った芋虫の丸焼きだったり、毛を焼いて塩茹でにした大きな蜘蛛だったりと、何故か昆虫尽。


「子爵に伝わる糧食って昆虫系が多いの。見た目だけで敬遠しないで。処理も楽で回収も簡単だし栄養価も高いし味だって美味しいんだよ?」


 はい、あーんと早速芋虫の串焼きを口元に近づけられるアルム。

 心の中で呻いているアルムにスイキョウは静かに合掌するのだった。





「(見た目だけがどうにかなればね〜)」


《確かに美味しかったな》


「(びっくりするほど見た目に反比例して美味しいんだよね)」


 悍しいと言う形容詞をつける人が大半であろう料理群を、全てレイラの手で食べさせられたアルム。しかしアルムが、好きな子の手料理食べて煉獄に堕ちるなら本望と決意して口に入れるのと裏腹に、味自体は物凄く美味だったのだ。

 もちろん、レイラは簡単と言っているし調理も楽そうに見えるが、凄く丁寧に下処理をしてあるしアルムの味の好みも考えて味付けしていて手間はかかっている。

 またアルムも愛情手料理によるバイアスやその見た目とのギャップで更に美味しく感じている節はあるが、実際にアルムが祖父が誕生日祝いをしてくれたときに食べさせてもらった高級料理に匹敵するどころか上回る美味しさだった。


 だがそれも当然。実際振る舞われている料理に使われている昆虫類は超高級珍味の部類で貴族でさえ簡単に手が出ない代物。子爵家はもともとから昆虫食大好きな一族なので、自分達でわざわざ捕まえてきて家で養殖しているので簡単にレイラも調達できているだけである。

 ちなみにスイキョウも味覚を若干共有してもらって味わったが、セミ系の昆虫はサクサクして香ばしく、蜘蛛は蟹の味がしたし、芋虫は身のしまった海老のようだった。

 仕舞いには餅パンにはアリ系の虫が練り込まれ、サラダにまで揚げた小さな虫も乗っていたが、アリはかなり酸っぱいラズベリーのようで、揚げた虫もコリコリして美味しかったのである。



 レイラはそれからも甲斐甲斐しく世話をやき、身体の回復を早める高級な薬膳酒なども提供。トイレにも付き添い、体を拭いてやりと無気力状態のアルムをいい事に“色々”していた。

 それが1週間続き、わりと真面目にアルムの貞操の危機をスイキョウは感じていたが、盛り上がっていてもレイラも13才そこらの病人状態のアルムに何かをしたりしなかった。

 だが明かにたまに妙に呼吸が熱く荒いというか、特に身体を拭いている最中の手つきや目つきがわりと危ない感じになっていたのをスイキョウはしっかり確認している。興味が出始めた年頃なのに格好の餌を目の前にぶら下げられて、レイラもよく我慢しているとむしろスイキョウは思っていた。


 最後までは絶対行かないまでもキスは流石にするだろうとスイキョウは思っていたが、アルムとの交流でアルヴィナの事もレイラはよく聞いているので、律儀に口へのキスは絶対しなかった。

 その代わりアルムの耳に吸血鬼の如く吸い付いていて、スイキョウはレイラが重度の耳フェチであるという一生使えない情報まで知ることになった。


 アルムはレイラに抵抗する意思もなく、ただただ身を任せるばかり。まだそこまでは知識がないアルムは擽ったいと思いつつレイラの暴走を放置していた。



 そしていよいよレイラの理性が怪しくなってきた9日目。アルムの魔力の方が急激に回復し始め、それに合わせて身体も金属性魔法で修復可能に。筋肉痛からの超回復の如く寧ろ体全てが成長した気がした。

 そんなアルムの回復にレイラは物凄く喜んでいたが、ほんの少し残念そうな表情だった。



 完全な回復とまではまだいかないが、既に日常生活を送る分には何ら問題ないレベルまで回復したので、アルムは予定どおり5日後にドンボから大金を受け取る事に。


 形ばかりの身辺整理などを進め、遂に衛星都市に旅立つ準備を開始する。

 しかしその5日間、レイラは一度もアルムの前に姿を表さなかった。




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