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 一時は布団に潜ってしまったレイラだが、アルムの説得を受け、明日全てを説明してもらうことを約束して予備の服を着る。そしてアルムに抱っこしてもらって過去最高のスピードで子爵家に到着した。



 お陰で僅かに門限を遅れる程度で済み、少々のお小言は頂いたものの翌日朝一からレイラはアルムの宿に押しかけ、事の顛末の全てを聞いた。


 アルムは出来るだけ正直に話した。

 レイラの発見から治療、劇薬を飲んでの戦闘、その事後処理。


 全てを聴き終えたレイラの目には涙が浮かんでいた。


「ごめんなさいアルム。余計な配慮で貴方を逆に危険な目に合わせてしまって。本当にごめんなさい」


「ううん。僕が決めてやり遂げた事だから、リリーさんのせいじゃないよ」


 今回の一件でレイラ側に何かミスがあったかと言えば、それはハッキリと指摘する事は難しいだろう。

 事の発端となる取引の傍聴もアルムが偶然聴いてしまったもの。

 安易に警備隊や子爵家に頼らなかったおかげで、結果的にはかなり事はうまく収まった。

 戦闘する為に物心つく前から仕込まれ成人を手前にした自分と違い、自分の3つ年下の所謂堅気なアルムに危険な真似をさせられないと判断したのも、人間として間違った考え方ではない。

 不慮の事故さえなければ、実際のところレイラが考えていた通りに事が進んだ可能性は高かった。


 アルムが単身で盗賊団を駆除しに向かったのはレイラの責任ではない。だがレイラは結果的にアルムが非常に危険な橋を渡った事が悲しく、その背中を結果的に押したでろう自分を悔いていた。


「身体も、あともう少しで限界が来てしまうんだよね?」


「多分あと1日かな。宿の主人さんに手紙を託したからミンゼル商会関係は大丈夫だと思うけど、1週間はほぼ寝たきりだからここに引き篭もる予定だよ」


 そしてアルムが飲んだという劇薬がレイラの心を更に不安がらせ、後悔させる。

 今のアルムは何か超然とした雰囲気を放ち続けており、年下なのにレイラよりも遥かに大人びて見えた。まるで自分の知るアルムが遠くへ行ってしまったような、そんな雰囲気にレイラは不安を感じてしまう。

 しかしその反面、アルムの大人びた雰囲気にレイラは何処となく惹かれてしまう。妙に心が疼く。その原因をレイラはぼんやりと思い出した。


「そう言えばアルム。私はあまりよく思い出せないんだけど、私のことを“レイラ”って呼ばなかった?それとも私の夢だったのかな?」



 ベッドに座るアルムの傍に腰掛けていたレイラは、顔を覗き込み超至近距離でアルムに問いかける。それは揶揄うためではなく、アルムの一切の誤魔化しを封じる為だった。夢現な自分が聞いた名前は、本当なのか願望が作り出した夢なのか。


 もし本当なら、一体どんな意図で呼んだのか。

 レイラが真剣にアルムを見つめると、アルムの目が動揺したような微かに動く。


「あれは、えっと、劇薬の効能で精神的にいろいろとあったというか、その」


 アルムは言葉をこねくり回そうとするが、レイラはとても真剣な眼でアルムを見つめ続けていて、言葉が自然と失速する。


「呼んだんだよね?」


「……………うん、呼んだよ。夢じゃないよ」


 レイラの真っすぐな問いかけに気圧され、観念したように認めるアルム。

レイラはアルムの正面に周りアルムの首に手を回して、更に顔を近づけて額と鼻先までアルムにくっつく程に顔を近づける。


「アルム、教えて。アルムは私の事をどう思ってるの?」


「どうって言っても、今まであった事のない女の子で、一緒に居て楽しくて、僕を癒してくれて、僕を受け入れてくれて、感謝もしてるし尊敬もできる存在で」


 アルムが思いつくままに言葉を紡ぐと、レイラはそれを止め、目を潤ませて熱く湿った声で語りかける。


「私は意気地なしで、自分の気持ちがハッキリ纏められないの。かけがえの無いものを持つ事が怖くて、自分の存在を賭けても護りたいものを得るのが怖い。希望を得る事が怖い。希望を夢見ることがとてもとても怖い。独りでいるのは怖くなかった。むしろ楽だった。誰かに期待して、願って、信頼する事が怖いから、独りの方がいいと思ってた。

でも貴方を見ていると、自分の心が分からなくなってしまうの。私が本当に望むものがわからないの。今まで築き上げた物がバラバラになって、どうしたらいいかわからないの。アルムの為に自らの命を危険に晒す真似をいとも簡単に選択した私が今どうなってしまっているのか分からなくて怖いの。

アルム、教えて。貴方は何の為に盗賊団を殲滅したの?優しくて穏やかなアルムらしくない選択をどうしてする事ができたの?

私は、アルムにとってどんな存在なの?」


 アルムの首に回すレイラの手が震えている。それにアルムは気付いて、心の中にあった防壁に大きなヒビが入る。アルムがアルヴィナに深い愛を抱いている事は確かだ。だが芽生えたもう1つの感情を、それで完全に押さえ込み続ける事はよもやできなかった。


 溢れた想いのままにアルムがレイラの背に腕を回して抱き寄せると、張り詰めた糸が切れたようにレイラの膝がカクンと折れてアルムの体に倒れ込む。しかしレイラの身体はアルムが強く抱きしめていたのでずり落ちる事はなかった。

 未だ至近距離で見つめ合うアルムとレイラ。アルムは真剣な表情で応える。



「好きだよ。僕はレイラの事が好きなんだよ。不誠実だと思う。きっとアルヴィナに叱られるし溜息つかれるってわかってるけど、それでも好きって気持ちが抑えられないんだよ。レイラが死にそうになっているのを見て、自分の大切な物を失ってしまうと思って、とても怖くて不安だった。そしておかしくなるほどに怒っていたんだと思う。僕もあんな気持ちになったのは初めてで、今もはっきりとあれが何だったかは言えないけど、少なくとも凄く怒ってた。

レイラを傷つけられたことが凄く嫌だった。自分の好きな女の子を殺されそうになって、僕は初めてちゃんと自覚できた。

僕は命をかけて護ろうと思う程に、レイラを1人の女の子としても好きなんだ」



 今のアルムの嘘偽りのない率直な気持ち。

 アルム自身、アルヴィナの懸念通りだった自分に呆れる。

 だがレイラへの想いを誤魔化すことはアルムにはできなかった。


 そんなアルムの答えを聞いて、レイラから大粒の涙がボロボロと流れ出る。



「ありがとうアルム。私も、アルムが大好きだよ。3歳も年下の男の子に本気で恋をするなんて考えてもみなかったけど、私はアルムが好きなの。怖くて心が凄く苦しいのに、でも凄く嬉しいの」



 アルムをきつく抱きしめ、首に顔を埋めるレイラ。譫言のようにアルム、アルム、と愛おしそうに繰り返し言い続けるレイラをアルムは黙って抱きしめ続けた。









 アルムがレイラと思いを打ち明けあった翌日のこと。

 レイラは両想いと分かって何か完全にスイッチが入ったらしく、1週間ほぼ寝たきりのアルムの看病をすると言って息巻いていた。なので本日はその準備に時間が割いているらしく本日はやってこない。


 よって手持ち無沙汰のアルム達はオルパナの元を訪問してみることにした。


 約束通りスイキョウが肉体を担当し、ドンボの家を訪ねてみる。するとそこにはオルパナだけでなくドンボまで居て、訪れた者がアルムだと分かると玄関先で夫婦共々いきなり土下座をし始め、スイキョウはそれを慌てて止める羽目になっていた。


 とにかくアルムに色々と述べたい事があるようなので、スイキョウはひとまず2人を客間に押し込んでようやく話が聞ける態勢になった。



「それで、単刀直入にお聞きしますが馬車の一件はどうなりました?」



 アルムが根城ごと纏めて破壊したので結局無駄足になった馬車の足止め。手紙でもオルパナ宛に謝罪はしたのだが、その結果をスイキョウは最初に聞いてみる事にした。

 スイキョウが穏やかに問いかけると、オルパナはスイキョウの予想と違い微笑みを持って答えた。



「アルム様、まずはもう一度、伏して感謝申し上げます。アルム様の御忠告で我々は救われたのです」 


「あれ?無駄足を踏ませたと思ったんですが、どうかしましたか?」


 足止めの為にオルパナが相当の無理をした事はスイキョウも予想していたが、それがプラスに働く理由がパッと思い当たらなかった。



「実はですねーーーーーーーーー」



 オルパナが語ったのは以下の様なものだった。



 まずスイキョウと打ち合わせを終えたオルパナは、直ぐにミンゼル商会へ向かった。オルパナはアルムを信頼して馬車をなんとしても止める決意をしていた。


 しかし盗賊団に襲われるかもしれないと正直に周りには言えない。オルパナは持ち込まれた情報が警備隊が出所では無いこと、そしてスイキョウが頼るといった独自の兵力の当てがあるという情報から貴族が表立って動いている可能性を考えた。


 もしかしたらそのまま奇襲仕返して盗賊団を仕留める計画もあるのかもしれない。ならば騒ぎを大きくすることは愚行の極み。なのでオルパナがとった策は『進行ルートに魔獣を目撃したという情報がある。確かな状況の確認ができるまでは出発は遅らせるべき』と言って馬車の出立を躊躇わせるもの。


 沢山の食料品などを積んでいる馬車は獣避けなどの処理はされていても、魔獣相手なら一堪りも無い。これを聞いた馬車の護衛達はオルパナの予想どおり馬車の出発に尻込みし始める。


 だがここに難癖をつけた連中がいた。

 大掛かりな五台編成の馬車の出発を推し進めた一部の幹部達だ。


 彼らは魔獣の目撃情報など入ってきていない、と反論して馬車を予定通り出発させる事を主張。他の幹部達もそんな情報は得ていないので、静観しつつも出発賛成派につく。

 当然ながら魔獣の目撃情報はオルパナのほら話。最悪状況を混乱させて出発の時間を遅れさせることさえできればいいので、オルパナはその法螺を貫き通す。


 オルパナは幹部ではないので、商会の序列的に幹部達の決定に物言いする事は出来ない。しかしオルパナの優秀さは皆の知る所であり、支店長の妻。下々の者達はオルパナの話を無碍にはできない。それに魔獣の目撃が有るなどとオルパナが嘘をつく理由も思い当たらない。

 情報が無いというだけで安全性を考慮しない主張をする幹部らにも反発して、幹部未満の者達は大方オルパナ寄りの立場に立った。



 この対立は、今まではっきりされていなかった商会内の構図が如実に現れていた。


 幹部達からすれば、やはりドンボの急な支店長の就任は面白いものではなかった。その感情の度合いは各個人で異なれど、諸手を挙げて歓迎などできるわけもない。

 だがドンボがいきなり就任しても早々自分たちの助力無しに動けないことも予測できていたので、幹部達は自分達の権力が増大する事を夢見て溜飲を下げようとしていた。

 

 だがその目論みを寄りにも寄って自分達が冷遇していたオルパナが大きく狂わせた。

 オルパナはもともとその能力値の高さと勤勉さからもっと昇進してもおかしくない働きをしていた。だが率直な物言いは時に幹部達のプライドを大きく傷つけ、それが隔意となりなかなか昇進できなかった。

 その状況に煩わしさをオルパナは感じていた。なかなか自分の意見が通らない環境に鬱屈していた。だが派手に逆らって首にされても困るし、前支店長もあまり馬の合う性格ではなく現状維持が続いていた。


 そこに現れたのがドンボだ。オルパナは非常に勤勉だったので支店の事は殆ど頭に入っていた。なので勝手がわからないドンボに助力すれば取り入ることができるのではないかと考えた。

 幸運な事にドンボはプライドに邪魔されず人の話を聞ける器の大きい人物だったので、自分の半分くらいの歳の小娘の主張にも耳を傾ける度量があった。

 一々幹部連中に色々確認せずとも、オルパナはドンボが問えばスラスラと欲しい情報を提供する事ができた。

 なのでドンボは結果的にオルパナを重用する。

 それに男としても、年を食ってプライドの高い幹部より、ハキハキとして一生懸命な美少女と仕事をした方が楽しいと言う親父心もありドンボはオルパナを側においた。


 オルパナも自分の実力を認めて大事にしてくれるドンボに応えて、今までの仕返しをする様に幹部の介入を挟まない仕事の方法をドンボに教えた。

 その間にオルパナがドンボに惚れたのは本人も予定外だったが、彼らの連携は非常に強力なものとなり、また、下っ端扱いが長かったオルパナはその扱いの辛さもわかっているので従業員、特に位の低い者の待遇改善なども積極的に提案した。オルパナは幹部との隔意を広げる代わりにその下の者たちをドンボの味方につけるべく画策したのだ。

 これにドンボは乗った。ドンボ自身叩き上げの人物でオルパナの境遇などにも深い同情を示し、オルパナの提案を受け入れた。なので新支店長は全従業員の8割以上から歓迎されパワーバランスを確かな物とした。


 その後オルパナとドンボが結婚まで漕ぎ着けた事でオルパナは一度家庭に入る事となったが、その頃にはドンボも支店長という立場にも慣れていた。なので幹部連中の付け入る隙がなく、蓋を開けてみればむしろ自分たちの権限は縮小してしまった。


 だがこれは彼らの自業自得。余計なプライドからドンボが自分達に頼ってくるのを待つような真似をしたせいだ。最初からドンボに協力していれば少なくとも権限が縮小する事態はなかった。結果的に幹部達は、その一部はドンボに逆恨みを始める。


 よって幹部連中はドンボ夫妻、特にオルパナが気に入らない。

 さらには彼等を支持する者達も気にくわない。


 既得権益でいい思いをしていた幹部派と、利益の正当な分配を行うドンボ・オルパナ派の対立構造。


 特に盗賊団と契約していた幹部達は盗賊団の極秘ルートで物資が足りない事や馬車を襲う旨を伝えられており、なんとしても馬車の出発を止めるわけにはいかない。

 オルパナが盗賊団襲撃の情報を持っている事は流石に予想しなかったが、余計なタイミングで変な口出しをしやがって、くらいにしか思わない。



 彼等とオルパナの言い争いは激化し、非常に危険な雰囲気が漂い始めていた。



 そして言い争いは日暮れ近くまで及び、いよいよ幹部連中が物理的に強引にオルパナを隔離しようとしたところで、いきなりドンボが帰還した。

 ドンボの帰還まで予定では2週間前後。ドンボの急な帰還は誰もが驚き、状況は更にややこしくなる。



 ドンボがなぜ帰還したか。それはアルムがミンゼル商会を訪れた所まで遡る。


 アルムの対応をした警備員は、ドンボの不在をアルムの伝えた後にただそのまま警備を続けていたわけではない。

 その警備員は大変真面目で責任感の強い性格をしており、アルムがメダルを持っていることを知っていた。そんなアルムが明かに異常な感じで緊急の要件と言ってドンボを尋ねた事を重く捉えた。加えて、これはアルムのミスでありファインプレーだが、アルムは緊急の要件でドンボを訪ねた後に考え事をしたのでその警備員には何故訪ねたのかも言わずに立ち去ってしまった。


 なので警備員は気を利かせて、せめてアルムが緊急の要件でドンボを訪ねたことはドンボに出来るだけ早く知らせる必要があると考え、その警備員自らが帝都まで全速力で馬を走らせてドンボの元へ向かった。

 その強行軍は功を奏し、まだ帝都へ向かう途中だったドンボに幸運にも追いつくことができ、それを報告した。

 その報告を聞いてドンボも直ぐに行動した。ドンボはアルムの事をよく知っているので何か相当不味い事態が起きていると直感し、予定を全部キャンセルして血相変えてククルーツイまで戻ってきたのだ。


 そして取り敢えず商会に戻ってみれば、何か揉め事が発生している。

 ドンボはオルパナがこの場に居る状況の不自然さを感じ、オルパナから先に事情を聞く。そこでオルパナから内密にアルムから伝えられた情報がドンボにも伝達される。

 信じ難いが、その情報を元に状況を見れば一部の幹部連中が馬車の出発を強行しようとしている現状にも納得がいく。そこでドンボもオルパナの大法螺に乗っかり、強大な魔獣の襲来を訊き戻ってきたのだと言ってオルパナを援護射撃した。



 だが幹部達も簡単に退かない。警備隊をわざわざ連れてきて魔獣襲来の情報がない事を確認する。

 ほら見たことかと一気に責め立てる幹部達。ドンボとオルパナにも疑惑の視線が集まり始める。一気に劣勢まで持ち込まれたドンボ達だが、そこにとある急報が街に伝わる。


『ククルーツイ北方の小山1つがまるまる1つ炎上している。規模・火力からみて非常に強力な魔獣の仕業である可能性あり。住民は街から出ることを控えて、特に北方へ向かう事は警備隊が調査を終えるまで中止にせよ。警備隊で手の空いている者は北側のバリケード構築に直ちに協力せよ』



 其の一報は瞬く間に伝播してドンボ達の元にも伝わる。



 これにてドンボ、オルパナの情報は本当であった事が証明され、一気に状況はドンボ・オルパナが優勢に。周りはコロコロ変わる状況に振り回されるが、ドンボとオルパナは直感的にその火事にアルムが関わっている気がした。

 

 そしてこのチャンスを逃してはならないと思い俄然強気になったオルパナは幹部達を責め立てて、オルパナ等を支持する者達も追従。幹部たちは更に力を削がれる結果に。馬車の話は有耶無耶になった。


 その翌日、朝一で商会に届けられたアルムの手紙よってドンボとオルパナは全てを知るところとなり、更にはアルムが血判状を押さえている事、それに記された者達まで判明。大義名分を得たドンボは余計な足掻きをされる前に先手を打って該当する幹部らを押さえ込む事に成功する。


 斯くして、ドンボが重要な会合を蹴る事となったものの、ドンボの権力基盤は更に盤石な物に。不穏分子も潰すことに成功し、ドンボの商人生命も繋がれて、オルパナが騒動の責任を追って辞職する事も避けられた。加えて本店に送る重要な物資も奪われずに済んだ。


 ただでさえ御恩が山の如くあるのに、またもアルム様に一家共々救っていただいた。これはもう一家総出で感謝申し上げなければ、そう思い準備していた所に丁度スイキョウが訪問した。なのでドンボも家にいたのである。



「あの火事がそんな大事になってたんですか」


「結果的に私共はそのお陰で救われたのですよ。本当になんと感謝を申し上げればよろしいのかと思うばかりです」


 頭を深々と下げるオルパナとドンボ。スイキョウは苦笑して否定する。



「偶然が積み重なっただけですよ。本当にお二人に何か問題が起き無くて此方も安心しました。それと、一応ですが此方はドンボさん達にお渡ししますね」


 スイキョウが懐から取り出して机の上を滑らせたのは血判状。これがあれば該当する幹部連中をクビにできる。ドンボらは恐縮して頭を下げるばかりだった。


 一方でとりあえず知るべき事ややるべき事が終わりホッとするスイキョウ。そこに客間の扉が少し空いてチラッと小さな影が見える。


 それは緊急事態で相手してあげられなかったマニル。

 マニルは前回初めて塩対応されたことが尾を引いて不安そうにスイキョウを見つめていた。それを見たスイキョウは席から立ちがあがり、少し中腰になってマニルに向けて手を広げる。


 するとマニルの表情はパーッと明るくなり、ドアを突き飛ばすように開けてスイキョウにむけてダッシュ。ピョーンっとジャンプして抱きついてきたのをスイキョウは難なく抱きとめて、そのまま抱っこしてあげる。


「ごめんね、前はちょっと急ぎの用事があったんだよ。寂しかった?」


「ううん、アルム兄ちゃん来てくれたから寂しくないっ!今日は遊べるの!?」


 スイキョウは考えるフリをしてアルムに確認を取ると、ニコッと笑う。


「今日は大丈夫だよ。前回の分も含めて遊ぼっか」


「やったー!にいちゃんだいすき!」


 ギューっとスイキョウの頭を抱きしめて喜びを表すマニル。

 懐ききってる娘の対応をしてくれるスイキョウに再びドンボ達は頭をペコペコ下げる。


 スイキョウは宣言通りその日は1日中マニルの相手をしてやり、精神的にとても癒されるのだった。






 

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