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「(…………………急ピッチで色々と進んだね)」


《流石は商人って事じゃないか?》


 ポップコーンにまつわる騒動は本店まで巻き込み、かつてない勢いでミンゼル商会は動いていた。他の商人が真似をできないうちに完全に地盤を固めに動いたのだ。しかし迂闊に顔を出すとまたグイグイ引き込まれそうなので、半年以内に必ず1500万セオンを用意してくれる契約を結ばせた後はアルム達はノータッチのつもりでいた。



「(ところで、残り2500万セオンにしてくれたけれど、よくよく考えると足りるかな?)」


《此処での活動を鑑みても、計算外の出費ってかなりあったな。だから、+1000万セオンは公塾に通えるようになる迄の活動資金って考えた方がいいかもな。よって実質残り3500万セオンくらいに修正しておいた方がいいだろ》


 なかなかままならないと思うも、どうしようもない。スイキョウの考えにアルムは同調する。


「(リバースやショウギは利権として売れないの?)」


《ポップコーンの時はあえて調理方法を魔法を使ってぼかして見せたから、相手がドンボさんだったから、こちらを上司の孫として最大限の配慮をし、尚且つ自分達にとって大きな借りを作っていた相手だから、利権として販売できたし交渉にもなった。それにミンゼル商会は元々食料品関係が強いから売り込めた。一方で遊戯はルールが重要なだけで秘匿できるものとかもないし、他の商会もあっさり真似できてしまう。そして食料品じゃないからミンゼル商会は当てにならないし、かと言って他の商会に持ちかけたら、そもそも交渉のテーブルに着かせるまでが大変だし、その後もスマートに決着をつけられるかわからん》



「(煉瓦の組成は……………ダメだよね。売り渡すには流石に知識として価値が大き過ぎる)」


《それは時間切れ間近の禁じ手だな。しかもその手の知識は売るにせよ帝都に行ってから売った方がいい。ザリヤズヘンズさんの知り合いは帝国公権財商だから、その人に後ろ盾になってもらって交渉するしかない》


 もちろんスイキョウには他に売れそうな知識はあるのだが、既得権益問題や交渉に至るまでが難題すぎる。もともと素人なのはスイキョウも自認しているので、ポップコーンで成功したからと言えど欲はかかない。あまり調子に乗ってアルムが目をつけられるのもスイキョウの本意ではない。

 たかが12才そこらの少年と真面目に商談をしよう。そう思わせる迄がそもそも困難だし、逆に才能を露わにしすぎると注目を集めて余計な騒動を呼び込む。スイキョウが経済学などに基づいて語った知識もこの世界では値千金の価値があった。

 そのジレンマはスイキョウの行動にだいぶ制限をかけていた。



 異世界ものの主人公だともっと気楽にやっているよな〜………とスイキョウは思いつつも、現実的にスイキョウができたのはこの程度である。アルムとスイキョウには色々な諸問題をクリアできるほどぶっ壊れたチートは持っていないのだ。



「(でもこれで、約半年以上はフリータイムになったよね?)」


《そうだな。少し中途半端な時間が空いたな》


 幾ら商談が纏まっても、即金で1500万セオンをすぐに支払える訳ではない。その分利子は契約時に付けているが、その交渉ではスイキョウの方が白旗を挙げており目標金額からすれば微々たる物。ドンボは9ヶ月以内には必ず用意すると言っていたが、逆を返すとかなりのタスクを既に終了した状態でアルムは空白の期間ができてしまった。


 勿論今から帝都へ移動しても悪くは無いが、今現在の帝都周辺は6月に行われる第五皇女の結婚式に向けて色々と慌ただしく、行ったところでまともに動けるのかも不明瞭で加えて沢山の貴族が動いているので面倒ごとも予測される。


 どの道、半年以上という期間はその煩雑さを回避するにはいい時間だがやはり暇になる。


「(あとやれることと言えば、ゼリエフさんは実際に貴族を見てみるといいって言ってたよね)」


《図書館にもさすがに派閥云々を記した本は無いからな。それに言うほど貴族って遭遇しないっつうか、俺達が出歩く時間には少ないんだろうな。いや、普通に考えたら上冬だから出歩かないだけか》


「(だとしたら、南に行ってみる?貴族居住区はまだ一度も足を踏み入れてないエリアだよね?)」


《辺境伯以上が居るわけないしな。十分に気を付けていけば大丈夫じゃないか?》


「(じゃあ、行ってみようか)」








 他のエリアと違い、貴族居住区は高い独立性がある。なので宿のある西のエリアから直接は向かうことができない。一度必ず中央エリアを通過していく必要がある。


 アルムはずっと2週間通い詰めていた図書館まで行くと、そこを通過してさらに南に進む。南へ進むほど人の数は減っていき、静寂さは増していき、空気が洗練されていくようだった。アルムの立ち振る舞いもその空気に合わせて貴族然とした歩き方になっていく。


 貴族居住区の境界には警備隊はかなりの数徘徊しているものの、ロベルタの教育によりアルムの立ち振る舞いは非常に優雅で、アルムを呼び止める者もない。見覚えの無い顔に一瞬不思議そうな顔をするが、警備隊はすれ違っても会釈するばかりだった。




「(ちゃんと通用しているね)」


《それだけアルムが努力したって事だろ》



 アルムも軽く会釈すると、貴族居住区に足を踏み入れる。

そこはククルーツイにある独特の活気や興奮、熱気から外れた静謐さがあった。一つ一つの建物は大きく、家同士の間隔も広く、庭のある屋敷も多かった。

 人通りの絶対数の差からか石畳の劣化も少なく、しっかりと除雪されている。



「(区画の整理も規則的にできているね)」


《他のエリアは入り組んでいる場所が多かったよな。多分歴史的にもここは後から出来上がった場所だから結構整理されてる筈だ》


 ククルーツイは偶発的な集まりに連鎖的に人が集まってできた都市なので、最初の纏りのなさは酷いものだった。今も商業区や宗教区は迷路のように入り組んでいるが、まだマシな部類に落ち着いているのだ。

しかしただ無秩序だった訳でもない。迫りくる数々の勢力に対して容易に攻め込めないようにわざと複雑な経路を作っていたのだ。

 シアロ帝国がまだ王国として産声を上げる前からあるこの都市は、数多の異種族にとっては聖地。シアロ帝国が周辺を併合するまでは小国が小競り合いを繰り広げており、何処の国も金の卵を産み続けるククルーツイを併合しようとしていた。


 それに対抗する為に様々な策を尽くして作られた街がククルーツイという街。図書館は元は最終防衛ラインであり、堀があったのも昔の名残。要塞らしかったのは図書館が実際に要塞を再建築した物だからだ。


 また南区はもともとから貴族が暮らしていたわけではない。南には元々スラムっぽい貧民街があり、シアロ帝国はククルーツイを支配下に置く際にそこを全て一回強引に整地。西の居住区も少し整理して、南の貧民街を潰した代わりに西のエリアに共同住宅などを帝国主導で建設。

 図書館周辺の土地も整理して公共施設を作り上げ現在の中央区の原型を作り上げ、南の区画の境に防音対策などを兼ねて壁を作り上げて貴族を誘致した。


 そうして今のククルーツイが出来上がったのだ。


 なのでスイキョウの言う通り貴族居住区は後から作られた区画なので、区画が整然としており秩序だっていた。




「(看板がちゃんと看板の役割を果たしてるよね)」


《そうだな》


 商業区の看板はそもそも数が多すぎるし皆も勝手にあれこれ書いたりするので唯のアートのようになっており、居住区は集合住宅が多いのでかなりざっくりとした事しか書いていない。宗教区に至ってはシアロ帝国が最も介入できていないので昔のままの入り組みまくった道で、看板には公用語以外の文字も書かれているので何がなんだかよくわからない。



 その点、貴族居住区にある看板は何方を行けば何処に向かえるのかが分かりやすく書かれていた。警備隊が掃除しているのか清潔で、落書きもなく、雪が微かに被っているだけだった。



《貴族居住区って言っても一応店とかはあるみたいだな》


「(貴族御用達って事なんだろうね。商業区であれこれやるには問題があり過ぎると思うし。貴族がたくさん出歩いてたのもこれらの店ができる前の昔の話なのかもね)」


《そうかもな》



 アルムは不審に思われない程度に屋敷を見て周り、貴族の優雅さを肌で実感していた。街ではミンゼル商会が最も裕福だったので、鑑賞用の庭にも特別な驚きがあるわけではない。だが石造のオブジェなどのアートや、大きな池があったりするのを見るとやはり貴族は違うと思わざるを得なかった。

 できない贅沢ではないが、実際にそれをやろうと思える余裕がなければ出来ない。特に地域的に見ても積雪が多いので、外はその維持にかなり労力が裂かれてしまうのでシアロ帝国の貴族は外よりは中に物凄く拘っている傾向にある。


 例えば客を歓待する時も寒いのに広い庭を案内するよりは、さっさと家に招き入れた方が気が利いているというものだ。温度的に夏でも30℃以下で涼しくて過ごしやすい気候の地域が多いので、外などゆっくり見てられる期間は少ない。

 なので庭にも手を加えられるのは貴族や途轍もなく裕福な家庭のみになるのである。





 今は基本的に上冬なので貴族はあまり見かけないが、庭で雪遊びをしている貴族の子供達は見受けられる。アルムにとって雪というものは大概自分を家に閉じ込めてしまうもので遊ぶものではなかった。なので雪玉を転がして大きくしようとしているのを見てもあまり楽しそうに見えない。


「(やっぱり、僕とは感覚の異なる方々なのかな)」


《アルムはその中でも特殊な部類だと思うぞ。多分大多数と異なるから安心しろ》


「(それは全然安心できないかな〜)」


 アルムはゆったりと貴族居住区を歩いて周り、そしてある場所で立ち止まる。



「(ここ、学校だね)」


《私塾とは大違いだな》


 貴族が多く存在するだけあってか、そこは私塾の5倍以上の規模の施設があった。

 校舎は機能性以外にもデザイン性に拘っており、1つの村がすっぽり収まる程の校庭は奥に小さな林さえあり、私塾と違って砂地ばかりでなく、運動用のアスレチックっぽい器具などもある。


 ここも上冬なので冬休み中。人っ子1人おらず、とても静かだった。しかしその規模の多さや、校舎、校庭を見るだけでも経済力の違いはありありと伝わってきた。


 学校を通り過ぎて更にのんびりと歩みを進めていくと、アルムはまた立ち止まる。


「(ここ、魔術師がいっぱいいるね。一体なんだろう?)」


 おそらくそこは貴族の屋敷に違いないが、かなり無骨な感じの作りで私塾の校舎を少し想起させた。他の貴族の屋敷と違い庭は見えない。しかし探査の魔法で3Dマップ状に空間を捉えると大きな中庭があることがわかった。


「(中庭って凄く珍しいね)」


《いや、ただの中庭じゃないだろ?》


 ククルーツイはアルムの故郷に比べては雪は降らないし、人通りが多すぎて一気に積雪しないが、上冬になれば雪は結構な頻度で降っている。なので中庭を作ると雪の処理が大変になってしまう。中庭をわざわざ作る屋敷は相当に珍しいのだ。

 だからこそ逆に何か理由があるとスイキョウは思う。




 アルムがもう一度探査の魔法をかけようか迷っていると、唐突にトントンっと肩を叩かれた。


「ねぇ」


「ッ!?」


 その時のアルムは反射で行動していた。


 瞬間的に金属性魔法を最大出力にして距離を取ると、魔力障壁を展開しながら振り向きつつ、ヤールングレイプルを硬化させ更にそこに接触性の麻痺毒を纏わせる。そして音もなく着地すると迎撃の構えを取り複数の魔法を待機状態にさせる。


 ゼリエフに嫌というほど、それが反射でできるようになるまで仕込まれた対奇襲の構え。意識を臨戦態勢に瞬時に切り替えてから迎撃可能になるまでの動きが速ければ速いほどその後の結果を左右する。


 いつもの穏やかなアルムから考えられない素早い身のこなしと鋭い戦意。

だがアルムに声をかけた人物は唖然としているだけで何もしてこない。アルムの肩を触れた手のまま固まっていた。


 アルムも冷静になってみれば、その人物明らかに子供だった。

 種族は人間。紫色がかった黒髪はボブカットにしている。パッチリとした、だが少し仄暗い翠色の目は驚いたように少し見開いている。

 ほっそりとしていて小柄だが、探査の魔法の反応では箱入り娘どころか相当に鍛え込んだ肉体をしていた。幾つかの武器も探査を妨害する仕掛けを施して腕や脚に仕込まれている。


 灰色がかった白い外套は魔獣素材を使用した耐寒性で意匠も凝らされている。側から見たらその可愛らしい顔立ちと相まって何処かのお嬢さん、と言える見た目だが、外套の下の衣服は隠蔽しているが防刃などの効果がついた特殊な服。


 やはりおかしい、アルムは構えを解かず警戒を続ける。



 何故アルムがここまで過剰な反応を見せたか、それはアルムが彼女の存在に一切気づけなかったからだ。

 ただぼんやりしていた、では説明が付かない。アルムは貴族居住区を歩く際に貴族との不意な遭遇を避けるために探査の魔法をいつもより範囲を大きくして展開していた。

 特にある一定の距離までくれば3Dマップ状態になるので目視しているのと変わらないくらい正確に状況を把握できている。なのに、そのアルムが完全に不意を突かれた。彼女の接近に触れられるまで全く気づけなかったのだ。


 故にアルムは反射的に迎撃の構えをとってしまった。アルムが不意を突かれた明確な経験は、教会は探索の魔法を解除していたのでカウントしないとすると、ヴルードヴォル狼との遭遇のみ。

 アルムが本能的危機を呼び起こされるほどには十分なほど異常な事態なのだ。


 そしていざ向き合ってみれば、子供かと思ったらやはり只者とは思えない。

アルムの警戒心は高まるばかりだった。



「えっと〜……………私、何かしちゃったかな?」


 だがその少女は依然として少し戸惑った様子のまま、軽い調子でアルムに問いかけた。


「貴方は、一体誰ですか?」


 それに対してアルムは特に答える事なくただ警戒を続ける。


「詳しくは言わないけれど、私はここの貴族の縁者だよ。どちらかと言えば、私こそ君の正体が知りたいかな〜って思ってるんだけど」


 そう言って彼女は紋章の彫られた銅のメダルを胸元から取り出して見せた。


《銅………子爵のメダルだったな》


「(銅の魔化金属のマーズリウムの反応アリって事は、本物かも)」


 アルムは対処不能ではない強敵では無いかも知れないと思い、依然として魔法は待機状態にするが構えは解いた。


「なぜ僕に声をかけたんですか?」


 アルムが静かに問うと、彼女は困った様な顔をしつつも笑って答える。しかしその笑顔はどこか作り物めいているようにスイキョウもアルムにも感じられた。


「そもそもこの場所は不用意に立ち入る人がいない区域。ここに住んでいる子供はその殆どがククルーツイに1つだけある学校に行くから顔見知りでもあるよね。

でも私は貴方の事を知らないの。動きは間違いなく貴族だから知っているはずだけど、貴方の事は見覚えがない。貴族の親類の筈なのにお付きも付けず、あてもなくフラフラしているように見える。一体何処の子供で何をしているのだろうと思っていたら、ここで立ち止まった。だから少し声をかけてみただけだよ」


「……………普通に顔を合わせてないだけじゃ?」


「その非常に整った顔立ちに、黒髪黒目。身のこなしは貴族だけれど、体幹の安定具合や歩き方無駄の無さから相当鍛えている気がする。あと魔法も使ってるよね?それに、話しかけてからの身構え方が只者じゃないんだよね。おそらく私でも瞬殺されるレベルで強い。見た事もない毒も纏ってる。その手袋も、多分普通じゃない。多分見落とすとは思えないんだけど、どうかな?」


 少女はニコッと笑うが、やはりその笑みは何処か作り物のようだった。


「もしかして、不審者っぽかったですか?」


「話しかける前は、不自然。今は不審者かな?このまま逃してはいけないと思えるほどに」


 アルムが万全の警戒をしているのに、少女はいつの間にか小さな笛を咥えている。色々と謎が多い相手だが、アルムは今回は此方が不審者だったのだろうと納得する。


「こちらも詳しくは言いませんが、こう言う身分の者です。不審者じゃないですので安心してください」


 アルムが見せたのはヴェル辺境伯の金のメダル。

 少女はキョトンとしたが、その紋章を見てほんの一瞬だけ眉を顰めたのをアルムは見逃さなかった。それは今までの仮面の様な表情ではなく、素の表情だった。



「そういう事でしたか、これまでのご無礼をお許しくださいませ」


 そして彼女はサッと跪く。どうやら立ち振る舞いが貴族然としていたからか、アルムを辺境伯・宮廷伯の親族と誤認したようだった。


 先ほどの発言からして少女は学校に通っている可能性が極めて高いので恐らく子爵の血縁。アルムがもし辺境伯・宮廷伯の親族だったらこの対応で正しいが、今はただの平民でしかない。しかしスイキョウに止められて、アルムは訂正を入れなかった。


「別に構いませんよ。此方こそ勘違いさせてしまったようですみません」


 アルムはそう言うと、その場からサッと立ち去る。あえて更に南方に向かって、そのまま振り向かない。


《アルム、どうだ?》


「(探査の反応では………さっきの建物のある家に入ったよ。あそこが彼女の家だったのかな?)」


《かもしれないな。だが………………》


「(異能、なのかな?やっぱりおかしいよね?)」


 どうやってアルムの探査を潜り抜けてきたのか、考えられるとすればそれしかない。だがもし探査をジャミングできる能力を持っていても、探査の反応を雪の動きに集中すれば場所が割り出されるはず。アルムは3D把握可能なギリギリの位置で静かに佇んでいたが、彼女が誰か、おそらく召使いに何かを言伝すると家から出てきたところで反応が完全に消えた。


「(やっぱり変だ)」


《念の為、このまま南から街の外へ出た方がいい。時間的にも昼飯時だ。今日は秘密基地で食って様子見しろ》


「(でも足跡でバレない?)」


 幾ら雪をこまめに退かし道を整備していても、ずっと降っているのでやはり足跡は残ってしまう。しかしそのアルムの心配をスイキョウはケラケラ笑って流す。


《アルム、超低空で空を走れよ。魔力の塊使えば足跡は残らない。流石に出入り口付近は人が集中して足跡が多い。そこに紛れた所で小走りに去ってしまえばいい。出ていくのはバレるかもしれないが追ってくればこっちもわかるはずだ。色々な感知から逃れられても、全てから逃れることは出来ないはずだ》




 例えば、透明になる異能があったとする。しかしそれでは服は透明化されないかもしれない。だとしたら服を脱ぐしかないが、温度などの反応が消えたりはしない。

 それは触れた物も同時に透明化できても同様に同じだ。視覚だけ誤魔化しても意味がない。何かは必ず反応が残る。


「(魔法由来の感知をジャミングしてる?)」


《その可能性が極めて高い。だったら広い開けた場所に出てしまえばいい。足跡だろうが足音だろうが、息遣いとか風の揺らぎとか、どこかで絶対に誤魔化す限界がある》


「(なるほど)」


 アルムは足早に南から街の外へ出ると、魔力の塊をピンポイントで足裏に打ってスキップする様に移動する。そしてその道が他の区域へ分かれていくポイントまでいくと商人などに紛れる。


 そしてそこから更に迂回して人目の全くない場所まで行くと、身体を強化して大ジャンプをかまして川に飛び込む。


 量熱子鉱で体温を維持しつつ、川の流れにのって一気にアルムは秘密基地まで辿り着く。そして掃除の魔法で水気などを全て消し去る。


「(流石に今のを追いかけて来れないはず。でも足跡があるって事は、やっぱり付いてきてた?)」


 アルムは途中で敢えて川沿いを移動し続けている。それはこうして川を降った時に足跡がないか確かめる為だ。だが不思議なことに足跡は秘密基地付近で途絶えていた。しかしながら引き返したような足跡もない。ただ忽然と消えてしまったように足跡が残っている。


 よくわからないがここにジッとしていられないので、取り敢えず秘密基地に戻ってみる。するとそこでアルムはポカーンとしてしまった。



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