表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/159

62




 ククルーツイという都市は主に5つのブロックに分けられている。

 まず北のエリアが商業区。アルムが入ってきた場所だ。

 西のエリアが居住区。ククルーツイで働く者が住んでいたり私塾があったりする。

 東の区画が宗教区。宗教施設はここに集中する。また居住区と棲み分ける為に宿屋もここに多くある。

 南の区が貴族居住区。殆どの貴族はここに住み、余計なトラブルから身を守る。

 そして最後に中央の区画が公共区。名目上実権を持つ貴族の家と警備隊などの事務所が存在する。広場や図書館、銀行などもここにある。街の行政機関は全て公共区に集中しているのだ。


 ミンゼル商会は商会なので必ず北のエリアにあるはずだが、いきなり飛び込んでも人があまりに多過ぎてダメだとアルム達はすぐに分かった。アルムは貴族然とした立ち振る舞いに変えると住民区を少し歩き、遭遇する住民にミンゼル商会の場所を問いかける。

 皆は貴族のお坊ちゃんに声をかけられたと思い、そしてそんなお坊ちゃんが1人で出歩いているのを若干訝しげに見るが、丁寧に対応して各個人が出来るだけの説明をしてくれた。


「(情報を統合すると、ミンゼル商会の支店は商業区の西側にある。でも宗教区に近い訳ではない。外側か内側かと言えば若干中央寄り。規模は大きく無くて春頃は雪食い草の買い付けで賑わうけど今はもっぱら販売はせず購入に徹する。店というよりは事務所っぽいみたいだね)」


《そんなところだな。帝都への中継地点で、市民に向けた商いではなく商会同士の商売が専門。だからどうにも住民の知名度が低い。そこら辺の商会に聞いた方が手っ取り早いって言ってたやつもいたが、適当なんじゃなく至極的を射たアドバイスな訳だ》


 という事で、近くの商会に入り込み、店員と少し世間話をした流れでミンゼル商会まで行き方を聞き出す。お礼に買ったその商会のメインの売り物である甘辛い煎餅の様な物を齧りつつ、アルムはそちらへ向かった。


 暫く住民や店員から得られた情報を元に歩いてみるが、土地勘がないのでアルムはよくわからずウロウロする。そして20分くらい彷徨ったところでそれらしき物を見つけた。


「(…………………何かの商会の巨大な倉庫かと思ったけれど、よく見たらミンゼル商会のマークがあるね)」


 がっしりとした作りの灰色の大きな建物。それは商会の支部というよりアルムたちが見逃すほどまさしく倉庫っぽい。

 そこには入っていく馬車と出ていく馬車がいて、大きな倉庫の中で荷物の積み下ろしがされている様だった。


「(入っていいのかな?)」


《でもコレしかねえよな》


 アルムが恐る恐る倉庫の中を見てみると、なかでは色々な人が忙しそうに働いている。流石にこの状況下で誰かを捕まえられない。どこか別のところがないかと思い裏手に回ると、倉庫に隣接して事務所のような物を発見する。


 そこには警備員が少し暇そうに立っていた。


「あの、すみません」


「ん?随分小さなお客さんだな。何かようかい?」


 アルムが声をかけると、警備員は温和に対応する。

 多分迷子か何かだと思われてると思いつつ、アルムは胸元から取り出すフリをして虚空からこっそり祖父の紹介状を取り出す。


「これを中の人に渡してもらえますか?」


 ミンゼル商会でも最も重要な印鑑を使って押された印籠。その封筒を見て警備員は不思議そうな顔をする。


「ん?一体そりゃぁなんだい?坊主に使いっ走りで持たせる物では無いと思うんだが」


 確かに12才そこらの子供が本店からの書状携えていきなり来たら、誰だって不思議に思うだろう。だが色々て説明するのも大変なのでアルムはかけていたメダルを見せる。

 それは辺境伯の位階に対応するエルドラドモンを使用した合金のメダル。金色のメダルは光に照らされてキラキラと光った。



「長話は無用、私はこの様な立場の者です。この手紙を届けていただけますか?」


 それを見て警備員は顔がサーッと青ざめて敬礼する。


「大変失礼致しました!」


 そのメダルが偽造だとは考えない。何故ならメダルに使われる魔化金属は迷宮でしか採取できないので、国が全て管理しておりその取り扱いは極めて厳重だからだ。武具や装飾品にも使われはするが、やはり売り手もその事情から取り扱いは極めて慎重になる。またこの加工自体も私的な設備では不可能なほど困難を極めるので、やはり偽造は不可能と考えられる代物。


 つまりアルムが見せたメダルは本物である事は警備員もすぐにわかる。


 彼は今までの態度を一変してうやうやしく手紙を受け取ると、中の事務所に届ける。そしてすぐに職員を連れて戻ってくる。


「お待たせ致しました。先程の無礼をどうか御容赦ください」


「大丈夫ですよ、そんな畏まらなくて」


 アルムが微笑んで警備員の謝罪を受け入れると、職員がアルムの対応を引き継いで1番いい応接室に通される。わざわざ飲み物などをだすか確認されたが、アルムはこれを断った。


「少々お待ちください。支店長を只今呼びせております」


「え、そんな大ごとですか?」


 流石にメダルはやり過ぎだったかなぁ、と思いつつもあそこであれこれ聞かれてもそれはそれでトラブルになっただろう。なのでこれぐらいはしょうがないとアルムは諦めた。


 そして5分ほどすると、支店長を名乗る人物がやってくる。しかしそれはアルムにとって驚くべき人物だった。







「こんにちは坊ちゃん、ご無沙汰してますよぅ」


「え、ドンボさん!?」



 ミンゼル商会のククルーツイ支店の支店長を名乗る人物は、ミンゼル商会では例外的に唯一アルムと接触が多かったドンボだった。


「近頃はずっと顔を見ていなかったので不思議に思い、お爺さんにもドンボさんへの別れの挨拶を言伝したのですか……………なるほど、お爺さんにいっぱい食わされたみたいです。全部わかっていて僕は送り出されたみたいですね」


 アルムは出立前、ドンボにも必ず挨拶をしようと思っていた。元々交易に出向くことが多い人物だったので長期間顔を見ない事も珍しくはなかったのだが、それにしても長い。なのでアルムは祖父にその居場所を尋ねたが、今は火急の用事があって彼は手が離せないから私が言葉を伝えておこうと言ったのだ。

 なのでアルムはまさかククルーツイの方へドンボが向かっていたとは思わなかった。


「ええ、実はこれには坊ちゃんが深く関わってましてね。これだとあっしの出した手紙も坊ちゃんとすれ違っちまったみてえですが …………………それはおいおいお話ししましょか。今はどうして遠く離れた場所に居るはずの坊ちゃんがここにいらっしゃるのか、お館様のお手紙にはそれを説明するあっし宛ての別の手紙を持たせてあるって書いてありましたよ」


「はい、此方になります」


 そう言ってアルムは祖父から預かったもう1つの手紙を渡す。ドンボはそれを受け取ると、細かい字でびっしりと書かれたそれを丁寧に読む。


「はぁ〜、坊ちゃんも大出世ですなぁ。辺境伯の縁者が訪ねられたと言われた時は何事かと思いましたが、ようやく謎が解けました。しかしどう計算しても2週間で移動した計算になっちまうんですが、お館様も坊ちゃんは2週間でそちらに行くと宣言されていると書かれているので、間違いないのでしょう。ああ御安心くだせえ。余計な詮索は致しませんよぉ。坊ちゃんがただの子供とは一切考えてませんですからねぇ」


 こういう配慮は素直に有り難く、アルムは笑顔で応える。


「なかなかお忙しいご様子ですが、1番の問題は滞在場所ですねぇ。ここはご覧の通り中継地点なんで、色々と簡素なんでさぁ。1番いいのはうちなんですが、家内もいますんでね。勝手はかなり違うと思いますが、うちでいいですかい?」


「奥さんも此方に来たんですか?」


 そもそも以前は未婚って言ってた気がする、と思いつつアルムが問うと、ドンボは首を横に振る。


「いえ、こっちきて結婚したんでさぁ。それも含めて先々月くらいに坊ちゃん宛に手紙を出してるんですが、完全にすれ違っちまったみてえですね」


 ということは新婚じゃん、と考えるアルムとスイキョウ。そんな家に居候は不味いと思うし、色々と詮索されても面倒だとか思い頭を捻っていると、ドンボは苦笑する。


「あっしのことを色々考えてくれてるみてえですが、うちは構わねえですよ。むしろ坊ちゃんはウチにとって特別な存在で、嫁もお会いしたいなんて常々言ってたもんでね。ですがあっしが色々抜けてる分、家内はまあ大層しっかり者でして。正直坊ちゃんの自由を制限しちまうかもしれねえとは思っちまうんでさぁ」


「僕が特別な存在?」


 アルムが不思議そうに問うと、ドンボはニコニコとして頷く。


「そうでさぁ。まあ何度も後回しになってるんで先にそっちを話しましょうか。

事は坊ちゃんの雪食い草の一件まで巻き戻るんでさぁ。坊ちゃん、あのあと褒美をあっしにあげるなんて話を本当にお館様に話して頂いたんでしょう?あっしはあの後でお館様に急に呼び出されましてね、ここの支店長を打診されたんでさぁ」


「え、それって逆に大変なんじゃ。しかも遠いし…………………」


 アルムはドンボに迷惑をかけたかもしれないと思い切なくなるが、ドンボは大きな声で笑ってとんでもないと否定する。


「ミンゼル商会のNo1は、そりゃ勿論本店トップのお館様。次が帝都の支店長、次がここの支店長。ただの本店の幹部の1人だったのにいきなり商会のNo3となれば、大出世でさぁ。そりゃもちろん職務に見合った苦労はありますけれど、大変光栄なことでさぁ。それに、遠いというかあっしはここが故郷。お館様はあっしに格別の配慮をしてくださったんださぁ。

あっしの言葉ってかなり訛っとるでしょう?実はあっしの両親は西方からここに来た商人でして、ここで出会いあっしが生まれたんでさぁ。あっしはそんな両親の元で育ったもんで西方訛りが染みついちまって。しかもここじゃあ訛る方が多いもんで気にしたこともなかったんでさぁ。

で、少し話はとびますがね、あっしの両親はね、汗水流して稼いだ金をコツコツ貯めて、あっしをククルーツイの私塾に通わせてくれた。そのお陰であっしはミンゼル商会のククルーツイ支店で雇ってもらえたんでさぁ。と言っても最初は1番下っ端。ここで積んだ商品を本店まで運ぶキツい仕事を担当してたんでさぁ。あっちに行ったら全然訛ってねえもんで、びっくらこいたのを昨日の様に覚えてまっせ」


 基本的にシアロ帝国では国の定める共通語はあるが、帝都から距離が離れるほどやはり言葉は訛っていく。では何故アルム達は遠い北方にいたのに訛っていないのか。それはアルムの住んでいた街の歴史が比較的新しいからである。


 帝都から北方は自然環境雪が厳しく開拓が全く進んでいなかった。だが時の皇帝と時のヴェル辺境伯がタッグを組んで、帝都から北方までの道の整備が行われ、中継地点となるいくつかの街の開発が行われた。

 それは外征政策が一気に下火になった当時の帝国にとっての肝煎の政策で、帝都から沢山の官僚や、力を持て余し気味の兵などを労働力として一気に北へ送り込んでいた。

 その開拓は沢山の金と人を使って半ば強引に、そして急ピッチに行われた。

 しかしそんな北方にも細々と暮している者達はいたし、北方を纏めていたヴェル辺境伯の働きかけで北方在住の者達がかき集められて開拓に参加する事になっていた。

 そこで国が送り込んだ者達と彼等の間に起きた問題が、北方の激しい“言葉の鈍り”である。

国から派遣された者達は当然土地勘のある先住民や北方から派遣された者達から話を聞こうとするのだが、鈍りが酷すぎてあちこちで連絡ミスや情報の齟齬が発生。北方の住民達も協力的だったのにも関わらず予想外の場所で開拓が難航した。


 だがそんなことで国が主導する一大プロジェクトの遅延は招くなんて事はできない。なので彼らは強権を使って全員が正式な“シアロ帝国公用語”で話すことを徹底させ、より正確な情報の共有に努めた。その結果、北方にあった元々の訛りは次第に駆逐されて、ヴェル辺境伯のエリアまで訛りが極めて少ないエリアが誕生したのだ。


 だからアルムの話している言葉は訛りが無く、帝都から離れておきながらも訛りはゼロに近く都会でも普通に通用する訳である。


「最初はなかなか馴染めえねえで困ったんですが、そん時にまだ跡取りだったお館様様とひょんなことから仲良くなりまして。まあ異郷の地から来るヘンテコな言葉を話す奴に興味があったんでしょうね。あっしが訪れるとお館様がいつもあっしを出迎えてくれるようになりまして、気づいたらお館様の元、本店側でククルーツイとのやり取りを担当する仕事についてたんでさぁ」


 最初は、ドンボはククルーツイの事情をよく知っているだけに世間話の中で意見を少し言ってみたりしていた。それが若かりし頃のアルムの祖父の目に止まった。

 そして祖父は取引を実際に手伝わせてみて、こいつは使えると支店からドンボを引き抜いたのだ。


「こんなあっしの何をそんなに気に入って頂けたのか分かりませんがね、そんな訳であっしはお館様にぁ絶対足向けて寝れんでさぁ」


 だからこそドンボは人一倍の忠誠心を持ってミンゼル商会に仕えてきたのだ。それは会長の愛する孫を信頼して任されるほどの確かな忠誠だった。


「いえ、僕はお爺さんがドンボさんを気に入った理由がよく分かりますよ」


「ほぉ、それはお館様からお聞きに?あっしにも何度か伺っちゃあいるんですが、結局はこれと言った解答は貰わずじまいなんでさぁ」


 人の良さそうな笑みを浮かべて頭を掻くドンボ。そんなドンボを見てアルムも思わずニコニコする。


「ドンボさんは、凄くしっかりした目を持っています。自画自賛するみたいですがそうではありません。あ、多分こっちの方がしっくりきます。ドンボさんは、“固定観念に囚われない物の見方”ができると思うんです。

僕と出会う者は誰だって僕を子供として扱おうとします。それは祖父であってもです。ですがドンボさんは見た目を抜きにして僕の内面をずっと見続けている。ザリヤズヘンズさんに初対面で僕を引き合わせたのもそうですし、2週間という常識外のスピードでこちらへやってきた僕をあっさり受け入れる。

普通は少し怯えられたり疑念の目で見られたり、異質な物を見る目で見られたりするんですよ?

ただの固定観念に縛られず、物の本質を見抜こうとするドンボさんの姿勢にお爺さんは何よりも目をつけたんだと思いますよ」


 アルムも最初はよくわからなかったが、街で1年以上も暮らせば元々聡いので周囲が自分にどんな目を向けているか徐々に理解し始める。アルムを深く愛する祖父や真摯に向き合ってきたゼリエフですら、時にアルムの底知れない能力に微かな恐怖の視線を送ることがある。


 その中でもアートは無条件で自らの息子を受け入れていた。アルヴィナは惚れ込んだ相手である故に受け入れた。


 そして明らかな一般人、ザリヤズヘンズの様な正体不詳の人物を除き、アルムに常に明るく接していたのはドンボただ1人。アルムが何をなそうとも坊ちゃんはすごいお人だと言ってドンボは受け入れていた。

 アルムを異端として処理するのではなく、1人の人間としてドンボは対応し続けた。


 そんな所にドンボの真価があるとアルムは思っていた。


 ドンボはアルムからの心からの賛辞を受けると、その顔をくしゃくしゃっと歪める。



「いや〜、参りましたね。坊ちゃんにそう言って頂けるなんて。でもそれはあっしの才能って訳じゃないでさぁ。あっしは本店の方で訛りのせいで正しく見てもらえない事も多かったですし、元より話し方や見た目じゃ何も当てにならん様なこの場所で育って来たんでさぁ。だからこそ人を見かけだけで見るんじゃなくその中身を見る習慣が自然とついたんでさぁ。でもそう言って頂けると、あっしの今までの苦労も全部報われるようでさぁ」


 

 勿論、ドンボには訛りを完全に直す選択肢もあった。だがそれは自分の為に一生懸命に働いてくれた両親の出身を馬鹿にするようで許せなかった。だからこそ訛りを直さずに成り上がってやろうと決意し精一杯努力してきた。訛りで田舎者だと油断する相手を逆手にとって、いつだってドンボは相手の予想の裏をかいてきた。そして1番の下っ端から自力で駆け上がっていったのだ。


「ところで坊ちゃん、ちょいと話を戻しますよ。実はあっしがNo3になれたのも3つの幸運があるんでさぁ。まず1つとして、昨年の3月に先代から仕えていた支店長が病気でお亡くなりになられ、後任がなかなか決まらないでいた事。

2つ目に坊ちゃんのお母様、アートお嬢様が引っ越してきて完全な主戦力として活動をする様になった事。これがまた目ん玉飛び出るくらいの凄いお人でね、流石は坊ちゃんの母親なんでしょうかね、あっしもそこそこ優秀と呼ばれる部類にいたつもりなんですが、1番の平から実力だけであっという間にあっしに追いついちまって。あっしが勝てるのはノウハウと経験だけになっちまって、本部が若干過剰戦力だったんでさぁ。

そして3番目が、坊ちゃんの鶴の一声でさぁ。お館様は本部が過剰戦力になってから、もともとあっしを支店長にすればいいんじゃあないかと考えていた様で。しかしこっちにもこっちで色々ありますし、あっしを強引に据えるにはあと1つ踏ん切りをつける為の何かが欲しかった。

そこに坊ちゃんがあっしに対する褒美を打診してくださった。するとお館様はこれ幸いとあっしに褒賞を理由にあっしに支店長を勧めてくれたんでさぁ。

で、あっしはそれをありがたく承諾させて頂きました。それからすぐにこっちに向ったんでさぁ。しかし離れて20年も経てば色々と勝手が違う。あっしも手探りだったんですが、そこに口をちょこちょこ挟んでくる年若い跳ねっ返りがいる。そいつは仕事人間で、採用されてからここでの職務に全てを捧げて生き続けてみたいでして、まあ若いってのに此処での生き字引みたいな奴でしてね。

だからあっしもどうしてもそいつを重用せざるを得ない。そしたらあっしが私生活ではてんでダメってこともすぐバレちゃいやして。何故か文句を言いつつもあっしの私生活の面倒まで見てくれて。

いやぁ〜〜男って胃袋掴まれたらおしめえですね。そいつは今やあっしの嫁さんです」



 途中まで男の部下の話かと思っていたのに、ドンボの綺麗なオチの付け方に思わずアルムは呆気に取られる。


「あっしももう37。結婚についてはとおにあきらめていたんですがね。あっちもあっちで仕事一本だったもんで浮いた話もなく、結婚適齢期限界の20才も手前。器量も肝っ玉も良しの19の嫁さんが今になってでできるとはぁ流石に思いもしませんでしたぁ」


「それは、本当におめでとうございます」


 経済的に余裕のある年上の男が年下の女性に仕留められるケースはそこそこ多い、というより結婚相手としては一般的なのだが、18才差は流石に珍しい。なかなか強かな女性だとスイキョウも感心していた。


「ありがとうございます。まあ家内も軽く接した感じの印象で損をし易い気質でね、おまけに獣人種と商人には珍しい種族だったので、あっしの境遇とか色々と共感するところがあったみたいでして。あっしもダメ元で結婚を申し込んだんですが、すぐに快諾してくれました。

ミンゼル商会では、お館様、アートお嬢様、坊ちゃんと三代に渡る幸運をあっしに与えてくださりました。1人でも欠けていたらあっしは結婚する事も叶わなかった。それは家内にも話してありましてね、そうしたら子々孫々に伝えていくって息巻いしてまして。そんな訳で、坊ちゃんはあっしら夫婦にとっては特別な存在なんでさぁ」


 ようやく話が全て繋がって、アルムは納得した様に頷いた。



「あっしはこっち来て落ち着いた事ですし、ここを出る前にもお坊ちゃんとはお話しできなかった事が心残りで、結婚に合わせてこの事も合わせてお手紙を書いたのが11月下旬。1月手前には届く予定だったんですが、それは坊ちゃんとはすれ違ったみたいですね」


「いえ、おそらくですが、すれ違ったのではなくサプライズの為にお爺さんが渡さなかったのでしょう。僕もかなり慌てて出てきましたし、お爺さんはドンボさんの手紙を持っていたからこそククルーツイの支店を頼る様に勧めたんだと思います」


「確かに、お手紙よりはこうして直接お話できた方が嬉しいでさぁ。そいでね、いろいろ考えたんですが、うちに招いてもやっぱり坊ちゃんはあっしらにすごく気を使ってくださるでしょう。なので希望なされる場所が有れば申し付けてくだせえ。あっしが個人的に責任を持って手配いたします」


「ありがとうございます。実を言えば僕も新婚の家庭に居候になるのは忍び無いとは思っていました。何かオススメとかありますか?」


「坊ちゃんがどの様に行動なさるかで少し対応が変わってきますね。三食付きなのか、それとも昼食だけは自己解決とか、極論寝る場所だけあればいいとか、それで結構選択肢は変わりますなぁ」


 自分の事をよくわかっているドンボの発言に、アルムはありがたく思う。


「実を言えば、ドンボさんが僕の安否をしっかり確認できる場所で自由に寝泊りだけさせていただければ、あとは勝手にやりますよ」


「普通なら正気を疑っちまいますが、実際に2週間1人でここまでやってきた坊ちゃんなら問題ないでさぁ。ではでは、あっしの幼馴染みが経営している宿屋を手配しましょか。そいつならあっしともつうかあの仲なんで、余計な詮索もしませんよ」


 そんな訳でトントン拍子に話が進み、アルムは当面の拠点を手に入れるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ