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 ザリヤズヘンズの元から戻ると、旅立ちの用意の仕上げに奔走し丸一日が終わった。推定2年分の食糧、各種季節に合わせた衣類、祖父の元でいらないものを一括で換金して得た金、その他必要と思われる物…………………ロベルタとゼリエフの認可推薦状、祖父の紹介状、ザリヤズヘンズの紹介状と重要な物は粗方異能で虚空に収納した。

 持ち歩くは祖父が用意した旅道具一式。そのままダミーとして活用するつもりだ。

 

 

 そして翌日、出発予定日。アルムは昨晩からアートや祖父達との長い時間別れを惜しみ、アートにある物を渡すと家を出る。そして昼過ぎにロベルタに匿われているヴィーナの元に顔を出した。

 

「っ!?アルム、どうして此処に?用意はいいのかしら?」

 

 ロベルタに通されてヴィーナの籠る部屋に行くと、ヴィーナは少し憔悴したような雰囲気ながらアルムを快く迎え入れた。

 

「今日出発するんだけどね、元から今日は予定を開けていたんだよ。今日、ヴィーナちゃんの誕生日でしょ?」

 

 アルムがそういうと、ヴィーナは泣きそうな顔になる。

 

「貴方の方が大変でしょう?どうしてそんな…………………」

 

「ヴィーナちゃんが大事だからだよ」

 

 アルムが真剣な口調で言うと、ヴィーナはそこで堪え切れずにその場で泣き崩れた。

 

 アルムがその傍らに座って寄り添うと、ヴィーナは纏まりのない言葉をアルムに言い続ける。それに対してアルムは丁寧に対応し続けて、やがて落ち着いてくると今迄の思い出を2人で語り合い続けた。

 

 

 

「もう、日が沈むわね」

 

 そして気付けば、部屋には茜色の西日が差し込んでいた。

 ヴィーナはそれを儚げな表情で眺め続ける。その姿にアルムは見惚れつつ、ある物を【極門】から取り出した。

 

「ヴィーナちゃん、遅くなったけれど、誕生日おめでとう。これは、プレゼントだよ」

 

 アルムが取り出したのは大きめのネックレス。しかしそれはなんとも無骨で、色々な光を放つ獣の牙がジャラジャラと付けられていた。

 

「雪食い草の時に狩った魔獣でも1番強い部類の魔獣達の牙を使ったネックレスだよ。骨っぽくなくて光ってたりするのはそのせいだから。それと幾つか細工をしているんだ」

 

 アルムはそう言いつつ、極めて強力な力を放つその一品をヴィーナの首にかける。

 

「そのネックレスはただのネックレスじゃないよ。呪い封じや各種耐性を付ける加護があって、使用者固定もしている。だからヴィーナちゃん以外に効果を発揮しないし、防盗効果も付いているよ。それと重要な機能が2つ付いてる。まずそのネックレスは、僕の生存と居場所を教えてくれる。母さんにも似た様な効果の物は贈ってるけど、ヴィーナちゃんは魔力操作に長けるからより精細に僕の居場所がわかるよ。それと…………………」

 

 そう言ってアルムは黒い珠が並んだブレスレット、スイキョウから見れば数珠に見える物を見せた。

 

「これを使えば、簡単な言葉のやり取りができる。単語の羅列になってしまうし、1日に多分10〜20単語くらいが限界だけれど、それでも会話ができるんだ」

 

 これがイヨドを拝み倒して製作に協力して貰った一品だ。簡単に説明すれば今は失伝した念話の魔法を組み込んだアイテム。イヨドでも半日で仕上げるのは多少の苦労を強いられた。

 

 

「遂に神賜遺宝物級をプレゼントしてきたわね………しかも自作…………」

 

 喜びも驚嘆も渦巻いているが、ヴィーナの中では色々な感情が鬩ぎ合い出尽くして、結局1番最後に出てきたのは呆れだった。

 私を驚かせ続けて心臓でも止める気かしら?そんなことさえヴィーナは思わず考えてしまう。

 

 

「あれ、なんかもっとこう、何をしているの!?って言われる覚悟だったんだけれど」

 

 拍子抜けした様なアルムを見て、ヴィーナは思わず笑ってしまう。

 

「今回は自覚あったのね。でもねアルム、貴方が私を驚かせたのは去年以上に事が最大なのよ。もう慣れてしまったというのもあるけれど」

 

 そう言って、少しの逡巡の後に意を決してヴィーナは左手の手袋を取った。それはちょうど昨年の今頃から毎日の様に人前ではずっとつけていた手袋だった。

 アルムや周りには日焼けに弱いからと説明していた。実際問題、異能の影響で日焼けは苦手なのだが、それが1番の理由ではない。

 

「貴方、とんでもない贈り物をもう私にくれているのよ」

 

 それは薬指に嵌る指輪。アルムとしても色々思い出があるが、わかってなさそうなアルムを見てヴィーナは呆れ混じりの微笑みを浮かべる。

 

「あのね、私の指輪って私の何処の指についてると思う?」

 

 アルムは何を急にヴィーナが言い出したのか分からず、キョトンとする。

 

「え、見ればわかるよ。どう見ても左手の薬指…………………左手の薬指?」

 

 そこで徐々にアルムの顔色が悪くなっていく。

 

「(レ、スイキョウさん!どうしよう!?僕とんでもないことにしちゃったかも!)」

 

《まあ落ち着け。まずはヴィーナの話を聞け》

 

 

 慌てふためくアルムに対してスイキョウの反応は落ち着いたもの。スイキョウはアルムの意識をヴィーナに向けさせる。

 

「そう、左手の薬指。勇者様が広めた風習では、左手の薬指に嵌める指輪は婚約指輪か結婚指輪なのよ」

 

 ヴィーナがそれを見せると、夕陽の名残りの光に照らされて指輪は微かに輝いた。

 

「ど、どうしよう!?だって、え、でもそれって外れないし!どうしたら…………!!」

 

 かつてない程に動転するアルムにヴィーナはクスクスと笑う。

 

「私を守ってくれた時や一昨日の帰りの時はまるで別人みたいな怖いほどの冷静さだったのに、変な人ねアルムって」

 

 実際に別人なのでアルムはなんとも言えず口を噤んでしまうが、思ったよりもヴィーナが全然困った風でないのを見てアルムも少し落ち着く。

 

「それでねアルム、この問題を簡単に解決する方法があるのよ」

 

 ヴィーナがその齢にして少し蠱惑的な笑みを浮かべると、アルムは激しく食いつく。

 

「え、それをどうにかする方法があるの!?しかも簡単に!?ヴィーナちゃんそんな方法を知ってるの!?」

 

 アルムが目前まで迫り少したじろぐが、ヴィーナもここ一年以上でもうだいぶ慣れ、苦笑しながら軽く押し返す。

 

「普段は恐ろしいほど頭がキレるのに、こういう時にアルムってホント…………………」

 

 はあ、と溜息を吐くヴィーナ。そして少し俯くと、何かを迷う様にモジモジし始めて、顔から指先まで徐々に赤くなっていく。

 

「それで、その方法は?」

 

 少しクールダウンしたアルムが再び問うと、ヴィーナが何かを言うが聞こえない。再び聞き返して ヴィーナの口の元にアルムが耳を近づけると、ヴィーナは絞り出すような掠れた小さな声で囁いた。

 

「アルムが、私を、貰ってくれればいいでしょ?」

 

 その言葉をこの情況で聞いて勘違いするほどアルムも鈍感ではない。ヴィーナが何を言わんとしているかに気づき、アルムの顔にも熱が集まる。

 

「私、アルムの事が好き。貴方に出会ってから、それまでの幸せを全て合わせても叶わないほど、貴方の側に居れたのが幸せだったの。貴方のその明るさも、大人顔負けの賢さも強さも、かと思えばちょっぴり抜けていてなんだかそれが安心できる、そんな貴方が大好きなの。だから、アルムがっ、私を、貰ってくれるなら、これ以上の幸せはないの」

 

 ヴィーナにとって一世一代の人生を賭けた告白。

 

 真っ赤になって硬直するアルムに、ヴィーナは追い討ちをかける様に囁く。

 

「この指輪は返品不可なの。アルム以外のところに私はいけないし、いきたくもないっ!だからっ!」

 

 そこで堪えきれなくなり、アルムは熱を孕んだ手で同じ真っ赤なヴィーナの手をギュッと掴む。

 

「待って、本当に少しだけ待って」

 

 アルムは俯いて懇願する様に告げる。アルムの熱は変温体質気味のヴィーナにはダイレクトに伝わり、ヴィーナは更に顔が赤くなって同じように俯く。

 

「僕は、本当にバカだった。正直白状すると、そんなつもりで指輪を送ったわけじゃない。だからまずはそれを謝っておかなきゃいけない」

 

 それはなんとなくわかったていた、ヴィーナはそう返そうとも思ったが、アルムはまだ言葉を続ける様なのでそれを待った。

 

「取り返しのつかない事をした。許されないかも知れない。でもヴィーナちゃんが何処かへ離れていきはしない…………………そう思うと、罪悪感以上に嬉しさが湧き上がってしまうんだ。自分で変だと思うのに、この気持ちが抑えられない」

 

 

 そうしてアルムは白状した。

 

 

「あのね、その、お別れを含めたプレゼントにネックレスをわざわざ選んだのは、ちゃんと意味があるんだ。勇者の口伝にあるんだけどね、ネックレスをプレゼントのは『あなたとずっと一緒にいたい』というのを意味するんだ。め、女々しいのは分かってたけれど、ヴィーナちゃんを誰かに取られたくなくて、それでっ!」

 

 熱に浮かされ様に暴露し始めるアルムに今度はヴィーナの方が耐えきれず、アルムの口を塞ぐ。

 

「あ、あ、アルム。ちょっと待って。これ以上勢いのまま続けられたら私が死んでしまうから」

 

 懇願する様なヴィーナに少しだけ落ち着きが戻り、暫くしてヴィーナが深呼吸して少し冷静になると、アルムは再び話し出す。

 

「順番がだいぶ逆になったけれど、僕もヴィーナちゃんが好きなんだ。誰にも取られたくない。だからこのネックレスを贈った。その身を守れるように、そして僕を忘れて欲しくなくて」

 

 アルムの告白に真っ赤になり涙ぐみつつもヴィーナはクスッと笑う。

 

「それは私の気持ちよ。貴方が旅立ってしまうと知って、忘れられてしまうかもしれないってずっと不安だったの」

 

 そう言ってアルムをギュッと抱き締める。

 

「私は貴方を引き留めたりしない。貴方が一度こうと決めたら頑固なのは良く知ってるから。でも全てが終わったら、できれば子供を産める歳の間に、必ず私を五体満足で迎えに来てね。もし全てがダメになったとしても私は貴方を受け入れるわ。いつでも私の元に来ていいのよ。あまりに遅かったら私が行っちゃうかも」

 

「…………………私が実力のみで辺境伯にスカウトされた訳では無いのは聞いていたから知っているわ。アルムを繋ぎ止める鎖として私は選ばれた。だからこれを逆手にとるの。ママも話を聴き終えると私に言ったのだけれど、私がこの指輪が正式な婚約指輪としての効力を持つと宣言すれば、アルムとの縁は絶対に切れない。そしてヴェル辺境伯も、私も手元に置いている以上絶対にアルムとの縁は切れないと思うはずだし、私を政略結婚の駒に使おうとしたりする事も無ければ、逆にたとえ私が誰かの妾などに望まれても全力でブロックしてくれるはずだって。

 でもそれは何がなんでもアルムとの縁を切りたくないとヴェル辺境伯に思わせる成果を見せ続けなければならいし、私とアルムの縁が絶対に切れないほど強固だって思わせる関係であることを示さなければならない。そう思っていたけれど…………………」

 

 そう言って自分の首にかかった魔力を感じない者ですら凄まじいと感じそうな程の力が籠ったネックレスを持ち上げる。

 

「流石に言葉を交わせるとか現在地がわかるのは秘密にするけれど、生存を知る事ができるこんな目玉の飛び出る様な代物を贈られたら、流石に私を適当には扱わないと思うの」

 

「うん、実はそれを意図してわざと力を見せている部分があるからね。それともう気付いていてるだろうけど…………………」

 

「あのローブでしょ?むしろあっちの方が色々と凄まじいというか、魔力や肉体その他諸々までいきなり最高潮の調子が続けば流石に隠蔽してても気付くわよ。貴方、指輪にネックレスにローブと3つも神賜遺宝物級のアイテムを贈って、どうしようってつもりなの?決戦兵器か何かにするつもり?」

 

「だ、だって、ヴィーナちゃんに万が一の事があったら絶対に嫌だったから」

 

 アルムが顔を赤らめつつ自白すると、ヴィーナはクスクス笑う。

 

「絶対に嫌だからと言って、神賜遺宝物を個人に贈る人って世界の何処を探してもいないわよ。それができちゃうからアルムがアルムたる所以なんだろうけど」

 

 あまりにクスクス笑うので、アルムは仕返しをする様にハグをし続けるヴィーナをギュッと抱きしめ返した。

 

「アルム、そう言えば2つ言っておかなきゃ。まず1つは浮気について。ママにも言われたけれど、ちゃんと責任を取るなら構わないわ。それと絶対に私を忘れないでね。ええ、アルムは気を悪くするかもしれないけれど確信を持って言える。貴方は絶対に旅先で数人以上女の子を引っ掛けてくるわ。私も引っかかった口だからよくわかるの。そして貴方は純粋な好意を向け続けられるとどうしても無碍にできない。でも英雄色を好むって言うし、実際に勇者様は沢山のお嫁さんがいたみたいだし、もう諦めてるわ」

 

 アルムが激しく動揺する一方で、『わー、やっぱり女の子の方が遥かにおっかない。12才の娘のセリフじゃねえぞ』とスイキョウは思いつつも、文化の違いとは凄いな、と素直に納得しておく。

 

「え、そんな、浮気なんて」

 

「アルムは知らないみたいだけれど、貴方の父さん、カッター様も現役最盛期は結構色々なところで噂になってるのよね。実はそれはアートさんからも聞いてるの。ここに来るまでには“はにーとらっぷ”とかいうよくわからない罠を散々かけられて大人しくなったみたいだけれど、やっぱりそういう気質はアートさんの前では見え隠れしてたみたいだし、夜は特にどうとか言ってたけれど、夜になんかあるのかしら?」

 

「ん〜、何も心当たりはないけれど…………」

 

 その手の知識はまだすっからかんな2人は首を傾げるが、スイキョウだけはアートがナニについて口を滑らせたか色々と察した。

 

「とにかく、貴方のお母さんにも言われたことがあるの。アルムはカッター様に似てもアルムのお爺さんに似ても、アルムはフラフラしちゃうかもしれないから気をつけてつけてって。特に昔からアルムの一族の男はそんな気質があるみたいなの。でも出来るだけ自重してね?」

 

「し、しないと思うんだけどなぁ〜…………」

 

 困惑した様なアルムだったが、言葉は交えていなくてもスイキョウもヴィーナの心は1つだった。

 

 無自覚に浮気するなこのコイツ、と。

 

 だがアルムに大きな悪影響を与えない以上はスイキョウもそこは止める気は一切ない。むしろ“そっち”の方の楽しさは良く理解しているので、男としてもガタガタ言う気はない。文化的な見ても裕福な男が複数人の女性を娶ることは推奨される。特に何か一芸を持つ者ならば特に国ぐるみで推奨している。何故ならその方が資材が分配されて貧民も減らせるしより優秀な子供が生まれる可能性が高いからだ。なのでスイキョウは放置する気満々だった。

 

 もっとドライに言えば、スイキョウにとってヴィーナは切り捨てても構わない存在。アルムが価値を置いているから配慮するだけで、ロリコンでもないので子供の面倒を見る感覚が先行する。

 

 どちらかと言えばアートやヴィーナ母、そこから−10才くらまでの年代がストライクゾーンに入ってくる。

 アート、それにヴィーナ母は現在28才。アートがアルムを産んだのは16才の時になるが、一般的な平民では15才で成人なので別に珍しい話でもない。特に寒い地域ほど早婚の傾向があるので順当な時期に結婚して出産したと言える。

 因みに帝国の法律上では種族関係なく正式な成人は17才と定められている

 

 

「それともう一つ。婚約したんだから、もうヴィーナはダメ。あとちゃんづけもダメ。少し子供っぽいから」

 

「え、子供っぽい?」

 

「ダメったらダメなの」

 

「わかったよ、————————アルヴィナ」

 

アルムが脱力しつつ微笑むと、ヴィーナ改めアルヴィナは、ハグは維持したまま少し体を離してアルムと向き合う。そしてアルムの顔をジッと見つけたあと、すっと自然に顔を近づけ………。

 

 

スイキョウの冷やかす様な口笛がアルムの中で響いたが、アルムは硬直してそれどころでは無かった。

 

 ◇

 

 

 

「(街とももうお別れか。引っ越してきてようやく全部馴染んできたのに)」

 

《黄昏た雰囲気出してるけれど、多分顔が赤いぜアルム君》

 

「(う、うるさいよスイキョウさん!)」

 

 街を出て元の自宅のあった場所を訪れたアルムは、じっと街の方を見つめていた。しかしスイキョウが茶々を入れると顔を赤くして反射的に口を押さえる。

 

《ほぼほぼ未遂じゃねえか。ほんとに口の端ギリギリで、『ちゃんとしたのは帰ってきたら』って……………予想以上に魔性の女になるぞあの娘》

 

 流石に妾ながら今なお豪商を虜にし続ける母親を持っているだけある。そんな風にスイキョウは思わず納得してしまった。

 

 

 スイキョウが郷愁に浸り過ぎない様にアルムを適度にいじっていると、背後で何かが降り立つ音がする。アルムが振り返ると、現れたそれは長く見ていなかったイヨドの完全体バージョンだった。

 

 

『お前も忙しい男だの。少し前に居住を移したかと思えば、もう親元を離れて旅立とうとしている』

 

「僕もこんな忙しくなるとは露ほども思ってなかったんですけどね」

 

 アルムが苦笑しつつ答えると、イヨドはフッと笑う。

 

『いや、力ある者は大体そうだ。知らぬうちに自分で種を蒔いて、後で自分で慌てるのだ。アルムも順当にその運命に沿っているだけだ』

 

 そう言うと、イヨドはその場にしゃがむ。

 

『今回は特例中の特例だ。乗れ』

 

「え?」

 

『どの使い魔よりも我ならば早く目的地へ向かえる。多少は誤魔化すために近隣で野宿することになるだろうが、自力で辿り着ける位置に連れてってやる。余計な事の為にわざわざ契約を結んだりするな』

 

《ツンデレ頂きました》

 

 スイキョウがどうでもいい事を呟くが、アルムはいじられてちょっぴりムカついているので無視する。

 

「本当にいいんですか?」

 

 アルムは恐る恐る問いかけるが、いいから気が変わらんうちに早くしろ、そう凄まれてしまいおっかなびっくりだがイヨドに跨る。そこでイヨグはニヤッと笑う。

 

『ところで、長き人生で誰かを背に乗せたのはアルムが2人目だな』

 

「え!?」

 

 アルムが思わず驚いて叫ぶが、イヨドはそれを気にした様子もなく濃密な魔力を溜め込むとこれまでで最大の咆哮をする。

 

 そして目の前に大きな氷塊が現れると、その中心のラインに沿ってベキベキと氷塊が自壊して鋭利な角を作り出し、その角の間から光が漏れ出す。

 

『しっかり捕まってろ!』

 

「え、あ、ちょ、わぁっ!?」

 

 慌ててアルムがイヨドにがっしりしがみつくと、イヨドはその光の中にスッと飛び込む。そしてアルムとイヨグの体がグニャリと歪んで平べったくなったかと思った次の瞬間、1人と1匹は光の狭間に吸い込まれ、氷塊は何事もなかったかにように霧散していった。

 

 

 

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― 新着の感想 ―
え?猟犬君、、?そりゃそのままではないだろうけど、、正体が分からなくなってきた
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