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「では次に、なぜ宮廷伯は除外されたのですか?」


 そう。もし辺境伯級の力を持つとしたら、宮廷伯も同時に疑う必要がある。しかしゼリエフはその可能性を語らなかった。

 

「宮廷伯は、その名の通り宮廷に出仕する貴族。皇帝陛下の守護と繁栄の為に影になり日向になり動く、最も古くから皇帝陛下一族にお仕えする一族達だ。彼らは基本的に帝都や、その周辺の帝都衛星都市を治めている。そしてその立場上、基本的に帝都周辺から動く事は無い。加えて、人の多い帝都やその周辺で、有名人のカッター君が一切目撃されずに活動できるとは思えない。それに宮廷魔導師の誘いを蹴るほど皇帝陛下周辺にはカッター君は徹底して近づかなかった。なのであまり縁故がある者はいない。なので関与しているラインは無いと考えた」

 

「宮廷伯が父さんに力を求めるようなケースは全く無いですか?」

 

「彼らは国家を支える迷宮などを管理していて、独自の兵力だけでも迷宮を探索できている。新しい迷宮ができてもその費用効果などを考えればカッター君に助力を求めるとは思えない。特に彼は守る事が得意で攻め込むタイプでは無いからね。あと彼等が力を求める線なら、戦争時の陣借りが考えられるが、皇帝の守護を担う彼らが兵力を外へ出すのは他国からの侵攻があった時だけだ。そしてここ暫くそんな大きな戦争は起きてはいない。その規模の戦いなら隠蔽は不可能だ」

 

「皇帝陛下やその周辺で、跡目争いに巻き込まれた可能性などはありませんか?」

 

 場によれば不敬ともとられかねない歯に布着せぬスイキョウの舌鋒にゼリエフはたじろぐが、子供の戯言と流さずに言葉を選びつつ真剣に答える。


「……………私とて、流石にそこまでは詳しくは分からない。しかし現皇帝陛下の支配は盤石。そして今なお壮健でいらっしゃる。次期皇帝陛下である第一皇太子様は今年で15才、成人になられ順調に皇帝への道を歩んでいらっしゃる。第二皇太子以下は既に大公として赴く地方への学習を始めていらっしゃるだろう。事を荒立てて皇帝の座を目指す勢力など存在しない。戦時下緊急事態の発生が確認されたなら、カッター君の異能をその守護に利用するかもしれないが、今は平穏そのものだ。私が手紙を未だにやり取りする帝都周辺にいる者達も何か変わった様な節は見られない」

 

 皇帝の警備に関わる機密情報遮断の問題で、消息を意図的に断たれたのでは無いか。少し種類は違うが、自分の出身国に存在した“特殊な警備部隊”は家族にも所属を明かせない決まりだったり、昔は情報秘匿の為に城の設計に関わった者を殺害したなど、そんな話がスイキョウの頭を過った。


 物理も魔法も、異能由来の力でも完全遮断できる障壁が使えればそれだけの価値はある。皇帝が多少脅しをかけて強権を使っても手元に置きたい力には間違いない。

 だが怪しい動きは一切無い。近々戦争を仕掛けるために、その準備で前もって身柄を押さえたラインも考えるが、ならば3ヶ月という具体的な期間は何処から出てきたのか。身辺警護の時間にしては不自然な期間だ。

 それに、カッターの書斎にはそのまま置いていくには惜しい道具などもそのまま残っていたし、居なくなる前にその別れを深く惜しむ様な事もしていない。

 カッターはそう遠くない期間で帰ってくる前提で家を出た気がしてならない。

 なのでスイキョウはゼリエフの話を聞き今の考えは放棄した。

 

 

「そうでしたか。そうなるとやはり、消去法的に南方の辺境伯が最も怪しいというわけですね」

 

 

「特に海沿いに面する辺境伯三家は、海にいる者達と小競り合いを繰り返しているし、港の防備や他国からの侵攻警備と武力は幾らあっても嬉しい。そこで何か途轍もなく大きなトラブルが発生した…………………私はそう考えたよ。それに南はそれなりに暖かくて気持ちの余力があるからか、辺境伯同士も仲が良くないんだ」

 

「その辺境伯について、教えていただけますか?」

 

 スイキョウが静かな声で問いかけると、ゼリエフは苦しげな表情で頷いた。

 

 

「これを君に伝える事が、君の安全を脅かさないか不安だ。自分が怖くて逃げ出した事を君に託す様なのも、最低な事だと思う。それでも、聞くかね?」

 

「ええ、その情報は僕にとって何よりも価値がある」

 

 スイキョウが力強く言い切ると、ゼリエフは頷いた。

 

 

「まず東側と南側の両方を海に面するナリ辺境伯家。その立地から海上防衛戦では指揮を任される家柄で、軍港も数多く存在する。だがその近隣の魚人族などとかなり揉めているのでトラブルが絶えない。

その左隣がナルヴィ辺境伯。辺境伯にしては領地は小さいが、その近くの海上迷宮の管理を任されており資源は最も潤沢。金遣いが荒く商人とトラブルを起こし、あまつさえ両隣の辺境伯にも余計なちょっかいを出す問題児だ。

そしてその更に左隣、大公領と接している形で存在するのがヴァーリ辺境伯家。呪いでもかかっているのでないかと思えるほど何故か骨肉に争いが絶えない一家でね、家がよく続いていると思えるほど家族間の仲が悪い。ただ海流の問題か、魚系の魔獣の出没が少ないので数多くの海産物を供給している。なので領自体はかなり裕福だ。

そしてこの三家は皇帝領の南方辺境伯同士だからか凄まじく仲が悪い。

10年前に軽い内戦が起こりかけたことも記憶に新しい」

 

 

 それを聞いて思わずスイキョウは乾いた笑いを浮かべた。

 

「どれも途轍もなく怪しいですね」

 

「ああ、それぞれの家がトラブルだらけだ。ナリ家は異種族、ナルヴィ家は商人、ヴァーリ家は家族、そして三家が互いに仲が悪い…………カッター君の異能と戦闘力があると嬉しい事情をそれぞれ抱えているわけだ。そしてカッター君が引退する原因となった傷を負ったのも海上での魔獣との戦闘中。幾らカッター君でも海上では思う様に戦えず、唯一大きなダメージを受けた場所だ。その防衛協力の要請も、いがみ合っていた三家連盟。そのダメージを与えた魔獣が3つの領地を跨り荒らしていた強力な奴だったからではあるが、彼と最後に公的なやりとりがあった貴族もあの三家だ」

 

「真っ黒ですね、笑ってしまうほどに」

 

 

 こんな疑って下さいと言わんばかりの存在がいるだろうか?ここまで清々しいと逆に白なんじゃないかと考えたくなるとスイキョウは思ってしまった。

 

 

「ただ、彼等は腐っても辺境伯。皇帝領の海沿いを一任され、侯爵に迫る発言力とパワーを持っている。よってその派閥の者もいろいろな場所に散らばっている。下手に動いてもあっさり返り討ちにされるだろう。此処からは君の将来についても重要な話をする。君はどんな手を使っても、父の真相を求めるかね?」

 

「はい、勿論です」

 

 スイキョウが即答すると、ゼリエフは僅かに苦笑する。

 

「迷いが無い。結構な事だ。では君が取るべき行動を今から伝えよう。荒唐無稽だが、平民が南方辺境伯三家と事を構えるには私にはこれしか方法が思いつかない。 

 まず君がすべきなのは、差し当たりヴェル辺境伯の手から逃れる事。彼は派閥を持たないが故に身軽で隙が無いが、逆を返せば彼の領地から離れてしまえばその影響力は極端に下がる。それは彼も重々承知。だから君は …………………あと数日で、早ければ明日にも、上冬が訪れる前にここを脱出しなくてはならない。上冬に入り身動きが取れない間に彼は完全に君への囲い込みを完成させてくる。だが彼に仕えるという事は、最も調査を行うべき南方から真反対の土地に縛り付けられてしまう。一度手に入れたら彼は決して君を手離さない。ここではその閉塞性が彼にプラスに働いてしまう」

 

 それを聞いて、ヴィーナは激しい動揺を抑える様に口を手で覆う。アルムの腕を掴んでいる方の手は力が強くなり、強張って白くなっていた。

 

「ある一定のラインを越えればそれで勝ちだが、もっと慎重を期すなら目指すは商業都市ククルーツイだ。あそこは帝国ができる前から様々な種族の代表が集まるのに使われていた歴史ある土地で、その名残りで今も数多の異種族が出入りしておりその分宗教も沢山ある。宗教都市とも言われているね。それ故に様々な派閥の貴族もいる。あれだけ貴族と商人、宗教家が集中している場所ではヴェル辺境伯でも手は出せない。あの街にはあの街の、貴族ですら簡単に侵せない独自のルールが多いからね」

 

「逃げて、その先は?」

 

「まずはククルーツイで一度周辺の整理をしなさい。彼の力が届かないから安心して動くことができる。訪れる者の多さからかなり安い宿も多い。そこで体をまず休めなさい。その後はその地で貴族についてより学びなさい。あそこは100歩歩けば貴族に会うなんて言われるほど多くの貴族がいる。実際にその空気を感じ、余裕があれば貴族の家同士の派閥関係について調べてみなさい。

それから、ククルーツイを勧めるのは3つの理由がある。

まず1つは、ククルーツイの図書館だ。あそこには様々な知識が収容されている。君にとって必要な知識もあるだろう。ヴェル辺境伯のメダルがあれば立ち入りは簡単に許可が下りる。

2つ目は、神グヨソホトートの教会。君の一族の主神である謎多き神、グヨソホトートを信奉する者は少なく、教会も少ないが、ククルーツイには教会が存在している。しかも分体が安置されている非常に力のある教会だ。君が出生した時もカッター君はそこへ君を連れて行ったはずだ。そこを必ず参拝しなさい。宗教と関わりが有れば他の貴族も余計なちょっかいを出さない。緊急時の頼りとして縁を結ぶといい。

3つ目は、カッター君について。彼が南方へ向ったなら、必ずどこかで食糧を補給し直すはず。あそこなら素性の知れぬ者も数多くいるし戒律で顔を隠している者も多いから、こっそり入れるだろう。そしてカッター君が利用したかもしれない商人に幾つか心当たりがある。そこで彼がククルーツイに訪れた裏付けが取れるなら最高だ。

おそらく落ち着いてから全部を遂行するのに1年はかかる可能性がある。気は長く持って行動しなさい」

 

 およそ12歳に遂行させるには無謀な計画だが、スイキョウはそれを受け入れた。


「1年ですか。その後はどうすればいいですか?」

 

「前後してしまったが、まず君の取り敢えずの目標は、成人までの5年以内にヴェル辺境伯や南方三辺境伯と事を構えられる宮廷伯に、メダルを貰った上でお抱え私兵になりなさい。成人を過ぎてまでのんびりしているとヴェル辺境伯が動いてしまうだろう。だからタイムリミットは5年だ」

 

「…………………帝都周辺から出てこない宮廷伯との接触は難しいですね」

 

「難しいどころでは無い。宮廷伯は皇帝の身の回りを守るだけあって人事には物凄く慎重で、基本的に士官の募集はしない。それに宮廷伯となれば派閥はかなり大きく、派閥内の子供達から優秀な者は数多く出てくるので人材も改めて雇い入れる必要もない。それを踏まえた上で、彼等が君を是非自分達の元に迎え入れようと思う成果を上げねばならない。魔獣の討伐1匹2匹じゃ見向きもしないぞ。自分達の派閥でも取って変われる者が居ない、野放しにするには逆に危険と思わせるほどの圧倒的な力を見せなければならない」

 

 ゼリエフはそこで一度言葉を切り、そして再び言葉を紡ぎ始める。

 

「さて、当面のゴールを確認したところで話を戻す。ククルーツイで準備を整えた後は、公塾に入塾しなさい」

 

「公塾ですか?」

 

「先ほど宮廷伯と言ったが、何処の宮廷伯でも良いわけではない。その中でも清廉で武力に秀でた宮廷伯に仕えなさい。それがゴールの後の話に繋がってくる。取り敢えず私が軍にいた頃で信頼のおける家は、テュール家、ヘーニル家、ウル家、ソール家、ビンドル家、ブリミル家の六つの宮廷伯だ。ロベルタ、皇帝領周辺は君の方が詳しい。他に何かあるかい?」

 

 ここでゼリエフが問うと、今まで気配を消して沈黙を保っていたロベルタが慌てた様子もなく話し出す。

 

「他にはありませんが、貴方の考えを予測するに、更に絞り込んでテュール家、ビンドル家、ビンドル家の三家を勧めます。それぞれ武の超名門で、迷宮を2つ以上管理し、帝都周辺以外にも多くの寄り子を持つ大派閥を形成しています。次点で同様の条件をクリアするブリミル家ですが、あそこはかなり保守的なのでアルム君の動きが制限されるかもしれません」

 

 ロベルタのアドバイスをスイキョウは頭に叩き込む。

 

「うむ、ありがとうロベルタ。今ロベルタの挙げてくれた四家にしても、彼等は派閥が大きいので人材に事欠かず、外へ出ばることもない。そんな彼らが確実に動く催し物がある。それは帝都衛生都市でも代表格の公塾のみが参加する、帝国最大の『公塾抗争』だ。貴族のみが通う学校にも引けを取らない質の公塾が揃い踏みするので、大会のレベルは非常に高い。そしてそれは帝都で開催されるだけあって貴族連中…………特に武の超名門一族は誰かしらが必ず顔を出す」

 

「先程挙げた四家と関係のある公塾を選択すれば、より目をつけられ易くなります。ですのでそのリストの中から、私は、帝国全公塾中で最も武を重んじるルザヴェイ公塾を推します」

 

 ゼリエフの言葉にロベルタの補足は分かりやすく、スイキョウは深く聞き入って頭に刻み込む。

 

「ルザヴェイ公塾…………………候補としては素晴らしいが、大問題もある。それはお金だ。支払うべき金額も帝国全公塾トップクラスだ。ロベルタ、大体の試算額は?」

 

 

「おそらく、公塾に入った後の事も考えると、最低でも4000万セオン必要です」

 

「桁が1つ多いですね。ククルーツイで1年かけたら約2年〜3年で4000万セオン稼がなきゃいけないんですか」

 

 

 スイキョウがポツリと呟くと、ロベルタは僅かにまなじりをあげる。

 

「肝が据わっていますね。これでも動揺すらしませんか」

 

「金額が大きすぎると逆に冷静になりますよ。それにそれを織り込み済みで話は展開していると思うので」

 

 スイキョウが冷静に返すと、これにはゼリエフも苦笑いする。

 

「何処までも底が読めないね。しかしここからが最高に荒唐無稽だがこれしか方法がない。君はククルーツイを出た後に、帝都衛星都市の1つであるバナウルルに拠点を置きなさい。その近くには魔重地がある…………………もうなにが言いたいかわかったね?」

 

 

 魔重地とは、土地の性質の一種で、原因不明ながら魔力が高密度で溜まった地域の事を示す。そこでは数多くの魔獣が棲息し、貴重な植物などが採取できる。魔獣は魔力の多い土地を好むからその土地に魔獣が多くなったのか、それとも魔獣が多くいるから魔重地が出来上がったのかは不明だが、かなりの危険を含む土地である。

 

 幸い魔獣は魔力の多い環境を好むので魔重地から殆ど出てこない。なので帝国の統治領には普通に魔重地が点在する。

 

 規模はまちまちだが、かなりの規模を誇る物もある。有名なのは、西端を南北に縦断する通称、『龍の峡谷』、北方を東西に横断する『狂界山脈』、帝国中央部南方の海の先にある『迷冥諸島群』。シアロ帝国の外征政策が下火になった原因の1つ、そしてギルドが干渉できない理由となっている、国の天然の防壁となる超巨大な魔重地だ。

 

 危険が多くある一方、魔獣が多くいるので狩ることができればかなりの稼ぎになる。帝国の軍が周期的に魔重地に入り間引きを行うと同時に、貴重な資材の確保を行う。

 

 魔重地はいわば必要悪でもあるのだ。

 

 その立ち位置は、完全な自己責任。そこで襲われても軍は絶対に救助はしない。完全な自己責任で立ち入りを許可されている。

 

「バナウルルの近くの魔重地は、魔力濃度のレベルが高い分魔獣の質も良い。危険が高いほどに稼ぎも増える訳ですね。確かに、2年で3500万の荒唐無稽な金額を稼ぐにはそれが一番確実ですね」

 

「やはり君は、実力をまだ隠している様だね。奢っているわけではなく、冷静に試算している」

 

 ゼリエフのそう言われると、スイキョウは肩を竦める。

 

「ゼリエフ塾長に隠し通すのは無理があるとは思っていましたので、もう今更隠すことも無いですし」

 

「それが君の本性って奴なのかな?徹頭徹尾冷静に努めるリアリストとギャンブラーが同居する、老獪な男だ」

 

「あくまで一面です。辺境伯のメダルを授与された時点で遁走も候補に入れていました。予期できていたので落ち着いていられるだけです」

 

「それでも異常だよ。12才の言動ではない」

 

「お褒めに預かり光栄とお返ししておきますね」

 

 今迄のアルムとは思えない語り口調にゼリエフはペースを掴めず、口を噤む。

 

 

「それで、もし僕がその三家のいずれかにお仕えできた場合、そのあとはどの様にすれば良いのでしょう?」

 

 ゼリエフは目の前にいる落ち着き払った少年が、途轍もなく得体の知れない化け物を宿している様に思えてならない。もしかして自分は何かを解き放とうとしているかもしれない。そんな恐れすら感じる。しかしここまできてゼリエフに黙り込む選択肢は無い。

 

 

「君が仕える事に成功したら、最終的に目指すは皇帝陛下の直接の請願だ。平民でも宮廷伯の私兵なら特大に勲功をあげれば謁見が可能になる。だが請願しても首が飛ばないレベルの勲功は滅多に挙げられるものではない。まず君は宮廷伯の私兵をする中でそこそこの武功をまず上げなさい。そして宮廷伯の代表の1人として陣借りをしなさい。

つまりは戦争で武功を上げるんだ。今、シアロ帝国と魔境の間の南方の島国が急激な勢いで力をつけている。魔境大陸の南部の大陸やシアロ帝国西方でも戦争が起こっているらしい。

その余波を受けて確実にシアロ帝国も巻き込まれることが予想されている。

望んでおらずともそう遠くないうちに戦争が起き始める。

一部では世界規模の戦いになるとも言われているのだ。君の活躍の場は必ずある。そこで総大将クラスを討ち取れば、確実に皇帝陛下に請願が可能になる。皇帝陛下が動けば、南方三辺境伯だろうが関係ない。元々胡散臭い奴らなのだ。大義名分を得たとばかりに調査に入り、真実はすぐに暴かれるだろう。これが私が最も確実と思える夢物語だ。そう、自分でも馬鹿にしたくなるほどにの夢物語だ。それでも、旅立つかね?」

 

 

 全てを諦めてヴェル辺境伯に仕えても、それは幸せな人生を送れるだろう。むしろ今後戦争が勃発しても引き篭り体質ヴェル辺境伯は決して動く事はないので平穏無事に過ごせる。子爵クラスの待遇を貰って、父カッターが守ろうとした獣人たちと交友を深める人生は、少々の不自由に目を瞑ればそれは平穏で幸せなものかもしれない。

 

「(アルム、どうする?)」

 

 スイキョウがまるで遊びにでも誘う様な軽い口調で問いかけると、アルムは答える。

 

《スイキョウさん次第かな。スイキョウさんが僕を助けてくれるなら、なんだってやってみせるよ》

 

「(可愛い事言っちゃって。そんなの分かり切ってんだろ?さあ、アルム自身が解答を出せよ)」

 

 

 そしてアルムは身体の制御を戻し、力の籠もった目で言い切った。

 

「やります、絶対にやり遂げます!」

 

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