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 ヴィーナの硬直がしばらく解けないハプニングがあったものの、交代交代で探査の魔法で外を探りながら2回目の夜を越したアルム達。

 アルムは寝ていると、ヴィーナに揺すられて目がさめる。

 

「おはよう。ねえ、アルム。多分晴れたわ」

 

「おはよう、雨止んだ?」

 

 アルムが探査の魔法で探ると、確かに雨は止んでいた。

 

「いつ晴れたの?」

 

「本当についさっきよ。雨が急に弱くなって、10分程でやんだから起こしたの。死体を腐る前に回収するんでしょ?」

 

「うん、そうだよ。それじゃあ、久し振りに出ようか」

 

 ドームの一角を破壊して久し振りに日光に当たるアルム。眩しい日光に目を細めて大きく伸びをすると、息を深く吐き出す。

 

「ん〜、陽の光が気持ちいいね!」

 

「そうね、春のお日様は気持ちがいいわ」

 

 だが呑気なのもそこまで。木々は吹き飛び動物の死骸が山済みの地獄絵図を見て、溜息を吐く。

 

「さっさとやっちゃおうか」

 

「ええ、早く帰りましょう」

 

 2人は他の動物などが寄って来る前に作業を終わらせるべく、魔法を駆使して魔獣の死骸や大型の獣を集めて【極門】に放り込む。

 

「これで、いいかな?」

 

「全部集めたはずよ」

 

 回収・整地作業は3時間以上に渡り、2人は汗を拭う。そして簡単な朝食を済ませる。こんな地獄絵図で腹は空くのかと思うが、2人とも命の危機を感じる経験を乗り越えているので、若干麻痺している。

 

「でもアルム、どうやって帰るの?足場は最悪よ?」

 

 ついさっき晴れたばかりなので地面はドロドロ。作業している間も2人は何度も脚を取られかけた。街から森へは下っていくばかりなので、なんとか降りて行けたが、逆に泥道を登るのは少し危険だ。

この状況で帰れるのか、ヴィーナの疑問は当然だが、アルムは苦笑する。

 

「正直に白状するとね、【極門】を見せて良くなった時点で幾らでもやりようがあるんだよ」

 

 そう言ってアルムは、鞍と蜥蜴の使い魔を呼び出した布の10倍以上の魔力の込められた布を取り出した。

 

「…………そうだったわね」

 

 アルムが布に魔力を通すと、布は生じた竜巻で切り刻まれて塵になるまでバラバラになり、その塵が1つの形を作る。

 

「緊急時用に契約していたペンガラサゴスドだよ。なかなか契約が難しかったんだけれど、どうにか成功したんだ」

 

「サラッと伝説に近い使い魔を召喚したわね」



 ペンガラサゴスド、プテラノドンをムキムキにして、頭をコモドドラゴンに挿げ替えたようなフォルムの使い魔。ほぼ全ての環境に於いて難なく飛行して見せ、加えて見た目と違い気性はとても穏やかで賢い。人を乗せることが可能なことも併せて非常に重宝する使い魔で、勇者も愛用していたと言われている伝説級の使い魔だ。

 ヴィーナはもう呆れ切ったような顔で、黒くてがっしりとしたペンガラサゴスドを見上げる。アルムはそれを聞き流すと、ペンガラサゴスドに言葉をかけて鞍を取り付ける。

 

「さあ、ちょうど木も無くなってるし、飛び立つ準備はOKだよ。空を旅って気持ち良さそうじゃない?」

 

 アルムとヴィーナが跨ると、ペンガラサゴスドは羽ばたき始めて、飛びたった。アルムはしっかり鞍にしがみつき、ヴィーナはアルムにしがみつく。上空は予想より寒く、アルムはスイキョウに交代してい力場を形成して風圧を減衰させてヴィーナに熱を供給する。

 

 途中にちょっかい出そうとする鳥などはいたが、アルムが光の矢で瞬殺する。

 

 アルム達はあっという間に森を抜けて、そこでペンガラサゴスドに降ろしてもらう。

 

「ありがとね」

 

 アルムが御礼を言うと、ペンガラサゴスドは竜巻に呑まれて消えていった。

 

 

「ここからはバレると面倒だし、歩きで行くしかないかな」

 

「アルム、もう少し空の旅の余韻とかないの?」

 

 ペンガラサゴスドをあっさり見送ったアルムにヴィーナがそう言うと、アルムは苦笑する。

 

「正直、思ったより凄いものでもなく…………」

 

「想像していた通りの程度の凄さ?」

 

 ヴィーナが答えを引き継ぐと2人して笑う。

 

「ペンガラサゴスドでだいぶショートカットできてるし、ゆっくり行きましょう?」

 

「そうだね」

 

 2人はどちらともなく手を繋ぐと、ゆっくりと街へ向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 森はショートカットできたが、森から街への道も馬ですら1時間かかる距離で、脚元もぬかるんでいる。

 2人はもう一生分の無茶をした気分なのでこれ以上頑張るつもりもなく、長い時間かけて歩いて行くつもりだった。だが歩いて15分、遠くの方で何かが大量に此方に向かっているのに気づく。

 

「何かしら?」

 

「探査の反応からして、馬とそれに乗る兵士……警備隊かな?それ以外にも普通の市民も結構混じってるけれど。それにしてはやけに鬼気迫ると言うか、多いけれど」

 

 少なくとも200はくだらない数の騎兵が森に向けて駆けていく。

 

「手でも振っておく?」

 

 ヴィーナが笑いながら言うと、アルムはふと気づく。

 

「あ、なんかわかっちゃったかも」

 

「え、何が?」

 

「あの騎兵達の目的が」

 

 そう言うと、アルムは上空に向けて大きな火炎を放射した。

 アルムの火炎に当然騎兵たちは気付くと、進行方向を変えて猛烈な勢いで此方に向かってくる。

 

「え、なになになになに!?」

 

 よくわからず、アルムの後ろに隠れるヴィーナ。だがアルムはニコニコしていて手を振る。

 そしてアルムが手を振った恰幅の良い男が、転げるように馬から降りて駆け寄ってくる。

 

「坊ちゃん!よくぞ御無事で!!」

 

「久しぶり、ドンボさん。僕等はこの通り、元気だよ。だから安心して」

 

 それは誕生日会の時に街を案内してくれたドンボだった。アルムは基本的にスイキョウの指示で商会関連の人々との接触は極力避けていたが、ドンボだけはザリヤズヘンズを紹介してくれた恩もあり、ちょくちょく話していたのだ。

 

「いやあ、本当に安心しましたわぁ。今街はえらい騒ぎでして」

 

「やっぱり?」

 

「へぇ、あれが怒髪天を突くって言うんでしょうね。坊ちゃん達が行方不明になった経緯を知って会長御夫妻が激怒しまして。どうも子供を残して警備隊が全員無事に引き揚げたのが1番の御怒りのようで、警備隊を束ねる貴族様の家まで怒鳴り込んじゃってまあ誰も手がつけられないんです。いつもはブレーキ役の奥様も激怒しているのでどうにもならず…………しかし坊ちゃん達が無事ほんっとうによかったでさぁ」

 

「うん、みんなも無事みたいでよかったよ。さあ、早く帰ってお爺さんの怒りを鎮めなきゃ」

 

「すんませんが、今の親方様には坊ちゃんの無事が1番の特効薬でさぁ」

 

 既にやってきたものの数人は街へ向けて全速力でUターンしていった。あの急ぎ用は相当のものだとアルムも見ていた。

 

「でもやけに人数が多いですね?」

 

 警備隊のみならず、商会の人々も駆り出されている。だが明らかにそれ以外の人種もいるのだ。

 

「それがですね、相当御怒りである親方様が、警備隊員より先に坊ちゃん達を見つけたら褒美を与えると言いまして、馬を持ってて動ける連中はこの通りでさぁ。あっしは商会の代表ですけどねぇ」

 

「そうでしたか。御心配をおかけしました」

 

「いやあ、そんなこと言わねえでくだせえ。坊ちゃん達のやった事は非常に素晴らしい事でさぁ」

  

 ドンボは心底安心したように、ニコニコと笑った。

 

「では、お爺さんにはドンボさんに褒美をあげてほしいと言いますね」

 

「いやぁ、あっしは有志じゃなくて商会の代表ですから、関係ねえですよ?」

 

「でも1番に声をかけてくれて、この中でも“ミンゼル商会会長の孫”ではなく僕自身の無事を心底喜んでくれてますから」

 

 アルムは別に周りに嫌味を言ったわけではなく、純粋にドンボの気持ちが嬉しかったのだ。

 

「坊ちゃんもとんだ人たらしだ。あっしもそう言ってもらえると嬉しいでさぁ。さ、帰りましょか。ああ、そうだ。一応たべれるものも持ってきたんですが、大丈夫ですかい?お嬢さんも大丈夫ですかい?遠慮なく言ってくだせえ」

 

「と、とんでもないです!大丈夫ですから!」

 

 出し抜けに声をかけられたヴィーナはビクッとすると、慌てて遠慮する。

 

「そうですかい?それでも疲れてはいるでしょう?」

 

 ドンボはそう言うと、女性の騎手を呼んでヴィーナを乗せさせる。そしてアルムは、アルムの希望でドンボの後ろに乗ることになった。

 

「それでは、行きましょか」

 

 

 

 

 

 

 

 アルムとヴィーナの乗る馬が何故か先頭になりゾロゾロと街へ帰還していくと、2人の女性を乗せた馬がこちらにやってくる。

 

「アルム!」

 

「アルヴィナ!」

 

 ドンボは顎でしゃくるとほかの者たちは先に帰らせて、アルムとヴィーナの乗る馬を止める。

 

「さあ、お二人とも。まずは1番に挨拶するべき人が来ましたよ」

 

 アルムとヴィーナが馬を降りると、前方から来た馬に乗る2人は乗り捨てるように降りて、こちらに駆けてくる。

 

 そしてアルムとヴィーナは各々の母親を抱きとめた。

 

「アルム!無事で良かった!怪我はない!?」

 

「ただいま母さん。まずは、心配かけてごめんなさい。身体の方は、ヴィーナちゃんも含めて傷1つないから安心して」

 

「いいのよ、アルム。貴方が無事ならそれで…………」

 

 アートはまるで夢ではない事を確かめるように、アルムの全身を撫でて、もう一度抱きしめる。

 

「さあ、お話は帰ってから聞きましょう。今日はヴィーナちゃん達も家に泊まってもらうわ。でもまずは、お爺さんに会わせないとね。お爺さんね、豪雨の中でも探せばいいとか無茶苦茶な事を言い続けて、それはもうアルムの事を心配していたの。今もすぐそこで待ってるわ」

 

「うん、わかった」

 

 

 

 

 

 

 それからはなかなか心休まらぬ出来事が続く。

 

 まずは歓喜のあまりテンションのおかしな祖父母を宥め、そのテンションのまま警備隊に嚙みつこうとする祖父母をまた宥め、何故か帰ってきたアルム(スイキョウ)が仲裁役になり続けていた。

 

 また色々とゴタゴタは続く。まず事情聴取で、アルム達の行動が明らかになり、警備隊員のみならず住民達が即時避難をしなかった事が発覚。

逆に、警備隊員達が退避したのはアルム自身が足手まといだから避難を託したと証言して、最前線にいた警備隊員も少しは罪も軽くなる。

 

 だが大問題だったのは、1番最初にアルムに声をかけられた警備隊員。彼はアルム達の荷物を託されたが、それをほかの警備隊員にもよく説明せずに持って行かせたので、誰かが勝手に売り払ってしまっていた。

 それが誰だかも分からず、再び祖父が激怒。法を守るべき者の看過できない行動に警備隊員を激しく怒鳴ったが、これにはスイキョウもフォローができない。どう考えても警備隊が雪食い草を収穫していないことなど明確なのに、それを売り払うのは故意的で普通に刑罰の対象になる。

 

 色々と明らかになっていく今回の騒動の問題点。

 

 最終的はこの領地を治める貴族自身が、数々の無礼の謝罪(警備隊の総責任者は一応領主貴族)と、住民を丸ごと救ったことを感謝して、直接アルムとヴィーナに頭を下げて恩賞を授与するほどの大騒動に。

 治めている貴族が親市民的で人間としてはまともなので謝罪したが、貴族が市民に頭を下げるのは大ごとだ。

 

 警備隊長は責任を取って辞任し、一番最初にアルム達の荷物を預けられた者は追放処分。その他問題行動があった者達にも然るべき処罰が下る。

 

 

 そんなこんなで色々なゴタゴタがあり、アルムとヴィーナがまともに塾に通えるようになったのは休みも開けて2週間も経った頃だった。

 

 

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