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「うーん…………じゃあやってみようか?」

 

「え、そんな簡単に出来るものなの?」

 

「簡単じゃないけどね」

 

 簡単じゃないが、ヴルードヴォル狼を加工した物を始めとした触媒などはいつも持ち歩いているので、アルムならやろうと思えば出来てしまう。

 

 特にイヨドがいる時にやるのはこれ以上にないくらい安心だと思ったのだ。

 

 ヴィーナの部屋は十分な広さもある。思い立ったが吉日と言わんばかりに、アルムは机や椅子を部屋の壁に寄せたりして色々と準備を始めた。

 

『本当にやる気なのか?…………まあ、見ていない所でやるよりマシじゃな。我も手を少しだけ貸してやろう。この娘についてもいろいろ分かったからな』

 

「じゃあ、お願いします」

 

 フッとイヨドが息を吹きかけると、氷の霧が部屋の床に漂い、高密度に魔力を集めて魔力の板のような物を作り出す。そこにアルムが電気などを貯めている加工した魔残油を水属性魔法の水流に乗せて魔法陣を描き出す。

 

「え、アルム?なにしてるの?」

 

 本来の『召喚の魔法』は凄く緻密で難しい魔法だ。

 一切の狂いのない精緻な魔法陣、場所、気候、季節、時間帯など膨大な条件に留意した上で、特定の供物や触媒を用意して平均1000節に渡る詠唱を行う。

 やりましょうか、と言われて急に出来るものではない。だいたい1年近く準備に時間をかけて丸一日近くを召喚に費やすのだ。

 

 だが、アルムは『召喚の魔法』ではなく、“召喚属性”と言って差し支えのない魔法を操ることができる。アルムの真骨頂は、膨大な条件も詠唱もカットして、さらにある程度条件指定をして使い魔を喚びだせる事にある。

 

 ここに魔獣由来の触媒としてなかなか良質な物を惜しげもなく使用して、イヨドのローブの強化に加えて、イヨド自身が軽い補助をする。アルムは目を閉じて集中すると、意識の奥に広がった無限に思える星々の空の様な世界で、ヴィーナに合う存在に呼び掛ける。

 

「僕が補助をする。ヴィーナちゃんは血を流して、魔法陣に触れて、自分の願いを込めながら魔力を流して。強き炎を、“探査の魔法”の時の炎の感覚を思い出しながら、一気に魔力を流して」

 

 何かとんでも無いことが目の前で起きている。ヴィーナもそれは理解しているが今更止められない。既に儀式は始まっている。泥の魔法を最も鋭利化させてヴィーナは幽かに震える指を浅く切ると、陣に触れて魔力を流す。アルムの魔力に流されないように目を閉じて深く集中する。

 

 その時、さり気なくイヨドが抜け毛を一本魔法陣の上に漂わせ、数節の微かな唸り声を密かにねじ込む。

 ヴィーナの魔力が混じり、魔法陣が光り輝くと、空間がそのものが燃えたように揺らめいて其れは喚び出された。

 

 体長は約2mほど。翡翠色に輝く鱗は小さな亀の甲羅のようであり、四本脚だが原型はどう見ても蛇。一方で首回りには獅子のような金色のフサフサとした毛が生えており、背骨に沿って生えた毒々しい黒い棘が特徴的だ。

 

 其れはヴィーナを見て、その薬指に鎮座する指輪に目を向けると恭しく頭を下げた。

 

『やはりか。蛇神ネスクイグイ、神々の中でも人間に割と関心の高い神じゃが、その眷属も寵愛を受けている者には従う様じゃな』

 

 一方、ヴィーナは今までに見たことないような、若干間抜けに見えるほど大きく口を開けてポカーンとしていた。

 

「これ、ペルダだわ。背中の棘には猛毒があり、とある地で業火を撒き散らし、勇者と十尾の白狼に懲らしめられた伝説の悪蛇。伝承の中だけの存在だと思ってた…………」

 

 それを聞き、まるで応えるように推定ペルダは口から軽く火を噴く。

 

「ア、アルム!こんなのどうやったら契約するのよ!?」

 

「その指輪、そこにある魔力を与えてやって。それが1番喜ぶから」

 

「どうしてそんなことがわかるの?」

 

「…………ヴィーナちゃんにも、まだ秘密」

 

 ニコっと魅力的な笑みを浮かべて誤魔化そうとするアルムに、ヴィーナは言い様もなく心かき乱されるが、今はそれどころではないと心を落ち着かせる。

 

「待って、でも私、作法とか全然知らないの!」

 

「大丈夫。その意を示せば僕が仲介する」

 

「そ、そんな事…………」

 

「出来るんだよ。かなりの裏技だけどね」

 

 最近こんな事ばかりだと思いつつ、そんなアルムにやはり惹かれるのは、惚れた弱みか、自分も変だからだと諦めることにして、ヴィーナはアルムの指示に素直に従う。

 アルムはヴィーナに魔力導線を繋ぎ、それを指輪に繋げ、さらに召喚属性魔法で強引に間に介入して導線をペルダに繋げる。

 

「よし、できた。あとは名前をつけて」

 

「え、いきなり!?…………だったら、ペルダが暴れていたとされる今は無き場所から名前を取って、『ラフェルテペル』。貴方の名前は、ラフェルテペルよ」

 

 その瞬間、導線を高濃度な魔力が走り抜けてラフェルテペルに供給される。魔法陣が光り輝き、その光が全て収縮して使い魔に吸い込まれる。

 

「…………これで完了だよ。ふぅ、なんとかうまくいったね」

 

 いつのまにか滲んだ汗を拭い、アルムはホッと息を吐く。

 

『我が介入したが、契約条件は簡単じゃ。この小娘の命令をある程度聞きその身を守る事。対価は我の抜け毛。恒常的な対価は指輪の魔力だ。一応として1日に一度は体内魔力の1/4程度を指輪に供給しろとも言っておけ』

 

 イヨドの言葉を所々ぼかして要点だけアルムがヴィーナに伝えると、ヴィーナは驚き呆れていた。

 

「本当にそんな対価でいいの?塾で習っていた物とはだいぶ違うように思えるけれど」

 

「それは…………秘密。友達への出血大サービスって事でお願い。周りにも絶対に言っちゃダメだからね」

 

 色々言いたいことはあるのだろうが、ヴィーナはそれを溜息として吐き出して、体を摺り寄せてきたラフェルテペルを撫で始めた。

 

「自分でいきなり喚び出しておいてなんだけれど、ヴィーナちゃんは蛇とか平気なんだね」

 

「え、えぇ、その、うん…………だって私が信奉しているの、蛇神ネスクイグイ様よ?私達にとって蛇は勿論神聖な生き物として敬愛すべき物なの」

 

「そっか。だから平気なんだね」

 

 いくら使い魔とはいえ、自分より体長の大きな蛇をヴィーナが撫でる様は、アルムにとっても少し驚く光景だった。一方、スイキョウはヴィーナの言葉の感じからそれだけでは無いと思っていた。

 蛇女、ガキンチョの言葉は何を示唆していたのか。スイキョウは何となくあたりが付いていた。だがヴィーナがアルムに打ち明けていない以上話す事でもないかと、1人胸のうちに言葉をしまう。

 

「鱗はとてもすべすべしているのね。それに宝石みたいにキラキラしているわ。毛も金色で凄く綺麗ね。ねえ、知ってる?悪蛇ペルダの背中の棘に付いてる毒は、擦り傷から流れ込んでも死んでしまうほど強くて、龍も食べようとしなかったらしいの」

 

「でも勇者が退治したなら、この世界にいたって事でしょ?魔獣なのかな?」

 

「そうね…………使い魔が何処からやって来ているのか、未だに謎が多いものね。もし伝承通りなら、この子は魔獣ってことになるけれど、野生の魔獣が言葉を解す事はほぼほぼありえないし」

 

 噂では非常に高齢の龍などは人間の言葉を理解するとされているが、これも確固たる証拠は無い。おとぎ話の内容と事実がごちゃごちゃになりがちなのだ。同様に、色々な話がありすぎて、使い魔が何処からやってくるのか実は誰もよく分かっていないの。そんな不確実な物なのに術として広く知られているのは、ひとえに信者も含めて謎が多い愉快犯気質な神が教えたからだと言われている。

 

《イヨドも眷属って言っていたな》

 

「(神の眷属でも末端なら言葉は理解しても不思議じゃないよね。説としては最も有名だけれど、イヨドさんの言葉でほぼ確定かな?そうなるとイヨドさんも何かの眷属ってことになるけれど、狼の神様なんて居たかな?)」

 

 今、一般的に最も有力な説は、召喚できる使い魔たちは神々の眷属のなのではないか、という説だ。それは信奉する神々にちなんだ使い魔が召喚されやすい事例からそう推測されている。現にヴィーナは蛇神を信奉しており、召喚したのは蛇形の使い魔だ。

 

 因みにアルムの信奉するグヨソホトートは時空神、空間神、次元神、虚空神、境界神などとされていて、“超越の叡智と無限の星々を内包し、固体と液体と気体の全てが入り混じる揺蕩う黒の虹の泡沫”という姿で表現されることが多い。

 神々の中でもかなり謎が多いが、その力の絶大さは、彼の神の時空を歪める神賜遺宝物(レリクヴィア)の凄まじさから証明されている。また、その存在そのものが魔法という現象とされており、昔から続く古い魔術師の血筋で信奉されているケースが多い。

 

 グヨソホトートを信奉するアルムの血脈が発現する異能【極門】は、この神の性質に準じている物が多い。 

 そんな不定形タイプの神を信奉する者が召喚する使い魔は、これまたよくわからない形状をしているものが多い。かと思えば知能は高かったりするのも特徴の一つとして挙げられる。

 

 他の例を挙げると、水神ルクトゥの信奉者は、海棲系の形状を取る使い魔が召喚され易く、風神スートハゥルの信奉者は鳥系の使い魔、豊穣神と獣神に二面を持つニュグシスラブの信奉者は家畜系の使い魔が喚び出されることが多い。

 

 また、一説では生物と非生物の中間たる迷宮に生まれ出る謎の生命体である魔物との関連性が指摘されている。

 使い魔は魔物同様に実体と非実体の中間にあり、食物を必要とせず、討伐しても素材などは手に入らず魔力塊になって消滅する性質を持っているのだ。

 

 むしろイヨドの抜け毛が残る方が不思議なのだ。

 いや、それとも故意に残しているのか。アルムはそこら辺をイヨドに問うのは藪蛇だとスイキョウに止められたので聞いていない。

 

 閑話休題。

 

 

「それにしても、思ったより使い魔って人懐っこいのね」

 

 ラフェルテペルはスルスルとヴィーナに巻きついて大人しく撫でられており、ヴィーナもまきつかれてもまるで動じていない。猛毒の棘は危なくないかと心配になるが、そこはラフェルテペルも心得ているようで背はできるだけ外側に向けている。

 

「この子ってずっと居るの?」

 

「姿を消して待機してもらう事もできるよ。ラフェルテペルは多分とても頭が良い方の使い魔だから、言葉はかなり理解できている方だと思うし、言えばわかるんじゃない?」

 

 アルムがそう言うと、それに応えるようにラフェルテペルの身体が燃え上がって消えていき、炎と共に再び現れる。

 

「…………ほらね?」

 

 ここまで空気を読める使い魔もいない気がするけど、とアルムは思いつつ素直にヴィーナが感心しているので余計な事は言わないでおいた。

 知能が低いと命令を聞かなかった利して割と困ることが多いのだが、逆に知能が高くても、いや知能が高いものこそ人と同じく性格の問題などが色々と出てくる。その中でもラフェルテペルは相当に良い性格なのではないかとアルムは思った。

 自分の頭の上に再び鎮座している、思いついたように拷問、もとい地獄の様な鍛錬を課してくる使い魔に比べたら遥かに性格が良さそうだ。

 

 アルムも少し撫でられるかと思い手を伸ばしかけたが、ラフェルテペルは牙を剥き激しく威嚇する。しかしこれは悪い事ではない。威嚇したあたりもちゃんと仕えるべき者が分かっている証拠だ。だがすぐにヴィーナに叱られて何処かシュンとしたようにも見えた。

 

「あははは、怒らないであげて。主人以外に簡単になつかないのは使い魔としては非常に優秀ってことだからね。それに契約者の言うことをそこまで素直に聞けるのも珍しいし、凄い大当たりなんじゃないかな?」

 

 かなり酷いケースだと、敵陣に送り出したのにあっさり懐柔されていたり、契約者を巻き込む形で敵に攻撃したりし始める。だからアルムはわざわざ追加で使い魔を召喚しない。そんな事だったら自分でやった方が確実だし、実際になんとかするだけの能力があるからだ。最大魔力量が減ることの方がアルムにとってはかなり問題となる。

 

 

「これで指輪の分は返せたかな?」

 

「貰いすぎよ…………どうやって返せばいいのよ」

 

 ヴィーナは凄く困ったような顔だが、嬉しさが全身からオーラの如く滲み出ていた。

 

 実際にアルムの事情や心象などを度外視したら、客観的に評価すると本当に過剰すぎる償いだろう。ラフェルテペルクラスの使い魔をまともに召喚しようとすると最短でも20年、下手すれば30年近い時間がかかってもおかしくない。

 だがヴィーナも流石にラフェルテペルが悪蛇ペルダの種族そのものだとは考えていなかった。おそらく似た姿の使い魔が召喚されたんだろうな、程度に今は思っているのが不幸中の幸いかどうかはヴィーナ次第といったところだろう。

 

 

「本当にありがとう、アルム。貴方の誕生日に何をお貸しすればいいのか今から凄く悩みそう。アルムの誕生日っていつなの?」

 

「7月30日だよ」

 

「私より6ヶ月年上なのね」

 

「ヴィーナちゃんは少し年上かと思ってた。遅生まれなんだね」

 

 スーリア帝国では年度を基準で考えるので、学年と言う視点で考えるならヴィーナはアルムと同じ学年だ。

 

「老けてるって事…………?」

 

「ヴィーナちゃんの年なら大人びてるっていうと思うんだ」

 

 11才で老けてるは無いだろうと思わずアルムは笑ってしまう。

 

 その日はアルム達は普通に歓談のみを行い、お昼頃になったの家に帰って行った。

 

《なんかようやく友達らしい事をしていたな》

 

「(え?)」

 

《だって顔を合わせればアルム達は魔法だなんだって言うから。ヴィーナが鍛錬バカって言うのもわかるわ》

 

「(………………)」

 

 その帰り道、しみじみとスイキョウにいわれ、アルムは今までの行動をちょっと反省したのだった。

 

 

 

 



 

 

 冬休みの期間は、アルムにとって充実した期間だった。

 親戚相手の家庭教師業はスイキョウがガンガン進め、2日に1回はヴィーナ家に両家の母親公認で訪問して(気づいたアートに手土産を毎回持たされたのでヴィーナ母は恐縮しつつも喜んでいた。そしていつのまにかアートとヴィーナ母の文通を仲介することになっていた)、ザリヤズヘンズの骨董屋で掘り出し物を物色し、スイキョウの魔法用の器具の開発をして、アルムの新しい魔法を開発し、塾の復習もして――――イヨドの拷問もとい鍛錬もあったが、今は過暴走による失敗もかなり減り、どちらかと言えば対魔獣などを想定した近接戦闘を仕込まれているので痛みも激減し―――周りに比べてかなり生き生きした顔で冬休みを満喫していた。

 

 

 ヴィーナ家も、アルムが毎度毎度ミンゼル商会で取り扱う食料品などを携えて訪問するので食卓が豊かになり、ラフェルテペル(ヴィーナ母も面食らったが、ヴィーナ母もネスクイグイの信奉者で、アルム絡みだと聞くともう諦めの境地であっさり受け入れた)のお陰で部屋は暖かい。

 ヴィーナ母は色々と似た悩みを持つママ友になったアートとの文通を楽しみ、ヴィーナはアートが頻繁に尋ねてくるので寂しさを覚えることも無かった。

 

 その内にヴィーナ家の提案で昼食もヴィーナ家で頂くようになり、アルムとアート、ヴィーナ家の繋がりは非常に密接になっていった。

 

 そして3月も半ば、降雪もペースダウンしてそろそろ冬休みも明ける頃、ちょっとした提案がアートからなされた。

 

 

「そんなに緊張しなくてもいいんだよ?」

 

「だ、だって…………」

 

 いつもアルムばかりお世話になるのも悪いので、と、ヴィーナ家をアルムの家に招待したのだ。

 

「あのね、ミンゼル商会って言っても、僕の家は離れだからお祖父さんたちとは同居していないんだよ」

 

 ヴィーナは色々と緊張していて、アルムが家に迎えに来てからアルムの腕にずっとしがみついており、その後ろからラフェルテペルに道を整備してもらいながらアートとヴィーナ母が談笑しながら着いていた。

 

 どうしてあんなに自分の母親は呑気なんだと少し恨めしそうに見てしまうが、今更後戻りもできない。

 

「でも初訪問でいきなりお泊まりもおかしいと思うの」

 

 アートとヴィーナ母の文通でいつの間にか計画されていたヴィーナ家のアルム家訪問は何故か泊まりにまで話が膨らんでいたのだ。

 そしてそれを知らされたのはつい昨日。ヴィーナは大慌てだったが母も取りつく島もない。何を喚いても『じゃあ行きたくないのかしら?』とニヤニヤしながら聞かれると、口を噤むしか無いのだ。

 

「うーん、ヴィーナちゃんだって僕に泊まっていって欲しいって言うことだってあったし、一緒じゃない?」

 

「一緒じゃないの!」

 

 アルムはやはり1人でレディーの家に泊まるのは無し、というか脳内ミニロベルタの指示でこれを固辞していた。その話がアルムからアートに伝わり、『じゃあ母親同伴でヴィーナちゃんに泊まりに来て貰えばいいのよ』、というアートの素敵発想でお泊まりが計画されているので、翻ればヴィーナが原因である。これがまたヴィーナも強く反対できなかった理由だ。

 

「ヴィーナちゃんが嫌なら……今からでもやめるけど…………」

 

「嫌じゃないの、嫌じゃないからややこしいの!」

 

 先程から2人はこんな内容の話をループし続けている。天然で緩いアルムに、シンプルに気恥ずかしい気持ちが原因で反対しているヴィーナでは対抗できないのだ。

 それに部屋割りも心臓に悪い。アルムとヴィーナが一緒で、アートとヴィーナ母が一緒なのだ。ベッドとか礼儀とか色々とヴィーナは言ってみたが、母親達がそれでいいと言っているし、むしろ少女に戻ったような若々しい感じでアートとヴィーナ母は楽しそうにしている。

 

 それを見ているとヴィーナは強く言えず、頼みの綱のアルムといえば、『僕の部屋はかなり暖かいしベッドも大きめだから大丈夫』とズレた回答。スイキョウは心の声を遮断して、堪えきれずに笑いながらヴィーナの精神にお悔やみを申し上げた。

 

 アルムとしても、全く持って気にしていない、と言うわけでは無いが、ヴィーナと長く一緒に入れるし、ちょっぴり悪いと思う事(多分ロベルタなら怒る)をする事に年頃の少年らしく妙なワクワク感を覚えていた。

 

 レディーの家に泊まるのはダメと言っているが、自分の家で一緒にベッドで寝る方が多いに問題である。だがそこはアルム、あまり深い意味を考えていない。そもそもロベルタも一緒のベッドに寝る状況を今のアルムに教授するわけがなく、アルムは持ち前の天然を発揮していて自分の理論の矛盾に気づいていない。

 

 しかしやはり女性の方が成長は早い。ヴィーナはアルムが学術書ばかりだったのに対して物語も沢山読んでいるので、男女が一緒に寝ることはダメな事なんだという事はなんとなくわかっている。

 特にアルムと共に過ごすようになってからはヴィーナは男女関係という物を色々と意識するようになった。適当に整えていた身嗜みとかも、母親に笑われるほどチェックするときもあり、今まで全く興味を示していなかった衣類にも母親に色々と聞いたりするようになったのだ。

 

 そしてそれらすべてを全部わかっていながら仕組んでいるであろう母親ペアに、余計に少しの腹立たしさと恥ずかしさを覚える。

 

 

 外堀を埋めていたつもりが自分ごと埋められている気がする。

 ヴィーナはそんな気がしてならないのだった。

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] >謎が多い愉快犯気質な神 わが神(ニャル)じゃないかw >グヨソホトート やはり宇宙二番目ヤバイお方w というかアルムの一族ってもしかしてヨグ様の血が入ってる?
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