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「あ〜…………くっそ。バカクソいてぇ………」


 本当に予告通り厳しい鍛錬が行われた後、スイキョウは痛がるアルムの為にすぐ肉体を代わってやったが、その痛みはかなりの物だった。


 イヨド曰く、自分は破壊特化なので、腕が千切れたりしたら即座に治療しないと治せないとの事。絶対に過暴走を戦術に組み込むなと叱られた。

 勿論イヨドの言ってることは絶対に正しいのだが、体が辛い事に変わりはない。


 しかしいつもよりほんの少しだけ楽な気がするのは、鬼のイヨドにも多少考えるところがあったからだろうか。

 夜寝る前にスイキョウが思い出した筋肉痛を抑える手法、体を暖めるのと氷で冷やすのを繰り返して軽いストレッチをしたお陰か、はたまたこの地獄の鍛錬にも効果があるとわかったからか。


 イヨドには柔軟体操も命じられていたので、スイキョウは涙目になりつつ脚の筋をゆっくりと伸ばしていく。


 因みにアルムは朝一で痛くて泣きべそをかいたので今は精神休養中である。全く反応がないあたり疲れ果てて眠っているようだ。



「(イヨドは鬼畜どころじゃないな。アルムをスーパーサ◯ヤ人にでもする気か?)」


 まだ海◯拳ぐらいでいいのにとかぶつくさどうでもいい文句を言って溜飲を下げつつ、スイキョウは魔力を体内に循環させる。


「(さーて、やりますか)」


 実のところ、スイキョウが肉体側になる機会が多いのは、アルムの為だけでは無く万が一の時の為に自分も痛みに慣れるためである。もともとアルム達の環境に比べれば随分温い環境で生きてきたと自覚しているスイキョウにとって、自分の感覚の矯正は必要不可欠だった。

 そしてもう一つの目的が、魔法の練習。イヨドが鍛錬の為にアルムの部屋には防音から始まる各種防衛魔法をかけているので多少ぶっ放してもビクともしない。この部屋はいきなりでてくるイヨドにさえ警戒すれば魔法の研鑽にとって非常に素晴らしい部屋となっている。

 

 スイキョウは探査の魔法を放ってアートが来ないことを確認すると、机の上に置いてあった銅の籠手と、量熱子鉱、ザリヤヘンズから買った強力な磁石の入った玉を持つ。


「(とりあえずは色々と出来るようになってきたが、操作は難しいな)」


 量熱子鉱による高熱の取り出し及び気圧の操作は大分慣れてきたが、いまだにスイキョウが魔法が使う時に思い浮かべる魔力の見えない腕みたいなものでは制御が追いつかない事があった。


「(魔法があっても一応物理法則が成り立つあたりよくわからんが……)」


 なのでそこから試行錯誤した結果、最近は導線のイメージで魔力をコントロールするようになった。その魔力の導線を銅の籠手……コイルの末端と末端を繋ぐようにして、磁石をコイルに沿うように動かす。それをもっともっとも素早く動かして魔力でコイルに負荷をかけていく。


 そうすると、魔力で繋いだ導線の部分に光が瞬きはじめた。


「(最近はようやくこの電気のコントロールができるようになってきた訳だ)」


 その電気のエネルギーを、量熱子鉱の熱を取り出す時のように取り出して圧縮し少しずつ溜めていく。今は磁石を自分で動かしているが、それをもっと簡易にする方法をスイキョウは既に思いついているが、今はまだ手動でやるしかない。


 1分ほどして限界までエネルギーを貯めた後は、瓶の中に収められた赤黒いドロッとした液体の中にエネルギーを移動して解放する。


 この液体は魔獣の身体から取れる魔残油だ。魔力を貯めておける物質として、魔力を使って動く【魔道具】なる製品のエネルギー源だった。その性質に興味を持ったスイキョウが魔残油について色々と探った結果、電気や熱やらのエネルギー保持効率が途轍もなく良い素敵物質であることが判明したのだ。


 それに気づいてからは、ヴルードヴォル狼討伐時に得た魔残油に電気エネルギーをスイキョウは貯め続けている。しかも中に含まれている魔力と電気が混じり合って更に操作しやすい電気エネルギーになることも突き止めている。


 この電気を貯めた魔残油の瓶を2つ用意して、魔力導線を作り電気を放出させる。2つの電線となった魔力導線の周りにはスイキョウも原理が理解できてないがなぜか磁場が発生する。


「(右ねじの法則なんて、そうそう実生活で役に立つものじゃないと思ってたんだがな…………)」


 スイキョウは自分自身で、無から有を作り出すことはとても苦手だが、既に有るものを操作することは得意だと自認していた。

 電気と磁場を発生させれば、あとは増幅や減衰をしてコントロールするだけ。これを何かに使えないかがスイキョウのここ最近行っている実験だった。


 魔力導線や魔残油はエネルギー減少率が極めて低く、元手さえあれば長時間に渡る操作ができる。例えば今しがた1分の間に増幅して貯めた電気エネルギーは、無駄遣いしなければ1週間は色々と実験できる。

 今のところ激しく身体を動かしたくない時間が多いので、暇にかまけて調子に乗って色々やってみた結果、魔残油にはおそらく10年以上は無駄遣いできるほどのエネルギーが溜まっていた。それを溜め込める魔残油も不思議なのだが(イヨドの抜け毛とかも勝手に使ってアルムと実験し続けた結果、既に魔残油と言える物か微妙なラインの物質になっているが)できるに越したことは無いと思っていた。


 むしろ仕組みを難しく考え始めると常識や物理学の理論にぶち当たり魔法が使えなくなりそうなので、スイキョウはある程度寛容に捉える事にした。そう、できるもんはできるんだからそれでいいいという脳死理論である。物理学で空気抵抗力や摩擦量を0としても気にしないのと同じだ。


 なお、1番最初に魔法を使ったときはスイキョウは重力及びそのベクトルを操作していたが、今は色々な検証の結果、重力操作は封印する事になっている。


 簡単な話、重力の操作は精密な操作をするには大き過ぎる力だったのだ。魔力消費の効率も起こせる現象に比べて極端に悪く、ヴルードヴォル狼にトドメを刺した魔法の1つであるものの、1発で魔力残量が危険域に到達するレベルだったのだ。


 その代わりとして色々考えた結果、スイキョウは身近なエネルギーとして電気と磁力に目をつけた。此方の方が任意でエネルギーを操作できるのではないかと思ったのだ。

 結論から言えばその考えは正しかった。


 操作対象が金属に偏るが、代わりに電気という強力な力を操作できるようになったし、その副産物として力場もある程度操作できるようになっていた。操作段階が増えるのでコントロールは楽ではないが、威力操作や魔力消費効率からすると重力のベクトルを弄るより格段に魔力消費効率が良いのだ。


「(ま、速効性からしてやはり電気が今のところ1番強いか)」


 電気エネルギーを必要量取り出すと、魔力による圧を電圧として捉えて破裂限界までかけていく。そして導線を壁の一点に結ぶと、そのエネルギーを解放する。

 方向性を得た電気のエネルギーは一気にその魔力導線を渡る。その時に発生する光はまるで雷のようで、壁に張られた結界にぶち当たると、バチンッと火花を散らして消えた。


「(これをもっと短くやる訳だ)」


 電気のエネルギーを貯めた弾をいくつも生成すると、導線を素早く繋げる。そして解放。この1セットを3秒で行うことが当面の目標だ。


「(アニメとかじゃこう、もっとわかりやすくバチバチと稲光が見えるんだろうけど、実際の雷が基準だから目視できないんだよなぁ)」


 電気エネルギー弾が一瞬光ったと思った次の瞬間には、既に壁でスパークが起きている。それでも金属性魔法で視力を最大強化して魔力の流れに集中すればギリギリ発生の瞬間は分からなくもないが、この魔法は殆ど完璧な初見殺しだ。


 魔力導線をコントロールすればループだろうが軽い追尾もできるので極めて殺傷性も高い。一度商会の倉庫の側をうろちょろしていたネズミに似た生き物に電撃を放ったことがあったが、一撃で感電死していた。


 しかも点の攻撃なので相手の魔力量を無視して魔力障壁をブチ抜ける可能性があるのだ。


《なんか、完成された魔術師殺しの魔法だよね》


「(あまりそう意図したつもりは無いんだがな)」


 更に磁力操作で金属を操るので、戦士相手だろうがそもそも武器や鎧などを操作してしまえばあっさり完封できる。

 様々な疲労の為かいつもより長く眠っていたアルムが起きたのか、スイキョウのやっている研究を見てこの魔法の恐ろしさを指摘する。


《対人戦超特化?》


「(物騒だがそうなってしまうな)」


 熱、力場、電気、磁力、圧力…………今のスイキョウにはこの5つの物理法則を操作することが出来る。もっと何か生産的な使用方法が思い付けばいいが、せいぜい熱の力を暖房がわりにするくらいだ。寒冷なスーリア帝国では素晴らしい事なのだが、今のところこれしか思いついていない。


 それにある程度難点も抱えている。

 まず一番の問題が対獣などにはあまり使えないこと。スイキョウの知っているような動物よりもタフなやつばかりで、多少の感電なら耐えられる動物がそこそこいる。それに動物たちは金属などを身につけてもいないし、高熱にも耐えたりする。圧力だけはそこそこ有効だが、操作が1番難しいのでなかなか望んだダメージを与えられない。


 それに育った環境の違いからか、スイキョウは人の機微を察するのに非常に長けるが獣の本能からくる動きやタフネスをまだまだ読み違えやすい。一方アルムは人との関わりが少ない分、物心ついた時から触れ合ってきた獣の動きなどの方が予測しやすい。また、スイキョウは金属性魔法による肉体の強化が使えないのでその点も余計に対獣では不利になってしまう。


 なので、どうしてもスイキョウは対人特化の状態になりがちなのだ。


《でも戦争とかにいたら僕は凄く怖いよ。スイキョウさんが味方で本当に良かったって思うもん》


 アルムとしては、最も怖いのは電撃だ。発動待機状態にしておけば、あとはパッと瞬きした次の瞬間には先ほどまで生き物だった物が地面に転がっているのだ。この人智を超えた攻撃スピードは、実際に何度も見て、原理もなんとなく教えられてるアルムですら、対処するには困難と言わざるを得ない。初見で遭遇したら言うまでも無いだろう。


 本当は魔力導線の伝導率の問題で実際の雷からすればかなり遅いし威力も低いのだが、それでも目視できるスピードではない。加えて理論上有効射程距離も推定1kmオーバーと破格の射程距離を誇る。ただし1km先に導線を作れるかどうかがそもそも問題なのだが、逆を返せば導線がクリアできれば出来るということだ。


「(その為にはそれ相応の雷撃が必要なんだが)」


 スイキョウは両手の間に電気エネルギー弾を集めて太くて強度の高い魔力導線を生成する。魔力導線の中で大量のエネルギーが暴れまわり、稲妻がのたうち回る。


《雷をこんな間近で見れるって凄いよね》


「(ま、操作に失敗したら即死だけどな)」


 この稲妻の塊に方向性を与えて解き放つ。今までとは比べ物にならない光が発生し、派手に壁でスパークが散る。


「(これでもイヨドの防御陣は全くビクともしないし、無敵のパワーじゃないって訳だ)」


《そうかな?僕にはとっても凄いと思えるけど》


「(俺からすれば即座に火が使えたり水を生み出したりとか肉体を強化できる方がいいんだが、まあお互い無い物強請りって奴だな)」


 イヨドの拷問で肉体を根本から強化する一方で、こうしてスイキョウの魔法技術も上昇していくのだった。



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