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 科目選択に関しては予想以上に難航し色々と迷いこそしたが、最終的に取る科目は興味のあった4つとゼリエフさんの特別科目の計5つとなった。科目の質的には追加料金をとっても問題ないはずのレベルだと思うけれど、ゼリエフさんは笑顔で必要ないと言ってくれた。強くなって成果を出してくれればそれだけで十分、だって。



 母さんと2人で最後に頭を下げて建物……もとい校舎を出て行く。そして色々話をしながら砂の広場……校庭と言うらしいけど、そこを通って出口に向かうと、2人の人影があった。


 1人は少し儚げな雰囲気の細目の綺麗な女の人。

 もう1人は、純白の雪のように白い肩口で切り揃えた髪と紅い瞳が特徴的な綺麗な女の子。女の人と少し似ているけれど女の子の方が活発そうだ。

 そしてその子は知っている。地属性魔法が凄かった4人目の子だ。


「あら、どうも。どうかしましたか?」


「ええ、先程はどうも。実は塾長さんから色々と伺いまして、うちの娘と貴方の息子さんが一緒のクラスが多いみたいなので、改めてちょっと挨拶をしたいと思ったの」


「そうでしたか〜。それでーーーーーーーーー」


 そのまま母親同士は話を始めてしまった。今まで街はずれにいて母親同士のような繋がりが無かったからか、母さんはとても楽しそうだ。父さんがいなくなってからは長らく見ていなかった弾むような笑顔が見える。


 一方、こっちは先程から無言でジッと見つめられている。宝石のような紅い目が煌めいて凄く綺麗だけれど、なんとなく雰囲気が穏やかじゃない。僕も親戚以外の子供の人となんて喋ったことが無いから困るなぁ。しかも親戚ともほんの少ししか話した事ないし。

 スイキョウさんはコミュ力がどうたらこうたら言って、今回は全く力を貸してくれないみたいだ。最近のスイキョウさんはこういうことを言いだすことが多くなって気がする。


「えっと、こんにちは。僕はアルム。よろしくね」


 それでもまずは挨拶と自己紹介から。それくらいの常識は僕にもある。だから間違いじゃないはず。そう思ったんだけれど、女の子は黙りこくってこちらを睨むばかりでいまいち反応が悪い。

 

 どうしたらいいんだろう?

 こちらから名前を聞けばいいのかな?うーん…………スイキョウさんっ!ちょっとは助けて欲しいんだけど!


《ほら言った通りじゃないか。あの環境はコミュ力の育成に悪過ぎる。とりあえず相手が会話したくない雰囲気してる時は少し様子を伺ってみろ。無理してあれこれ言っても機嫌悪くなる一方だからな》


「(僕と話したくないの?何か怒らせるようなことしちゃったかな?)」


《そうじゃなくてだな、あー、だからな》


 スイキョウさんはきっとこの子が黙りこくってる理由になんとなく予想がついてそうだ。なのに敢えてそれを言おうとしない。そう感じて僕が更にスイキョウさんに問いかけようとしていると、女の子は少し距離を詰めると強い口調で唐突に言い放った。


「私、あなたには絶対負けないわ!」


 それだけ言って、急に駆け出していった。


「あっ、アルヴィナっ!ごめんなさい!アルヴィナッ!ちょっと待ちなさい!」


 街中にいなくなった女の子に気づき、母親も頭を下げると慌てて走っていった。見た目からは想像もつかない機敏さだった。



「(…………嫌われちゃったのかな?)」


《嫌いってのとはちょっと違う。アルムもあの子の地属性魔法を見た時は驚いただろ?自分よりも魔法が上手い人がいる!って。多分あの子もアルムと同じで魔法に相当自信はあったんだ。だがアルムはそれを遥かに超える実力を見せた。それで激しく動揺して、対抗意識を燃やしたんだろうな。けどその想いを自分の中でも持て余して、モヤモヤしてる》


「(うーん、女の子って難しいね)」


《いや、別に女の子だからってわけじゃないぞ?むしろアルムがクリーンすぎるというかな…………》


「(そうなの?でも僕は後攻だったから色々と有利だし、スイキョウさんっていうちょっとズルイ部分もあるから、比較にならないほど大きく実力が開いてるとは思えないけどな)」


《それでも、結果は結果だ。あの子はゼリエフさんに勝てず、アルムは首元に刃を近づけるところまで、勝利を捥ぎ取る寸前までいった。別に万人と仲良くする必要もないし、ああいうのはこっちからあれこれ言うと余計に反発するからあちらからなにか接触がない限り構わない方がいいぞ》


「(…………やっぱり難しい。魔法よりよっぽど難しいよ)」


《ただの経験不足だよ。あの子を良い練習台だとでも思っとけ。普通は多かれ少なかれこういうことがある。アルムの場合はこれからもっとこういうことが増えるかもな。少しずつ対処方法を学んでおけよ》


 スイキョウさん、サラッと難しいことおっしゃるね。

 僕がそう言うと、スイキョウさんの溜息が聞こえた気がした。






「あっ」


 新居に帰ってきて、身体を清めて、遅めの昼食をとって、もう今日は夕御飯までお昼寝したいくらい疲れ切った状態で自分の部屋に入る。すると僕のベッドの上で我が物顔で寝転がっているイヨドさんと目があって、僕は忘れようとしていたことを色々と思い出した。


『随分とお疲れのようじゃな』


「はい、ちょっと思ってた以上に色々やったので」


 多分魔法を使いすぎで身体に少し血が足りてないし、気分的には今すぐ横になりたいくらいなんです。


『そうか。余程激しい戦闘だったのじゃろうな。先程から魔法で上手く誤魔化していたみたいじゃが、その左手…………まともに動かんのじゃろう?』


「お、御見逸れしました。その通りです」


 実はイヨドさんの言う通り、ゼリエフさんとの戦闘後から左手が動かない、というか感覚がない。厳密には、あの過暴走による爆発を使った時からだ。金属性魔法でなんとか強引に動かすことで母さんの目は誤魔化せたけれど、イヨドさんにはしっかりお見通しみたいだ。


《おいおい、大丈夫なのかそれ?》


 多分、魔力が完全回復してから全力で金属性魔法を使えばどうにか。見た感じ千切れたりしてないから大丈夫だと思うけれど。


『そうか、しかしそれ程の傷、普通ではあるまい。何があったのじゃ。正直に申してみよ』


 うーん、このまま言っていいものか。でも嘘ついてバレた時の方がもっと怖いし…………。


《だな。下手に隠し事した方が後々バレた時がヤバそうだわ》


 だよね。僕はスイキョウさんの忠告に同意し、正直に話すことにした。


「実は、その、過暴走を攻撃として用いて、相手を吹っ飛ばしたんです…………」


 チラッとイヨドさんを見ると、彼女は呆気にとられたように目をパチクリしていた。


『そうか、やはりその使い方を思いつくのじゃな…………』


「え?」


『いや、過暴走を使った鍛錬を考案した者も、同じ事をして我が母上に大層大目玉を食らっておってな?』


「………………」


『大目玉を食らってな?』


「なんで2回言ったんですか?」


『大事な事だからじゃ』


 そう言うと、イヨドさんは深々と溜息をついた。


『本当ならば、今日の疲労具合を見て今回は鍛錬無しでも良かろうかと思ったのじゃ。だが…………』


 イヨドさんはチラッと僕の左手を見る。


『そんな馬鹿な真似をする余力があるなら大丈夫そうじゃな。さあ予告通り更にキツめで逝くぞ』


「ええ!?そんなの酷い!」


 もう敬語もかなぐり捨てて絶叫する。防音の結界が張ってあるから心置きなく叫べるけれど、気はちっとも収まらない。


『グズグズ言うでない!元々そういう予定だったじゃろうが!』


「じゃあなんでわざわざ希望を持たせるような事を!?」


『お前が馬鹿だからじゃ!』


 おかしい。今日はイヨドさんの拷問もとい鍛錬の効果は至る所で見受けられ、お礼ぐらいしなきゃいけないかなとすらと思ってたのに、感謝の念が全部消し飛んでいく!


 万が一失敗したらとか、そもそも我もなんでも出来るわけではないって言われてるけど、でもやっぱり酷い!ひどいひどいひどい!こんなのあんまりだー-!!



エイプリルフールだからと言って特に何かをするわけではないという

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