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【補足】

◆公塾の授業◆


 公塾には9つの必須の座学がありますが、魔法や武霊術といった選択式の実技講座は組分けは関係なく合同で実施します。


 また必須の実技講座も2つ存在します。

 1つが『運動』、要するに体育です。主に長距離走などの体力作りが中心です。組毎に授業は行い、魔術師も同様に授業は受けます。ただし武霊術使いならば実戦を想定して(鎧と同程度の重量の)重りを背負うなどハンデをつけさせられます。


 2つ目が『マナー』です。貴族と接しても見苦しくない立ち振る舞いを徹底的に叩き込まれます。また国の祭事などでは公塾卒業生のエリート候補の就く職場や地位ともなれば社交ダンスは必ず行うので此方も厳しく指導されます。


 ルザヴェイ公塾では3年次までに必須座学を全て終了させるので、授業は1コマ60分、1日7コマ、週休2日(ただし宿題は多い)のハードなスケジュールが組まれています。


 また芸術技能の養成として何かしらの所謂文化系のクラブ活動を放課後に行う事が推奨されます。ただし『二十八の星』は公塾抗争に向けて放課後や休日のうち1日を使い、追加で総合的な修練を積まされます。アルムはこれがあるので魔法の実技講座を改めて取らなくてもいいかな?と考えている節もあったりします。

 因みに八大公塾が集まり帝都で開催される公塾抗争に出場できた時点で将来の待遇は男爵以上が確定するとされています。就職先でも学校出身の貴族と完全に同じ待遇になることを約束されています。

 故に公塾抗争に出場見込みのある『二十八の星』の生徒には厳しい鍛錬が課せられるのです。


 『二十八の星』の該当生徒に対しての公塾から提供される多大なサービスはこれらの大きな負担を軽減させる為にあります。それでもやはり毎年最低でも7人は脱落してメンバーが入れ替わります。

 『二十八の星』以外の生徒も、待遇格差に関してはそんな事情があるのであまり屈折した視線を向ける事はなく、組の中でも『二十八の星』の生徒が浮いてしまうというケースはあまりありません。


◆クラス長について


 『二十八の星』の中でも暫定的なトップファイブがクラス長という存在です。

 アルムが考えていた様に、自分の事は自分でやるから寧ろ組の見回りをして欲しい、と思うクラス長は多くアルムの考えはおかしい事ではありません。


 ではなぜ、わざわざ最も有望な5人に、ただでさえ負担があるところに組の管理まで任せるのか、それには理由があります。

 クラス長は余程何か異常な事が無い限り『二十八の星』から脱落しません。要するに一年次の時点で既に、公塾抗争には確実に出場するメンバーと公塾側も考えています。

そんなクラス長は、卒業後に就職すればほぼ子爵クラスの待遇で迎えられます。

 何処へ就職しても組織の中でも幹部あるいは幹部候補と看做されるので、いきなり部下が出来たりする事の方が多いです。


 その時、指揮を取ることに慣れていることにこしたことはなく、クラス長という組を管理・指揮する立場に立たせて“人の上に立つ責任感”を育たせ、人をまとめ指揮する技能を身につけさせるのです。


 以上を持って、公塾についての説明を終わります。






 レグルスのお陰で居た堪れない空気から逃れることができたアルム達は、これ幸いとレグルスの誘いにのって食堂に向かった。

 またレグルスは2人の男友達も連れて来ていて、計7人で食堂へ向かった。


 3人娘はまだ本調子ではなく食堂へ移動中も顔がほのかに赤い状態で黙りこくっていた。そんな一方でアルムはその空気から逃れるべくレグルスと会話していると、レグルスが話が少し途切れたところで2人の友人を紹介した。


「んじゃ少し遅れて紹介するけど、俺の友達のレキアウスとヘルクートだ」


「僕はレキアウス・ネスクイグイ・バナウルルだよ。あ、僕もおんなじクラス長だから、緑角組のね。よろしくね〜首席くん」


「ヘルクート・トゥツァグァ・バナウルルだ。青鱗組のクラス長を務める。よろしく頼む」


 レグルスの紹介した友人はかなり対照的だった。


 レキアウスと名乗る少年は、金髪碧眼でその耳などから森棲人の血を引いていることがわかる。非常に中性的で綺麗な顔立ちをしており、長めの金髪は低い位置で1つに纏めているが、アルムは歩き方などから戦士専攻である事を見抜いた。

 身長はシアロ帝国の平均から少し小さい170cm程度の細身なので制服は少しブカっとしており、その胸には金の六芒星のバッチと緑龍のバッチが光っていた。

 言葉の感じは柔らかい、ともすれば軽い感じで、人によっては人当たりが良さそうと取るか軽薄そうと取るか微妙なラインだが、その顔の笑顔に邪念はなかった。


 一方でヘルクートと名乗る少年は、少し癖のある黒髪に灰色の瞳で、身長は既に190cm近くがっしりとした体付きだった。レキアウスが非常に身軽そうな足運びに対し、ヘルクートはしっかりと地に足ついた感じの歩き方でこのまま急にタックルされても全く揺らぎそうにないほど身体のバランスが安定していた。

 また、声もレキアウスと対照的で低く重く、表情もかなり硬い。非常に真面目そうだが、それが勢い余って威圧感すら滲み出ていた。そんな彼はレキアウスとは対照的に既にキツそうな制服の胸元に金の六芒星のバッチと青龍のバッチをつけていた。


 アルムが探った限りでは魔力の感じから2人は魔術師では無い事はわかっており、隠し切れない身体のスペックや雰囲気から武霊術使いである事もアルムは察する。



「アルム・グヨソホトート・ウィルターウィルだよ。黒尾組のクラス長を任されてるよ。よろしくね」



 アルムはそれを一瞬でサッと分析して、笑みを浮かべて彼等に応える。

 するとレグルスは悪戯が成功した可能ようにニッと笑い、レキアウスとヘルクートは顔を見合わせる。


「どう?ヘルク。勝てそう?」


「馬鹿を言うな。今ここでいきなり肉弾戦を仕掛けても、私は即座に負ける気がするぞ」


 いきなり物騒な事を言い出した二人にアルムは微笑しつつ首を傾げると、レグルスが楽しげに笑った。


「戦士専攻のトップクラスと肉弾戦でサシでやり合っても勝っちまいそうな奴がいるんだぜ、とは俺も言ったんだが、こいつらなかなか信じなくてよ。なあキアス、ヘルク、俺の言った事は嘘じゃなかっただろ?」


 レグルスが心底愉快そうにそう言うと、レキアウスは軽薄そうな瞳の奥に隠された戦士としての瞳でアルムを見つめる。


「足音がさ、小さすぎるんだよね〜。身体も全然ブレないし、本当に魔術師?って聞きたくなるぐらい実戦的な筋肉がついてる感じがするよ」


 いや〜、マジで一回戦ってみたいね、と笑うレキアウスにヘルクートが続ける。


「私としては、隙の無さを挙げるな。何処へ回りこもうといつ何時仕掛けようと即座に反撃されそうな視野の広さ、そしていつでも攻撃態勢に移れる足運び………………父上などの従軍経験者は自然とその空気を纏っていた。命をかけた戦場に身を置かない限り身に付かない立ち振る舞いだ。万年首席のジーニャさんが副首席になった時は驚いたが、今ならなんの疑問も感じないな」


「あー、それは僕も思ったよ。塾から通知きたら席次が下がってんだもん。何事?って思ったよ。んで新入生代表挨拶がアルム君だったから、次席が一個落ちた謎もすぐ解けたんだ」


 気の知れた風に会話をするレキアウス達にレグルスが捕捉を入れる。


「こいつらも俺と一緒で低等部から上がってきたんだぜ。そん時のトップファイブといやぁ、ジーニャとキアス、ヘルク、今は白翼組のクラス長になってる奴と、そしてこの俺だったんだぜ!まあ低等部に席次はなかったけどよ、100人ぽっちだし大体成績なんてお互いわかっちまう訳だよ。てか試験結果は低等部でも張り出されたしな。んで上から5番はほぼ固定だったぜ。5位以内のメンツって入塾から1回も変わってねえよな?」


「そうだね〜。ジーニャさんが万年首席だったけど、副主席もずっと白翼組のクラス長だったし、その次が僕かへルク。その僕たちと同等の実力があるのに座学をサボるせいで“いっつも”5位のレグルスって感じだったよね」


 いっつも、のところをニヤッとしながら強調したレキアウスは、うるせいやい、とレグルスに軽くヘッドロックをかけられて戯れていた。


「それとだ、レグルスは更に2つ席次が落ちていたな。部屋割りの位置が予想と異なっていた。そしてその2人が………………」


 ヘルクートの視線の先には少し先を歩くフェシュア達が居て、レグルスはうんうんと頷く。


「あの2人だぜ。両方ともアルムの弟子だ。魔法も十分すげえんだけど、その上アルムにしっかり仕込まれてるからガチで戦っても滅茶苦茶強えぞ。アルムに仕込まれて更に手が付けられなくなってるジーニャとサシでやりあえるぐらいだからな。多分クラス長の兼ね合いとかで第六、第七席次だけど、お前らよりかは確実に強えよ」


 レグルスがストレートにそう告げると、彼等は気を害することもなく静かに頷く。


「わかるぞ、言いたいことは。彼女らも確実に実戦経験者だ。身体的なスペックは正直脅威ではないが、魔術師としては十分なほどに鍛え上げているし、総合戦闘力では全く底が見えない」


「それを完全に上回ってるのがアルム君な訳だけどね。そもそもあの2人の師匠って時点で相当でしょ?」


 強者故に相手の力量を見抜く事にも長けた彼らは、フェシュアやレシャリアの美麗な容姿よりも、アルム同様に魔術師の筈なのに相当鍛え込んでいると思われる彼女らの隙のない歩きに目がいっていた。


「一体どのような修練を積めば、あのようになるのだろうな」


「と言うよりも、それを仕込んだアルム君だよね。誰から戦闘技能を教授されたの?」


「んーーーーー、それはちょっと言えないかな?」


 魔法の戦闘はカッターが、格闘という意味ではゼリエフがアルムの師匠である。しかしカッターは話がデカくなりすぎるにで言えるはずもなく、ゼリエフに関しては下手にペラペラ喋ると色々と面倒な事になりそうなので言えない。

 約2000km以上遠方といえど、万が一ゼリエフの名前からアルムがいた場所を突き止められると、芋蔓式に今現在最も急成長を遂げているミンゼル商会会長の孫であることやヴェル辺境伯のメダルを所有しているとか、あまり探って欲しくない部分までバレる可能性が高いのだ。


 なのでアルムは微笑しつつ、その質問を受け流す。


「それを言われると逆に気になるなぁー」


「私もアルム殿を鍛え上げた御仁には興味があるな」


 アルムは彼等の言葉を微笑で全てガードするが、そこでレグルスが間に割って入る。


「まああんまし探ってやんなって。アルムがめちゃくちゃ強えのは変わりねえし、その実力だって『二十八の星』の追加講座で絶対見ることになるしな。それとめっちゃいい奴なんだぜ。去年は俺の宿題を手伝ってくれたんだぞ!」


「それは自分でやるべきではないのか?」


 レグルスの脳天気な言葉に素でツッコミを入れるヘルクート。それに対してレキアウスがケラケラ笑い、アルムへの矛先が逸れた。

 そしてレグルスは2人の肩をグイッと掴み、ズンズン歩いて行く。


「さあー飯だ飯だ!俺腹減ったわっ!」 


 アルムはレグルスが自分を気遣ってくれたのに気付き微笑むと、レグルスは一瞬だけ振り返りニッと笑った。


《腕白坊主みたいな感じだけど、かなり気配りできるタイプだよな、しかもさり気なく。大人になったらスゲーモテるぞあのタイプは》


「(うん。でもレグルス君にも、いつかは打ち明けたいかな。僕が近づいてくれるのをずっと待ててくれているし、その期待には友人として応えたい)」


《男友達って結構大事だぜ。まあ 急ぐことも無い。アルムが自分で打ち明けたいって思ったら、その時に話せばいいさ》


 スイキョウは、アルムにも漸く全てを打ち明けられる友人ができそうかな?とレグルスだけでなく、彼と連んでいるレキアウスとヘルクートにも期待を寄せるのだった。







 食堂で食事を終えたアルムらは、各組に割り当てられた教室(1年次は全クラス3階)に向かった。

 教室は40人程度が学習可能な、スイキョウもなんとなく馴染みのある教室の形で、席順は黒板側右角より席次の順で決められており、アルムの後ろにフェシュア、その後ろにレシャリアと続いていた。


 全員がいる事を確認すると担任教師が取り仕切り、自己紹介をした後は実技講座の申請書が配られた。


 アルムは申請書を確認した後、フェシュア達に話した様に『総合格闘技』の実技講座を選択、フェシュアとレシャリアはアルムの事前の勧めに従い火・金・獄属性魔法の3つの実技講座を選択した。

 因みに、担任教員はアルムの編入試験の試験監督をしていたローブ姿の男である。彼はアルムの提出した実技講座の申請書を見てギョッとして何か言いたげだったが、アルムが笑顔で「お願いします」と提出すると、非常に悲しげな目でそれを受け取っていたのがスイキョウには印象的だった。


 皆も結構長い時間休憩を挟んでいたので実技の選択には悩んでおらず、5分程で全員分を申請書が集まった。

 その後は教師の先導で長い時間かけてルザヴェイ公塾内を色々と見て回った後にクラスに戻ってきて、入塾式の後で新入生説明会で行われた今後のスケジュールをもう一度担任が確認し、解散となった。


「ウィル、私達は部屋に戻ってる」


「わかったよ、じゃあ僕の部屋の鍵、預けておくね」


 フェシュアは食事を挟んで既に立ち直っており、表面上は平然とアルムに声をかける。

 そんなフェシュアに対してアルムはナチュラルに自分の部屋の鍵を渡し、フェシュアも特に驚くこともなく当たり前の様に鍵を受け取った。


 そのやり取りは周りの席の子達も当然目撃しており、ポカーンとその光景を見ていた。

 それを他所にアルムはそのまま平然と教室を出て、フェシュアも未だ故障気味のレシャリアの手を引いてさっさと教室を出て専用寮に戻って行った。


 注目度が高いアルム達の唖然とする様なやり取りに、彼等が去った後の黒尾組の教室は妙なざわめきに満ちるのだった。



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