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 アルヴィナに世界の常識を覆す様な魔法を披露されて、30分以上かけて漸くアルムは頭の中の整理を終えた。


 アルムが何度脳内で全てをシミュレーションしても、例えスイキョウとシンクロしても、盗賊の“駆除”の際に飲んだ劇薬を飲もうとも、アルムには自分が魔化金属を作り出せるイメージが一切湧いてこなかった。


「アルヴィナは僕より遥に凄い魔術師だね。僕の知ってる人全てを考慮しても、同じ事が出来そうな人は思い当たらないくらいの奇跡をアルヴィナは成し遂げたんだね」


 そしてアルムはそんなアルヴィナを心から讃えた。

 するとアルヴィナは顔を綻ばせる、「やった!」と小さくガッツポーズした。何に対するガッツポーズなのかアルムが不思議そうな顔をすると、アルヴィナは安心感を含んだ表情で微笑んだ。


「私ね………………ずっと悩んでいたのよ。私は貴方の為に何をしてあげる事ができるのかって。貴方の足を引っ張ってるだけだって私は前から思ってたの」


 アルムは少し暗い表情で呟くアルヴィナに何か言おうとするも、アルヴィナに「最後まで聞いて貰えるかしら?」優しくて微笑みつつ言われて止められる。


「貴方が自分にとって利用価値のある女性だからリリーさん達を恋人にしたわけではないのは理解しているわ。逆に『真摯に貴方に向き合い続けた彼女達がアルムを陥落させた』と言った方が正しいのよ」


 それでも、とアルヴィナは複雑な感情を秘めた表情で続けた。


「リリーさんも、フェーナさんも貴方が、いえ貴方以外であってもどんな手を使おうと辿り着けない絶対的な能力を持っていて、レーシャさんはその体質と異能から並び立つ者がいないほどの治療技術と、悪意ある言葉を看破する非常に有用な能力を持っている。ジーニャさんもまた貴方を遥かに上回る筋力などを持ちながら、異端の立場に身を置きながら、補佐的な立ち回りに、秀で私達にも付き合えるにも関わらず“一般的な人”とも目線を合わせて付き合っていける、私達のバランサーになる素質を持っているわ。4人の誰もが、アルムがどう逆立ちしてもできず、また代わりになれる人のいない物を持っているわ」


 誰もが望む才能をそれぞれ所有する4人の少女達。

 アルヴィナは手紙でやり取りする上で、彼女達の秘密も明かされていた。


「でも私には、そんな物はなかったわ。貴方は【魄鱗】があるだろうと思うのかもしれないけれど、嗅覚も聴覚も私以上は存在するし、私の出来る事でアルムにできない事が思い浮かばなかったの。貴方が客観的に見ても私をなにがなんでも手放したくなるような物はなにも持っていなかった」


 アルムはその言葉に遂に我慢しきれず話し出そうとするが、アルヴィナはアルムの口を先んじるように押さえた。

 お願い、最後まで聴いて欲しいの、とアルヴィナは囁いた。

 アルヴィナにとって、自分の本音を全て吐き出さなければならないのだ。必要なのは慰めではない。


「私は貴方に与えられてばかりで、対して返せるものがなかったの。商人として才覚を磨いても、それが貴方のためになるとは思えなかったわ。私は貴方の思考や視野を狭くして足を引っ張ってるだけで、貴方がくれる物に見合う物がなにもなかったのよ」


 「返報性の原理」という心理が人にはある。

 人は他者から何らかの施しを受けた時、それを返そうとする性質を多かれ少なかれ持っているのだ。


 アルヴィナはアルムに孤独な世界から救い上げられた。神賜遺宝物級の品々を無償で贈与された。伝説の存在と思しきラフェルテペルを使い魔として与えられた。自分の最大のコンプレックスである異能を受け入れてもらった。



 それはアルムにとって100%の善意だった。しかし100%の善意しか無いからこそ、アルヴィナの心理に強烈な迄の「返報性の原理」が働いた。貰った物に対して報いなければと思った。


 一時は苦しみ悩み身を引き裂かれる想いすら抱いていた。それを知って尚アルムから離れられない自分を無意識に責め続けた。

 そんなアルヴィナに残されたカードは、【魄鱗】と商才と地属性魔法だけだった。

 そして手紙ではひた隠しにしていたが、アルヴィナは全てを賭けて“鬼気迫る”と形容できるほどにアルヴィナはその3つに打ち込んでいた。


 アルムの手を煩わせることが無い様に、アルムが安心して外で活動できるように、ミンゼル商会の維持と発展に腐心した。現在公的には独身かつ美女でありミンゼル商会でも幹部を務めるアートへと伸びる様々な手を会長と手を組み徹底的に叩き潰した。

そしてアルヴィナ自身は自分が誰かにとって変わられる事の無い唯一絶対的な何かを得られる可能性のある【魄鱗】に向き合った。


 アルヴィナにとってのアルムはずっと自分の上を行く高嶺の花だった。そんな人物の周りには類は友を呼ぶ様に破格の能力を持つ人が集まるだろうという事もアルヴィナはわかっていた。

 頭ではアルムが自分を捨てる事は無いと信じても、心には大きな不安があった。


 そんなアルヴィナは、アルムが何がなんでも自分を手放さない、自分がアルムの隣にいても許されるような、客観的な理由を強く渇望した。

 虚勢を張ってレイラ達に並ぶのでは無く、確固たる物を持ってきちんと対等な立場で彼女達と共にアルムの側に並び立ちたかった。


 レイラ達からすれば、遠く離れてなおアルムが絶対にその愛を失わない程に愛されるアルヴィナを羨ましく思わないと言えば嘘になる。

 アルムの行動の基準の奥深くにずっとアルヴィナが居て、自分達が周りにいて尚、アルムの視界に、思考に、ずっと在り続けるアルヴィナは、自分が追いかける手本とするべき存在だとレイラ達は思っていた。

 逆にアルヴィナにとってはレイラ達こそ自分が追いつくべき存在だと思っていた。


 それは隣の芝生が青く見えるような、お互いに多分にバイアスのかかった視点と思考ではあったが、アルヴィナはそう思い込んでいた。


 故にどんなに辛かろうがアルヴィナは孤独に【魄鱗】と向き合った。自分にとってのコンプレックスの塊に目を逸らさず体当たりし続けた。

 死ぬほど苦しい龍のモードの変身を何度も繰り返した。

 アートやラーグからもう休みなさい、とキツく言われるまで命をかけて泥の研究に打ち込んだ。


 研究中のアルヴィナは見る人がゾッとする程の狂気的な迄の熱意で一心不乱に研究に打ち込んでいた。

 その視線の先にはアルムがずっと居て、そんなアルムに追いつくためにどんな対価を支払ってでも、絶対的な『何か』にアルヴィナは辿り着きたかった。


 その狂気的な迄の修練の結晶が、“龍モードの完成”と“魔化金属の生成”だった。

 鍛錬馬鹿と揶揄されるアルム以上に、この2年間のアルヴィナは仕事と修練だけの毎日だった。休みなど一度もしなかった。



「―――――――でもね、まだ魔力の減りは無駄があり過ぎて1日1回この程度を作るのがやっとなのよ。けれど、このままサンプルが増やせれば鉄以外にも作れるかもしれないわ。だから」



 アルヴィナはそんな自分の想いを全部ぶちまけて、そして更に熱に浮かされたように言葉を続けようとするが、アルムに抱き締められてアルヴィナの言葉は遮られた。


「ごめんね。4人も恋人増やしておいてどの口がほざくんだ、って誹られてしまうだろうけど、アルヴィナを不安にさせて、ごめんなさい」


 苦しげな表情で、重い口調で謝罪するアルム。アルヴィナはアルムの頬に触れて首を横に振る。


「私こそ、全てを洗いざらい話しておいてどの口がほざくと謗られてしまうのでしょうけれど、そんな顔をしないで、アルム。貴方に並び立てない不安を抑えきれなかったことが原因で、そして全てが私のエゴなのだから、ね?」



 アルヴィナは懇願する様な表情をすると、アルムの襟首を引き寄せて自分の額をアルムの額にくっ付けた。



「これは貴方に対する私なりのケジメだったの。私が貴方を愛し続ける事を、貴方に寄り添う事を、自分自身で赦すための自分勝手な禊だったのよ。こんな私でも貴方の側に置いてくれる?」


 相手の息遣いも何かも感じ取れる距離で、アルムの真っ黒な瞳をアルヴィナの宝石の様な紅い瞳が触れ合いそうなほど近くで見つめた。


「僕も自分勝手で、優柔不断で、ダメ男だけど、アルヴィナの事を想っていていいかな?」


 アルムはアルヴィナを抱え上がるように抱き締めると、更に顔を近づける。


「アルヴィナが嫌って言ってもなにを言っても絶対に手放すつもりなんて元からないからね。アルヴィナに指一本でも誰か触れたら、干渉しようとする人がいたら、僕は自分でも何を仕出かすかわからないよ。繰り返すけど僕は自分勝手だから、アルヴィナの事は絶対に逃がさないよ」


 アルムの表情こそアルヴィナに懇願された故に穏やかだったが、目は一切笑っていなかった。アルムの言葉は冗談など一欠片も無い、本気の言葉だった。

 その瞳に宿る狂気めいた昏い熱は、アルムを受容する事を是としているスイキョウでさえ一瞬ビビる程のアルムの奥底に眠る常人なら寒気を覚える程の狂気めいた生々しい強烈な独占欲だった。

 カッターを失ったショックがアルムの中では狂気的な独占欲に生まれ変わっていた。


 しかしアルヴィナはその目をしっかり見返して、今生に於ける最高の幸せを得た様に目を潤ませて非常に幸せそうに笑った。


「大丈夫よ。“神に誓って”ずっと前から、そしてこれからも私の全ては貴方の物なのだから」


 アルヴィナはそう告げるとアルムにそっとキスをした。


 その一方で、重いというレベルでは片付けられないそんな狂気めいた愛をぶつけ合う2人に、なるべくしてこの2人はくっついたんだろうな〜、とスイキョウは勝手に納得していた。











「(あ゛ああああぁぁ………………)」


《いや、今更わめくか?》


 アルムとアルヴィナがお互いに色々と禊を終了させた日の翌朝、アルムはベッドに腰掛けて頭をブンブン振っていた。

 ちなみにアルムの後ろの布団は大きく膨らんでいて、呼吸をするように動いている。


「(何か登るべき階段を数十段くらいすっ飛ばしちゃった気がする…………)」


《いや、まあ、若いんだから別に可笑しくもねえんじゃねえの?平民的には今年で成人な訳だろ?アートさんだって16才でアルムを産んでるんだから逆算すれば》


「(やめて!?この状況ですごく生々しい事言うのやめて!?)」


 アルムは顔だけでなく全身真っ赤にして壊れたおもちゃの様に頭をぶんぶん振った。

 対してスイキョウは、もうヤった事を今更あれこれ言うか?と少し呆れていた。


《まあ、なんだ。使い道不明だった黒いタール状の怪物の素材も役に立ったし、子供ができました〜って事は無いと言っておくぞ》


 アルムはスイキョウの言葉に頭を抱えていた。なんか色々と暴走していた気がする、と。


「(ん〜、あ〜〜、あーー!)」


 声にならない喚きをするアルムにスイキョウはボソッと呟く。


《じゃあなんだ、止めれば良かったのか?》


「(そうじゃない、けど!そうじゃないけど!止めるどころかアドバイスしまくってたよね!?)」


《いや、事故ったらお互いかわいそうだと思ってな?冗談じゃなくて其れのせいで破局するケースとかずっとあとまで引きずるケースもあるんだぞ?俺も派手に最初は事故りかけただけについ口が出るわけだ、うん》


 今ではいい思い出、みたいな口調で話しているスイキョウ。

アルムはスイキョウほどスッパリ割り切れもせず精神的なあれこれが限界突破してヘドバンをし始め、ふと我に帰ったようにピタリと止まる。


「(痕とか残ってないよね?魔法で全部綺麗にしたよね?)」


《探査でそれはアルムが1番わかるだろ?でもあれだぞ。絶対アートさんやラーグさんあたりは見抜いてくるぞ。こんな時の母親の勘っておっかないんだぞ、まじで》


 スイキョウは元カノが翌日に頭を抱えていて元カノとその母とのSNSのトーク履歴を無言で見せてきたのを思い出して、なんだか懐かしいような気分になる。



「(だ、だったら!)」


《だったら止めれば良かったか?》


 先程の話にループしたアルムは言葉に完全に詰まった。


《ともかく、アルムもまた一つ大人になったつう事で、おめでとう!》


 やけに明るく喜色ばんだ、大いに揶揄い混じりの愉快そうなスイキョウの祝福。


 アルムは羞恥心メーターが振り切れて、ボスンっとベッドに倒れて顔を埋めるのだった。




「もう、行ってしまうのね。2ヶ月半ってあっという間だったわ」


 アルムが里帰りしてから、2ヶ月半。遂にアルムはタイムリミットを迎えた。


「うん………本当にあっという間だったよね」


 時刻は深夜手前。自室のベッドに腰掛けたアルムはラッコ座りしてるアルヴィナの肩に顔を埋めると、アルヴィナはクスッと笑ってくすぐったそうに身を捩る。


「アルムって意外と甘える時は甘えるわよね?」


 この数ヶ月で、特に禊翌日以降からの日々でアルヴィナがなんとなく思った事を少し愉しげに口にすると、アルムの負けず嫌いなところが少し刺激されて顔を埋めたアルヴィナの首筋を軽く噛む。

 するとアルヴィナは嬌声を漏らしピクッと震える。


「ぅぅん、アルム、だめぇ…………」


 禊以降の度重なる“とある事”によって(やっぱりバレてアルムも開き直った)色々とアルヴィナの弱点について知ったアルムによる照れ隠しに、アルヴィナは即座に白旗をあげる。


 アルムがそれを聞いて口を離すと、アルヴィナは少し顔を赤らめて呟く。


「そんなマーキングしなくても私は貴方の物よ。神にも誓ったのよ?それに………………」


 アルヴィナとアルムが初めて“とある行為”をした後、アルヴィナの背にいつの間にか刻まれた魔法陣の様な紋章。


 その幾何学模様の紋章はアルムが触れると消えるが、暫くすると思い出したように復活する不思議な物だった。

 アルムは異能が何かしたのかと今も首を捻っているが、実はアルヴィナはそれの正体を“知っている”。

 アルムは知らないが、アートの背に“あった”物である。

 しかしアルムには秘密にすべき事なのでアルヴィナは考え込むアルムに直接的に答えを言えない。

 だが、その本質については教えることができた。


「貴方のものである証があるのよ。これ以上にないマーキングじゃないのよ」


 アルヴィナは嬉しそうにアルムに身体を摺り寄せ、アルムもなんだかなぁ、と釈然としない想いはありつつも紋章があることに何処か安心感を覚えてしまっていることも確かで、なにもコメント出来なかった。


「あんまり遅いと痺れを切らして私の方から貴方の元へ行くからね?」


「これからどうなるかはかなり不透明だけど、出来るだけ早く迎えに来るよ」


 アルムが正直に告げると、アルヴィナはふふふっと笑う。


「私とアートさんの北方開発とどっちが早いかしら?アルムのアスファルトのお陰で色々と短縮できそうだし、私の方が早く終わるかもしれないわね?」


「うーーーん、アルヴィナの能力を考えると否定できないのがなぁ」


 アルムがそう呟くと、アルヴィナはクスッと笑った。そして懐に手を突っ込むと、とある物を取り出して、手を後ろにやってそれをアルムの首にかけた。


 アルムは急に首にかけられた物にキョトンとする。それは魔力遮断の布を用いた小さな巾着袋の様な物だったからだ。


「急にどうしたの?」


「開けてみてちょうだい」


 アルムはニコニコとするアルヴィナに促され巾着を開けてみる。すると探査の魔法が通るようになりその中見を見て目を見開く。


「すこーーーーし無理を、と言うより痛かったけれど、やってみるものね」


 その巾着の中にはたった1枚の真っ白な鱗が入っていた。


「私が初めてアルムに【魄鱗】の異能を晒した時に、アルムは私の鱗を欲しいって言ったでしょ?蛇モードは無理だったけれど、鱗が独立してしっかりしている龍モードなら、その怪力でベリッと……………ね?」


 実際生爪を剥ぐより遥かにキツい激痛だったのだが、アルヴィナは超強引に龍モードの時の龍の鱗を、龍モードの怪力を持ってして鱗をフックの様な物に引っ掛けて一気に引き剥がしたのだ。


「手首周りの小さい鱗だから大して問題は無かったし、異能を解除して金属性魔法で治したらすぐ治ったわよ」


「そう言う問題じゃないよ……………。それ凄い痛かったでしょ?」


 自分の為に平気で無理する恋人に愛おしさと共に心配などの色々な感情が鬩ぎ合うアルム。結果的に複雑な表情になったアルムの顔を見上げてアルヴィナはクスクス笑う。


「正直瞬間的な痛みはどうにでもなるの。男にはわからない痛みに女性は耐えられるのよ?貴方の為なら平気よ」


 アルヴィナが渡したのはまさしく龍の鱗であり、アルムは何処か冷静に異能由来で生成された物って残るのか、と考えて神の奇跡に感服していた。


 ジーーーッと熱心に鱗を見つめるアルムをアルヴィナは愛おしそうに見て、そっとアルムのリングピアスに触れる。


「リリーさんからリングピアスを分け合った事を知った時、私も何か貴方にあげたいと思ったのよ。貴方には指輪を貰ったでしょ?でも私は何か明確に私をアピールできる物ってなにも貴方にあげられなかったら……………少し後悔していたのよね」


 そんな折に、アルヴィナは自分のあげられる唯一無二の物に気付いたのである。


「純白の“龍”の鱗は恐らくこれしか存在し無いわよ」


 龍は様々な英雄譚や伝承、国史にも登場する。その強力さ故に討伐されずとも目撃情報だけでも必ず何かに記載されるのだ。


 今までに目撃された龍は、主に火山帯で目撃される臙脂色の龍、洞窟に巣食う黒色の龍、明るい森林に棲む緑色の竜、暗い森や崖に巣食う滅紫色の龍、海の棲む紺碧色や水浅葱色の龍、そして1番多い峡谷などに巣食う茶褐色や黄土色、鶯茶色、焦げ茶色などの茶色ベースや灰色ベースの龍などが記されている。

 龍自体が往々にしてデカいので割と環境色に適応した色を取ることが多く、アルムは「雪山とかに白い龍なんて居ないのだろうか?」と疑問を呈した事もあったが、スイキョウの「1つの城に匹敵する大きさとされる身体で、餌の少ない雪山じゃ龍も生きられないんじゃないか?」と言うど正論が返ってきてそれもそうかと納得した。


 似たような理由で目立ち過ぎる黄色の龍やピンクの龍などもいないし、そもそも単色では黒と灰色しか存在しない。

 遠くからでも出来るだけ捕食対象にバレ難いように一般的には濁った鱗の色をしているケースが多いのだ。

 要するに、“純白の龍”は未だかつて1度として討伐される依然にそもそも目撃すらされた事が無い。


 確かにペイントすれば色は変えられるだろうが、貴重な龍の鱗をペイントするなど、例えばホワイトタイガーの毛皮を真っ赤に染め上げようぜ!と言っているぐらいあり得ない事であり、よしんば塗っても鱗そのものが放つ独特の光沢までは染色程度では模倣不可能なのは明らかだった。


 アルヴィナの髪の如く、独特の輝きを持つ純白の龍の鱗は世界は広くともこの1枚しか存在していないのだ。


「古来より龍の鱗は御守りの中でも最高の御守りだそうよ。アルムが無事でいてくれるように、そしてそれを見る度に私を思い出してくれるように、ね?」


アルムは魅力的に微笑むアルヴィナを見て、アルヴィナを僕が捨てるなんてとんだ杞憂なんだけどなぁ、と思いつつ、そんな自分の想いが伝わるようにギュッとキツめに抱き締める。


「また必ず逢いましょうね………」


 少し涙ぐむアルヴィナの声に、アルムは無言で頷いた。

 そうしてアルムの2ヶ月半に渡る里帰りは終わりを告げるのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] ヤッたか?ヤッたな、これは確実にw で、いろいろ解禁しそうだなーってw 公塾では寮生活だけど、どこまでイッちゃうかな?w
[良い点] アルムとアルヴィナ、この二人の話が見たくて追いかけ続けて、里帰りの話が出てからやっとここまで進展して終始ニヤニヤが止まりませんでした。 アルムの成長も凄まじいですが、アルヴィナの成長もそ…
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