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「(なんだろうね、ここ)」


《やけに殺風景だよな》


 天板を抜けた先にあったのは高さ25m、75m四方のだだっ広い空間だった。


そんな空間に1つだけ通路あるばかり。用途もよく分からずアルム達は混乱する。


「(取り敢えず、進んでみる?)」


《そうだな》


 低魔力なところに魔重地の高濃度な魔力が流れ込み逆に良い塩梅の魔力になったので、アルムは反魔力石を全てインベントリに収納。吹っ飛ばした天板もちゃんと回収して通路へ歩くが、そこでスイキョウが立ち止まるように言う。


《アルム、何となく嫌な予感がしたから、その通路に石でも投げてくれないか?気のせいならいいんだが》


「(わかった)」


 別に何方探査にこれと言って反応がないが、逆にこれだけしっかり隠しておいて抜けた先がこの殺風景な空間だと、スイキョウはむしろ怪しいんじゃないかと思ったのだ。

 そんなスイキョウの直感に従い、アルムは石を通路へ軽く放り投げると、通路の境界線でバチンっと音がして石が跳ね返った。


 やっぱりトラップがあったか。


 スイキョウがそう言おうとした次の瞬間、アルムは全力でその場から飛び退いた。


「(え、なんで!?)」


 アルムが3Dの探査でギリギリ反応出来たおかげで回避できたが、アルムが先程立っていた場所に、狼に蝙蝠を貼り付けたような5m大の真っ黒な影の塊が爪を立てていた。


《トラップの作動と同時に天井から出てきやがったぞ!》


「(それよりもこれ、普通の生き物じゃない!何か変だよ!)」


 アルムらが激しく混乱する一方で、更に追い討ちをかけるように反応が増える。


 通路の奥からは5m大の大きさで、宙に浮き七色に光るクリスタルが回転しながら通路を塞ぐが如く出現。

 追い打ちをかけるように、アルムが出てきたスロープの近くの床がパカッと開き、退路を塞ぐように10m大のタールの塊のようなナニカが這い出てくる。


《これ、完全に抹殺用の部屋じゃねえか!》


 スイキョウのその叫びにアルムは声を失い、冷や汗がドッと全身から噴き出した。。







「(くっ、これが邪魔過ぎる!)」


 突如謎の空間に現れた3体の怪物は雰囲気通り友好的でも対話に応じるようでもなく、いきなりアルムに攻撃を開始し出した。


 アルムにとって幸いだったのは、今この空間がスイキョウが穴を開通したおかげで、魔力が流れ込んできており魔力濃度のコンディション的には素晴らしく良かった事。

 しかしそれでも尚アルムは完全に追い詰められていた。


 まず最初に出現した狼と蝙蝠を掛け合わせた影の塊だが、この怪物は最初の奇襲とは一転して直接飛びかかってこなかった。その代わりに口の様な部分から黒いモヤを吐き出した。そのモヤが怪物の30cm大のミニチュアの様になりアルムに大量に迫ったのだ。


 耐久性は特段高くないが、視界が飽和しかねないほどの物量で次々に怪物が生み出され、スペックを探るに噛みつかれたら肉を喰いちぎられるのは目に見えていた。

 しかもバサバサ飛び回るし本体を攻撃しようにも飽和した分身がその攻撃を相殺してしまう。

 その上残量がないのかずっと霧を吐き出し続けているのだ。もはや猛吹雪を相手に戦っている気分である。


 次にクリスタルの怪物だが、コイツはスイキョウにとって最悪の相性だった。最初に石を弾いた様な謎の物理障壁を周囲に展開しており、物理的なエネルギーを増幅して攻撃するスイキョウの攻撃力の高い魔法は全て無効化され、しかも純粋に物理特化の光線の様な物を照射してくるのだ。


 そしてこれと同等に厄介だったのがタールの塊のような奴である。鈍重だが魔法を使い熟し、物理攻撃などもあまり効かない。

 この3体が同時に攻めてくるのでアルムもスイキョウも交代しつつ戦うが防戦一方。このままではジリ貧だった。


「(これが魔獣とかなら構造的な弱点や生物的弱点もつけるのに!)」 


《反応が明らかにただの生命体でも使い魔でも無いからな!こいつらにエネルギー切れがあるのか分かんねえぞ!》


 ワープホールもこれだけ飽和攻撃をされては頭の処理が追いつかず、異能のコントロールができない。アルムはヤールングレイプルで急所に噛みついてくる分身を破壊しつつ広い空間を逃げ回る。


《だーー!邪魔くせえなこの影!》


「(これが一番厄介なんだよね!)」 


 全て6thエリアの魔獣クラスの怪物なのにそれが3体。状況は最悪だった。


 そんな先の見えない戦闘が1時間も続いた頃、遂にアルムの集中力に一瞬の綻びができる。


 その隙を突くように1匹の分身が大口を上げて顔面に飛びかかる。

身体は他の分身やビームを避けることにリソースを裂かれ、魔法も分身とタールの塊の魔法を相殺するのに手一杯。


 マズいッ!

 アルムがそう思った瞬間、ずっとイラついていたスイキョウが吠えた。


《吹き飛べ!》


 その時アルムの前で光が煌き、その分身は焼き焦げて消えた。


「(スイキョウさん、今のは!?)」


 アルムは魔法は使っていない。今の攻撃はスイキョウの雷撃だとアルムはすぐに気づいた。


《異能や魔法がある程度共有できるようになってずっと考えてたんだ!精神体に調整を超微細に整えれば、俺とアルムが同時に魔法が使えるかもしれないとはなっ!》


「(でも、それは難しいって話だったよね!?)」


 アルムは激しい乱戦をしつつも問いかけると、スイキョウは答える。


《そうだ!だがアルムにさっき精神的な隙ができた!そして危険が起きて、反射的に無意識で俺の助力を願ったんだろうな!その瞬間、一瞬だけ俺にもパスが繋がったんだよ!だからアルム、魔法の制御部分だけ分けてくれ!》


「(そんな無茶苦茶なっ!)」


 しかしやらなきゃ死ぬ。できなければ何も状況は変わらない。それはアルムもスイキョウも理解していた。


 アルムは魔力残量を無視するような勢いで光の矢を乱れ打ちして一瞬隙を作るとそれを試すが、身体が変に引っ張られるような感覚を覚える。


《身体の制御まではいらねえ!お互いの魔法の感覚を貸し出す時のあの感覚と借りるときの感覚を平行してくれ!》


 しかしなかなかうまく切り替えは行かず、アルムの動きがぎこちなくなり逆に危険になる。


《よしわかったっ!俺がアルムの動きを完全にトレースしてみる!切替ギリギリまで制御をくれ!》


 記憶から貴族の立ち振る舞いをトレースしたように、アルムの感覚を、バトルスタイルを、戦略を全てトレースする。しかしそれだけでは足りない。双方はそれを感じ取った。


「(僕もスイキョウさんに合わせる!お互いに一緒に合わせなきゃダメなんだよ!)」 


 いつもワープホールの虚空を開くときのように、アルムは深い意識の共有に集中する。

 スイキョウがアルムの動きを真似るように、アルムもまたスイキョウの感覚とバトルスタイルを思い出しそれに寄せていく。


 そして遂に、精密な顕微鏡のピントがピタリとあったような、そんなしっくりきた感覚をアルムとスイキョウは捉らえた。


「《これだっ!》」


 アルムとスイキョウが歓喜を交えて吠えると、雷撃が分身を吹き飛ばす。


《アルム、俺たちの魔法を複合させろ!》


「(また無茶な注文だね!)」


 なんの魔法かは言わずとも今のアルムにはわかった。

 アルムの地属性の探査、そしてスイキョウの量子の探査がリンクして物質と概念から対象を把握し、それが【極門】に反映される。

 そしてアルムとスイキョウは完全な360度の視野を共有し始めた。


《まずはあのクソ蝙蝠を潰す!アルムは残り二体を押さえてくれ!》


「(わかったよ!)」


 アルムは自分の身体を影の本体に向ける。しかしアルムは視界外からの攻撃も全て複合された探査で知覚し攻撃の全てをブロックする。


《テメエにはかなりイラついてたんだよな!》


 今、完全にリンクしたスイキョウとアルムはお互いの能力をフルスペックで使用できる。

 スイキョウはアルムの感覚を頼りに柑橘系の果汁に似た薬剤を獄属性魔法で作り、一気にその溶液で影の本体の周囲を一瞬満たす。

 影の塊や分身はその溶液に飲まれるが、毒薬でもない簡易な物にわざわざガードもしなかった。


 それを見てスイキョウはニッと笑った。


《科学の力を堪能してくれ!》


 待機させていた巨大な電気エネルギーの塊をスイキョウは溶液で空間が包まれた一瞬に解き放つ。

 電気がよく通るように加工された溶液の中を電撃が満たして、分身を一気に消滅させて本体までの道を切り開く。


《死ね!》


 そして次の霧を吐き出すよりも先に、先ほど以上の強力な電撃を解き放つスイキョウ。

 バンっと白い光が弾けて、雷撃が影の本体を貫通。影の本体は煙をあげてそのまま地面に落下した。


《生命反応無し!仕留めた!》


 影の本体が絶命した事により空間を飽和していた分身どもも消滅する。


 それはビームやタールの魔法まで阻害していた分身もいなくなったと言う事だが、こちらの方がアルム達には有利だった。


「(スイキョウさんは黒い塊をよろしくね!)」


《そっちの糞クリスタルは頼んだぞ!》


 アルムは虚空から反魔力石を大量に取り出してタールの方に投げる。しかしそれはアルムが使う訳でない。

 スイキョウは瞬時にアルムの意図を読み解き、宙を舞う反魔力石を見てニタッと嗤う。


「(確かに、魔法を使うって事は当然コイツは苦手だよな!)」


 スイキョウが圧力を一気に解き放つと落下中の反魔力石は弾丸のように加速し、方向性が乱雑でも的がデカいので巨大なタールの塊のような物に全弾突き刺さる。


 するとタールの様な塊は途端に身をグネグネと捩らせて明らかになんらかのダメージを受けているようだった。更には大量の反魔力石が体内に突き刺さったせいで魔法もまともに使えないようだった。


 そしてお次はクリスタルにアルムは向く。


「(ねえスイキョウさん!)」


《なんだ!?》


 アルムは熱光線を回避しつつ光の矢でクリスタルを攻撃するが、クリスタルはサッと避ける。その隙をついてアルムは提案をする。


「(魔法だと完全にスピードが速すぎて避けられちゃう!でも、例え物理攻撃をブロックしても、熱そのものって簡単にブロックできないんじゃないかな!?)」


 それはスイキョウが何度か使ってきた手段であり、アルムにそれを提案されてスイキョウはハッとする。


《ナイスアイデアだアルム!やっってみる価値はある!》


 アルムは指示を受けずとも金属性魔法で身体を強化しながら地属性魔法の泥を自分を包むように分厚く展開する。

 そしてスイキョウは熱光線が飛び出す前に、今までで最大級の熱を取り出し、圧力に一切置換せずクリスタルの元で解放する。


クリスタルは電撃も圧力も、磁力操作による武器の射出も全て物理障壁で弾いた。魔法も宙を浮いている事で俊敏に躱してくる。しかし方向性の無い熱の塊自体は防げないのではないか。そんなアルムの賭けは、今回は勝利した。


 アルムをほぼ密閉した泥の水分が一瞬で揮発し金属性魔法で強化してなお更に顔を痙攣らせる熱量が解き放たれた。しかも1度ではなく、スイキョウは幾度もクリスタルを中心に熱を放った。


 すると、クリスタルは破壊こそされなかったがその場に停止した。なにか、エラーが起きたように。

 その瞬間を逃さずアルムは天属性魔法、獄属性魔法、地属性魔法を組み合わせたオリジナルの魔法、“氷牢の魔法”をクリスタルに発動させる。

 その魔法によりクリスタルは一気に凍り漬けになる。しかし元々が強烈な熱を持ったあとなので瞬時に揮発するが、アルムはもう一度その魔法を使う。

 そこにスイキョウが重ねるように再び熱を解き放つ。


 高熱と冷却を繰り返され、クリスタルの挙動が明らかにおかしくなってきたのをアルム達は土の壁越しに探査の魔法で直接見ているように認識する。


《アルムの言葉でもう一個気付いたぜ!つまりは外部からやろうとするから悪い訳で、内部から崩せばいいんだろ!?》


 クリスタルの防御力が極端に下がった所で、スイキョウは普段封印してる魔法を行使する。


《重力は大きすぎるが、テメエが浮遊してる時に使ってる変な力なら………!》


 スイキョウはクリスタルの浮遊させている謎の浮力を魔法で捉える。


《堕ちろ!》


 スイキョウはその上に向いている力のベクトルを魔法でひっくり返す。

 重力に加えて、自重を無効化するほどの浮力を更に加えられたクリスタルは超高速で地面に叩きつけられる。


 幾ら物理障壁で物理攻撃を打ち消そうとも、自らが床に高速で叩きつけられたらなにも無効化できない。


 熱の異常で動きが鈍重になっていたクリスタルはなにも出来ずに床に激突。その巨大な結晶体に大きな亀裂が入る。


「(生命活動停止!)」


《よっしゃ!》


 アルムは土壁のドームを破壊すると、熱の巻き添いをモロに受けてピクピクしている黒い塊に向き直る。


「(むしろ高熱に耐える外皮があって死んでない耐久性に驚愕すべきなんだろうね)」


 スイキョウは既に打ち止め。

 やはり魔力消費を抑えるなどの芸当はアルムの方が特化しており、アルムは残りの魔力2割を光の矢の雨に注ぎ込む。


「(これで終わりだね!)」


 その光の矢は魔力障壁を張れないその巨体に降り注ぎ、遂にぴくりともせずグッタリとする。


「(生命活動、停止!)」


アルムはそれを確認すると、魔力切れの限界でそのままフッと意識を失った。




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