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 12月中旬、公塾の編入試験対策も完璧な事を確認し、アルムは少し前から計画していた事の実行に踏み切った。


「(遺跡、あるといいよね)」


《未探検って事は、遥古宝遺物(アーティファクト)が見つかるも知れないって事か。こんなイベント今まで無かったから少し胸が躍るな》


 旧文明についての調査は今現在においても全く進んでいない。


 くれぐれも厳密には古代文明とは違うことを留意しなければならない。古代文明はあくまで人類史の中の昔の文明である。

 旧文明とは、“人類史とは違う”生命体の文明である。今の所そんな旧文明が実は大きく4つに分けらることは判明済みで、シアロ帝国ではなんのひねりもなく、第一旧文明、第二旧文明、第三旧文明、第四文明と分けられている。


 第一旧文明は『植物系の生物』が支配していたとされている。かなり魔法的な要素の強い文明を築いたとされており、発見される遥古宝遺物は少なく、大体は単純な機能を持っている事が多い。石材や鉱石を多く用いて火を活用した様子は少なく、そして文字は点字のような文字を使っていたとされているが、規則性が難解過ぎて未だ解読には至らない。


 第二文明は『不定形の生物』が支配していたとされる。その存在は疑問視している者も多いが、第一旧文明と第三文明の両方にその存在が示されているのだ。元は第一旧文明の生物に奉仕する種族だったようだが、主人達が滅亡し次の支配権を握ったのだ。ただし文字や遺跡、遥古宝遺物もなにも無く、故にその存在が疑問視されるのだ。


 そんな彼等も第三旧文明を築いた『昆虫型の生物』に淘汰された。この生物達は金属を非常に重用し、生物学や医学に秀でていたと考えられている。魔獣や魔蟲と思われる生物が集められていたような遺跡が数多く見つかっており、そこに残された絵画群からそれらを繋ぎ合わせようとしていたような形跡が見て取れたりするのだ。


 そして何らかの要因でその第三文明が滅びると、次に世界を支配したのは『外来の生物』と呼ばれる植物や海棲、動物など色々な特徴を複合して持っていると思われる最も奇妙な生物である。

 第四旧文明を築いたこの生物達は非常に高度な技術力を持っていたとされていて、遥古宝遺物は特に複雑怪奇な代物が多く発掘される。魔法以外の何らかの力を使っていたのではないかと考えられるほど遥古宝遺物の機構に用途不明な部分が多く、しかしどの文明よりも長く高度に発達していたと考えられており、他の文明と違い1番特徴的なのが“書籍”という代物を既に作り上げていた部分にある。

 しかも物質の状態の保存にとても長けていたようで、遥古宝遺物の発掘数の多さだけでなく、実際に閲覧可能な書籍(文字は未解読)すら残っているのだ。

 ただし“紙”以外の物質を使っていたようで、植物由来の物質を使っていないのも特徴的である。


 そしてこの旧文明は最も劇的な幕引きを迎えたのでは無いかとも考えられている。それほどまでに文明として成熟し戦争をしていたようにも思えないのに、どうして滅びたのかがよくわからないのだ。まるで、忽然と滅びていた。


 今回アルムはレシャリアの『凄い大きな四角錐の建物』と言う話を聞いて、もし遺跡があるとすれば恐らく第一旧文明か第三旧文明の遺跡となんとなく考えていた。何故なら何方も大型の遺跡が発見されやすく、第一旧文明は神を信奉していたと考えられる祭壇を、第三旧文明は大規模な実験施設を築いていた事が知られているからだ。


 今日はフェシュアもレシャリアも仕事、ジナイーダは公塾なのでアルム1人きりでの魔重地探索である。是非この機会にアルムは中央まで探索したいと思っていた。



 しかし、ただ闇雲に探索などしない。“裏技“で超ショートカットしまくり6thエリアに到着したアルムは空を見上げた。


「(用意はいい?)」


《俺はいつでもいいぞ。むしろアルムが金属性魔法で耐久性を上げとけよ》


「(うん、それじゃやろうっか)」


 アルムが何故、帝国精鋭でも数週間かけてアタックする6thエリアに日帰りで行き来できるのか。


「(1回目は斜め25度50mでいくよ)」


《よし来た》


 アルムは目の前にワープホールの虚空を開き、“自らが”飛び込んだ。

一瞬喪失する時間感覚や平常感覚、それが一気に戻り身体が重力の存在を思い出し、アルムは一瞬意識が飛びそうになるが、気を強く持って堪える。


 アルムが飛び込んだ先は、先ほど飛び込んだワープホールから斜め二十 五度50m先。急激な気圧の変化で軽く酔いそうだがイヨドの拷問鍛錬第2弾に比べればどっこいどっこいで、アルムは次の指示を出す。


「(次、斜め25度100m!)」


《あいよ!》


 アルムは鍛錬により遂にワープホールの虚空による自らの移動をマスターした。それを連続でどんどん展開する事で上空をショートカットできるのだ。

 幾ら凶暴な魔蟲や魔獣が空を飛んでいても、数秒事にパッと消えてパッと遠く離れた場所に現れるアルムを追いかけたりしない。むしろ自分の見間違うを疑うレベルである。


 アルムはこのように金冥の森上空を小規模転移の繰り返しをして力技で超ショートカットして出来るのだ。


 ただ、これを実現させるのにアルムとスイキョウはかなり悪戦苦闘した。

 このワープホールを通過する瞬間、どうしても感覚が狂いまくって下手するとワープホールの維持ができずにアルムが死んでしまう可能性があったのだ。


 特に穴に潜っている最中はスイキョウも制御が怪しくなる。それでも座標をしっかり維持して空間を繋げなければならないのだ。

 どれほど奇異な事をしているかと言えば、自分自身で自分の脳腫瘍摘出手術をしている感じだ。


 外から力をかけてねじ曲げて接続した空間を、力をかけているべき本人が通過するのだ。要するにかなり無茶なのである。

 しかしイヨドの拷問鍛錬第2弾で精神も異能も鍛えられ、フェシュアの昇華で更に異能のスペックを十全に引き出されるようになったアルムとスイキョウは幾度となく実験を繰り返し、遂に実用段階までこぎつけた。


 まだ意識が飛びそうになるリスクを完全には解決できないが、出来るだけ早く通過すればその症状を緩和できる。そして一度に一気に遠距離に移動しない。

 この2つを守る事でアルムは自分でも転移が使えるようになったのである。


 これを連続で使い金冥の森上空を移動していくアルムは遠方に目を凝らし続ける。


《あるか?こっからじゃ流石に見えないな》


「(うーん、こっからは空中を走って行ってみるよ)」


 森から上空600m地点となれば魔重地による影響も少しは軽減される。それでも2ndエリアの濃さぐらいはあるが、その程度の魔力濃度ならもはやへっちゃらなアルムは空を駆けて中央の座標にずっと目を凝らす。


《ん!?今なんか光らなかったか!?》


「(うん、僕にも見えたよ!本当に遺跡はあったんだ!!)」


 そのまま空を駆けて行くと、アルムは四角錐の金属性の巨大なナニカを視界に捉えた。日の光に照らされる緑がかった金属のピラミッドのような物をスイキョウは見つけた。


 目視だけで推測しても高さ約250m、底辺は一辺600m近くあるように思えるそんなバカでかいオブジェを確かにアルムとスイキョウは発見した。


 まるで某天空の城でも見つけたかの如きテンションで盛り上がるアルム達は、その謎の建造物へ突き進んでいく。此処まで来ると魔力があまりに濃すぎて逆に生き物を近寄らず、魔草もまばらにしかない。


 アルムは慎重に減速しつつ降りて行き、その謎の建造物の200m手前に着地した。

 尚、ワープホールの魔法は上下の移動が1番危険である。どんなに修練を積んでも垂直に100m以上転移すると意識が完全に飛びそうになるのだ。

 スイキョウはその理由について、恐らく位置エネルギーがおかしくなるからだと考えていた。逆を返すと、100m以上上空に生き物をワープホールで移動させれば、一発で意識を奪える。

 ただ、そこから落下して死ぬかはその生物次第である。どいつもこいつも金属性魔法に特化しすぎていてタフなのだ。


 その上、6thエリアの生物になると賢さも上昇しており勘も非常に鋭い。初見でワープホールを回避する奴がゴロゴロいるのだ。アルムもスイキョウ込みでタイマンならいい勝負できるが、二体以上接近されたら即座に撤退を選ぶ程になかなか壊れた性能をした魔獣や魔蟲が6thエリアには普通に闊歩しているのである。


 そんな生物でも近づかないのがこの中央エリア。アルムは本来ならば魔術師には猛毒である反魔力石を沢山身につけて高過ぎる空気中の魔力を緩和していた。


「(環境中の魔力濃度が大量の反魔力石と相殺しあって釣り合っちゃうって異常だよね)」 


《空間そのものが反魔力石って感じじゃないか?》


「(その例え、凄くしっくりきたよ)」


 恐らく放出系の魔法はまともに使えない。そう理解したアルムは金属性魔法で肉体を異常に強化して、スイキョウの量子の魔法を借りて辺りを少し探る。


 この場合、物質的に物事を把握する量子の探査の方がアルムの空間認識能力と異常に相性が良いのだ。アルムは慎重に歩みを進め、サンプルとして土やまばらに生えた魔草も回収しつつ足を進めるが、なにも起きずに建造物の前まで辿り着いてしまった。


「(………でっかいね)」


《ああ、こりゃ人の技じゃないわ》


 材質不明のエメラルド色の金属でできた途轍もなく巨大な建造物は、アルムの前に高く聳え立ち鈍い光を放っていた。


 アルムはインベントリの虚空を探り、何か使えるかと思いストックしていたただの石を取り出す。

 川で拾ったなんの変哲も無い掌サイズの丸石。それをアルムは徐に建造物に投げてみたが、カツーンっと鈍い音がしただけでなにも起きなかった。


「(普通の探査でも何か異常があるようにも思えないし、何だろうね?何処かに出入口があるのかな?)」


《一応グルっと一周してみようぜ》


アルムはスイキョウの勧めで巨大な四角錐の周りを歩いてみるが、グヨソホトートの教会の様に窓も出入り口も発見できなかった。

地面も普通に探査しても土自体が魔力を吸収しすぎて何もわからない。


「(……………ただのオブジェじゃ無いよね?)」


《だと思うがな。よし、今度は地下へアプローチを変えようぜ。ワープホールのちっこい穴をちまちま地中に開けて、キャンセルされた場所を探ってみたらどうだ?》


 手間がかかりそうだなぁ、と思いつつもこのままこれだけ確認して帰るなんて事もしたくないのでアルムはその提案にのる。

 だがアルムの予想に反して、それは直ぐに見つかった。アルムは10mも歩いたところで立ち止まる。


「(あれ?)」


《どうした?》


「(今って土の中の隙間にワープホールをちまちま開けてる訳でしょ?でもこの下、広い範囲で全然キャンセルされないんだよ)」


《何か空間でもあるのか?》


アルムは試しに半径1mのワープホールを作るが、キャンセルされずに成功する。

 インベントリから棒を取り出して差し込んだが、全て抵抗なく差し込まれた。


《あたりじゃねえか!?》


「(ちょっと掘ってみるね!)」 


 アルムはスイキョウの案の元、鹵獲した槍でも使えない奴を芯にしてスコップもどきを作っていた。それをインベントリから取り出して、魔力節約の為に地属性魔法は保留にして金属性魔法で肉体を強化して地道に掘っていく。

 掘り進める事1m40cm、アルムの手にかなり硬い手応えが返ってきた。


「(あ、スコップ折れちゃった)」


《それはしゃーない。それよりもそこの土を退かそうぜ》


 アルムもここまでくるとめんどくさくなったので一気に地属性魔法で泥を作って土を押しやる。するとそこにはエメラルド色の金属の板があった。

 アルムが更に穴を大きくしていくと、4m×4mの大きな金属の板であることがわかった。その先をワープホールで探ると、斜めにスロープが続いている事に気付く。


「(開けられるかな?)」


《それよりかは開けていいかが問題だよな。もしかしたら毒の空気で充満してる場合もあるぞ》


「(あ、そうだね。それは盲点だったよ)」


 本当は、スイキョウは低酸素状態などを疑っているのだが、それをアルムに説明するのが面倒なので毒の空気と誤魔化した。


「(じゃあ、またあの子の力を借りようかな?)」


《まあ丈夫さは折り紙付きだからな》


 アルムはインベントリから、イラリアから買った魔草素材の布を取り出した。

 そこには既に召喚陣が刻まれており、アルムは指を少し切ると血を縫って簡易召喚でそれを喚び出す。赤い塵が舞い散り現れたのは、赤いクマムシの様な生物。大きさは30cmほどと大きく、召喚されてもぼけっとしている。


 この使い魔は環境異常にとても敏感に性質を持つ使い魔であり、アルムが5thエリアの魔獣素材などを触媒にし召喚できる格の高めな生物である。


 実はこの使い魔はワープホールの時に散々アルムとスイキョウがチェックに使った使い魔で、割と1位2位を争うほどお世話になっている。


 その性質はシンプル。何か環境が変化すれば変色する性質を持ち、その色の変わり方でもどんな異常が起きるかも少し推察する事もできる。簡易召喚なのはただ居てくれればいいだけだからである。特に攻撃もしなければ抵抗などしないので、糸で胴を括り、ワープホールの先へポイッと投げ込む。そして系を引っ張り直ぐに回収するのだ。


「(毒は無いみたいだね。空気は綺麗なのかな?むしろ逆に中の空間は超低魔力っぽいよ)」


《この金属が魔力をシャットアウトしてる訳か。通りで性質の特定が難しい訳だ》


 まだ調査には協力して欲しいのでアルムがクマムシっぽい使い魔を抱き抱えると、スイキョウはアルムに穴から離れるように言って、コントローラーを渡してもらう。


「(全く魔力無しってのもちと困るんだよな)」


 スイキョウは量熱子鉱からかなり大きな熱エネルギーを取り出して、アルムが掘った穴の中に入れる。


「(物理強度はそこまで高くないだろ!)」


 そして熱を圧力に変換して一気に解き放つ。爆発したように土が舞い上がり、金属の激しくひしゃげる音が聞こえた。


「(よっしゃ、壊れた)」


 スイキョウは大きくなった穴を覗き込み板が吹き飛んだ事を確認し、アルムにコントローラーを返した。


「(スロープがあるね)」


《入ってみようぜ》


 アルムは邪魔な土を全部ワープホールで回収し、ちゃっかり金属の板も回収する。見つかったスロープは割と急で、全てが金属でできていた。


《絶対に人工の建造物じゃないな》


「(たしかに人だったらこんな隠し通路を大きくする理由もないし、スロープじゃなくて階段を作るよね)」


《その通りだ。つまりこれを作ったのは足がない生物だったんじゃないか?》


「(だとすると第三旧文明じゃないし、金属性だから第一旧文明でもない………………第四旧文明の建造物かな?こんな規模の物が発見されたケースって無いはずだけど)」 


《だが暫定的に第四の奴等の可能性がとても高いぞ。建造物の保存性も凄くいい》


「(確かに)」


 アルムは靴の足裏に粘着性の強い薬剤(オリジナルの魔法)を作り、ペタペタとスロープを降りていく。


 幸いスロープは長くなく、少し歩くと平ら通路が現れる。アルムは光の魔法で通路を照らしながら歩いていくと、今度は坂のスロープを這い上がる。


「(また天板だね)」


 アルムはごめんよ、と言いつつワープホールをその先に開けてクマムシもどきを投入してすぐに回収する。


「(環境は一緒だね)」


《だとしたらもう一回ブチ抜くしかねえぞ》


 スイキョウは強化アスファルト擬きを厚さ50cmにする形でスロープ上にアルムに作らせ、再び熱の塊を爆発させる。

 スロープにドンっと大きな衝撃が走ったが、うまく天板は吹き飛ばす事ができていた。


 アルムはアスファルトの塊を魔法で片付けると、インベントリにカケラも全部回収する。

 そして遂に建造物内部へ侵入した。



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[一言] >第四文明、外来の生物 これってさぁ、もしかして椅子さんなんじゃあ……w >赤いクマムシの様な生物 んん?これはもしかして文字化けした森にいたビームを放つアレの原型とか?w
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