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 アルムが金冥の森での活動をスタートしてから特にこれと言って問題はなく8ヶ月の時が過ぎた。


 4月から5月中盤にかけてはフィーバータイムが続き、超荒稼ぎして公塾に通う為に必要だった金額をあっさり稼ぎきった。


 6月からは5thエリアの魔獣や魔蟲との戦闘が本格化し、夏の間は大量の魔蟲相手に非常に苦しめられつつも、結果的にアルムの戦闘能力の大きな飛躍に繋がった。

 それはフェシュア達も同様で、7月のアルムの誕生日には自分達が狩った獲物を使った物をプレゼントしていた。


 8月のピークを過ぎると魔蟲の量もピークから減少を始め、徐々に森はアルムの知る姿に近づいていき、9月にはアルムは金冥の森の中心、最終エリアである6thエリアに足を踏み入れていた。

 そして6thエリアでも真面に戦えるようになったのはそれから更に3ヶ月後、12月になってからの事だった。



「フェシュアとレシャリアは試験の準備は大丈夫そう?」


 学校と同じシステムを取るルザヴェイ公塾の編入試験は13月上旬。

 12月に差し掛かりつまりは試験まであと1ヶ月。アルムが自分と同様に編入試験を受けるつもりのフェシュアとレシャリアに問うと2人はコクリと頷く。


 因みに今いるのはアルムの自室で、アルムの恋人になった事もあり、頻繁に来るフェシュアとレシャリアだけでなく、顔パスでリタンヴァヌアに立ち入り出来るようになったジナイーダもいる。


「ジーニャから貰った過去問を解いてみたけど、私もレーシャもなんの問題もなかった」


「フェーちゃん凄いんだよ、一回満点取ったんだから!」


 確認を取るようにジナイーダにアルムが視線を向けると、ジナイーダは頷く。


「お二人とも筆記試験は問題無いと太鼓判を押せます。私が指導させていただいたマナーの実技なども十分合格ライン……………遺憾ですが兄さんより丁寧です。敬語も同様ですね。筆記ほど太鼓判は押せませんが、十分合格圏のレベルです。そこまでくればあとは他の実技の方が重要ですので」


 万年首席の優等生であるジナイーダは、時間のある時にフェシュアとレシャリアの貴族的な立ち振る舞いの習得に関して2人に請われて指導していた。

勿論アルムも余裕がある時は2人にアドバイスをしていた。

なのでフェシュアもレシャリアも様々な分野で成長していて合格ラインをクリアしていた。

 ジナイーダが付け加えた様に、最終的に合格を決するのは他の実技である。ある意味マナーの実技も筆記も最低限の知能と性格、基礎力があるかを見る為の物で、合格ラインを超えていればあまり躍起になって完璧を目指す必要はない。


 最終的に見られるのは、特筆すべき一芸を持っているかである。


 戦闘特化なら実際に試験監督が戦闘して実力を測るし、異能で勝負するなら披露してもらう。

 学力や商才で勝負するなら、アルヴィナが私塾抗争でやっていたような物が試験として実施される。


 ただの馬鹿や知識や基礎を蔑ろにする物を弾き落とせば、あとはどれだけ公塾側の目に留まる能力があるかを示せるかが重要なのだ。

 特にルザヴェイ公塾は武の名門なので、その評価対象は戦闘力に非常に重きが置かれる。幾ら有用な異能があろうとも、それを実戦に使えない様では容赦なく試験に落とされる。だからこそ倍率は高く、定員割れしても質を落とさないために落とすときは容赦なく落とすのである。


 八大公塾でもルザヴェイ公塾は屈指の厳しさで知られ、合格倍率は毎年7倍以上。そして毎年最大定員の3割を定員割れする。枠があるからと言って基準に達していない人物は落とすのだ。枠をわざわざ埋めてせっせと授業料を取らないと運営できないみたいな貧乏くさい公塾ではないからこその余裕でもある。

 だからこそ質は異常に高く、公塾の武の頂点の座はなかなか揺るがないのだ。



「お二人とも既に異能を抜きにしても十分強いです。フェーナさんはアルムさんをも上回る薬毒生成のスペシャリストで消滅系統の魔法もアルムさんの考案した魔法を高度にマスターする事で異常なレベルの練度を誇っています。

レーシャさんは治療のスペシャリストで六属性全て使用可能。特に天属性系統ではアルムさんも認めるほどに応用の幅も広いです。恐らくお二人が不合格なら今回の試験はアルムさん以外全員不合格でしょうね」


 強い確信を持って答えるジナイーダに、フェシュアは当然、と解答する。


「ウィルの鬼のようなトレーニングもレーシャとし続けたし、魔重地にも入り浸る事で魔力の操作性も飛躍的に向上した。周りの鍛え方とは訳が違う」


 そんなフェシュアにレシャリアが補足する。


「それに3ヶ月であたしもお姉ちゃんもびっくりさせるほど成長させてくれるルーム君がお師匠さんだもん。掃除の魔法とかオリジナルの魔法も教えてくれたし、あたしはうまく習得できなかったけど、フェーちゃんはルーム君オリジナルの獄属性の“分解の魔法“と“殺力の魔法”を完全にマスターしたもんね!」


 分解の魔法も殺力の魔法も元は消滅の魔法である。

それを掃除の魔法に使う方を更に高度化して“分解の魔法”、軽身の魔法に使う方を更に高度化して“殺力の魔法”としてアルムは完全に体系化していた。

 しかし何方もかなり高度な理論と概念の理解が必要だ。普段から物質などに付いて異能で読み取れるフェシュアだからこそその習得に至った。アルムの様にスイキョウが直接イメージを与えずに、アルムの説明を理解してマスターしたあたりフェシュアは正に天才と言えた。


 一方、レシャリアは本来高難度とされる複合系魔法の方が大の得意で、掃除の魔法などもあっさりマスターし、アルムが複数属性を前提にスイキョウと考案した数々のオリジナル魔法も実戦登用可能なレベルまで仕上げていた。


 因みに、実はジナイーダもアルムから色々と教えを受けており、金属性魔法を更に強化させて恐ろしい迄のパワーを獲得し、軽身の魔法まで軽くマスターしているので移動性能に関しても大きく飛躍した。

 更に更に、ジナイーダが元々使えたオリジナルの魔法である溶岩の魔法も、アルムが魔改造を施して消滅の魔法を混ぜ込み更に強力な発展系ともいえる“煉岩の魔法”に昇華させてしまった。


 なので現在この3人は戦闘能力的に割といい勝負をしており、アルムも3人同時に全力で挑まれたら(異能抜きで)真面目に相手する必要があると考えるレベルだった。


 異能抜きというのは、上達した【極門】のワープホールがなかなかエグいレベルまで仕上がっているからである。

 初見殺しもいいところで、アルムが全ての自重を捨てて全力全開で戦ったらどれほどになるのかは、アルムやスイキョウですら分からなかった。

 だが、異能抜きでも金冥の森の6thエリアで、1体1体が小さな災害級レベルの魔獣達を相手取る迄に成長してるアルムは、異能抜きでも今や凄まじい実力を誇る。アルム自身がもはや災害級に到達しているのだ。


 簡単で分かりやすい比較をするならば、今のアルムは、今年の4月のアルムなら対して苦戦せずに完勝できるレベルである。そのレベルでアルムの実力は飛躍してた。

 そんな今のアルムに3人がかりとはいえ真剣に戦わせるまでに実力を上げてきた、しかも戦闘は本来の専門でも無いとなれば、なかなかその実力の高さも分かるであろう。言い換えよう。手加減無しの災害を相手に3人でも対抗できる。そう考えると3人の練度の高さも判るという物だ。


 だが、そんなアルムも絶対に戦いたく無いと言うほどに仕上がってる人物がもう1人いた。

 雷撃の射程距離が“魔重地の中で”500mに到達し、4thエリアまでの魔獣なら一撃で感電死させ、重力を操り刃物の雨を降らせ、熱を圧力にして解き放てば森の一角まるまるを吹き飛ばすレベルで戦闘特化に磨きがかかってるのスイキョウである。


 イヨドの拷問鍛錬第2弾は第1弾と違い、スイキョウにとっても非常に良い鍛錬になっていた。その効率はフェシュアがアルムとスイキョウの状態を整理したことにより更に跳ね上がっている。

 量子の探査のスペックは更に大きく向上し、アルムの感覚を借りる事でアルムの魔法まで軽く使えるようになったのである程度金属性魔法まで使えるようになっていた。

 それはアルムも同様で、スイキョウの感覚を借りる事で量子の探査や雷撃まで使えるようになっていた。


 しかし双方どちらも本家には遠く及ばない。特にスイキョウは応用性皆無な一方でどれも破壊力と殺傷性はピカイチで、アルムが異能込みで本気で戦っても絶対に逃避を選択する状態になってきているのだ。


「(もはや異能クラスだよね)」


《あまり否定はできないな》



 双方ヤバい感じの初見殺しであり、スイキョウも実際にアルムと戦闘だけは御免被ると考えていた。



 閑話休題。



 お互いの実力に何の問題もない事を確認し合い、そのまま談笑するアルム達。話題がコロコロ変わり、アルムの6thエリアでの探索の話になったのだが、そこでレシャリアがとある事をアルムに言った。


「あ、そう言えばお姉ちゃんに最近聞いたんだけどね、金冥の森のいっちばん奥にはね、捨てられた旧文明の遺跡があるって話なんだってっ!」


「旧文明、人間以前に栄えた文明の事だよね?そんな遺跡があるの?」


 魔重地の発生原因には色々な理由が推察されているが、その中に旧文明の者達が神の怒りをかい滅ぼされた土地の名残りという説がある。実際、魔重地の奥の方などで旧文明の遺跡が発見されるケースは多く、その学説を裏付けていた。


「ほら、お姉ちゃんって軍の装備の開発でも協力してるでしょ?その中でもお姉ちゃんって魔重地で活動する為の装備を担当してるんだって!」


 それはペラペラと喋っていい内容なのかと言えばNOなのだが、アルムの装備へのあれこれでそんな事はアルム達も知っているので誰もツッコマない。


「それでねその開発の時に軍の人ともお話しするんだけど、他の事も色々聞けたりするんだって。そのお話の中でね、その遺跡のお話しがあったんだって」


「つまり軍でその存在を確認してるの?それとも噂の類いかな?」


 どちらかで結構話が変わってくるんだけど、と言うアルムにレシャリアは答える。


「うーん、中間かな?昔ね、まだバナウルルがもっと小さかった頃にとっても強い人だけ集めて少人数で金冥の森を探検したんだって。エリア分けも指標もその時の探検隊が作ったんだって。その探検隊なんだけどね、3回目くらいの調査で遂に中央と思われる場所までたどり着いたんだけど、凄い大きな四角錐の建物を目撃したんだって。でもそこで食料も体力も色々尽きかけていたから帰還したんだって」


「それ以降の調査は無かったの?」


 存在がちゃんと確認できてるなら、調査するよね?とアルムは思うがレシャリアは首を横に振る。


「その探索で宮廷魔導師様と聖騎士様を1人ずつ失って、破損した装備とか全部を合わせたらすっごい赤字になっちゃったんだって。だから記録上のそのおっきな赤字も記録されてるだけにその話は本当なんかじゃないか、って言われてるみたいだよ」


 アルムが異常なだけで、本来は6thエリアに到達するには週単位のかなりの時間が必要である。その間に消耗する体力と精神、尽きていく食料、どんどん崩壊していく装備、そして徐々に強くなっていく魔獣や魔蟲ども。

 宮廷魔導師や聖騎士だろうと凄まじい消耗を強いられ、そこで得た貴重な情報を持ち帰らせる殿を務め、そして消息をたったのだ。



 そんな一件があったので誰も奥へわざわざ調査など行くはずも無く、国としても許可を下せない。ましてや責任など誰も取れないので命じられもせず、辺境警備隊などの中でまことしやかにその存在がずっと語り継がれていたのだ。


 そしてそんな噂話を、イラリアを美女と勘違いした男どもが距離を近づけたくて世間話のついでに話し、それがレシャリアに伝わったのである。


「確かに6thエリアは外縁ばっかりで、中心は魔力濃度が高過ぎてちゃんと探検して無かったかも」


 6thエリアにいる魔獣や魔蟲連中は体内から普通に反魔力石が取れるほどに魔力濃度の濃い連中なのだ。しかも奥地に居る主クラスではない。境界ラインくらいの魔獣でそのレベルなのだ。よってアルムはわざわざ更に中央へ足を進めるつもりは無かった。


「(どう思う?)」


《調べといて損は無いな。実際に遺跡があれば御の字だ。俺に繋がることもあるかも知れんしな》


「(確かにアプローチ方法を変えてみるのはいいかもね)」



 スイキョウさんの妙な知識の出所ってもしかして、とアルムは内心で思い遺跡の捜索に意欲的になるのだった






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