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「どう、かな?」


「うん、バッチリだよ。3ヶ月出此処まで成長するなんて、凄いよレーシャ。よく頑張ったね」


「えへへ、ありがと。でもそれもみんなルーム君のおかげだよ」


 3月も下旬に差し掛かり、いよいよアルムの契約の期限も近づいていた。

 フェーナやレーシャへの教育の傍ら、アルムは依然としてイヨドとの拷問鍛錬第2弾は時間を臨機応変に調整する形で行っていたし、サークリエの講義も毎日3時間しっかりこなしていた。

 その一方でイラリアのアルバイトもこなしつつ、ジーニャやレグルスとも半ば師弟関係を築き教育をして…………………と、休んでいる時間帯がない毎日を過ごしていた。


 だがアルムにとっては寂しさも感じないほどに人と触れ合う生活はとても楽しかったし得る物も多かった。

 挙げ句の果てには公塾の宿題が終わらないと泣きついてきたレグルスの面倒まで見ている始末で、事が発覚した時は流石のアルムもジーニャに「あまり甘やかさなくていいのですよ?」と優しく嗜めれてしまっていた。


 そもそもアルムはなぜレグルスが公塾に通っていない自分に泣きついたのかは疑問だったのだが、レグルスは「アルムなら多分出来ると思った」と勘だけでアルムに頼り、アルムは公塾のレベルを測るいい機会だと思って宿題を手伝う事にして、実際の所問題無く解答できていた。

 

 ただ、計算外があったとそうれば、アルムの解答が良すぎた。母に「公塾の宿題は終わりましたか?見せてご覧なさい」と言われてレグルスも堂々と見せたが、あっさりレグルスの解答じゃない事を見抜かれて白状させられたのだ。


 因みに優等生のジーニャは既にレーシャ達と会うまで、1月の上旬の間までに宿題は全て終えている。なのでレーシャ達と頻繁に会っても問題はなかったのだが、レグルスはあっちこっちに遊びに行ってたので当然宿題など手をつけていなかった。だがレグルスの他の友人もどっこいどっこいの状態だったりするので、アルムに泣き付く羽目になったのだ。


 そんな事があった3月だが、中旬も過ぎる頃には、ジーニャ達もそろそろ公塾にまた通い始めるのでその用意をし始め、アルムもレーシャの教育に更に熱が入った。


 レーシャもアルムと順調に距離をつめるジーニャを見て、最近ようやく自覚し始めたとある乙女心も手伝ってかアルムの教育に応えて努力をした。

 そして今日、契約終了を目前にアルムの前でレーシャはその成果を披露したのだ。


「火属性、水属性、金属性の基本三属性は実戦登用可能レベル。獄属性は呪いや破壊などはまだ難ありだけど薬毒生成は合格レベルだね。地属性も特殊な泥を用いた扱いも探査とかも最初に比べて凄く上達している。目覚しいのは天属性だね。気象の読み、天候の擬似操作、光系統の魔法、祝福など、考えていたラインを大きく超えるレベルで習熟してるよ。そして1番は、治療属性への能力開花かな?もしかすると今のレーシャは全魔術師の中でも最高峰の治癒技能を持ってるかもね」


 全属性を習熟させた先でアルムが“召喚属性”と呼べるオリジナルの魔法を行使できる様に、レーシャも“黄金の魔力”体質と組み合わさる事でアルムも遠く及ばないレベルの異能に匹敵する異常な治療能力を獲得していた。


 普通の治療の魔法は重度の裂傷や水膨れを起こすほどの火傷程度の、精々一般家庭でもギリギリ応急処置可能な圏内の怪我しか治せない。 

 では今のレーシャはどれほどのレベルを治療可能かと言えば、骨折だろうが治療でき、指を切断しても魔力が足りていれば簡単に繋ぎ直すこともできてしまうレベルとなっていた。


人間では試してないが、街中の下水からネズミをワープホールで捕獲して、アルムはそれを実験台にした。

 レーシャも辛そうだったが、いざと言う時の人命救助をする際に正しく自分の力量を認識しておく必要がある、と言うアルムの説得で自分の治癒魔法がどれほどの物なのかアルム協力のもと調べたのだ。

 と言うよりも、じゃあ僕の指を切るから治療してみて、と言い出しそうな雰囲気をレーシャはアルムから感じたので頑張らざるを得なかったと言える。


 アルムからすればイヨドの拷問鍛錬第1弾で身体が爆散しかける経験までしているので指の1つや2つ切っても今更怖くもない。もしネズミがダメなら………とアルムは少しは考えてはいたので、レーシャの勘も的外れでもなかったのである。


「あたし、ルーム君の依頼達成に協力できたかな?」


「体力も凄く向上しているし、魔法以外の技能も完璧では無いけども問題ないレベルだよ。多分イラリアさんも余裕で合格点をくれるんじゃないかな?

本当に頑張ったね、レーシャ。おめでとう」


 色々と難航した事もあったが、レーシャが素直にアルムの指示の従ってくれたお陰で大きなトラブルもなくタスクを終了出来たことで、アルムはホッとしてニコッと笑う。


 そんなアルムの声に抑えきれない嬉しさやレーシャへの労りなどが込められているのを見て、レーシャも感極まった。


「本当にありがと!ルーム君っ!」


 ガバッと急に飛びつくレーシャに驚きつつも危なげなく抱き留めるアルム。

 鍛錬の為にサラシでガッチリ固めているので多少攻撃力は落ちているが、相変わらず存在感ある胸部装甲に少し恥ずかしさを感じるものの、レーシャが純粋に喜びに浸っているのを感じてアルムは頑張って耐えた。


「あと、これくらいできるってことは、男の人も結構大丈夫になってきたかな?」


 そんなアルムはレーシャを労わるように背をトントンと撫でつつ気恥ずかしさを紛らわせるようにコメントすると、レーシャの顔が真っ赤に染まる。


「ち、違うんだよ!?これはルーム君だから大丈夫って言うかね、その、えっと、お、男の人は前よりは平気だけどまだ怖いし、その、あのねっ」


 手をバタバタさせながら焦り出すレーシャに、アルムは落ち着いてと囁いてレーシャの頭を優しく撫でる。すると落ち着くどころかレーシャの羞恥メーターが逆に完全に振り切れて「あうっ」と鳴きつつ結果的に硬直していた。


 アルムがなんて言おうか言葉を選んでいると、その校庭のような鍛錬場に誰かが入ってきて、アルムの背後からトーンッとのしかかって抱きついてくる。


「ウィル、なんでレーシャをハグしてる?レーシャが真っ赤になって茹で上がってる」


 懐き具合が忠犬の様になっていったレーシャの一方で、呼応するようにスキンシップが更に増えていったのがフェーナである。加えて隙あらばアルムと温泉に入ろうとするなど、アルムの羞恥心を的確に刺激していた。


 アルムはレーシャとフェーナに2人にサンドされる形になり、レーシャはフェーナの指摘に更に顔を赤くする。

 アルムも密着感が上昇したりレーシャとフェーナの双方からフワッと香る甘い匂いにクラッとしそうになるがなんとか色々なものに耐えて問いかける。


「フェーナって今日はお休みだったっけ?」


 アルムの記憶では今日一日フェーナは仕事のはず。なのでレーシャとマンツーでその成果を確認していたのだが、フェーナはしれっと「半休をとった」と解答する。


「知っていた、今日はレーシャの鍛錬の成果を見る日なのは。そしてそれが合格ラインに達している事も。だからレーシャのテンションが上がって、それに託けて抜け駆けするとも予想できた」


「フェ、フェーちゃん!?」


 フェーナのぶっちゃけた言葉に顔を赤くして涙目で慌てるレーシャ。


 アルムは本能的にこれは深く考えるのはダメなやつだ、と思いフェーナやレーシャの感触やら匂いを頭からシャットアウトする事に専念する方へ頭を切り替えようとするが、更に密着度を上げてきたフェーナに思考を引き戻される。


「ともかく、元々半休を取る予定だった、落ち着いた状態でウィルと少し話したい事があったから。それはレーシャも同じ」



 フェーナはアルムから離れると、今度は真面目に話し出す。

 レーシャもアルムから離れると、恥ずかしくて俯いているが、同意するようにコクリと頷いた。


「話したいこと?何か相談?」


 アルムは一体なんだろうと思いつつ、虚空から適当な厚手の布を取り出して地面に敷くとそこに座り、長期戦にも備えた状態へ。

 そんなアルムの両サイドにフェーナはストンと、レーシャは少し恥ずかしがりつつも座った。そして地面に手をつくアルムの手にそっと触れると、フェーナは直ぐに切り出した。


「単刀直入に聞く。ウィルは上冬が終わったらどう動く?いつまでリタンヴァヌアで活動する?ウィルは…………何を目指して活動している?」


 レーシャもアルムの手にそっと触れて、間近で真剣にアルムを見つめる。いつもは近過ぎると目を背けてしまうが、今回ばかりはレーシャはアルムから目を逸らすことはなかった。


「んー、それはイラリアさんとの契約が切れた後の話だよね?」


 アルムは色々と頭の中で考えを巡らせながら話し出すが、そんなアルムの意識に割り込むようにレーシャがギュッとアルムの手を握る。


「それだけじゃなくて、もっと後の事も知りたいのっ。あたし、ルーム君には凄く感謝してるの。それはフェーちゃんも一緒。でもあたし達はルーム君になにを返したらいいのかわからないの。ルーム君がどうしてそんなに頑張ってるかとか、ここに来る前の話とか、なにを目指しているかもあたし達はなにも知らないのっ。ルーム君が言いたくないなら無理には聞けないけど、聴かせてくれるならあたし達はもっとルーム君について知りたいのっ。……………だめ、かな?」


 潤んだ目で訴えかけるレーシャ。

 フェーナも今までにない真剣な目付きでアルムを見ていた。無表情に見える一方で、アルムに触れるフェーナの手は微かに震えていた。


 アルムは迷いつつも先送りにしてきた事を突きつけられた気分になり、感情が容量をオーバーして布の上にゴロンと倒れる。


「僕は、何かを返して欲しくてやってるわけじゃないんだよ。やりたいからやってるだけなんだよ」


 自分達の聞きたい事と逸れた事を言い出したアルムにレーシャもフェーナも何か言おうとするが、アルムに手を握り返されて言葉を遮られる。


「わかってるよ、そういうことじゃないのはね。でも、どうしてそれを聞くの?僕は」


 アルムが何を言い出そうとしているのかは分からない。しかしこれ以上遠回りをする気もないフェーナは、アルムの手をギュッと握り返して賭けに出る。


「好きな人の事を知りたい。好きな人に何か大きな目標があるなら助けたい。その感情は、願いは、おかしな事?私に普通は分からない。でも人としてとても普通だと思った、この感情は。私はウィルが好き。私を理解してくれて寄り添ってくれて実直で、そんなウィルが好き。だからもっと知りたい、貴方の事を。貴方の為に何か出来るならしたい。もう恩返しではない。ウィルだからこそ、私は貴方のために何かしたい。だから貴方が何をしようとしているのか知りたい。それが理由」


 フェーナは矢継ぎ早に、まるで言葉が途切れることを恐れるように想いの丈を吐き出した。

 そんなフェーナにレーシャも震える声で必死に追従する。


「あたしもね、フェーちゃんと一緒なの。ルーム君だけとは楽しくお話ができるし触れるの。最初はね、フェーちゃんやお姉ちゃんに似ている部分があるからだったからだと思ってたよ。でも今はね、自分からルーム君に触りたいって思えるの。ルーム君に手を握ってもらえたり頭を撫でてもらうと嬉しいの。それはきっと、あたしがルーム君の事が好きだから、だと思うのっ。あたしはルーム君のおかげで変われたの。新しいこといっぱい知ることができたの。あたしにできること、異能でも治癒魔法でも役立つなら、あたしはルーム君の役に立ちたいのっ!だからもっとルーム君について教えて欲しいの!ルーム君の夢をあたしも知りたいのっ!」


 顔を真っ赤にして、涙目で、少しつっかえつっかえだが、レーシャは自分の気持ちと願いをストレートに伝えた。



 そんな2人に対してアルムは目をギュッと瞑り身体も強張るが、やがて観念したように脱力した。

そしてうなりながら乱暴に両手で前髪を掻き回す。



「(これじゃあアルヴィナとレイラに何を言われても否定できないよ)」


 アルムとて特別鈍感な訳ではない。特にレグルスが同じ場に居てそこに激しい対応の差があれば、フェーナやレーシャがどんな意図で自分の傍にいるかくらいかは察せるぐらいには成長している。その視線に含まれる好意や熱の強さも至近距離で向けられ続ければアルムとて気付く。


 何故ならその視線はアルヴィナとレイラがアルムに向けていた少し馴染みのある視線だからだ。


 アルムはレイラが忠告していた通りの状況になっている事に、自分が命をかけても護りたい、一般の枠で片付けられない人が増えていく状況に、なんとも言えない感情を抱いていた。


《まあ、フェーナもレーシャも関係を切れる相手じゃ無いだろうよ。どっちも特筆すべき能力を所有してアルムに協力の意を示して ………………まんまレイラの懸念通りだな》


「(僕の警戒心は本当に“賢い飼い犬”程度って言われても仕方がないよね………………)」


《ま、さっさと腹括ろうぜ!男は度胸だぞ!》


 スイキョウは冷静に、そして現実的に考えてフェーナとレーシャは強力な駒になると考えていた。

 フェーナは物質を昇華させる神の如き異能に、類い稀なる薬毒への知識とアルムに並び立つ頭のキレを持ち、しかも次期リタンヴァヌアトップと目されサークリエの直弟子。

 そしてスイキョウはリタンヴァヌアを出た後もイヨドと似た分類っぽいサークリエとの繋がりは最重要視クラスで注目しており、それを繋ぐのにフェーナ以上の適任者は居ない。


 一方でレーシャは、アルム同様の全属性使いで天然傾向はあるがその分信頼しやすく、治癒魔法と感情を見抜ける異能は鬼札にカウントできるほどの有用性を見出していた。

 更にサークリエの同志かつ未だ底が見えないイラリアの妹で、イラリアとの付き合いは今後とも続く事が予想されている。


 フェーナとレーシャの両名との関係性が向上するなら確実な利益が見込めるし、ここで万が一拒絶すれば関係は拗れる。


 そんなことからスイキョウはフェーナもレーシャも抱え込んでしまう事はむしろ大賛成だった。ただアルムがアルヴィナとレイラに関連して悩んでいるのも分かっているので、あまり強いない様に言動は気をつけていた。


 そして賢きアルムはそれも何と無く理解できてしまうが、まるでそれを免罪符にして2人を受け入れるのも色々と後ろめたい気がした。



「(僕ってダメな男だなぁ)」


《誰から見ても完璧な人間なんて居ねえよ。アルム、肝心なのは誠意だぜ》


 今更自分に示せる誠意って有るのだろうか?とアルムは思ってしまうが、取り敢えずアルムは言うべきことを言う。


「先に白状するけど、僕って婚約者がもう2人いるんだよね。それを分かった上でなんだよね?」


 アルムの言葉にフェーナもレーシャも特に驚きは無かった。

片耳ピアスに女性の影がある事はフェーナはそのエピソードまで一度聴いてるのでよく知っているし、フェーナが神へ誓った事でレーシャには明かされてないものの、レーシャとてその控えめながら近づけば必ず気付く装飾品の意味を何となく気付いていた。


 しかしシアロ帝国ではその程度で怯んでる程度では女性として甘いのである。そもそもとして一夫多妻は法律でも認められている。

女性の方が本気でアタックを開始し始めたら、あとは女性本人がどれほどの物を示せるか、その男をどれほど愛せるか、それに男が応えるか、の3つが重要なのだ。


 その中でもフェーナは面の皮が途轍も無くぶ厚いし、レーシャはレーシャで元々男性が怖いのでアルムを好きになれた奇跡は逃したくなかった。

 加えて親友同士でお互いの想いやら何やらは察しており、競合する気もなかった。元々からしてフェーナとレーシャはアルムと姿勢が大きく違うのである。


 だからアルムに何人婚約者がいようが、解答は変化しない。


「それは問題じゃない。私達がウィルの事を好きで、何かをしてあげたいと言う気持ちはそれとは関係が無い」


「あたし達がルーム君の事をもっと知りたいと思う気持ちは、それくらいでは治らないんだよ。あたしたちはそれほどの物を、ルーム君からもらったんだもん」


 フェーナとレーシャのとても献身的な態度に、遂にアルムが陥落した。


「これから話すこと、全部聞いてくれる?」


「聞かせて欲しい、それがどんな事であろうと。黙秘される方が私たちは深く傷付く」


「あたし達の全てを受け入れてくれたんだから、今度はあたし達が受け入れる番だよ!」


 アルムは2人の言葉にフッと表情を緩めてポツリポツリと自らの身の上話を始めるのだった。




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[一言] 三人目と四人目のハーレム入りおめでとう!w そして多分この後五人目を作る羽目になるのだが……果たして公塾でのガードになりうるか?w
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