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「ウィル、両手に花」


「フェーナ、それ自分で言っちゃう?いや実際に両手に花なんだけどね?フェーナもレーシャちゃんもすごく可愛いし」


 いざ店内を出たはいいが、外は13月特有の滅茶苦茶冷たい風がびゅうびゅうと吹き荒れていた。

 これは本当に寒いと思ったフェーナは堪らずアルムの腕に抱きつき熱を送ってもらい、恥ずかしがったレーシャでさえも親友が深く信頼しているように思える相手なので弱々しく遠慮がちだがアルムの腕を抱いてアルムに熱を送り込んで貰っていた。


 アルムはレーシャの腕の方の幸せな感触から必死で意識を逸らしつつ、レーシャの案内で目的地まで徒歩で向かう。


 レーシャも多少なれどアルムの腕が強張っているてるのに気付いてか少し顔が赤いが、一度アルムから供給される暖かさを知ると離れることもできず、余計に互いに意識してしまう悪循環が発生。

 フェーナもフェーナでもう何もかもかなぐり捨ててべったりアルムに張り付いてるのでアルムの手の先が大変よろしくない位置を彷徨っており、そこに掠るとピクッとフェーナが反応するから余計にアルムは意識してしまう。


 結果的に両手に花といえど双方アルムのメンタルをガリガリ音を立てて削っていた。


「レーシャちゃんは寒くない?」


「あ、うん!だ、大丈夫だよ!全然大丈夫!」


 レーシャは下心一切無しのアルムの凄く可愛いという発言に一瞬メンタルをやられかけたが、直ぐに復活する。


「ところで目的のお店まであとどれくらい?」


「そんなに遠くないよ。大通りに出て少しすればわかるからねっ」



 レーシャの不安の残るとてもざっくりしたナビゲートに従うアルムとフェーナ。レーシャはちょっと迷ってたのか同じ道を往復したりしたが、20分未満で目的地に到着する。


「やった!ちゃんと営業してるよ!」


「店が空いてただけでこうも喜べるのって、なかなか業が深いよね」


「それは同感」



 今回はフェーナの予防線が仕事をしたのか通常通りその店は営業しており、嬉しさの余り無邪気にピョンピョンとジャンプするレーシャの、その豊かな胸が連動してゆっさゆっさと動き、腕に抱きつかれているアルムの顔が完全に固まる。


 悪意ゼロ故になにも言えず、そしてフェーナのジト目がアルムの横顔に刺さり、アルムは色々と困った状況だった。



「行こ、フェーちゃん!ルーム君!」


 長い間密な接触があったからかレーシャは半ば強制的にアルムと打ち解け、レーシャはアルムとフェーナの手をひいて店に入ってゆく。


「結構店の中が暖かいし、美味しいそうな匂いだね。なんのお店?」


「ここはピーツァの専門店なんだよ!」


 ピーツァとは、丸い生地の上にチーズをはじめとした具材を乗せてこんがり焼き上げるシアロ帝国ではちょっぴり高級な一品である。

 スイキョウからすればそれはピザでしかないが、生地も麦芋を粉状にして生地も凄くもっちりさせた物だったり、軽くクラッカーに近い感じで生地までパリパリにしてあったりと生地のバリエーションが非常に豊富である。


 またチーズの種類も非常に豊富で、具材も店によって大きくバリエーションが異なるのがピーツァの特徴である。



「ここのお店はお得意様だとトッピングをかなり自由に選べるんだよ!」



 レーシャの案内でテーブル席に座ったアルム達は、木の板に文字を書き込んだメニューを見る。


 因みに帝都に近いほど識字率は高い傾向にあるので、帝都衛星都市であるバナウルルの店にはメニュー表がちゃんと存在している。

 そうでなければ店員からまずどんなメニューがどれくらいの値段なのか聞くところから始めなければならないのだ。その為に普通の飲食店は品数がそう多く無い。

 だが、この店はもう開き直って客は文字が分かる前提でメニューなどを作ることで提供できる物のバリエーションを増やしているし、ある程度文字がちゃんと読める客以外はお断りするかのように値段も結構高い。


「あたしは通常サイズの野菜多めの“カスタムヘルシーピーツァ”を頼むんだけど、2人はどうする?」


「普通、通常サイズのピーツァ1枚で子供2人分のはず。やはりレーシャの胃はおかしい」


「野菜多めだからそんなに多く感じないよ?」


 レーシャは当たり前の様に言っているが、スイキョウが他の客に運ばれてくる通常サイズのピーツァを見ても結構ボリュームがありそうだった。


 だがレーシャ以上に壊れた食欲をしているのがアルムである。


「うーん、色々食べたいし自分でもお金出すから、小サイズを5枚ぐらいでいいかな?取り敢えず『角切りステーキとチーズ山盛りピーツァ』と『卵とベーコンと旬のキノコのピーツァ』、『レッドスパイシーピーツァ』、『サーモンとオイルサーディンとコーンのピーツァ』、それと『4種のチーズと蜂蜜シロップのピーツァ』をデザート枠にしようかな。

フェーナは多分小サイズ一枚でも持て余すと思うし、僕のからちょっとずつ分けてく感じでいい?」


「ありがとう、ウィルのそう言う気遣いは嬉しい」


 幾らフェーナの小食も少しは改善してきたとはいえ、普通の成人女性でも小サイズのピーツァ1枚は持て余し気味になるボリュームがある。

 なのでアルムは自分の食欲とフェーナの食欲の釣り合いや好みの傾向を考えて、何種類も頼んでシェアした方が良いと考えた。


 そんなやり取りをナチュラルにするアルムとフェーナを見てほんの僅かに寂しげな表情をするレーシャ。そんなレーシャにもアルムはフォローを入れる。


「レーシャちゃん、よかったらでいいんだけど、レーシャちゃんのヘルシーピーツァもシェアしてみない?僕の分もシェアするからさ。みんなで食べるから折角だしね?」


「うん、そうする!」


 アルムがレーシャもちゃんと輪の中に誘ってあげると、パーッとレーシャの顔が明るくなる。そんなレーシャを見て、スイキョウは確かにレーシャはちょっとペットと言うかワンコっぽい気質があるな、としみじみ思ってしまった。


 注文が決まった所で店員にオーダーすると、店員はギョッとして三度聞き返したが、アルムは構わずオーダーした。


 店側は本当に食べ切れるのかと疑い続けていたが、いざピーツァが運ばれてくると店側の疑念を払拭するほどアルムの食いっぷりは良かった。


「あたしも食い過ぎとか大食いとかしょっちゅう言われるんだけど、ルーム君凄いよく食べるね!」


「レーシャの食べた物が胸にいくのは知ってるけど、ウィルの食べた物は一体何処に消えてる?なんで太らないの?」


「それに見合った活動をしてるからじゃないかな?」


 世のダイエットに励む女性が見れば悲鳴を上げるほどの大量のカロリーを摂取しているアルムだが、鍛錬と称し常に探査の魔法は展開し続けているし幾つもの魔法を待機状態にしているし、日々の筋トレや体力作りも非常にハードにこなしているので、アルムは1日のうちで多くのエネルギーを消費する。

 また、本人達もハッキリとは認識してないが、スイキョウがアルムの中にいるのも大きい。その分までアルムはエネルギーを消費しているのでとんでもない量食べてもケロっとしているのだ。


 むしろ喰わないとエネルギー不足でまともに活動が出来なくなるので、アルムにとっては適正量を摂取しているだけなのである。


 フェーナは各種のピーツァを1切れ未満味見する程度だが、本来菜食主義寄りの森棲人であるレーシャはアルムのピーツァを結構しっかり分けてもらい、残りはアルムがダークホールの如く全て胃に収めてしまう。

 見目の良さも相まってとんでもない量オーダーしていたアルム達は他の席からも結構注目されていたのだが、本当に全てのピーツァをペロッと完食してしまった。


「凄く美味しかったね。あ、お金出すよ」


「大丈夫だよ、お姉ちゃん大金持ちだから結構お昼代もかなりの金額をくれたんだぁ。こう言う時はパーって使いなさいってお姉ちゃんも良く言うし、ルーム君は大丈夫だよ」


 だとすると食べ過ぎた気がするとアルムは気が引けてしまうが、フェーナは本当にイラリアの持つ資産はかなりのもののようで、使う機会があまり無いのは本人も悩みの種なのだと説明した。


「どうせ後でかなり面倒なバイトを提案されるはず、ウィルは気が引けるかもしれないけど。迷惑料の先行払いだと思えば良い」


 レーシャとフェーナの2人がかりで言われてアルムも少しは納得するが、イラリアさんにはちゃんとお礼を言わなきゃ、と頭の中のスケジュール帳に書き込んでおく。

 スイキョウはなかなかアルムらしいと思うが、この気遣いができるからこそスイキョウもアルムの面倒をちゃんと見ようと思えるのだ。



 おいしいピーツァに満足した3人は服屋にのんびりと歩きつつ戻り、到着すると談話室で今日のピーツァについて談笑する。そんな時間が数時間経ち話題もころころと変わって、もうそろそろ夕ご飯の時間にまで時間が進んだ頃、徐に談話室のドアが開く。


「お待たせ、できたからきて頂戴」


 喜色に満ち満足そうな表情のイラリアが、ようやく完成をアルム達に告げた。

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