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「うっ、頭が。忠告されていたとはいえこの目眩は少し辛い。そして少し寒い」


「僕も完全に慣れるまでそこそこ時間がかかったからね。繰り返して慣れるしかないよ」


『ピピッ、ピ、ピピッ、ピッ!』『ピピッ、ピー、ピピー、ピ、ピ、ピピ!』



 アルムがフェーナと交流を持つようになってから2週間。アルムとフェーナはズレた者同士でガッチリ意気投合した。

 その交流にてフェーナが意外とよく喋る事も分かったのだが、会話のやり取りの中で交流を持ってから1週間経ったぐらいの時にフェーナが金冥の森を訪れてみたいと言い出したのだ。

 自分が普段取り扱っている魔草が一体どんな風に生えているか、魔獣や魔蟲はどんな存在なのか?アルムまではいかないがフェーナも知識欲が高いので、アルムから聞く金冥の森での出来事に深く興味を惹かれたのだ。


 フェーナ自身、蟲人種にしては珍しく魔法に対する高い素養を持つだけにあらず、天属性以外の五属性に適性を持っていた。ただ、得意分野や修練された分野に極端な偏りがあり、特に金属性と火属性に難がある事が判明している。


 地属性はそこそこ使え、獄属性の薬毒生成に至ってはアルムすらも遥かに凌駕する腕前なので獣除けや蟲除けなどの薬ももちろん心得ている。


 だが連れて行って欲しいと言われてもそう簡単に連れて行っていいものなのか。アルムはダメ元でサークリエに許可を得られたら考える、とフェーナに返答したがフェーナはあっさり許可をもらってきた。

 アルムも一応サークリエに確認を取ったのだが、むしろ連れ出してくれと頼まれてしまった。曰く、フェーナは引き籠り体質の強い連中の筆頭なのでなかなか館内から出ようとしないし、フェーナ自身の異能のせいでどうしても頭でっかちになりがちな問題点がある。

 フェーナが自分から見に行きたいと口にしているならその機会をむざむざ不意にする事は有り得ず、アルムにお小遣いをあげてもいいから連れて行ってくれと逆にサークリエに頭を下げられてしまったのだ。


 アルムも許可を得られたら連れて行ってあげると約束してしまっていたので、そうなると約束を反故にはできない。フェーナに金冥の森で留意すべきことを叩き込み、装備を整えさせとあれこれ準備をする。

 サークリエもそのまんまフェーナを魔重地に送り込むわけにはいかないので、イヨドの加工と似た系統としか思えない加護付きの毛皮のコートをフェーナに貸し出していた。


 それでもアルムは不安なので、ルリハルルと、フェーナに覚醒させられて以来完全に魔法を習得し始めたラレーズをフェーナの護衛につける。万が一の時はフェーナだけでも逃して欲しいとアルムはルリハルルによく言って聞かせた。いつもは従順なルリハルルもこれだけはなかなか頷いてくれなかったが、最終的には根負けしたのか頷いていた。


 そして準備自体に1週間以上かけて、アルムはフェーナ同伴で漸く金冥の森に行くことができた。ただ、ルリハルルの転移に慣れていなかったフェーナは早速転移酔いという名の洗礼を受けていたが。


「約束通り午前は様子見する。私は待機」


「午前は特に暗いからね。この近縁で魔重地の感覚に慣れてくれればいいよ」


「わかった」


 アルムはフェーナを金冥の森に同行させる上で非常に厳しく多量の規則を求めたが、それもフェーナは了承している。その決まり事の中に、午前の動向を禁じる物がある。


 それは色々な事情があるのだが、1番はアルムにもフェーナの安全性を認めざるを得なかったある要因が絡んでいる。


 フェーナは事前の打ち合わせの通り目を瞑ると指をパチンっと鳴らす。

 フェーナの中から魔力がゴッソリ減ると共に、空中に緑白色の胞子の様な物がポポポポポっと現れ出し小さな山の如く積み上がっていく。それがガサガサと揺れ動き規則性を持って収束し始めて1つの形を作り出す。

 体長8m、テラテラ光る外骨格は異常に発達していて、馬鹿でかい百足と蠍を掛け合わせた様な平べったい身体に、大きな一対の鋏の前足、12対の蜻蛉の様な巨大な羽根が生えている。それは胞子を纏いつつ顕現した蟲…………にしか見えないが、実際には集で1つの個を成す群体の植物に近い生命体が擬態した姿である。

 だが、やはり蟲として形のみならず性質や構造も完璧に擬態しているので、虫として判断してしまう生命体である。


 ソイツは顕現すると、発達した顎をガチャガチャ動かしてアルムに威嚇する。


「ラビケヘ、だめ」


 その生命体はフェーナの使い魔である。

 電気鰻の如く放電が可能で、群体でありながら凄まじい硬度と耐久性のある外骨格を形成しているのでダメージを与えるにも困難。そしてこの使い魔の最も厄介な部分が、頭を破壊しようが真っ二つにしようが群体生物の為に普通に復活する点にある。

 魔法はあまり使わないが高い索敵能力を持ち、強靭なタフネスとパワーを持つ。また顎を独特の動きで動かすことで超音波の様な音を出すことができ、獣など聴覚の発達した存在には拷問の様な音を出すことができる。


 その総合スペックをアルムが試算しても、アルムとイヨドが介入してアルヴィナの使い魔として召喚したラフェルテペルにほんの僅か劣る程度。相性の問題で炎特化のラフェルテペルには弱いがラフェルテペル以上でも相性が合致すれば斃しうるポテンシャルがある。

 聞けばサークリエが相当の時間と物資をかけて、もし万が一能力が露見すればその身に大きな危険が及ぶフェーナの為にと用意した使い魔との事。その個体がこの防御特化の蟲、フェーナがラビケヘと名付けた使い魔である。



 いよいよもってサークリエの正体が割とイヨドと同じカテゴリーなんじゃないかと思いつつ、アルムは余計な事は指摘しなかった。藪を突いて蛇が出てくるで済めばいいが龍がわんさか出てきそうなイメージだったからだ。


 楽観的に捉えるならイヨド以外にもスイキョウの状態について調べるあてができたとアルムとスイキョウは考える。


 閑話休題。


 この使い魔をフェーナに見せられてはアルムもその安全性を認めるしかなかった。しかし、やはり魔重地は魔術師にとっては鬼門の地。初日午前いっぱいは金冥の森の近くで魔力の濃い環境に慣れてもらうことをアルムとフェーナは約束した。


 アルムは本当にかなり森の近くまで行くと、半径6mぐらいの大型の粘土のかまくら状のドームを形成する。今のアルムの魔力制御は大幅に改善され、ほぼ魔重地と言って差し支えない場所だろうとこのような魔法を楽に行使できる。

 本来ならば10年以上かけて慣れていく魔重地という環境に、アルムは高頻度で長時間入り浸りつつ拷問の様な鍛錬をする事で高速で適応しつつあるのだ。


 その粘土のドームを火で一気に焼き固めることで魔力の固定化を行い頑丈にする。ドームの中に適当なカーペットを敷いて、アルムはとある物をドームの中央に設置。照明は修練も兼ねてフェーナが天属性の光の魔法で自己解決する。


 フェーナは心の中であっという間に小さな拠点を作ったアルムに感動していたが、それ以上にフェーナの気を引いたのはアルムが虚空から取り出し空間中央に設置したヘンテコな物。


「ウィル、それはなに?」


 四角く盛り上がった布団の上に四角い板を乗っけたような不思議な物体にフェーナは首を傾げる。


「えっとね、これは“コタツ”って言う物だよ」


「こたつ?」


 アルムが金冥の森に通うようになってから、アルムは森を探索したら昼食含め3時間以上は休憩することを心がけていた。

 しかし、ただたただ待っているのも暇と言うもの。その中で生み出されたのが丸薬バージョン2だったりするが、アルムとスイキョウが作っていたのはそれだけでは無い。


 イヨドの加工したローブが幾ら温度を調節してくれようと、ローブにしっかり覆われた部位以外、主に脚などはやはり冷え気味だし、季節的にも滅茶苦茶冷たい風が吹く下冬なので寒い物は多少寒い。例えドームで風を防ごうとも寒いものは寒い。

 なのでスイキョウは熱を大量に吸収させた魔残油と、モーター製作の際に余った“絡繰兵士のばね”などをあれこれ組み合わせて見た結果、炬燵っぽい物ができた。


 問題点は適切な温度管理が完全に手動なので居眠り厳禁というのと、熱を大量に内包させた魔残油などスイキョウしか作成不可能という事。


 骨組みはアルムの粘土シリーズで熱の影響が極めて低いレンガ素材で作り上げ、掛け布団は売れない魔草や魔獣などの素材を用いて自作して耐火加工済みで保温効果の高い物を用意。

 天板は森で木材を自己調達し加工までしたフルオーダーメイド。

 温度も5段階程度に凄くざっくりと選ぶことができる。ただしかなり原始的な方法で温度調整をする。


 炬燵の布団からは5つのレーンがある金属っぽい金具が伸びており、熱が籠められた魔残油を細長い金属に入れて電池の様に金具にセットする。

魔残油入りの入れ物(電気要素ゼロだがスイキョウは魔熱電池と名付けている)1本あたり30日分ずっと使って問題ないエネルギー量で、レーンに設置する魔熱電池の本数で温かさは調整する。


 アルムは天板の上にポップコーンやらコップやらジュースやらを配膳すると、用意の間に温まったであろう炬燵にフェーナを招き入れる。


 フェーナは靴を脱ぐと、アルムに勧められるままに炬燵に脚を入れてみる。するとフェーナはそのまま天板に顎をつけて弛れ始めていた。


「極楽。至れり尽くせり。これは水の無い温泉の様。ありがとうウィル」


「そう言ってくれるとこっちも頑張った甲斐があるかな?暇だと思うしリバースとかチェッカーとかも置いて置くから、ラレーズと遊んであげてくれる?あと、その机の上の魔残油の瓶の下に挟んである紙にこたつの使い方は書いてあるから。それじゃ、ラレーズとルリハルルはフェーナをよろしくね」


「ん、わかった。気をつけて、私が言うのもなんだけど」


『ピ、ピピ、ピッピッ、ピッ、ピッピッ、ピッピッ、ピッピ、ピ、ピッピッ、ピッ、ピッ、ピ、ピピー、ピ、ピ、ピピ!』


 コクリと頷くルリハルルと、笛を吹きつつ無邪気に手を振るラレーズ、そして緩慢に手を振るフェーナに見送られてアルムは金冥の森に出立する。


 フェーナは心の中でふと、なんか夫婦の真似事をしてる気分だと思いつつアルムを見送るのだった。







「(森の中もだいぶ景色が変わって来たよね)」


《魔蟲の活動もかなり不活化してるしな》


 アルムが魔重地での活動を始めたのは8月の終わり。季節的にはまだ夏の範疇にあり、魔獣も魔蟲も魔草も元気だし木々(これも魔草)も全てがかなり青々としていた。

 森を形成するメインの木々が常緑針葉樹である為、季節が変わろうと薄暗いのは年間を通して変わらない。

 しかし冬になるに連れて樹木まで成長しない植物は実が種になってたり枯れてたりと地面に茶色の割合が多く増えた。


 森は常に日陰なので寒さも余計に厳しく、魔草の減少で魔蟲も小さい物は繁殖活動を終えて既に生き絶えたか不活性化状態。爬虫類系も既に冬眠に入る準備をせっせとしており、魔蟲がわんさかアルムに押し寄せることも最近はかなり減っていた。


「(逆に活動してる場合は、それだけタフってことだけどね)」



 虫とは短命な傾向にあり魔蟲も比較的に平均値は低い。だがある程度大型の個体になると動物と扱いはそう変わりない。


 魔獣も魔蟲も越冬の為に食事を沢山取ろうとしている。なので余計に荒ぶっている連中も多いのだが、その手に限って肉食系の魔獣や魔蟲が多い。


 辺境警備隊がメインで活動している外縁の区域での活動はアルムは既にかなり馴染んできた。なのでそのエリア程度なら本来のスペックから数%としか能力が落ちることも無くなった。アルムは実験で使えそうなニッチな魔草を回収し、祝福の魔法や呪いの魔法、召喚陣にと触媒として利便性の高い魔蟲も斃して死骸をインベントリの虚空にストックする。

 最近は割と綺麗に仕留められるようになったこともあってか、アルムは魔蟲を食糧としても利用していた。そこには昆虫食の良さを布教したレイラの存在が大きかったが、アルムは特に大きな蜘蛛は美味しいと思っていた。


 

 尚、一般的には魔獣だろうが魔蟲だろうが魔魚だろうが魔草だろうが、そのまま調理して食ってしまうと確実に寝込む羽目になる。例え魔残油をしっかり取り除いても体調は必ず悪くなる。

 何故なら素材自体が強い魔力を保ったままだからだ。自分の魔力とそれ以外の魔力は容易に混じり合わず反発する性質がある。故に魔力を多量に含んだ素材をそのまま食べれば、体内で自分の魔力と素材の魔力が激しい拒絶反応を起こしてしまうのだ。


 別に病気になるわけではないが、消化の為に勝手に魔力が消費されていき、拒絶反応を起こすと更に無駄に魔力を消費させられる。しかも消化の為に身体が勝手にやることなので魔力の減少の幅が一律ではない。自分のコントロール外で魔力をランダムに削られるのは魔力の感覚に狂いを生じさせて、精神的や感覚的に不安定になったりなどの症状を引き起こす。


 だがしかし、食への情熱と興味は、3大欲求の一角を占めるだけあって何処であろうと強い物。きちんと対処法も見つけられている。

 と言っても仰々しい対処法ではなく、とてもシンプルな方法で解決する。

 下拵えの段階で、“食す者”がミスリルなど魔力伝導率の高い魔化金属の棒などを持って素材に棒で触れて、棒をキャリアーとして自分の魔力を素材に流し込むのだ。

 要するに体内で自分のコントロール外で魔力を消費して消化するのが体調不良の原因なので、体外で自分のコントロール化で先に魔力を中和すれば良いのである。

ただし、調理人がこの下処理をしてしまうと結果的に魔力の質が違うので、他人が食べると調理人の魔力に拒絶反応を起こして同じ症状を引き起こすだけである。

中和にはかなり魔力が必要とされる事が多く、食べるのもわりと一苦労するし、特性上一気に調理できないので調理師泣かせでもあるのが魔獣などの食材である。


 ただ、ちょっとした裏技も存在していて、沢山の反魔力石を素材に直接触れさせない形で周りに置いておくと反魔力石の中の膨大な魔力同士が反発しあってその余波だけ魔獣や魔草に含まれる魔力を引っぺがす事ができる。

 そのレベルまでくれば入念に下準備の段階で魔力を流さなくても良くなり、そのまま食べても余程魔力が少なくない限りは体調不良を起こすことも無く勝手に体内で中和できる。


 しかしながらどのみちミスリルだの沢山の反魔力石だのと超高級な物質がなければ話にならないので貴族の贅沢品である。おまけにそこまでして喰いたいほど凄く旨いかと聞かれれば、旨いものは旨いし不味い物は不味いのである。そこは普通の動植物となんら変わってない。一方で栄養効率は桁外れにいいのでやはり高級食材には違いない。


 ただ一般的に魔獣や魔蟲は通常の獣や虫に比べて大きいので食べる部分が自然と多くなる。特に魔蟲はかなり大きいので昆虫食の時には満足する量を食べる事ができる利点がある。

 そしてアルムには盗賊の根城を丸々1つ潰した時に鹵獲した罠から多量の反魔力石のカケラを手に入れている。


 これを魔蟲の死骸と一緒にして時間経過の早い虚空に突っ込めば僅か数秒で下拵えが終了してしまう。これを利用しない手はないと、アルムは実験と称し色々な昆虫を既に食べている。

 そしてそれを唆し全面協力したスイキョウと共にアルムが出した結論が、何故かゲテモノっぽい方が美味い、と言うものだった。

 アルムに1番最初に魔重地の洗礼を浴びせた何処ぞのSFホラーの金字塔の映画に出てきそうな昆虫もちゃんと調理すれば凄く旨いことは既に判明済みである。


 因みに血液に硫酸のような腐食性は存在してないし、焼いてみると食感は鳥に近く、海老や蟹の甲殻類に近い味がする。



 アルムがまだ稼ぎが殆ど出ないとはいえ魔重地での活動のモチベーションが下がっていないのにはこのような裏事情が存在していたりする。




《さーて早速おいでなすったぞ》


 アルムは一般的な外縁のゾーンを抜け、今現在メインで活動している金冥の森でも2ndエリアと呼ばれるエリアに突入する。


 魔重地とはそのエリアすべてが均等の魔力濃度では無い。何かしら中心と呼べる物が存在していてそれに近づくほど魔力濃度も濃くなっていく。


 魔力濃度が高ければ高いほど、そんな劣悪な環境にできる生命体達も自ずと生命力などが上昇してゆく。魔草でも採取困難な物がどんどん増えてゆく。

 外縁区域と2ndエリアの境界は、生えてる魔草の傾向の変化ととある魔蟲の存在が教えてくれる。


 2ndエリアを象徴し、辺境警備隊でも事を構えることに躊躇う魔蟲…………ソイツは異常な生命力と体力、肉体に見合わぬ敏捷性と魔蟲らしからぬ学習能力を有する。

 潜伏技術にも非常に長け、雑食かつ食欲旺盛。森の掃除屋の異名を持ちカサカサと生理的嫌悪を呼び起こす其奴は …………平均体長約30cm大に到達するゴキブリ、に似た魔蟲である。


 その魔蟲の正式名称はプロクハヤイェダ蜚蠊。

 薄暗い森の中、潜伏機能の高い黒と焦げ茶のマダラ模様で光を当てると独特のテラテラした光沢がある。とにかくなんでも喰ってしまう習性があり、しかも1つの個体が狩を開始するとその個体が放出するフェロモンで周囲の個体まで集まってくる。


 アルムが初日で大苦戦を強いられた鮟鱇の魔獣も2ndエリアでは中堅クラスでしかないのだが、それでも強靭なその魔獣だろうが集団で食い荒らす程にハングリー精神がぶっ壊れている。


 こいつの最も厄介なところが、探査の魔法をジャミングできることにある。

 賢く獰猛かつ隠密性能が高く食欲旺盛で素のスペックも高いと2ndエリアに突入したアルムを大いに苦しめてくれた魔蟲だ。


 その魔蟲でさえも3rdエリアに棲息してるような連中にとっては超栄養豊富なおやつ程度なのだが、その実、栄養効率が半端なく高く薬の材料になる程に色々なプラスの効果を持ち合わせていてちゃんと調理すると旨いのである。

 下ごしらえが多少面倒だが、アルムは特殊な溶液に漬け込むことで下処理を省略している。本当は生け捕りにして中身を全部出させたりととにかく手間がかかるが、またまた時間加速のインベントリを使ってしまえば本来数年かけるような処理期間を数秒で終了できる。


 プロクハヤイェダ蜚蠊はよく喰うだけに繁殖能力もかなり高いので量もかなりいる。また雑食と言っても主食は2ndエリアに生えるシダ植物系の魔草。食い物も新鮮な物しか食わない。毒性もなく食用に結構適しているのは確かで、アルムは下処理済みのプロクハヤイェダ蜚蠊のストックが既にえらい量インベントリにストックされている。


 それでも相変わらずプロクハヤイェダ蜚蠊は2ndエリアに踏み込んだアルムを早速歓待してくれた。


「(君たちの隠密性能は確かに凄いけど、イヨドさんのお陰で全く問題無いんだよね)」


 イヨドの拷問鍛錬第2弾は、イヨドの言っていた通り頭と精神と魔力と異能の4つを同時に平行して鍛える事ができる。

 更にはフェーナがアルムとスイキョウの状態をより自然な状態まで整えたことでアルムの異能もスペックが向上もとい、本来のスペックを発揮していた。なので3Dマッピングの効果範囲も大幅に拡張され、幾らプロクハヤイェダ蜚蠊が頑張って隠れても一定のゾーンに入った瞬間、アルムは探査の魔法で即座に感知できる。


 故に彼等が飛び立つ前に超高速の火の矢で撃ち抜いてしまう。


 兎に角火の矢はスピードとコントロール特化で燃える能力自体はそう高くないが、プロクハヤイェダ蜚蠊自身が油でコーティングされた肉体を持っているので炎上効果の低い火の矢でもよく燃える。


 幾ら強靭とは言え生物的に炎に弱い原則からは逃れることはできていない。幸い2ndエリアはとっても暗くて湿り気もかなり高いので延焼するケースはほぼゼロであり、念の為に仕上げに高速水弾でもヒットさせてやればそれでおしまいである。


 周囲の仲間を呼び寄せる習性も本格的に狩を開始する前に燃やしてしまえば不可能になる。

 実は燃やさずに仕留めると死骸からフェロモンが放出されて結果的に周りから別個体を集めてしまう。アルムの様に即座にインベントリの虚空にでもしまわなければ燃やさないで倒すと結果的にえらい目に合うのだ。

 この習性のせいで辺境警備隊は2ndエリア以降にあまり足を踏み入れられない。


 コイツらに物理で対抗するには炎を纏う超高度な魔宝具の武器でもなければお話にならず、またそれが高い。アルムも鹵獲した武器で小さなナイフにひとつだけその効果が付いているだけであった。


 閑話休題。


 プロクハヤイェダ蜚蠊は湯水の如く湧いて出るように森中から出てくるので、正直もうアルムはプロクハヤイェダ蜚蠊なら大袈裟に言えば街1つ分でも1日賄えるかもしれないと思うほどにストック済みだ。他の魔獣も魔蟲も食べたいのでこれ以上は不要。なのでさっさと燃やして処理してしまう。


 だが逆にその匂いは他の魔蟲なども呼び寄せるので、結局はワープホールを経由してインベントリに回収するしかないが、その僅かな死臭を確実にかぎ取ってやってくる2ndエリアでもプロクハヤイェダ蜚蠊に対を成す魔蟲がアルムの元へ向かってくる。







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― 新着の感想 ―
[一言] この森がまんまモチーフでありましたか… なんか、良いなこういうの。ワクワクする。
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