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メイルストロムの英雄譚:見習い魔道士と亡国の少女  作者: 影絵企鵝
第三章 父の学んだ大学にて
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40.危険な瞳

 世界を変えてしまう眼? 僕はイレーナの放った言葉の意味が呑み込めない。僕を引きずろうとするイレーナの手を、思わず僕は振り払ってしまった。


「いきなりどうしたんだ。世界を変える眼だなんて」


 唇を真一文字に結んだイレーナは、真剣そのものの顔だ。その蒼い瞳からは彼女の魂が秘めた聡明さが溢れ出している。僕なんかよりもずっと世界を変えてしまえそうな眼だ。


「僕がどうやって世界を変えるんだ。僕なんか田舎生まれの村人だよ。世界を変えてしまうのは……例えば『偉大なる』マーリン師みたいな、あらゆる魔道に精通してるような人だろうに。知ってるかい? 彼はブリギッド王国のあらゆる土地が豊かになるように、河の流れを変えてしまったんだ。それからこの国ではほとんど飢饉が起きてないよ。そういう、ただの人には及びもつかないような事が出来る人間が世界を変えるんじゃないか」

「ふうん。それは凄い人ね。会ってみたかったわ。でも貴方の眼は、そのマーリン師とやらも持ってないのよ。でもって、あんたがそんな風に謙遜してたら危険で仕方ないの」


 イレーナは僕に負けず劣らずの早口で応える。出会った時からイレーナは荒れていたけれど、こんなに焦っているイレーナを見るのは初めてかもしれない。


「貴方の眼はここに無い世界を見る眼よ。未来や過去を見ることが出来るの。マグナス人の中で稀に目覚める人がいて、その力でマグナス人は唯一ラティニア帝国を寄せ付けなかった。名のある将軍達がどれだけ作戦を練っても、マグナス人はその裏を掻いてきた。行軍の道程がマグナスの巫女達に全て覗かれていたからよ」


 図書館を出て、僕はそのまま中央の塔まで引っ張られていく。戸惑っているだけの僕に、イレーナはいきなり振り返った。


「よくわかってないみたいね。メリーの眼を一体どれだけの人間が欲しがると思う? 私もこの二か月で私なりに今の大陸の事を勉強したけれど、今の大陸が小競り合いばかりで済んでるのはお互いの勢力の実力が拮抗してるからでしょ。貴方が未来を見られるようになったら、それが壊れる。均衡が崩れるの」

「均衡が、崩れる……」


 彼女の言っていることがようやくわかってきた。ブランドンは、どれだけ未来を知りたがるだろう。未来を見ることが出来れば、立て続けに襲い掛かるホイレーカの諸侯を簡単に撥ね除けられる。それどころか、逆に帝国の足並みが乱れる瞬間を予期出来れば、峠を乗り越えて侵略することだって出来るかもしれない。


「わかった? 力がある人間はね、責任を持たなきゃいけないの。その力を振るって何が起きるか、それを理解していなきゃいけないの。……でないと、私みたいに世界を壊す羽目になるわよ」


 イレーナは塔の扉を開く。燭台に火が灯されただけの薄暗い螺旋階段が、先が見えないほど遠くまで続いている。イレーナはそんな階段の彼方を睨みつけて、大声を張り上げた。


「魔導師長! 魔導師長! いるんでしょ!」


 彼女の声が塔の中でこだまする。やがて、ランプを掲げたイライジャ様が屋上からひょっこりと顔を出した。


「何だね? こんな夜中に。しかもそんな慌てた顔をして」

「メレディス君の事で、至急魔導師長に話したいことがあるの。その塔の上は誰もいない?」


 イレーナはまだ早口だ。彼女の剣幕に押されるように、イライジャ様はちらりと後ろを振り返った。


「ああ、誰もおらんよ。どうしたのかね」

「ここでは話せない。そう言えば、魔導師長ならピンとくるんじゃないの?」

「ここでは話せない、とな」


 首を傾げていたイライジャ様。けれど、イレーナの顔を見ているうちに、彼女の言いたいことが呑み込めてきたらしい。イライジャ様は眉間へ皺を寄せる。その顔は、夢で見たイライジャ様の表情にそっくりだ。


「なるほどのう。来たるべき時が来たか」


 頬を引き締めたイライジャ様は、ランプを掲げて僕達を見下ろす。


「ここまで上がってくるのじゃ。わしにわかる範囲の事は全て話そう」


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