いつもの登校時間
「ふわぁ~……あ」
あくびをしながら玄関の外へ。最早一種のルーティーン。
私と大河はいつも一緒に家を出る。
登校における時間効率を考えた私は、近所の県立高校に進学した。大河の通う中学校とはお隣さんのようなものである。あえて二人で時間をずらして登校する意味なんてないし、昔から変わらず朝は二人きりだ。
「なんで姉ちゃんはいつも眠そうなの?」
単純な疑問として、大河が訊いてきた。
「そりゃー、夜は毎日お楽しみだからだよ♥️」
「ふーん、きもいね」
しれっとひどいこと言うなや。
はぐらかそうとしたら余計に変な誤解を生みそうだったので正直に話すことにした。
「別に大河が考えるようなヘンなことはしてないよ。フツーに2時まで深夜アニメ観てただけ」
「え、それ全然睡眠時間足りてないよね。姉ちゃんの健康状態が心配になる」
「睡眠時間なら授業中に確保してるからだいじょーぶだよ?」
「姉ちゃんの将来が心配になる」
ガチの呆れ顔を向けられてお姉ちゃん少々辟易してしまいました……。
「そんなこと言わないで養ってくれよ~。『将来の夢はおねーちゃんと結婚すること』だったよね??」
「その通り『だった』んだよ。過去形って分かる?今の姉ちゃんは養う価値もないダメ人間」
「言ったな~、この!この~!」
両手のグーで大河のこめかみにグリグリと迫る。そんな様子を見て、近くに住んでいるおばさんが声をかけてくれた。
「美咲ちゃんおはよう。今日も姉弟で仲がいいのね~」
「あ、おはようございま~す!でしょでしょ~?私たちと~っても仲良しでしょ」
弟の頭を抱き締める私。あ、そうそう名前は美咲といいます。藤澤美咲。二人合わせて藤澤姉弟でございます。
「どこが」
と顔を背ける大河。ツンデレやな。
近頃はツンデレが増したように思える。ま、主にツンの方なんだけど。なんでだろ。生理?あ、男だったわ。反抗期とかかな?まあ私優しいお姉さんだから、そんな弟くんにもたっぷり愛情を注いじゃうんだけどね。
ハグをしている私の両腕のなかで、若干息苦しそうにしている大河が、私にだけ聞こえるくらいの小さな声で言った。「姉ちゃん……」「なあに?」「胸小さいね」そのまま絞め殺した。