狂化
その瞬間一気に全能感が俺を襲った。
さっきのオークのような赤黒い光が俺を包む
体の底から力が溢れてくる。その感覚はレベルアップ直後と似ているがその大きさが違う。
それだけステータスが強化されているということか。
だが、これだけわかりやすくステータスが上がってそれだけというのは話がうますぎる。
そして実際にこの能力によるデメリットを感じ始めている。
極度の戦闘欲求。殺すことに体が飢えている。そんな感じだ。今にも理性が吹き飛ばされ辺りにいるもの全てに攻撃を仕掛けてしまいそうだ。
だが今俺の周りにいるのは天王寺、尾崎、一ノ瀬のみだ。
これなら、獣の如く周りを殺し尽くしても大丈夫だろう。
それにこの3人は、俺が『魔獣本能解放』発動と同時に『気配遮断』を切ったため俺の姿に気づき距離を取ってくれている。
状況は整っている。
(あ、そうだ。)
今のうちにこのスキルの効果をみておかないとな。
そして俺はステータスを開く。
こうしないと今自分がどうなっているか確認できないのである。
名のなきウルフ
称号:ゴブリンハンター
種族:シャムウルフ:『G』 進化先:有り
レベル:10/15
状態:狂化:全ステータス1.2倍、理性消失:00:22
HP:48/48『G』→58/58『G』
魔力:32/40『G』→38/48『G』
筋力:30『F』→36『F』
体力:28『G』→34『F』
敏捷:65『E』→78『D』
魔法制御:10『G』→12『G』
魔法:闇魔法(第一階〜第二階)
ユニークスキル:『気配遮断』:使用不可『魔獣本能解放』:残り時間29:22
装備:無し
総合評価:『G』→『F』
なるほど、狂化ね。
確かに気が狂いそうだ。そして時間制限、と。
あのオークみたいになってるな。だからあいつは最後急激に強くなったのか。それなら納得できる。
それにしても全ステ1.2倍はやばい。敏捷なんて『D』だぞ魔物本来のランクを大きく逸脱している。
そして後22秒で完全に理性が消失か。
こうしている間にも時間は失われて行く。
確かに強くなった。がこれであの大群を全て殺し尽くせるのだろうか?
そんな疑問が脳を過ぎる。
(いや、できるできないんじゃない。殺るんだ…。)
その瞬間、眞銀の理性は完全に消えた。
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side 尾崎
なんなんだあの狼は。
私たちは先ほどまでオークの相手をしていた。
が、もう少しで倒せる。と思った矢先、オークが赤黒い、禍々しいオーラを纏い出しき急激に強くなった。
更にそれだけではとどまらずオークは仲間を呼んだ。
そして疲労したままあの大群を相手にしなくてはならなかった。
さらには次々にみんなが飛ばされて行く。
終わりだ。と思った。
生徒を守れず何が教師だ。と思った。悔やみきれず、そして無念のまま私は死ぬんだなとも理解した。
が、そこに一体の狼のようなモンスターが現れた。
そしてそのモンスターも先ほどのオークと同じような禍々しいオーラを放っていた。が、そのおぞましさはオークの比ではなかった。全身に寒気が走った。
しかしそのモンスターは私を殺しに行くのではなく、オークを殺しに行った。
モンスターがモンスターを襲い更には蹂躙する。凄まじい光景だ。
だがそのおかげで我々も助かれる。
「天王寺、一ノ瀬、東条と柊、橘を引っ張ってこっちへ来い!」
オークとあのモンスターが殺し合っているうちに引きたい。
そして私たちは引くことに成功する。
「助かった。」
天王寺が思わず声を漏らす。
「ああ、そうだな。」
私も感じることがありすぎてそう返すのが精一杯だった。
「先生、それにしてもあのモンスターはなんなんですか?モンスター同士が争うなんてみたことないです。」
「ああ、それについては私も思ったがわからなかった。縄張り争いとかそういう理由うかと思ったがあいつは文字通り一匹狼だ。がどっちにしても助かったのは事実。無意味だとは思うがあいつには感謝しておこう。」
「そうですね。」
少し表情を和らげ天王寺が言う。
「ん、んん…あ、ここは…。」
橘が目を覚ましたようだ。
「おはよう、大丈夫か。」
「え、あのオークは倒したんですか?」
「いや、あれを見てみろ。」
「ん、えっ!」
「あいつは最後に仲間を呼んでな、やむ終えず撤退したんだ。」
「そうだったんですか。」
それから私たちは今にかかるまでの諸々について説明した。
そしてその後、東条と柊も意識を戻し、そのまま様子を見ていた。
「そんなんことが、あったのか。」
「ああ、にしてもあいつまだ戦っているぞ。そんなにうオークを殺したいのか、それとも何か別の理由があるのか…。」
「確かにどんな理由があるのかはわからないですけど一人であの数のオークを相手にまだ戦い続けていられるなんて、強い…ですね。」
「って言うか、物語の中ではウルフ系統はオークより格下なんだけどな。」
「え、そうなのか。でもそしたらなんで一匹で、しかも多数いるオークを圧倒できているんだ。」
「それは俺も思った。んで思いついたのは二つ。一つはあの禍々しいの。なんかにとりつかれているとか、暴走状態とかそんな感じじゃ無いのか、さっきのオークも死にかけの時そんな感じになってたし。」
「ああ確かに。んでもう一つは?」
「もう一つはレベルだ。魔物にもレベルがあるとしたらあいつがどっかのタイミングでレベルについて知り、んでもって自分から他の魔物を狩ってレベルを上げて強くなっていたみたいな。」
「なるほど、それだったらあいつが自分から他の魔物を襲いに行っている理由も証明できるな。」
「その考えには私も賛成だ。あいつはみた感じ筋力はあまり高そうでは無いが、それをカバーできる魔法と敏捷。正直あの速さで追いかけられたら逃げられる気がしない。」
「確かに…。」
「ていうか今思ったけど自分からレベリングする魔物って物語のラスボス角だよな…。」
「ハゲ、そう言う怖いことは今は考えなくていいの。」
「…それもそうだな。」
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side 眞銀
(うん。これはやばい。)
今は意識を保っているので精一杯。
今は意識を保っておかないともし俺自身がみんなを襲う可能性もある。と言っても体の主導権は既にもってかれてる。
けれど、一瞬体を止めるぐらいはまだできるはずだ。
俺の体は俺よりもうまく魔法やスキルを扱っている。
プライドが傷つけられる…。
なるほど、『気配遮断』のon off を繰り返してチカチカさあえることで相手を疑心暗鬼にするのか…。
え、俺の魔力弾って曲げられるの…?
まぁ、多少はステータス補正のおかげでできていることもあるが今の自分でもできそうなことの方が多い…。
(負けた……。)
やっぱり悲しくなってしまう。
『名のなきウルフのレベルが上がりました。 10/15→11/15』
あ、レベル上がった。
にしても倒している感ないな。あ、でもダメージを受けたときの痛みはあるんだよね。これどうにかしてくんないかな。
ん、て言うか後4レベで進化?かな。そしたらまず人化できる何かがあると助かるな〜。
『名のなきウルフのレベルが上がりました。 11/15→12/15』
あ、また上がった。
やっぱりオークは経験値がうまいな。
そしてついに…
(よし、みんな逃げ切ったな。)
そしたら意識保っている必要もなくなる。
それにこの体なら起きたらオークに殺されていましたなんてことはないだろう。
(じゃあ、頼んだぞ俺の体…。)
そして眞銀の意識は闇に眠った。
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side ???
「凄まじいですね。流石人から魔物になった者。並のウルフでは考えられない強さです。
もしかしたらこの人は後々大事な戦力になってくれるかもしれません。」
そう考える者の目線の先には大きなモニター。
そのモニターにはオークの群れの中に蹂躙するウルフ。
自分の居場所を隠し続け、魔力弾と爪で確実に急所にあてHPを削る。
たまにオーク同士の隙間を通り同士討ちさせる。などバーサーク状態とは思えない戦い方。
これを可能にするのはイレギュラーな一人だけ。
こんなにもオークを倒しているんだ。もう1回目の進化は近いかもしれない。
そう考えるとより一層期待値が高まる。
これから世界はどうなってしまうのか…。
「この世界の守護者として一つ。この世界を頼みます。如月 眞銀さん。」
そうその者が言うとモニターは消え、そしてその者も消えていた。