最終話 それは笑顔に満ちた物語
あれから二年が過ぎた。
俺は今も毎日、デスクトップに向かって物語を書いている。
『ラスト・ラプソティー』ではない。
あれよりもう少しだけ夢のあるお話。
ドラゴンやゴブリン、その他の魔物達の脅威に直面してはいるけれど
どこかの異世界よりもう少しだけ人々が互いのことを想いあい
寄り添いあっている甘く優しい世界の物語なのだ。
その世界を旅するのは三人の若者。
ころころとよく笑う曲刀使いの剣士の少女ヒビキ。
心優しい貴族の家に産まれ、錬金術によく通じた利発な姫君リーチェ。
そして、彼女の許嫁に選ばれた宮廷魔術師の青年トール。
苦難に満ちた冒険のなかでも彼らは決して笑顔を絶やさない。
道端に咲いた美しい花を見つけて喜び
宿屋の中庭から素敵な星空を見上げて驚嘆の声をあげる。
そしてマルクの実のパイを切り分け、ティータイムを楽しむのだ――。
ありがたいことにこの作品はたちまち好評を博した。
掲載サイトの日間ランキングをあっという間に駆け上がり……
俺は書籍家作家の仲間入りを果たすこととなった。
実はここだけの話、アニメ化の話も持ち上がっていたりする。
いいことだ、いっぱいいっぱい売れてくれ。
そうすれば、一冊ぐらい誰か、転移するヤツが何かの間違いででも
向こうの世界に持ち込んでくれるかもしれない。
あっちのトールやヒビキが……笑顔を取り戻すきっかけになるかもしれない。
無論、良い声ばかりではないことも知っている。
コメント欄を開けば一日一件はあるのだ……こういう奴等の声が。
「リアリティが足りません」
「ざまぁが足りません」
……知ったことか!
俺はそんなヤツの声は即座にゴミ箱にぶちこむことにしている。
これが俺のファンタジーだ!
幻想のない異世界なんてクソ喰らえだ!
――俺は現実じゃない、物語を書いている。
いつごろからだろう。
最近、女の人の笑い声が聞こえるようになった。
それはマンションの窓の外から、あるいは空の上のほうから。
俺が小説を書き進めていると聞こえてくるのだ。
幻聴かと思ったが、どうも違うらしい。
昨日、検査を担当した医師も言っていた、肝臓以外にまったく異常はないと。
そして、残念ながら女の子からストーカーされるほどモテてもいない。
――と、なれば他に心当たりなどひとつしかあるまい。
今日の更新分を書き進めながら、俺はその笑い声が聞こえてくるほうに向けて呟いた。
「ああ、今日も元気に、笑顔で冒険してるよ?
アンタの大好きな旦那さんは――」
お姫様の笑い声がひときわ大きくなったような気がした。
ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございました!
おかげさまでひとつの物語を無事完結することができました。
なろうでの連載は初めてで、慣れない点も多いため
至らないところも多々あったと思いますが
今後も作品の質を上げられるよう、励んでいきたいと思います。
追伸:
もし、感想欄などでコメントを残すのが恥ずかしいという方は
この下部にある☆マークの個数でこの作品の採点をしていただけると助かります。
高く付けば皆さんから愛していただけている、この空気を残し
低いようであれば次回作で大幅に見直しを行うことも考えておりますので
どうぞよろしくお願いします。