第四話 異世界転移した後輩からのメール(2)
拝啓 柴崎先輩
帰りたい。よくよく考えたらこの国は地獄でしかない。
治安が悪すぎる。とにかく山賊が多すぎる。
昨日も行商人の馬車が襲われて人が殺された。
そのくせ人々を守る警察なんか居やしない。
衛兵たちも城壁の外のことは我関せずとまったく動く気配がない。
山賊の被害者が食い詰めて次の山賊になるからどれだけ倒してもキリがない。
そうでなければ飢え死にするか、ヒビキの親のように奴隷商人に子供を身売りするか。
王はそんな彼らに何の援助もしない。
いや、何もしないよりひどい!
内政は文官に任せて昨日も今日も、奴隷目当ての戦争三昧。
当然、もっと多くの鉄が必要になるから、鉱山では毎日のように奴隷が死んでいく。
過労に疫病、その他諸々。
それならばと彼らを補充するために王はまた戦争を始める。
バカ王に訴えかけた義父さんが火あぶりにされた。
魔導ゴーレムの研究が完成すれば鉱山奴隷はもう要らない。
しごく真っ当な意見なのに。
僕以外の一族は……。
こっちの世界でやっとできた僕の家族は、みんなまとめて死刑になった。
リーチェは誕生日に広場で串刺しにされた。
心配してくれてありがとう。
だいじょうぶだよ、これからは空の上で見守ってるね。
そう言いながら引き立てられてゆく彼女が無理して僕に見せた最後の笑顔。
そして苦悶の声がいまだに消えない、頭からこびりついて離れない。
あのクズ王、臣下に飽きればすぐ殺す。
些細なことですぐ処刑。讒言、密告、城の中は陰謀だらけ。
今回はたまたま繋がったけど僕の首もいつまで保つか分かったもんじゃない!
先週から目を瞑れば嫌な夢を見るようになった。
たとえばゴブリンから助け出した農家の娘が次の日すぐ殺された時の夢。
ゴブリンの母になるなど村の名誉に傷が付くと無理やりネズミ捕りを飲まされて自殺させられた。
あるいは戦争でいっぱい殺した隣国の敵兵たちの夢。
みんなが僕を取り囲んで責めてくる。
お前さえこの世界に来なければと責めてくる。
最近は顔も分からない女性や子供たちまで一緒になって責めてくる。
きっと彼らの妻子……みんな路頭に迷って餓え死にしたのだろう。
ドラゴンの炎に焼かれた戦友のことも思い出す。
もうステーキなんか二度と食べられそうにない!
匂いを嗅いだだけで戻してしまいそうだ。
日本に帰りたい。
山賊も首切り役人も戦争もゴブリンもドラゴンも奴隷もいない日本に帰りたい。
日本が好きだ! 総理大臣をバカと呼んでも殺されない日本が好きだ!
マヨネーズも牛丼もシャワートイレもある日本が大好きだ!
帰れないならせめてこの野蛮な国を東京で上書きしたい。
啓蒙したい! 教化したい! コンクリートとアスファルトで上塗りしたい!
クソ王ぶっ殺して、野蛮なサヴェード人を一人残らず文明化してやりたい。
数百年間、ヤツらの文明はまったく何も発展していない。
僕はそれを終わらせたい。
そして、この土人国家をいつか日本領サヴェードに変えてやりたい!
いや、サヴェード?こんな耳慣れない名前も気に食わない。
いっそのこと国の名前も変えてしまえ。
ジパング……?ヤポニア……?
そうだ、僕たちの故郷、扶桑がいい! 扶桑とかどうでしょう!
とんでもないブラック企業だってよくお互いに愚痴をこぼしてました。
でも、僕たちの愛すべき祖国、日本の古い呼び方の一つだという社名の由来はどことなくロマンチックだと思えました。
メールが長くなってしまいました。
本物の異世界の住民になった僕は今、こんなことを考えています。
先輩の創作にリアリティを付与する足しになれば幸いです。
扶桑ネットワークサービス 高嶋 徹より
お待たせしました。
次回よりしばらくの間、高島視点の異世界復讐編が始まります。