第二話 異世界転移した後輩からのメール(1)
拝啓 柴崎先輩
お元気ですか?僕は元気です。
突然こんなメールを送ってごめんなさい。
前田課長、たぶんすごく悲しんでましたよね?
半年前のあの日、僕がトラックに轢かれて死んだんじゃないかって。
本当は違うんです
僕は衝突の直前、女神様に助けてもらい、特別な力をもらって今までずっと異世界で冒険の日々を送ってきました。
そんな漫画やアニメ、あるいは先輩がネットに上げている小説みたいな事がと思うかもしれません。
ですがこれは本当のことです。
今日は星と月の並びが特別な位置になる日ということで女神様から許可をいただいて、こうして先輩にメールを出すことができました。
返事を受け取る方法がないのは残念なことですが……。
実際来てみると素晴らしいところですね、異世界って。
日本でサラリーマンやってた頃よりも毎日がずっと楽しいです。
以前はゴブリンにすら苦戦していましたが上級魔術を覚えた今ではもうドラゴンにだって負けません!
あ、ゴブリンというのは村を略奪したり女の人を襲う蛮族のことです。
隣国との戦いでも沢山手柄を立てました。
武勲を重ねてきたことで今では僕も宮廷魔術師、宮仕えです。
お城に入って最初のうちはつまらない揉め事に巻き込まれることも多かったのですが国王陛下が目を利かせてくれるようになってからは格段に暮らしやすくなりました。
僕のことを成り上がりと貶めようとしていた貴族も居たのですが断頭台送りになりました。
その一族はまとめて鉱山送り、今も奴隷や捕虜と肩を並べてツルハシを振るっているそうです。
先輩はまだ一人ですか?
僕は大事な女性ができました。それもふたりも!! 一人はクラリーチェ・シュスター。伯爵家のかわいいお嬢様です。山賊に馬車を襲われていたのを助けたのが縁でお付き合いさせてもらっています。
彼女の18歳の誕生日を待って、秋にも挙式する予定です。
お義父さんとお義母さんも身分の分け隔てなく接してくれるとても優しい人たちです。
僕は小さい頃に事故で父と母を亡くしたので家族というものにずっと憧れていました。
今はあの人たちと一つ屋根の下で一緒に過ごす日が来るのが楽しみで仕方がありません。
そしてもう一人はヒビキ。
僕が冒険を始めるときに護衛として買った奴隷で名前がなかったので付けました。
気に入ってくれてるみたいで何よりです。そんな彼女ですが天性の才能に恵まれ、めきめきと剣の腕を上げて今では一流の剣士にも引けをとりません。僕も危ないところを何度か助けられました。
他にもまだまだこちらの世界のことで先輩に話したいことはたくさんあります。
リーチェの家に遊びに遊びに行ったとき、出してもらったすごくおいしいマルクの実のパイ包みのこととかヒビキと一緒に冒険している時に見つけたきれいな花の話とか東京じゃ絶対見られない素敵な星空とか。
でも、星の巡りの関係でそろそろ出さなきゃいけないらしいので一度筆を置こうと思います、乱文ごめんなさい。
またそのうち地球に手紙を送れるタイミングがあるようなのでもう少し頭の中を整理してから書かせていただきますね。
僕の手紙が少しでも先輩の創作の助けになりますように。
サヴェード第一宮廷魔術師団 トール・タカシマより