第一話 記憶は雨に溶けなくて
そのすごくふしぎな出来事が起きたのはこの街が激しい土砂降りに見舞われた、ある晩のことだった。
駅からマンションまで歩いて5分強、売店で傘を買うのも面倒だと滝のような雨の中を半ば強引に突っ切ってマンションに帰宅した俺はシャワーと着替えを手早く済ませ、この部屋の主とばかりにど真ん中に鎮座しているデスクトップパソコンの前に着座する。
サイドテーブルに置いたのは冷蔵庫のなかから取り出したばかりのキンキンに冷えたビールの缶、それに適当にチョイスして暖めた冷凍食品とラッキョウ。
お世辞にも健康的な夕食とは呼べないのだが今晩ばかりは仕方がない。
この雨の中をふたたび食料調達に出かけるのはちょっと面倒だったしそれに今夜はほぼ半年ぶりの、ずっと夢にまで見ていた定時帰宅。
……久しぶりにやりたいことがあるのだ。
俺は目を閉じ、残業地獄が始まった最初の日のことを思い浮かべた――。
そう、あれは半年ほど前、やはり雨の日の昼休みのこと。
いつものように一緒に飯を食いに行っていた後輩の高島が事故に巻き込まれて死んだ。いや、死んだというのはおかしいかもしれない。
店に忘れものをしたことを思い出し、横断歩道をあわてて飛び出していった彼を跳ねた大型トラック。
だが、その車体にはいっさいの痕跡がなかったし何より高島の死体はどこにも――ドライブレコーダーの映像の中にすら無かったのだから。
そんなわけだから警察もお手上げ、早々にこの件を放り投げた。
そんな事故なんかなかった、失踪届を出しましょうと。
邪推かもしれない、できればあまり考えたくはないのだが……高島には家族が居らず、それに対してトラックの運転手の妻は当時妊娠中だったというのも大きかったのかもしれない。
ともあれ、それから数か月。
俺は警察の事情聴取に対応しつつ、高島の抜けた穴を埋めるため一気に量を増した仕事をハードワークで捌きつづけた。
幸い、失踪直前の高島を目撃していた人物が他にも居たことから警察の俺に対する疑いは早々に晴れたし仕事のほうも昨晩、やっと落ち着いたわけで――。
よかった、久しぶりに趣味のネット小説を、ブクマの数字が「2」からピクリともしない拙作『ラスト・ラプソティ』を更新できる。
いつか掘り出されて広く読まれるようになればきっと書籍化待ったなしの名作になるはずだから――その日が来るまでと信じて頑張ってきた俺の自慢の作品だ。
はやる気持ちを抑えてパソコンを起動、立ち上げ画面が表示されるのを眺めながらビールを傾けて喉をうるおしミニハンバーグをフォークに載せて口に運ぶ。
口の中に広がる醤油味の強い旨味を楽しみつつひとまずメールボックスをチェック、そのなかの一通を開いたとき……俺は、目を疑った。
なぜならその差出人は――。
冒頭のヒロイン画像には
ゆうひな様(キャラクター画像)
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あやえも研究所様(背景)
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