終着駅
どうか、最後まで読んでやってください
いやね、俺さ、酒飲みなわけ。
飲み出したら止まらない。三度の飯より酒ってタイプ。まあ、だから、酒での失敗談ってえの? そーいうの、自慢じゃないけど沢山あるんだよ。それこそね、話し出したら夜が明けちゃうよ。
本当だって、本当。
夜が明けるってくりらぁ、こんちくしょうめー!
あーー、なんだ。いや、大丈夫、大丈夫。酔ってなんかいませんから。これっぽっちの酒じゃね、ホント、酔わないから。大丈夫、大丈夫………………
あっと?! なんだっけ、ああ、ちょっと意識が跳んでたわ。ああ、メンゴ、メンゴ。
んで、そうそう、酒の失敗談ね。
まー、なんてっかな。たくさんあんだけどよぉ。あんたにはとびっきりの奴を話してやるよ。
えっとな、まあ、酒に酔ってな、家に帰る途中で電車に乗ったわけだ。でさ、寝ちまってな、気がつくと終着駅ってな寸法だよ。電車もねぇ、つーわけだ。
まあ、酒飲みなら、一回や二回やっちまうやつだわな。
自慢じゃねーが、俺ちゃ、何十もやってからさぁ、もう慣れっこな訳。
そんときゃよ、じたばたせずにベンチに寝っ転がってだな、朝まで寝るに限るね。
うん。あーー、良いこと教えてやるな。
酔っぱらって寝るときゃーな、靴を枕にすんだよ。
そうすりゃな、靴を盗まれる心配がねーだろ?
えっ、なに? それなら鞄とかを枕にしたほうが良くないか、って?
おま、馬鹿言え。鞄盗まれても歩いて帰れるけどよ、靴がなけりゃ、歩くの辛いぜぇ~。なっ、だからよ、悪い事は言わねぇ、枕にするのは靴!
忘れんなよ。
…………あっと、違った、違った。俺は枕の話がしたいんじゃねーんだよ。終着駅で寝た話だよ。
でな、こっからが不思議な話だ。よ~く、聞けよ。
朝な。目を覚ましたらな。墓地の真ん中だったんだよ。
もうな、見渡す限り、墓、墓、墓。
ものすげ~ェでっかい墓地だよ。その真ん中でな、寝てたんだ。
止せやい。いくら酔っぱらってたって墓地の真ん中で寝るかよ。俺はさ、間違いなく終着駅のベンチで寝たんだ。それが、ほら墓地ってンだから、信じらんねぇ。
目を覚ましたらよ、ヘヘッ、墓地の真ん中だよ。見渡す限り、墓、墓、墓。
なっ、墓だよ。墓。
墓だぜ。墓、墓。ヘヘヘッ。
墓、墓、墓、墓、墓、墓
墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓蟇墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓
「せ、先生。患者さんが鏡に向かって、ずっと墓、墓と呟いていますがどうしましょうか?」
「アルコールの禁断症状によるせん妄状態がひどいね。薬の投与を考えるべきだけど、もう、彼の肝臓はね、持たないんだよ。
医者の僕が言ってはいけないんだろうけど、既に人生の終着駅についてしまっているんだ」
看護師の問いに、その医者は深いため息をついてそう答えた。
2020/07/09 初稿
実は、墓の中に一文字だけ違う字が入っているって知ってました?