生い立ち
私は、メサイア・ルーベンス。
16年前にルーベンス家のメイドだった母と、ルーベンス家の婿養子の父との間の子供。
母は、私が3歳の時に死んだ。
カフェの店員と酒場のウェイトレスと新聞配達を掛け持ちしていたらしく、倒れて目を覚まさなかったそうだ。
後から聞いて唖然とした。いつ寝てた?というスケジュールで働いていた。
その後は、近所の家に居候させてもらっていた。
後で知ったが、母はこんな時のために、近所の知り合いにあらかじめ頼んで金も渡しておいていたようだ。
金だけ受け取って知らん顔した人はいないところが、母の人を見る目の確かさを示していると思う。
………なんで父と関係を持ったのだろう?
それはともかく、その7年後、父が死んだらしい。
それからさらに1年後、義母様とお姉様が私を迎えに来た。
父の遺品整理中に、母の出産報告手紙を見つけてびっくりしたとお姉様が言っていた。
本来、お義母様とお姉様は私を養う必要が無い。
父の責任だし。
さらに言えば、父は婿養子。
私にはルーベンス伯爵家の血は一滴たりとも入っていない。
ルーベンス伯爵家は継げないので、姉のスペアにもなれない。
私は、この家でなんの役にも立たない。
そう言ったら、
夫 よ」
「あなたもあなたのお母さんもあのクソ の被害者
父 だろう?」
と異口同音に帰ってきた。
くどいようだが、この二人に父のしたことの責任を取る必要はない。
なのに、私を引き取り、貴族の教育も受けさせてくれた。
当たり前に、家族として扱ってくれた。
学院にも行かせてくれた。
…第2子以降は、行かないのが普通なのに。
とても可愛がってくれた。
…お義母様に至っては血のつながりすらない赤の他人なのに。
たとえ引き取ったとしても、第2子で庶子なのだ、学院に行かせたり、ましてや愛する必要なんてまったくない。
学院の授業料は馬鹿高い。一年で平民の生涯年収が吹き飛ぶ。
私は、そんなお人好しな二人に、感謝なんて言葉じゃ足りないくらい感謝している。