心の闇 3
夜、今日も俺はイワさんの料理を美味しく食べていた。結局、今日もらった猪の肉のサンドウィッチも美味であった。
もうこれはその肉が美味しいというよりはイワさんのアレンジの仕方がうまいのだろう。さすがはイワさん。主婦の鏡だ。
「それで、今日はどうだったの? あんなに早く出ていって何か目当てだった?」
イワさんの言葉にどう答えたものか模索する。
「いえ、特にこれといって。いつもより早く目が覚めてしまったので、早く冒険に出ただけです」
今日起きた出来事については触れないでおいた。さすがに通り魔なんてワードを出すのはまずいだろうと。それに黒いフードの男と交わした誓いがどう出るかもわからない。
「ふふっ。アニマテスらしくなってきたじゃない。この調子で頑張るのよ」
イワさんは成長する我が子を見て歓喜する母親のような笑みを浮かべる。一度、スプーンで料理を口の中へ入れると再び話し始めた。
「そういえば、昨日市街で通り魔とギルドのメンバーが対戦していたらしいけれど、ショウくんは知ってる?」
「はい。ちょうど依頼達成して戻ってきた時でしたから。聞いた話によると通り魔がギルドに赴いて『この中で一番強い人と戦いたい』って言ったらしいですよ」
「そういうことだったのね。自分の方からギルドに来るってことは、最近はあまりいい人と戦えてなかったのかしら?」
「確かに言われてみれば、大胆な行動ですよね」
「いまどき道場破りなんて流行らないわよね。でも、ラジオ等で注意喚起されてしまったことで戦う相手を見失い、しびれを切らして自ら行ってしまったというところかしらね」
「決闘を多用することって悪いことなんですか?」
「いいえ、決闘自体は多用しても何の問題はないわ。ただ、内容が内容だからね。普段は互いにレアアイテムを賭けて行うものだから」
「単純に戦うことだけを目的としてのものですもんね」
「そう。だから注意が必要なのよ。決闘を断った時、彼女がどう行動するのか」
「決闘の枠を超えた決闘っていうことですか」
「うん。決闘での戦いなら刀や銃で流れる血は電子的なものへと移行され、本人へのダメージは、実質は蓄積されない。でも、決闘の枠を超えたのならば、流れる血は全部本物。最悪の場合どちらかが死ぬわ」
死と言う言葉に思わず、背筋が凍る。
ここに最初に来た時、俺は狼に襲われ、死に絶えた少女の姿を見た。その少女の行く末は今でもはっきりの記憶している。
「あまり食事中にこう言う話はやめておいたほうがいかもしれないわね。ささ、冷めないうちに完食してしまいましょ」
「そうですね」
話を中断させ、二人で並べられた料理を美味しくいただいた。ある程度、黒い話をしたとはいえ、イワさんの料理が汚れることはない。
完食し、一休みしたところでお風呂に入り、そのあと自室へと移動していった。
お風呂でリフレッシュしたところで頭の働きが鮮明になっていくのを感じる。
ケイジを唱え、画面を表示させてアイテムボックスを確認する。
燈は一体どう言う結論を導き出すのだろうか?
雪山にこもって頭を冷やすと言っていたが、拒否すると言う結論になるとは限らない。
智桂を乗っ取る。きっとそれは先ほど話していた決闘の枠を超えた決闘に関わる部分があるように見られる。
燈にそんなことをさせていいのか。
この世界でアニマテスを殺すことが俺の住む世界で悪影響を及ぼすことはゼロではない。彼女の自殺がこの世界の影響ではない証拠はどこにもないのだから。
となると答えは明確だ。
人を殺めてしまう感覚は何よりも自分が一番わかっているのだから。
ならば、どうするべきか。
いい加減体に染み付いたこの恐怖と戦う時かもしれないな。
俺は心の中に潜む闇に目をこらしつつも、アイテムボックスに保管された『刀』を覗いていた。