ほしがりなお姫様
あるところに、それはそれは美しい、けれどほしがりなお姫様がいました。
ほしい、ほしい。全部ほしい。
お姫さまは目に付いたものぜんぶをほしがります。
あの服がほしい。
あの犬がほしい。あの猫もほしい。あの馬もほしい。
あのおいしそうなケーキが、煌びやかなアクセサリーが、日当たりのいいあの家が。
あの優しそうなお父さんがほしい。あの綺麗なお母さんがほしい。
あのサーカスがほしい。あの橋がほしい。あの町だって私のものよ。
ぜんぶぜんぶ、私のものなのよ。
でも足りない、きっと全然足りないの。
なぜって、私は満足していないもの!
お城の家来はみんな、お姫様のために、毎日いろいろなおくりものを集めてきます。
それが王様の命令だったからです。
お妃さまを亡くした王様は、それはもうお姫様に甘いのでした。
やがて王国中からよいものを全て集めると、お姫さまは悲しみました。
「私は全部を手に入れたのに、前と何も変わってないわ」
豪華なベッドに寝転んで、お姫さまは涙を流します。
「本当に私がほしいものは、いったいどこにあるのかしら」
お姫様が部屋から出てこなくなったので、王様はすっかり困ってしまいます。
「いったいどういうことだ。私は全てを与えてやったのに」
「私がほしいものは、この国にはなかったようなのです」
「ならばおまえはどうしたら、幸せになれるというのだろう」
王様は国中におふれを出しました。
「だれか私の娘を満足させてはくれないか。できたものを、私の次の王とする」
たくさんの人が、色々なおくりものを手に集まりました。
お姫さまは大層喜びましたが、決して満足はできません。
お姫様の宝物庫はあふれ、しかし国中が疲れ、王様はうなだれてしまいました。
そんな中、一人の男の子がお城の扉を叩きます。
年のころはお姫さまと同じくらいで、しかし随分とみすぼらしく見えました。
「王様、私をお姫様に会わせていただけませんか」
王様はわらにもすがる気持ちで、その男の子をお姫様に会わせます。
「お姫様、私はあなたと友達になりに来ました」
「ともだち……?」
「ええ。一緒に過ごしてみませんか」
男の子は言いました。
野原を歩き、川に遊ぼう。
手をつなぎ、隣を歩こう。
あなたの苦しいとき、楽しいとき、いつも隣にいて、あなたと同じように感じましょう。
「それで私は満足できるのかしら?」
「ええ、きっと満足できますよ」
数年がたち、それからというもの、お姫さまと新しい王様はいつも一緒にいます。
手をつないで歩き、二人で相談し、共に国を治めます。
あんなにあふれていたお姫様の宝物庫には、今は少しの思い出の品しか入っていません。
「ねえねえ、私、あれがほしいわ」
お姫様が甘えると、王様は微笑みを浮かべました。
「一番綺麗なものでなくてもいいの。一番高いものでもなくていいわ。
きっとなんでもいいの。
私、あなたがくれる、あなたが考えて選んでくれたものがほしいの」
「私のお姫さまはほしがりですね」
少し考えて、王様はお姫様に言いました。
「今日も、私の心からの言葉をおくりましょう」
王様はお姫様の目を見つめて、大切そうに手を取って言いました。
「お姫様。大好きですよ」
「私も! 私、そのおくりものが一番好き!」
お姫さまは満足そうに、王様の目を見つめました。