■ 05 … 001
――23:42――
「殺された、だって……」
たちの悪い嘘だと、そう思いたかった。冗談だと……そう言ってほしかった。
エイジはけれど、淡々と冷たい事実を語る。
「アスクを体育倉庫に閉じ込めた後、オレたち五人はたまり場で過ごしていた。五十嵐ビビを殺した誰かがいるかもしれない他のグループの人間と行動を共にすることは避けたかったからだ」
その理屈は判る。
ビビが命を落としたと思われる時間帯、三つのグループにはアリバイがあった。加えて僕以外のはぐれ者たちにも。アリバイがないことを状況証拠として僕を軟禁こそすれど心の底から疑っていたわけではなく、むしろアリバイがあると主張する他のグループの中に真犯人がいることを警戒するのは自然だろう。
「だがその後はずっと一緒に居たってわけじゃねぇ。あくまで短い間だが、それぞれにひとりになる時間が必要だった」
するべき警戒を怠ったようにも見える行動だが、それも理解できた。
僕らは〈行使者〉である前に十代の少年少女。同じ境遇から島で生活していた仲間の無残な亡骸を前にショックを受けないはずがなく、そして彼ら五人のグループは仲間の死という個々が向き合うべき気持ちまで共有することを望むような馴れ合い所帯ではなかった。一人一人が五十嵐ビビの死を悼んでくれたのだ。
「……ふとな、シノ姉の姿が見えないことに気づいたんだ。最後に姿を見たのはドルチェって話だった。しばらく待ってみたが姿をくらましたままだった。心配になったオレたち四人はシノ姉を探して村を歩き周った。……スグヤたちが根城にしていた村役場の跡で、倒れたスグヤとテンマを見つけた」
「…………、…………」
「半狂乱になりながらシノ姉を探してまわった。結局は村の外れで見つけたよ……冷たくなった彼女を」
エイジは両手を打ち鳴らす。
「……。……それを見たトシユキの馬鹿が取り乱してな。すっかりパニックに陥って……シノ姉と最後に会ったって言うドルチェに襲いかかったんだ。けどパニックはドルチェの方も同じ。結果だけ見れば能力による過剰防衛って形でトシユキは命を落とした。そこまでなら、話はまだマシだったんだ」
目を伏せるエイジの横顔は、いくつも歳を重ねたように見えた。
「トシユキを……仲間を手に掛けたドルチェは狂乱して、おそらくは近くにいたからって理由でオレを攻撃し、それをコトリが食い止めた。コトリがいなきゃ、オレはあそこで殺されていただろう。コトリはそれからずっとドルチェを止める為に能力を使い続けているが、あれじゃまるで焼け石に水だ……相性が悪すぎる。だからオレはドルチェを止められる奴を探す為に島を巡ってるんだが……」
そう言って、エイジは僕を見る。
「モカまで暴れてるって、キツいな……」
疲れきった声だった。それに答える僕の声もまた、かすれていた。
「……獲物はガトリング砲。鍵と竜殺しの剣を叩く槌が作っていた」
「ちっ……あの甘やかし男、なんちゅうもんを残しやがる」
エイジはそう言ってため息を吐いた。同じ思いだった。テンマがモカに過ぎた武器を与えたのは心配が理由だったはずだ。仲間が仲間を慮った結果をどうして憎める。
「……………………」
僕は神楽坂ドルチェのことを思う。
新居シノブを姉のように慕っていた彼女。冷たくなったシノブを見つけた時、何を思ったのだろう。そして彼女を慕っていた仲間であるトシユキが襲い掛かってきて、……逆に彼を手に掛けてしまった……倉見モカとは違った形でその心が狂気に向かうことは想像に難くない。
……なんてことだ。
モカを止めればいいと、そう信じていた。
けどエイジからもたらされた……島から出たいと考える五人組の瓦解に、仲間を手に掛けた神楽坂ドルチェの狂乱という情報を得た今となっては、その考えではまるで足りない。モカとドルチェ。ふたりを止める必要がある。これ以上誰かが倒れるよりも早く。
……でも、どうやって?
こうして悩む時間だって、モカと対峙する近江ナユタと、ドルチェを止めようとする宇都宮コトリの尽力があってのことだ。一刻も早く、狂気に取り憑かれた彼女たちを止める方法を探らなければ。
そのためには……まず……
「……、……合流するべきだね」
「ああ。最低でも脅威は知らせなきゃな」
僕とエイジは頷き合い、フユとチカシもそれに賛同する。最悪な状況の中、できることがある。そのおかげで僕らの心は折れずにいられた。
今、この島に残っている仲間たちのことを思う。
三つあったグループはほとんどが瓦解した。十六人いた中、残っているのは十人だ。
この場の五人――伊吹アスク、佐伯フユ、黛チカシ、浅倉エイジ。
倉見モカ、モカに対峙する近江ナユタ。
神楽坂ドルチェ、ドルチェを止めようとしている宇都宮コトリ。
ここまで合わせて八人。
残りははぐれ者の二人……辻ミモリと、八嶋ナデシコだ。彼女たちと接触し、モカとドルチェの狂乱を知らせなくては。そのためにも、情報が必要だった。
「エイジ。ドルチェとコトリの固有能力を教えてくれるか?」
「それを伝えに来たのさ。それぞれ悲恋を唄う蜘蛛と春への扉っつってな――」
僕は彼の口から、ふたつの能力のことを聞いた。