記念すべき100回目の転生
なろう初投稿です。よろしくお願いします!
俺は、激しい雨音に気づいて飛び起きた。
だけど体は少しも濡れていない。
頭上に広がる空は雲ひとつない快晴だ。
「おめでとうございます!」
「え……?」
どこからともなく、若い女性の声が響く。
「そろそろじゃないかと思っていたが、ついに達成したか」
「いやぁ、実にいい死にっぷりだった!」
いつの間にか俺は、大勢の人に囲まれていた。
いや、彼らを『人』と表現していいのだろうか。
ぱっと見は人間っぽいが、背中に翼が生えていたり、頭部が犬だったり、そんなちょっと変わった生き物達が、歓声を上げながら手を叩いている。
どうやら俺は、この拍手を雨音と勘違いしたようだ。
それにしても一体何が起きているのか、ここはどこなのか。
水蒸気の塊のような白い地面は、どう見ても雲だ。
軽く押すと、人をダメにするクッションを遙かに超越した心地よい反発が――。
「って、ええ!?」
自分の手が視界に入った俺は、思わず二度見しながら叫んだ。
なんだこれ、明らかに人間の手じゃない。
っていうか指が4本しかないんだけど、ピッ○ロさんかよ!?
しかも、鋭い鉤爪がシャキーンと飛び出してるし、手のサイズ自体が妙に小さい気が……。
嫌な予感がして、俺は自分の体を見下ろした。
白と茶色のふさふさした毛で覆われた丸いお腹。
手と同じくらいちまっとした足――。
か、鏡! どこかに鏡はないのか!?
周囲を見回すと、すぐ側に太陽の光を反射する水たまりがあった。
恐る恐るのぞき込むと……水鏡に映った俺は、なんともかわいらしい小動物の姿をしていた。
具体的に言うと、ゴールデンハムスターだ。
「なっ、なんじゃこりゃああああああ!」
なんだ? 一体何が起きた!?
俺の身体、どうなってるんだよ!!
い……いや待て落ち着け、冷静になれ。
ここであたふたしても状況は変わらない。
このハムスターには見覚えがあるぞ。
そういえば俺、車にひかれそうになったコイツを助けるために、道路に飛び出したような――。
「本当におめでとうございます、ようやく使命を果たされましたね!」
声をかけてきたのは、天女という表現がぴったりの羽衣をまとった美女だった。
「あの、ここはどこだ? 俺、もしかして……」
「ここは天上界です。あなたはつい先ほど、天寿を全うされました」
「あ、そう。やっぱり」
どうやら俺は死んだらしい。
死因は、ハムスターをかばっての事故死ってことか。
まぁ、自分の意思で飛び出したんだから文句を言うつもりはないが、この身体はどういうことなんだ。
「私はニビエスと申します。短い間ですがサポートをさせていただきますので、よろしくお願い致します」
「は、はぁ。どうも」
ニビエスと名乗った天女は、柔らかい笑みをたたえながらもう一度口を開く。
「まずは状況を説明させていただきますね。あなたがここを訪れるのは、今日でちょうど100回目です」
「え、100回!?」
突然途方もない数字を出されて、つい大声を上げてしまった。
「覚えていないと思いますが、あなたは何度も転生を繰り返しているんです」
「いやいや、そんな馬鹿な! 転生100回って、平均で50歳まで生きたとしても5千年はかかるぞ!?」
「あなたの平均寿命は20歳なので、2千年しかかかっていません」
「お、おう……」
平均寿命が20歳って部分に驚けばいいのか、2千年かけて100回転生したってことに驚愕すればいいのか……思考回路はショート寸前である。
「もうひとつ、あなたがびっくりしそうなことを言ってもいいですか?」
「いいけど、お手柔らかに頼むよ。もう既についていけてないんだ」
「では簡潔に。あなたの死因は、100回分全て、動物をかばっての事故死です」
「えーーーーーー!」
つい見とれてしまいそうな極上の微笑を浮かべながら、ニビエスはとんでもない追加情報を繰り出した。
頼む。誰か、冗談だと言ってくれ!
すがるような気持ちで周囲を見回すと、集まった天界人達はニコニコしながら俺を見つめていた。
まるでテストで満点を取った孫を誇るような、優しく温かい眼差しだ。
「ちょっと待ってくれ。今の話が本当なら、俺は動物をかばって死ぬ人生を、100回も繰り返してきたことになる」
「その通りです! 車道に飛び出したハムスターを助けたことは覚えていますか?」
「あ、ああ。野良ハムスターなんて滅多に見ないからびっくりして。多分、どこかの家から逃げ出して来たんだろ? 飼い主が必死に探してるかもと思うと、身体が勝手に……」
「お優しいんですね。あなたの動物愛は本物です」
「は、はぁ」
俺は子供の頃から、動物に異常に好かれる体質だった。
やつらは、こちらの都合などお構いなしに勝手に群がってくる。
俺も動物が嫌いなわけじゃないから、正直に言えば嬉しい気持ちもあった。
だがこの特異体質は度を超していた。
もし公園に、餌をやっているわけでもないのにハトやスズメの大群に囲まれている人間がいたら、普通の人はどう思うだろうか。
ほとんどが『うわ、気持ち悪っ』と、どん引きするだろう。
このハムスターも、もしかしたら俺を見つけて車道に飛び出したのかもしれない。
俺と出会わなければ、事故に遭わずに済んだ可能性も……。
「あ、そうだ。ひとつ聞いてもいいかな」
「はい、なんでしょう」
「なんで俺、こんな姿になっちゃったんだ?」
俺は短い手を精一杯に広げて、自分の身体をニビエスに見せつける。
「それは、100回目に助けた記念すべき動物がハムスターだったからです」
「うん、意味がわからない」
「申し訳ありません、説明不足でした。実はあなたは地球の住人ではありません。異世界人なんです」
「はぁ!? 異世界人!?」
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