1008年9月10日 山中の廃墟
2か月ぶりの雨は少しずつ強さを増していた。
ダリが張った天幕にメルケルからの一行が持っていた天幕を加え、竈の周りに全員が落ち着いて座れるだけの場所を作った。
ユリースは気を失ったままで、寝床に寝かされていた。
ビッキーがユリースの傍らにつき、残りはかまどの周りに思い思いに座る。
将校はジャン、長身の文官はトニと名乗った。鎖帷子はスティード、メガネはキャスカ。
驚いたことに、ジャンはオルドナからメルケルを守る傭兵隊と自警団を束ねる立場で、トニはメルケルの政治と軍事の総責任者だという。
スティードとキャスカはそれぞれの部下と紹介された。
賞金稼ぎのメンバーの事は既に調べられていたようで、自己紹介する前にトニが全員の名前を呼び、確認した。
「王女って言ったよな?」
クラウが敵意むき出しでジャックに言いよる。
「そう。8年前に滅びたトラギアの王女・・・行方不明になっていたユリース王女に間違いない。」
「僕も間違いないと思う。髪の色は変ってるけど面影はあるし。
何より僕らの顔を知っていた。」
トニはちらりとユリースの方を見て、視線をクラウに戻す。
クラウは言葉を探すが見つからない。
顔を真っ赤にして、やり場のない怒りのような感情と戦っている。
ダリがクラウを手で制し、ふたりに質問した。
「あんたら、何もんだ?いや、今何をしているかは分かったけど・・・
ユリースと・・・トラギアとどんな関わりがあるんだ?
なぜあいつはあんたらに斬りかかった?」
ジャンとトニはしばし顔を見合わせ、そして頷きあった。