999年10月1日 メルケル
「まだか!ジャンは!!!」
僕は焦っていた。もう敵が迫っている。
難民集落に使者を出したのは四日前。
何事もなければ、今日着くはず。
いや、もうとっくに着いててもおかしくないのだが。
味方の編成を把握できていない。
指揮系統もめちゃくちゃ。
「トニさん!グランゼ殿が呼んでます!門の所!」
自警団の若者が呼びに来た。
「わかった!」
僕は返事をし、言われた方向に馬を向ける。
ジャンが来たか、敵が見えたか。
グランゼさんだ。もう鎧を着ている。
馬に乗っているとさらにでかく見える。
「トニ殿!物見から報告だ。投石器3台、梯子も来ている!!」
「3台・・・まずいです。あまり散らされると持たない。打って出て1台でも壊したいのですが・・・」
「突撃か?傭兵どもはそんな命令には従わん。
自警団の連中は軍人ですらないしな・・・矢で迎え撃ち、耐えよう。
投げる大石が無くなるまで耐えればいつものように引き返すだろう。」
あまい。
恐らくオルドナ軍は、全力で来る。
切れないだけの石を持ってくる。
どうすればいい・・・・
手詰まりだ。コマが、物量が少なすぎる。
こんなにオルドナの動きが早いとは。
敵の指揮官はメディティス将軍だった。
経験豊富だし、多分あらゆる手段を使ってくる。
「トニ!こっち!弓矢の配置を考えたけどこれでいいかな!?」
コビが図面を持ってやってきた。確認する。ほぼ問題ない。
「北端にあと10人ほしい!弩弓でも弱くてもいい!あとはこのままで!
グランゼ殿!コビに弓の指揮を任せたい!」
グランゼが配置図を見て唸る。
「適格だな。コビ殿!任せた!」
コビはニコっと笑って戻っていった。
グランゼさんはこういうところは大きい。
人に任せる事を恐れない。
上に立つ人には重要な能力だ。
「敵が見えました!陣を張っています!!」
門上の物見台から大声。
来たか。
物見台に登る。
隘路なので全体の数はわからないが、相当数いる。
壁を抜かれたら、あれが全部ここを通るわけだ。
それだけでメルケルはめちゃくちゃになるし、西側の人々の生活も踏みにじられる。
絶対に止めたいが
どうする。
僕が掌握できる部隊がない。訓練された兵も居ない。
「北西門に、あんたに会わせろという奴が来てるぜ!」
壁の下から大声。傭兵?
ジャンか?
「金髪か?ジャンだったらすぐに通してやってくれ!!この戦、そいつが居れば勝てるかもしれない!!!早くしろ!!!!!」
傭兵はちょっと驚いてから、走って戻っていった。
すこし言葉がきつかったか?
だけど急いでくれないと困る。
もっと早く走ってくれ。
間に合うか?
壁から下がる梯子を降りながら状況を整理。
必要な情報、不要な情報。
ああ、踏み外しそうになった。危ない。
ちょっとしたことを伝えないことで、致命傷になる事がある。
早駆けの馬の蹄の音。
「ジャン!!!!」
「トニ!!!!状況を!!!!」
ほっとしている暇はないか。
「総大将は父上だ!!」
ジャンが少しひるんで、すぐに立て直した。
「数は?」
「攻城投石器3、梯子あり。数は恐らく一万以上、全数はわからない。多分先鋒は西部方面大隊。」
図面と周囲の地形図を地面の上で開いて覗き込む。
子供のころの戦ごっこを思い出した。
「弓がこの配置、自警団は800、傭兵が1200、弓は300、矢は豊富。全体の指揮は傭兵隊長のグランゼさんていう人だ。」
「自警団は民兵か?」
「うん、訓練はあまりされていない。武器はそれなり。それから、壁に弱いところがある。そこを狙われると恐らく持たない。ここ。」
壁の一部を指さして見せる。
「わかった。指揮権は貰えるかな?」
「無理だと思う。さすがに。」
「だな。よし、投石器をひとつ壊してくるか。」
ジャン・・・君が来てくれてよかった。
なんとかなりそうな気がしてきたよ。
ああ、それから
「ジャン」
もうどこかに行こうとしているジャンを呼び止める。
「特攻は今のところ見ていない。」
古巣。元部下や上司とは戦いたくないだろう?
ジャンがニッと笑う。
「助かる。相当強いからな、あいつら。」
そっちか。もう吹っ切れてるのか。
ジャンは自警団の詰め所に向けて駆けて行った。
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半刻ほど経った。
「トニ、来てくれ!!!」
ジャンだ。見ると20人ほどの若者を連れている。
選りすぐった面々なのだろう。面構えも体格も良い。
うちふたりは女。
よくこれだけのメンバー見つけたな・・・
「決死隊だ。すぐに崖を登って裏の森から投石器を狙う。
トニも行くよな?っていうか、居ないと成功しない。」
「当然そのつもりだよ。あ、でもコビは置いてくよ。弓隊の指揮をしている。」
「はは、いきなり出世したな。いいよ。
オレたちが投石器を壊しに行って、相手の混乱が見えた段階で白髪のじいさんが門から打って出て突っついてくれることになった。
それで退路を作る。彼らをむざむざ殺す事はしないだろうから、多分ちゃんとやってくれる。
君らは人質みたいなもんだな。」
ジャンが決死隊の面々を見回すと、皆が笑う。
どういう魔法を使ったのか、すでに「仲間」の雰囲気。
「もうグランゼさんと話したのか。
紹介もしてないのによく指揮官が判ったね・・・」
「ああ、一番偉そうだったからさ。一目でわかったよ。
トニがオレの事話してくれてたんで話が早かった。」
楽しそうに笑う。
「傭兵や自警団の指揮系統がわからなくてどうしたもんかと思ってたけど・・
こういう時どうすればいいんだろう。」
「トニは完璧主義だからな。
オレは、指揮系統が掴めない時は全体を指揮するのをさっさとあきらめる。
無理にやろうとすると絶対に粗が出るから、既存の仕組みに拘らずに自分の把握できる範囲で一番いい仕事を探す。」
いたずらっぽく笑って続ける。
「そういう仕事をしてると、いつのまにか自分の指揮で動く人間が増えてるんだよな。」
ああ、そうだね。君はいつもそうして戦で活躍してきた。
やっぱりすごいな。もう、勝ったような気分になってくる。
だが、決死隊だ。本当に死ぬ確率も高い。
こんなところでは死ねないぞ、ジャン。
夕闇が深くなってきた。
開戦は明日になる。





