某日 某所
黴臭い石畳の回廊。暗闇の中、ふたりの女。
「遅いじゃないの。どうなの首尾は?」
「申し訳ございません、少し手間取りまして。ご安心ください、問題なく進めております。た
だ、やはりあのお方だけは難しいかと・・・」
「だろうな。老いたとはいえあの王を殺すというのは一筋縄では行くまい。
なにかきっかけでもないとな。」
「騒ぎでも起こさせますか?」
「多少の騒ぎでは王までは出てこないからな。毒でも盛るのが手っ取り早いが・・・」
「城内の厨房はかなり監視が厳しいですが・・・それとなく探ってみます。」
「頼りにしておるぞ。それと、元老の白豚だが・・・」
ガタッ
奥の暗がりで物音がした。ネズミか?
「何者!」
若い方の女が素早く透視の魔法を詠唱する。
「兵士です!」
フードを被った女が別の魔法を詠唱する。
「ひあああ・・・すみません、聴くつもりは・・・いや、何も・・・」
周囲の空間の温度が下がる。
音もなく兵士の動きが止まる。凍りつく。
「こんな所で何をしていたのだこやつは。
まさかお前、つけられたのか?」
「申し訳ございません!・・・全く気づきませんでした。
以後用心いたします。」
フードの女が凍りついた兵士の体を踏みつける。
兵士の体がぽろぽろと音を立てて砕ける。
普通であれば、この魔法を受けたものは体温が下がって絶命するだけだ。
しかし魔力の高さか、それとも杖に付いた巨大な魔石の力か・・・
この女の術を受けた兵士の体は、ほとんど力を加えずに粉々になるほど、凍りついている。
その圧倒的な力と、なんの躊躇もなく兵士を踏みつける残虐さに、若い女はあらためて戦慄していた。
砕けた兵士の体が常温にもどり、徐々に血だまりをつくる。
そして悪臭を放ち始めた。
「片付けておけ。私はもう戻るぞ。以後しばらく接触は控える。
こちらから呼びつけるまでは単独で動け。」
「承知いたしました・・・」
寒いのに、とめどなく汗が落ちる。
恐ろしい人に見込まれてしまった。
もう後戻りはできない。
最初は高貴な方に見込まれた事が単純に嬉しかった。役に立ちたかった。
そしてこの方は、息子の将来を約束してくれた。
それだけだったのに。
若い女は、あまりに世間知らずで軽率な過去の自分を呪いたくなった。