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モヒカンのカツラ

作者: 土野 絋

モヒカンのカツラって書きづらい事この上ない。

「どや!ええやろ!!」


文化祭前日のこと、私達は劇をすることになっていた。

関西ではよくある、新喜劇を真似たものだ。


「アホな脳みそによォ似合っとるわ。」


あいつは長ランに金髪モヒカンのカツラをつけて時代錯誤のヤンキーの格好をしていた。


「アホって言わんでええやろが!おもろいって言えやアホォ!」


「いや、あんたの格好な、意外とそんなにおもろないねん。」


「そんなんただの恥さらしやんけ!」


「そうや!って言うとんねん!」


周りのクラスメイトが私たちを笑う。


「夫婦喧嘩したらアカンでー!?」



「「夫婦ちゃうわ!!」」



ふいに声が揃ったから、またクラスは笑いに満ち溢れた。




昼休み。

机を近づけて私は友達と談笑していた。


「で?どうなん?」


友達が机から身を乗り出して尋ねてくる。


「何が?」


「あんたら夫婦って付き合っとるん?」


またこの質問か、とため息をつく。


「何度も言うたやろ?まず夫婦でも無いし、付き合っとらんって。」


「でも友達でも無いやろ?」


まぁ確かに。


「ちっちゃい頃から一緒やからなぁ、んー。」


なんというか。


「弟やな!」


「弟て……付き合ったらええやん!」


「だから男として見れへんねんて。」


少しだけ嘘をついた。

中学の頃は好きだった。

告白もしなかったけど。


「お似合いやと思うけどなぁ……。」





昼休み後、私たちの劇のリハーサルを始めた。


ストーリーはどこにでもよくあるようなもので、警官が主人公だ。

いや、主人公っていうかツッコミ役。


街の住人がボケ役をしながら、最近巷で暴れているというヤンキーを改心させるという王道展開。


終いに担任の先生と母親がヤンキーの説得をして、反抗心の表れであるモヒカンを元の髪型に戻してハッピーエンド。


チープ。

実にチープ。


そもそもストーリーなんてトッピングで、作中のコントが本番だからまぁ良いけど。



ヤンキー役のあいつが登場する。

大声をあげながら物を倒し、暴れる。


意外と様になるな……。


ストーリーというか、流れ自体は新喜劇のそれなので練習をそんなにしていなくても皆中々上手い。


まぁ小さい頃から見てるし。


明日の文化祭は難なく成功するだろう。






その日の夜。

翌日に文化祭があるものの、劇には登場していないから特に緊張もせずに布団に入った。


あいつはたぶんまだ寝れへんやろうな─。


ピロリン♪


スマホの通知音が鳴る。


あいつからだ。


緊張するわ、の一言。


「早く寝るんやで、噛み噛みやったら笑われへんわ」


「劇のことちゃうねん」


ん?じゃあ、なにを緊張するんや。


「どしたん。」


「明日な、隣のクラスの子に告白すんねん」


フリック操作の指が止まる。

返信文が思いつかない。


「ん?寝た?」


既読を付けてしまったから返信しなくちゃいけない。


「そーなんや笑」


当たり障りない文を送る。

送ってから気づいた、別に寝たフリでも良かったか。


「いけると思う?」


なんで私に聞くねん。


「当たって砕けろ。」


「アドバイスくれや。」


「勝手にせーや笑」


ここで画面を落とした。


ピロリン♪


通知音が鳴ったから、音を消した。


やり取りが苦しい。

みぞおちから(えぐ)る様な痛み。

心臓は走り、鼻が熱くなる。


なんでだっけ?

なんだっけ。


この気持ちはなんだっけ。




次の日。

朝スマホを見ると7件の通知が溜まっていた。


7件で諦めたか。



学校であいつに会った。


「お前、昨日寝るなよ……。」


結構大事な話してたんだぞ……としょんぼり。


「ごめんごめん」


苦笑いで返した。



文化祭が始まり、リハーサルと特に変わらない劇をみた。

劇は成功した。

チープな劇で笑いをそこそこ取り、面白かったと言われた。


昨日のことは頭の片隅に押し込んで、楽しんだ。



文化祭は終わった。

私は1人、教室の窓から夕焼けと校庭を見ていた。


校門に歩いて行く2人。


ばーか……。


どうせ、どうせチープな恋だ。


私にあいつを止めるだけのものがあれば……。


反抗心(モヒカン)があればよかっただろうか。


あっても(カツラ)か。


夕焼けは空に滲んでいった。




意外と書くのは面白かったです。

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